……やっぱり綺麗だな、この娘は………
試合の最中だというのに、
少女の一本芯が入ったような真っ直ぐな佇まいは程よく力が抜けており、隙の無い青眼の構えは竹刀の先端が正確に辻の左眼に向けられている。
対する辻は上段に竹刀を構えつつ、摺り足でじりじりと間合いを詰める。
この少女とやり合う時は受け身で挑んではならない、華奢な見た目に到底似合わぬ苛烈な攻めであっという間に叩き潰されるが故に。
既に数え切れない程行った試合で辻はそう悟っていた。
他の試合や練習では賑やかに声援を送る、世間一般では緩い、と称されるであろうこの麻帆良剣道部の部員達でも、この二人の試合は固唾を飲んで真剣に見守っている。
「…存外静かな立ち上がりね。部長がまた火の玉みたいに立ち上がりから突っかけると思ってたけど」
「ここん所の十数試合、攻めまくった挙句の面の制し合いで勝率悪かったからまた初心に立ち返って試行錯誤してんだろ、よくやらあな毎度毎度」
「まああの娘ホントに強いからねぇ。女子副部長のあたしの立場が無いなんてのは別に今さらだからいいんだけど、部長としては負け越してはいられないでしょ色んな意味で」
「まあなあ。部長としての立場の為にも意中のあの娘を振り向かせる為にも」
「ねぇ~そろそろいい加減あの真面目男女の甘酸っぱい所見て見たいわ~」
……一部を除いて、ではあるが。
そのやり取りが聞こえていた訳でもないだろうが傍目では緊迫した状況に苛立ったかのように少女が飛び出す。
流れるような滑らか且つ高速の踏み込みからの抜き胴の斬撃。
辻は瞬時に左足から下がり半身を引き気味に胴薙ぎを躱しざま引き面を放つ。
少女はそれを跳ねあげた竹刀で逸らし、小手の返しと体の捻りだけで高速の面打ちを返した。
踏み込んで受け、至近からの胴打ちに繋げる辻。
鍔元で受け、少女は引き小手を打ち返す。
互いに捌き、受け、打ち返す。
時折漏れる気合いの声と共に両者は高速の応酬を重ねる。
「お〜何時もながらすげえすげえ」
「相手が悪いだけで部長も本来なら大学部の主将相手に勝ち越せる腕前だからね、とはいえそろそろ…」
「イヤアアアアアァァァッ‼︎‼︎」
と、まさに次の瞬間、少女の振り抜いた胴薙ぎを打ち上げ、裂帛の気合いの声と共に辻は竹刀を大上段から振り下ろす。
パァァァァァァァン‼︎と竹刀が防具を打つ乾いた音が道場内に響き渡った。
「…一本‼︎」
審判の声が刹那、無音に包まれた道場の中を通り抜ける。
辻の面打ちは少女の左肩に打ち込まれており、少女の竹刀は打ち込まれるのと同時に辻の胴を薙いでいた。
数瞬の間動きを止めていた二人はどちらともなく動き出し、開始線にて蹲踞の後、竹刀を納める。
「…やられたな、これでこの所俺の五連敗か。やっぱり強いな、お前は」
「いえ、勝った側の私が言うのもおかしいですが、今日の辻部長の動きはここ最近で一番きれていると思います。今の試合もどちらが勝ってもおかしくはない域なのですから、あまりご自分を下に見られないで下さい」
面を外しながら幾分苦味の強い苦笑でそう告げる辻に、艶やかな黒髪の張り付いた顔をタオルで拭いながら、こちらは幾分緩い苦笑で少女が返す。
「生憎この様で腕前を誇れる程図太い精神はしていないさ。せめて二本に一本は取れるようにならないとな」
「…結果として白星の多い私がこれ以上言うのも嫌味でしょうから何も言いませんが…」
「解ってるよ、思いつめはしないさ。初めに負けが込んでた状況でそれでも挑み続けたんだ、そこら辺はもう割り切ってる」
「…挑戦は続くという事ですね」
「ああ、面倒だろうが付き合ってくれよ?」
