辻が転送させられる数分前に時間は遡る。
「ちょっ、待って下さい‼︎辻部長一人を残して逃げる等、これでは足止め所か捨て石です‼︎私も…!」
「目的忘れんな桜咲ぃぇあ‼︎近衛ちゃん奪還すんのが第一目標だろがぁっ‼︎あのまま居たら今頃ぜってー何人かやられてたぞ‼︎」
手を引かれるままにされながら抗議をする刹那に、ネギを小脇に抱えて前方をひた走る中村が怒鳴りつけるように諌める。
「っ‼︎…しかし……!」
「落ち着いて桜咲ちゃん!何も本当に辻を
「えっ…それって…どういう…ことよ⁉︎」
山下の言葉に、やや息を切らしながらも懸命に後ろをついて来ていた明日菜が訊き返す。
「桜咲後輩、カードの機能だ‼︎何処かに潜んでから転送機能とやらで辻を召喚しろ‼︎こちらの気配を消したり姿を見えなくする術は使えるか⁉︎」
「…‼︎そうか!相手の足止めをした上で辻の旦那も転移で引き上げさせて全員の居所をわからなくさせるのが狙いですかい‼︎」
ネギの肩の上で揺られるままに身を任せていたカモが、合点がいったとばかりに声を上げる。
「っ‼︎……そういう、ことですか‼︎」
「どうなんだ⁉︎」
「可能です‼︎最も私の腕前ではあれ程の腕前の術士相手には時間稼ぎにしかならないでしょうが、場所を選んで隠業符を併用すればそう簡単には見つからない筈です‼︎」
刹那の言葉に中村達は頷き、足の速度を早める。
「…でも、相談の一つもしないであの一瞬にそこまで打ち合わせたように動けるって、凄いですね……!」
ネギが抱えられたままの姿勢で以心伝心という言葉が相応しく思えるバカレンジャーの行動に感嘆した様子で言う。だが、中村達はそんなネギを見て何故か微妙な表情を浮かべ、代表して殿の豪徳寺が告げる。
「いや…な。俺達はとりあえず相対出来るのが魔法ぶった斬った時点で辻しかいないと思ったから辻の言葉に従って咄嗟に逃げただけで、辻をどう助けるかは走りながら考えたんだわ…」
「でも、それでも凄いわよ先輩達…私やネギ所か……刹那さんだって咄嗟に動けなかったんだもん……」
息を切らしながら、明日菜も感心したように言う。が、中村達は更に顔を微妙なものに変え、一層足を早める。
「…問題はもう一つある。一刻も早く潜伏場所を見つけるぞ!」
「え…それは無論のことですが……?」
大豪院の言葉に同意しつつも刹那は首を傾げる。何やら尋常では無く中村達が焦っている。確かにあれ程の術士二人を相手に足止めを買って出ているのだから焦るのは当然であり、刹那とて気持ちは一緒である。だが、発案者であるにも関わらず中村達は奇妙に焦りすぎている気が刹那はした。
「…あいつと俺らの認識には多分もう一つ差異があんだよ。俺らは足止めのつもりであいつにあの場を任せたけど……あいつは恐らくこのままあの連中と刺し違える積もりなんじゃねえかと俺らは思ってんだよ‼︎」
「えええっ⁉︎」
中村の言葉にネギが驚愕の声を上げる。
「…思い出して見てよ、辻は今朝まで割と本気で死ぬ気だったよね…その挙句桜咲ちゃんに命預けるとか言ってた馬鹿だよ…⁉︎こんな展開になったら、それこそ命捨ててでもあの二人片付けようとしそうじゃない、如何にも‼︎」
山下の言葉に一同無言になって辻を思い浮かべる。全員が思い出すのは本当に腹を刺して見せたイってしまっている辻の瞳である。
「…‼︎急いで隠れる場所を探しましょう‼︎」
「うん‼︎て言うか今頃死んでんじゃないでしょうねあの人⁉︎」
「わー‼︎縁起でもないこと言わないで下さいよ明日菜さん⁉︎と、兎に角急ぎましょう‼︎」
「言われるまでも無ぇわ‼︎どっかに洞窟みてえなもん無いか⁉︎」
「そんなものが都合良く見つかるか‼︎焦らず注意深くただ急げぇ‼︎」
