「
「わかりました」
関西呪術協会の長、近衛 詠春は部下の術士の言葉に頷き、腰を上げる。
大豪院の予測通り、関西呪術協会から木乃香達一行を迎えに来る予定だった迎えの車と道中の護衛は、千草の張った咒式に嵌まりループする空間内に捉えられていた。
千草にとって予想外だったとするなら、近衛 詠春の存在だろう。詠春は、連絡を入れた刹那からの話を聞いて、周囲の反対を押し退けて直々に娘の木乃香を迎えに来たのだった。
詠春は、自身にも理由はわからないが、妙な胸騒ぎを刹那から連絡が入る以前から感じていた。そこに来ての、自分の娘が本山に帰って来るとの連絡である。例えようも無く嫌な予感がした為、詠春は無理を言い出て来たのだった。
…周りは親馬鹿と私を笑うかもしれませんが……
実際に誘拐騒動は起きている。子が攫われかけたと聞いて取り乱さない親はいない。
…これ程の騒動になるとは聞いていませんよ、お義父さん。
最も、
木乃香が攫われかけたと聞いた時点で詠春は協会内の関係者を徹底的に洗わせた。結果解ったのは天ヶ崎 千草という若手でありながら腕前は十指に入る有能な陰陽師が犯行に及んだのがほぼ確実だという事実だ。
しかし腑に落ちない点がある。如何に有能であろうと、大した手勢も率いずに一組織の長の娘を攫い、上手く逃げおおせて木乃香の力を利用出来るなどと、都合良く事が運ぶと考えるものだろうか。有能であればある程リスクの大きさを考慮し、事を起こすにしても、もっと慎重に行動するのではないだろうか。
…それ程焦っているのか、或いは、
…こちらを
詠春は周りの部下達に呼び掛ける。
「急ぎましょう。ここまであからさまに足止めをしている以上、木乃香と護衛の彼らが危険です!」
「おっ姉ぃさぁ〜〜〜ん‼︎」
『は、はは。積極的な子ぉは嫌いや無いで⁉︎』
狗族の女は下がりながら巨大な火球を連射する。中村はそれらを瞬動の連続で左右に高速移動を繰り返して躱しながら只管に距離を詰めようとする。
…糞がどうにもやりにきぃっ‼︎
中村は歯噛みする。気弾と炎という違いはあれど、狗族の女が放つ火球は、豪徳寺のそれと大差ない威力を持っている。それをここまで連射して息切れを起こさないなら、少なく見積もっても遠距離では豪徳寺と互角。更に周りの雑魚とは言えない程度には強い連中までが襲い掛かってくる。
「邪魔だてめえら‼︎」
巨大な牙を剥く猿のような式神が飛び掛かるのを飛翔蹴りで撃墜、着地地点で待ち受けるやや小柄な鬼を胴廻し回転蹴りで脳天をぶち砕く。着地した瞬間に火球が飛んで来るが、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎助けてダーリンっ‼︎」
『うお、何や気色悪…ぎゃああああっ⁉︎』
傍らにいた大柄な鬼の体の影に飛び込み、気色悪い悲鳴を上げてからその背面を蹴りつけて火球の盾にする。
「ははっ、やるなあ坊‼︎」
狗族の女は笑いながら次弾を生成する。
「……やべえな」
先ほどまでのハイテンションとは打って変わって、中村は渋い顔で呟く。正直に言って無理に突っ込めば丸焼きになりそうであり、無理をして勝負を急ぐ訳にはいかない。かと言ってチンタラ時間を掛けてはいられないのだ。
「…エロ方面に素直に走りたい所だけどなぁ‼︎」
中村は振り下ろされる金棒を躱し様に前蹴りを返しながら毒づいた。
「
撃ち放たれる巨大な気弾が鬼に直撃、爆砕し、上半身を粉々に打ち砕く。だが豪徳寺の顔は晴れない。
「…駄目か」
鬼の周囲の地面が蠢き、残った下半身に吸い上げられて行く。みるみるうちにそれは、元の上半身を作り上げて行き、数秒後には、攻撃を喰らう前と変わらない鬼の姿があった。
『ムダダ、オデバゾノデイドノゴヴゲギデバヤラレン゛』
土行の鬼は笑って言い、丸太のような腕を振り上げ、豪徳寺に殴り掛かる。
