原作キャラの言動を再現するのが1番むずかしい…
空が割れる。そんな幻想を覚えさせるほどの高さに、その建物はあった。
天空闘技場——世界第4位の高さを誇るタワー。
地上251階建て、高さにして991メートルを超える巨塔だ。エレベーターの窓から見下ろせば、遥か下方に広がる街並みが霞に溶けてゆく。上を仰げば、塔の頂はまだ雲の向こうに隠れている錯覚すら覚える。
その塔の受付ロビー、長い列の末尾近くに、一人の青年が立っていた。
年齢は18。名をカイウス=ケイランという。線の細い体躯だが、着古したコートの下に宿る静けさは、ただの細さではなかった。嵐の前の海面がそうであるように——表層の凪が、底に秘めた力の深さを逆に際立たせる種の静けさだ。
列が少しずつ進む中、カイウスは手の甲をぼんやりと見つめていた。何かを考えているようで、何も考えていないようにも見えた。
受付カウンターの向こうでは、職員が書類を捌いている。並んでいる挑戦者たちの中には、肩で風を切るような大男も、切れ長の目をした女も、まだあどけなさの残る子どもの姿もあった。世界中から強さを持つ者たちが集まる場所。それがここだ。
(来てしまった)
カイウスは目を閉じる。
(答えを探しに、俺はここへ来た)
強さとは何のためにあるのか。その問いを抱えて、彼は旅に出た。正確に言えば、問いが彼を旅へ追い出した。
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一階から始まる試合は、カイウスにとって呼吸を整えるための時間だった。
相手が念を使えば丁寧に対処し、使えなければ最小限の力で制する。この塔の下層において、念を扱える者はごく僅かだ。百人に一人いるかどうか——それくらいの比率で、稀に本物が混じっている。そういう相手とだけ、カイウスはわずかに真剣になった。
初日で70階。
2日で100階。
3日目には140階に到達した。
勝率は十割。
観客席から「あの選手は誰だ」という声が聞こえてくるようになったのは、100階を超えた頃からだった。カイウスが試合で見せるのは、終始無表情のまま放たれる「解」の一撃だけだ。不可視の斬撃が相手の防御を切り裂き、試合が終わる。それだけだった。
「まるで剃刀みたいだ」と、誰かが言った。
「いや、あれは——見えてないのか?」と、念の扱える観客が目を細めながら答えた。
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140階の試合控え室。
カイウスがストレッチをしていると、隣のブロックから爆発音に似た衝撃音が聞こえてきた。
——念、か。
壁越しでも伝わってくる、あの独特の圧。誰かが本格的な念能力を行使している。
カイウスは動きを止め、耳をそばだてた。
荒々しいが、真っすぐな念だ。技巧よりも、根っこにある何かの純粋さが前面に出ている。密度は低くない。年齢を考えると、おそらくまだ若い——
下層でこれほどの念使いに出会うのは珍しい。カイウスは再びストレッチを再開した。今は関係ない。
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その日の試合相手は、両手に巨大な鉄拳グローブのような念を纏わせた強化系の使い手だった。
「一目でお前の系統は分かった。放出系だろう。遠距離からオーラを撃ってくるだけだ。俺の守りは崩せない」
男は自信満々に言った。実際、彼の防御は厚かった。オーラを装甲のように固め、全身を覆う流。正攻法で殴りかかっても、よほどの攻撃力がなければ弾かれるだろう。
カイウスは答えなかった。
開始の合図とともに、男が踏み込んでくる。カイウスは半歩引きながら、右手の人差し指と中指をわずかに揃えた。
——指を、弾く。
音はなかった。男の動きが止まる。
右肩から左脇腹にかけて、斜め一線に走った何かの跡。男の纏っていたオーラが、そこだけ断ち切られたように散っていた。
「な……何が……」
「見えなかっただろう」
カイウスは静かに言った。
「「解」という発だ。お前が言った通り、オーラを刃として放つだけの単純な能力だが――お前の守りを剥がすには一撃で十分だったようだ」
男は膝をついた。大量のオーラを一点集中で断たれた精神的ショックは、肉体的なダメージ以上に大きい。
試合終了。
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150階を超えると、闘技場の空気が変わった。
とはいえ、念能力者の絶対数は依然として少ない。それでも対戦相手の質は着実に上がっており、念なしの純粋な格闘技術で頂点に近い者、あるいは念の素養はないが天賦の才で壁を破ろうとする者——様々な形の「強さ」がこの高みに集まっていた。
カイウスはそれらと向き合うたび、奇妙な感覚に捕らわれた。満たされない。
相手を倒せる。それは分かる。師から叩き込まれた技術も、十数年で積み上げてきたオーラ量も、「解」の切れ味も——全部が正常に機能している。
なのに、何かが足りない。目的、だろうか。力を振るう理由、と言い換えてもいい。