そう言ってこの男にしては珍しく悪戯めいた顔を浮かべると少女は薄く笑って小さく頷く。
「…お二人さ〜ん、いちゃついてくれんのは個人的に大歓迎なんだけど内容が物騒だと思うんだ」
「たまには手合わせ以外でも話に華を下さいな、部長が悪いんですよ年頃の女の子に顔合わせては勝負勝負って」
穏やかな空気に割り込んだのは先程話していた男女の副部長二人、ちなみに付き合っている。似たようなにやにや笑いを浮かべつつちょっかいを出す。
「誰がいちゃついてるってんだ馬鹿の片割れ、人聞きの悪いことを言うな。そしてしょうがないだろうもう片方、毎日部活には来てくれないんだから」
「申し訳ありません、辻部長。私事なのですが普段はやることが…」
「ああ、いいんだいいんだ。責めるような言い方になって悪い、各々生きてて事情があるのなんて当たり前なんだから生活を優先するのは当然だ。大体こっちが無理を言って時間取らせてるんだ、文句なんて欠片もないよ」
「あ〜あ、後輩には甘いんだからねぇ辻部長は。それとも相手がこの娘だからかなぁ〜ん?」
「いゃあ〜ん部長ったら!勝負しようなんて形でしかコミュニケーション取りにいけないなんて好きな子虐める小学生みたい‼︎」
「よーしお前らそこに直れ。話し込んでるばかりで部活に身が入ってないようじゃいけないからな、俺と一人十本勝負しよう」
「ちょっとちょっと部長煽り耐性低すぎ‼︎ただでさえ最近勝負になんないのにそんなやったら半殺しにされちまう、どうかお慈悲を‼︎」
「さっさと面を着けろ、お〜いそこのお前ら、出入口塞いどけ」
「「了解でーす」」
「ちょ、ガチだこの人‼︎た、助けて麗しき後輩剣道小町、部長を止められるのは貴女しか、」
「辻部長は腕が立つだけでなく指導も上手いので頑張って下さい、先輩」
「笑顔でスルーされた⁉︎こっちも何気に怒ってたし!」
「当たり前だこの馬鹿‼︎俺はどうでもいいが後輩にまで風評被害もたらすな、俺なんぞと一緒にされたら迷惑だろうがぁ‼︎」
「あ、いえ、そういう訳では…」
「皆まで言うなフォローなんて俺には必要ない。迷惑だったら迷惑だって言っていいんだぞ俺に気を使うな」
「「…はぁ〜〜〜〜〜……」」
「…何が言いたい、馬鹿ップル」
「いゃあ部長って普段あんだけ気が回るのになんでこっちの方面だけこうかなぁ〜って」
「むしろ気配り上手のお人好し生真面目男だからこそのこの有様じゃない?」
「よしもういい纏めて来いお前ら」
「ちょ、待った部長まだ俺防具着けて」
「剣道家として不意打ちってどうなん、っきゃあぁぁぁぁぁ⁉︎」
口の減らないお似合いカップルの頭部に仲良く竹刀が炸裂したのはそれからきっかり二十秒後のことだった。
「…しっかし俺ら叩きのめした後に五戦やらかすとか、うちの部長はバケモンだね、その一人に対するストーカー地味た執着性において」
「ついでにあれだけ叩きのめされてなお折れずに向かうメンタルもね。…はっ、もしかして部長ってマゾ」
「まだやられ足りないらしいなお前ら」
「「ごめんなさい」」
「…先輩方は本当に仲がいいですね……」
部活が終わり、部員達が帰り出す中相も変わらず騒ぐ一行に、少女は微かに微笑みながら告げる。
「なに言ってんの、当事者の一人なんだからそっちももっと絡んで来てよいつでも大歓迎だから」
「そうそう、個人的には部長と物理的に絡まってくれると私としてはおいしい、」
「黙ってろ得に女の方の馬鹿。…俺としてはこいつらと仲がいいとなんざ評されたくないんだかなぁ」
「出ました部長のツンデレ発言、そう言いながら毎回ツッコミをくれる部長マジヒロイン‼︎」
