お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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14話 劇場舞台にて 姫を守る誓いの場

「のどか、やはり心配ですか?」

様々な機体が騒音を奏でるゲームセンター内、ハルナとのカードゲーム対戦を行っていた夕映は、いつの間にか画面ではなく窓の外をぼんやりと見つめていたのどかに声をかける。

「あ…ゆえ、……うん」

のどかはややあって頷く。

「私なんかがついて行っても、邪魔なだけだって解ってるけど…明日菜さんは一緒に行ってるから……そんなこと言ってる場合じゃないのは解ってるけど、ネギ先生達に手助けできるかもしれない明日菜さんが、ちょっとだけ…羨ましいし、悔しいな、って…」

恥ずかしそうに仄かな羨望と嫉妬を滲ませるのどかに、夕映も微笑みながら頷いた。

「気持ちは解りますよ、のどか。話を聞かされただけの私でも、内心穏やかではありませんから」

夕映は対戦を終え、のどかの隣に並び立つ。

「…今は、無事を祈りましょう、のどか」

「……うん」

 

「…むむむ、何かしらこの茶化すには抵抗のある真剣な空気ながらも仄かに香るラブ臭は……」

ある意味恐るべき嗅覚を持つハルナはシリアスな二人から敏感にその手の気配を嗅ぎ取っていた。

 

 

 

「どうしたでござるか、古?」

歩きながらも難しい顔をしている古に隣を歩く楓が尋ねる。

「…ポチ達のことアル。絶対何かやてるのに私らには結局詳しい説明が無かったアルよ!」

プンスカと怒りながらこの場に居ない変人集団に抗議の声を上げる古。それに対して楓は苦笑し、告げる。

「こちらは腕に覚えはあれど、在野に身を置く今だ一学生。巻き込んで後々迷惑がかかることを嫌ったのでござろうなあ」

「それが水臭い言てるアル、我和你 谁跟谁‼︎」

中国語で悪態をつく古に楓は微笑む。

「なに、大局を見誤ってまで助力を拒む器の小さい御仁達ではござらぬ。その時には遠慮なく助けに入ればいいでござるよ。リーダーや宮崎殿には話してこちらには話さずに行くということはある意味判断を誤りはしないとこちらを信頼している、ということでござる」

何より…と楓は微かに痕の残る自らの二の腕を見やる。強烈な一撃の感触と、それを打ち放った瞬間の苛烈な顔を思い出して、ズクリ、と微かに疼くものを楓は感じつつ、言う。

「あの御仁らがどうにかなるような事態など、そうそう起こり得ぬでござろう」

「……確かに、そうアルね」

古もやや気勢を収め、空を仰ぐ。

「…今なにしてるアルか、ポチ…?」

 

 

 

「ぶっ、クシュンッ!」

大豪院が大きめのくしゃみを洩らす。

「あれ、大丈夫、大豪院?」

隣を歩く山下が声を掛ける。

「大事ない。…それにしても俺達は何故こんな所にいる…?」

「しょうがないでしょ、待ち合わせ場所がここなんだから」

辺りには着物や明治初期の洋装、花魁の遊女や黒尽くめの忍者など、多種多様な服装の老若男女で溢れている。

ここは京都シネマ村。様々な時代を模した建築物を見回り、ジャンルに合わせた仮装を行える観光地である。

何故関西呪術協会総本山に向かうと言っていた大豪院達がこんな所にいるかというと、出発するにあたって刹那が掛けた電話が原因となる。

 

「はい…はい…、はい?ですが…いえ、わかりました、よろしくお願いします…」

通話を切った刹那に辻が声を掛ける。

「…なんだって?」

刹那はピクリ、と体を震わせるが、平静を装い、言葉を返す。

「…向こうに行く旨を伝えた所、迎えの車を出す、との事でした…」

「へえ、そりゃご丁寧な対応ですことで」

ぎこちない二人をニヤニヤしながら眺めていた中村が何と無く胡散臭そうな顔で呟く。

「まあ、何にしろひとまず受け入れてくれるならいいじゃない」

「だな。最悪門ぶち破って入る羽目になるかと思ってたぜ俺は」

山下と豪徳寺が取りなすように言う。

「…腑に落ちない、という顔だが、何かあるのか、桜咲後輩?」

刹那の浮かない顔を見て大豪院が問いかける。

「いえ、それが…」

困ったような顔で刹那が言った。

「待ち合わせを京都シネマ村で行う、との事なんですが…」

「…はい?」

明日菜がきょとん、とした顔で問い返した。

 