「ちぃっ‼︎」
豪徳寺は舌打ちをして後方へ飛び、その攻撃を躱す。はっきり言って土行の鬼の動きは鈍い。普通に相手をする分には問題にならない相手なのだが…
『オラァ‼︎』
「ぐうっ⁉︎」
着地した豪徳寺は、死角から殴り掛かってきた鬼の一体の打撃を頭部に喰らう。
「痛ぇなゴラァ‼︎」
『グワッ⁉︎』
額から血を流しながらも、豪徳寺は気を込めたパンチで鬼を殴り飛ばす。
「糞が、数が多過ぎんだよ…」
豪徳寺は忌々し気に呻く。豪徳寺の戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法であり、荒削りな技術を生来のタフさと膨大な気の量でカバーして戦っている。その為一番こういった乱戦でダメージが一番溜まるのが豪徳寺であり、それはこういった状況で一番早く消耗するということである。
『グハバババ、ヅラゾヴダナ゛オオ゛オドゴ』
「うるせぇよてめえに言われたかねえデカブツがぁ‼︎」
豪徳寺は正面の群れに気弾を放って吹き飛ばし、土行の鬼に突っ込む。
『しゃあっ‼︎』
「うわっ⁉︎」
鴉天狗が山下に向け腕を一振りすると見えない
「…鎌鼬って奴?」
『どっちか言うと圧縮空気の刃やな』
鴉天狗はカカカと笑って両手を縦横無尽に振るい、発生した無数の見えない刃が山下を襲う。
「っ!ええい‼︎」
山下は上下に大きくアップダウンを繰り返し、空気の刃を避ける。躱しながら山下は鴉天狗に距離を詰める。
「喰らっとけ‼︎」
『甘いわぁ‼︎』
鴉天狗が五指を広げた腕を振るう。次の瞬間振るった軌道上に烈風が吹き荒れ、山下の体を押し返す。
「んなぁっ⁉︎」
『貰たわぁっ‼︎』
体勢を崩した山下に鴉天狗が錫杖片手に突っ込む。
『ヒャハッ、ヒャアハハハハハッ‼︎』
「ちっ………」
雷獣が両の手から次々と紫電を大豪院に迸らせる。当然雷撃とは雷速、亜光速の秒速約十万km。視認してから躱せる訳が無い。だから大豪院は雷獣を見ずに兎に角全力で移動して雷撃を躱しに掛かる。
『ガッ⁉︎』
『ギャアア⁉︎』
流れ弾が式神達に当たり、各々が悲鳴を上げるが、雷獣の方に味方を巻き込むことに関する躊躇は無い。
「トリガーハッピーか?無茶苦茶な奴だな…」
大柄な式神達の間を縫うように大豪院は走りながら呆れたように呟く。
『ヒィ?ヒ……ヒャヒャハッ、ヒャアハハハハハハ‼︎』
一行に当たらない相手の動きに業をを煮やしたか、雷獣は暫し動きを止めて首を傾げ、やがて甲高い笑声を響かせながら両手に激しく紫電を瞬かせる。
「何を……っ⁉︎」
大豪院は雷獣の奇行を見た直後に狙いを悟り、全力で跳躍する。
直後、周囲一帯を覆い尽くすような膨大な雷撃が雷獣から扇状に迸り、多数の式神を巻き込みつつ周りを焼き尽くした。
「…さっきから凄い音してるわね……」
「せっちゃん……」
明日菜の不安気な呟きに木乃香が親友の身を案じて祈るように呟く。
「カモ君……」
「兄貴、俺らの出来ることをやろうぜ。相手がどれだけ数を減らしているかわからねぇんだ。いつでも攻撃ができるように準備を整えとくんだ」
ネギの呼びかけに、毅然として答えるカモ。
「…うん、わかってる」
ネギは頷き、明日菜と木乃香に努めて明るく声を掛ける。
「大丈夫です、刹那さんも中村さん達も‼︎エヴァンジェリンさんと互角に闘えるような凄い人達ですから、信じて待ちましょう、明日菜さん、木乃香さん‼︎」
「ネギ君…」
木乃香が顔を上げ、揺れる瞳でネギを見る。
「…そうね。化け物みたいに強いもの、本物の化け物相手でも負けないわ、きっと‼︎刹那さんなんて辻先輩より強いのよ、木乃香。前に自分で言ってたじゃない!暗い顔してちゃ駄目よ‼︎」
「明日菜ぁ……でも、オバケやで、本物のオバケなんやで…。あんなおっかないの相手にせっちゃん達…」
