お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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これにて二章終了です。今回も長くなりました。


26話 動乱する世界の始まり

「此処までやな……」

「貴様、何処へ…⁉︎」

「…頼める義理や無いのは重々承知やけど……伝言頼まれてくれんか、神鳴流の護衛?」

転移符を片手に、千草は何処か寂し気な笑みと共に刹那に言った。

 

 

 

「…はは、はははは……良かったなぁ……凄く、綺麗に断てたなぁ…カミサマって、あんな感触がするんだなぁ……あは、ひひひひひ……‼︎」

 

 

 

「……あ゛〜〜〜〜〜疲れた……‼︎散々な京都旅行だったぜマジで…」

「そもそも旅行に来たんじゃ無えけどな…」

関西呪術協会の用意された客間の一室で、死んだように寝転がりながら呻く中村に、豪徳寺がツッコミを入れた。

辻が両面宿儺を両断してから程なくして中村達は無事合流した。全員揃って下山して関西技術協会の総本山に向かった所、途中でようやく駆けつけてきた増援達と合流し、一先ずの一見落着と相成った。全員疲労していた為、増援の手によって石化を解かれた近衛 詠春に勧められて協会内の客室で一夜を明かし、現在は早朝である。

「しっかし途中から連絡入れる暇もなかったとは言え、想定外だったの一言じゃ済まされないでしょホントに…」

「言うな。この件に関しては何としても帰ってから学園長本人を捕まえて詳細を聞き出してくれる…‼︎」

不満気な山下の愚痴に大豪院が物騒な顔で物騒なことを口にする。

「止めようぜ今そういう話は。只でさえ昨日、中村が大々的に喧嘩売っちまってから微妙にここ居辛いんだからよ…」

豪徳寺がウンザリした顔で言う。

「しょーがねえだろマジで役に立って無えんだから連中‼︎おっとり刀で駆けつけてきてだーんと格好付けたと思ったら一網打尽にされましたとか何処のやられ役だよあいつら……」

「それは長殿を含めた術士と剣士の連中が本当に実力があったから初見殺しの詰み技で潰されたんだと昨日も説明したろうが阿呆」

不満気な中村の言葉をバッサリと切り捨てる大豪院。

「そうそう。僕らが同じことされたら対応できなかったのは明らかなんだから、長さん達を責めるのはフェアじゃ無いんじゃないかな中村?」

「そういうこった。連中もやられたくてやられた訳じゃ無えんだし、こうして傷も癒して貰って寝るとこと飯の世話までして貰ってんだ。文句言うのは筋違いだぜ」

「わーったわーった、俺が悪かったっつーの!…まあ個人的に巫女さんハーレム作ってる近衛パパンの性癖は嫌いじゃ無えし、こんぐらいにしといてやっか‼︎」

「最後の何の関係があったんだ…?」

「そこの馬鹿にしか解らん、理解を諦めろ」

大豪院が投げやりに締めくくった所で、ふと山下が呟く。

「…そう言えば辻は?僕がうたた寝してる間に姿が見えなくなっているんだけど…?」

「…あー、(はじめ)ちゃんならせったんに呼び出し喰らってどっか行ったぜー?尾けてこうとしたらあの野郎俺の股間に蹴りくれやがって、悶絶してる間にどっか行っちまった…あの童貞野郎帰って来たら覚えてろや……‼︎」

「自業自得だ、クズ。どうせあの二人のことだ、真面目に何か相談でもして終わりだろうよ」

「逆説的に変な信頼あるよなあの二人……」

「…ま、確かにねぇ……」

山下は豪徳寺に同意しつつも、何と無く引っかかっていた。

…辻、大丈夫かなぁ……?

