お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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6話 追跡 偽装 発見 戦闘

中村は激怒した。必ず、かの木乃香を拐ったにっくき誘拐犯を除かねばならぬと決意した。中村には難しいことがわからぬ。中村は、空手とエロスの求道者である。鍛錬をし、エロいことを考えエロいことをして暮らして来た。けれども女の子のピンチに対しては、人一倍に敏感であった。(by走れエロス)

 

「訳のわからんモノローグ入れてねえで走れ中村‼︎」

豪徳寺の怒号が夜の京都に響き渡る。

全員の携帯に明日菜と刹那から木乃香が誘拐されたとの連絡が入ったのがほんの1〜2分前。泡を食って全員周りを見渡し、飛び去る巨大な猿を見た中村が、

「こっちにいたぞぅおぅぅぅぅ‼︎‼︎」

と周り一辺に轟く大絶叫を上げたのがつい先程。現在、声を聞いてあっという間に集まって来た全員で猿を追跡中であった。

「て言うか何あのでかい猿⁉︎着ぐるみ?縫いぐるみ⁉︎」

「恐らく敵の式神です!遠隔操作か術士が直接体に纏っているのかはわかりませんが馬力の出るパワータイプの式でしょう‼︎」

「だから間抜けな跳躍の割に速いのか、面倒な‼︎」

「このまま走って逃げる気なんでしょうか⁉︎」

「わっかんねーけどいくら速えっつったってこんぐれえなら見失いはしねえぞ‼︎」

ネギの疑問に中村が答える。

「だな、このままどっかで追いついて…っておい⁉︎駅ん中入ってくぞあの猿‼︎」

豪徳寺の言葉通り、猿は木乃香を抱えたまま駅の中へと駆け込んで行く。

「何あの猿まさか電車で逃げる気?」

「逃走経路が丸分かりだぞ、何を考えている?」

「阿呆なんじゃねえの⁉︎昼間っから馬鹿みてえな嫌がらせばっかだしよぉ‼︎」

「中村に馬鹿扱いとは連中も末期だなぁおい‼︎」

「どういう意味じゃワレェ‼︎」

「聞いてわかんねえかキングオブ馬鹿‼︎」

「わー‼︎二人とも喧嘩してる場合じゃあ無いですよ‼︎」

「どちらにしろ考えている時間はありません、行きます‼︎」

刹那の声に従い、全員駅の中へと進む。

「人がいないな、終電間際だっていうのに!」

ガランとした構内を見て山下が疑問の声を上げる。

「人払いの結界です、一般人は立ち寄れません!くっ、私が付いていながら…」

歯噛みして刹那は猿の後を追う。

「不甲斐ないのは皆同じだ!兎に角電車に乗せるな‼︎」

大豪院が叱咤し、改札口を乗り越える。

「やべえ、もう電車が出る‼︎」

既に扉は閉まり、電車が動き出していた。

「ど、どうしましょう⁉︎」

狼狽するネギに対して不敵に中村は笑い、

「こうすんだよ…裂空双掌(れっくうそうしょう)‼︎」

中村が両手から撃ち放った気弾が電車の車輪を撃ち抜き、ものの見事に車輪がひしゃげ電車が傾く。

「ええぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

「なっ……」

ネギと刹那が驚きの声を上げる中、更に追撃が疾る。

漢魂(おとこだま)ぁ‼︎」

豪徳寺の放った大砲のような気弾が電車の横っ腹に激突、その部分を紙のように引き裂きながら電車を一瞬浮かせ、電車は脱輪してホームの傍に激突、煙を上げながら止まった。

「よし、行こう!」

「訳のわからん力を使われる前に仕留めるぞ」

「ま、待って下さい‼︎」

何事も無かったように破れた穴から車内に入ろうとする中村達に続きながらも、余りにも強引なやり方に刹那が抗議する。

「お嬢様に何かあったらどうするんですか‼︎」

「横転した訳じゃねえし大丈夫だろ、あのまま電車を行かせた方が面倒だぜ」

「しかし…‼︎」

「桜咲、文句は後で聞く、今は近衛の奪還が先だ!」

「刹那さん、行きましょう‼︎」

そう言って豪徳寺が真っ先に乗り込む。他の面々も次々入り込んだ為、ネギの声にやむなく刹那は抗議の声を飲み込み、ネギと一緒に車内へ続く。

「オラ観念しやがれ間抜け猿が、もう逃げ場はねえぞぉ〜〜」

