お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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11話 悲劇的 或いは喜劇的大騒動(中)

「お嬢様、私は今までお嬢様のことを避けてきました。でもそれは、お嬢様が嫌いになった訳でも、決して、はい決してです。辻部長と付き合い始めたからでもありません。というか付き合っていません、辻部長はお世話になっている先輩です。…コホン、お嬢様、私にはやるべきことがあります。それは少なくとも私のいる環境では望まれていることで、私自身がやりたいことでもあります。だから私は昔の様に、お嬢様と接することができませんでした」

刹那は言葉を切って目の前の木乃香を見つめる。木乃香は真剣な表情で、刹那の言葉を一語一句聞き漏らさぬとばかりに刹那の目を見つめていた。

正直刹那はまだ木乃香の前に立つのは気後れがする。長年避けてきた反動か、正面から姿を見つめるだけで照れが来るし、口も思考も上手く回ってくれない。それでも、刹那は木乃香と再び話せるようになろうと、決意していた。

刹那一人ならば到底実行には移せなかっただろう。こうして今ここにいられるのは、目の前の不実を重ねていたにも関わらず、変わらぬ友愛を抱いてくれていた木乃香自身と、背中を押してくれた明日菜、そして…

…貴方のお節介のお陰ですね、辻部長……

我知らず刹那は小さく微笑む。刹那は自分でも意外な程自然体で、木乃香に言葉を、自分の気持ちを伝えられていた。

「ですがお嬢様、私はそれを、自分の使命を言い訳にしていました。やろうと思えば何時だって、私はお嬢様と、昔程では無くとも話すことが出来ました。…それをしなかったのは私の怠慢であり、エゴです。お嬢様はご学友も増えられましたし、…私は、もうお嬢様に必要は無いと、…そう思っていました。後ろ暗い事情を抱える私が側にいても、お嬢様の為にならないと考えていたのです。

…そんな考えを、はっきり言葉にした訳ではありませんが、色んな人に遠回しに、或いははっきりと怒られてしまいました。私が思っている程、桜咲 刹那は近衛 木乃香にとって安くは無いと、教えて頂きました。

お嬢様、自惚れたような問いになるかもしれません。私はもう一度、お嬢様の友人と成るのに足る存在でしょうか?私はお嬢様にお話出来ない事情を抱えています、これ以降も満足にお付き合いは出来ないかもしれません。…そんな私でも、お嬢様はあふぅっ⁉︎」

言葉の途中で刹那が妙な声を上げたのは、対面に座っていた木乃香がいきなり身を乗り出し、刹那の両頬を思い切りサンドイッチしたからだった。

ほ、ほひょうふぁま(お、おじょうさま)?」

「…せっちゃん」

木乃香は俯いて前髪を垂らし、表情の伺えない状態で刹那に叫んだ。

「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎⁉︎」

「はひっ⁉︎」

木乃香は顔を上げ機関銃の如く刹那にまくし立てた。

「あんなぁせっちゃん、せっちゃんにもなんや事情があったゆうんは聞いててわからんけどわかったわ、でもな、それでウチとよう話せんようなったゆうならなんでそれをウチに一番に相談してくれんねん‼︎」

「い、いえそれはですから事情が…」

「それと友達付き合いは別ゆうたんはせっちゃんやろ‼︎言い訳は許さへん‼︎」

「はい‼︎申し訳ありません‼︎」

「大体なぁ水臭いんやせっちゃんは!一人で勝手に思い詰めて、ウチの為とか決めつけて‼︎せっちゃんいなくてウチがどんだけ寂しかったと思てんねん‼︎それでも一度友人に〜とかアホかホンマにぃっ⁉︎⁉︎」

「す、すみませ…」

「やかましいわっ‼︎」

「むグッ⁉︎」

木乃香は刹那の頭部を抱え込むようにして抱きしめた。

「お、お嬢様⁉︎何を…」

「……かったあ……」

慌てふためく刹那は、木乃香に声をかけようとして、耳元で聞こえる掠れた声にハッとする。

「よかったあ……ウチ、せっちゃんに嫌われて無かったんやなぁ……」

「……お嬢様…」

…私は、本当に馬鹿で子どもだ。

…お嬢様は、こういう人だと、ずっと昔からわかっていたのに……

「よかったよぉぉぉぉっ………」

「お嬢様…申し訳ありません、お嬢様…!」

 