 

 

 

「辻部長、本当に何処も異常はありませんか…?」

「だから大丈夫だって言ってるだろ桜咲。怪我は全て治ったし、変な違和感や怠さ何かも無しだ」

「…すみません、少々しつこかったですね。しかし、仮にも神と名の付く物を斃したのですから、どのような理由や切っ掛けで祟られたり、呪い殺される事があっても不思議は無いのです。用心に越したことは無かったもので……」

「…よくよく考えると、日本書紀に載ってる様な知名度の鬼神を断ったんだよなぁ、俺…」

神殺しとか、一ヵ月前までの俺が聞いたらどんな顔するだろうなぁ…と辻は遠い目をする。そんな辻の様子に苦笑しながらも、刹那は話を続ける。

「…兎に角、辻部長。今回は部長を含めた皆さんが居てくれて本当に助かりました。私だけでは到底、お嬢様をお守りすることなど出来なかったでしょう。心より御礼を申し上げます」

深々と頭を下げる刹那に今度は辻が苦笑して、手を振りながら返事を返す。

「そんな改まった礼は止めてくれ。元々ネギ君を助けたくて、自主的に来たんだ。近衛ちゃんを助けたのも、お前を助けたのも。俺達は武道家で、何より先輩なんだから当たり前だろ?」

真面目な顔でそんなことを言う辻に刹那は目を細め、ポツリと呟く。

「…本当に、凄い人ですね、貴方は……」

「うん?」

「いいえ、何でもありません。…時に辻部長、昨日の朝、交わした約束を覚えていますか…?」

何故か恐る恐る、という風に聞いてきた刹那に、辻は自信満々に頷く。

「ああ!勿論だ。俺を呼び出したのはその点についての話では無いかと思っていたよ。安心しろ、桜咲。俺は逃げも隠れもせん、潔く腹を切ってみせよう」

「寧ろ忘れていて欲しかったんですが…そうですね、貴方はそういう人でした…」

何故か疲れたように言う刹那を不思議そうに見やりながら、辻は言葉を続ける。

「それで、俺は何時切腹しようか桜咲?お前が望むのならこの場で一席設けるぞ!」

「止めて下さいお願いします。…どうあっても退かない気ですね、辻部長……」

刹那の言葉に、辻は頷く。

「ああ。この後に及んで俺の心配をしてくれるお前の優しさには頭が下がるが、俺も男だ。言ったことには責任を取らねばならん‼︎」

「そんな所でだけ男らしさを発揮しないでください‼︎……わかりました、そちらがどうあっても責任を取ろうと言うなら私も考えがあります」

「うん?」

何やら妙な気迫の篭った様子の刹那に辻は首を傾げるが、刹那はそんな辻の様子に構わず、何故かもじもじとした様子で辻に向かって躊躇いがちに言葉を放つ。

「…辻部長。私は烏族のハーフです。それに関しては、昨日簡単に説明をしましたね?」

「ああ、でもそれがどうした?」

「実は、烏族の掟には真の姿を見られた者の元からは姿を消さねばならない、というものがありまして…」

「…ほう」

「ですから、私は皆さんの前から…」

「無視してしまえそんな糞の様な掟は‼︎」

「早いですね⁉︎…と、兎に角、辻部長がどうしても腹を切ると言うのなら、私も皆さんの前から姿を消させて貰います‼︎」

きっぱりと言い切った刹那の言葉に、辻は慌てふためきながら反論する。

「なんだその条件は、全然話が繋がってないぞ⁉︎馬鹿な真似はやめろ、俺が死ねばいいだけの話だ‼︎」

「それが嫌だからこんな話をわざわざ持ってきているんでしょうが⁉︎それに、繋がりが無い訳ではありません、此処から私は交換条件を提示します‼︎」

「…何?」

問い返す辻に、刹那は顔を赤くしながら言い放った。

「…そ、そもそも、辻部長が責任云々と言っているのは、私と…その、接吻行為を、事故でしてしまったから言っているのでしょう…⁉︎」

「……あ、ああ………」

…うわぁ当人から改めて話題に出されると壮絶に気まずい……!