「だ、大丈夫よ!あんなの見かけだけで大したこと無いから、図体だけよあんな化け物共!」
『キキズテナランナァ……』
その声は風の渦巻く直ぐ向こう側から聞こえてきた。
「え……?」
「何者だ⁉︎」
明日菜は思わぬ所から掛けられた声に硬直し、カモが鋭く詰問の声を上げる。
風の中から出て来たのは奇妙に細長い体を持つ、両手に巨大な刃が取り付いている異形の獣だった。口端から歪んだ高い声でその獣ーー鎌鼬は告げる。
『ヨワイトイウナラワタシテイドワカルクシリゾケテミセロヨケトウノマジュツシ?』
言うなり鎌鼬は細長い尾を引きながら猛然と明日菜に斬りかかる。
「っ、わっ⁉︎」
手に持つハマノツルギーー金属製のハリセンで一撃をなんとか受け止める明日菜。
「明日菜‼︎」
「明日菜さん‼︎今助…うわっ⁉︎」
ネギは明日菜を助けようと呪文を唱えながら鎌鼬に向かい足を踏み出そうとした瞬間、何かに足を取られて転倒する。
「っ、痛…何が……っ⁉︎」
『残念やけどよげな手出ししてもらいとう無いんや、坊。おとなしゅうしといてくれんか?』
ネギが足を取られたのは、何時の間にか足元の地面から湧き出してきた濁った泥の沼から突き出ていた一本の手だった。それに続いて這い出してくるのは全身が泥で構成されている老人のような姿の式神である。
「っ‼︎ラス・テル・マっぐぶっ⁉︎」
「あ、兄…ぶわぁ⁉︎」
『させへんさせへん。ちょいと寝ってて貰うで、坊共』
詠唱を始めるネギだが、伸びてきた泥の手に口を覆われ、地面に引き倒されて泥に拘束される。飛び降りて泥を躱そうてしたカモもあえなく空中で泥に捕まる。
「明日菜‼︎ネギ…きゃあっ⁉︎」
『えろうすんませんなぁ、お嬢様。痛うしまへんから、一緒に来て頂きますで』
窮地に陥った二人に、思わず駆け寄ろうとした木乃香だが、足元に伸びてきた泥沼に足を取られ、転倒する。そして木乃香に対して新たな泥の手を形成し、木乃香を捕らえようとする泥の老人ーー泥田坊。
「木乃香、待ってて、今…っきゃ⁉︎」
『ハハハイカセルトデモオモウノカイ、オジョウチャン‼︎』
木乃香に駆け寄ろうとした明日菜に、素早い動きで斬りつける鎌鼬。ハリセンを振るう明日菜だが、鎌鼬は風の妖。凄まじい速度で動き回り、反撃は擦りもしない。
「ぐっ、むぅっ⁉︎」
『暴れんで、大人しゅうしとき、坊。お痛が過ぎると……殺してまうで?』
「っ⁉︎…………」
耳元で泥田坊に凄まれ、ネギは反射的に身を竦ませる。
ネギはここに至るまで10歳位の少年では考えられない様々な経験をしてきたが、
身が竦む。思考は恐怖で鈍り、それ以上の動きを勝手に止めようと体が抵抗を放棄する。
……!なんで…僕は……‼︎
ネギは怯んだ己を叱咤する。自分の生徒が危ないのだ、怯えている場合では無い。
だが、恐怖を覚えた体は、言うことを聞きはしなかった。
……僕は‼︎
「ふざっけんじゃ無いわよバケモン共ぉーっ‼︎」
『ウォッ⁉︎』
明日菜が怒声と共にハリセンを薙ぎ払う。軌道上に飛び込む形になった鎌鼬は慌てて上昇し、辛くもそれを掠めるだけに留めて躱す。
「家の居候と私の親友に何してくれてんのよ泥塗れのエロ爺いぃぃぃっ‼︎ちょっと待ってて二人共、この鼬直ぐ仕留めるから‼︎」
明日菜はハリセンを明日菜は構え、堂々と宣言する。
…明日菜さん……
…怖くない筈が無いのに、あんなに………
ネギは明日菜の勇姿を目の当たりにして、気がつけば体の震えは止まっていた。
…そうだ。
…僕は言ったんだ、中村さん達に。
…木乃香さんに、手出しはさせないって……‼︎
『コムスメガ、ナメッ⁉︎』
苛立ち混じりに再び上空から襲いかかろうとした鎌鼬の体が突然弾ける。慌ててが己の体を振り仰ぐと、胴体の中程から下が煙と消えていた。
…カスッタブブンカ…?