一行はすったもんだの末、倒れた巨木で視界が塞がっている窪地を見つけ、大急ぎで刹那が隠業の術と符を駆使して結界を張り、辻を召喚したのだった。
「うう…良かったです、辻さん…!てっきり今頃壮絶な相討ちを遂げているのかと……‼︎」
「よく、よく生きていてくださいました……辻部長…‼︎」
「
「なんなんだよお前ら揃いも揃って⁉︎何俺が死んでる前提で話してんの⁉︎そりゃナイスなタイミングで呼び出してくれたのは感謝するけど、なんかあんまりな扱いじゃ無いか⁉︎」
転移した直後に全身を点検された直後に涙ぐみながら方々から生を祝福され、辻は思わず絶叫した。
「…兎に角、全体の方針を決めよう。言うまでも無くかなりヤバい状況だ」
ようやく周りが落ち着いた所で、辻は作戦会議を始める。
「…あの西洋魔術師二人は、矢張り……?」
「ああ。どちらにも結構な手傷を負わせたつもりだが、両方ともピンピンしていた。俺達を探しているだろう、恐らく…」
刹那の問いに頷きつつ、辻は厳しい顔で情勢の厳しさを語る。
「…恐らく天ヶ崎 千草が狙っているのは、かつて長達が封印したと伝えられている飛騨の悪鬼、両面宿儺の復活でしょう。この近辺で、お嬢様の魔力を利用しての大規模な儀式をしようなどという案件で、他に心当たりがありません」
「…それって解放されたらヤバい感じ?…」
刹那の推測に、山下が恐る恐るといった様子で問う。
「…ここにいる戦力どころか、東と西の戦力を総動員した所で太刀打ちできるかわからないレベルの化け物です」
「…笑えねえな。出てきたら一巻の終わりって訳かよ」
刹那の言葉に豪徳寺が呻く。
「…二手に分かれるしかねえな」
暫し、沈黙の降りた空気を破って中村が呟く。
「…そうだな。ここで連中を抑える役と、近衛後輩を救出に行く役。あまり時間は残されておらんだろう。一刻も早く近衛後輩の居る場所に辿り着かねばならん」
大豪院の言葉に思案する一同。
「…僕らは基本的に高速移動は出来ない。ネギ君位しか飛んでいけるのはいないよ」
「桜咲、その儀式っつーのをやる場所までどんくれー離れてんだ?」
中村の言葉に、少し考えてから刹那は答える。
「…正確な距離はわかりませんが、恐らく六、七kmというところでしょうか…」
「突っ走っていくにはキツい距離だな…時間がかかりすぎちまう」
「でも、他に方法が無いなら今すぐ木乃香の所に向かうべきじゃない?モタモタしてたら木乃香が…」
「最もな意見だが神楽坂後輩、現在追って来ているだろう西洋魔術師二人を考えろ、迂闊に飛び出しては連中のいい的だ。奴らをまず確実に引きつけてから救出組を出さなければならん」
「…足止めは俺が行こう。
「待ってよ辻。そのアーティファクトがあっても危なかったんでしょ?何かしら対策を考えてからじゃないと…」
「んなことしてる時間が無えから言ってんだろ。だが
「ま、待ってください。そこまで戦力に余裕があるんだったら、木乃香さんを誘拐するまでにその予備戦力も投入してくるのが普通じゃないですか?出てきたのがあれだけってことはもう戦力はいないんじゃ…?」
「そうかもしれねえがネギ、万が一あっちに行って実は増援がいたので駄目でしたでは話が済まねえだろ。ここは確実に近衛ちゃん救出するのが最優先だろ」
「待て、それは言ってもあの西洋魔術師二人は俺達より遥か格上だぞ。仮に辻以外の四人が残ったとして奴らを止められなきゃ話は同じじゃねえか」
「どちらも少なからず博打である以上、仮に失敗したとしても少しでも近衛後輩を助けられる確率が高い方を選ぶべきだろう、中村に賛成だ。ネギ、辻と桜咲後輩を乗せて飛べるか?」
