お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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9話 武道家達と吸血鬼 絶望の闘争(下)

その空間には戦場の空気が漂っていた。

「行ったぞ中村ァ‼︎」

「糞が喰らえァァッ‼︎」

中村が怒号と共に放った気弾は高速で空中を縦横無尽に飛び交うエヴァンジェリンを捉えられず彼方へ消え去った。

「当たんねえ畜生!てめえロリババア降りてこいオラァ‼︎」

「有利な土俵からわざわざ降りてくれる訳無いだろ!どうにかしてまず叩き落すぞ‼︎」

「魔法の射手・連弾・闇の53矢(サギタ マギカ セリエス オブスクーリー)‼︎」

上空から闇の塊のような弾幕が飛来する。

「なめんなよ…!」

「止めろ中村、受けるな‼︎」

両手に気を纏わせ、払って距離を詰めようとした中村に大豪院の鋭い警告が飛ぶ。

「なにぃ⁉︎…ちぃっ‼︎」

疑問の声を上げた中村だが刹那の間迷った後、右前方に走り抜け弾幕を躱す。直後、闇の塊が石畳に弾けて散った。

「なんで止めたポチ‼︎」

「その呼び方止めろ‼︎確か闇の弾幕は喰らうと精気とやらが抜けるらしい!例によってネギ情報だ‼︎」

「デバフ付きかようざってえ‼︎」

悪態をつき中村は再び走り出す。

既に戦闘が始まってからかなりの時間が経過している。辻達は体のあちらこちらに大小様々な切り傷を作り、かなりの凍傷を負っている。

対してエヴァンジェリンはあれから一度も被弾をしていない。時折中村や豪徳寺の気弾が命中するが、全てが障壁に阻まれダメージを与えられないのだ。

加えてエヴァンジェリンの魔法の氷と冷気による体温低下が問題で、戦闘によって熱を持った体が急激に冷やされ、体の各所が故障を起こしかけている。

「解ってはいたけど、やばいね、これは」

山下が斬り裂かれた肩口を押さえつつ、呻く。

「これでは鴨撃ちだ。しかも…」

「精霊召喚・抱擁する雪乙女36柱!」

言葉と共に、全身蒼白で半透明に透き通った美しい少女が無数に現れる。

エヴァンジェリンは雪乙女フラウと共に急降下し、新たに魔法を展開し辻達に叩きつける。

氷爆(ニウィス カースス)・三重展開‼︎」

冷気と爆風が辻達を包み込む。

「痛ッ‼︎糞が、こんなもん…ぐぉっ⁉︎」

「豪徳寺‼︎うわっ⁉︎」

直撃を何とか躱し、離れようとする豪徳寺が、冷気と白煙に紛れて近づいた雪乙女フラウに後ろから抱きつかれる。豪徳寺の全身を凄まじい冷気が走り、急激に冷やされた体が、本人の意思とは無関係に動きを止めようとする。

崩れ落ちかける豪徳寺を助けに入ろうとした山下も右腕に雪乙女フラウが抱きつき、たちまち腕が感覚を失う。

「おおおおおおおおおおっ‼︎」

「こなクソぉぉぉぉぉっ‼︎」

二人はそれぞれ全身と右腕に気を巡らせ、雪乙女フラウを弾き飛ばし難を逃れる。

「休むなよお前達‼︎氷槍弾雨(ヤクラーティオー グランディニス)‼︎」

エヴァンジェリンの周囲に長大な氷の刃槍が現れ、爆風の余波も晴れぬ地上へ降り注ぐ。

「気をつけろ‼︎さっきの弾幕の比じゃ無い‼︎」

辻は怒鳴り、降り注ぐ刃槍を木剣で弾き、逸らしながら前進する。一撃受ける毎に木剣が軋む威力に顔を歪めながらも、弾幕を抜けた辻は近場にあった一際大きな氷山を跳躍台替わりに、瞬動で一気に飛び上がった。

