お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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次回か次々回で長い戦闘パートも終わりです。


23話 死闘の続行 驚異の顕現

辻の背中が獣化した小太郎に引き裂かれ、空に大量の紅い花が咲いた。

刹那は、その光景を見た瞬間、頭の中から全てが吹き飛び、次の瞬間焼けるような怒りが脳内を支配した。

「っ、貴っ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

「せ、刹那さん‼︎」

背後のネギの言葉も耳に入らず、刹那は夕凪を振りかぶり、小太郎に向かって突撃する。

だが、小太郎はそんな刹那をちらと見やると、体から力が抜け落下しようとする辻の首根っこをひっ掴み、自らの体前に引き上げ、逆の手の鉤爪を辻の首元に突きつけて刹那に大声で告げる。

「…それ以上近づくなら、この兄ちゃんの首、掻っ捌かせて貰うで‼︎」

「っ‼︎……貴様…!」

止む無く急停止しながら、刹那は小太郎を睨みつける。

「直ぐに死んでまうような傷はつけとらん。千草姉ちゃんの儀式が終わったら、この兄ちゃんはそっちに返すわ。その後お嬢様も無事に帰す。俺は嘘は吐かん、大人しゅうしとってくれ‼︎」

小太郎の、威圧的だが何処か懇願するような響きを含む言葉に、当然刹那は応じようとはしなかった。しかし、辻を人質に取られている現状下手に動くこともできず、自らの不甲斐なさから刹那は歯を食いしばる。後方から追いついてきたネギも状況を見て取って、手を拱いている。

「…そんな都合の良い話を、こっちが飲むとでも思ったか……?」

荒い息を吐きながら、告げてくる辻に小太郎は顔を顰め、言い放つ。

「喋んなや、兄ちゃん。肋骨引き折って肺を引っ掛けた感触がしたんや。無茶しとるとホンマに死ぬで」

やり取りを聞きながら刹那は己を恥じる。

…どこまで未熟なのだ、私は………‼︎

打つことの出来る手が何も無い現状に刹那が俯きかけた、その時。

辻の強い視線が下がりかけた刹那の眼を捉え、反射的に辻の眼を見返す刹那に、辻は言葉よりも雄弁に眼で告げた。

…行け。

自分は構わず先に行けと目線で語る辻に、刹那は反射的に抗議の声を上げようとしたが、辻は次の瞬間にはもう行動に移っていた。

辻は手捌きでフツノミタマを逆手に持ち替え、小太郎が反応する前に足元の黒い渦のようなものの片割れを一息に突き刺す。

澄んだ音が響き、二つの渦の一つが弾けると同時に空中に静止していた小太郎の体がガクリと沈む。

「うぉっ⁉︎」

唐突に支えを失い、体勢を崩す小太郎に辻は振り向き様に肘鉄を叩き込み、右手を振り上げもう片方の黒い渦を霧散させる。

「がっ⁉︎」

よろけると同時に支えを完全に失い、落下する小太郎の首をひっ掴み、共に落ちながら辻は頭上の刹那とネギを見上げ、叫ぶ。

「直ぐに片付けて追いつく‼︎近衛ちゃんを救いに行け‼︎」

「辻さん‼︎」

「辻部長…‼︎」

辻の言葉を受けて、それでもなお前に出ようとする二人に、辻は怒鳴る。

「お前は何をしに来たんだよ、ネギ(・・)ィ‼︎お前にとって近衛ちゃんは何だ、刹那(・・)ぁ‼︎」

その剣幕よりも、伝えられた言葉の内容に、二人は動きを止める。

「……行けよ‼︎‼︎」

辻は最後にそう叫び、引き剥がそうとする小太郎と揉み合いながら小さくなっていき、森の中に落下した。

「っ‼︎」

反射的に飛び出そうとするネギを、刹那が手で制した。ハッとしてネギが刹那を見上げると、刹那は血が出るほどに強く唇を噛み締め、苦渋の表情を浮かべていた。

「…行きましょう、ネギ先生」

「……でも、」

「大丈夫です」

刹那はネギの言葉を遮り、強張った口角を無理に上げて、笑顔を作る。

「あの人は最強じゃありません。負けることだってありますし、ちょっと情けない所だってあるでしょう」

でも、と刹那は続ける。

「いざという時にあの人ほど頼れる人を、私は知りません。辻部長は約束を破らない人です」

ネギはその言葉にハッと目を見開き、ややあってこっくりと頷いた。

「行きましょう‼︎」

「はい‼︎」

ネギと刹那は、救出に向かう。祭壇で待つ木乃香の元へ。

 