二人の少女は、抱き合って泣きじゃくりながら、数年ぶりに「親友」に戻った。

 

「あ〜せっちゃんほっぺた真っ赤や〜、ごめんなぁ、ウチ強く叩き過ぎたわぁ…」

「気にしないで下さい、お嬢様。私がしてきたことを思えば、これ位は当然の仕打ちです」

寧ろ足りない位ですよと笑う刹那に、何故か木乃香はむくれたかおをする。

「?お嬢様、何か…」

「せっちゃん、そのお嬢様、ってゆうんやめへん?他人行儀や」

「え…」

木乃香は刹那に詰め寄り、自らを指差して言う。

「せっちゃん昔はウチのことこのちゃんって呼んでくれてたやろ?友達に戻ったんやから、またこのちゃんって呼んで〜な」

「え゛、それは……」

声を詰まらせる刹那に木乃香が再度むくれ、

「なんや〜嫌なんか、せっちゃん?」

「いえ、その、恐れ多いと言いますか、その…」

「と・も・だ・ち・やろ⁉︎恐れ多いとかあるわけ無いやん、ほらせっちゃん!」

「う、く…」

刹那は追い詰められる。

「あー!せっちゃんさっきのほっぺたパチンで足りてない言うとったよな⁉︎じゃあウチのこと避けてた罰としてせっちゃんはこれからウチをこのちゃんと呼ぶこと‼︎決定や〜‼︎」

「ええっ⁉︎」

「は〜い、せっちゃん…」

「う、うう、…の…ゃん」

「せっちゃんせっちゃん!声小さいで〜」

楽しげに囃し立てる木乃香を若干恨めしそうに刹那は見やり、盛大にテンパりながらも名前を、呼ぶ。

「こ、こここのっ、ちゃんっ‼︎」

これ以上無い程噛み噛みの刹那の呼びかけを受けて、一拍置いた後、ブフッと木乃香が吹き出す。

「ぷっ…あっはっはっはっはっはっ‼︎せっちゃんテンパり過ぎや〜‼︎」

「わ、笑わなくともいいじゃないですか‼︎」

「いや〜ゴメン、ゴメンな〜せっちゃん」

謝りながらも顔が笑っている木乃香に、まったくもう‼︎と憤慨しながら、刹那の顔にも笑みが広がる。

…そうだ。

…私はずっと、こんな風にこのちゃんと話したかったんだな……

くすくすと二人で笑い合い、部屋の中は穏やかな空気に包まれる。と、その時……

 

「「「「朝倉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」」」」

 

「……?せっちゃん、今の辻先輩達の声やない?」

「…そのようですね……」

突如ホテル中に轟いた怒声に不思議そうに首を傾げる木乃香と目つきを若干真剣なものに変える刹那。

…辻部長達がホテル内に…?

何かあったな、と刹那は判断し、木乃香に告げる。

「お嬢様、話の途中ですが、私のやること(・・・・)が出来てしまったようです。申し訳ありません。必ずまた、きちんと話す機会を作りますので…」

木乃香は頷く。

「ん、わかった。なんやわからんけど、それがせっちゃんの事情(・・)なんやな?大丈夫や、また話せるなら、ウチはちゃんと待っとるで、せっちゃん」

「…ありがとうございます、お嬢様」

刹那は一つ頭を下げて、部屋の出口へ向かう。

「あ!せっちゃん‼︎」

「!はいっ‼︎」

やや慌てて刹那が振り返ると、木乃香はにっこり笑って言った。

「お嬢様や無くてこのちゃん、やで」

「…はい!行ってきます、…このちゃん」

やや気恥ずかしそうに刹那は言って、部屋を後にした。

 