中村の言葉通り、車内には木乃香を抱える猿の他、乗客はおらず、退路は脱輪と爆発の衝撃で扉が歪んだらしく、前後共に退路は無い。袋の鼠である。

「……ムキッ!」

巨大な猿は木乃香を座席に寝かせ、中村達に向き直り、シュッシュッ‼︎とボクシングのワンツーのような動きを虚空に向け、やり出した。

「…会話が通じてねえのか?」

「恐らくこれは決められた動きを実行しているだけの自立行動型の式神でしょう。ある程度の判断機能はあるのでしょうが、会話をする程の知能は無いようです」

豪徳寺の疑問に刹那が答える。

「つまり追い込まれた場合は突破して逃げろとでも組み込まれている訳だね」

「この猿一匹でか?舐められたものだな」

シャドーボクシングを繰り返す何処となく間抜けな猿に目を細めながら大豪院が言う。

「まあ、なんでもいい。こちとら昼間からの糞くだらねえ嫌がらせの山でフラストレーション溜まりっぱなんだ。ようやくぶん殴れる相手が出てきて嬉しい限りだぜ」

ケッケッケッと凶悪に笑う中村、相当イラついていたらしい。構えて前に出る中村に豪徳寺達が続く。

「待って下さい、ここは私が…」

「桜咲ちゃん、君は僕らがあの猿に攻撃した隙をついて、脇から抜けて近衛ちゃんを確保するんだ。僕らじゃ近衛ちゃんを連れ出せてもどういう状態に近衛ちゃんがあるのかわからない、西の術士とやらに一番知識があるのは君だ。…近衛ちゃんに妙な術とかかけられてるかもしれない、君が行け」

前に出ようとした刹那を山下が制し、木乃香を任せる。刹那はその言葉に声を詰まらせ、やがて頷く。

「…決して無理をしないで下さい、皆さん」

「応、つっても安心しな桜咲。見た目と雰囲気で何と無くわかる。少なくともエヴァンジェリンの婆あとは比べものにならない位、弱いぜこの猿」

豪徳寺は不敵に笑う。

「ネギ、お前は万が一俺達が突破されたら魔法であの猿を仕留めろ。後ろの近衛後輩を巻き込まんようにな」

「は、はい‼︎」

「頼んだぜ、旦那方!」

大豪院の指示にネギとカモは頷く。

「っし…行くぜ‼︎」

「ムキョーッ‼︎」

中村が前進し、猿が応じて走り出す。猿は高速で前に出て、中村に対し常人では視認できぬ程の右ストレートを叩き込む。

「へっ!」

中村は鼻で笑って一撃を外に払い、カウンターの逆突きを猿の鳩尾?にぶち込んだ。

「ム゛キョ⁉︎」

猿は胴体部分を見事に凹ませ、奥へ吹き飛ぶ。

「ふっ!」

その隙をついて刹那が木乃香の元へ走る。

「あん?」

吹き飛んだ猿を警戒しながらも中村は訝しそうに拳を見る。

「どうした?」

「手応えが無え。まるっきり縫いぐるみか何かを殴った感触だ」

「パンヤか何かでできてるんじゃない?まるっきり見た目は縫いぐるみだから」

「打撃は効きにくいか。少々面倒だな」

中村達が言い合っていると猿が起き上がり、何事も無かったかのように再び突進してくる。

「ちっ…面倒臭え」

「変わるか、中村?」

「必要ねえ。つうかこの面子じゃ桜咲か辻以外誰がやっても変わんねえよ。だけど俺でもやり方によっちゃ充分なんだよ…な‼︎」

猿の右フックからの左アッパーを廻し受けで両方叩き落とし、中村が眼前に手刀を構える。

「別に斬撃はサムライカップルの専売特許じゃ…ねえよ‼︎」

言葉と共に気を込めた手刀を振り下ろす。猿は弾かれた腕を引き戻し、掲げてガードの姿勢を取る。

「甘めぇ‼︎」

構わず振り下ろした手刀はあっさりと猿の腕を断ち切り、袈裟懸けに胴体部分を半ばまで引き裂く。

「ムッキョォォォォッ‼︎」

相変わらず間抜けな叫び声を上げ、猿はゆっくりと煙に変わって消えていく。どうやら今のが断末魔だったらしい。

「はっ、問題にならねえな」

「あっさりしたもんだなおい。まあ、あの吸血鬼が特別強すぎただけか」

苦戦の様子を見せず敵を撃破出来たことに少々拍子抜けの中村達である。まあ、初めての敵で基準になる対象がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルでは想定する敵の実力も過剰になろうというものだろう。