 

 

「糞ったれが、洒落になんねえもん撃ち込んできやがって。丸焼きになるかと思ったぞ」

「ちょっと、ホントに大丈夫先輩?真っ赤になってるわよ、背中!」

豪徳寺と明日菜は焼け爛れ、一部がまだ盛大に燃え盛っている森の中をそろそろと進んでいた。

砂嵐と火炎の嵐がバカレンジャーを挟み込む様に撃ち込まれた時に、中村達は四方に散って直撃を躱した。その際に、隠れている明日菜に一番距離の近かった豪徳寺が明日菜を連れて逃げた。その行動の分逃げるのが遅れ、真面に炎に飲まれそうになった所を、明日菜を懐に抱えて地面に伏せ、襲い掛かる火炎の波に対して全力の気弾で火炎を散らすことにより焼死を回避したのだった。

「エヴァンジェリンの奴と戦りやった時に比べりゃ、まだまだ余裕だ。俺はあいつらの中でも随一タフだからな。それより本当にお前は怪我してねえんだな神楽坂?」

「私は大丈夫よ。服はちょっと焦げちゃったけど、何故か体は傷一つ無いわ」

明日菜の言葉通り、上着とスカートの裾が少々焦げてはいるが、体には傷一つ無い。

「…理由はわからねえが、怪我が無いならよしとしとくか」

「もしかしたらアーティファクトのお陰かもね」

そんなやりとりを交わしつつ、二人は静かに森を移動する。

「…先輩、連中は、」

「俺達の死体も確認せずに、行っちまう程間抜けな奴らじゃないだろう。だからこそせめて先に見つけて、先制攻撃を叩き込みてえ所なんだが……」

その時、進行方向の右から数十m程離れた地点で、爆発音が轟く。

「……あっちか‼︎」

 

石の槍(ドリュ ペトラス)!」

「ツイて無いな、ホント‼︎」

大地から湧き上がる石柱の群れを空中に飛び上がって躱しつつ、山下は悪態を吐く。

砂嵐の側に逃げた山下は右手と右足の一部をグラインダーに当てられたかのように削られつつも、大きな負傷は無く砂嵐をやり過ごせたのだが、移動して、仲間と合流を図ろうとした途端に、空から少年と青年が降ってきて現在の有様である。

「…しつこいな、お前らも」

「そっくり返すよ、誘拐犯兼テロリスト‼︎」

数十条の闇の矢を撃ち出しつつ青年がウンザリした様に言い、虚空瞬動で更に空中を飛び回って躱しつつ山下が怒鳴り返す。

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト・小さき王八つ足の蜥蜴邪眼の主よ…」

黒衣の青年の絶え間無い波状攻撃を何とか躱している山下を尻目に、白髪の少年は離れた位置から淡々と詠唱をし始める。

…あ、ヤバい……!

山下は、少年の詠唱を聞いて危機感を覚える。山下にラテン語はわからないが、初めに辻を足止めにして逃げる前に少年が使用した、灰色の雲を生み出した時と同じものだと、音の響きから何となく理解したからだ。

一対一なら何とか躱し様もあるが、黒衣の青年は、前衛代わりに足止めを行うつもりらしく、先ほどから威力が低い代わりに出の早い小規模の魔法ばかりを連発して山下の動きを制限している。無理に石化の雲から逃れようとすれば、代わりに青年の魔法が山下に突き刺さるだろう。

「くぅっ‼︎」

山下は虚空瞬動で上方に飛び上がり、強引に二人から距離を離そうとする。

「ヴェロス・オニムス・ザムウェルス・温もりと慈悲無き純潔の乙女よ 内なる棘にて淫蕩者に報いを」

だが、青年の詠唱により、山下の周囲を取り囲む様に一本一本が大人の腕程もある巨大な漆黒の棘が現れる。

「はぁ⁉︎」

驚くと同時に逃げ場を無くし、空中で一瞬動きの止まる山下に、青年は容赦無く魔法を発動させる。

鉄の処女(ウィルギニタース カリュプス)