「あ、刹那さん。話してる時に悪いんだけど、さっき…」

「はい、辻部長達の声でしたね」

部屋から出てきた刹那に待機していた明日菜が声を掛け、刹那も頷く。

「なにかあったのかしら…なんか、朝倉〜とか叫んでたけど…」

「結界に綻びはありませんが、異常が発生したのかもしれません。明日菜さん、すみませんがお嬢様をお願いします」

「ん、わかった。何かあったら直ぐに先輩達と刹那さんを呼ぶわ」

「はい、それでは、行ってきます」

刹那は声の響いてきた方向、ホテルのロビーへと走り出した。

 

 

 

「何処に居る麻帆良のパパラッチ‼︎今日という今日はもう勘弁ならん、俺がこの手で引導を渡してくれる‼︎」

「ってことは状況的に判断して魔法陣はネギが協力する筈無えから消去法でカモか‼︎あんの小動物、いらん騒ぎ起こしやがって‼︎」

辻と豪徳寺はホテル内の部屋という部屋を探し回りながらお騒がせコンビに呪詛を振りまいていた。

大絶叫の後ビビる千雨に大人しく部屋で待機しているように言い含め、辻と豪徳寺は主犯、朝倉とカモを探していた。無論のこと、この馬鹿騒ぎを止めさせる為である。

ちなみに朝倉、死んだな…と呟き、部屋に戻ろうとした千雨だが、接近していた新田先生に気付かず御用となり、更に熱くなって乱闘を繰り広げていたいいんちょ、祐奈、まき絵の三人も敢え無く捕まったのだった。

 

 

 

「フハハハハハ何処じゃあこの血も涙もない衆人の好奇心のいう名の暴力に尻尾を振って奉仕する奴隷がぁっこの中村様が性技の鉄槌を喰らわせてくれるわぁっ‼︎‼︎」

「中村殿中村殿、字が違うでござる」

「ま、ま、まさかポチが私の唇狙てたなんて…そういうのはもっと段階踏んでするものアルよポチ、破廉恥アル‼︎」

「なっにを満更でもない的な顔をしている巫山戯るな脳筋馬鹿娘‼︎大体俺はそんな馬鹿げたゲームに参加していないしそもそも襲って来たのは貴様の方だろうが⁉︎参加している癖になぜルールを把握していないもう一度言うぞ阿呆か脳筋馬鹿娘‼︎」

疾走しながら怪しいオーラを立ち上げる中村と併走しながらツッコミを入れる楓。頬に手を当て顔を赤らめながら照れ隠しに洒落にならない威力の蹴りを大豪院に入れながら走る古にそれを流しながら怒鳴る大豪院と、なんともカオスな状態で一行が探しているのも無論朝倉とカモである。

楓からゲームの話を聞いた中村は勝負は後だーっ‼︎と走り出し、およ?と首を傾げてから楓も後を追い走り出した。一番説得に苦労しそうだった古は、なんとゲームのルールを大豪院が参加すると聞いた時点で勝負に思考が吹っ飛び、真面に聞いていなかったらしく赤くなってフリーズした。大豪院は脱力しながらも勝負は預けるぞと言い残して走り出し、我に返った古が後を追い今の状況である。

「ここにも居ねえ‼︎後は奥かぁポチ⁉︎」

「ポチと呼ぶなと言っているだろうがカスが!虱潰しに探すぞ他に当ては無い‼︎」

「…妙でござるな」

「?何がアル?」

「それは……中村殿?」

「なんじゃあ⁉︎」

「…何やら不穏な気配を感じるでござる」

 

 

『お、おおーっと、何やら男性陣の参加者が挙って司会者を血眼になって探しているぅ〜‼︎何やら身の危険を感じる為実況は一旦中断させて頂きます‼︎』

「あーあ、朝倉死んだね」

「事情一切説明せずってそりゃ怒るわ」

 

