お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

3 / 88
2話 筋肉教師の警告 友人のお節介

「よーしお前ら、ホームルーム始めるぞ、席に着け。さっさと静かにせんと下校時間が遅くなるだけだぞ」

一日の授業が終わり開放感に賑わう教室の中、教卓の前に立つ大柄なスーツ姿の教師が生徒に声をかける。

教師というより格闘家かプロレスラーと言われた方がしっくりくるこの厳めしい男、名を杜崎 義剛(もりさき あきたけ)、名前まで強そうである。麻帆良の広域指導員の一人で高畑・T・タカミチこと死の眼鏡(デスメガネ)と双璧を張る暴力教師。理由の無い体罰はしないが逆に言うと理由があった場合容赦はしない。二メートルを超える巨体だというのに信じられない速さで獲物に接近してはそれが100キロ超の大男だろうと片手で振り回す。

恐ろしいことに素の身体能力だけでこれらを行っているらしくそこらの腕自慢程度では気による強化を使うまでもなく鎮圧する。問題を起こした連中に軍隊仕込みらしき容赦のない打撃関節投げ技を決める姿から

「生物災害」(バイオハザード)「怒れる猿人」(レイジング・ゴリ)「暴虐武人」(アウトレイジ)などと呼ばれている。

ちなみに最もこの鉄人教師にお世話になっているのは辻達バカレンジャーの五人で、事あるごとに繰り返される殺し合いのような応酬は学園の名物(?)の一つになっている。

 

「さて、連絡事項等は今朝話した通りだ特に追加変更はない。四日後の大停電に向けて各々準備をしておくこと。そして中村。去年のような騒ぎを起こして見ろ、今度こそ痛めつけて殺すぞ」

「おいおいおいおい、この猿人が一応仮にも驚異的なことに教師やってる身で生徒に対してとても吐いてはいけないような暴言かましたぞ。PTAは何やってんだいたいけな生徒が傷付いてるってのによー」

「いたいけな生徒?何処にいるんだ見えんぞ俺には。俺に見えるのは呼吸するように問題を起こす害虫以下のクズだけだ」

「おやおやおやおやおやどうやらこの脳味噌筋肉は身体鍛え過ぎて目ん玉にまで筋肉が膜張ってるらしいぜ。この清廉潔白品位方正なこの中村達也様捕まえぶぼぁぁ‼︎てめえなにしやがる暴力教師、脈絡無く人様ぶん殴ってんじゃねえぞ‼︎」

目にも止まらぬ速さで顔面を殴られた中村が鼻血を垂らしつつ怒鳴る。

「寧ろ今の流れでどうして殴られないと思っていた馬鹿の日本代表。あまり俺を苛つかせると前倒しで潰すぞどうせまた覗きでもかますんだろうからな」

「ああ⁉︎証拠もねえくせに人疑ってんじゃねえぞ教師以前に人間失格野郎が!大体覗きに関しちゃ俺だけがやった訳じゃねえんだから俺だけを責めるんじゃねえよ‼︎」

虫でも見るような冷たい視線を送る杜崎に中村は心底心外だと言わんばかりの怒りを露わに周りに被害を広げにかかる。

「さらっと俺たちまでお前に加担したような言い方をするなこのボケ‼︎」

「僕らは話があるって言われて大浴場の近くに呼び出されたら中村が侵入開始しててドサクサで巻き込まれただけじゃないか!」

「…貴様を止めに突っ込んだ所為で共犯扱いだ。戯けたことをほざくなゴミが」

案の上他バカレンジャー達からバッシングが飛びまくる中、最後に辻がポツリと付け加える。

「…言いたいことは大体言われたからあんまり関係ないけど一つ。中村、さっきの反論は一応まだ何もやってないんだから証拠もないくせに、じゃなくて根拠もないくせに、の方が正しいだろ」

「「「どうでもいいわ‼︎」」」

中村達や杜崎はおろか他のクラスメートまで一体となった突っ込みが炸裂した。

 