顔を引き攣らせる辻に構わず、刹那は続ける。

「で、でしたら、その一件と、私の正体を黙っていると言う条件で、この二つを相殺します‼︎」

「………うん?………………」

訳がわからない、といった辻の様子に、刹那は完全に顔を真っ赤にしながら叫ぶように言い放つ。

「ですから‼︎辻部長が私と接吻した行為を代償に私の正体を秘密にして頂くということです‼︎……も、文字通りの、…口止め料、です………ぅぅ………」

刹那は耐え切れないとばかりに俯き、辻の返答を待つ。しかし、辻は一向に言葉を返さない。

……も、もしかして、盛大に引かれてしまったでしょうか……?

刹那が恐る恐る顔を上げると、辻は目を見開き、体を小刻みに震わせながら刹那を見ていた。

「あ、あの…辻部長……?」

「…………は」

「はい?」

何事かを呟いた辻に、刹那が聞き返すと、

「っなんっていうかお前はもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎‼︎」

ガバシィッ‼︎と辻は目にも止まらぬ速度で前に出て、刹那を正面から抱き締めると、その体を抱え上げる。

「うわぁ⁉︎つ、つ、辻部長、何を⁉︎」

「何だお前は本当に天使なんじゃ無いのか、うわぁぁぁぁぁ可愛い‼︎誰か聞いてくれ‼︎俺の後輩が凄く可愛い‼︎‼︎」

「かわっ⁉︎ち、ちょっと辻部長、落ち着いて下さい⁉︎」

唐突な辻の暴走に刹那は顔をトマトのように熟れさせながら制止の言葉を投げかけるが、辻に聞こえた様子は無い。終いには刹那を抱えたまま、何処かへと走りだす。

「おーい誰か‼︎誰か居ないかぁぁぁぁっ⁉︎俺に後輩を自慢させろぉぉぉっ⁉︎」

「うわぁぁぁぁぁっ⁉︎止まって‼︎止まって下さい辻部長ぉぉぉぉぉぉっ⁉︎」

刹那の声が、ドップラー効果をひき起こしながら遠ざかっていった。

 

「…どうしたのかしら、辻先輩……?」

「細かいことはええんや明日菜、せっちゃんに春が来たんやから…‼︎」

物陰からこっそり様子を見ていた明日菜と木乃香は、そのようなことを話し合っていた。

 

「おい聞けお前ら‼︎俺の後輩が凄く可愛いんだ‼︎‼︎」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎嫁自慢ですかぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎ウッぜえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎‼︎‼︎」

「即座に反応出来るお前凄えな⁉︎っていうか辻、どうした⁉︎」

「え、何?ホントどうしたの、辻⁉︎何か振り切れた⁉︎」

「ヘタレが一周廻ると此処まで恐ろしい状態になるのか……⁉︎桜咲後輩、貴様辻に何をした⁉︎」

「なんでもいいから助けて下さいお願いします⁉︎」

なんというか、混沌(カオス)な空間だった。

 

 

 

「改めてお礼を言わせて頂きます、皆さん。木乃香を助けて頂き、本当にありがとうございました」

詠春が頭を下げる。場所はサウザンドマスター、ナギ スプリングフィールドの別荘を詠春の案内でネギが率いる五班の面々とバカレンジャー、そして何故かついてきた二班の一部は訪れていた。