「ちょっとカモっち、やばいじゃん⁉︎何あたしどんな目に遭わされんの⁉︎」

「ま、まあまあ落ち着けブン屋の姉さん。いきり立っちゃあいるが旦那方は懐の広いお方達だ。ちょっと説教喰らうくれえで…」

「到底そんな風に見えないんだけど⁉︎兎に角あたしはずらかるわ、後よろしく‼︎」

ガサゴソと食券を袋に詰め込み、朝倉は逃走を図る。

「…逃げらんねえと思うけどなあ、まあいいか。しっかしネギの兄貴も外に出ちまったしこりゃあ当てが外れて…んん?なんだこりゃあ⁉︎」

カモの見つめるモニターの先には、部屋の一室に閉じこもり、扉を破られないように抑える夕映とのどかに鳴滝姉妹、そしてその扉の外側で乱打して扉を開けようとする四人(・・)のネギの姿だった。

 

 

 

それは不幸な事故だった、と言ってもいい。身代わりの紙方を渡した刹那も、字を書き間違えて失敗した紙方をゴミ箱に無造作に突っ込んでいたネギも、それぞれがちょっとした不注意をしでかしただったのだから。

しかし、それにより起こった事象はちょっとした、では済まされない惨事を生んだ。

式神を扱う際に注意しなければいけない点は幾つもあるが、その一つに、呼び出した式神に命令を与えずに放置していてはならない、というものがある。何故ならば式神とは、余程高位の自我を確立しているような存在で無い限りは、呼び出した術士の命令に単純に従うだけの極めて薄い心しか持ち合わせていないのだから。

そういった式神は命令を与えることにより、それを実行することに全霊を注ぐため、悪いモノ(・・・・)が入ってくる隙を無くすのだ。

それ(・・)は例えば悪霊や浮遊霊などの、朧な意識を保っているだけの現世になんの影響も及ぼせない微弱な存在。そういったモノたちは、自分が死んだことを認められないもの、現世に未練を残し、それを諦められずに成仏できないモノが大半である。

そのモノ達の共通点は生きたがっている(・・・・・・・・・・)こと。

生きた体でも仮初めの体でもなんでもいい、兎に角生き返ることにそのモノ達は腐心している。

だから式神には命令を与えなければならない。命を受けて始めて彼らは微弱とはいえ、心を持つのだから。仮初めだろうと生きた(・・・)体にはどんな方法を使ってでも心を入れなければならない。

それを(・・・)ネギは怠った。書き損じの紙方四枚、例え名が間違おうと書かれた以上は不完全でも紙方は簡易の式として起動する。そしてその紙方達は、成功してベッドに寝ている命を与えられた一体以外は何も命令されていない(・・・・・・・・・・)。そこに雑霊達が取り憑き、紙方を乗っ取ったのは起こるべくして起こったことだった。

 

 

 

「…どうなっているのですか、これは」

夕映は理解できない状況を呪うように呻く。

あちこちが破れ、軋む扉はいつ破壊されてもおかしくない。部屋の机を引きずってきてバリケードを作り、その上から四人がかりで押さえているが、破られるのは時間の問題である。

夕映とのどかはホテルの外側を通り、非常口を開けてネギの部屋の前まで来ていた。そのままネギの部屋に侵入しようとした所、天井裏から現れた鳴滝姉妹と鉢合わせ、すわ乱闘になるかと思われた瞬間にそれは現れた。

その場の全員がネギが現れたと最初は思った。しかしネギのようなそれは数が四人もいた。しかもネギ本人ではあり得ない程に表情が不気味に歪み悪意に満ちて、それでいて目は虚ろに曇り、意思を感じない死人のようであった。

「…え、え〜と先生?じゃないよね、でも…」

「っ⁉︎鳴滝さん、近づいては駄目です‼︎」

風香がネギ擬きに近寄るのを見て本能的な何かが警告をし、夕映は風香を引き戻す。そして夕映はその場の全員に告げる。

「史香さん、のどか‼︎逃げますよ‼︎それは先生ではありません‼︎」

「え、え?」

「ゆ、ゆえゆえ〜こ、これって…」

「痛たゆえ吉なんなんだよ、引っ張るなって‼︎」

「話は後です、早く‼︎」

戸惑う三人を連れて駆け出そうとした瞬間、それは襲ってきた。危うい所で捕まりそうになったのを空き部屋に入り鍵を掛けて事なきを得たが、外では不気味な呻き声と共に扉を破壊しようとネギ擬き達が攻撃を仕掛けている。それが今の現状だった。