上下左右前後の棘の檻が、内側の山下に向かい一斉に収束する。

「おおおおおおぉぉぉぉっ‼︎」

山下は天地を逆になりながら宙を蹴り、一方向の棘の群に全力で突っ込んだ。

「っ〜〜〜〜〜‼︎‼︎」

直後、身体の各所が引き裂け、棘の一発を左肩に貫通させながら山下は地面に降り立ち、全身に走る苦痛に、声にならない呻き声を上げる。

そんな山下を冷めた目で見やりながら、青年は冷たく告げる。

「正解だ。これ(・・)は単純に障壁で防ぐか、棘と棘の間隔が広い出始めに喰らいながらでも強引に抜けるしか無い。…素人が咄嗟によく判断したよ」

まあ、と青年はどうでも良さそうに言葉を続ける。

「終わりだけどな」

石化の邪眼(カコン オンマ ペトローセオース)

少年が山下に突きつけた二指から不気味に輝く光線が放たれる。

 

…………終わり?……………………

……舐めるなよ、クソ野郎共(・・・・・)

 

山下に光線が直撃する。

「終わり……⁉︎」

何事かを言いかけた少年の目が見開かれる。

「ああああああああああアアアアアアアアアアアアッッ‼︎‼︎‼︎」

山下は光線を左手で支えた右の掌で受け、前屈みに腰を落として全体重を込めて光線の威力に拮抗していた。

「っ⁉︎んな、馬鹿な……⁉︎」

青年が驚愕の声を上げる。対魔法戦に特化した高位魔法使い(ハイマジックユーザー)なら兎も角、魔法のまの字も知らない気が使えるだけの素人が魔法を抵抗(レジスト)するなど、あり得ない事だからだ。

……いや、これはそんな上等(・・)な代物じゃない……‼︎

 

山下が行っているのは、全身の気を掌に一点極集中させて莫大なエネルギーの物量で強引に光線を相殺しているだけだ。言うまでも無く長くは続かない、息を止めながらの全力疾走の様なものである。これまでの戦いで少なからず消耗している山下は、急激な気の減少に目の前が霞み、今にも倒れそうになっていた。

しかし、山下は倒れない。ふらつく体を、震える足を根性で支え、霞む目を見開き、目の前の敵をにらみ据える。

……気弾を逸らすのと、同じだ。

既に少年の指先からは光線の照射は終わり、山下の右掌に相殺しきれないエネルギーが球状になって山下を貫こうと迫るのみである。

…何やってるんだ、僕。

…僕の流儀は受けるんじゃ無い……………!

「っ流、すんだろうがぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

山下は咆哮し、掌の破壊的な力を受け流すべく、沈めた身体を四半回転。まるで掌底を打ち出す様に半身で右腕を突き入れると同時に掌を傾け、右後方に石化の光球を、受け流した(・・・・・)。光球は木々の一本に着弾し、たちまちの内に石へと変える。

「…へっ………大したこと、無いね………」

山下は嘯き、力尽きた様に地面に蹲る。

「「…………………‼︎」」

少年と青年は目を見開き、驚愕をその瞳に宿して山下を見やる。

山下が行ったのは、高密度の気を盾にして魔法を一時的に遮断し、魔法そのものの推進力を逆手にとって軌道を変え、後ろに流した。言葉にすればそれだけだ。

しかし、言うまでもなく口にするほど簡単な行為ではない。気を収束させて魔法受け止めたとしても、その収束させた気を同等の密度を保ったまま維持するのは困難なことであるし、尚且つ受け止めた魔法を拡散させ、余波を喰らわないように山下は収束させた気を操り、手のひらに球状にして留めていた。気を極集中させながらそれを自在に操る、そんな事は気を用いるトップクラスの前衛でも早々は成し得ないことである。

それを魔法も碌に知らない半素人が行い、あまつさえ魔法を術も何も用いず受け流す。奇跡のような山下の所業に、少年と青年は僅かな間我を失った。

そんな戦闘中に見せるにはあまりにも大きな隙を、彼ら(・・)が見逃す筈はなかった。

 