「い、いえ‼︎頭を上げて下さい長さん、僕達は当然のことをしただけです‼︎」

低姿勢の詠春に、ネギが慌てたように声をかけるが、豪徳寺はそんなネギを制して持論を語る。

「まあ、漢には黙って頭を下げなきゃいけねえ時もあるんだよ、ネギ。こういう時は、こっちも黙って謝罪を受けときゃいいんだ」

「まあ、此方も頼まれてやったことではありませんので、助けになったのなら幸いです」

辻が静かに笑みを浮かべながらそつなく言葉を返す。

「…なーんかなぁー……」

「中村、気持ちが解らんとは言わんが今は黙っておけ」

「…へーいへい」

辻達のやり取りを見て、微妙な顔をしながら納得がいかなそうに呟く中村に、大豪院が釘を刺す。

「…まあまあ、双方蟠りはあるでしょうけど、堅苦しいやり取りはそれ位にして僕らも見学に移りましょう。長さん、僕らも見て回って構わないですかね?」

山下の確認に柔和な笑みを浮かべて頷く詠春。

「勿論です。ただ、故人の所有物ですので余り荒らす様な真似は控えて頂けると助かります」

「当然ですね。じゃあネギ君、待望のお父さんの手掛かりが見つかるかもしれないんだ、僕らも手伝うから頑張って探そう」

優しく声を掛ける山下に、ネギは慌てて頭を下げる。

「は、はい!ありがとうございます、皆さん」

「いいっていいって。此処まで来といて今更だろ?」

「どうせやる事も無いからな」

「野郎の家なんざ見て何が楽しいんだっつーの…つーかポォチ。オメ暇だっつうんなら健気について来た古ちゃんの相手してやれよ、ツレない態度お前がとってたから前髪ちゃん達の方へ剥れて行っちまったじゃねーか」

「知るか。遊びでやっていたのでは無いのだ、混ぜろと言われても出来る訳があるまい。彼奴には関係の無い話だ」

「…亭主関白だなあ〜大豪院。よくもまあ、ほぼ毎日顔を合わせる相手にそんな態度を取れるもんだ」

呆れたような感心したような辻の台詞に、僅かに青筋を立てながら大豪院が言葉を返す。

「…そういう貴様はここ数日で随分桜咲後輩と仲良くなったようだなぁ?貴様こそさっさと機嫌を取りに行け、朝方から碌に会話をしておらんだろう貴様?」

「ぐっ⁉︎…いや、何か桜咲があまりにな、いじらしいから、ちょっとこう、溢れるものがだな……」

「その言い訳になっていない言い訳は桜咲後輩本人にしろ。隣室に居るぞ、行ってこい」

「無理だろ⁉︎どんな顔して会話すればいいんだよ⁉︎」

「変わんねぇ〜こいつ…」

「いや、まあ急に変わったら逆に恐ろしいからこれぐらいでいいんじゃないかな…」

「にしたってもう少し、あるだろ何か、こうなぁ…」

「五月蝿いよお前ら‼︎さあネギ君、お父さんの手掛かりを探そう‼︎」

「あ、はい‼︎」

辻はネギの手を引いて部屋にあった本棚の元へ駆け寄っていく。

「逃げたね」

「まぁこれぐらいにしておいてやるか…」

「じゃ、俺らも捜索すっかね…」

「うげぇぇぇ面倒臭……」

言い合いながら各々捜索に加わった。

そんな一同を黙って眺めていた詠春は、ふと小さく笑みを溢して呟く。

「…ネギ君は、良い関係を持った様ですね……」

あの手の漢達に好かれるのは血筋ですかね…と詠春はかつての悪友を想った。

 

「むぅぅぅぅ〜‼︎ポチのアホ、ボケ、廢柴(フェッエ チャアェ)!アル〜〜〜‼︎」

古はプリプリと怒りながら虚空に向けて拳足を見舞う。

「まあまあ、落ち着くでござるよ、古」

対照的にこちらはのほほんとした様子の楓が、ベンチに腰掛けながら古を諫める。

「昨日はこっちにまでなんか地震の余波みたいなのが来てたしね〜相当ヤバい事態だったみたいだから、先輩達が声かけなかったのも解るってもんだけど?」

朝倉も、怒髪天をつく様子の古をカメラに収めつつ苦笑して言う。

三人が居るのは別荘の狭い裏庭だ。大豪院のツレない返答に完全に臍を曲げた古が、鬱憤晴らしに体を動かしに外に飛び出して行ったのを二人が追ってきた形である。

「私だて闘えるアルよ‼︎ポチは私を何時も子ども扱いするアル‼︎」

「声を掛けて貰えなかったのは拙者も多少寂しいでござるが…聞いた限りの話では命の危険もあったとのことでござる。古を危険な目に遭わせたくなかったのでござるよ、ポチ殿は」

