太陽と月の食卓   作:AIすげーってなってる人

7 / 8
琥珀鳥と、守るべきもの

 森に入った瞬間、光が変わった。

 

 木々の葉が陽光を受けて緑に輝き、その隙間から差し込む光が地面に複雑な模様を作っている。足元に積もった落ち葉がふかふかと沈み、奥へ進むほど空気が澄んでいった。

 

「静かな森だな」

 

アポロが言った。

 

「琥珀鳥の生息地だから」

 

セレナは周囲を見回しながら言った。

 

「むやみに騒がしくしてはいけない場所なんだって」

 

 アポロは頷いた。旅蜘蛛を腰に巻き直し、足音を抑えて歩く。

 

 しばらく進むと、開けた場所に出た。

 

 池があった。水面が鏡のように静かで、周囲の木々が逆さまに映り込んでいる。その池のほとりに、数羽の鳥がいた。

 

 琥珀鳥だった。

 

 体はハクチョウほどの大きさで、全身の羽が琥珀色に輝いていた。光の角度によって、金にも橙にも見える。水辺をゆったりと歩く姿は、まるで時間がゆっくり流れているようだった。

 

「きれい……」

 

セレナが息を呑んだ。

 

 アポロも黙って見ていた。こういう生き物が世界にいる、ということが、なんだか不思議だった。食べたら美味いのだろうと思った。同時に、食べたいとは思わなかった。ただ、ここにいてほしいと思った。

 

 琥珀鳥の一羽がこちらを向いた。丸い目がアポロを見た。怯えていなかった。ただ静かに、こちらを確認するように見て、また水辺に視線を戻した。

 

「人を怖がらないんだな」

 

アポロが小声で言った。

 

「昔は人間と共存してたって聞いたことがある」

 

セレナも小声で答えた。

 

「乱獲される前は、人里近くにも普通にいたって」

 

 アポロはその言葉を聞いて、少し表情を引き締めた。

 

 そのときだった。

 

 森の奥から、騒がしい音が響いてきた。

 

 バタバタと羽ばたく音、甲高い鳴き声、それから複数の人間の声。

 

 琥珀鳥たちが一斉に首を上げた。

 

 アポロとセレナは顔を見合わせた。

 

「行こう」

 

 

 

 駆けつけると、木々の間に五人の男たちがいた。

 

 大柄な男、細身の男、中肉中背の男が三人。全員が動きやすそうな暗い色の服を着て、腰に銃を下げていた。彼らの前には大きな鉄の檻が三つ置かれ、そのうちの一つにすでに琥珀鳥が二羽、押し込められていた。羽をばたつかせ、甲高く鳴き続けている。

 

「傷つけるなよ」

 

大柄な男が言った。

 

「羽に傷がついたら価値が落ちる。丁寧に扱え」

 

 アポロは茂みから飛び出した。

 

「やめろ」

 

 男たちが振り返った。

 

「琥珀鳥は国際指定保護動物だ」

 

アポロは真っすぐ男たちを見た。声は低く、しかしはっきりしていた。

 

「今すぐその手を離せ。檻を開けろ」

 

 大柄な男がアポロを見た。値踏みするような目だった。

 

「なんだ、旅人か。運が悪かったな、見られちまった」

 

 男が顎をしゃくった。合図だった。

 

 細身の男が銃を抜いた。

 

 引き金が引かれるより早く、旅蜘蛛が空を走った。

 

 銃口に絡みついたロープが、そのまま銃を弾き飛ばした。乾いた音がして、銃が地面に落ちた。細身の男が目を丸くした。

 

「銃を持ち出すとは」

 

アポロは旅蜘蛛を手繰り寄せながら言った。

 

「本気でやるつもりか。いいぞ、こっちも本気でやる」

 

 男たちが一斉に動いた。

 

 大柄な男が正面から突っ込んでくる。アポロは半歩ずれてその腕をかわし、背中に手刀を入れた。どしんと地面に倒れる。残りの四人が囲もうとした。

 

 旅蜘蛛を投げた。ロープが弧を描いて一人の足首に絡みつき、そのまま引いて転ばせる。倒れた体が別の一人にぶつかり、二人がもつれるように崩れた。その隙にアポロが踏み込み、立っていた一人の胸に一撃を入れた。

 

 残る一人が銃を抜こうとした。

 

