お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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5話 謝罪合戦 現状把握と風韻急なる一報

刹那がロビーに入るとそこには土下座があった。

「…………」

いきなりな光景に刹那が絶句しているとその土下座ーーもとい辻 一(はじめ)はゴガッという痛そうな音を立てて頭を床に叩きつけ、全身全霊の謝罪を敢行した。

「桜咲、さっきは俺の所為で多大な迷惑とあらぬ誤解をお前にかけてしまった。本っ当に申し訳ありませんでした‼︎」

その潔すぎる謝罪の言葉にフリーズしていた刹那は我に返り、慌てて辻の前に跪くと辻に言葉をかける。

「や、やめて下さい辻部長‼︎元はといえばネギ先生に私の立場をしっかり伝えていなかったから起こった事故なんです、あまつさえ助けに入った辻部長の…その、局部を…」

「桜咲、忘れてくれ。お互い非があったというなら両成敗ということで水に流そう。俺もなんというかお前の、…裸体をうっすらとはいえ見てしまいました本当にごめんなさい‼︎お前が俺を半殺し位に痛めつけたらこの一件は俺もお前も無かったことにしよう、それでいいな⁉︎」

「よくありませんよ!何故両成敗と言っておきながら辻部長だけ半殺しになるんですか⁉︎わ、私はその…気にしてませんので、もうこれで終わりにしましょう。私も、あの、裸を見たというのは一緒ですし、寧ろ急所攻撃の分私に非が…」

「野郎が裸見られるのと乙女が裸見られるのが等価な訳が無いだろうが⁉︎お前は俺を半殺し所か殺しても許されるんだぞ‼︎急所の一発位じゃ全然俺の罪はなくならないんだ、しかし今殺される訳にはいかない、故に桜咲、そこに木剣を用意した。それで俺を気が済むまで打ちのめせ!それでどうか勘弁してくれ‼︎」

「いいですから!そこまで行くと誠実を通り越して怖いだけです‼︎聖人か何かですか貴方は⁉︎私は謝罪を受け取りました、頭を上げて下さい‼︎」

「桜咲、お前って奴は……どこまでできた後輩なんだよ、しかしここで罪の在処を有耶無耶にしてはいかん‼︎桜咲、気が進まないならせめて一発!一発でいいから殴れ‼︎そうでもせねば俺の気がすまん‼︎」

「ですから貴方は…」

自分の罪状を増やそうとしている変わった被害者AND加害者二人を眺めながら中村達は呆れた顔で語り合う。

「何時終わるんだあの不毛な謝罪合戦」

「両成敗でいいって最初に言ったの辻なのにね」

「しっかし(はじめ)ちゃんが叩いて叩いて言ってんの見ると実はマゾブファッ⁉︎」

「黙れIQ60。律儀すぎるのも問題だな」

「…う〜ん桜咲さんってクールで冷たい感じの人って印象だったんだけど、あんな姿見てると木乃香の親友っていうの、わかる気がするわ」

「はい、それだけに僕の勘違いでこんな騒ぎを起こしてしまって本当に申し訳ないというかなんというか…」

「兄貴だけの所為じゃありやせん、俺っちが早とちりしてけしかけなけりゃ…」

「まあ、辻と桜咲に謝っとけ。仕方ねえよ、魔法関係者からはなんも聞かされてなかったんだろ?」

「仕事やらせる割にこの杜撰な管理体制は一体なんなんだろうね?」

「臭え臭え。っつーかいい加減戻ってこいよあの似た者カッポー…」

結局ゴネる辻を刹那が宥め、露天風呂の一件が水に流されたのはそれから十分後のことだった。

 

「桜咲、許してくれて本当にありがとう。お前に救ってもらったこの命、お前の為に捧げよう。お前は俺が守ってみせる‼︎」

「やめて下さい重いです。なんというかそこまで行くとありがたいを通り越してウザいですから落ち着いて下さい辻部長」

刹那の寛大?な処置に感激し、一人で盛り上がっている辻を若干冷たく宥める刹那であった。

「夫婦漫才は終わったか?本題に入ろうぜ」

豪徳寺の言葉と共にようやく一同は本題に入る。若干二名程文句のありそうな顔をしたが黙殺された。

「まず桜咲後輩、近衛後輩が何らかの形で関西呪術協会に関係しているかどうかを知りたい」

大豪院の言葉に刹那は顔を真剣なものに変え、答える。

「…辻部長からお聞きになりましたか」

「悪いとは思ったがな。何かしら関係があるから連中も近衛後輩を襲ったのだろう?」

…あれ?