「べ、別にあんた達と仲良くしたいから機会を見つけては会話に加わってるわけじゃないんだから痛ったぁ⁉︎女の子の頭にグーパンは無いんじゃないの部長⁉︎」
「己が発言省みてから文句言え。キリが無いから解散だ解散。もう暗いんだから気をつけて帰れよ」
辻はそう促し剣道場の扉を施錠する。既に辺りに人は疎らで、闇に包まれる校舎周りは活気と変人に溢れる昼間と違い何処か物寂しい。
「じゃあ部長、また明日、女剣士ちゃんもまたね〜」
「あの、副部長。妙な呼び方はやめていただきたいのですが…」
「まあまあ気にすんな!じゃあ部長、俺らはこっちですんで後はお二人でごゆっくり…」
「死ね」
親指を人差し指と中指の間に入れたサインをこちらに向けながら妙にイイ笑顔を向ける副部長(男)に冷たく吐き捨て、辻と少女は学生寮へ続く小道へ歩き出す。
この二人、当然ながら帰る場所が同じな訳では無い。それぞれ男子寮と女子寮暮しであり二つの建物はまるきり別の方向なのだが、遅い時間まで付き合わせた時には必ず寮の近くまで送ることを自らに辻は義務付けていた。
少女は当初遠慮していたし、辻も実際初めは無理に行うことではないと辞退したのだ。しかしある事件から辻は少女を送るようになり、少女も遠慮がちながらそれを拒まなくなった。
二人に少なくとも現時点では確実にお互い憎からず思ってはいても恋愛感情は無いのだが、こんな調子で行動していれば囃し立てたくなるのも理解はできるだろう。妙に見ていてくすぐったい先輩と後輩なのであった。
「最近どうだ、学校は。勉強の方は大丈夫か?二年の二学期期末で補習食らっていたろうに」
「その節はご迷惑をおかけしました…恐らくは大丈夫かと思います」
「やばそうなら言えよ?これでも成績はいい方だ、中学レベルの内容なら……いや、やっぱり年頃の女の子が年上の異性に勉強教わるってのは外聞が悪いよな、ただでさえ部活のバカどもにあることないこと騒ぎ立てられてんだ。俺なんぞとこれ以上変な噂立てられたくないだろうし俺よりも教え方が上手いやつなんていくらでもいるだろうし、大体ここぞとばかりに張り切って後輩女子に良くしようなんて奴普通にキモいよな、よしここは俺のクラスで成績のいい女子を…」
「部長、部長。一人で先走って完結しないで下さい、お気持ちは頂きました気持ち悪いなんて思ってませんよ。先程も言いましたが恐らく大丈夫です。危なそうな時は頼らせて頂くかもしれません」
「そ、そうか。解った気を使わずに気軽に頼ってくれ。あ、だからってこう言われたからなるべく頼るように、とかそういうのは無しだぞ。あくまで気が向いたら、気軽に、だ」
「ええ、解りました」
苦笑しながら言葉を返す少女に、くどかったかなー面倒臭い先輩と思われてなきゃいいなー、と辻は気落ちする。 小心な所がありいつも変に気を回しすぎては言わずともいいことまで言って割を食うのだ。この男、損な性分である。
「まあ元気にやってるなら何よりだ。お前の所のクラスもうちに負けず劣らず変…いや個性的な娘が多いからな、真面目そうな奴は割を食いそうで気になるというかなんと言うか…」
「ふふっ、心配ありがとうございます。そうですね、何かと騒がしいクラスですが、流石に二年以上も一緒に過ごしていればある程度は慣れますよ」
ゆっくりと歩を進めながら並んで二人は帰る。煮え切らない口調でぶちぶちと少女を気遣う辻に小さく吹き出しながら少女が答える。
「そうだよなぁ、慣れてしまうんだよなぁ。俺もあの馬鹿の真髄達と付き合い持って早三年、随分脳味噌が侵されてしまったと思うよ。クラスが変わらないってのは奇人変人の影響が大きいから嫌なもんだ」
「変わらないのも良し悪し、ですね。…そういえば、私のクラスは担任が変わりましたね。話す機会が無かっただけで少し前の話ですが」