「ま、これで一件落着かな?」

「油断は禁物だ。近衛後輩を連れてとっとと帰るぞ」

「あ、そうでした!刹那さ〜ん、木乃香さんは何ともありませんか〜⁈」

ネギが奥の刹那に呼びかけるが返事はこない。

「…?桜咲〜どうした〜?」

「なにか問題か?」

「危険な状態ならすぐに医者の所に……」

「…りません」

刹那の声が力無く響く。

「え?なに…」

これ(・・)は!…お嬢様ではありません‼︎」

刹那の言葉に全員が固まる。

「…な、に?」

「身代わり用の式神です‼︎こっちの猿は……囮だったんです‼︎」

床に拳を叩き付け刹那が無念の表情で叫ぶ。ボン!と軽い音を立てて寝かされていた木乃香が人型の紙に変わる。

「…おい、ってことは」

「本物はどっか別の場所から……!」

「目立ち過ぎる動きだとは思ったけど、こんな……!」

「してやられたな……お前達!悔しがっている場合では無い‼︎今からでも本物の近衛後輩を探すぞ‼︎」

「そ、そんな…木乃香さんが……」

「兄貴、しっかりしろ!大豪院の旦那の言う通りだ‼︎まだ間に合うかもしれねえ、全員こんなとこで立ち止まっ…」

カモの言葉が途中で途切れる。

その唯ならぬ様子に失意に沈む刹那に叱咤をして立ち上がらせ、駆け出そうとしていた中村達の動きが止まる。

「か、カモ君…?」

「おい……おかしいぜ…」

ネギの言葉も耳に入らぬ様子でカモは何処か呆然と呟く。

「なんで……」

 

 

 

「首尾よく事は運んだようやな…」

ホテル『嵐山』のロゴが入ったワゴン車を運転する眼鏡をかけた妙齢の女性、天ヶ崎 千草は上機嫌に呟いた。ワゴン車の後部座席には薬で眠っている木乃香の姿がある。

千草はホテル内に侵入し、木乃香を無力化した後、彼女の使う式神の一つ、猿鬼に身代わり用の符を使い創り上げた偽の木乃香を抱えさせ、『なるべく派手に目立つような動きで駅に向かい、電車に乗り込んで逃げ、時間を稼げ』と命令した。

動きが余りにあからさまで感づかれるかと思ったが、見張りや護衛は素人らしき少女を部屋に残し、全員猿鬼を追いかけて行ったようだ。

「ふん、腕は確かかなんか知らんが、経験が足りん、ちゅうことや」

千草はせせら笑いながら車をゆっくりと走らせる。もう護衛はいないにしても焦らず、自然な動きで逃げなければならない。万が一不審がられて警察にでも止められた場合面倒なことになる。

「これでようやくや、ようやく始められる(・・・・・)。目にもの見せてくれたるわ…魔法使い共」

千草は顔を歪めて吐き捨て、ハンドルをカーブに沿って左に切った、その瞬間……

 

 

 

なんで辻の旦那がいねえんだ(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

唐突に右の前後のタイヤがバーストし、車は右に傾きながら急激に左折して壁にぶつかり、止まった。

 

「…っ、痛ぅぅぅっ……」

千草が呻きつつエアバッグから顔を上げ、ハッとして慌てて後部座席を振り返る。

そこには少し扉側に体を動かされながらも、傷一つ無い木乃香の姿があり、千草は安堵の息をつく。念の為シートベルトを着けていたことが功を奏したらしい。

「肝が冷えたわ……にしてもなんで急に…」

千草の呟きが終わらぬうちに運転席側の窓ガラスが飛び込んだ何かにより、内側に向かって粉々に砕け散る。

「っ⁉︎」

千草は咄嗟に顔を庇うが、ガラスの破片は千草に届く前に見えない壁にでも当たったように跳ね返り、千草が傷を負う事は無かった。

「……なんや」

「動くな。動けばこのまま突き通す」

千草の悪態が終わらぬ内に硬い男の声が千草を脅した。

千草がゆっくりと目を覆っていた手を降ろすと、そこには窓ガラスを突きでぶち破り、千草の眼前に日本刀を突きつける男ーー辻(はじめ)の姿があった。

 