「まあ、矜恃って奴の問題からしても、女子中学生に頼る男子高校生ってなんかどうかとは思うしねぇ…」

「うがー‼︎難しいことはわかんないアルが、とにかくムカつくアル‼︎」

一向に怒りの冷めやらない古に、朝倉がややうんざりしたように嘆息しつつ、告げる。

「そんなに置いてかれたのが不満ならさぁ、古ちゃん。次こんなことがあったら、問答無用で追いてっちゃえばいいだけの話じゃん?なんで許可取る必要があるのさ?」

朝倉の言葉に、古はピタリと動きを止め、

「…それもそうアルな‼︎」

あっさりと納得した。

「…朝倉殿……」

「…あ〜、全力で余計なこと言っちゃった?私……?」

ジト目で朝倉の方を見やる楓に、少々引きつった顔で朝倉が溢した。

 

「…なにはともあれ、無事で何よりです、中村先輩」

別荘の一室で机の引き出しを片っ端からひっくり返している中村に、夕映は声を掛けた。

「おーう‼︎心配掛けちまったみてえだなリーダー!でぇーじょぶでぇーじょぶ、この通りピンピンだぜ‼︎」

力瘤を作って、ケラケラ笑いながら中村が夕映に返す。

「いいえ、私が半地球外生命体のような先輩を心配などおこがましい話です。先輩の生き汚なさと性欲の強さと無駄な行動力だけは、私認めているですから」

「うぉーい非道ぇ言われようだなオイ!野郎だったら半殺しにしておく所だが美少女相手だから俺は勿論笑って許すぜ‼︎おっと俺の度量の広さに惚れちまったら火傷するぜぇ夕映っち⁉︎」

「…矢張り、無いですね。どうしてこれが一昨日は不覚にも少し格好良く見えてしまったのでしょうか、私は……」

「んあ?なんか言ったか夕映っち?」

「いえ、何でもありません。それより、何をなさっているのですか中村先輩?」

引き出しを全てひっくり返した後、机の下に潜り込んで、ゴソゴソと何かを探っている中村に、夕映が不思議そうに声を掛ける。

「ああ⁉︎決まってんだろエロ本の捜索だよエロ本の‼︎本棚とか見てたら外国語ばっかりだから、隠してるエロ本も外国版の無修正の超レアなもんが隠してあるかもしれねえからな‼︎」

「最低ですね…」

半眼になりながら絶対零度の視線で中村を睨む夕映だが、中村はそれしきの事では怯まない。そんなやり取りをしていると、部屋の扉を開けて楓が入ってきた。

「いよう楓ちゅわん‼︎今日も中学生とは思えないtawawaなバストがお美しい‼︎」

「その女子中学生にセクハラから挨拶に入る中村殿も絶好調の様でござるな」

苦笑しながら楓が言葉を返す。中村の左斜め後ろの夕映が、胸の話題になった時にちょっぴりむっとしたのはご愛嬌だ。

「中村殿、唐突で申し訳ないが、一つお願いがあるのでござるが…」

「おうなんじゃあ⁉︎美少女の頼みならこの中村火の中水の中、女子のパンツの中だぜ‼︎」

「死んで下さいです、先輩」

辛辣な夕映の宣告に苦笑を深めながらも、楓は意外な言葉を口にする。

「そのような事は起こらないのが一番でござるが…次にこのような事件が起こったら、拙者にも一声、声を掛けて貰えるとありがたいでござる」

「んあ?」

中村は間抜けな声を上げ、夕映も少し驚いたように目を見開く。

「…なんでよ?」

「無論、拙者にとってもクラスメートは大事な友人だからでござるよ。拙者、これでも少しは腕に覚えがあるつもりでござる。中村先輩達とも知らぬ仲では無く、従って難しい理由はござらん。有事の際は手を貸したい。それだけの話でござる」

