『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
雪と氷に閉ざされていく世界。
その中心でサンは羽を広げてすべてをあざ笑う。
「あはははは!」
その身を邪悪な魔力が包み、彼女の立つ場所を中心に魔法陣が展開されていく、幾何学模様に地面を走る魔力の線が複雑に絡み合う。そこからあふれ出す魔力の波動にこの世界の主であるバオウが吹き飛ばされそうになる。
「くっ」
足に力を入れて暴風のような魔力の中でバオウは地面に刀を突きたてる。彼はそのうえで一歩踏み出す。魔力の光の向こうで笑うサンは言った言葉。
『ダークシンフォニア』
それは魔の四天王の『ワールドエンド』とは別の奥の手だった。本来の力を開放するそれをサンが行う。
――ならば、斬る
だが、バオウは迷うことはない。彼は足に力を籠める。そしてこの絶対零度の世界で目を閉じた。すべてが無音のままに終わるはずの世界、だが今はサンの笑い声が響いている。意識の中からそれを消すように、彼は心を静める。
目を見開いた。バオウは跳ぶ。閃光のようにサンに迫った。
一閃。冷気を纏った斬撃はサンの胴と首を両断するはずだった。
「……!」
サンが真っ赤な口を開けた。邪悪に笑う。その首にバオウの剣は撃ち込まれたはずだった。いや、事実バオウの一撃は彼女の首に斬りつけていた。だが、彼女の白く細い首は刃を通さない。その美しい肌に全く傷はついていない。
「ば、かな」
「きひ、きひひ」
サンの両手に黒い炎が現れる。彼女はそれをバオウの体に至近距離で放った。爆炎が広がる。バオウは後方に勢いよく吹き飛び、雪の上で何度もはねた。
「ぐっ、ああ」
バオウは焼けた体を魔力で修復する。だが『ワールドエンド』に力を使う彼の治癒能力はすぐに彼を立ち上がらせることはできなかった。重度の火傷が広がり、それがわずかずつ修復されていく中で彼は顔を上げた。手に刀はない。
黒い羽を広げた少女がいた。胸元に赤い宝石をつけて、黄金の刺繍の入った黒のドレスに身を包んでいる。スカートから伸びる白い足にはブーツをつけていた。その頭上には宝石をあしらったティアラがある。その首元にはフリルのチョーカーが付けている。
彼女の体からはバオウの信じられないほどの魔力が溢れ出している。
「……さて、変身完了。どう? なかなかいい感じでしょ」
軽い口調のまま笑うサン。だがその殺気は些かも緩まない。バオウはよろよろと立ち上がる。
すでに彼の後方、この世界の『門』は開いている。すべてを凍らせる絶対零度の世界でサンはくすりとしてスカートをつまんで見せる。彼女はさらに両手を胸の前に出す。
彼女の前にぽっと小さな炎が浮かんだ。だがそれは彼女の体からあふれる魔力を収束していく。
「それなりに楽しめたけど、バオウ。私の本当の狙いはあの女だから。そろそろお遊びはおしまい」
サンは冷たく言った。バオウの手には刀すらもない。彼はサンを睨み続けている。
「怖い顔……。あんまり怖いから、この世界から消したくなっちゃう」
サンは羽を動かして飛び上がる。バオウを、彼の城の門ごと見下して彼女は言った。
「そういうわけだから、バイバイ。……メギド・フレイム」
サンは右手を上げる。その手にあった黒い炎が空に広がっていく。巨大に、ただ巨大に禍々しいまでの熱をもって世界を照らす。まるで黒い太陽のように。その太陽はサンは右手を振り下ろすと同時にバオウに向かって堕ちていく。
バオウは死を覚悟した。
――なに、この状況。
彼はそれでもただ死ぬ気はなかった。手に刀はなくても彼はすべての力をもとに冷気を纏う。戦いにおいて逃げるつもりはない。彼の後ろで門が開く。そこから溢れる氷の風を彼はすべて目の前に迫る黒い炎に向けてぶつけるつもりだった。
――こっちみて、こっち。ねえ!
バオウは死を前にふっと笑った。
「私もただでは死なん貴様の炎を、この命に代えて凍らせてやろう」
男の覚悟に彼は刀のない状況で構える。
「刀などなくとも、心にあれば十分」
「人のこと無視して心とかいうなっ!」
「ぐあっ!?」
バオウの頬に平手打ちが叩き込まれた瞬間。黒い太陽が落ちた。
☆☆
ドーム中央に広がった闇。その中にはバオウの『ワールドエンド』が展開されている。
だがその闇の中から炎があふれ出す。闇にひびが入り、その隙間から熱風が噴出していく。それはだんだんと広がり。最後は轟音とともに爆発した。
黒煙が上がり、天にまで到達する。ばりばりとマスコミのヘリの音がした。
すでにドームは半壊して燃え盛っている。その炎の中で優雅に舞う一人の少女。彼女はサンだった。炎の中で相手のいないダンスをゆっくりと続け、ふふと笑う。
「やっと来たのね。待っていたわ」
サンは炎の中を歩く。
その向こうにたたずむ一人の少女。
宝石をはめ込んだ杖を手に、紫の髪を風になびかせる。黒と紫のドレスを纏う悪の少女だった。その手には小さな鏡を一枚持っている。そこには青い髪の青年が映っている。
「そいつの『ワールドエンド』に乗り込むなんて器用ね。やっぱりあなたのほうがいろいろとできそうね」
紫の髪を手で押さえ、少女は答える。
「私の鏡はすべてを映す。……わずかな距離なら、鏡の中を通っていくこともできるわ」
かつてスーパージャスティス・ファイブが怪人を倒したところに魔法陣とともに現れた少女がいた。カッコよく登場して、颯爽と去るつもりだったところでコケたことがあった。しかし今回は彼女の仲間を助けることになった。
その少女の名は『鏡の魔法使いマリカ』
「……貴方の目的はこの私だったはずでしょ? ここからは私が相手をしてあげる」
悪の少女である。