推しを作ってはいけないと言われる異能力バトルモノの世界に無能力者として転生した(絶望) 作:聖成 家康
メシアは彼の前から姿を消した。杖をついて歩いていた筈の彼女の姿は、瞬きする間に見えなくなった。今更驚きはしない。
メシアという強大な脅威が居なくなった途端、エサを求めて大量の魔生物が飛び出て来る。
その姿をいちいち揶揄していられない。どれも異形だ。虫のようなやつ、魚のようなやつと色々である。
「"ヨハネ流・祝力"……"十身"!」
己の内側から溢れ出すAEを、全身に纏わせた。
アニメなどで必殺技名を口にするのは単なる演出と思っていたが、こうしてその立場になってみると口に出さないと技を出すイメージがしづらいというのが分かった。
肉体強化、そして強化された脚力による奴らが一斉攻撃を仕掛ける地点からの脱出。その間僅か一秒以内。
空へ舞い上がったアルメンは、一度鞘に納めた剣にありったけのAEを込める。
「"ヨハネ流・祝放"、"十砲"!」
刹那、抜刀された刃から放たれる大気を裂くAEの放出。斬撃を模されたその波動は、それだけで四体の魔生物を仕留めた。
つい、また技名を口にしてしまう。アドレナリンとやらがそうさせているに違いない。
着地。
地に足がついた獲物を逃す馬鹿は魔生物にはいない。すかさず飛びかかる化物ども。
「"十砲"……!」
鼻先にえげつない匂いを感じるまでギリギリまでひきつけ、残撃破で退路を切り開く。
三体仕留めた。されど、パッと見で十五体は残っている。
再び飛翔し、"十砲"の構えを取る。
AE操技には様々な流派がある。基本はメシアが言ったように放出、強化、模倣の三つ。しかし、そのやり方は流派により異なる。
ヨハネ流は彼女独自のAE操技。総じて、敵をひきつけ、一気に仕留める一対多を想定したものだ。
故に、命の駆け引きを強いられる。
基本に忠実、しかし忠実になりすぎてはならない。
目の前に突然現れた犬型魔生物。先程までは数メートルは離れていた――おそらくはそれ自体が持つ魔術。
攻撃される前に、AEを纏わせた刃で貫いた。
次々に襲い来る魔生物。引きつけて戦っていた先程までとは打って変わり、攻めの姿勢に入る。
AEを纏う刃で、一体、二体と斬り伏せていく。
特に苦戦もせず、残り一体まで減らせた。
だがこの一体が厄介だった。
(あの犬の魔術かと思ったが、こいつのだったか)
その魔生物――カエルに見える――は、瞬きするたびにこちらを惑わせてくるように位置が変わっている。目まぐるしいとはまさにこのことか。
相手の瞬きをトリガーに瞬間移動できる、もしくはさせられる魔術だと推測する。
「わかったところで、瞬きせずって言うわけにもいかないしな」
軽口を叩いてみる。
よく考えれば、ヨハネ流との相性は良い。瞬きがトリガーである以上、タイミングはこちらで合わせられる。
息が荒くなる。
自らに落ち着くように言い聞かせた。利はこちらにある。落ち着きさえすれば難なく勝てる相手なのだ。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
荒くなった呼吸は止まらない。
瞬きは自然と増える。生理現象だ。仕方のないこと。しかし、敵の魔術はそれに漬け込んだ最低最悪の能力。
あっという間に距離を詰められ、カエルが目前まで迫る。
脇腹に蹴りを叩き込まれ、なんとか肉体強化が間に合ったものの、大きくふっ飛ばされるだけのダメージは受けてしまう。
すかさず受け身を取るも、地面を刹那の間転がり、攻撃の準備が遅れる。
カエルは頭上に出現し、その巨体を存分に活かして踏み潰そうとした。
寸前で避けることができたが、また無計画に瞬きをしてしまい、今度は腹に諸に蹴りを受ける。
(有利なんだぞ……!? 何をやってんだ!!)
