お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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こんな時間になりましたが、上げさせて頂きます。


22話 加速する戦場 少年の覚悟

「……あそこだね…」

「よし、手間を喰わされたがこれで終わりだ」

片手片足を失った少年を懐に抱いた青年が、少年の声にやや安堵したように頷く。

辻を仕留め損ねてから少年と青年は千草の近辺を遠視魔法で確認し、辻達の姿が見えないことを確認すると、一定数の人数が自分達の近くにまだ潜んでいると判断して付近を捜索していた。

「…どうする?」

「お前程真面目じゃあ無いんでな」

黒衣の青年は空いている右腕を掲げ、魔法を撃つ体制に入る。

「…連中が死のうと俺は構わない」

「ヴェロス・オニムス・ザムウェルス……」

詠唱に入る青年。その時…

「「!」」

隠行の式が崩れ、中から二条の閃光が宙に向かって飛び出した。

「ちっ‼︎」

黒衣の青年は遠ざかる閃光ーー杖に乗るネギと光り輝く翼を羽ばたかせ、辻を抱えた刹那に照準を合わせ、魔法を解き放つ。

奈落の業火(インケンディウム ゲヘエナ)‼︎」

青年の掌にドス黒い陰惨なオーラを放つ禍々しいとしか表現出来ない、黒い炎が収束し、次の瞬間放射状となって爆発的に広がりながら放たれる。

裂空掌波(れっくうしょうは)ぁ‼︎」

極漢魂(きわめおとこだま)ぁ‼︎」

だが、ネギ達に火炎の波が届く寸前、横合いから飛び出した気功波動(オーラウェーブ)が黒い炎の波に着弾し、ネギ達に向かう火炎を遮り、直径三mを超える巨大な気弾は、青年の展開した障壁に阻まれ、ダメージを与えられなかったものの、攻撃を中断させ、ネギ達への追撃を諦めさせた。

「やっぱあっさり防ぎやがった。あの吸血鬼にかなり近いレベルの難敵なんじゃねえか?」

「みてえだなぁ…俺のとっとき(・・・・)でも相殺仕切れて無えみたいだったしなぁ、あのドブ色の炎」

「ま、やれることをやるしかないでしょ。幸い、エヴァさんの時と違って勝つ必要は無いしね」

「とはいえ相手は手負いながらも二人だ。気を引き締めて掛かるぞ」

言葉を掛け合いながら青年と少年に向かって近づくのは辻を除いたバカレンジャーの四人である。

「…お前ら四人が足止め役か?…舐められたもんだな、俺もこいつも」

青年は相変わらず気怠そうながらも、目に鋭い光を宿して中村達を睨む。少年は無言のまま青年の手を解いて、片足で地面に着地する。

リベリオン(・・・・・)

「…なんだ?」

少年の呼びかけに青年が応じる。

「…君は飛び出した彼らを追って。此処は僕が…」

「おいコラ」

少年の言葉の途中でドスの効いた声と同時に、気弾が少年の眼前で障壁に阻まれ弾ける。

「舐めた事言ってんじゃねーよクソガキ。一本ダタラみてえなナリで俺ら四人相手にしようってかぁ?」

会話を遮られた形になった少年は無表情なまま気弾を放った中村を見やり、微かな溜息と共に告げる。

「君達程度(・・)なら僕一人で充分だ」

その言葉に、一瞬で血管を三、四本ブチ切った中村が嗤って一歩踏み出す。

「…上等だガキゃあ、ぶっ殺して…⁉︎」

言葉の途中で、中村の踏み出した足の近くの地面が罅割れ、隆起する。

石の槍(ドリュ ペトラス)

一抱えもあろうかという巨大な尖った石柱が、中村の土手っ腹に突き刺さる。

「中村ぁっ‼︎」

豪徳寺が驚愕と怒りの声を上げ、中村に駆け寄る。だが、

「…もっぺん言うぞクソガキ」

バキリ、と乾いた音を立てて、打ち下ろされた肘によって砕かれた石柱の先端が地面に転がる。

「…なめたことほざいてんじゃねーよ」

中村は、服に穴すら空いていなかった。

「…へぇ……」

少年の顔が僅かに興味を持ち、口端が歪む。

「…どっちにしろ直ぐに逃してはくれないようだぜ」

青年は、はぁとため息をつき、中村達を見据えて告げる。

「…手早く終わらせよう。そんなに死にたきゃ殺してやるよ」

物騒な威嚇の言葉に、バカレンジャーは揃って不敵に笑い、言葉を返す。

「上等だ黒づくめ」

「その台詞そのまま返すよ、死んでも文句言わないで欲しいもんだね」

「別に舐めるのは勝手だが後悔するのは貴様らだ、拐卖人口(グァイマイ)