年齢不相応に豊かな胸を張り、楓が堂々と言い切る。強調された胸をしっかり視界に収めながらも、中村は少しばかり真面目な顔になり頷いた。

「…わかった。腕前の方は一昨日俺が身を持って確かめたしな。危険性やら何やらを理解した上で自分の意思で来るってんなら、俺に止める理由は無え。ありがたく頼りにさせてもらうぜ?」

「承知したでござる。話のわかる御仁でござるなぁ、中村殿は」

「なーに、弱者を守るのが武道家っつっても、俺は腕が立つなら女だろうと子供だろうと差別はしねぇ。そこら辺が辻やら大豪院やらとは微妙に意見が合わねえんだなぁ…ま、兎も角話は了解したけど夜、なんでわざわざそれを俺に言う訳?」

首を傾げて問う中村に対して、楓は僅かに微笑みながら、言葉を返した。

「ん〜…現状では中村殿を、一番気に入ってるからでござるかな?」

「…何?」

「は…⁉︎」

中村と夕映が同時に声を上げる。

「なにぃぃぃぃぃ⁉︎こ、これはどんな急展開だ⁉︎俺にもついに春の兆しが……⁉︎」

「あ、そういった意味合いでは無いでござる」

「グファァァァァ⁉︎」

言葉の途中で放たれた無慈悲な宣告に、中村が血を吐きながら床に倒れる。

「…ふ、ふふ………解っていたさあ、そんな美味い話が俺にある訳無えってよぅ……ふぐぅぅぅぅ………‼︎」

床の上で奇妙な形に丸まりながら、すすり泣き初める中村を笑って見やりながら、楓は内心でそっと付け加える。

……今の所は、でござるが、な…………

楽しげに笑う楓と、べそをかく中村を視界に収めつつ、夕映は思った。

……何でしょう…………?

…何と無く、面白く無いですね……

 

「…何をしているのですか、山下先輩?」

「なに撮っとるん?山下先輩〜?」

「ん〜?ちょっとね〜……」

部屋全体を写すように、ゆっくりとハンディカメラを回している山下に、木乃香と刹那が不思議そうに声を掛ける。

「ほら、ここってネギくんのお父さんの別荘でしょ?来たくても、事情があって来れなかった人がいるから、その人のためにお土産に持っていこうと思ってね…」

「え〜?誰なん、それ〜?」

「本人の名誉の為に、名前は出せないかなー」

「え〜気になるやんか〜」

尚も木乃香がせがむが、山下は笑顔であしらって、一通り取り終わると、部屋を出て行く。

「あーん、イケズやなぁ山下先輩。なあなあ、せっちゃんはしっとる〜?」

「いえ、私も心当たりはありませんね…」

そう木乃香に返しつつも、刹那には、何と無く山下の言っている人物のことが判明した。

……………………。

「お嬢様。私ちょっと、お花を摘んできます」

「ん、了解や〜…せっちゃん、ウチのことはこのちゃんて呼んでって、朝から何度も言うてるやろ〜?」

「す、すみません、お嬢…こ、このちゃん」

軽く頬を膨らませた木乃香に見送られつつ、刹那は部屋の外に出て、少し前を歩く山下の元に歩み寄る。

「…山下先輩」

「ん?あれ桜咲ちゃん、どうしたの?」

廊下の天井にカメラを向けつつ、山下が不思議そうに尋ねる。

「いえ……不躾な問いですが、そのビデオはエヴァンジェリンさんの為に撮っているのですか?」

刹那の言葉に、山下は一瞬だけ動きを止める。

「…驚いたな、よくわかったね桜咲ちゃん」

「多少なりとも、あの方の事情は知っていますので。……いきなり申し訳ありません、ただ、山下先輩達はエヴァンジェリンさんと死闘を繰り広げた間柄の筈です。そんな相手に、こんな風に気を効かせるのが意外だと感じまして…」

