『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
ここは異世界ダークロード。
ここは悪の皇帝の作り出した世界であった。
その世界に朝はなく、常に夜の闇が世界を覆っている。その天上に浮かぶのは偽りの月。怪しく鈍い光を放つそれは闇の世界の象徴であった。
悪の皇帝ザングルゴールは巨大な宮殿の玉座に鎮座していた。巨大な体躯。全身を黒いマントで覆いその表情は見えないが、赤い眼光だけが光っている。マントから伸びる手足はうろこに覆われた禍々しいものだった。
玉座の前に膝をついた4人がいた。彼らこそ皇帝直属の幹部達。
魔の四天王。
一人は巨大な体躯をした男だった。浅黒い肌に炎のような文様を刻んだ彼は『炎熱のゴウライ』。
一人はシルクハットを深々とかぶった金髪の美少女だった。細い体つきの彼女は白い手袋にタキシードに身を包んでいる。彼女は『幻惑のシャドウ』
一人は手に刀を持った青い髪の青年。目元に一筋の傷を持った彼は片目を閉じている。彼の名を『閃光のバオウ』といった。
そして最後の一人は艶やかな紫の髪がした少女。『鏡の魔法使い』と名乗るマリカだった。
彼らを見ながらザングルゴールは頷いて口を開いた。
「貴様らも知っているだろう。我らの世界征服の邪魔をしている忌まわしき5人のことを」
マリカは頭の中でスーパー・ジャスティス・ファイブのことを思い浮かべた。数々の屈辱の記憶とともに彼女は唇をかみしめた。悪の皇帝はさらに続けた。
「しかし、奴らも今回が最後よ。見よ」
皇帝の言葉とともに自らの上を指さした。
そこには球体があった。
黒い。
玄い。
その球体がそこに浮かんでいた。だが四天王たちは気が付いていた。その球体にはすさまじいまでの魔力が内包されていることを。
ザングルゴールは言った。
「これは余が長く探し求めていた魔葬具『黒の太陽』というものだ。ひとたびこれを発動させれば、世界を邪悪な魔力が覆い……生きとし生けるものはすべて死に絶える……くくく、くははははは!!」
ザングルゴールは立ち上がった。そして哄笑する。
「いかにスーパー・ジャスティス・ファイブが邪魔をしようとしてももう遅い、余は明日にでも人間世界で黒の太陽を発動させる、くくく。これを止めるには黒の太陽を破壊するでもしなければならぬが……奴らにそんなことがわかるはずもないわ」
恐ろしい計画を聞いてゴウライは笑みを浮かべ、シャドウは帽子を深くかぶり、バオウは一言「哀れ、スーパー・ジャスティス・ファイブ」とだけつぶやいた。
マリカはその表情を変えない。
ザングルゴールはマントを翻した。
「世界が滅んだ後に貴様らにはあるいはスーパー・ジャスティス・ファイブを倒すことを命ずるかもしれぬ。守るべき人間たちを失ったやつらをな……くはははは!」
悪の皇帝の声が響いた――。
皇帝が去り、他の四天王たちも去った時にマリカは一人玉座の上に浮かぶ「黒の太陽」を見続けていた。すさまじい波動を感じるその黒の太陽は明日にも世界を飲み込むだろう。
彼女はふっと笑う。
「これですべてはおしまいね。スーパー・ジャスティス・ファイブ……」
手に宝石のついた魔法の杖をかざせば彼女の体がふわりと浮かぶ。宙に浮かんだ彼女は黒の太陽に近づいた。その表面は深い闇。何も映さない深淵だった。マリカは少しだけ寂しそうな顔をして後ろを振り向いた。
「この太陽は人の闇を映すこともできないのね……」
後ろを振り向いた拍子に手に持った杖が何かに引っかかった。
「?」
ぶちぶちっと音がして、『黒の太陽』が落下する。
床にぶち当たった黒の太陽はがらがらがしゃーんっと音を立ててぶっ壊れた。