(俺はなんのために戦っているんだろう)
それは、旅を始めた日から続く問いだった。
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170階の試合を終えた夜、カイウスは眠れなかった。
部屋に戻る気にもなれず、人気の失せた深夜の通路を当てもなく歩いていた。蛍光灯が低くハム音を立てている。遠くから換気扇の唸りが聞こえる。昼間の喧騒が嘘のように、塔の内部は静まり返っていた。
(強い。この場所には確かに強い人間がいる。それでも、俺の問いには誰も答えてくれない)
角を曲がったとき——。「眠れないのかい?」
声が降ってきた。壁に背を預けて立っていたのは、長身の男だった。
化粧のような白塗りの肌。道化を思わせる衣装。飄々とした佇まいだが——全身から滲み出す念の圧は、カイウスがこれまで感じたどんな相手のものとも異なっていた。
毛穴が開く感覚。本能が、警告を発する。
(こいつは……別格だ)
「ヒソカ=モロウか」
カイウスはその名を知っていた。親父から聞いていたし、入場以来の戦績も把握していた。天空闘技場の実質的な頂点に君臨する男。近づくべきではない炎の類だと、理性は告げていた。
男——ヒソカは唇の端を吊り上げた。
「知ってるんだ♠ 光栄だねえ。でもボクも君のことを知ってるよ。今まで無敗、一度もまともな傷を負わず……あの『見えない斬撃』。あれは面白い♣︎」
「何の用だ」
「用、かぁ」ヒソカは肩をすくめた。「深夜の通路を一人で歩く強者には声をかけたくなる——それだけだよ❤︎」
人気のない通路に、沈黙が落ちた。換気扇の唸りだけが続く。
カイウスはヒソカから目を逸らさなかった。逸らせなかった、と言う方が正確だ。この男から目を離すことは、崖の縁で足元から目を離すことに等しい。
間合いも、背後への注意も、何もかも一瞬たりとも気が抜けない——それほどの密度が、この男の周囲には満ちていた。
「一つ聞いていいか」
カイウスが言うと、ヒソカは楽しそうに首を傾けた。
「お前は、なんのために戦うんだ」
しばらく間があった。それからヒソカは、低く笑った。
「なんのために、ねえ」彼は蛍光灯を仰ぐ。
「ボクは戦いそのものが好きなんだ。強い相手を見つけて、ぶつかって、そしてグチャグチャにする——その瞬間のためだけに生きてるようなものだよ♦」
「……それで、十分なのか」
「十分かどうかは関係ないよ❤︎」
ヒソカは真っすぐにカイウスを見た。蛍光灯の白い光の中で、その瞳だけが奇妙に温度を持っていた。「君はまだ、自分の答えを探してるんだね」
答えられなかった。
ヒソカは踵を返した。
「楽しみにしてるよ♦そのとき君の『見えない斬撃』が今より鋭ければ、相手してあげてもいいよ♣︎」
長身が暗い通路の奥へ消えていく。足音はなかった。まるで最初から誰もいなかったかのように、静寂だけが残った。
カイウスは一人、蛍光灯のハム音の中に立ち尽くし、拳を握る。
(答えを、探せ)
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180階を越えた頃には念能力者との試合も増えた。それでもカイウスは止まらなかった。
196階。197階。198階。
199階を勝ち抜いたとき、眼下の全てが霞に沈んでいた。ここまで来ると地上の音は届かず、風の声だけが塔の外壁をかすかに撫でている。
そして——200階。
エレベーターの扉が開いた瞬間、カイウスは無意識に足を止めた。
空気が違う。
濃い、という言い方が正確かもしれない。念の気配とも少し違う——この階に集まる者たちの、総体としての「圧」だ。199階以下とは明らかに異質な何かが、この空間には漂っていた。
(ここが、200階か)
カイウスは一度目を閉じ、「絶」を深く固め直した。オーラを完全に内側へ収める。自分の存在を、できる限り薄く——。
登録窓口へ向かって廊下を歩き始めたその時だった。前方から、二人分の足音が近づいてくる。
——念の気配。
カイウスは足を止めなかったが、感覚を鋭くした。片方は荒削りだが真っすぐな、記憶にある念だ。以前、140階の控え室の壁越しに感じたものと似ている。もう片方は、より洗練されていて鋭い。
(あの時の念か……)
廊下の角を曲がったところで、二人と正面から向き合う形になった。黒髪の少年と、銀髪の少年。
黒髪の方——ゴンが、数歩手前でぴたりと立ち止まった。目を見開いて、カイウスを見ている。
「……っ」
次いで銀髪——キルアも足を止めた。カイウスへ鋭い視線を向け、わずかに体重を後ろへ移す。警戒だ。本能的な、獣の警戒。
カイウスは「絶」を固めたままだ。オーラは外に出ていない。なのに——
「ねえ」
先に口を開いたのはゴンだった。声は上ずっていた。興奮を隠しきれていない。
「あなた……カイウス=ケイランさん、ですか」
カイウスは少し眉を上げた。
「……知っているのか」
「ズシが言ってた!強い人がいるって」
「……見えない斬撃を使う無敗の奴な」
ズシ——少し考えて、カイウスは思い当たった。130階で戦った少年だ。真面目な念の使い方をする子どもで、丁寧に相手をした記憶がある。あの子がこの子たちと知り合いだったのか。