 

 

「何故こんな所で待ち合わせだ?」

「桜咲ちゃんが言うには協会総本山まで比較的距離が近い、人が多いので敵が襲って来にくい、武装していても違和感が無い、からじゃないかって」

山下の返しに胡散臭そうな顔をする大豪院。

「…腑に落ちんな」

「ねえ」

二人で唸っていると背後から声が掛けられる。

「なに難しい顔して唸ってんだ、考えたってわかる訳無えんだから大人しく待ってるしか無えだろ?どうせなら楽しんで待とうぜ〜?今んとこ敵の気配はしないんだしよ」

「あ、あの〜中村さん、その格好は、忍者ですか?…」

「違うぜ兄貴、もっと珍妙な何かだ」

「ねえ中村先輩、なんで自分からネタに走る訳?先輩芸人じゃ無くて空手家なんでしょ?」

中村が鼠小僧の格好をして話しかけて来ていた。顔立ち自体は悪くなく、髪もオレンジとどう考えてもミスマッチな仮装の筈なのに、怖い位様になっている。欠片も羨ましくは無いが。ネギとカモは妙な存在感を放つ中村に冷や汗を流し、明日菜は呆れたように中村を眺めている。

「緊張感が無いのだ、貴様は」

「いいじゃねえかよ、薫っちもやってるしよ」

「え…ってうわぁ、何時もの格好と変わらないじゃない」

豪徳寺はというと天に聳え立つポンパドールに裏地に龍の刺繍が入った長ラン姿である。完全に麻帆良にいる時と変わらず、正直真新しいものは何も感じない。が、周りからすれば完成度の高い昭和ヤンキーの仮装に見えるらしく、外国人の観光客などに声をかけられつつこちらにやってくる。

「何のつもりだ貴様は」

「いいじゃねえかどうせ3ーAの奴らにはもう全員に俺らの存在ばれちまったんだし」

何時もの格好の方が気合いが入んだよ、と豪徳寺は言い放つ。

「…まぁ、いいんじゃないかな。あっちもあんな感じだしね」

「あ、出て来ましたね、木乃香さんと刹那さん」

「お〜木乃香の姉さんは当然として、刹那の姉さんも似合うじゃねえか‼︎」

山下が指差す先には絢爛な着物を纏った木乃香と刹那、の二人に挟まれる辻の姿があった。

 

「どやどや先輩〜!せっちゃん可愛ええやろ〜⁉︎」

「お、お嬢様!ですから私はこういった服は…!」

「お嬢様やなくてこのちゃんや〜。聞こえんで〜どや辻先輩‼︎」

ドッヤァァァッ‼︎となんとも可愛らしいドヤ顔の木乃香が辻に刹那を示す。

…………………いや、どうしろと。

辻は数秒間のシンキングタイムを得てから、刹那を見てなるべく感情を込めずに思ったことを言う。

「…よく似合っているぞ、桜咲」

「っ!………ありがとう、ございます…」

刹那はそっぽを向いたまま返事をするがまじまじ見る必要もない位に顔が赤い。

……なんだこの空気。

辻が足元から蟲が這い上がってくるような怖気を感じていると、木乃香がチッチッと指を振り、

「あかんで〜辻先輩。もっと気持ちを込めて褒めな〜、素直に可愛いって言える方が彼氏さんとしてポイント高いとウチ思いますえ?」

「だから俺と桜咲はカップルじゃねーって何遍言やあ解んだよどいつもこいつも‼︎俺と桜咲はせ・ん・ぱ・い・と・こ・う・は・い・だ‼︎」

「何を寝ぼけたことほざいとるんや辻先輩は、も〜」

「ねえなんか今凄い毒舌飛び出さなかった?君近衛ちゃんだよね?また入れ替わったりしてないよね?」

ゆるふわ天然系が売りじゃないのか君は、と辻が呻いていると、木乃香がそんな辻をスルーしてポン、と手を打ち、にこやかに告げる。

「じゃあ次は辻先輩の番やな〜、何がええと思う、せっちゃん?」

……何?