「…兎に角ホームルームは終わりだ、これにて解散。中村、警告はしたぞ。これで何かやらかすなら本当に抹殺してくれる」

去り際に物騒な宣言をして杜崎は教室を後にした。それを気にした様子も無く騒がしくなる教室、正直慣れなくともいい方向に慣れてしまったクラスである。

「…けっ、いくら脅されようとも弾圧に屈さず全力で目的地に向かうのが真の男ってもんだぜ」

「懲りずに覗きに行きますというだけの宣言を無駄に格好良さげに言うんじゃねえよ馬鹿が」

「言うまでもないことだけれど僕達は一切協力しないよ。死にに行くなら一人で逝って」

「あらかじめ言っておくが大停電の日は呼び出しにも応じん」

全く堪えた様子も無く無駄にイイ表情で覗き宣言をする馬鹿に冷たくツッコミが入った。

「なっお前らそれでも友達か?こういう時は黙って行動を共にしてくれんのが友情ってもんだろが⁉︎」

「生憎だけど面倒事に巻き込む時に限って友情を押し付けてくるような人間に応えるような広い心は無いんだ中村」

「っていうか本気で今年も一緒に行くと思ってたのかIQ猿以下。おめでたいと言うか脳味噌ついてるか?」

「ニワトリの方が悪意が無いだけまだましだな」

冷蔵庫の方がまだ暖かいだろう氷点下の罵倒を喰らい中村が絶望したように力無く机に突っ伏す。

「くそ…なんて奴らだ最悪だよお前ら…俺はお前らのことを露払い兼囮役だと思っていたのに……」

「最悪はオメーだよ」

「死んでよ、もう」

「まったく、只でさえ辻が妙な事になっているというのにいらん騒動を…待て、そう言えば辻はどうした?」

大豪院の指摘に煤けている中村以外はふとホームルームが終わってから会話をしていないことに気づく。

「何時もの細かいツッコミがそういや無いと思ったらいないじゃねえか辻の奴」

「あれ?本当にいないね。律儀な辻が黙って帰るなんて珍しい」

「…いや、あれを見ろ」

指差された方向を皆が見やるとそこは辻の席である。机の上にノートを破ったものであろう書き置きが残してあった。

豪徳寺が黙って回収に行きそれを全員に見えるよう掲げる。

『桜咲に話を聞きたいから女子中等部まで行ってくる。声をかけると中村辺りがうるさいから黙って行く、すまん。』

「…まあ、賢明な判断か?」

「こいつがこれならいらん気回しだったがな」

「態々書き置き置いて行くのと最後に一言謝ってる辺りと自分の問題だからって僕らに協力してもらおうとしない辺りがなんて言うか辻って感じだね〜」

その相変わらずな水臭さと律儀さに中村を除いた全員が苦笑する。

「…追いかけるか。まだ遠くまで行って無いだろ」

「一人でやるというなら放っておけばどうだ?」

「まあまあ、どうせやることなんて鍛錬以外無いしね。何やら深刻そうだから、できることだけでもやってあげようよ」

「…まあ、今日は中武研の集まりも無い。いいだろう」

「素直じゃねえな、お前も」

言い合いながら各々立ち上がる。いじらしい友人の為に一肌抜いでやるかと意気揚々と出口に向かう。

「………待て‼︎」

出口の寸前、浴びせられた大音声に皆の動きが止まる。

振り返ると中村がゾンビのような動きで席から立ち上がり、恨みがましい目つきで問うた。

「…目的の為に一生懸命なのは俺も辻も一緒なのになんでお前らの態度がそんなに違うんだ…」

「聞かなきゃ解らねえようなことか馬鹿野郎‼︎」

「覗きと後輩の手助けという目的の崇高さの違いが原因だね」

「ついでに言うなら日頃の言動と行いの差だ」

集中放火を喰らって今度こそ中村が力尽き床に倒れ伏す。

「ほら立て。お前も行くぞ」

「…辻なんざせったんにストーカー扱いされて杜崎のゴリラに潰されちまえ…」

「不吉なこと言ってないで行くよ。グタグダしてると追いつけないじゃないか」

「仮にそうなっても辻相手なら杜崎教師は情状酌量をくれるだろうよ」

中村を全員で引きずりつつバカレンジャー(一名不在)は辻を追いかける。

向かう先は麻帆良女子中等部。全員にとって転機となる場所である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。