通常、瞬動は着地する地面が無ければ単なる気による暴発ジャンプで終わるが、今回は空中に着地する場所があった。

「ほう…」

辻が着地というよりも殆ど蹴りを入れるようにして強引に止まったのはエヴァンジェリンの展開する障壁の表面だった。攻撃により展開する物理障壁を逆に利用し、辻は強引に距離を詰めた。

「いあぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

気迫の声と共に、辻は全身全霊を込めての兜割を振り下ろした。が、

「いい打ち込みだ。先程も思ったが貴様は瞬動が上手いな、剣道屋」

乾いた音の正体は木剣のへし折れた音だった。

「…鉄芯入ってんだぞ、これ」

引きつった表情で呻く辻。足場も無く、落ちていくだけの辻は格好の的だった。

「だが木刀ではなぁ!」

笑いながらエヴァンジェリンが辻に魔法を放つ。

氷爆(ニウィス カースス)‼︎」

轟音と共に冷たい風に包まれ、吹き飛ばされる辻。悲鳴も無く、近くの氷の柱に着弾した。

「辻ーっ‼︎生きてっかあっ⁉︎」

雪乙女フラウを蹴りで吹き飛ばしつつ、中村が叫ぶ。

「…なんとか、な」

氷に埋まった体を起こしつつ、返事をする辻。直撃を喰らった所為で、体の前面がほぼ凍りついている。どうにか起き上がる辻だが、体が震え、まともに動けないでいる。

極漢魂(きわめおとこだま)‼︎」

豪徳寺が巨大な気弾を放つ。

「効かんよ番カラ……何?」

疑問の声を上げるエヴァンジェリン。気弾はエヴァンジェリンでは無く、辻達とエヴァンジェリンの中間程に位置する氷山の一角へと向かっていたのだ。

気弾が氷山に着弾した瞬間、弾けて辺りに衝撃と爆風を撒き散らす、だがその気弾は奇妙な弾け方をした。

「…ふん、なるほど目くらましか」

その気弾は爆発による衝撃が殆ど無く、代わりに気弾を形作っていた気の光が爆風に乗り、辺り一面を光の靄で覆い隠した。

「気を緩く、収束させずに放ち、煙幕代りにしたか。以外に器用だな、番カラ」

笑ってエヴァンジェリンは呪文を唱え、強風を巻き起こす。

光が消えた先には辻達の姿はどこにも無い。

「逃げた訳でもあるまいしそもそも逃げられはせん。さて、どうするつもりだ?人間」

エヴァンジェリンは辻達の気配を追って移動を始めた。

 

 

 

豪徳寺の目くらましで一旦距離を取ることに成功した辻達は建物の一角に隠れていた。

「おのれあの見た目ロリ、バカスカ撃ちまくりやがって」

「ものの見事にズタボロだな、どうするすぐに追いつかれるぞ」

「とりあえず今のままじゃ当たり前だけど勝ち目は無いね」

「余力も少なければ負傷も小さくない。そう悠長に闘っていられんぞ」

中村達のこんなに余裕の無い様子を辻は初めて見る気がした。それだけの事態で今は危機的状況なのだと、今更ながら辻は理解できた気がして、あまりに呑気な自分の思考に辻は苦笑いを浮かべていた。

「辻?」

「どうした(はじめ)ちゃん、まさか恐怖でイカれてねえよな?」

心配げに声を掛けてくる中村達。それを見て、辻は一つ決心をした。

「俺はさ、あの吸血鬼の家に押しかける時も、こんな所に飛ばされて闘うことになった時も、漠然と皆で頑張ればなんとかなるんじゃないかって思ってたんだよな」

そんな訳無いのにさ、と笑う辻を他四人は黙って見つめる。

「頑張っただけでなんとかなるなら世の中苦労はしないよな?何て言うかさ…この後に及んで俺は、真剣にやってるつもりで真剣にやってなかったんだよ。あんな風にネギ君に太鼓判押しておきながら、何処か他人事だった。お前らに申し訳ないって、思ってさ」