…ソレダケデナゼ⁉︎
「貰ったあぁぁぁぁっ‼︎」
あり得ぬ事態に硬直する鎌鼬に、明日菜は全力でハリセンを振り下ろした。
『ガァァァァッ⁉︎』
振り下ろされ、打撃を喰らった頭部が弾け、鎌鼬は送り返される。
『なんやと⁉︎』
「わ。なんか、凄い…」
泥田坊が驚愕の声を上げ、明日菜が式神一体をあっさりと撃破した己の持つハリセンを、驚きと共に見下ろす。
『っちぃ‼︎』
「あっ……⁉︎」
泥田坊は舌打ちと共に、捕らえた木乃香の体を引き寄せ、ネギと木乃香諸共、泥の中に沈んでいく。
「あっ、待ちなさい‼︎」
『は、待てと言われて待つ阿呆が……⁉︎』
泥田坊が沈降を停止し、傍らのネギを見下ろす。ネギの全身を魔力が覆い、眩い発光を起こしている。同時に泥による拘束が振り払われ、自由になったネギがえずきながら泥を吐き出す。
…そうか、口を塞がれちゃあ魔法は唱えられねえ!普段から行っている身体強化に、魔力のロスを承知で全力で魔力供給を行って力任せに振り切ったのか‼︎
拘束され、同じく口を塞がれていたカモがネギの脱出のカラクリを見抜く。同時に、
「うわぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
『ガァッ⁉︎』
ネギの駆け寄りつつ放った全力パンチが下半身が泥に沈み、身動きの取れなかった泥田坊の頭を粉砕する。
…このガキ……‼︎
泥田坊は体が泥で出来た妖だ。体の何処かが潰された所で再び破片が集まれば再生する。だが破壊されたのが頭部だった為、視覚、聴覚などの五感の大部分が一時的に奪われ、動きを止める泥田坊。当然そんな大きな隙を……
「てりゃあぁぁぁっ‼︎」
明日菜は逃さずハリセンをフルスイング。泥田坊の体が弾け、泥沼も消え去り元の大地に戻った。
「木乃香さん、大丈夫ですか⁉︎」
「う、うん…大丈夫や、ネギ君…」
微かに震えながらも木乃香は答える。駆け寄ってきた明日菜にも頷き、心配無いと返す木乃香、ひとまず大丈夫なようだ。
「あ、姐さん…さっきのは…?」
「わかんない…多分このハリセンのお陰だと思うけど…」
解放されたカモの疑問に首を傾げながら答える明日菜。
「もう他には来てないけれど、警戒しましょう、どんな手段で襲って来るかわかりませんから」
「うん。木乃香、大丈夫だからね」
「…うん。ありがとな、ネギ君、明日菜」
いいのよ、と笑う明日菜を見ながらネギは自分に喝を入れる。
…頑張るんだ、僕も。
「…さっきのは、入って行ったな、絶対」
中村は横薙ぎに振るわれた刀を屈んで避けながら竜巻の方を睨む。先程細長い式神が、理屈はわからないが竜巻の中に入って行ったのを中村は見た。
…グズグズしてらんねえ。
こうしている間にもネギか明日菜が危ない。二人は前提として素人だ。
…腹ぁ括るか。
中村は武者姿の骸骨を蹴り砕いた直後、狗族の女に向けて全力で駆け出した。
『焦ったか?いい的やで坊』
狗族の女は放射状に火球を撃ち放ち、中村の回避の隙間を無くす。
「
同じく放射状に気弾を火球に対してぶつけ、誘爆させる中村。
「熱っち〜な糞がぁぁっ‼︎」
爆炎を裂いて中村は一気に瞬動で近づく。強引に炎を突破した為あちこちを焦がしながらも狗族の女に対して一撃を放った。
「
当たった瞬間に零距離で相手を爆破する破壊の拳が直撃。体の中央からへし折れる女。