「俺はとっくにサ○ギマンからイ○ズマンじゃボケェ‼︎ぶっ殺したらぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

西洋魔術師と武道家達の、戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

「…非常事態に出しこんな所で文句言うのは間違いなのかもしれないけどさぁ……」

眼下の緑一色の景色は高速で後方へと流れている。かなりの速度で飛行している証拠である。そんな中、辻は冴えない顔で文句を溢した。

「……っなんで俺はお前に抱きしめられて嬉し恥ずかしのランデブー地味た飛行してるんだよ‼︎普通逆だろ立場が、ネギ君の後ろに俺が乗っけて貰えばよかったじゃん⁉︎」

「しょうがないじゃないですか、私だって恥ずかしいですよ⁉︎ネギ先生は私程速度が出ないんですから、余裕のある私が辻部長を担当しなければいけないんです‼︎」

辻を脇下から抱えるようにして飛んでいる刹那が、辻からは見えないが赤くなった顔で叫び返す。仮にも異性に耳元で言葉を告げられると言うシチュエーションだと言うのに色気もへったくれもない。

「と言うか飛び出す前にその辺は散々抗議をして決着していたじゃないですか、往生際の悪いこと言わないでください‼︎」

「ああ悪かったさ、悪かったとも‼︎」

 

「…カモ君、何だか揉めてるね、辻さん達……」

「まぁあの格好じゃあなぁ、大方旦那が恥ずかしさに耐えかねてゴネてるんでしょう」

『なんだか余裕ねー頼もしいんだかなんなんだか』

前方を警戒しながら現在出しうるほぼ最大速度で飛んでいるネギ達は、チラリと横の辻を見やりながらそんなやり取りをする。

「しっかし理屈は解らねえが姐さんを乗せて飛ぼうとすると兄貴が上手く飛べなくなんのは予想外の事態だったぜ。時間もねから見切り発車で来ちまったがどうなることやら……」

「ここまで来た以上はある手札で何とかしてみせるしか無いよカモ君。…それにしても、辻さんはあんなに喚き散らす程嫌なのかな、刹那さんに抱えてもらって飛ぶの」

『…まぁ、飛び出したあの体勢どう見ても当ててんのよ状態だからねぇ…そりゃ恥ずかしいでしょ、あの先輩なら余計にそうよ』

念話越しに明日菜の苦笑の響きがネギに伝わる。

「いや、刹那の姉さんの胸は当てて判るほ」

『黙んなさいセクハラ小動物、そーゆー問題じゃないし、そこら辺の論評していいのは夏休み明けた位の辻先輩だけよ』

カモの言葉を遮り、明日菜の鋭いツッコミが響く。

「…いや、姐さんの言い方も充分親父臭いっつーかセクハラ臭がするんすけど……」

『なんですってこの…』

「わー明日菜さんもカモ君も、そんなこと話してる場合じゃ無いですよー‼︎」

明日菜とカモの段々俗な話題にシフトしていく流れをネギがやや慌てて遮った。

しかし、暫く会話が耐え、先程のそんなやりとりを聞くとは無しに聞いていたネギは、先程の言葉の中で気になった単語をなんとなく明日菜に尋ねる。

「あのー明日菜さん、さっきの当ててんのよとか辻さんが論評とかどういう意味で…」

『あんたがまだ知らなくていいことよ。先輩達にも尋ねたりしなくていいわ、自然に大人になればわかることだから。いい、約束よ?』

「は、はい……」

約束、の部分だけ、妙にドスを効かせた声で言ってくる明日菜の剣幕に少々ビビりながらもネギは頷いた。

 

「…ネギ先生‼︎」

「!、はい‼︎」

ネギに釘を刺した直後のタイミングで声をかけてきた刹那の声を念話越しに聞いていた明日菜は内心冷や汗をかく。

……やばっ、これから木乃香助けに行くって言うのに、巫山戯すぎてたんで怒ったかしら…でも、刹那さん達も似たようなもんだったしいいわよね?こういう時こそ余裕を待つのって大事なことだと思うし……

