『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
世界は荒廃していた。
侵攻する悪の帝国はその勢力を伸ばし、各国を支配下に置いた。彼らの力は凄まじく世界のあらゆる組織がなすすべもなく敗れていったのだ。
そして今日、ここ東京も陥落の危機に陥っていた。
廃墟となった東京の街。半分に折れたスカイツリー。空を黒い雲が包み、冷たい雨が降り注ぐ。
「ふふふ」
その中で笑う一人の少女。長い紫の髪が浮かび、魔力の粒子で光る。黒のフリルをつけたダークドレス。その手にあるのは宝石をはめ込んだ魔力の杖。妖艶に、そして残酷にほほ笑む彼女の名は――鏡魔法使い マリカ。
魔の四天王の中で最強である彼女はここで宿敵に最後のとどめを刺そうとしていた。
マリカの前に傷つき、倒れ、あるいは膝をついて下を向く5人の戦士たちがいた。それぞれ 赤・青・緑・黄・桃色のスーツ変身スーツに身を包んでいる。しかしその姿は痛ましいほどにボロボロだった。
彼らの名はスーパー・ジャスティス・ファイブ。正義の味方である。
しかし悪に染まった世界で正義の火などもはや蝋燭の火にも劣る。マリカは杖を手に言った。
「どうやらここまでのようね……スーパー・ジャスティス・ファイブ」
静かな声だが、そこには凶兆を含んでいた。彼女が杖を振るえばその背後に複数の『鏡』が姿を現す。
「さあ、私の世界に閉じ込めてあげる」
マリカの体が魔力包まれて闇に染まっていく。スーパー・ジャスティス・ファイブの絶体絶命の危機に彼は立ち上がった。
赤い、紅いヒーロースーツに身を包んだ男。顔のバイザーが半分壊れて、そこから燃えるような瞳が見えていた。
「俺たちは……決して負けない。仮に世界が悪に閉ざされていたとしても、俺たちはそれを振り払って見せる」
スーパー・ジャスティス・レッドは立ち上がり叫んだ。マリカは顎を上げてふふと笑う。それは嘲笑ではない、彼女の宿敵の姿を見てうれしさを僅かな、残酷な笑みの中に含んだ。
「それでこそ……私の宿敵ね……スーパー・ジャスティス・レッド……。なら来なさい。私を倒せるというのなら……その幻想は私の鏡には映らないわ」
片方の髪が目元を隠して艶やかに笑うマリカ。そしてスーパー・ジャスティス・レッドは叫んだ。
「みんな! 最後の力を俺に貸してくれ!! いくぞ、鏡の魔法使いマリ――」
――ジリリリリリリリ
やかましい音が頭に響く。さっきの景色はどこへやら、マリカこと柊 みかんは目を覚ました。彼女は何度か瞬きをして目の前のことをだんだんと理解していく。
見慣れた天井、要するに自室の白いそれ。そしてあったかい布団と柔らかいベッド。彼女は傍でまだ鳴っている目覚まし時計をたたいて止めた。それから体を伸ばす。体を包むパジャマの温かさを感じる。
寝ぼけた瞳で部屋を見回す。当然だが見慣れた場所だった。荒廃とかはしてない。
朝日が窓の外、カーテンの隙間から差し込んでくるよい朝。みかんはそれを見て気持ち良さを感じながら片手を額に当てて、心底がっかりしたというより絶望的な表情で言った。
「……夢かぁ……」
朝から何とも言えない気分をみかんは味わった。
☆
「おっ、みかんにゃ」
学校のお昼休みに栗原 玲央ことレオは大きなあくびをした。シャツの首元を少し緩めている彼女。胸元のリボンも少し緩い。彼女はその上から制服のブレザーを着ていた。
そしていつもと違うのは赤い縁のメガネをかけている。伊達メガネだった。
手にあるのは彼女のスマートフォン。画面にはRhineに映る同僚の魔の四天王であるみかんからのメッセージ。レオは今、学校の図書室にいた。しんとした室内で学生たちがそれぞれ本を読んでいる。
図書室としていいのかはわからないが日当たりのいい場所だった。レオはお昼休みになるとここで昼寝をしている。彼女は学校で図書委員をやっている。
『最近私たちは悪の行為をしてないから相談がある』
「ふーん」
真面目なRhineを送ってきた相手にどうやってからかってやろうかとレオは考えた。既に宣言しているがレオはみかんと一緒には悪事をするつもりがない。間違いなくとんでもないトラブルに巻き込まれるからである。レオは少し考えて送った。
彼女たちは言葉をSNSで重ねる。
『じゃあ、今から学校を早退して会議するにゃ』
『そ、早退はしなくても』
『いやいや、悪は急げにゃ』
『放課後でも(汗の絵文字)』
『もしかして学校を休むことを気にしているかにゃ~ 悪の四天王なのに~』
『違うけど!』
図書室ですごく悪い顔をしながらレオはRhineを打ち込む。画面の向こう側でみかんがどんな顔をしているのか想像できている。
「はー。そもそもこんなこと気にする時点で悪に向いてないにゃ~」
レオは身もふたもないことをいってみかんのRhineを既読スルーする。いい気分で昼寝をしていた後にちょうどよくおもちゃ(みかん) が連絡をしてきて楽しかった。ネコ科の動物のようにレオはじゃれつくのだが残酷な面がある
お昼休みはもう少しある。もうひと眠りするかとレオは考えてたが、ふと思い立ってやめた。彼女は一人ごとを言う。額に手を当ててきつそうにする。
「うう、これは熱が54度くらいあるにゃ。早退しよ」
言った後にケロッとして図書室を出ていく。
☆
学校の階段の踊り場でみかんは怒っていた。
「あ、あいつ、既読無視している……!」
