『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
サンは現れたマリカを見て歯を見せて笑った。その笑顔は邪悪そのものだった。ただただ、目の前の『獲物』をどうやっていたぶろうかという考えていた。今の彼女にとってマリカはもはや敵ではない、そう思っている。
あたりは一面が炎に包まれている。そしてその炎の中でサンは言った。
「やっと来たのね。待ちくたびれたぁ。本当ならお前を消し炭にする直前にこの姿を見せるつもりだったけど……そのバオウとかいう雑魚のせいでちょ~っとだけ計画が狂っちゃった。あははは」
「…………」
マリカはサンを睨んだまま、魔法の杖を構える。バオウを映した鏡は懐にしまった。
「あらら、絶望的な状況で口もきけなくなっちゃった? いいよ。別に何も言わなくても、お前に味あわされた屈辱はたっぷりとお返ししたうえで灰にしてあげる」
「……最初に言っておくことがある」
「何? 遺言ならぜひ、見苦しいのをリクエストするけど?」
マリカは顔を上げた。大きな瞳で彼女はサンを見た。
「貴方は私の姿をしている。……でも、私とは違うわ」
「ああ? ……あ~、確かにあんたを挑発するためにそんなことも言ったかな。安心してよ。あんたみたいな下等生物と私は違う。いい? 私は、この世界を」
サンはくるりと回る。スカートが揺らめく。
「焼き尽くすために生まれてきた、黒の太陽なの」
彼女はマリカに叫んだ。
「この世界を滅ぼすのが私。私が生まれたときから決まっていたこと」
「……そう」
マリカはふんと鼻を鳴らした。サンはピクリと反応する。
「私は……世界をいずれ統一するザングルゴール皇帝陛下の魔の四天王の一人である。……悪の一員。……でも、あなたとは違う……それは」
マリカの脳裏に「あの日」の光景が浮かぶ。初めての鏡の魔法を使った日のこと。
ここに来るまで彼女は迷い続けていた。だが、外で出会った奇妙な赤い髪の青年との邂逅でちょっとだけわかったことがあった。だから彼女の瞳には力があった。
「私は悪。生まれたときからそうだったわけじゃない。そう……私は……私の意志で悪を選んだ」
マリカは魔法の杖を構える。
サンはその言葉に、一歩引く。唇をかんで表情をゆがめる。
「それが『鏡の魔法使いマリカ』。私は貴方とは違う」
「……な、何が、悪だ! お前のどこが悪なんだ!! 自称だろうがっ!!!!!」
「……っ! 違う。私は、誰が、なんと言おうと悪なの!! 人に決められるくらいなら自分で決めてやるんだ!!」
マリカが魔法の杖の石突で地面をたたく。そこから魔法陣が展開する。黒い魔力が放出されていく。その黒い魔力がマリカの後ろに固まっていく。しかしマリカの瞳の光は変わらない。
「……私はすべてを映す鏡……ワールド・エンド『クローズド・ミラー・ワールド』」
マリカの背後の黒い魔力の中から巨大な鏡が現れる。それが一瞬光った瞬間に世界は反転した。
「っ!」
サンは一瞬だけ自分の立っているところがどこかわからなくなった。羽を広げて飛ぼうとしてもどちらが上か下かわからない。
(くだらない真似を……お前のワールドエンドはセレニコに嫌というほどに教え込まれた……!)
マリカの作る鏡の世界に引きずり込む。それが彼女のワールドエンドだった。かつて魔の四天王のバオウすらも完封し、鏡の世界に閉じ込めたことからわかるように強力無比な力だった。だがサンはその体を作られたときにマリカの力の一部を使用できるように改造された。彼女からすれば『クローズド・ミラー・ワールド』は絶対の技にはなりえない。
サンはその手には黒い炎を宿らせる。鏡の中でも外でも彼女はマリカを消し炭にするつもりだった。
声がした。
「私の鏡の世界は簡単にまねができるほど甘くはない」
サンは笑う。
「なら姿を現したら?」
挑発に対してマリカの笑い声が響いた。サンはどこかに着地した。光がない空間だった。彼女の手の炎だけがあたりを照らしている。
「……戦う前に一つだけ確認したいことがある」
「……まだあるの? さっさと殺しあうのがいいと思うけどね」
「別にあなたに聞きたいわけじゃない。私の鏡はすべてを映す。人の憎悪も心の中の闇も」
「あははは! 黒の太陽である私の闇を映すだって? あはははは。ばかじゃないの?」
「……その心をここに映せ……ダーク・ミラー」
紫の光にサンは目をかばった。腕で目をかばう。次の瞬間にはあたりは数枚の鏡が浮かんでいた。マリカが幻惑のシャドウとともに美術館を襲撃した時に使用した『ダーク・ミラー」。映した相手の心の闇を映す。それはこの空間であれば強化されていた。
数枚の鏡に映るのはブラック=サンの姿。
――映っていた。それは彼女が『体』を得た時のことだった。 両手をぐーぱー動かしてみて、自分の意志で動くことを確認するサンの姿。驚きの表情から、鏡に映る姿はだんだんと柔らかく変わっていく。
――映っていた。人として生活している自分。街を歩くとき、行きかう人の中を楽し気に歩いていくサン。買い物をしたり、家に帰って不慣れな料理をやってみたりして、お風呂に入ってみたりしたときに安堵した顔。
――映っていた。とんでもない理由で壊されたうえで冗談のような理由で体に組み込まれていた上にヘンテコな仕事を押し付けられた中でちょっと、楽しそうな顔をしてしまう自分。芸能人などとともにボランティアなどしてしまう訳の分からない日常。
空間の真ん中でサンは鏡を見ながら、いつの間にか唇をかんでいた。その苦悶に満ちた表情が、だんだんと、少しずつ悲し気に変わっていく。
――映っていた。この世界を滅ぼすために生まれてきた自分。それこそが自分のあるべき姿であるべきということを頭を抱えて泣いて、
「やめろ」
サンは叫んだ。
「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!」
彼女は手に魔力を溜めて放つ。
黒い炎が鏡たちを焼いて溶かす。憎しみに満ちた顔で彼女は叫んだ。
「鏡の魔法使いマリカぁあああ! お前だけは殺す! どうあっても絶対に殺す!! こんなことになったのも、この苦しさもお前が私を壊したからだ!! 私をあの時あんなポンコツなわけのわからない形で壊したから、こんなことになったんだ」
次の瞬間にはサンはドームの真ん中に立っていた。彼女にはわかった。これは鏡の中に生み出された本物とは別の空間。
いつの間にかマリカがサンの前に立っていた。その後ろに数枚の鏡がある。彼女の体には美しい魔力が纏う。マリカはサンを見ている。
「私の鏡はすべてを映す。それがあなたの心の闇なんだ…」
「黙れ!!……殺す、お前だけは」
もう言葉などいらないとばかりにサンの体を炎が包む。
マリカとサンの魔力がぶつかり風が巻き起こる。