など、内心で明日菜が下らない言い訳を考えている間に、ネギ達の側では刹那が対照的に緊迫した様子でこちらに告げる。

「何やら尋常でない気の高まりを感じます。ある程度ネギ先生の速度に合わせていましたが、私はこれから全力で飛行します、どうやらもう時間がありません‼︎ネギ先生は私達の後を続行してください、この距離なら程なくして追いつきます‼︎」

その言葉に、ネギは即座に思考を真剣なものに切り替える。

「…少数先行なんざ言うまでもなく危険だが、確かにとんでもねぇ魔力を感じる。他に選択肢は無ぇか…」

カモが難しい顔をしながらもそう判断する。

「…わかりました、気をつけてください刹那さん、辻さん‼︎」

ネギの言葉に、辻と刹那は頷き、一瞬顔を見合わせてから刹那が鋭く言葉を放つ。

「…光羽翔翼‼︎」

言葉と共に、刹那の羽が一層光を纏って輝き、次の瞬間には光の尾を引いて、二人の姿がたちまち遠ざかっていく。

「は、速いね…」

「日本の神話じゃあ吉祥と霊格の高い順に八咫烏、赤烏、青烏、蒼烏又は白烏になっているらしいが、刹那の姉さんは神通力地味た力を使えるのかもしれねえな」

これまでの倍近い速度にネギは驚き、カモは唸りながら見解を述べる。

『ネギ、あんたは…』

「…すいません。今の僕ではこれ以上の速度が出せません。僕が未熟なばっかりに…」

『ばか、そういうつもりで言ったんじゃないわよ。あんたは出来ることを全力でやってんだから胸を張りなさい‼︎』

僅かに落ち込むネギに、明日菜はそう励まし、前方を見据える。

『…こっちで先輩達も頑張ってる、出来ることをやるのよ。あたしも…あんたも』

「…はい‼︎」

「よっしゃ、できるだけ急ごうぜ‼︎」

ネギの気持ちに応えてか、飛行速度が僅かに増した。

 

 

 

「…見えたぞ、あの祭壇か⁉︎」

「はい‼︎木乃香お嬢様も見えます‼︎」

辻と刹那が光の矢と化して、僅か数分後、巨大な岩を祀った祭壇と、そこから伸びる光の柱が辻達の目に入る。辻の視力では祭壇に寝かされているらしい木乃香の姿までは視認できないが、刹那は烏族のハーフらしく、鳥のように遠目が効くらしい。