「…はい、それは大丈夫ですが…」
「いやちょっと待ってよ…」
「山ちゃん、ビビッた訳じゃ無えんだろうけどこんなもん…」
刹那はいつしか言葉を返さなくなり、目の前の論争から抜け出ていた。
その場の全員が、近衛 木乃香を助ける為に全身全霊を尽くしていた。
少し前まで魔法の存在を知らなかった一般人と、荒事に関わった経験は皆無と言っていい見習い魔法使い。この中に
下手をしなくとも、命の危険がある事は全員が解っている筈なのに、投げ出そうとするような人間は一人もいなかった。
…ああ………
刹那は思う。
…私だけだ。この中で、
…私はプロの護衛の筈なのに、一番覚悟が無いのが私だった………
刹那は一瞬目を閉じる。刹那の頭の中で、幼少時から現在までの思い出が走馬灯のように蘇り、我知らず刹那は笑っていた。
……なんだ…………
…私の
寂しい人間だな、と刹那は己を笑う。久しぶりに刹那は、後ろ向きな感情以外で己を見ることが出来ていた。
…ここまで馬鹿なら、後先なんて考え無くていいや…
刹那は、
桜咲 刹那は近衛 木乃香の為ならば命さえ惜しくは無い。だが今の刹那が正体を明かすのは、それを行う必要に迫られたから、というだけでは無い。目の前の優しくて強い人達に対して、恥ずかしく無い自分で在りたいから。その為ならば禁忌も明かして見せようと、刹那は思ったのだった。
「あ゛〜〜もう五月蝿ぇぇぇぇっ‼︎言い争ってる時間無ぇだろが⁉︎辻と桜咲とネギと神楽坂が先行‼︎残りの俺らで足止め‼︎これしか無ぇだろが決まりだ決まり‼︎」
「だから何が飛んで来るかも判らんのにお前らが足止めなんか出来るか馬鹿‼︎一分もしない内に黒焦げか石像になって終わりだよ、だったら俺だけ残って残りの戦力で近衛ちゃん奪還に行った方がいいだろ⁉︎」
「それをやったら貴様ほぼ確実に死ぬだろうが馬鹿者が‼︎命賭けるのが格好いいなどと思っていないだろうなぁ⁉︎」
「ちょっと喧嘩してる場合じゃそれこそ無いでしょーが‼︎」
「そ、そうですよ!皆さん落ちついて下さい‼︎」
「ぐぁ〜〜〜駄目だこんなんじゃ、本気でどうしよう……」
「ネギ先生」
紛糾している場でその声は、全員が不思議とよく聞こえた。
「あ、はい‼︎」
「ネギ先生は、どの位の速さで飛べますか?」
「え?」
突然の刹那の質問に、ネギが戸惑ったように声を上げる。
「…桜咲、何を…」
刹那は辻を手で制して、再びネギに質問する。
「ネギ先生、重要なことなんです。教えて下さい」
「は、はい!……えーと、僕一人でなら多分、八十ノット位は出せると思います」
「そうですか…充分ですね。それなら、間に合います」
ネギの返答を聞いて頷く刹那。
「…おい、桜咲よ。一人で納得してねえで、俺らにも解るように説明してくれねえか?」
豪徳寺がせっつくと、刹那は一つ頷き、語り出した。
「これから私が一人、もしくは二人を抱えて
刹那の言葉に、暫し全員が呆気に取られたように口を開けて刹那を見やる。
「…いや、人選は正に今揉めているってのもあるが、桜咲よ…」
「何よりも先に
「高速で空を飛べる術みたいなのがあるってこと?それならそうと言ってくれれば…」
口々に飛び出る疑問の声に刹那は頷き、後ろ足で一歩、二歩と後退し、全員を見渡せる位置で止まった。
「…皆さん。私は、皆さんにも…木乃香お嬢様にも、秘密にしていたことがあります」
胸な手を置き、一つ深呼吸をしてから刹那は語り始める。
「
「は?」
「いや、どういう…」
「シッ!……黙って聞こう…」
余りにも要領を得ない話に、中村達が問いかけようとするのを、辻は遮って刹那に先を手ぶりで促した。聞かねばならない、そんな予感がしたからだ。