辻は刹那の返答になんとなく違和感を覚えたが、それは形にならないまま話は進む。

「仰る通りです。お嬢様、近衛 木乃香様は関西呪術協会の長、近衛 詠春様の一人娘なのです」

刹那の言葉に驚くネギや明日菜達。

「木乃香さんが…⁉︎」

「ち、ちょっと待ってよ。じゃあなんで木乃香は自分の父親のやってるなんとか協会に狙われるのよ?」

明日菜の最もな疑問に刹那は困ったような顔をし、

「関西呪術協会も一枚岩で纏まっているわけではないのです。長は関東魔法協会と融和をはかろうとしている穏健派であり、現在の関西呪術協会の大半はこちらについています。ですが、一部で魔法使いの日本進出を昔から良しとせず、隙あらば関東魔法協会と諍いを起こそうとする過激派が存在しています。恐らく敵はその過激派で、長の娘であるお嬢様を自分達の旗印として神輿替わりに担ぎ上げようというのでしょう」

「うわ〜」

「何処にでもある話だけど…」

「超常現象を扱うそしきも人間の集まりか、世知辛い話だ」

刹那の説明にげんなりした顔をする辻達。

「敵は呪符使い、そしてそれらの使う式神です」

「桜咲、簡単でいいから特徴を説明してくれないか」

辻の言葉に頷く刹那。

 

「成る程、よくわかんねーが怪○くんと戦うようなもんだな」

「お前は一体何を聞いていた馬鹿。エヴァンジェリンとの戦闘を思い出せ、あれと基本は変わらん。魔法が飛んで来て、蝙蝠やら雪女が駒としてこちらを攻める。もしかしたら俺達や桜咲後輩のような肉弾系が護衛としてついている、だ。わかったか?」

「ああそうか。大体理解したぜ」

「手際いいわねー」

「中村や細かいことを気にしない豪徳寺と行動するならこれぐらいの状況把握能力と説明能力は必須なんだ…」

刹那から陰陽師の戦闘法を習った辻達は一部不安な面子が存在しながらも敵に対する理解を深めた。

「とにかく、敵の情報はある程度得たね。これからこの面子で対応に当たる訳だけど、まず第一に、神楽坂ちゃん。君は絶対に荒事になったら手出しをしようとしないこと、いいね?」

「えっ?」

山下から名指しされた明日菜は驚いたように山下の顔を見る。

「えっと、あたし何もするなってことですか、山下先輩?」

「本当なら今までの話を全部聞かなかったことにして修学旅行を満喫して欲しい位なんだけどね。神楽坂ちゃんはそれじゃ絶対納得しないだろうし、曲がりなりにも僕達と一緒にお風呂場にいたんだ。敵には神楽坂ちゃんはもう僕達の一員と思われてる可能性もある。だから神楽坂ちゃんには近衛ちゃんと一緒にいて異常があったら僕らの誰かにすぐ連絡する、いわば見張り役を頼みたい。これなら神楽坂ちゃんを近衛ちゃんと一緒に守れるし、危険も少ないからね」

「…う〜ん」

山下の言葉に、何処か納得できない顔をする明日菜。本来勝気な性格であり、狙われたのは親友の木乃香である。明日菜自身も知らぬうちに好戦的な思考になっていた為、ていのいい厄介払いとも取れる言葉に納得できなかったのだろう。