「待て、俺は着ないぞ」

「なに言ってはるんですか、辻先輩。一人だけ普段着だと浮きますえ?」

「言ったらなんだけど君らが勝手に着たんじゃん⁉︎いいよ俺のことは放っておいて!久方ぶりに二人で遊んでるんだろ、俺はひっそりとついて行くから‼︎」

辻がそろそろと離れながら空気と一体化しょうと努力していると、がっしとその袖が掴まれる、振り向くと刹那であった。

「…なによお前まで、なにか俺に恨みでも……あったな、つい昨日に特大のが。わかった、わかったよ桜咲。これはお前の正当な報復の一環だな?俺は何を着ればいい、女装か?お笑い系か?ブーメランパンツでも着て施設内を一周すればいいのか?」

「一人で勝手に完結しないで下さい、見たくありませんよそんなの。気持ちの整理がついていないだけで恨んではいないと何度言えば解ってくれるんですか…兎も角、辻部長。お嬢様もああ仰っていますのでご一緒して下さい」

「やだよ‼︎俺この調子じゃ完璧邪魔者じゃん‼︎折角仲直りしたんだから二人で水入らずに楽しんでこいよ‼︎」

「わ、私だけこんな恥ずかしい格好嫌ですよ‼︎辻部長だけ逃げないで下さい‼︎人数が増えれば何だかマシになるかもしれないじゃ無いですか‼︎」

「何それ⁉︎自分が恥ずかしいからって他人にも着せるって、+に+しても一緒に見られて倍恥ずかしいだけじゃん⁉︎嫌だ俺絶対着ねえーっ‼︎」

「はいはーい一名様ご案内や〜。すいませーん、お願いしまーす」

はーい、という朗らかな従業員の声と共に二人に引きずられ辻は更衣室の奥に消えていった。

 

「わ〜辻先輩、似合いますえ〜!」

「…よく、お似合いかと思います、辻部長」

「………………」

辻は浅葱色に白いダンダラの背中に「誠」の染め抜かれた羽織に鉢巻を巻いた、所謂新撰組の格好をしていた。

「うんうん、これでせっちゃんと並んでもお似合いやな。ウチもコーディネーターとして鼻が高いわ〜」

「いえ、ですからお嬢様、私と辻部長は…」

刹那の講義を他所に舞い上がっている木乃香をぼんやり見つつ、辻はポツリと呟いた。

「俺、寧ろこいつら(・・・・)をぶった斬った側なんだけどなぁ…」

 

「…なんか端から見てたら両手に花のデートにしか見えないねぇ…神楽坂ちゃんも混ざればいいじゃない?」

「いや、なんかお邪魔虫な気がするっていうか、混ざりにくいわよ、今のあの三人」

「木乃香さん、凄く楽しそうにしてますね…状況は大変ですけど、仲直りできて本当に良かったです…!」

「おうおう辻の旦那も憎いねぇ、美少女二人、世はまさに春、ってか?」

「……憎しみで人を殺せたら……‼︎」

「五月蝿いわ馬鹿。しかしこんなことをしていていいのか……?」

「まあ迎えまだ来ねえしなぁ…しかし来ないのかね、敵さんは。まあ来ない方がいいに決まってるんだけどよ」

辻達の後をゾロゾロとついていきながら中村達はコメントする。前の三人は木乃香と刹那の艶やかさが一際目立ち、辻も中々見てくれはいいので非常に目立つ一行になっている。

「あ、地元の中学生かな?写真撮ってるや、いいな後で僕も撮っておこ」

「わ、木乃香ちょっと大胆過ぎない?あ〜刹那さんも…何気に刹那さんもノリノリじゃない?」

「美少女二人に両腕抱き着かれて写真撮影とか、あれ〜可笑しいな〜

いつの間に世界はラブコメ時空に変わったんですか〜?あれ〜?」

「その格好で怪気炎を上げるな馬鹿、珍妙を通り越して怖いわ」

「辻の非常に居た堪れなさそうな顔が最早シュールだな…」

 

「ありがとうございました〜、お兄さん大人しそうな顔して隅に置けませんね〜どっちが本命なんですか?」

「五月蝿いわ用事が済んだら失せろ女子中生共⁉︎」

きゃー!と楽しそうに叫びながら散って行く女子中学生の群れ。

……何やってんだろ、俺?

虚しさを抱えつつ辻は二人と歩く。

木乃香は楽し気に刹那をイジり、刹那はあたふたと盛大にテンパりながらもなんとか会話をしている。

…まあ、いいか。

この場に自分が混ざっているのが納得のいかない辻だが、二人が楽しそうだからいいか、と辻は現状を受け入れる。刹那から助けを求める視線を向けられている気がするが気の所為だろう、うん。

…楽しめよ、桜咲。二人でずっと遊びたかったんだからさ、近衛ちゃんは。お前もそうだろ?