 

 

 

「そういやいねえぞ⁉︎」

「何処行った⁉︎」

「まさか初めからついてきてないってこと…?」

カモの言葉に辻の不在を確認し、どよめく中村達。刹那も顔を上げ、周りを見回すが当然辻の姿は無い。

「まさか、辻さん、囮に気付いて誘拐犯を追っているんじゃ…」

薄々思い浮かべていたことをネギが言葉にする。

「もしそうならなんであいつ俺らに声掛けねえんだよ⁉︎」

「偶然犯人の姿を見たとかそんなとこじゃねえか⁉︎どっちにしろいつまでもこんな所に居らんねえ!一旦ホテルの近くに…」

「皆、ちょっと携帯見て‼︎」

豪徳寺の言葉を遮るように、山下が声を上げる。

「携帯?」

「こんな時に一体…」

「辻からメールが来てる‼︎多分僕らが猿追いかけてた時‼︎」

「「「「「「‼︎」」」」」」

他の全員が慌てて携帯を開き、メールを確認するとそこには短い文面があった。

『あしどめするこっちこい』

 

 

 

「もう仲間に連絡は取った。あいつらの足ならものの数分でこっちに来る。近衛ちゃんを解放して神妙に縛につけ。そうすれば命までは取らない」

辻はいつでも渾身の突きを放てるよう体をたわめつつ、千草に宣告する。

「…囮に引っかからなかったんか。なんでウチが誘拐犯やとわかった?」

「答える義理があるとでも?」

辻は冷たく返しながら心の中で安堵の息をつく。

…なんとか追いつけたな……

辻が千草を誘拐犯だと見抜けたのは偶然に近い。最も遠い地点にいた辻は皆より遅れて猿鬼が抱える木乃香を遠くから視認し、木乃香が違う(・・)と見抜き猿鬼が囮だと気付いたが、中村達はその時声の届く距離ではなくなっていた。

仕方なく辻は急いで皆にメールを打ち、まだ遠くには行っていない筈の犯人と木乃香を探した。しばらくして、ホテルから業務用のロゴがついたワゴン車が出てくるのを辻は目撃する。この時間帯にホテルの車が出てくるのを訝しく思った辻は近寄り、運転席を見た。すると新幹線に乗っていた売り子(・・・・・・・・・・・・)ホテルの車(・・・・・)を運転している姿を見て千草が黒だと確信し、ショートカットを重ねて車に追いつき、車の右タイヤを切り裂き車を止めて今の状況にあるのだった。

辻が木乃香を偽物と見抜き、千草が新幹線にもいたと確信出来た理由は言葉では上手く説明が出来ない。

辻にしてみれば一目瞭然でも他の人間に恐らく見分けをつけるのは困難を極めるだろう、辻には見えているものが(・・・・・・・・・・・)他の人間には見えないからだ(・・・・・・・・・・・・・)

…こういう時は役に立つから、癪だよな、本当に。

辻は思いつつ、改めて千草に宣告する。

「そのまま百舌の速贄にされたいか?今すぐ車を降りろ」

…頼むから降参してくれよ…

辻の言葉に千草は口端を歪めて笑い、言い放った。

「舐めんなや、ガキ。ポン刀突きつけられた位でイモ引くなら端からこんなことしとらんわ。ウチには引けん理由がある。んな脅しは、通用せぇへん」

「…そうかよ」

辻は呟き、次の瞬間全力で刺突を千草の胴体目掛けぶち込んだ。千草は身を捻って逃れようとするが狭い車内で躱し切れる筈も無く、真面に胴体中央に切っ先は当たった、が。

辻の手に打ち込んだ力が吸い取られて無くなるような妙な感覚が走り、切っ先は千草の服の手前で停止する。同時に千草の体のあちこちから、複雑な紋様のようなものが描かれた長方形の紙が無数に舞い散る。