「旦那、いいんですかい?姐さんは正式に兄貴と契約していないとはいえ、兄貴の強化で戦闘力は結構なもんだ。敵の規模がわからねえ以上戦力は少しでも多い方が…」

「勘違いしてんじゃねーよカモ」

珍しく真面目な顔で中村がカモを遮る。

「戦闘力があるとかない以前に神楽坂は素人だろーが。裏の世界とやらのわけわかんねえ厄介事にそもそも関わらせちゃいけねえよ」

「そうだ」

豪徳寺が続ける。

「素人って言ったら俺らも似たようなもんだが、俺らはちゃんと関わることを自分で決めてここにいる。ネギはこういう任務だと自分なりに納得したから受けた。加えて半人前とはいえそれを仕事にして金貰ってんだ、ガキだからって甘いことばっか言ってらんねえよ。でも神楽坂は違う。身近な知り合いが巻き込まれたから善意(・・)で助けようとしていただけの一般人だ。無論その心意気は見上げたもんだし、充分ネギには助けになってきたろう。でもこれからの敵はガチ(・・)だ。相手が素人だろうが女だろうが容赦をしないプロの暴力って考えるのが当然だぜ、危ないなんて言葉じゃ済ませらんねえ。神楽坂、この世界は関わっちまったら一生抜け出せねえかもしれねえもんだ。お前はそんな物騒なとこで他人を傷付けて、場合によっては他人殺してまで生きていく覚悟はあるか?」

「…そんなの、……」

豪徳寺の質問に明日菜は答えられない。

「神楽坂、お前の葛藤はわかる。ないと言って簡単に知り合いを見捨てたくない。だがあると言ってそんな世界に関わるのは正直に言ってごめん被る、だろう?」

「っ‼︎、先輩‼︎」

「お前は正しい」

大豪院の言葉に声を荒げて反論しようとする明日菜を制し、大豪院は続ける。

「それが普通で、当然だ。俺達のような奴らの方がおかしい。それでいいんだ、真っ当に生きたいと思うのは何も間違ってはいない。でも友達が危ないのは嫌だろう?だから俺達や桜咲後輩がいる」

大豪院は順々に指を指す。

「そんな物騒なことは物騒なことが大好きな碌でなし共に任せてしまえ。それでお前の義憤と俺達は、繋がっている。だから任せて、日常を友達と過ごせ。それが俺達の、望みだ」

「…先輩」

「厳しいことも言わせてもらえば」

辻が後を引き継ぐ。

「神楽坂ちゃんの戦闘力は気がちょっと使える連中と同程度。それぐらいの戦力じゃあはっきり言って、いてもいなくてもそんなに変わらない。現状近衛ちゃんを護るだけなら戦力は足りている。若輩の身で口幅ったいことを言うけれど、下手をすれば足手まといになる」

「うっ……」

明日菜は首を竦める。正直に言ってネギの魔力を貰った所で、目の前の辻達に到底敵う気はしないのだから辻の言うことは正しいと理解できたからだ。

ややしょげたような明日菜の様子に辻は微笑み、

「キツい言い方をして悪い。神楽坂ちゃんの気持ちはありがたい。でもこういう時の為に俺達はわざわざここに来ている。ここは俺達に任せてくれ、神楽坂ちゃん」

辻の言葉に、ややあってこっくり頷く明日菜。

「わかった。あたしがでしゃばって却って邪魔になったら意味ないし、あたしはあたしに出来ることをするわ、先輩達」

明日菜の言葉に満足そうに頷く辻達。

「ネギ、それでいいよな?お前のサポートは、俺らがきっちりやってやんよ」

中村の言葉に、ネギは勢いよく頷く。

「はい!よろしくお願いします‼︎明日菜さん、しっかり僕達が護衛しますから、安心してください‼︎」

「はいはい、頼りにしてるわよ」

ネギの言葉に苦笑して頷く明日菜。

「桜咲、それでいいな?」

辻の言葉に、少しして頷く刹那。

「先輩方の方針には私としても賛成です」

そう言いながらもなにか言いたげな様子の刹那に辻は苦笑し、

「桜咲、半素人の俺達が関わるのも不安だって言いたいんだろ?」

「……いえ」

「顔に書いてあるんだよ。それでも俺達は最低限自分の身は護れるし、口出しをしないのは俺との勝負の約束だ。いいな?」

「…はい」

躊躇いながらも頷く刹那に辻も満足げに頷く。

「よし、じゃあ決まりだね」

「麻帆良防衛隊(ガーディアンエンジェルス)結成ですね‼︎関西呪術協会から木乃香さんやクラスの皆を守りましょう‼︎」

「え〜何その名前…」

「そこは中村様と愉快な仲間達、だろうが」

「愉快なのはお前のオツムだ。名前なぞなんでもいい」

「締まらないねー」

山下がしょうがない、とばかりに苦笑した。

 