「謝罪はいらん。こんな状況、現実感が無くて当然だし、お前は初めから事態に関わっていた訳でもないからな」

「ありがとう、大豪院。でも俺は、だからこそかな。今から全力、尽くそうって、思ってさ」

辻の言葉に、空気が硬くなる。普段から軽い態度の中村までが、何処か緊迫した表情で辻を見返す。

「…大丈夫なの?辻…」

奇妙なほど深刻な様子で山下が辻に問う。それに対して辻は苦笑し、

「いいか悪いかで言えばよくはないさ。でもそんなこと言ってる場合じゃ無いだろ、山ちゃん。これじゃネギ君の安否を気遣う前に俺達が冷凍マグロになっちまうよ。やるしかないならやっちまおう(・・・・・・・・・・・・・・)。だから皆、無理を聞いてくれるか?」

普段と変わらないのに何かの違う(・・・・・)辻に四人は顔を見合わせ、揃って溜息をつく。

「言い出したら聞かねえからな。お前」

「こんな時だけ強情にならなくてもいいのによ」

「任せておいてよ、どうせ辻の方が無茶するんだし」

「それで、俺達は何をすればいい?」

頼もしい悪友達の返答を聞いて、辻は一つ笑ってこう言った。

「あの吸血鬼、もう一度地面に叩き落としてくれ」

 

 

 

「あそこだな…」

エヴァンジェリンは気配を辿り辻達の潜む建物の付近上空までやってきた。

「このまま隠れん坊もいいが生憎私はフェアな鬼では無いぞ?」

エヴァンジェリンは再度凍る大地(クルスタリザティオー テルストリス)の詠唱に入る。前触れも無い広範囲凍結など避けられるものでは無い、エヴァンジェリンは容赦をするつもりは無かった。

しかし、詠唱が終了する寸前、建物の影から人影がバラバラと飛び出し、エヴァンジェリンに向かって突っ込んでくる。それを見てエヴァンジェリンは笑う。

「ははははは!そうでなくてはな。貴様らに食われるのを待つだけの豚は似合わんよ、人間の維持をこの私に見せてみろ‼︎」

エヴァンジェリンは魔法を解き放つ。

凍る大地(クルスタリザティオー テルストリス)‼︎」

氷河が隆起し、極低温の冷風が吹き荒れる。再び氷の世界と化した大地を、しかし白霧を裂いて駆ける影が五つ。

「ふん…」

エヴァンジェリンにしてもこの一撃で辻達がやられるとは思っていない

。初見の状態でも勘か反射神経かは知らないがほぼ躱して見せた連中である。しかし、凍氷に覆われ、否応なしに足場は悪くなるし、辻達の体力は限界が近い。このまま冷気を当て続けるだけでも自分の勝ちになるとエヴァンジェリンは判断し、躱しようがない広範囲の凍結魔法を放った。

続けてエヴァンジェリンは牽制にはいささか強力すぎる刃剣の弾幕を撃ち放つ。戦意を持ち、挑んでくる以上辻達はエヴァンジェリンの敵である。

氷槍弾雨(ヤクラーティオー グランディニス)‼︎」

降り注ぐ剣群に対して、影の一つ、中村は決意を込め、力を解き放つ。

「俺のとっておきだロリババア‼︎目にもの見せてやらぁぁぁぁ‼︎」

中村は化鳥の如く両腕を広げ、突き進む。体内から気が溢れ出し、白く輝くそれは伸ばされた両腕に収束し、光の翼のように両腕が光り輝く。

中村は獣の顎の如く両腕を斜め下方に挟み込むように振り下ろす。

裂空、掌波(れっくう しょうは)‼︎」

放たれたのは幅5m、高さ2mはあろうかという光の波。中村の奥の手、気功波動(オーラウェーブ)である。

「なにっ⁉︎」

さしものエヴァンジェリンも目を剥くそれは、氷の剣群と激突し、それらを粉々に砕きながらエヴァンジェリンに突き進む。

結氷障壁(バリエース グラキエーリス)‼︎」

エヴァンジェリンの力ある言葉と共に分厚い氷の壁が現れ、光の波を阻み双方が砕け散る。

「くっ…」

余波の爆風に顔を歪めるエヴァンジェリン、その時、轟音鳴り響く中、後方から微かな音がエヴァンジェリンの耳に届く。

「っ!」

瞬時にエヴァンジェリンが振り返ると氷山の頂上から大豪院がエヴァンジェリンへと跳躍し、肩からぶち当たってくる所だった。

(フン)‼︎」

肩から入る靠撃がエヴァンジェリンに着弾する。が、

「な、に?」

「聞いたことがないか拳法家?」

大豪院の体は障壁を砕き、エヴァンジェリンに届いたものの、その体はエヴァンジェリンの右腕一本で押し留められていた(・・・・・・・・・・・・・・)

