『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
世界が上書きされていく。
サンはその場に立ち上がり、片目が髪で隠れている。そしてもう一つのうつろな瞳でマリカを見た。彼女を中心に世界がゆがんでいく。マリカはその中で彼女の視線をまっすぐに受け止めていた。
マリカの作った鏡の世界。『クローズド・ミラー・ワールド」に映し出された疑似世界。そこに広がっていくサンの闇。
同じ姿をした二人の少女が対峙している中で、何かが割れた音がした。それは鏡が割れた音。世界が割れていく音だった。マリカの世界が空間事ひび割れて、砕けて、淡い光になって散っていく。空から落ちていく鏡の破片がキラキラと最後の輝きを放っていく。
それを埋めるようにアメーバのように黒い魔力が広がっていく。サンの殺意を載せたすべてがひび割れた世界を埋めるように埋めていく。
炎が巻き起こる。
崩れていく世界を取り巻くように赤い炎が渦を巻いた。地面が割れ、マグマが噴き出る。一瞬にして空気をゆがませる高熱が世界を包んでいく。
「お前さえ、いなければ私は前みたいに何も考えなくてもいい」
サンが羽を広げる。黒い羽。彼女が空を飛ぶと世界の中心にまで浮き上がる。
その小さな手を空に掲げる。そして『空』が割れた。マリカの世界に残った空の残骸がひび割れて落ちてくる。その向こうに黒い太陽が浮かんでいた。サンは笑うでもなく言った。
「これが私の世界。『ブラック・サン・リアム』。この空間にあるものを全て焼き尽くす」
「…………」
マリカは魔法の杖を構える。割れた鏡の破片が魔力の欠片になって降る中で、圧倒的力を持つサンを見上げている。だが、その表情に恐れはない。
世界の熱は刻々と上がっていく。溶岩がどろどろと流れて、むき出しになった地面をなめていく。炎が噴き出し、空間全体が焼けていく。
魔力で体を守らなければ一瞬で焼け死んでしまうかもしれない。サンの作り出した空の上の黒の太陽がゆがんで見えるのはその強大な魔力による熱を発しているからだった。
サンは言った。
「鏡の魔法使いマリカ……お前だけはここで……死ね。そのあとにこの世界も」
彼女は自らの手を胸に当てて叫んだ。
「この体も、全部焼いて、燃やして、捨ててやるっ。すべては元に戻るだけだっ」
マリカはそれに対して言った。
「私は鏡の魔法使い。すべてを映す鏡……。それに私たちは悪の帝国。この世界がいつ終わるかを決めるのは私たちじゃないといけない」
そしてマリカは「――それに」と続けた。マリカはサンを、同じ顔立ちの少女を見る。
「……私も本当に心の中で思っていることと、やらないといけないことも、口に出てくることが全部ぐちゃぐちゃで、嫌になることばかりだけど。それでも……それでも毎日頑張ってる、つもり」
日々は当たり前のようにうまくいかない。それは『鏡の魔法使い マリカ』である柊 みかんが一番よくわかっていた。失敗だらけな毎日で、悩むことは毎日アップデートしてくるくせに自分自身が簡単に前に進めない。それでも毎日毎日、歩けるだけ歩くしかない。
マリカは唇をかんで、それから大きく息を吸って叫んだ。
「私の魔法であれだけ人間生活を楽しんでいるって鏡に映っているのに、焼くとか燃やすとか! せめてっ! 鏡に映った自分を見てから世界を滅ぼすか決めてよっ」
「……お前に、お前にもう何も言うことはない。死ね、死ねっえええぇ!」
サンはすべての魔力を放出する。魔力が円になり、魔法陣が空に展開する。それは何重にも重ねて空を覆う。世界が一気に熱を上げていく。
存在するだけで燃える世界。それがサンの世界。
猶予は何秒か。
マリカは魔法の杖を振るう。それで2枚の鏡が現れた。そこから現れたのはシルクハットを被った少女と刀を手にした男。シャドウとバオウであった。
「しかし、とんでもない化け物を生み出したものだな」
「にゃ~、これとんでもない化け物っていうか、とんでもない内ゲバなんだけどにゃ」
シャドウの言ったことをバオウはちらりと1秒だけ見て流した。
いずれにしても状況は絶望的。並び立つ三人はその力を消耗している。
「いまさらそんな役立たずどもの連れてきてどうしようっていうの!? 一緒に燃やしてやる!」
サンは両手を空に掲げる。
世界の炎がそこに収束していく。
生み出された巨大な炎の球体。
電撃が奔り、プラズマが飛ぶ。青い雷撃が世界を焦がす。
「すべて、全部! 消えてしまええっ!!」
サンが両手振り下ろす。彼女の生み出した魔力の炎、その塊がマリカたちに向けて落ちてくる。すべてを消してしまう一撃を放った彼女の瞳からわずかに零れ落ちるものがあった。
天そのものが落ちてくるかのようにマリカたちには見えた。もしも受けとめれば影すらも残らないだろう。
「ふっ」
「にゃは」
バオウとシャドウは笑う。マリカも笑った。彼女は静かに言った。絶望的状況で微笑んだ
「私たち魔の四天王はこの程度じゃ倒せない」
マリカは魔法の杖を掲げる。そこにバオウが刀を合わす。そしてシャドウが手にシルクハットをもって重ねた――。
轟音が響く。サンの世界に彼女の作った怒りの炎が落ちた。地面に落ちたそれは弾けて、プラズマと紅蓮の波となって広がっていく。全ては終わったとサンは感じた。空を一人で飛んでいる。彼女は荒い息をついていた。
「はは」
サンが笑った。
「あはははははははは! これで終わった、終わった」
彼女は狂ったように笑った。狂った『ように』しなければ何かを考えてしまいそうだった。
「あとは世界だ、スーパー・ジャスティス・ファイブもザングルゴールもすべて燃やし尽くしてやる。くははは、私は、私は『黒の太陽』に戻るんだ!…………っ!?」
世界を流れる炎とマグマが切り裂かれた。一直線に斬撃が奔り、左右に分かれる。
「……あ?」
地面佇む人影が一つ。
長い紫の髪。その毛先が金色に染まっている。
彼女は黒いドレスにを身にまとった少女。手には宝石をつけた刀を持っていた。金の髪飾りをつけた彼女は刀を軽く、振るう。刀の刀身はまるで宝石のように透き通った紫に輝いていた。
刀を振るった、ただそれだけでサンが吹き飛びそうになるほどの風が起こった。
炎の中にたたずむ彼女を見てサンは歯ぎしりをした。
「く、く、しつこいんだよ、マリカぁ! またわけのわからないわざをっ」
鏡の魔法使い マリカは静かに彼女を見る。
「……一時的に私たちの魂を一つにする。ダーク・シンフォニアの本当の姿。ダーク・ユニオン。本当は私たちの魔の四天王がスーパー・ジャスティス・ファイブを倒すための力よ」
マリカは一歩進む。刀を横に振るう。
「私は、あなたを倒す」