「悠長に作戦練っている暇は無い、このまま突っ込もう桜咲‼︎」

「元よりそのつもりです‼︎」

刹那が同意し、さらに速度を上げかけた、その時。

『主、上だ‼︎』

『ヒョョョョョョョョョウッ‼︎‼︎』

それまで黙っていたフツノミタマが鋭く警告を辻に発し、ほぼ同時に甲高い笛のような不気味な鳴き声が響き渡り、斜め上から凄まじい大きさの雷撃が辻と刹那に降り注いだ。

「うぉぉぉぉぉっ⁉︎」

咄嗟に辻が右手に持っていたフツノミタマを頭上に振り抜き、刀身に雷撃が触れた瞬間、澄んだ金属音を立てて、雷撃が霧散する。

「あ、危ねえ……一体何が…」

「っ!彼処です‼︎」

急停止して辻が危機一髪だった状況に冷や汗を拭っていると、刹那が少し離れた場所の空を指差し叫ぶ。

そこには、異形の獣が浮かんでいた。その獣の姿顔は猿に似ており、胴は茶褐色の毛むくじゃら、四肢はは黄色地に黒の縞模様が入り、尻尾はとぐろを巻く大蛇であった。

「なんだあれ⁉︎ゲームに出てくる合成獣(キマイラ)か⁉︎」

「……馬鹿な……………」

驚愕の叫びを上げる辻に対し、刹那は信じられないものを見た、と言う様子で僅かに体を震わし、目を見開く。

「…あれは、(ぬえ)です‼︎」

「…端的に驚異の度合いだけ聞きたい!ヤバい奴か⁉︎」

悠長に説明を聞いている暇は無いと判断し要点を尋ねる辻に、刹那は顔を歪め、答える。

「…一流の腕を持つ神鳴流剣士と陰陽師が、小規模とは言え部隊を組んで挑まねばならない妖です‼︎」

「……冗談じゃないぞ、こんな時にそんな中ボス相手にしている時間は……というかなんでそんな怪物が今更現れる⁉︎出てくるならさっき出てくるべきだろうが⁉︎」

「……恐らくですが……」

あまりにも理不尽な状況に辻が、天を呪うと、刹那は苦渋の表情で辻に答える。

「天ヶ崎 千草に新たな戦力を呼び出すだけの余力は残っていなかったでしょう。今現在も、両面宿儺の封印を解くために儀式を行っているはずですから尚更です」

「じゃあ何でだ、あの学ランの少年が召喚したのか⁉︎」

「いえ、お嬢様の力を使ったのでしょう」

刹那は種を明かす。

「お嬢様の魔力は莫大なものです。神格を持つとされている大鬼を顕現させてなお余る程に……その余剰魔力で大妖の一匹や二匹、呼び出すのは容易いことです!」

「グアア厄介な、どうするそもそも俺とお前で倒せる保障が……⁉︎」

言葉の途中で、祭壇から伸びる光の柱の光量が増し、祀られている大岩から巨大なもう一本の光の柱が宙へと伸びる。

「ヤバい大詰めかあっちは⁉︎」

「早くお嬢様を……⁉︎」

刹那があせりと共に口にした瞬間、茫洋と浮かんでいただけの鵺が、高速で辻と刹那に向かって突っ込み始める。

『ヒョョョョョウッ‼︎‼︎』

鶫のような鳴き声と共に、鵺の全身が帯電し、再び凄まじい威力の雷撃が繰り出された。

『主、落ち着いて()とやらを断て』

「言われなくてもぉぉぉぉっ‼︎」

フツノミタマの落ち着いた声での助言に、悲鳴のような声で答え、辻は飛来する雷撃の中心にフツノミタマを振り下ろす。

キィン‼︎と澄んだ音を立て、雷撃が霧散するが、その直ぐ後ろから鵺が高速で体当たりを仕掛けて来た。

「くっ⁉︎」

刹那が羽ばたいて上昇し、辛くも突撃を躱す。

『主、向こうが突っ込んでくるなら寧ろこちらの好機だ、一刀の元に斬り捨ててやれ。半妖の小娘にもそう伝えろ』

「難しいことをサラッと言うな‼︎かなりの速度だぞあの化け物、それから桜咲は気にしてるんだから半妖の何ちゃらとか言うなよお前は‼︎』

『言っている場合か、それに事実だろう。私としてはいくら主が惚れていようとそんな小娘のことなどどうでもいい。…まあ主の言葉なら従うがな』

「くっそ遂に刀にまで言われるか⁉︎惚れて無いよ桜咲は後輩だ後輩‼︎」

「辻部長、さっきから誰と話しているんですか⁉︎」

祭壇に近づきつつもこちらを追って散発的に小規模な雷撃を放ってくる鵺の攻撃を躱しながら刹那が挙動不審な辻に尋ねる。

「言って無かったかぁ⁉︎なんか意志を持ってて思考を伝えてくるんだこのアーティファクト‼︎」

「はぁ⁉︎」

『そんなことはどうでもいい、主、鵺は雷撃の他に人を病魔で侵す害毒を放つ。次に接近した際に放ってくるかもしれん、注意しろ』

驚愕の声を上げる刹那に構わず、フツノミタマはマイペースに辻に注意を促す。

「どうでもよくないだろお前の話だよ‼︎ああ桜咲‼︎なんか色々ややこしいから全部終わってから説明する!まずはあの気味悪い化物ぶっ殺して近衛ちゃん助けに行くぞ‼︎」

「っ、はい‼︎」

刹那は急旋回して、辻はフツノミタマを構え、鵺に真っ向から相対する。

『ヒョョョウ‼︎』

「来いよ猿虎‼︎」

 

 

 