 

 

「…では私は廊下で各部屋を見回りますので」

「…わかったわ、木乃香のことはしっかり見とくから心配しないで」

明日菜と刹那は3ーA五班の部屋の前でひそひそと話していた。

あれから配置を決め、各員見張りの為に散った後、木乃香の護衛と風呂の一件のフォローに明日菜は部屋に戻っていたが、木乃香が話し疲れて眠ったので刹那と打ち合わせに出てきたのだ。

「…お嬢様の様子はどうでしたか?」

「いや、中々大変だったわよ、木乃香ったら完全に桜咲さんと辻先輩が深い仲だって決めちゃったらしくてあたしが何言っても、ウチのせっちゃんとの仲直りで打倒せなあかんのは辻先輩やったんか……辻先輩は悪うないけどちょっぴり恨むで〜、とか言ってるのよ」

明日菜の言葉に刹那はがっくりと項垂れる。

「…そうですか……」

刹那の様子を見て明日菜は軽く首を傾げた後に尋ねる。

「ねえ、桜咲さんって辻先輩と本当につきあって無いの?」

明日菜の言葉に刹那がずるりと滑って倒れそうになる。

「なんでそういう認識なんですか誰も彼も‼︎」

小声で怒鳴るという器用なことをしてのける刹那に明日菜はややたじろぎながら、

「いや、なんて言うか桜咲さん、私やネギとかバカレンジャーの他四人の先輩に対してはクールって言うか冷静に接してるのに、辻先輩とは結構素で話してるっぽいし仲良さそうだな〜って」

「辻部長は日頃から部活で接していますので他の方よりも会話はしますし、色々気を使って下さりますので私も頭が上がらないお世話になっている方なのです。憎からず思ってはいますが、恋愛感情とか、そういったものはありません」

刹那はきっぱりと断言するが、明日菜はなんとなく疑っているような顔で刹那を覗き見る。

「…そうかしらねぇ?」

「そうです‼︎では明日菜さん、お嬢様をお願いします。何かあったら真っ先に私に連絡を」

やや憤慨しながら刹那は言い捨て、荒い足取りで廊下の奥に消えて行く。

「あ〜怒らせちゃったかしら?」

明日菜は苦笑しながら部屋に戻る。木乃香の無事を確認し、窓際の夕映に挨拶しながら、明日菜はふと思う。

…世話になってるだけの先輩を、普通決闘までして心配しないと思うけどね。

中村から聞いた話を思い返しながら明日菜はやれやれと首を振った。

 

 

 

『辻、こちら大豪院、異常無し、そちらは異常無いか?』

「こちらも異常無し。じゃあ」

辻は定時連絡の電話を切り、溜息をつく。

…色々大変なことになったな。

決して舐めていた訳では無いが、想定を遥かに超えて話が大きくなっているのも事実だ。不安もある、大きなことを言って参戦したが、自分達の力が通用するかは試して見なければわからない。他の四人も内心不安で無いはずは無いのだが、少なくとも表面上は平然としている。辻もネギ達の前では泰然と構えていたが、一人になるとどうしても思考がネガティブになりがちだ。

…俺が向いていない(・・・・・・)と言われるのはこういう所かもな。

そもそも辻は争い事が好きではない。実力を高め合い、練磨し合う鍛錬や試合は好きだが己の我を通し合う勝負、実戦といった類の言葉はどうにも好きになれない。

…そんな俺があいつらとつるんでいられるのは、俺が反吐が出る程嫌い(・・・・・・・・)狂おしい程好き(・・・・・・・)な、あれ(・・)の所為であり、お陰か……

しょうもない。

辻は再び溜息をつき、思考を切り替える。今は見張りに集中しなければならない。

と、その時、懐の携帯電話が鳴り響く。

……?定時連絡には早いけどな…

不思議に思いつつ、辻は電話に出る。

「はい、もしも…」

「辻先輩⁉︎ごめん、木乃香がゆーかいされちゃった‼︎どうしよう⁉︎」

………はあぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎

辻は思わず硬直した。

 

 


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