姦しく、だが楽し気に歩く三人組。だが、唐突にその幸福な空気は破られた。

 

「ホホホ〜〜〜〜!」

三人の前に一人乗りの馬車が割り込むように停車する。馬車には何処ぞの貴婦人のような格好をした、見覚えのある少女が乗っていた。

「……わざわざこんな回りくどいやり方する必要無いだろ、ああ面倒臭い…」

黒子の格好をした、僅かに見える肌が異様に白い細身の男が気怠そうに呟く。

「まあまあそう言わんで下さい〜他になにかしてもらうつもりはありませんので〜」

楽しそうに黒子の男に返し、その少女ーー月詠はゆっくりと馬車から降りる。

「どうも〜神鳴流です〜〜」

「違うだろ……」

「じゃなかったです……そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます〜〜…そこな剣士様、今日こそウチのものになってもらいますえ〜」

………………なんだ、これ?

「な…何?なんのつもりだこんな場所で…?」

刹那も唐突過ぎる展開に困惑したように問い返す。

「せっちゃん、辻先輩、これ劇や劇、お芝居や」

木乃香が困惑している辻と刹那に告げる。

…ああ、劇に見せかけて木乃香ちゃんを攫おうとしてんのか……

「ってそれならなんでモノにするって設定が俺なんだよ⁉︎」

致命的な矛盾に気付いた辻が大声で問い返す。月詠は大袈裟な動作で身を捩り、顔を覆って悲しみを表現し、言い放つ。

「ああ、貴方様はいけずなお人……どれほどの金銭も、栄誉ある地位も、何を持ってしても貴方様の忠誠心を揺るがすことは出来ません〜…でもウチは貴方様が愛しい、この想いは諦めのつくものではありません〜〜……故にこそ、決闘です〜」

月詠は左手の手袋を外し、それを辻に向かって投げつける。

「っ!」

辻が反射的にそれを受け取り、周りの観客がにわかにざわめく。

「剣士様を賭けて決闘を申し込ませて頂きます〜〜三十分後、場所はシネマ村正門横「日本橋」にて〜〜〜」

マイペースで話をどんどん進める月詠に堪らず辻は抗議する。

「おい待て巫山戯るな、こんな決闘、俺は…」

月詠は辻の様子にクスクスと笑う。

「やっぱり貴方様はお姫様方が大事なんですね〜妬けてしまいますわ〜」

「おい聞いて…」

「でもあきまへんよ〜女の子が決闘なんてもの仕掛けてまで気を惹こうとしてるんですから〜」

月詠は一瞬笑みを消し、情念の篭った、怒りのような妬ましいような、憎らしいような形容し難いドロドロした表情になり、辻に告げる。

「……ちゃんとウチ(・・)を見ぃや………」

っっ⁉︎…………………

殺気にも似た濃密な気に、辻は言葉を失う。刹那は息を呑み、木乃香はビクリと体を震わせ、刹那にしがみ付く。

「ほな♡逃げたらあきまへんえ〜剣士様〜‼︎」

「あ〜阿呆臭い……」

月詠は馬車に乗り込み、馬の嘶きと共に去って行った。

 

「……桜咲」

「…はい」

辻の緊迫した呼びかけに刹那は応じる。

「…どうしようめっちゃ怖いんだけどあの女…‼︎」

ずるっと刹那はズッコケそうになる。シリアスな表情のまま何を言うかと思えばこれである。

「…いや、確かに怖いですけど辻部長、もう少し…」

「解ってるよ格好悪いよな俺‼︎でもお前は解ってないぞあの女の恐ろしさを‼︎曲がりなりにもこの前まではお前のことも言及していたのになんかもう俺だけに執着してる感じじゃん⁉︎なんなんだよこの数日間俺が何やったってんだ畜生ぉぉーー‼︎」

辻は周りの奇異の目線も気にせず青空に向けて絶叫する。

「…辻」

そこに観客に紛れて様子を伺っていた中村達が合流する。

「…………」

無言で振り向く辻に先頭の中村がイイ笑顔を浮かべながら告げる。

「よかったな、クール系と天然系に加えてヤンデレ系美少女まで攻略対象に加わったぞ‼︎」

「五月蝿えぇぇぇぇぇぇっ‼︎‼︎‼︎‼︎」

辻は全力で叫び返した。

 