「吸血鬼は怪力(・・)なんだよ」

肉を穿つ異音が響く。

エヴァンジェリンが無造作に放った左拳が大豪院の腹に突き刺さったのだ。骨の折れる音が不気味に響く。

「ぐ、ふっ⁉︎」

苦鳴を上げ、錐揉み回転しながら落下する大豪院。

「流石に同じような奇襲を二度も三度も喰らわんよ」

落ちていく大豪院を見下ろし、そうで言い捨てるエヴァンジェリン。

「いや、三度は喰らって貰おうか」

声と共に、エヴァンジェリンの首元に腕が回され、同時にその腕と交差するようにもう一本の腕が奥襟を掴む。

「なん、だと⁉︎」

今度こそ心底驚いた、と言わんばかりに目を見開き驚愕の声を上げるエヴァンジェリン。エヴァンジェリンから見て後方に大きな氷山は無く、仲間との連携で飛び上がってきたにしても、気の気配も何もエヴァンジェリンは感じなかったのである。

「山下流合気柔術・投極法の四」

交差するように掴んだ首周りを固め直し、山下の足がなにもない空中を踏みしめ(・・・・・・・・・・・・)、その体が回転する。

「虚空投げ」

首に回した腕が腰を軸に相手を真下に叩きつけ、更に奥襟を摑んだ手が相手をもう一段階、加速。超速度で相手の脳天を砕く変形の首投げを山下は見舞った。

大砲で発射された砲弾の如く、真下へ投げ飛ばされるエヴァンジェリン。後を追うべく身構えながら山下はポツリと言った。

「自分で言うのもなんだけど僕器用でさ…。使えるんだよね、虚空瞬動」

言葉を置き去りに山下の体が宙を蹴り、かき消える。

 

氷を砕きながら地面に墜落するエヴァンジェリン。声をあげる間も無く傍らに山下が着地し、半ば地面に埋まるエヴァンジェリンを引き起こし、後方から抱きつくように足で胴締めを行いながらの裸締めへ移行する。

「下手な負傷は回復するみたいだからね、首の骨、へし折らせて貰うよ」

「…ククッ、つくづく呑気に学生やっているのが不思議なガキどもだ、ぐっ」

「貴女と会話をする気は無いよ」

一気に締め上げ、首を捻じ曲げる山下。あと数秒あれば首が折れるだろう。

圧を加え、首の骨が折れる寸前、エヴァンジェリンの右手が閃き、鋭い一指が山下の肘から親指二本分程の所を正確に突き刺した。

()ゥッ⁉︎」

山下の腕が自身の意思とは無関係に力を緩める。その瞬間、素早く体を捻じり蛇のような動きでエヴァンジェリンは山下の裸締めを抜け出した。そのままエヴァンジェリンはまるで舞踏会でダンスのターンをするかの如く、宙に浮いたままの山下の腕を取り優美に回転する。