そんな辻に、軽く頭を下げて礼をすると、刹那は続きを話す。
「…私は、お嬢様を守りたいと思う気持ちに偽りはありません。遅過ぎる決意ですが、
頭を下げた後に、刹那は辻の方を見た。
「…辻部長、すみません。約束は守れそうにありません」
「……え、…………?」
辻が聞き返そうとした時、刹那は背筋を曲げて腰を浮かせ、自らを抱擁するように体の前で腕を交差させる。
「貴方達になら…
純白の羽根が辺りに舞い散った。
「…え……………?」
誰かの掠れたような呟きを何処か遠くで辻は聞いていた。
白い。唯々抜けるように白い羽根が目の前の少女の背中から生えていた。少女ーー桜咲 刹那の身の丈を越える程に長大な
驚愕する一同を何処か寂し気に見やりながら、刹那は己の翼を左手で撫ぜる。
「…これが、私の
そう言って刹那は深く頭を下げる。
その様子を見て、明日菜の顔がピキリと引き攣る。明日菜はそのまま衝動的に何事かを言いかけ、寸前で思い留まり、周りを見る。
辻を覗いた全員が、明日菜と同じく互いの顔を見渡して、お互いに頷きを返す。皆の心は一つになった。
「……え、えっと、あのわぷっ⁉︎」
…訂正、解っていなかったネギが口を開きかけたのを、瞬間的に背後に回り込んだ中村が口を塞いで阻止した。頭を下げる刹那と突然黙らされ、目を白黒させるネギ以外の全員の視線が、辻に集中する。
辻は心の底から仰天した、という顔で刹那を凝視していた。パクパクと口を開き、声にならない声を幾度か洩らし、やがて掠れる様に少女の名前を口にする。
「……さ、……桜…咲………‼︎」
「っ‼︎……はい…………!」
刹那は辻の声にビクリ、と一瞬身を竦ませるが、ゆっくりと頭を上げて辻を正面から見る。その顔には微かな怯えと、恐怖が見て取れたが、覚悟がそれを塗り潰し、強い視線を持っていた。
「お……お前…………」
「……………………!」
「お前、天使だったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
「…………は……………………?」
刹那の目が点になった。訳がわからない、といった顔で辻を見返す。
辻はそんな刹那の様子に構わず、額に手を当て、ブツブツと呟きを洩らす。
「…道理で……!道理で出来過ぎた後輩な訳だ……‼︎真逆、天上の存在だとは………‼︎‼︎近衛ちゃんの純真な人柄に好感を持ち、地上に舞い降りて守護していたとかそういう話か…?桁外れの器の広さも、納得だ………‼︎」
「…いえ、あの…………?」
何やら勝手に決められて行く刹那の設定に、先程までの覚悟が何処かに吹っ飛んだ刹那がオロオロと辻に声をかける。
「…つ、辻部長………?」
「…ん、あ、ああ‼︎なんだ桜咲⁉︎あ、天使って呼び方がなんか違うのか⁉︎なんて呼べばいい?天使様か?」
「それは絶対にやめて下さい。……いえ、そうでは無く、辻部長。何ですか、さっきの
「…?さっきのって、何がだ?」
「ですから!……私を、て、天使…だとか言った、あの言葉の意味です‼︎」
自ら天使という言葉に、真っ赤になりながら刹那は辻に言葉の真意を尋ねる。
「え?…いや、意味って、見たまんまだろ?天使なんじゃないのか、桜咲?」
「違いますよ⁉︎何でそうなるんですか⁉︎⁉︎」
「ええ⁉︎違うのか⁉︎だってどっからどう見ても天使だろ、桜咲⁉︎」
「これは烏の羽根です‼︎烏族のハーフなんです、私は‼︎」
「…そ、そうか、悪い……お前は余りにも何か、こう人間出来ているから、てっきり天上の存在なのかと………」
「……………なんなんですか、それ………………………」
がっくりと肩を落として、刹那は脱力する。