哀愁を漂わせつつしみじみと語る辻に、ふと思い出したように少女は告げた。
「へぇ、それは珍しいな。確か高畑先生だったろ担任って。今さら誰に変わったんだ?」
「それが…ネギ・スプリングフィールド、という少年をご存知ですか、部長?」
「うん?何処かで聞いた名前だな…ああ、なんだっけ春から麻帆良にやって来た子供先生だよな。確かまだ十歳そこそこだとか聞いたんだが…いや待て、ここでその名前が出るってことは」
「はい、その子供先生が私達3ーAの現担任です」
まさかという顔で問いかける辻にこちらも何とも言えない表情で少女は答えた。
「うわぁ本当か、そりゃ大変だろう色々と。いくらエスカレーター式で最低限進学できるっていっても中学3年なんて大事な時期に、迷惑な人事だな」
「いえ、頭のいい少年らしくきっと想像されているよりも立派に教師をやっていますよ?…部長にしては随分と酷評ですね。子供先生に対して気に入らないことでも?」
「いや、その子供先生本人に思う所はないんだけどな。受け入れた学校側に物申したい気分だよ。率直に言って務まるはずないだろ十歳児に先生が。お前らより年下なんだぞ?先生ってのは勉強だけ教えられればいいもんじゃないだろうに、人事の人間は何を考えてんだ、まったく」
「仰る事はごもっともですが、こればかりは私達に決める裁量のないことですから…それにうちのクラスは概ね子供先生に好意的ですし今の所上手く回っていますから、様子を見るしかないのでは?」
憤懣やるかない、という顔の辻を宥めるように少女は語りかけつつ、やがて二人は女子寮の前に到着した。本日は随分話が弾んだが、それでも道場からここまで時間にして15分足らずである。
「では部長、ここで。送っていただきありがとうございました」
「なに、本来必要のないことを半ば強引にやってるんだ。礼なんざいらないよ、何時ものことながら」
そう言って辻は少女に別れを告げ、自分の寮へと歩き出す。
「…部長!」
「ん?」
突然背中から声をかけられ、少し驚きつつも辻は振り返る。
「なんだ、何かあったか?」
声をかけた側の少女の顔は先程までの穏やかな様子は消え、何処か張り詰めていた。
「…すみません、部長。これから妙なお願いをしますが、どうか聞き入れて下さい」
「な、なんだその前振りは。怖いだろ、一体何だよ、なんか悪いことしたか、俺?」
「いえ、部長には一切非の無い話なのですが…先程子供先生の話題が出ましたよね?」
心当たりは一切無いのにビクつく辻に、固い表情のまま少女は問う。
「あ?ああ、確かに出たな。それがどうかしたか?」
「これから子供先生に、個人的に接触を持つのをやめていただきたいんです」
「………うん?……………」
文章としては理解できるが意味が理解できない辻はやや間抜けな疑問符を上げる。聞き違えたかと少女を見やるが真剣な表情は崩れていない。洒落や冗談をこの少女は元々好まないが、巫山戯ている訳では勿論無いらしい。
「…どういうことだ?別段元々積極的に関わりに行く気は無かったけど、お前がそんな風に言ってまで関わらせまいとするなんて…普通じゃ無いぞ」
「理由は、言えません。建前ならば述べられますが、私は常に親身に、そして誠実に接して下さっている部長にはできる限り誤魔化しをしたくは無いのです。誓って邪な考えでこのような事を言っているのではありません。納得できるような説明でないのは百も承知ですが、どうかお願いします」
そう言って少女は頭を下げる。言外にこれ以上は語れないと態度が示していた。
「ひとつだけ、聞いていいか?」
「…はい」
