『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である   作:薄汚いメトロン星人

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自分の価値

 ザングルゴーン・マキシマムがすべてのエネルギーを使い果たし、膝をついて倒れる。コクピットにいたマリカも衝撃を受けた。操縦管としてのゲーム機に映るHPはすでに限界ぎりぎりのところだった。危うく爆発するところだったと彼女は胸をなでおろした。

 

 ところでどうやってここから出るのだろうか。マリカはふと思い立った、周りのモニターは死んでいる。ぺたぺたと手で触ってみるが反応しない。

 

「あの、あの!!」

 

 出る方法がわからない。マリカは普通に焦った。今の彼女は女子高生の制服に身を包んでいる、なぜならもう体に魔力が残っていないからだ。ゆえに鏡での移動もできない。だから焦った。勝負に勝ったとしても脱出できないとなればシャレにならない。

 

「このこの~!」

 

 足でモニターを蹴るが非力な彼女ではびくともしない。ゲーム機をつかんでみるが反応しない。

 

「セレニコ! ここから出して」

 

 画面に向かって叫んでもセレニコは出ない。ここにきてマリカは「すごくヤバイ」と若者らしい平易な表現でピンチを思った。汗がだらだらと出てくる。

 

「そ、そんなばかな、何か脱出の方法があるに決まっている。だって人が乗るものだし」

 

 作ったのはセレニコである。

 

 常識的に脱出装置を搭載しているかは不明だった。自爆装置はついている。マリカは操縦席の周りを手で探った。椅子の下のあたりを見てみればお菓子の袋が落ちている。

 

「っ!!」

 

 お菓子の袋を床にたたきつけてからマリカはさらに手を探す。レバーがあった。よく見れば「脱出用」と記載されている。その瞬間にぱぁと笑顔になるマリカ。不安が晴れた顔だった。そのままレバーを引く。

 

 がこんという音と共にコクピット下部が開き、モニターが左右に開く。そこは滑り台になっている。

 

「へ?」

 

 かわいい顔のまま流されていくマリカ。

 

 超巨大ロボであるザングルゴーン・マキシマムは文字通りに大きい。そのため滑り台は狭く長い。ロボの体内を高速で滑り降りていくマリカ。

 

「ひやぁあああ!!?」

 

 かつてのシャドウのジェットコースターのように彼女は絶叫系は苦手だった。そのうえ哀れにもザングルゴーン・マキシマムの中での悲鳴は誰にも聞こえない。ぐるんぐるんコースが蛇行する。加速していく中でマリカはその先に光を見た。

 

 外である。

 

「わわあっ?」

 

 マリカはザングルゴーン・マキシマムのおなかのあたりから外に出られることが分かった。この速度で外に出れば死ぬ。彼女は体勢をなんとか変えて靴でブレーキをかける。もちろん止まらない。

 

「ああああ!!」

 

 涙を流しながら悲鳴を上げるマリカ。外に飛び出そうとしたとき入り口で光に包まれた。防護シールドがマリカの体を包み、そして射出する。防護壁はボール状になっていて地面でバウンドして止まる。しばらくして魔力の防護壁が消え、マリカは立ち上がった。

 

「………………」

 

 紫の髪を手で整えて、クールな表情を作る。無駄なあがきを自然にする彼女があたりをみると街の中だった。そしてすぐに気が付く。黒い霜のようなものが降っていた。

 

 マリカは顔を上げる。

 

 ――オオオオィオオン

 

 巨大な泥の化け物である『黒の太陽』の残骸が断末魔の悲鳴を上げて体をボロボロに崩していく。世界を滅ぼすほどの魔力を使ったのだから当然ではあった。高熱が霧を作り、音がしない世界の中で滅んでいく。

 

 魔法が成立されば日本列島が蒸発し、もちろん世界中に大被害をもたらしただろう。人類の闇が勝ったのだ。マリカは両手を組んでそれを見上げる。黒い塊は悲し気に泣きながら滅んでいく。

 

「…………」

 