「ぶふっ、ふ、ふふふっ…くくっ……!」
「くふっ、くくっふふふ…ぶっ‼︎」
「は、ははははは………」
「あはは、はははは……」
そんな二人の様子を見て、堪え切れぬとばかりに幾人かが吹き出し、幾人かは辻を呆れと、ある意味尊敬を込めた視線で見て、乾いた笑いを響かせる。
「……辻先輩………。…………先輩、凄いわ、ホント」
「ひひひ、ひーっひっひっひっひっ‼︎凄えわ
明日菜が呆れつつも感心し、中村が爆笑しながら、それぞれ言う。
「なんだよお前ら‼︎誰だってこんな姿説明も無しに見せられれば天使だと思うわ‼︎お前らだって思ってただろ⁉︎」
「くくっ、いや、そういうことでは無くてな……くくくくっ」
「まあ、何て言うか、褒めてるんだよ、辻の事を。……ふふっ」
「絶対馬鹿にしてるだろ⁉︎何なんだよ畜生‼︎真っ先にコメントした人間を皆して叩きやがって‼︎」
辻が顔を真っ赤にして地団駄を踏む。
「…え、えっとカモ君、これってどういう……」
「まあまあ兄貴、辻の旦那は凄えって事でさあ。誰にでも出来ることじゃ無い所か、辻の旦那にしか無理でしょうこんなのぁ」
訳がわからない、といったネギにしたり顔でカモが告げる。
「…いえ、そうではありません」
死んでいた刹那が復活し、再び辻に問いかける。
「辻部長、この際天使だの烏族だのといった種族判別は脇に置きますので、答えて下さい」
「ん?ああ、わかった、何だ桜咲?」
辻も一先ず怒りを収め、刹那に応じる。
「…この羽根を見て、どう思いますか…?」
「…いや、どうって……感想を言えばいいのか……?」
「はい、率直に思った事を仰って下さい」
刹那の言葉に、辻は僅かに視線を彷徨わせ、仄かに顔を赤らめながらも口を開く。
「あー……何て言うか、あれだ……綺麗だと思った、物凄く。変な言い方だけど、その翼。お前に似合い過ぎててさ……神秘的で、この世のものとは思えなくて。だから天使だと思ったんだ、俺は」
「……………いえ、ですから、そういうことでは無くてですね………」
辻の手放しの賛辞に顔を真っ赤に染めながらも、刹那は望んだ方向とは違う方面の評価を否定し、再度辻に問いかける。
「…気味が悪いとか、恐ろしいとか。…そういう風には思わなかったんですか……?」
刹那の言葉に、辻はキョトンとした後、呆れた様に首を振って刹那に告げる。
「あのなぁ桜咲。何をそんなに卑屈になってるか知らないが、俺は綺麗だって言ったんだぞ?何でそんな否定的な印象を俺が持つと思うんだよ?」
「だって‼︎……私は……私は……‼︎」
……化け物じゃないですか…………
その一言を刹那は言葉に出来ず、飲み込んだ。事実として異形の血が体内に流れていようとも、自分からそれを言葉にして、認めたくはなかった。
そんな刹那の様子を見て、辻は頭を掻いてから表情を真剣なものに変え、刹那に対して語りかける。
「桜咲。…何と無く、言いたいことはわかるよ。烏族か何か知らないけど、自分には人外の血が流れているから、自分は化け物だ。人じゃ無いから忌み嫌われる。化け物だから近衛ちゃんの隣にいる資格はない。そんな所だろ?」
刹那は答えない。辻は構わず言葉を紡ぐ。
「沈黙は肯定と見なすぞ。…まぁ、気持ちが解る、とは言わないよ。苦労しなかった訳が無いだろうし、当たり前だけど当人にしか解らないよな、その人の苦悩なんてものは。俺は何と無くの想像と、今まで接してきたお前を元にしてしかお前を語れない。でも、そんな俺でも言えることは有るよ」
刹那の目を真っ直ぐに見つめて辻は言った。
「お前は確かに人じゃないんだろうけど、だからと言って化け物では決してないよ」
「…何を………」
