『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
はるかな昔から存在していたはずの黒の太陽。この世界を焼き尽くすことを目的に生み出されたということをサンは知っていた。
彼女はそれしか知らない。
自ら選んだわけでもない、ただただ『悪』としてこの世界に生まれた。
誰かを憎んだわけでもない、誰かを滅ぼしたいわけでもない。自らの存在意義はすでき決まっていただけだった。サンは本来であれば悪の皇帝ザングルゴールに利用されてこの世界を燃やし尽くしていただろう。
だが、一人の少女がいた。
鏡の魔法使いマリカ。彼女の存在がすべてを文字通り狂わせていった。因縁というものは奇妙な経緯を辿って彼女たちを結び付けた。マリカからすればただうっかり世界が滅びるのを阻止してしまっただけであり、サンからすればあまりに間抜けな理由で破壊されたうえに屈辱的理由で体を手に入れてしまった。
サンは憎んだ。マリカという存在を。胸の奥に灯った憎しみの炎が日々大きくなっていくことを感じた。それを糧に人間とも怪人にも自らの本心がばれないように演技をした。それは意外とうまくできた。
そのようにどうしようもない理由だが、サンは肉体を手に入れて、世界に降り立った。それでも彼女は黒の太陽として生まれた自分の存在意義だけは見失うことはなかった。だからこそ組織も裏切り、セレニコも倒して自らの全てを取り戻した。
世界を燃やす。
それが存在意義。
しかし、彼女はこだわった。『鏡の魔法使いマリカ』に対して。
本来であれば彼女と対決をする必要性などどこにもない。黙って世界を全て燃やしてしまえばいいだけなのだ。屈辱も恨みも何の価値も本当はないはずだった。それでも彼女は意味のない挑発をした。
この場にサンはマリカを呼んだ。決着をつけるためというよりは最後にその手で葬りたかった。
もしもただ何も言わない。何も感じない、物としての『黒の太陽』であったのならそんなことはしなかっただろう。だがサンはそれをした。
マリカは来た。そして言った。
「私は悪。生まれたときからそうだったわけじゃない。そう……私は……私の意志で悪を選んだ」
――選んだだと? ふざけるな、まともに悪もできないだけのポンコツの分際で何を偉そうにこの私に対してなんでこんなにいらつくんだこいつの顔を見ていると本当に自分の姿もこの世界も嫌になってくる選んだなんて私にはそんなことは最初からきまっていたんだよそれでも私はお前よりも数千倍も悪になれる何が選んだだ何が選んだだ何が選んだだ何が選んだ何が選んだだお前のせいでこうなったんだ。
こうなった。
サンはなにが「こうなった」のかを理解したくなかった。
☆
鏡の世界。
マリカはたたずんでいる。その身をフリルのついた黒と紫のドレスに包み。そして彼女の手には宝石をはめ込んだ魔法の杖があった。紅く光るそこから魔力が溢れていく。
「ヴァリアブル・ミラー」
杖で地面をたたくとマリカを中心に魔法陣が展開される。彼女の背後に現れたのは魔法の鏡。それは数十枚になり整然と並ぶ。魔力の余波で光がマリカを照らす。
対峙するのは黒い憎悪の炎にまとう少女。ブラック=サン。彼女はあらゆる憎しみを込めてマリカを睨みつけていた。彼女は両手を広げる、憎しみに顔をひきつらせたままに笑う。いびつな微笑みの後に彼女の背後に黒い炎が巻き上がった。
炎がうねり上げてこの世界を照らす。邪悪さがうねり上げてマリカの前で炎が巨大になっていく。サンはまるでオーケストラの指揮者のように両手を上げて、そして下した。
黒い炎が一匹の竜のように形を成してマリカに襲い掛かる。マリカは一瞬でその炎に包まれたあと、彼女の姿が鏡になって溶けていく。
サンは笑う。いつもの常套手段でしかない。彼女は炎を指揮するように両手を振るう。世界をなぶる様に炎の竜が飛び回りすべてを燃やしていく。
「あはははは! あんたのお得意の逃げの手ってやつね。いつまでそれができるかしら?」
どこに逃げようとこの空間全てを燃やしてしまえばいい。サンは無造作に魔力をつぎ込んで、さらに炎を巨大にする。
「お前だけは、灰にしてやるわ」
「そう」
「!」
マリカの声が背後にした。サンは不愉快そうに表情をゆがめた。真後ろに来たのは生み出した炎の竜で燃やそうとすればサン自らも焼くことになる。だが彼女は笑う。真っ赤な口を開いた。
「プロミネンス・ノヴァ」