 一瞬だけ悲しげな顔をしてマリカは踵を返す。ただ、それを呼び止める声がした。

 

 ――待て。

 

「!」

 

 マリカは振り返らず視線だけを動かす。彼女の前に黒い霧が固まっていく。その闇からマリカそっくりの少女が姿を現す。ボロボロの白い衣装。すでに魔力で編んだドレスではなく、前から来ている服が見えていた。そして白い羽。

 

「まて、鏡の魔法使いマリカ……」

「……サン」

 

 マリカが振り返ると、二人は鏡合わせのようにそっくりだった。サンはうつろな目で言った。

 

「お前の勝ちだ、私を……殺してくれ」

「…………」

 

 マリカの瞳に驚きが広がる。サンは自嘲するように笑う。

 

「まさか私の残りの欠片を使ってもうち破られるとは思わなかった。もはや私の……『黒の太陽』の存在価値はない……勝ったお前が私を殺せ……」

「……存在価値?」

「私は」

 

 サンは自分の両手を見る。小さな手だった。

 

「私は『黒の太陽』と名付けられてこの世界に存在した。この世界を滅ぼすことが私の全てだった。お前とのいざこざで妙なことになったが、結局は私は正面から戦って負けた……もう私に存在する意味はない。ここで終わらせるのがいい」

 

 彼女はもう一度言う。懇願しているかのようだった。

 

「だから、殺してくれ」

「……」

 

 マリカは何も言わずにサンに近づいていく。彼女の靴がかつん、かつんとアスファルトを鳴らす。彼女はサンの前に来た。マリカは顔を上げて、その瞳にサンを映す。

 

「私は……生まれた時から悪だったわけじゃないって言った。貴方だって『黒の太陽』なんていわれても……」

 

 ぎゅっとスカートを握りながらマリカは言う。

 

「自分で決めたわけでもないことにこだわる必要はないわ」

「……ふざけるな」

 

 サンは睨む。

 

「何度言えばわかるんだ。私が、私である理由は世界を滅ぼすことだ! そうしたいってさっき言っただろう! ……私は」

 

 サンが自分の胸に手を当てて叫ぶ。

 

「私は破壊のために生まれた! 『黒の太陽』なんだ! 世界全てを焼き尽くすためにこの名前があるんだっ」

「名前……」

 

 マリカはサンに近づいて。その胸ぐらをつかんだ。

 

「名前がなんだっていうの!? 生まれた時にそんなこと決められてたとしても関係ない。名前に縛られて生きる必要なんてない……自分で決めてっ!」

「……っ。お前に、お前に何が分かる!」

「わかるもん!! 私が一番わかる」

「な……に?」

 

 マリカは顔を近づけて言う。

 

「私の名前は『柊 みかん』なのよ!?」

 

 一瞬サンは呆けた。だけど『みかん』は必死に言った。

 

「名前の通り生きるってどうやって生きればいいのよっ! ゼリーにでもなればいいの!?」

「は、はあ?」

「私の名前……昔からコンプレックスだった……だけど。いろんなことがあって…も…『みかん』も『マリカ』も私は大切にしている。私が悪であることも自分で決めた。……サンだってケーキをおいしそうに食べていたでしょ」

「…………何、を言って」

「世界を滅ぼすのとケーキをおいしく食べるのどっちがいいのっ!! それくらいわかるでしょ! 『黒の太陽』としてのサンの名前だっていいところだけ考えればいいじゃん!」

 

 はあはあと息を切らしたみかんが手を離すとサンはうなだれる。

 

 少しの沈黙の間に黒い霜が降っていた。

 

 サンは両手を動かして、ゆっくりと口元にもっていく。

 

「いやだ」

「え?」

「いやだ……」

 

 サンは口元を手で覆う。

 

「いやだ……そんな……こんな馬鹿らしい理由で……納得するの……やだ」

 

 サンは笑いそうになるのを手で隠している。目元に涙をうっすらとにじませてくすくすと愛らしい声が漏れる。ほほを赤くして両手で口元を隠して肩を震わせる。

 