「いいから聞け。例えお前に化け物の血が流れていたとして、それがイコールお前が化け物だってことには、ならないんだ。化け物って言うのはさ…考えの理解出来ない、異質な存在なんだ。
『…此処から消えて無くなれ、化け物が‼︎お前が、お前の様な奴が何故俺の所に…………‼︎』
「………………………」
脳裏に蘇る苦い記憶を振り払い、辻は刹那に告げる。
「お前は友人との不仲を悲しんで、俺との仲をからかわれたら恥じらって、大切な人が攫われたら怒っていたろ?お前の何が人間と違うんだ。羽根が生えてる位で何でお前は排斥されるんだ。……自分で自分が認められないなら、俺が認めて、断言してやる。お前は
指を突き付け、辻は真っ直ぐに刹那を叱咤した。
「………私、は………………」
刹那は揺れる瞳で辻を見返し、返事を紡ごうとするが、その言葉は声にならないまま掠れて消えた。
「少なくともこの中でお前を人じゃ無いから嫌いになりました、なんて奴は一人もいない‼︎ほら、お前らも何か言ってやれよ‼︎」
「五月蝿いよ、辻」
「今更何言えってんだ、俺らに」
「あれ?」
暖かい言葉を投げかけるとばかりに思っていた辻は、真逆の自分に対する冷たい視線に思わず疑問符を上げる。
「言うべきことは貴様が全て言ったわ。今から俺達が何を言っても二番煎じだ、そんなにお前は俺達を添え物にしたいか?」
「そんな事思ってねえよ⁉︎え、何?何で怒ってんのお前ら?」
「けっ、後輩クールサイドテールスレンダー色白属性に翼プラスした萌え要素の数え役満状態せったんと二人の世界作っていた分際で今更こっちに話振るとか白々しいんじゃあ‼︎持つものが持たざるもの哀れんでんじゃねえぞカス野郎がぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
「何の話だぁぁぁっ‼︎」
刹那をそっち除けでギャーギャーと言い合いが始まった。その様子に溜息をついてから、明日菜が刹那にネギを連れて歩み寄り、言葉を掛ける。
「刹那さん、大丈夫?」
「………はい………大丈、夫です………」
途切れ途切れに、言葉を返す刹那に、明日菜は優しく笑って言う。
「先輩が言い忘れた事だけど……木乃香も絶対、綺麗だって言ってくれるわ。刹那さんを嫌ったりなんてしない。長年木乃香を見てたなら、それ位わかりなさいよね、まったく」
「……ずい、……ません………」
いーのよ、と明日菜が言いながら刹那の頭を撫でる。
「…刹那さん………」
「………はい……………」
ネギは背中の翼について、何かを言おうとして止める。大豪院の言う通り、言うべきことは全て辻が言った気がしたからだ。
「…木乃香さんを、助けに行きましょう‼︎」
だからネギはやるべきことを力強く宣言した。刹那も滲む涙を拭い、やや掠れた声で、はっきりと返事をした。
「……はいっ‼︎‼︎」
…馬鹿だな、私。
…
…底抜けにお人好しで、優しい人なんだ。私の尊敬する、大好きな先輩は。
閲覧ありがとうございます、星の海です。大変遅くなりました、申し訳ありません。なんだか納得のいく文章が書けず、書き直しを繰り返していたらこんなに間が空いてしまいました。おまけに少し中途半端なところで終わっていますが、1万字を超えそうになったので区切りのいいところで切って投稿しました。次回こそは早めに上げたいです。頑張ります。ちなみに刹那の最後の大好きは、まだ異性として、辻を男として好きという意味ではまだありません。小学生かこいつは、と自分で設定しておきながら思いましたが辻も同じようなものでした。お似合いですね笑)それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。