『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
――超巨大宮廷合体 ザーングルゴーン・マキシマム。
セレニコに何を言われているのかわからないマリカは呆けたように口開けて首を傾げた。そして何をいわれているのかを考えている彼女は人差し指を唇に当てて考える。なかなかかわいらしいしぐさであるが、今は一応世界の危機である。
「忘れたのかい、マリカ君。ザングルゴール皇帝に私と君が命じられたのは宮殿を好き勝手改造して良いって話。スーパー・ジャスティス・ファイブのくそロボをぶっ壊すために用意したんだ!」
「あ!」
総指揮を任されていたことをすっかり忘れていたマリカは思い出した。彼女が振り向いて巨大化した『黒の太陽』の成れの果てである泥の怪物を見た。ドームを中心にそびえたつそれは巨大な口に赤い目を動かしている。今にも世界を滅ぼしにかかりそうだった。
マリカはそれを指さす。
「じゃ、じゃあ。あいつをそのロボでやっつけるってことなの?」
マリカはやっと事態を把握した。こんな場面に用意していたとかセレニコは言ったが、全然想定してない。ただ、作られたロボで戦うことができれば希望はあるだろう。マリカにはほとんど魔力が残っていないのだ。セレニコはふふんと鼻を鳴らす。
「そうだ、マリカ君が乗り込んでね」
「そっか! 私が乗り込んで……え!? 乗り込む!?」
「そうだよ。もともと魔の四天王の誰かを生贄……パイロットにするために作ったんだから。さあ、マリカ君呼ぶんだ! 超巨大宮廷合体 ザーングルゴーン・マキシマムを!」
「生贄って言った!?」
「呼び方は簡単だよ。安心して!」
「生贄って言ったっ???」
「魔の四天王の誰かが、こういうんだ! 来い! ザーングルゴーン・マキシマムぁああああああむっててできるだけ大声で! さあ早く、世界が滅ぼされる前に」
「ぐ……いや、魔の四天王なら、バオウとかシャドウも」
マリカが振り返る。公園の中で膝をついているバオウは動けそうにない。それにシャドウは倒れている。消耗している彼女にやっと気が付いた、マリカは彼女に駆け寄る。
「シャドウ……」
「ん、んにゃ。そろそろやばいにゃ……」
彼女は能力まだ人間たちを保護している。限界の瀬戸際だった。朦朧としている彼女にマリカがいう。
「あの、ザーングルゴーン・マキシマムを呼べない?」
「何を言っているかわからんにゃ……」
「あ、いや、何でもない……く、やっぱり私がやるしかないのね」
マリカはシャドウを降ろしてゆっくりと立ち上がった。凛々しい顔つきでセレニコを振り返る。
「何かわからないけど、私が呼べばサンに対抗できるのね」
「もちろん。私の自信作だからね」
すごい不安、と思ったが口にせずにマリカは魔法の杖を手にして目を閉じる。静かに、彼女は体に魔力を通して言った。
「来なさい。ザーングルゴーン・マキシマム」
夜の公園、風が吹く。何も起こらない。マリカは眼を開けた。
「来ないんだけど。セレニコ」
「大声で呼んで!」
「う」
「なにかっこつけんての!」
「かっこつけてないもん!」
マリカは仕方なくもう一度声を上げようとする。
その時だった。
「も、もうだめにゃ~」
目をぐるぐるさせてシャドウは限界を迎えた。彼女の体がぱっと光ってタキシードがブレザーの制服姿に代わっていく。かわいらしい女子高生の栗原玲央が地面に横たわって目がぐるぐるさせる。そしてそれに連鎖するように公園全体に魔力が奔った。
光があふれて、公園中に大勢の人たちが現れた。
『あれ? ここどこ!?』
『コンサートの続きは!』
『なにこれ、あ! なにあれ!!?』
大勢の人々は公園からあふれるほどだった。実際に周囲の道路にも人に満ちていた。
彼らはシャドウの力でサンとの戦いに巻き込まれないように保護されていた人たちだった。彼女の世界から解放されてここに現れた。どこかにアイドル達もいるが人ごみに紛れている。
その人ごみに倒れているシャドウが踏まれないようにバオウがよろよろと彼女を抱き起している。
人々は燃え盛る東京ドーム。そこにいる泥の怪人を見て悲鳴を上げた。その悲鳴は伝播していく。突然の恐怖に揺れ動く、人々が大声で叫び、恐怖する。
「なにあれ!」
「スーパー・ジャスティス・ファイブはどこにいるんだよ」
「おかーさん!!?」
「そもそもここはどこだよ!!?」
混乱は広がっていく中でマリカも何が起こったのか把握できない。
「こ、この人たちは今日のコンサートの観客の人たち……そういえばドームには誰もいなかった……!」
はっとシャドウを見る。「にゃ~」と言いながら目をくるくるさせている女の子とそれをかばうバオウ。マリカはシャドウがずっと苦しそうにしていた理由が分かった。理由はわからないが人々を保護していたのだ。
悪の魔法使いとしてはあるまじきことと分かっているが、マリカは心の奥底でほんのちょっとだけと自分に前置きしてほっとした。
『グオオオオオオオオオオ!』
それはそれとしてピンチは継続中である。
泥の塊になったサンが咆哮する。彼女は巨大な口開けてそこに魔力が収束していく。赤い、赤い魔力が渦のように取り込まれて、公園を見下ろす形で一気に放出する。
赤い炎。助かった人々を蒸発させるには十分すぎるほどの火力。
大勢が悲鳴を上げる。突然の死の恐怖。
そして炎の前に空へ飛び上がる一人の少女。魔法の杖かざして、残った魔力を籠める。魔法の杖の宝石が美しく光り輝く。
「ミラー・シールド!」
空に浮かぶ巨大な鏡の防御壁。炎がそれにぶつかってうなりを上げる。真っ赤に空が焼けたように人々には見えた。だから背を向けている少女に気が付いた。ダークなドレスに身を包んだ、紫の髪の女の子。
観客の一人が言った。
「ま、魔法天使」
魔法天使などと言われたマリカは振り返らない。魔法の杖を両手で握りしめて、体の中にあるすべての魔力を防御に使う。
「が、がんばれ! 魔法天使マリカちゃん!」
「マリカだっ!」
「マリカがいるぞ!!」
「がんばれ!」
人々の応援が彼女に集まっていく。その声援は一つとなって、マリカに届く――。
(ま、魔法天使じゃないもん!!! それに私もやられそうだったから守っているだけっ!)