極漢魂(きわめおとこだま)ぁっ‼︎」

()ァァァァァァッ‼︎‼︎」

豪徳寺の放った巨大な気弾が大爆発を起こして青年を、大豪院の鉄山靠が少年を、それぞれ凄まじい勢いで弾き飛ばす。

「ぐっ⁉︎」

「な、に⁉︎」

苦鳴を上げながら宙を舞う二人に、それぞれ影が走り寄る。

「ぶっ飛べやぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

「死ぬかと思ったでしょうがこのガキぃぃぃぃぃ‼︎」

黒衣の青年に中村が、白髪の少年に明日菜が、それぞれ全力の正拳とハリセンを叩き込んだ。

中村の正拳は回転して飛んでくる青年の背中側に襲い掛かるが、直前で障壁に受け止められる。障壁は軋みながらもその破壊的な威力を受け止め、持ち堪えた。

だが、中村はニヤリと笑い、叩き込んだ左手とは逆の右手で抜き手を作り、後方に引き絞りながら青年に告げる。

「豪徳寺の馬鹿みてえな威力の気弾喰らった状態から俺の全力の正拳受け止める亀みてえな硬さは褒めてやるよ」

でもな、と中村は嗤って続ける。

「何でか知らねえが、脆いぜ(・・・)ここ」

中村が突き出すのは気を極集中させた無類の貫通力を誇る彼の必殺、千重穿ち。

だが、先の戦闘でこれを用いた中村の攻撃は、青年の障壁を貫けず既に弾き返されていた。いくら吹き飛ばされた直後とはいえ、青年を殺傷出来る威力が通るとは思えない。

しかし(・・・)

中村が打ち込んだ輝く抜き手は、青年の障壁をあっさりとぶち抜き、青年の水月を背中から腹側に突き通した。

「ゴッ、ハッ⁉︎⁉︎」

苦鳴を上げる青年に構わず、中村は串刺しにした体を腕ごと引き寄せ、再度左の拳に気を集める。

「…一昨日の借りは万倍返しだ、クソ野郎」

中村は抜き手を引き抜き様、かつては防がれたもう一つの必殺を打ち放つ。

「破砕正拳、千重砕き(ちえくだき)ぃぃ‼︎‼︎」

人体など簡単に貫く拳が、更に当たった瞬間、凄まじい勢いで、莫大な量の気を零距離で弾けさせたらどうなるか。

答えは単純明確。

青年の体が打ち込まれた腹を中心に砕け散り、上半身と下半身が別れ別れになって吹き飛んだ。

森の茂みの中に突っ込み、それから動く気配のない青年の残骸を見ながら、中村は静かに呟いた。

「…悪いが、手加減する余裕は無かったんだわ」

 

中村が戦闘で見抜いた、障壁の脆い箇所、それは辻が青年の背中を斬りつけた際に断ち斬った障壁の位置と同じであった。

無論、青年は斬られてから幾度も障壁を張り直している。辻が断った障壁が中村の破ったそれと同一である筈が無い。

しかし青年の断たれた背中の傷は修復していない。少年が断たれた片手片足も接合しない。

フツノミタマが断つ(・・・・・・・・・)とはそういうことだ(・・・・・・・)

断たれたものは、余程の例外を除いて、繋がらない(・・・・・)。何故ならば断たれたのだから。

青年の障壁は断たれた為、新しいものを張り直してなお、断たれた箇所は充分な強度を持ち得なかった。

概念的な事象までをも断つ。それがフツノミタマである。

 

さて置き、白髪の少年の末路を語るのに多くの言葉は必要無い。

明日菜が叫びと共に、全力で振り切ったハマノツルギは、明日菜自身が拍子抜けするほどにあっさりと少年の障壁を粉々に打ち破り、ズッパァァァァァン‼︎‼︎と只管痛そうな破裂音と共に少年の顔面を捉えて、元来た方向にきりもみ回転させながら少年を打ち返した。

「………あれ?」

自分で思っていた以上に凄まじい一撃となり、明日菜はホームランバッターのようにハマノツルギを振り切って姿勢のまま、やや間抜けな声を上げる。

「上出来だ神楽坂後輩…‼︎」

大豪院は、明日菜と同じく一瞬あっけに取られながらも次の瞬間には我に返り、再度こちらに帰ってくる少年に向かい全力で駆け出した。

「ィ()ァァァァァッ‼︎」

カウンターの形となった冲捶が少年の胴体にめり込み、その造形を歪ませる。

大豪院の攻撃は終わらない。更に踏み込んでの裡門頂肘。やや下から突き上げる形になり、宙に浮く少年。

震脚による地響きと共に、止めとして打ち込まれた貼山靠が少年をズタズタに打ち壊し、森の彼方まで吹き飛ばした。

「…一呼吸に三撃は久しいな」

相手を殺してしまうのだから当然かと、大豪院は笑った。

 