 そのとき、セレナが動いていた。

 

 男の背後から素早く回り込み、銃を持つ手首を両手でつかんだ。関節を逆に取る、護身術の動き。男が痛みで手を離した瞬間、銃がセレナの手に収まった。

 

「これは預かります」

 

セレナは静かに言った。

 

 最後の一人がアポロを見て、それからセレナを見て、観念したように両手を上げた。

 

 静寂が戻った。

 

 アポロは旅蜘蛛で五人をまとめて縛り上げた。男たちは地面に座り込んで、黙っていた。

 

「強い……」

 

細身の男が呟いた。

 

「美食屋だからな」

 

アポロはあっさり言った。

 

「それより」

 

 アポロは檻に歩み寄った。

 

 中の二羽の琥珀鳥が、まだ激しく羽をばたつかせていた。怯えている。アポロは檻の前にしゃがみ込んで、ゆっくりと扉を開けた。

 

「出ていいぞ」

 

 琥珀鳥たちはしばらく動かなかった。アポロは動かずに待った。

 

 やがて一羽が、おずおずと外に出た。もう一羽も続いた。二羽は少し離れた場所に立って、アポロを見た。

 

「行け」アポロは言った。「もう大丈夫だ」

 

 二羽は羽ばたいて、森の奥へ消えていった。

 

 

 

 グルメフォンを取り出したのはセレナだった。

 

「持ってたの?」

 

アポロが言った。

 

「あなたが持ち歩かないから、私が持ってる」

 

「そうだったか」

 

 セレナはグルメ警察に通報した。場所を伝え、状況を伝え、通話を終えた。

 

 縛られた男たちは黙ったままだった。大柄な男が、くぐもった声で言った。

 

「……お前ら、なんで止めた。美食屋なら琥珀鳥の価値くらい分かるだろ。俺たちと組めば」

 

「黙れ」

 

アポロは静かに言った。怒鳴らなかった。ただ、はっきりと言った。

 

「美食屋は食材に敬意を払う。食べもしないのに、生き物を金のために乱獲するやつと、一緒にするな」

 

 男は黙った。

 

 セレナがアポロの隣に立った。二人で並んで、森を見ていた。

 

「琥珀鳥、怪我してなかったらいいね」

 

セレナが言った。

 

「してなかったと思う」

 

アポロは言った。

 

「傷つけるなって言ってたから、連中も慎重に扱ってた。皮肉な話だけど」

 

「うん」

 

 しばらくして、遠くからエンジンの音が聞こえてきた。グルメ警察の車両だった。

 

 

 

 引き渡しを終えたのは、一時間ほど後だった。

 

 担当のグルメ警察官はアポロとセレナに礼を言い、男たちを連行して去った。森が静かになった。

 

 アポロは大きく伸びをした。

 

「さて、行くか」

 

 そのとき、足元で何かが動いた。

 

 見下ろすと、琥珀鳥がいた。先ほど助けた二羽のうちの一羽だろうか。丸い目でアポロを見上げていた。

 

「お前……戻ってきたのか」

 

 琥珀鳥はグワッと一声鳴いた。それから、自分のくちばしを羽に差し込んだ。丁寧に、一枚の羽を引き抜いた。琥珀色に輝く、美しい羽だった。

 

 それをアポロの足元に、そっと置いた。

 

 アポロは膝をついて、羽を拾い上げた。手のひらに乗せると、光を受けて金色に輝いた。

 

「……羽でお礼か」

 

アポロは小さく笑った。

 

「自分の価値がよく分かってるんだな」

 

 琥珀鳥はもう一度グワッと鳴いて、今度はセレナの足元にも一枚羽を置いた。それから羽を広げ、空へ舞い上がった。木々の上を旋回して、森の奥へと消えていった。

 

 セレナも羽を拾い上げた。光の中でそれをかざすと、琥珀色が橙に、橙が金に変わった。

 

「きれい」

 

セレナが言った。

 

「ああ」

 

アポロは自分の羽を見た。

 

「食べるより、ずっといいな」

 

 セレナはアポロを見た。

 

「そう思う?」

 

「思う」

 

アポロは立ち上がった。

 

「生きてる方が、こいつには似合ってる」

 

 二人は羽を大切にしまって、森を歩き始めた。

 

 木漏れ日の中を、琥珀色の光が揺れていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。