必死に防御しつつ、必死に涙目で心の中で否定する。応援というより馬鹿にされている気分だった。だが、サンが一度炎を収める。その瞬間マリカのシールドも割れて消えていく。空に浮かぶマリカはもはや何も力が残っていない。ともすれば変身が解けてしまいそうだった。
「はあ、はあ、はあ」
一度群衆を見る。マリカをみんなが見えている。
「ふ、ふ」
マリカは全員の見ている前で言う。
「愚かな人間ども……私は魔法天使じゃないわ、私は、私は」
正直これは言いたかった。
「……私の名はマリカ。『鏡の魔法使い』」
月を背にして微笑む美少女。鏡の魔法使いマリカ。
数か月前はスーパー・ジャスティス・ファイブとダーク・ラットの戦いの後に「人は鏡の魔法使いマリカと呼ぶ」と群衆に言ったことが、その「人」が誰も言ってくれない。
「私は鏡、お前たちの人間たちの醜さを映す鏡よ。お前たちは生き残ったことを喜んでいるようだけど、いずれお前たちは自分たちの心の重さに耐えきれなくなる……私たちの手でね。勘違いしないようにね……お前たち人間を私の鏡に映すのは今日ではないわ」
マリカのセリフが群衆に広がっていく。
「鏡の魔法使い」
「……忘れてた……」
「魔法天使モードじゃないのか」
(モードってなに!!)
激怒しつつクールを装うマリカ。結局のところはサンとマリカが別人であることは全く伝わらない。しかし、マリカはもうそんなことを言い募る余裕はなかった。彼女は右手を空にあげた、空の月をつかむように手を広げる。
「決着をつけてやるわ……来い! ザーングルゴーン・マキシマム!!!」
群衆の前でマリカが巨大ロボを呼ぶその瞬間だった! セレニコはポケットからボタンを出してぽちっと出した。呼び出しボタンである。掛け声など不要だった。
「ぽちっとな!」
闇が空に広がっていく。雷が奔り、そこに時空の裂け目がバリバリと音を立ていく。その裂け目に無骨なオリハルコンでできた巨大な手が出てくる。それは内側から裂け目を左右に引き裂く。
空に浮かぶ巨大な裂け目から現れたのは黄金のボディ。
人型の巨大なロボが空から舞い降りる、両手を組んで、地面に降り立つその姿。それこそがザングルゴーン皇帝の宮廷をセレニコが好き勝手改造して作り出した――超巨大宮廷合体 ザーングルゴーン・マキシマムである!!
泥の塊であるサンの前に立つその荘厳な姿。黄金の機械仕掛けの羽を広げ、目は赤いツインアイを光らせている。人々はその姿に見とれていた。どう考えてもヒーローである魔法天使が呼び出した正義のロボである。印象とは恐ろしいものだった。
「なっ」
マリカの体が光る。
「こ、これは転移魔法」
しゅううとマリカの体が魔法陣に吸い込まれて、次の瞬間にはザーングルゴーン・マキシマムのコクピットに転送されて、椅子におしりをぶつけた。
「痛ったああぁ!! 転送が雑っ」
おしりをさするマリカ。コクピットは善周囲モニター。そこに浮かぶように椅子がある。
『マリカ君っ』
「わっ」
突如として宙に浮かぶ別モニターにセレニコが映る。
『そこはザーングルゴーン・マキシマムのコクピットだ。まずは手前のパーキングブレーキを解除するんだ。その横のやつ」
「ぱ、パーキングブレーキっ? こ、これか」
コクピット横のレバーを動かす。外ではそれでツインアイがかっこよく光り、戦闘モードになる。
『はっきり言って世界の運命は君にかかっている。シートベルトを締めて』
「そ、そんなこと言っても。わ、わあ」
そろそろ限界だった、ドレスが消えていく。光の後に彼女は柊 みかんとして制服姿になっていた。ただそれを気にする余裕はない。
「そんなこと言っても、このコクピットって何も触るところがないんだけど、あ、あとロボなんて動かせないし」
『安心したまえ。コンピューターがすべてを最適化してくれる……! そしてパーキングブレーキを解除したことによって操作するためのあれが動きだす!』
そう、コクピットの足元が開いた。そこからロボを動かすための機械が持ち上がってくる。
『8インチモニターを搭載した、十字キーとボタンでの簡便な操作を可能にしたよ』
現れたのは――とあるゲーム機に酷似していた。マリカは驚愕する。
「す、すいっち・ツヴァイ……!? こ、このロボ」
マリカは信じられないという表情をした。
「スイッチ・ツヴァイで動かすの……!?」