「なんなんだよあの先生みたいなゾンビ擬き⁉︎」

「ふええ、お、お姉ちゃ〜〜ん…」

「泣くな史香‼︎泣いたって何にもなんないぞ‼︎」

異常な状況に怯えて泣く史香を風香が叱咤して励ます。

「ゆ、ゆえ〜なんなのかな、外の…」

のどかが細かく震えながらも、隣の夕映に問いかける。

「…わかりません。少なくともネギ先生で無いのは確実ですが、朝倉さんの用意した偽物の演出にしては明らかに度を越しています。なんにしてもこのままでは…」

「ヴ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ‼︎」

まるで本当にゾンビのような呻き声を上げながらネギ擬き、紙方に取り憑いた悪霊は扉を攻撃する。

悪霊が夕映達を狙う理由は簡単、より良い体を手に入れる為である。仮初めの体よりも血肉の通う生きた人間の体を、霊達は当然ながら好む。だから夕映達を殺し、魂が抜け出た後にまだ生気の抜け切らない体を乗っ取ろうとしているのである。

言うまでも無いが、紙方を乗っ取った霊達に扉を破壊する力など無い。かと言って、霊達が乗っ取ったのは身代わりとして待機していること位しかできない低位の式神だ、本来なら十歳のネギの身体能力と同等かそれ以下の出力しか発揮は出来ない。

しかし、不幸なことにその紙方を発動させたのはネギ・スプリングフィールドであった。

ネギの魔力は膨大と言っていい潤沢なものである。ネギは慣れない東洋の術式に勝手が解らず、身代わり用の式神に使うにはあり得ない量の魔力を紙方に注ぎ込んでしまった。悪霊達はその魔力を利用して仮初めの体を強化しているのだ。

ミリミリと不気味な音と共に扉がついに裂けて一部が崩落し、虚ろに歪んだネギ擬きの顔が現れる。

「ひ、うぅ…」

「う、うわぁ……」

鳴滝姉妹が怯えた声を上げる。

「ゆ、ゆえゆえ〜、ゆえだけでも…」

「逃げろ、などと言ったら引っ叩きますよ、のどか。逃げるなら皆で、です」

「で、でもぉ〜っ⁉︎きゃあっ⁉︎」

「のどか⁉︎」

「本屋⁉︎」

扉の隙間から突き出てきたネギ擬きの腕がのどかの手を掴み、引き戻す。のどかは必死に踏ん張って抵抗するが、たちまち引きずられ、扉にぶつかる。更に一人分の抵抗が無くなったことにより、扉が強引に押し開けられ、全員がネギ擬きの射程内に入る。

「ふ、ふえええぇ〜〜ん……」

「史香!この、なんなんだよお前ら⁉︎」

史香が泣きじゃくり、風香が震えながらも威嚇する。

「い、痛っ⁉︎」

「のどか‼︎放しなさい、この‼︎」

腕を強引に引かれて痛みに呻くのどかの姿に夕映は辞典のような暑さの本で殴りかかるが、払い落とされ、床に強引に引き倒される。

「痛っ⁉︎……く…」

呻く夕映の顔に向かい、ネギ擬きが手を伸ばす。

「ゆ、ゆえっ‼︎は、放してっ⁉︎」

「ゆえ吉っ⁉︎」

のどかと風香の呼びかけの声を何処か遠くに聞きながら、夕映は観念して目を閉じる。

…ここまで、ですか……

次の瞬間襲いかかるであろう痛みに身を固くし備える夕映だったが、いつまで経っても痛みは夕映の身を貫かない。

………………………?………

うっすら夕映が目を開けると、そこにいたのは、一人は相変わらず不気味な顔のネギ擬き。そしてもう一人は………

「いや〜こうも完璧なタイミングで助けに入れっとよ……」

その人物は奇妙な体勢で固まったネギ擬きの胴体を手刀で貫いていた。

「ヒーロー冥利に尽きると思わねえか、ポチ?」

中村 達也が立っていた。


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