「…はは。何とかやったねぇ」

山下が疲労困憊といった体でフラフラと立ちあがりながら、それでも笑みを浮かべて呼びかける。

「応よ山ちゃん!と喜び合って肩でも叩き合いてえ所だが、生憎そんな暇は無ぇ」

中村が山下に応じるが、顔は厳しいままである。

「…だな。正直大分しんどいが、辻達の加勢に行こうぜ」

「今から行って間に合うかは解らんが、盡人事待天命 盡人事而待天命、だ。行くぞ」

豪徳寺と大豪院も早速次の行動に移る旨を全体に告げる。

「…だね、行こうか」

山下も頷き、足を踏み出す。

「無理すんな山ちゃん。あんな離れ業やって見せたんだ、もう碌に動け無えだろ?」

中村がやや覚束ない足取りで歩を進める山下の様子を見て告げる。

「ここが無理のし所だよ。エヴァさんと戦り合った時に比べれば、何てこと無いさ。心配いらない、行こう」

「…ま、正念場だしな」

「今更過ぎる言葉だが、あまり無理はするな、山下」

バカレンジャーは声を掛け合い、移動しようとするが、明日菜が立ち尽くしたまま動かないのを見咎め、豪徳寺が声を掛ける。

「どうした、神楽坂。どこか痛めたか?」

明日菜はその言葉にやや力なく首を振り、恐る恐るといった様子で、中村達に問いを放つ。

「…ねぇ、先輩達。…さっきの二人……殺しちゃった、の?」

その言葉に中村達は目を見開き、一瞬後に明日菜の葛藤を理解する。

…そうか、馬鹿だな俺。

…この子を一般人だと言ってたのは、何処のどいつだよ………。

中村は、己の配慮の無さを恥じる。言ってしまえば、明日菜は人殺しに加担したようなものなのだ。いくら相手が自分の親友を攫った憎き誘拐犯で、自分達を殺そうとしてきた相手だろうと、平常心でいられるわけが無い。

…駄目だ駄目だ。こんなんだから女の子にモテ無ぇんじゃねーか、俺は。

こういうとこは辻を見習えよ、俺。と中村は己を叱咤し、明日菜にゆっくりと告げる。

「明日ニャン、お前さんはムカつくガキに仕返しの一発入れただけだ。やったのは俺らで、お前さんは悪くない」

中村の言葉に明日菜は顔を上げ、抗議するように言い放つ。

「…そんな都合の良い言い訳、通る筈無いじゃない……」

「そうかもしれん」

大豪院が言葉を続ける。

「状況が加減を許さなかった。お前を戦力に数えて、無理をさせてしまったのは俺たちが未熟な所為だ。申し訳ないと思うが、その上で言おう」

大豪院は明日菜の目を正面から見て言った。

「…お前がいてくれて助かった」

「っ!…………」

明日菜がその言葉に目を見開き、やがて何処か悲しげながらも、どうにか口端に笑みを作り頷く。

「…ゴメン、こんな時に。自分でついてくるって言った癖に、情けないわよね」

「そんな事は全く無いよ、神楽坂ちゃん」

山下は優しく、自嘲する明日菜の言葉を否定する。

「僕らだって、見た目ほど内心で割り切れちゃいない。でも必要な事だからやり切っただけなんだ。こんな訳のわからない状況で、自分を制してそんなことが言える明日菜ちゃんは僕らなんかよりよっぽど立派だよ」

豪徳寺が頷き、明日菜を促す。

「後で辛くなったり、納得がいかなきゃいくらでも俺らに当たれ。酷な言い方だが今は飲み込んで、近衛の奴を助けに行こうぜ、神楽坂」

明日菜はその言葉に、ややあってから頷き、バカレンジャーに続いて走り出す。

「よーし、こんな訳わかんない状況に巻き込んでくれたんだから、全部終わったら関西呪術協会だか何だか知らないけど、何かしらでパーっとお返ししてもらいましょ!先輩達、木乃香と一緒に皆ではっちゃけるわよ‼︎」

多分に空元気を含めているだろうが、それでもこの状況で気持ちを切り替えて見せた明日菜の芯の強さに、全員が目を細め、賞賛の意を心中で送る。

「っしゃあ急ぐぜ‼︎首を洗って待ってやがれ、眼鏡女………⁉︎」

先頭の中村が走りながら拳を突き上げて戦意を言葉にするが、その勢いは途中で途切れ、尻切れ蜻蛉に語尾が消える。

中村だけではなく、勢い込んで走っていた全員が驚愕のあまり声を無くして、遥か前方の光景を見やる。

一際強く光り輝く、開けたその場所には、二面四臂の異形の巨人が堂々とその姿を現していた。




閲覧ありがとうございます、星の海です。ギリギリですが一日開けずに更新出来ました。この調子で進めたいです。いよいよクライマックスが近いです。辻の安否や、出て来てしまった大鬼神など不安要素が目白押しですが、うまく収束させていきますので、楽しみにお待ち頂ければ幸いです。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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