裂空掌(れっくうしょう)ぁ‼︎」

「ちっ…!」

魔法を放つ寸前に中村の気弾が青年に迫り、舌打ちと共に魔法を放つのを中断して青年は障壁でそれを防ぐ。

…マズイな、この状況は……

青年は苦々しい思いで、高速で周囲を移動する四人を睨み据える。

青年からすれば中村達は格下だというのはわかっていたが、同時に状況的に決して余裕はない以上、舐めてかかったつもりは無かった。

まず一つ目に、白髪の少年が片手片足であり、前衛としての戦力が今回に限り失われていることが少年と青年にとって痛かった。青年はさる事情から近接戦闘が得意ではなく、この場合は少年が基本的に前衛として動き、青年は後方から大火力を連発するのが、必要に迫られた時の基本方針であった。それが不可能である以上、二人共に流動的に動き回りながら魔法で敵を仕留めなければならない。

二つ目に中村達が非常にわきまえた(・・・・・)動きをするのが少年と青年にとって問題だった。血気盛んに向かって来た割には、中村達は決して無理をしようとせず一塊にならないよう常に動き回り、石化魔法を使う少年の動作に常に気を配って、少年が魔法を放つ素振りを見せれば全力で避難して石化の雲や光線から逃れ、そのくせ青年や少年が転移魔法で千草の元へ向かおうとすれば、こちらの攻撃も意に介さず被弾覚悟で突っ込んできての全力攻撃で何が何でも離脱を阻止する。

青年と少年にダメージは殆ど無い。中村達が総出で攻撃してようやく障壁が突破出来るレベルである以上、絶対的に青年達は優勢だ。しかし…

…まんまと時間を稼がれてるってことだ、これは‼︎

黒き雷(フルグラティオー・二グランス)‼︎」

苛立ち紛れに青年の放った黒雷は、瞬動で横っ飛びに逃れた中村を掠めて虚しく木々を打ち砕く。

「……フェイト(・・・・)‼︎」

青年の呼びかけに少年は頷き、青年と少年は同時に飛び上がる。

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト・来たれ風精 砂の精…」

「ヴェロス・オニムス・ザムウェルス・来たれ火の精 風の精…」

「クソがあのカス共上空に逃れやがった‼︎」

「吸血鬼のババアと言い発想が同じだな魔法使いってのは‼︎」

「言ってる場合じゃないよ散開ー‼︎」

「何が来るかは判別がつかん、距離を開けることにだけ集中するな‼︎」

中村達は反撃の手段を失った瞬間、東西南北に全速力で別れて避難する。

結晶の砂嵐(ニグルムス テンペスタース クリュスタルス)‼︎」

侵略の(デーウォワーレス エレメントゥムス)猛火(アグレッシオー)‼︎」

直後、透明にして微細な超硬度の結晶を内に含んだ全てを削り壊す砂嵐と打ち広がる暴風に乗って全てを焼き尽くす猛火が、挟み込むように眼下の森を呑み込んだ。

 

 

「うぉぉぉぉっ⁉︎」

不自然な程の速さで迫ってくるドス黒い雲に辻は悲鳴を上げながらもフツノミタマを振るい、粉々に散らす。

「このままでは埒が明きません‼︎」

次々に放たれる雷撃を避けながら刹那が怒鳴る。

『下手をすれば小規模の土地神に値する大妖だ。妖術を乱発した所でバテはすまい。かと言って神鳴流とやらの小娘の退魔の技でも余程デカイのを喰らわせねば効果は無い以上、やはり生主と私で仕留める他無いな』

「それを一番警戒されてるからこの有様なんだろうが‼︎あのケダモノ右足斬り落とされてから全然こっちを近寄らせようとしないぞ⁉︎」

『うむ、あれで仕留められなかったのは痛かったな』

「他人事のようにぃぃぃぃっ‼︎」

「こちらにもわかるように会話をしてください辻部長‼︎」

「んなこと言われても…だぁぁぁぁっ⁉︎」

直径五mを超える巨大な雷球を辻は断ち割り、消滅させる。

「そもそも手数が足りない‼︎くそこんなことなら山ちゃんから虚空瞬動をもっと熱心に習っておくんだった‼︎」

『後悔先に立たず、だな。兎に角なんとか……ん?』

フツノミタマが言葉の途中で疑問符を上げる。

「どうした?」

『あれを見ろ、主』

「あれって何を……!」

「どうしました、辻部長?」

目を見開く辻に、鵺の攻撃を凌ぎながら、刹那が尋ねる。辻はその質問に直接は答えず、しばし考えた後刹那に提案する。

「……博打に近いが桜咲。時間が無い、一つ賭けに出よう」

 