「出来れば一タッチしてから……あ?」
中村は溜息混じりに言いかけ、硬直する。真っ二つになった筈の女の姿が薄れて消え、そこに倒れるのはへし折れた樹木であった。
『ボウボウ燃やすんだけが能や無いわな』
「っ⁉︎」
振り向いた中村の眼前に炎の波が迫っていた。
『ふう…』
火炎に飲み込まれた中村を見届け、息をつく狗族の女。
『動きもキレとるし、やり辛かったわ…』
実際周りの式神が前衛の代わりをしていなければ自分の負けだっただろうと狗族の女は冷たい汗を流す。だが、
『勝ちは勝ちや、悪う思わんといてなぁ、坊』
踵を返す女。だがその背後で突如炎が裂ける。
『⁉︎』
慌てて振り返る狗族の女が目にしたのは、腰だめに抜き手を構え、女に迫る中村の姿だった。
『くっ⁉︎』
飛びすさり、手に火球を生成する狗族の女。
「遅ぇ‼︎」
中村の放つ輝く手刀が胴体をぶち抜き、後方へ抜けた。
『……受けて、散らした言うんか?ウチの炎を』
風穴の開いた自らの体を見下ろし、静かに問う女。
「……空手家舐めんなや、お姉さん」
焼け焦げた両手を振りながら、笑って告げる中村。それを聞いて笑みを洩らす狗族の女。
『…惜しいなぁ、対した益荒男やわ。こないな会い方せんかったら、
狗族の女は面を外し、細面の美貌を露わにしつつ、微笑んで中村に告げた後、薄れて消える。
『名残惜しいけど、さよならや、坊……』
中村は暫し沈黙した後、空に向かって叫んだ。
「…すっげえ勿体無えぇぇぇぇ‼︎マジで美人だったじゃん、今のお姉さん〜〜〜‼︎‼︎‼︎」
『ムダナ゛アガギダ、ヅブレロ゛ゴゾヴゥゥゥゥ‼︎』
気弾を喰らいながらも怯まず腕を振り上げ、突っ込んでくる豪徳寺を上から殴りつける土行の鬼。
「がっ⁉︎」
骨の軋む剛撃に苦鳴を漏らしつつも、土行の鬼に組み付く豪徳寺。
『ナ゛ンノマ゛ネダァ‼︎』
組み付いた豪徳寺に、上から拳を雨と降らす土行の鬼。肉を打つ重い音が連続して響き、豪徳寺の背中に血が滲む。
「っ、おぉぉぉぉぉぉあぁっ‼︎‼︎」
咆哮と共に豪徳寺が全力で鬼にがぶり寄り、鬼の体が浮き上がる。
『オオ゛ッ⁉︎』
「オラァァァァァ‼︎‼︎」
動揺する鬼に構わず、豪徳寺はそのまま全力で、土行の鬼の体を宙高く放り投げた。
「
空中の鬼に、豪徳寺の放った巨大な気弾が炸裂、鬼の体を四散させる。
『……ムダダドイ゛ッデ⁉︎』
頭部だけになりながら落下する土行の鬼の言葉が、途中で裏返る。
「…気付いたかよ間抜け。俺が投げ込んだのは、道路のコンクリ上だ。首だけじゃ土まで移動も出来ねぇだろ?」
『グ、ガア゛ッ‼︎ギザマ゛ァァァ‼︎‼︎』
「五月蝿えボケ」
道路に落下して、地面を転がりながら吼える土行の鬼の残った頭部を、豪徳寺は冷たく吐き捨てて踏み潰した。
「…残りは、雑魚だけだなぁオイ」
『死ぃねぇああっ‼︎‼︎』
無防備に宙を舞う山下に向け、鴉天狗は全力で錫杖を突き出した。
轟音と共に山下の胴を貫く錫杖。だが、
『あ……?』
「…っぶないな、本当に……」
貫通したかに見えた錫杖は、脇腹を引き裂きながらも、体の直ぐ横を通り、服を貫通して背中に抜けていた。
「…まぁでも」
『⁉︎』
ヌルリと、蛇のように山下の両手が鴉天狗の腕に絡みつく。
『…放さんかい、坊主‼︎』