次の瞬間には、山下の体はバネ時掛けのおもちゃのように回転し、腕を極められた状態で地面に叩きつけられていた。

「がぁっ⁉︎」

苦鳴を上げ、もがく山下だが完全に極まった体制ははね返せない。

「…腕の、圧痛法に、逆腕の絡み投げ?…柔法まで使うのか、貴女」

「長生きしてるといろんなものが身につくものだ…しかし異様に柔らかいな貴様。まあ吸血鬼(わたし)の力からすればこの状況で意味を成さんが」

殆ど背中に付きそうな程に山下の腕を捻り曲げながら楽しげにエヴァンジェリンは告げる。

「一度ならず二度までも私に土を付けるとはな。本当に対したものだ、貴様ら。しかし生憎だが、これで終わりだ。楽しかったよ、人間」

言いながら肩と肘で極めた腕を己の側に技術(わざ)と力を持て捻じり、へし折りにかかるエヴァンジェリン。

山下は激痛に顔を歪めながらも、横目にエヴァンジェリンを見据え、笑った。

「残、念ながら。…メインディッシュは僕じゃ無いんだな」

「何?」

エヴァンジェリンは聞き返そうとして、視界の端に煌めく冷たい輝きに素早く顔をそちらに向ける。

白刃を振りかぶり此方へ構えを取る、妙に平坦な顔の辻がそこにいた。

「ほう…」

エヴァンジェリンは笑い、山下の腕を極めたままそちらへ向き直る。

「文字通り真剣勝負と言うわけか、剣道屋。しかしポン刀一本で私に勝つつもりか?」

笑みながらも威圧するように告げるエヴァンジェリンに、足下の山下が笑う。

「ははっ…貴女、終わりだよ。マクダウェル女史」

「…?」

辻を注視し、警戒はしながらも、意味のわからない山下の言葉に僅かにそちらへ意識を向けるエヴァンジェリン。

その刹那。

 

 

 

世界が 割れた。

 

 

 

「あ…………………?」

エヴァンジェリンは呆ける。

世界が、目に映る全てが二つにブれて(・・・)いる。

間近に奇妙な姿が見える。白刃を持った男に見えるが、彼はもっと遠くに居なかったろうか?

遠いような近いような場所からまるで獣の雄叫びのような声が聞こえる。体に力が入らない。自分は、今、何をしていたろうか?

 

 

 

 

辻の振り下ろした一刀にて(・・・・・・・・・・・・)頭を二つに断ち割られた(・・・・・・・・・・・)エヴァンジェリンが(・・・・・・・・・)呆けたようにフラつく。

猿叫の残滓を口の端から零しながら辻は、斬り下ろした瞬間刃先の欠けた日本刀を目に、思った。

うん(・・)やはりこれじゃあ断てないや(・・・・・・・・・・・・・)もっと丈夫じゃないと二つに割れない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…中村ぁっ‼︎」

跳ね起きた山下がエヴァンジェリンの手を取りつつ叫ぶ。

「…おうよ」

既に中村は辻と山下の方へ走り出していた。山下は回転し、遠心力を利用して思いっきりエヴァンジェリンを投擲する。

中村は腰溜めに手刀を構え、飛んでくるエヴァンジェリンに渾身の一撃を繰り出す。

貫通抜手(かんつうぬきて)千重穿ち(ちえうがち)‼︎」

突き出された輝く手刀がエヴァンジェリンの胴体をぶち抜き、背中から爆発したように地と肉と臓物を撒き散らす。その一撃は、まともに心臓を貫いていた。

「カ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ⁉︎」

喉まで割れて(・・・)いるからか、奇妙に濁った叫びを上げ、血を噴水のように吐き出すエヴァンジェリンに一切構わず、中村は手刀を抜き全力の前蹴りでエヴァンジェリンを再度吹き飛ばす。

「行ったぞ、大豪院‼︎」

 

「承知している」

口の端から血を流しながらも、大豪院は構えを取り、エヴァンジェリンに向かい、動きを始める。

体を旋回、足から膝へ、膝から腰へ。胴へ肩へ、力が連動する。

そしてその体が、飛び込んでくるエヴァンジェリンに対して放たれた矢の如く飛び出した。

震脚。

「ィィィ()ァァァァァァァッ‼︎」

轟音。

次の瞬間、エヴァンジェリンは、全身から血を飛沫かせながら、真横に吹き飛び建物の一角を破砕しながら埋まった。

鉄山靠(てつざんこう)。八極拳最大の一撃と謳われるそれを放った大豪院は、まるで十字架を思わせる構えを解きつつ呟く。

「…トドメだ、豪徳寺」

 