鵺は宙を泳ぐように身をくねらせて飛行しながら、再度雷撃を放つ準備に入る。すると、辻と刹那が遠ざかるような飛行を止め、鵺に向かって一直線に突っ込んできた。

鵺はその無謀な特攻をせせら笑い、自分に打てる最大限の雷撃を放つ用意に入る。鵺からすれば、敵対している辻達は雷撃や毒雲を消し去り、尚且つ生半可な刃など通さない自分の体を、あっさりと断ち切ってくれる油断ならない相手だが、刀を振って迎撃している以上、複数箇所からの同時の攻撃には対応が出来ないことをすでに見抜いていた。故に鵺は、雷撃を一本に纏めるのではなく、中規模の威力の雷撃を放射状に撃ち放つ為に神経を集中し、雷撃を放とうとする。集中が終わり、雷撃を撃ち放とうとした、その時。

雷の暴風(ヨウィス テンペスタース フルグリエンス)‼︎」

膨大な雷を纏った烈風が鵺の横合いから現れ、鵺の全身を飲み込む。

『ヒ、ギャャャャャャャャャアッ⁉︎』

己が放つものとは違う雷の嵐に身を灼かれ、鵺が絶叫を上げる。そこに、前方から突っ込んでくる影があった。

『ヒヒ……ヒョョョョョョョョョョョョョョョョョウ‼︎‼︎』

鵺は大きなダメージを受けながらも、追撃を仕掛けてくる存在を忘れてはいなかった。己が内に溜め込まれた雷撃を、十数状の雷にして前方の影に解き放つ。

だがしかし。

神鳴流奥義(・・・・・)、雷光剣‼︎」

前方の夕凪を構えた刹那(・・)が放った巨大な雷球が鵺の雷撃と衝突し、爆発を起こしてお互いに相手を害することなく、消滅した。

『ヒ………?』

鵺は予想外の結果に、刹那思考が停止する。

……アノオトコハドコヘイッタ………?

その疑問の答えは、直後頭上からやってきた。

「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい‼︎‼︎」

空に響き渡る凄まじい大絶叫に、鵺が反射的に声のする方を見上げると、辻がフツノミタマを大上段に振りかぶりながら、鵺へと真っしぐらに落ちてくる所だった。

『ヒヒヒ、ヒィィィィィィィッ⁉︎⁉︎』

鵺は身を捩って躱そうとするが、時既に遅し。超速度で降り下されたフツノミタマが、鵺を真っ二つに断ち斬った。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ⁉︎」

辻は真っ逆さまに宙を落下している現状に悲鳴を上げる。鵺との接触寸前に上方へ刹那に投げ上げて貰い、見事鵺を両断したまでは良かったが、問題は辻が飛べないと言うことである。

「辻部長ーっ‼︎」

刹那が急降下して辻の名を呼びながら向かって来るのを、辻は視界の端で捉えた。

……よし、これで激突して潰れた蛙みたいになる悲惨な未来は回避できたな………

辻が刹那に応えるため空いている左手を掲げ、声を上げようとした、その瞬間。

『主‼︎』

鋭いフツノミタマの思念と共に。

「がっ⁉︎」

辻の背中に、灼かれたような熱い感覚が疾った。

辻の背中を切り裂いたのは、鋭く尖った獣の鉤爪。

「…さっきから凡そ男らしゅう無いやり方で堪忍なぁ、刀の兄ちゃん」

でもな、とその長髪を風に靡かせ、体の所々に獣毛を生やした少年ーー犬上 小太郎は呟く。

「…絶対に姉ちゃんのとこまで、行かせる訳にはいかんのや」




閲覧ありがとうございます、星の海です。いやはや、話が進んでいません。修学旅行編だけではや22話、完結までには何百話になるのでしょう苦笑)ともあれ、バカレンジャーたちがあっちでもこっちでも何やらピンチですが、ぶっちゃけエヴァンジェリン戦の時の方が、まだまだ酷いですよね。だから多分辻達は大丈夫でしょう笑)次も、なるべく早めに更新したいです。それでは、次回もよろしくお願いします。
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