 

 

所変わって衣装屋の前にて。

「ええっ、逃げるんですか⁉︎」

ネギは驚いたように声を上げる。

「応よ。相手は劇にかこつけて近衛ちゃん攫おうとしてんだろ?んなもんに馬鹿正直に付き合う必要は無えよ。辻を行かせて決闘で時間稼いで俺らはこっそり抜け出して総本山とやらにもう自力で向かっちまおう」

中村は肩を竦めて言う。その後をバカレンジャーの面々が続ける。

「まああっちも馬鹿正直に日本橋に全戦力集結させてねえだろうけどよ。少なくともある程度はあっちにいる筈だぜ」

「余剰戦力がこっちを襲ってきてもこっちは近衛ちゃんを逃がせれば勝ちなんだ。総本山まで逃げ込めれば敵は手を出せないらしいからね」

「と、言うことだ。今すぐ着替えろ、桜咲後輩、近衛後輩。衣装屋の裏口から逃げるぞ」

告げられた言葉にカモが頷く。

「…成る程、合理的っすね」

「で、でもそれって辻先輩が滅茶苦茶危険なんじゃない?」

明日菜の言葉に辻は首を振り、懐からカードを取り出す。

「大丈夫だ。不覚にもこれが役に立つ」

「…カードの転送機能、ですか」

刹那が確認するように呟く。

「ああ、頃合いを見計らって桜咲に喚び出して貰えば、俺はただ粘っているだけでいい。あのイカレ女は強いが、それ位は出来る。…正直顔も合わせたく無いが、ここが正念場だ。俺も腹を決める」

辻の言葉に、刹那は何か言いたげであったが、やがて一つ首を振り辻に告げる。

「…また危険な役目をお任せします。言える立場ではありませんが、無茶はしないで下さい」

「…わかった」

辻は頷く。

「…あの、せっちゃん、明日菜、皆さん……」

話を黙って聞いていた木乃香が口を開く。木乃香には先程、魔法の存在を伏せて、木乃香のお家騒動の関係で木乃香を攫いに来ている輩がいると既に説明がしてあった。木乃香は何かを言おうとするが、暫し迷った挙句、何事も言葉を発せられずに口を閉じる。

「木乃香……」

「木乃香さん…」

明日菜とネギは木乃香を心配して寄り添う。心優しい木乃香が、自分に関係する騒動で皆に迷惑を掛けてしまう事に、心を痛めていることが二人にはわかった。

そんな木乃香に辻は優しく笑って告げる。

「近衛ちゃん、気にする事は無いよ。この場に君を守ることを嫌々やろうとしている奴なんて一人だっていやしない。俺達は皆、望んでここにいるんだ」

辻の言葉に皆が続く。

「そうそう、美少女を守るのは野郎にとって当然の義務だぜ‼︎泥舟に乗ったつもりでいな‼︎」

「それを言うなら大船だ、阿呆。気にするな、と言っても無理な話だろうが、君が今言うべき言葉は謝罪ではなく礼の言葉だ」

「僕ら、相当強いよ?心配しないでよ、近衛ちゃん」

「漢としてこんな状況、寧ろ望む所だぜ‼︎」

「木乃香さん、僕も精一杯頑張ります‼︎辻さん達はとても強い人達です、安心して下さい‼︎」

「木乃香、この人達もあたしも、木乃香が嫌だって言っても勝手に助けるわ。だからもう、諦めてドーンと任せなさい‼︎」

「……皆…………」

何かを堪えるように俯く木乃香に、最後に刹那が歩み寄り、告げる。

「安心して下さい木乃香お嬢様。何があっても私がお嬢様をお守りします。そして信頼して下さい。何があっても皆さんは私達(・・)を守って下さいます。勿論私も、皆さんを守ります。…もう誰も、以前の私のようにいなくなったりしません(・・・・・・・・・・・)

「……せっぢゃ゛ん…………」

目から熱いものを溢し始めた木乃香がくぐもった声で刹那を呼ぶ。

刹那は木乃香を優しく抱き留め、赤子をあやすように背中をゆっくり撫でる。木乃香はしゃくり上げながらも、はっきりと皆に向けて言った。

「…皆、さん、……ウチの、こと……よろしく、…お願いします…!」

その場にいた全員が、笑って声を揃えた。

「「「「任せとけ(といて て下さい)‼︎‼︎」」」」

 

お姫様(木乃香)を守る為の戦いが、幕を開ける。


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