…ああ、やっぱり入らないか。

辻はこの結果に驚かなかった。千草を見ればエヴァンジェリン程では無いが断ちにくそう(・・・・・・)なのはわかっていたからだ。

…だけどその手の壁は有限だろ…‼︎

あのエヴァンジェリンでさえ障壁を最終的には断ったのだ。もう一撃で刃が届くと辻は感覚でわかっていた。

…人を斬りたくなんてないが、グダグダ甘いこと言ってられないんだよ‼︎

辻は決意を込めて刀を引き、二撃目を打ち込もうとする。が、

「…っ、調子乗んな、ガキぃっ‼︎」

辻が打ち込む前に千草が懐から取り出した長方形の紙を辻目掛けて投擲する。辻は本能的に嫌な予感がして咄嗟に斬撃を中断し、斜め後方に跳躍し紙を回避する。

すると紙は辻の横で爆発し、辻は爆風に煽られ道路に転倒する。

…あっ…ぶねえ⁉︎

真面に受けていれば粉々になっていたかもしれない一撃に辻は冷や汗を流す。ある意味当然だが相手は完全に辻を殺す気満々のようだ。

辻が起き上がり、刀を構えると既に千草は車を降り、呼び出したらしい熊の縫いぐるみのような式神に木乃香を預ける所だった。

「熊鬼、お嬢様をお連れしい、くれぐれも丁重にな」

熊縫いぐるみはクマーッ!と間抜けな返事をして木乃香を抱え上げる。

「…近衛ちゃんを放せ」

「はいわかりましたなんてゆうわけ無いやろうが兄さん?このまま失礼させて貰うわ」

「行かせるとでも思ってるのか?」

「追ってこられるとでも思っとるんか?」

鋭い辻の牽制に千草は嘲るように返し、親指で空を指す。

…?

不用意に視線を上げはしないが辻が僅かに意識を上に向けた瞬間、後方から突然気配が膨れ上がる。

…っ⁉︎

辻は体を強引に捻り、振り返った先に降ってきた輝きを刀で強引に打ち流す。

「きゃあああああああ〜‼︎」

襲って来た人物は間抜けな悲鳴を上げながら吹っ飛んで転がり、千草の側てようやく停止して、膝を払って立ち上がる。

「あいたたー、すみません遅刻してしもて…」

「安う無い銭払っとるんやから真面目に頼むわ…ああごめんなぁ兄さん、上になんかある思うたんはウチの勘違いやったわ」

「この女…」

悪態をつきつつ辻は新手に構える、が…

…女の子?それもいいとこ中学生位の…

千草の隣に立つのはフリルのついた西洋人形の着るような洋服を身に纏った、白髪の小太刀と短刀を両手に提げた小柄な少女であった。

どう見ても護衛に相応しいとは思えない外見だが、先程弾いた斬撃は確かな重い一撃だった。

「どうも〜神鳴流です〜おはつに〜」

間延びした口調で挨拶してくる少女に毒気を微妙に抜かれつつ、

「…神鳴流?それって確か桜咲と同じ流派の…」

「はい〜♡月詠いいます〜」

朗らかな調子で肯定してくる少女ーー月詠。

「追って来られん理由がわかったかいな?兄さんはここで月詠はんに遊んでもろてたらええわ。ほな、頼みましたで月詠はん」

「はい〜わかりました〜。本当なら大層腕が立つゆう神鳴流の先輩とやり合いたかったんですけど〜、お兄さんも中々やりそうですし、楽しみですわ〜」

のんびりした口調で物騒なことを言う月詠に辻は顔を微妙に引きつらせつつ、刀を構える。

…早く近衛ちゃんとあの女を追わないと。

踵を返し、立ち去る千草と熊鬼に目を向ける辻だが、

「あ〜あきまへんよ〜お兄さん〜」

言葉と共に見た目と体格からは想像もつかない重く、速い斬撃が辻を襲い、辛くも辻はそれを受け流す。

「女の子の相手するのに余所見しとったらあきまへん〜ちゃんとウチを見てくれんと〜」

可愛らしく頬を膨らませる月詠に対して辻は刀を構え直しながら、まだ見ぬ中村達に思いを馳せる。

…早く来てくれ、皆。

直後、鋼と鋼のぶつかり合う甲高い音が夜の京都に響き渡り始めた。

 


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