『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
魔の四天王とは悪の皇帝ザングルゴールが見込んだ悪のエリートたちである。
それぞれが強力な力を持ち、本来であれば人類社会に巨大な打撃を与える力を持っている。ただ、ボタンの掛け違えが彼らの運命を狂わせた。挙句の果てに魔の四天王である『鏡の魔法使い マリカ』のクローンとして生まれ変わった黒の太陽ことブラック=サンと世界の命運をかけて戦うことになった。
人生とはかくも難しいものなのだ。そこに悪も正義もない。
サンは羽を広げて炎を身にまとわせる。その熱で彼女の歪んだ笑顔が陽炎のように揺らめている。その前に立つは魔の四天王の3人である。
『幻惑のシャドウ』はシルクハットを被りなおして、ネコ科のような鋭い目つきでサンを見ながらも口元に余裕を見せて居rう。
『閃光のバオウ』は戦闘で傷つていた。だが、歴戦のつわものである彼はこの状況でも臆することなくたたずんでいる。
そしてその後ろで魔法の杖を構えるのは『鏡の魔法使い マリカ』だった。凛々しい顔つきをした少女はサンを笑うでもなく、ただその瞳に彼女を映している。
マリカは魔法の杖を掲げる。彼女を中心に闇の力が広がっていく。闇に染まる彼女の姿。ただその瞳だけが光っている。それを見てサンはにやぁと笑った。彼女の手に炎が宿る。
『リフレクション・オブ・ザ・ミラー』
マリカの後ろに鏡が数枚出現する。そこに映るのは過去にマリカの映したものたち。マリカは自らの映したものを閉じ込めて保有しておくことができる。この力でサンを一度破ったのだ。
だが、サンは嘲笑った。
「で? 前みたいになると思ってんの! 焼き尽くしてやるわよ」
サンの右手は炎を纏い、振るう。一瞬のことだった。数倍、数十倍に膨れ上がった巨大な炎が3人のいた場所を焼き尽くした。うねりを上げる火炎の地獄。サンはそれでもまだ攻撃をやめなかった。
「あはははははは!! かっこつけて出てきてすぐに灰になったら、ダサいよね~。ほらがんばれ、がんばれ。ダーク・フレア」
サンは右手を天に掲げて、指を立てる。その指先に強大な魔力が収束していく。時間にすれば半秒もかからない。それでもそこに収束した魔力は強大だった。
指先に小さな黒い球体。サンは舌で唇をなめながらそれを右腕を振るうと同時に放つ。黒い球体が炎の中に吸い込まれた。瞬間、轟音とともに黒と赤の火柱を立てて爆発する。
「あははは!」
即座に地獄は広がっていく。その中で羽を広げてサンが笑う。
飛んでいるサンの上に影が差した。
「……甘いぞ、女」
「……!」
刀を構えたバオウがサンの後ろを取っていた。サンは目を開いて驚くが、その瞬間に彼女の首筋に斬撃が放たれる。閃光のような一撃はサンの細い首を両断するどころか傷をつけられない。だが、宙を浮かぶサンは衝撃で体勢を崩す。
「ちっ。あの女の魔法か」
「そうだ」
羽を広げて止まるサンはバオウを振り向く。バオウは空を飛ぶ力はないが、彼の真下には鏡が現れ、そこに吸い込まれた。
(鏡を使って移動をする……。あの女の得意技……忌々しい)
サンがそう思った瞬間だった。シャドウが後ろから抱き着いてきた。そして耳元に空気を吹きかけてくる。
「にゃは~」
「ひゃ、ひゃあ!?」
「て、ていうかあっちーこいつ!!」
シャドウが素になってサンを蹴り飛ばして離れる。サンは頬を赤くして耳を抑える。
「なにすんの!」
と振り返ってみればべーと舌を出してシャドウは現れた鏡の中に消える。サンはぐぬぬと怒るが、はっとした。相手のペースに飲み込まれてしまうわけにはいかない。今日ここで決着をつけるのはマリカだけでなくサンもそのつもりだった。
ただ、シャドウはこの中で最も消耗している。まともに攻撃をできる状況ではない。それでも彼女の普段のふざけた態度からそれを悟らせないしたたかさのような何かがあった。
サンは気が付いた。地面に降り立つ。
炎が消えていた。
「……!……?」
闇の中にマリカがたたずんでいる。彼女の後ろにある鏡の中には黒い炎が映っている。魔法の杖を持って涼し気な表情でサンを見る彼女。余裕のある、冷たい顔で微笑む。
「私に映せないものはないわ」
「へえ」
サンの生み出した炎全てを鏡に映して無力化させた。サンは屈辱を感じたが、それよりも憎悪が胸の奥に広がっていくことに快感を覚えた。何も感じずにすべてを消すことができるのならその方がいい。
その前にマリカが指を鳴らす。
「空を見て」
「あ?」
マリカの指さした先に黒い魔力が数枚の鏡。紅い枠の鏡たちが円のように並んでいた。
「忘れているようだけど、ここは私の作った鏡の世界。この世界の中では自由に力を使える」
空の鏡たちから、無数の武器が落ちてくる。それはサンを囲むように地面に突き刺さる。剣、刀、槍、大小さまざまな刃物が円を組んで彼女を囲んだ。そして最後に人影が落ちてくる。
青い髪の青年。バオウが刀剣の刺さった地におりる。鋭い眼光でサンを見ると同時に地面に突き立った青龍刀を手に取りサンの懐に切り込む。
「無駄なことを……まだわからないの?」
「……」
バオウの渾身の一撃が首筋に叩き込まれる。逆に青龍刀が折れる。しかしバオウは止まらない。サンの横を駆け抜けて、槍を取ると突きかかる。サンの首筋に刺突を送り槍が壊れる。破片が飛び散る間にバオウはさらに別の剣を取る。