「あいよ」

豪徳寺は身体中から残った気をかき集めつつ、応じる。既に余裕はいくらも無い。ここで、決めなければならない。

豪徳寺は壁に埋まり、動かないエヴァンジェリンに向かって走り出す。

「一極集中…零距離‼︎」

エヴァンジェリンに拳を叩きつけ、同時に気弾が射出される。

極漢魂(きわめおとこだま)ぁっ‼︎」

爆発音と共にエヴァンジェリンが光の衝撃に飲み込まれ、建物が倒壊していく。やがて瓦礫の山となったその中に、動くものは、無い。

「…っし」

小さく頷き、豪徳寺は背を向け歩き出す。その先には五人がよろけながらも集まって来ていた。

 

「…やったか?」

「死亡フラグって言いてえとこだがこれで駄目なら本気で無理だな」

「確かにね。これ以上は、もう無いよ」

「辻…大丈夫か?」

尋ねられた辻は、欠けた日本刀を手に下げ、ぎこちなく笑う。

「まあ、な。それにしてもお前ら、容赦無くやったな」

辻の問いかけに四人は笑う。

「当たり前だ。加減なんぞしたら逆にぶっ殺されていたからな」

「それに辻よ。殺してしまった(・・・・・・・・)と思ってんならそりゃ俺らもだぜ」

「人であれ鬼であれ、殺したってのはいい気分じゃ無いけどさ」

「お前だけがやった訳じゃない。気にするのは構わんが、一人で思いつめるなよ?」

四人の言葉に、辻は一つ頷き礼を言う。

「…すまないな」

「馬鹿野郎。そこはせめてありがとうだろ」

五人は笑い合う。そこに耳を裂く噴射音と共に一人の女子が飛来する。

「…絡繰ちゃんか」

辻の言葉通り、バーニアの噴射を止め降り立ったのは相変わらずメイド服姿の茶々丸だった。

「あんたの主人、斃させて貰ったよ」

「悪く思うな、とは言わん。やる気というなら相手になろう」

「生憎ボロボロだけど、それぐらいの力なら残っているよ」

口々に述べるバカレンジャーを無表情に見据え、淡々と茶々丸は述べた。

「申し訳ありません。貴方がたのお相手は今だ私ではありません」

「…あ?」

疑問の声に、答えるように背後の瓦礫が爆発した。

「「「「「っ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」」

辻達は驚愕と共に振り返る。

そこには、あちこちボロボロの衣装ながら、それ以外の外傷がほぼ治癒した姿で、エヴァンジェリンが佇んでいた。

「………あれで全部、再生したのか?」

「……ん?ああいや、頭のくっつきが妙に悪くてな」

乾いた声での豪徳寺の疑問に、まるでちょっと指先を切ってな、とでも言うような気軽さで、頭を押さえながらエヴァンジェリンが言う。その目は平坦で、今までの威圧感が嘘のようであったが、辻達は逆に凄まじい悪寒を目の前の小さな少女から感じていた。

エヴァンジェリンは押さえていた手を外し、辻達に向き直る。

「まず言っておく。お前達、すまなかった」

以外なことに、エヴァンジェリンの口から初めに出たのは謝罪の言葉だった。

「お前達、完全に殺す気で私を攻撃したものな。殺すつもり(・・・・・)で私を殺りに来たんだな。…それに対して私はなんだ?どれだけ私はヌルい気持ちでお前達とやり合っていた。坊やを笑えんよ、本当に申し訳ない」

空気が、変わる。粘ついた汗が止まらない。目の前の存在から逃げろと本能が囁く。

既にそこに立っているのは、麻帆良女子中等部、3ーA 出席番号26番のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルでは無かった。

一匹の吸血鬼(バケモノ)がそこにいた。

「こちらも礼儀を尽くす。殺すつもりで撃つが…死んでくれるな?」

エヴァンジェリンの右手に仄かな光を放つ長大な光の剣が形成される。

いっそ優雅とさえ言える美しさのその剣に全員の毛がブワッ‼︎と逆立つ。

「逃げっ…」

「逃がさん」

エヴァンジェリンは右手を振り下ろす。

断罪の剣(エンシス エクセク エンス)

刹那世界が、弾けてトンだ。

 

 

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