鴉天狗の腕から烈風が放たれ、山下の全身に大小様々な裂傷が出来る。
「っ‼︎…誰が、放すか‼︎」
山下は鴉天狗を引き寄せ、掴んだ腕を支点に体を旋回。鴉天狗の両翼を蟹挟みの如く両足で固定。更に両腕を捻じり上げながら勢いをつけて真下に落ちる。
『う、おぉぉぉぉぉぉぉぉっ⁉︎』
「…砕けとけ」
極まりを外そうと暴れる鴉天狗に、山下は冷たく言い捨て、頭から地面に叩きつけた。
爆発したような轟音が鳴り響き、鴉天狗の体が一瞬震え、静かに崩れ落ちる。
「…素直に遠くから斬り刻んでればよかったのにねぇ…」
『ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒ…』
焼け野原となり、煙となって消える無数の式神の中で、愉快そうに笑う雷獣だが、周りに動くものが無いことを確認して他の戦闘場所に向かう。
『……ヒャハァ‼︎』
暫く歩いた所で唐突に跳躍し、飛んで来た瓦礫を避ける雷獣。
「…馬鹿そうだが感覚は鋭いな」
薄れていく巨体の鬼の影から攻撃を行った大豪院は舌打ちをして立ち上がる。
『ヒャハハハハハハハハ‼︎』
再び紫電を閃かせ、大豪院に狙いを定める雷獣。
「…調子に乗るな、
大豪院は腰を落とし、正面から雷獣に対峙する。
「…
『ヒャハァァァァァ‼︎』
飛び出した大豪院に対し雷獣から雷撃が迸り、大豪院を雷の奔流が飲み込んだ。
『ヒャハァハハハハハ、ハ?』
雷獣の勝利を確信しての高笑いが途中で途切れる。何故なら眼前には、身体中から白煙を上げながらも、今だ瞳に強い力を宿した大豪院の姿があったからだ。
「…
無防備に立ち尽くす雷獣に、全力で踏み込んだ大豪院。地震が起きたかのような凄まじい震脚の後、大豪院の背面が雷獣に叩きつけられ、雷獣の姿が霞み後方へ吹き飛ぶ。軽く数十mの距離を飛び、大岩に着弾した雷獣は最早原形を留めておらず、一瞬震えた後に薄れて消える。
「…ヌルい火花を浴びせて悦に入るな、雑魚が」
『…こりゃあ、ヤバいな。味方が幾らも残ってへんやないか』
何度目かの激突の後、ふと辺りを見回した大鬼が呻く。
…やってくれましたか、皆さん。
刹那は油断無く夕凪を構えつつ、中村達に心中で礼を述べる。どうやら自分はまだ彼らを見くびっていたらしいと小さく苦笑する。
『大将‼︎どうするんや、このままじゃ……』
『狼狽えるんや無いわ‼︎』
慌てたように叫ぶ鬼の一人に大鬼は喝を入れる。
『まだ数はこっちが上や。それに見てみぃ、どいつもボロボロやないか‼︎結界もまだ健在なんや、増援は無い‼︎ビビらずに決めたれやぁ‼︎』
大鬼の言葉に浮き足立っていた式神達は一度ざわついた後、固まってこちらに向かって来る。
…一度にかかられると厳しいか?
刹那が腹を決めて神鳴流の大技を決める為、夕凪に気を集中し始めた、その時。
空間が一瞬震え、次の瞬間には地続きに何処までも伸びていた前後の道路が元の長さに戻り、静寂に包まれていた周囲に野外の自然な
『なんや⁉︎』
『これは⁉︎』
…結界が、破られた?
刹那が疑問を浮かべたその時、端の方にいた鬼の一体に光の線が一瞬走った後、唐竹割りに二つに別れ、消滅する。
『新手か⁉︎』
『何者や‼︎』
大鬼が問いかけたのは一振りの刀を携える、黒髪の青年の姿。
「…お前が対峙してる子の、先輩だよデカブツ」
その青年ーー辻