感情が乱れる。
一体何を力に変えればいいのか、一切分からなくなった。
――これか。
メシアが言っていた感情が分からなくなる、とは。
感情を石炭や石油のようなものとして捉えているからか、ごちゃごちゃになったとき区別がつかなくなる。
だから、一つでいい。魔術師が戦いの中で抱く感情、想いは。
「俺は死なない……!! 二回目は死に方くらい選びたいっ!!」
情けなく叫ぶ。
されど、それで乱れていたAEが安定した。
目をかっ開き、眼が乾きに飢えるほど相手を執拗に捉える。
「"ヨハネ流・祝放"……」
遠くでニヤけるカエルが粉微塵になる未来を想像し、そのままに目を閉じた。刹那の静寂、再び目蓋を開くと同時に刃を振るう。
「"十砲"!!」
最早斬撃波ではなく、ただの斬撃に近しい。
それくらい、敵は彼の鼻先まで迫っていたのだ。
されど、至近距離でそれに晒された魔生物が耐えられるはずもなく、体液を撒き散らしながら消滅した。
魔生物の気配が消え失せ、安堵した彼は膝から崩れ落ちながら得物を鞘に納めた。
「し、死ぬかと思ったァァ……! 怖かったぁ……!」
メシアがいないうちに泣き言を吐く。
「怖かったねぇ」
遅かった。
いつの間にか現れたメシアが、跪く彼に微笑みを手向けていた。
「二週間でここまでとは、上出来だ。今日までを“死にたくない”一心で、いわば恐怖で生き抜いてきた魔術師は初めて見たよ。いやはや、立派立派」
拍手代わりに杖を地面を小突く。
「でもまだ、君の“十追”を見せてもらっていないな」
白髪の麓から見せる一瞥は、ひどい圧迫感を覚えずにはいられなかった。
それはつまり、シミラムで"彼女の魔術を真似てみろ"ということ。
「……あぁ、そっか。まだ改めて見せたことはなかったね」
メシアがそう言って指を鳴らす。すると、彼女からAEが一切感じられなくなり、馬鹿でかい魔生物の気配が近づいてくる。
廃屋を突き破って現れた大型の魔生物。ヒトが何人も混ぜ合わされたようなその異形を前に、彼女は臆することなく手を翳した。
「"握"」
手を握り、ぼそ、と呟く。
次の瞬間、その魔生物の中心部が渦巻のように捻じれ、あっという間に収縮し、飛散する。
息を呑む暇もない一撃に、アルメンは改めて度肝を抜かれた。
「"魂心坦懐"。私の魔術。対象の魂というふわっとした概念を勝手に現実のものにして攻撃できる。今のはあの子の魂にありったけのAEを込めてあげたの」
数多の能力が登場する作中でもこれを超える能力が出たかと問われれば首を傾げずにはいられない。
これを魔術なしで、AE操技だけで模倣しろというのだ。
顔に出ていたのだろうか、メシアが笑いながら指摘してくる。
「なにか勘違いしてるようだけど、"シミラム"は魔術の完全模倣ではないよ。それだったら魔術なしなんてこの世にいないでしょう?」
跪いていた彼に手を差し伸べ、立ち上がらせながら彼女は先生モードに突入する。完全に理科の授業だが、彼女の説明は不思議と眠くはならない。
「君がやってるのは大砲の弾を砲丸投げで扱うこと、魔術持ちがやってるのは大砲の弾を大砲に込めて発射すること……つまり魔術の要とは弾薬となるAEなんだ。"シミラム"の肝は、相手の魔術におけるAE出力を模倣し即席でそれに対する防御体制を作ることだよ」
それができないと言っているんだ、と内心でツッコミを入れる。
彼女のAE出力方法は一切理解ができない。まずまず、あれを喰らう立場から考えれば一目瞭然だ。魂という存在し得なかった概念を突然体内に作られ、そこに攻撃を仕掛けられる……それを防げなど無理難題だ。
「まぁ、私の魔術をシミラムしろというのは最終目的ね。もっと単純なものからやっていってみよう。多くの魔術師が一番蔑ろにしがちな部分を極めれば、君は強くなれるよ。多分」
◇
彼女には秘密がある。
一人身であそこまで広い家に住んでいるわけではない。あの家には彼女以外にたくさんの住民がいる。
「紹介しよう。私の家族の一人 ウィシュだよ」
初めて足を踏み入れた玄関から三部屋以外の部屋。
そこで出会ったのは長身で赤髪の男。白いチェスターコートを羽織る、情熱的な色味ながら冷たさを感じる外見だ。
「姉貴、これが例の?」
「そう、例の」
ウィシュは、品定めするようにじっと赤い瞳を向けてくる。
「まぁ、君にはもう教えてもいいと思って……彼は私の能力でなんやかんやして
"魔法人形"。この作品において重要な存在だ。
彼女の言う「なんやかんや」というのは、魂心坦懐による魂の把握から成る作業のことだろうと考察していたが、結局原作ではまだ明かされてはいなかった気がする。
「この子達はね私のAEから作られていながら、私とは全く違った魔術を持ってるんだ。君のいい練習相手になると思ってね」
メシアの目配せで、ウィシュは一歩前に出る。
近づかれると流石の威圧感があった。長身で細身と思っていたが想像より筋肉質で、何より顔が良い。彼女の趣味だろうか。原作以上の美貌だ。
「アルメンと言ったな。手合わせをしてやる」
「……よ、よろしく頼みます」
原作での彼の強さを知っているとつい尻込みをしてしまうが、これも生き抜くために必要と考えれば飲み込める。