「ふぉ」
マリカは口を開けて信じられないものを見ている顔をしていた。
「ふぉ、ふぉああ?」
目の前のことは現実だろうか。黒の太陽は無数の黒い結晶になっていた。落ちた拍子に玉座にぶつかって玉座も壊れていた。
「え? え?? え???」
混乱したままマリカは首を振った。目が泳いでいた。よく見れば先ほどまで黒の太陽を吊っていた魔力の糸らしきものがぶら下がっていた。彼女の杖はこれに引っかかったのだった。普通なら切れないだろうがマリカの魔法の杖なら切断可能だった。
「つ、吊るしてたの?」
魔法の力で浮かんでいたと思い込んでいたマリカは慌てて壊れた黒の太陽の残骸のもとに降りた。見事なまでに壊れていた。杖を手放して混乱したマリカはかけらをひとつふたつ手に取って、パズルのように合わせようとする。
「ふええ。ふえええ??」
涙目でかちかちとかけらを手にぶつける。完全に混乱していた。そこにどすどすと足音がした。びくっ! とマリカは立ち上がってあわあわと玉座の裏に隠れた。
「な、なんということだ!!」
悪の皇帝ザングルゴールの怒声が響いた。マリカは玉座の裏で涙目で死んでいた。
彼は黒の太陽の残骸の前に立つと嘆いた。
「余が100年探し求めいてた『黒の太陽』が壊れているだと……」
(ひゃ、ひゃくねん)
重たかった。マリカは罪悪感で押しつぶされそうになった。
「いったい誰がこんなことを………許さぬ、許さぬぞおおおお!!」
強大な魔力があふれ出した。ザングルゴールの体を中心に黒い魔力の奔流があふれ出していく。その圧倒的魔力はこの宮殿ごと揺らした。マリカは走馬灯が頭を流れた。楽しい思い出がスライド写真のように流れていった。
「許さぬ! 余の宿願を」
ザングルゴールの力を開放は世界を歪ませていく。
「陛下、お気を確かに」
そこにゴウライ、シャドウ、バオウがやってきてザングルゴールを囲んだ。
今しかなかった。
マリカはこっそり彼らの後ろについた。必死にすました顔を作りつつ、心の中ではすごい謝っていた。
「陛下、きっとこれはスーパー・ジャスティス・ファイブが我らの計画を知っていたのでは?」
ゴウライが言うとマリカは「えっ?」と顔を上げた。ゴウライは怒り狂うザングルゴールに対していった。
「黒の太陽の巨大な力をなんらかの方法で感知した奴らの仲間が潜んでいるかもしれません。我らにその始末をお命じ下さい」
「ぬうううううう。スーパー・ジャスティス・ファイブめぇ。きゃつらの首を引き抜いて参れ、ゴウライ!」
「はっ! 必ずや」
ゴウライの体が炎に包まれると彼の姿が消えた。
黒の太陽を破壊した敵を見つけるため、彼は動き出した――
マリカは必死にクールな顔をしていた。長いまつげの彼女は美しい。しかし、その内心は様々なものが葛藤していた。
ザングルゴールは残った四天王の3人にも言った。
「貴様ら……余の計画はこれで大きく後退することになった。ゴウライとともにあのスーパー・ジャスティス・ファイブを始末するのだ……」
「はっ」
「はっ」
マリカは出遅れた。だが彼女はふっと笑った。
「もちろんです」
余裕のある彼女の顔とは裏腹に手汗が出ていた。
しかし、マリカはこうして世界を救ったのだった。
☆
「ふむ」
シャドウは一人、残骸になった黒の太陽をつまんでいた。どことなく猫のようなかわいらしさを持った彼女は黒の太陽を残骸を見ながら、あごに手を当てた。シルクハットをかぶった彼女の金髪が片目を隠している。
宝石のような瞳をしたシャドウは、さっきまでのことを思い返して顔を上げた。黒の太陽を吊っていた糸が見えた。
「にゃるほど」
彼女はにやりと笑った。