ここは彼女の学校。レオとは当然別の場所だった。今朝の何とも言えない夢を見てからなんとなく最近の四天王は全然活動できないことをみかんは深く反省した。反省したといっても基本的に活動ができなくなったのは彼女が悪いのである。
「あ、あー。それにしても私はいつになったらスーパー・ジャスティス・ファイブと戦うことができるのよ……」
彼女がスーパー・ジャスティス・ファイブと対峙したのは過去に一度である。その時に消すことのできないとんでもないミスをしたことにより散々振り回されることになつた。その恨みは犯人に右ストレートで返したが結局はネットの海に彼女の過去はある。
「あー」
しゃがんで頭を抱えるみかん。思い出すだけで恥ずかしい。ただあまりそこにいるわけにもいかない。気を取り直してクールな表情を作って階段を下りていく。外見だけであれば日の光を体に浴びながら階段を下りるだけで絵になる少女だが、人間は中身である。
みかんはそれから午後の授業に出て下校する。オレンジ色の夕日の中を彼女は家路につく。信じれないほどの穏やかな日常の中で駅から自転車で帰る。
最近は様々な事件が積み重なって忙しかった。事実として忙しかったということもあるが感情が忙しかった気がした。みかんはそんなことを思いながらゆっくりと自転車をこいだ。
ゆっくりと緩やかな坂を下る。そんなゆったりした時だから思ってしまう。
(私は、『鏡の魔法使い マリカ』それはこれからも変わらない……。今回のサンのこともいろいろとあったけど、私は悪を選んだ)
彼女は一人で思う。今日の夢、正義の味方と戦う自分の姿。
(でも、もしも『あの日』に戻ることができたら私は……悪をもう一度選ぶのかな)
『あの日』。みかんが『鏡の魔法使い マリカ』であることを選んだ日のことだった。
そのとき不意に自転車の横を女の子が走っていく。その姿がなんとなくあの日のみかんに似ている気がして、自転車を止めてみかんは振り返る。
名も知らない少女がどこかに走っていく。ランドセルを背負っているからには近くの子供だろう。
みかんからはその表情は見えない。なんとなく彼女は寂しい気持ちがした。それでも過ぎ去って、遠ざかっていく少女を呼び止めることはもうできない。ただみかんはもう一度前を見た。
「私は、私」
もう一度ペダルを踏んで前に行こうとして、足を踏み外してみかんは慌てる。だけどしっかりハンドルをつかんでもう一度ちゃんと踏み出した。ただその時彼女のポケットでスマートフォンが音を出した。アプリの電話だった。
画面にはレオの文字があった。みかんは画面をしぶい顔で見て、電話に出る。
「はい」
『あっ、みかん。今から出て来れるにゃ』
「はあ? あんた私のことを昼に無視しておきながら」
『ちょっと準備してただけにゃ』
「準備?」
『みかんが会議したいって言ってたにゃ。だから早退してザングルゴール皇帝に会ってきてもらったにゃ。みかんがどうしてもっていうから焼肉にみんなで行くにゃ』
「はあ!? 焼肉!? 会議は!?」
『食べながらやればいいにゃ~、四天王はバオウが東北地方に行っていないからゴウエンとセレニコも来るらしいにゃ。あとこの前みかんが殴り倒したって子も』
「……っ!」
レオの言う『殴り倒した子』というのはみかんがアルバイトの休憩時間にたまたま体を伸ばしたら手が当たって殴り飛ばす形になった白い髪の少女である。慌てて救急車載せたが病院で記憶喪失になっていることが分かった。
そのためセレニコの助手という形で悪の帝国で養われている。実は敵対組織から派遣された幹部であることは誰も知らない。本人も忘れていた。
「あの子も……」
『ということで場所を送るにゃ~。それじゃあ』
「あ、ちょっと、まって」
『ん?』
みかんはレオと話をしていたふと考えた。彼女は一度目をつむってもうゆっくりと明ける。
「あのさ、聞きたいことがあるんだけどレオ」
『なんにゃ』
「前にあんたのワールドエンドの中で……その、昔の……私の姿を出したでしょ?」
『あー』
「もしも私がまた出して、っていたら出せる?」
『…………』
かつてレオこと『幻惑のシャドウ』と『鏡の魔法使いマリカ』は戦った。その時にシャドウが生み出したあの日の自分の姿をみかんは思い出していた。レオは少しの間黙っていたが言った。
『あんなの僕が生み出したてきとうな姿にゃ~』
「……! あ、んた、人が真剣に」
『真剣だろうと、冗談だろうと過去なんてもう見に行くことはできないよみかん』
「……!」
『昔のことなんて忘れて、楽しく生きようにゃ~』
「……そんな簡単な」
『じゃあ、みかんに教えてあげるにゃ』
「なにを」
『自分からそんなことを言い出したみかんには昔のことなんて必要ないよ。……にゃ?』
レオの言葉にみかんは目を開いて何とも言えない顔をしてから、ふっと微笑んだ。
「……それで、焼肉って結構いいところいくの?」
『もちろん! 僕がちゃーんとみかんが焼肉を食べたいっていいながら地面で駄々をこねていたって皇帝陛下に訴えてあげたにゃ!!』
「ふ、ふざけんなっ! もー!!」
『あははは。あ、あとみかんもう一つ相談があるんだけど』
「なによ!」
『サンとかも誘った方がいいのかにゃ?』
「い、いや、来ないでしょ」
ただみかんは少しだけ考えていった。
「まあ、好きにすれば?」
それだけ言った。
おまけはあとひとつだけストーリーがあるから書くかもしれないし、書かないかもしれない! ありがとうございました。
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