「もっと、もっとましなことを言って……悪の幹部なら……もっと、悪いこと言えるでしょ」

 

 彼女は『黒の太陽』としてのではなく、一人の女の子として声を抑えて笑う。バカバカしいと感じながら、どことなくそれでもいいかと思ってしまった。

 

「知らないみたいだから教えてあげるわ」

「……?」

 

 みかんは片目を閉じて両手を組んでほんの少しだけ得意げに言う。

 

「悪の幹部だからって、いつでも悪いことできるほど簡単じゃないのよ」

「……お前が言うと……説得力ある……」

 

 サンはそれでさらに笑う。みかんもつられて笑う。ちょっと自虐的だったから恥ずかしくもあった。二人はひとしきり笑って、それからサンが言った。

 

「だが、私はこれだけ暴れたんだ。それにこの世界に居場所があるわけじゃない。お前たちの組織も裏切ったしな」

「ああ……そういえばそうね。私もザングルゴール皇帝陛下に口添えしてあげる。どちらかというと給料を横領したセレニコのほうが厳しいと思うけど」

「あいつそんなことしていたのか……。いや、ザングルゴールのところには戻らない」

 

 サンは言う。

 

「私が本当にこの世界を滅ぼしたいのかどうかはまた考える……ザングルゴールのところに戻れば兵器として使われるかもしれないから……。今回のことで前ほどの力は失ったからどうなるかはわからないけれど」

「そっか」

 

 みかんは一人の友達に言うように返した。

 

「まあ、いいんじゃない?」

「お前は何にでも軽いんだよ。もっとしっかりしてよ」

 

 サンがあきれたように苦笑する。

 

「お前は私のオリジナルなんでしょ?」

 

 何かを認めたような言葉を彼女は言う。そして続けた。

 

「しばらくいろんなところに行って、いろいろと見て回ってみる。それじゃあね。……忌々しい……私の宿敵」

 

 彼女は最後に微笑んで霧の中に踵を返す。ゆっくりと歩いていく姿をみかんは何となく寂しいと感じた。引き留めるわけではない。みかんも反対方向に歩き出す。二人は別方向に歩いていく。

 

 ただみかんはなんとなく足元に落ちていた石を拾った。それをもやもやした感情を載せて投げる。霧の向こうに消えていく石を見送って、寂しい気持ちも見送れればいいと思った。

 

 カンっと何かに当たった音がした。

 

『超巨大宮廷合体 ザーングルゴーン・マキシマム のシールド限界を迎えました。最終シークエンス発動。60秒後に自爆します』

 

「へ?」

 

 サンとの戦いで限界を迎えていたザングルゴーン・マキシマムに当たった石。みかんの投げた石。それがトリガーとして最終兵器を発動させた。ザングルゴーン・マキシマムの体が光り、眼が輝く!

 

 みかんは「え?」「え?」とと言いながら右往左往している。ただ彼女にはわかった。引き返して走り出す。

 

 そこにはまだサンがいた。みかんが追ってきたことを驚いた顔をしている。

 

「お、お前なんで」

「ざ、ざ、ザングルゴーン・マキシマムが爆発する!!」

「はあ!? なんでそんなことにっ」

「わ、わからない。石をぶつけたら…………爆発するって」

「何で!? それに石なんて……ああーもう。お前! あれだけちゃんと別れたのにっ!!」

「し、しかたないじゃん!! とにかく逃げないとっ!!」

 

 ――爆発40秒前デス。

 

「ひっ」

「ひっ」

 

 響く機械音声にサンとみかんが同じ悲鳴を上げる。二人は並んで走り出す。体力も魔力も使い切っている二人が必死こいた顔で逃げる。

 

「お前といるといっつもこうだ! たまには想定通りに動け!」

「私だって、私だって」

 

 言い争いながら、逃げる。

 

 40秒後きっかりにザングルゴーン・マキシマムは爆発した!

 

 それがこの事件の終幕である。 

 

「もーっ。もー!!」

 

 みかんの声が響く。




次回。本編最終回
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