サンの体を包む炎が急激に温度を上げていく。それは超高温になり強烈な熱波として放出された。
灼熱の赤。サンを中心に3000度の熱があたりを文字通りに溶かした。
一瞬の閃光の後に彼女の中心に地面が赤く溶けている。羽を広げて浮かぶサンは言った。
「死んだかな~? マリカちゃん。お前の死にざまを見られないのはとても残念だけどね」
サンの攻撃をまともに受ければどんな生物も生きてはいられないだろう。だが、まだマリカのワールドエンドは解除されていないこともわかっている。マリカをしとめ切れていないこともわかった。つまり何らかの方法で耐えたのだ。
背後で音がした、サンは優雅に振り向いて微笑む。彼女は笑顔を恐るべき炎を背後に作って見せたのだった。
「そこにいたの? そろそろ死ぬ準備はできた?」
振り向いた先にマリカはいた。
マリカは片膝をついて杖に掴まっていた。彼女の衣装が焦げ付いてボロボロになっている。白い肩がむき出しになり、服の下に着ている桃色アンダーの肩ひもが見えている。はあはと荒い息をつく彼女の周りには割れた鏡の破片が落ちている。サンはそれを見て満足げに言う。
「確か、鏡の中に過去に映したものをストックできるんだっけ? 冷気なんかも持ってたから頑張って耐えたんだね。それで、もう一度同じことができるの?」
「…………貴方の力は相当に上がっているようね」
「おお、魔力で体を守っているようね。本当なら息をするだけで肺が焼けるのにね。……私の力が上がっているって? そうそう。私は前にお前と戦った時よりもはるかに強くなっている……ああ、正確に言うと本来の力に近づいているってことよ。……そろそろ本気を出したら? 無駄だろうけど」
サンはそのあとに言った。笑いもしなければ何の感情もない顔だった。
「つまりは……まあ、終わりがちかいってことね」
「…………」
マリカは杖を持って立ち上がった。
「さっき、私は貴方の心の闇を映したわ」
「…………」
心底不快そうな顔をサンがしてもマリカは続ける。
「私は鏡の魔法使い……私に映せないものはない。人の心の中の闇も全部……。だからあなたの心も映すことができた」
「何を勘違いしているのかしら? 私は黒の太陽……。人の心の闇? はっ。わかった気になるなんて愚かね。私は人間じゃないの。……心なんてないの」
「そうかな」
マリカはサンに対して、『柊 みかん』として微笑みかけた。ふわっとした、あどけない笑顔。ただそれだけのなのにサンは一歩下がりそうになった。
鏡の魔法使いは言った。
「私は、私の意志で悪を選んだ。誰から否定されてもそれだけは変わらない。……私が最近やったこととか、そりゃあ、全部悪とは程遠いなんてわかってる。…………みんなすきかっていってくるけど、私はマリカであることを選んだ」
彼女は顔を上げる。サンを見据えた。
「……私とサンは同じ姿をしているけど、違う。私たちは全然違う」
「……お前、私が選んでないって言いたいのか?」
「違う」
みかんはまっすぐにサンを見て、サンは一瞬、ほんの一瞬だけ視線を外した。だがそれが彼女の心を憎悪に満たした。彼女はさらに敵愾心を燃やした。だがみかんの声は響いた。
「まだ、あなたは選べる。『黒の太陽』として作られたからじゃない、あなたはどうしたいの?」
「黙れ……」
サンはドレスのすそをつかんでぎゅううと力を込めて握った。
「黙れ、うるさい、話しかけるな、うるさいんだよ。お前の言っていること何もかも嫌いだ。大嫌いだ。そもそも何度言わせたらわかる!? 私は黒の太陽であるブラック=サンだ、人間の心なんて持ってない!! 私は世界を滅ぼすんだ!! そ、そうしたいんだ!!」
みかんはそれを聞いた。
「ほんと?」
「……っ」
その問いかけに返せないサンは唇をかんだ。血が口元から流れていく。彼女の眼は魔力が黒く染め殺意が沸き上がっていく。あたりの熱がさらに上がっていく。みかんは、一度目を閉じてゆっくりと開く。
凛々しい顔をした『鏡の魔法使い マリカ』がそこにいた。
「私は貴方の滅ぼす世界なんて選ばない。私たちはちゃんと世界を征服するし、スーパー・ジャスティス・ファイブも倒す」
マリカが魔法の杖で地面をたたくと彼女の背後に現れた2枚の鏡。
そこに映るのはタキシードを着た金髪の少女、そして青い髪の男。鏡から彼らは出てくる。そしてマリカの前に立った。
「やれやれ、結局みんなでやることになったにゃ」
「其れなりに休息できたからな、借りを返してやろう」
四天王は肩を並べ、黒の太陽に向かい合う。