「そうか」
短く答えると、キルアが口を開いた。
「絶、やってるだろ。なのに——」
彼は言葉を選ぶように少し間を置いた。
「なんていうか、戦闘の気配っていうの?そういうのが漏れ出てる感じがする
」
カイウスは目を細めた。
「絶」は完璧なはずだった。オーラは外に漏れていない。殺気を向けてもいない。それでもこのキルアという少年には——内から滲む何かを感じ取られている。
(ここまで見える子どもがいるとは)
「……鋭いな」
率直に言うと、キルアはわずかに目を丸くした。それからどこか不服そうな顔で視線を逸らす。照れているのかもしれない。
「俺はゴン=フリークス。よろしくね!」
ゴンは快活に笑った。そのあまりの軽さが少し可笑しくて——カイウスは自分でも気づかないうちに、口の端をわずかに動かした。
「カイウス=ケイランだ。二人も200階に登録しに来たのか」
「試合の予約をしに来たんです。」
「……そうか。俺はこれから登録だ」
「じゃあ一緒に行く?」とゴンが言いかけたのを、キルアが肘でつついた。「邪魔すんなよ」と小声で言っているのが聞こえた。
「構わない」
カイウスが言うと、ゴンの顔がぱっと明るくなった。三人並んで廊下を歩く。
少し沈黙があって、ゴンが隣から話しかけてきた。
「カイウスさんは、なんで天空闘技場に来たの?」
「答えを探しに来た」
「答え?」
「力を、なんのために使うかという答えだ」
ゴンはきょとんとした顔でカイウスを見上げた。それから何かを考えるように宙を見て、またカイウスを見た。
「……難しいね」
「ああ」
「俺は」ゴンは少し照れくさそうに笑った。「強くなるために来たんだ。ヒソカってやつに返したい借りがあって」
「それだけ、か」
「シンプルでしょ」
シンプルだ、とカイウスは思った。そのシンプルさが羨ましいとも思った。自分には、そういう一点の迷いもない目的がまだない。
「キルアは?」
カイウスが聞くと、銀髪の少年は少し間を置いてから答えた。
「別に。強くなりたかったし……ゴンといると面白いし」
「それだけか」
「まぁね」
短い答えだったが、その短さの中に何か大切なものが凝縮されている気がして、カイウスはそれ以上聞かなかった。
登録窓口が見えてきた。カイウスは歩きながら、前を向いたまま言った。
「一つ聞いていいか」
「なになに?」とゴンが答える。
「お前たちはなんのために、強くなろうとしているんだ」
ゴンは少し首を傾げた。「なんのために?」
「そうだ」
「うーん……」
考え込む。この少年なら、自分の知らない何かを持っている気がした。
だがーー。
「親父に会いたいし、ヒソカにも勝ちたい!」
ゴンはあっさり言った。
「それだけか?」
思わず聞き返していた。
「うん」ゴンは不思議そうな顔をした。「だってそれ以外は思い浮かばないしなぁ」
まるで今日の昼飯の話でもするような口調だった。
「その父親には、強くならなきゃ会えないのか」
「分かんない」
「分からない?」
「でも、強い方が会える気がする」
ゴンは笑った。「だから強くなる」
カイウスは返事ができなかった。理屈ではない。信念ですらない。
ただ会いたいから会う。
ただ会いたいから強くなる。それだけだった。
なのに、その言葉は驚くほど迷いがなかった。
カイウスは何も言わなかった。理解ができなかった。
父親に会いたい、それだけの理由でここまで来たと彼は言う。しかしーー不思議とその言葉が頭から離れなかった。
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登録を終えたカイウスは、窓口を離れて一人になった。遠くにヒソカの姿が見える。広いフロアの端、壁に寄りかかって腕を組んでいる。こちらを見ているのか、見ていないのかも分からない。
ゴンとキルアは試合の詳細を確認するために別の窓口へ向かっていった。去り際にゴンが「また話しましょう!」と手を振った。
200階はまだ始まりに過ぎない。この先には、もっと広い世界がある。もっと強い人間がいる。もっと理不尽な現実がある。
(なんのために戦うか)
まだ答えは出ない。
でも——
父親に会いたいから、強くなれる気がする。あの少年は、そう言った。
右手を開き、カイウスはオーラを指先に集める。
「解」の斬撃は今この瞬間も、彼の意思ひとつで放てる。不可視の刃。削ぎ落とされた純粋な破壊の力。
その力を、何のために使うのか。答えが出るまで——戦い続けるしかない。カイウス=ケイランは、200階に立った。
オリ主が強いため、それに合わせてゴンとキルアの念の習得時間の繰り上げ(強化フラグ?)となっています
『解』
◯能力
斬撃状のオーラを放出する。
さらに「隠」を使用することで斬撃を不可視化し、相手から認識できなくする。
威力は込めたオーラ量に比例。
威力を上げるほど発射までのラグが増加する。
◯使用方法
指を弾く、手刀を振る、腕を振るなどの動作で発動可能。
◯特徴
・視認困難
・遠距離攻撃可能
・高速連射可能
・威力と発生速度の両立はできない
◯制約
なし(能力そのものはシンプルな放出系のため)