色々と聞きたいことはあった。だが今聞いてもこの少女は、教えてはくれないとなんとなく辻は解っていたから、最も気になる点だけを辻は聞くことにした。
「お前は、何か俺がそうすることで苦労したり損をすることはあるのか?」
「…は?」
思わず、といった様子で少女が顔を上げる。てっきり出し抜けに失礼な頼みをしている事へ苦言の一つでも返ってくると考えていたからだ。
「あの、それはどういう、」
「他人と関わりを持つななんてある意味凄まじく自分勝手なことを他ならぬお前が言うんだ、相応の事情があるのはなんとなく判る。だからお前のその頼み、聞くつもりだよ。元々ちょっとした好奇心位は持ってたけどそこまで子供先生に興味があるわけじゃないし、俺にとって負担のある頼み事じゃないからな。でもそれでお前が不利益を被ったり、いらない苦労を強いられるなら首を縦には振れない。後輩が気を使って一人辛い目に遭うなんて到底頷ける話じゃないからだ」
そこで言葉を切って辻は驚いたように見開かれた少女の目を真っ直ぐに見据える。
「だからもしそうなら事情を素直に一から話せよ、できる限り力になる。お前は俺の後輩で、俺は先輩だ。手を貸すのに理由はいらない、だからこれだけ正直に答えろ。…お前は、大丈夫なのか?」
沈黙が流れる。吃驚させられた直後のような、何処か惚けたような顔をする少女を見て辻はじんわりと汗を滲ませ始める。
………ヤバい盛大に外したか?勢いに乗って言ってしまったが思い返すまでも無くクサイよ俺‼︎普通に恋人でもなんでもない男にこんな大仰なセリフ言われたら引く!間違いなく引くだろうわぁ〜やっちまったぁ〜‼︎…………
等と絶讃大見得の後悔タイムに入り、そろそろ額に浮かぶ汗が脂汗に変わろうかという頃、長い沈黙が破られる。辻が少女を見やると、クールな印象の強い少女が珍しく、はっきりと相好を崩し笑っていた。
「くっ、ふふふふふっ、…はぁ、…全く、本当に貴方という人は…」
「あー、待て違うんだ、今のはこう、思わず昂ぶって大袈裟な言い方になったというか、いや嘘ではないんだが些か盛りすぎた表現があると言うか」
「ありがとうございます、部長」
「ヘ?」
暫くして笑いを納め、どこか感心したような呆れたような少女の様子にたまりかね、へどもどと言い訳になっていないような誤魔化しを始めようとした辻を遮るように少女は言った。
「不躾な願いを申し出たというのに私の心配などしてくださってありがとうございます」
「お?おおおおおおう、気にするな、正直大袈裟にも程があったしな。いや、でも俺が聞きたいのは」
「はい、解っています。大丈夫です、部長が心配なさっているようなことは一切ありません。どちらかと言うと本当に私の個人的な我儘なんです。ですから部長、お気持ちはありがたく頂きますが、どうか心配なさらないで下さい。私は、大丈夫です」
薄く微笑みながら少女ははっきりと言った。
「…本当だな?」
「はい、本当です」
「…わかった。なら、いいんだ。約束するよ、できる限り子供先生とは接触しないようにする」
「…ありがとうございます、部長」
「礼はいい。その代わり、そのうち事情を話してくれるか?」
「…善処します」
そうか、と苦笑しながら辻は今度こそ帰るため踵を返す。疑問は山だが辻は後輩を信じることにした。どちらかと言うと無愛想で、あまり他人と打ち解けない、固い印象の強い少女だが、他人に無関心なのではなく根底にはきちんとした思いやりを持っている娘だと辻は知っていた。その位には辻
「じゃあ今度こそ。またな、
「はい、おやすみなさい、辻部長」
辻は背を向け歩き出し、少女は礼にてそれを見送る。
少女の名前は