「ぐっ、こざかしい」
強力な魔力で守られているサンの体は傷つかない。しかし何度も何度も同じ場所を正確に攻撃されて鈍い痛みを感じていた。
バオウの速度が上がっていく。
「小娘」
斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃。一撃ごとに持った武器が壊れる。
「このバオウの二つ名を忘れたか」
閃光のような一撃がサンの体を斬る。かといって彼女は体は切れない。彼女は笑う。サンは魔法を使うために魔力を収束させようとする。一瞬であたりを数千度の温度に上げてしまえば多少武芸のできるガス欠寸前のバオウなど燻り殺せる。
「くくく、なーにが二つ名だ。ばかめ、お前の攻撃なんて何度受けても」
「ほいゴキブリ」
急に現れたシャドウが何かを投げてきた、
「ひ、ひえっ!!」
不通に悲鳴を上げたサンは体をのけぞらせる。魔力が霧散する。彼女の胸に黒い塊がぶつかる。それはそのあたりに落ちていた小石だった。右手を挙げて、片足も上げた変なポーズで固まったサンの前で憎たらしい顔で笑うシャドウ。
「お、お、おまえ、さっきから。さっきからなんなんだ!!」
「うしろ、うしろにゃ」
「後ろ……? ぐげっ」
後方から彼女の首筋に居合が放たれる。強力な一撃に彼女はたたらを踏む。屈辱に唇をかんで、顔を上げればシャドウはすでに逃げている。わなわなと肩を震わせてむきーと怒る。
「あ、いつ、ふざけんなー!。貴様らは卑怯な真似しかできないのかっ!」
シャドウの攻撃には敵意がない。だからこそ強かった。どことなく愛嬌のある行動が敵の油断を強制的に引き出す。かつてシャドウはマリカと戦うときに一切の敵意を見せず、完封した。
だが、サンはその体に魔力を発する。今度こそあたりを熱で焼き払うつもりだった。彼女の足元に鏡が現れる。そこに映っているのは氷の城とその門。鏡から冷気が放たれる。かつてバオウの『ワールド・エンド』をマリカはその鏡に映していた。
「こ、これは!」
一瞬で体が凍り付く、サンを覆った氷は彼女の熱に溶かされたが、それでも一瞬の遅れがあった。わずかな隙にサンの前にマリカが現れる。スカートが風に揺れ、彼女の瞳が再度サンを映す。
「卑怯? 忘れているの? 私たちは悪の四天王なのよ……」
「……ぐっ」
魔法の杖をマリカはサンに向ける。
「もう一度、心の闇を開く」
「やめろ、やめろっ!」
サンは心底焦った顔で首を振る。マリカはその前に立って。彼女は感情を見せない冷たく見える瞳でサンを見ている。それは見えるだけだった。そう、マリカはサンの心を見ても彼女の心を笑うことなく向き合っている。だがサンは表情をゆがめる。
「別にやめてもいいわ。私たちの目的は世界を征服することで、貴方じゃない。……貴方も心の中に押し込んでいるものを見れば望んでいるわけじゃないことはわかる。ここで終わりにしましょう」
「……終わりにする……?」
サンの敵意がその瞳を光らせる。
「何度同じことを言わせるつもり? 人間。私は『黒の太陽』だっ! 世界を滅ぼすことが私の存在意義だと何度言えばわかるんだっ、何度、何度言えば」
「…………」
マリカは彼女を見る。
「お前のせいで壊されて、無理やりお前と同じ顔にされたこの屈辱を晴らすことが私の望んでいることだっ。私は……この世界を全てを燃やして、滅ぼす、必ずだ。それが私の存在する意味だ!」
「……この」
「私が、私が人間どもと少しだけなかよく、いやその中に入ってやったのは、お前らを欺くためだって」
マリカは、魔法の杖を下ろして。サンを見た。そして思いっきりビンタした。
「わからずや!!」
「っ……」
マリカはさっきまでの表情を崩して、興奮しているのかほほが少し赤い。ちょっと睨みつけていった。サンはじんとほほに感じた。
「あんだけわかりやすく悩んでいるくせに何かっこつけてんの!!? ばかじゃないの!!?」
「……お、おまえだけには、この世界でお前だけには言われたくないっ!! いろんな意味で言われたくないっ!!」
「私も何度だって言った……私は、私が選んでここにいるって。貴方は『黒の太陽』とかに生まれてそれを守っているだけ」
「違うっ」
「私は鏡の魔法使い!! 私の鏡に映ったことに嘘はないっ」
「……っ。私は、世界を滅ぼす」
マリカは魔法の杖で地面をたたく。
「うっさい! あんたテレビですごくおいしそうにケーキ食べていたの忘れてないから、あれ嘘じゃないでしょっ!」
こんな場所でそんなことを言うのかとサンは口を開けて赤くなる。あがが、と言葉にならないことを言う。だけど、そのときサンの心に今までとは別の感情が生まれた。目の前に同じ顔をした少女であるマリカ。不器用でどう考えてもポンコツでしかないこの少女の言葉を聞いて思ってしまった。
うらやましい。
そう思った時、サンは今まで感じたことのない殺意を感じた。思ってしまったことがすでに彼女のプライドを打ち砕いていた。顔を下げて、サンは膝をつく。味わったことのない何かが胸の奥を焼く。それは炎よりも暗く、熱を持つ。
「殺す」
サンはつぶやくと同時に彼女を中心に魔法陣が展開していく。強力な魔力が彼女を包む。黒い太陽である彼女が顔を上げる。片目が髪にかかっていて、右目だけが光りなくマリカを見る。
唇が動く。
「ワールドエンド『ブラック・サン・リアム』」