刹那の言葉に、山下は何処か困ったように笑い、返事を返す。

「うん、まあ普通はそう思うのが当然だよね。…でもさ、詳しい事情はエヴァさんの名誉の為に秘するけど、僕からすれば話を聞くと悪いのはネギ君のお父さんの方なんじゃないかって思えてさ…」

こんなこと、ネギくんや辻達には言えないんだけどね、と苦笑して、

「エヴァさんは、闘った時は普通に怖かったけど、それ以前の様子やネギ君に改めて事情を聞いてからは、案外吸血鬼なんて言っても普通の人間と考えてる事はそんなに変わらないんじゃないかって思ってね…そんな女性の、好きな男の別荘に寄ったんだからこれ位はしてあげてもいいんじゃないかって、それだけの話だよ」

笑って言う山下に、刹那が目を細める。

「…普通は殺されかけた相手に、そんな風に気は使えませんよ。優しい人ですね、山下先輩は」

「やめてやめて。そんな格好いいものじゃないから。大体優しいって言うなら、僕なんかより辻の方がずっと優しいよ。…身をもって実感してるでしょ?」

悪戯っぽく問い掛ける山下の言葉に、刹那は顔を赤くして俯く。

…うわー可愛い。辻も幸せ者だなぁ………

遠い目になって果報者の友人を想う山下に、気を取り直して刹那が言う。

「と、兎に角、理由は納得できました。手数をお掛けして申し訳ありませんでした、山下先輩」

「全然構わないよ、気にしないで桜咲ちゃん」

刹那が一礼して、元居た部屋に戻っていく。

「…さて、ちょっと急ぐか。長さんに聞きたいこともあるしね……」

 

 

 

「ふふふふふふ、何時か目に物見せてやるアルよポチ…ふふふふふふ…」

「…まあ、拙者も同じ志ゆえ、止めはせんでござるが、程々にするでござるよ、古」

「…なあ、なんかいつの間にか古ちゃん機嫌直ってる所か、なんか怪しいテンションなんだが…何かやったのか大豪院?」

「知るか。大方別荘にいた時に、誰かに何か吹き込まれたのだろうよ。単純な奴だからな…」

何やら含み笑いをしつつ、上機嫌に歩く遥か前方の古を気味悪げに見て豪徳寺が尋ねるが、大豪院の返答はすげないものである。

「あ〜らポチったら⁉︎嫁に対して流石の理解度よね…でも、男の子だったらもう少し、女の子に優しくしてあげるべきだとお姉さん思うわよぉ…?」

中村が大通りの中央を、腰を不気味にくねらせながら歩きつつ、気持ちの悪いオネエ言葉で大豪院に言う。

「死にたい様だな王八蛋(ワンバーダン)…」

「沸点低いよ大豪院。ほら、ネギ君と宮崎ちゃんを見習ってもうちょっとほのぼのしようよ」

土産物を漁りつつ、一生懸命にネギに対して声を掛けている宮崎を、目を細めて見つつ山下がとりなす。

「…青春してるなぁ……それに比べて俺達は、殺伐した京都滞在だったなぁ本当に…」

溜息をついて呟く辻に、周りにいた全員の視線が殺到する。

「……なんだよ?」

「お前も充分青春してたよ、色男」

代表して豪徳寺が呆れた様に告げた。

「はあ?俺の何処がだ?」

「…駄目だな、こいつは」

「…あれだけやっておいて自覚なしって、もう脳に障害があるんじゃないかと疑うレベルだよね……」

「なんていうかなぁ、向こうも向こうだからお前だけをあまり責めたくは無いけどよ、流石に解れや朴念仁」

「これだからヘタレは‼︎しょうがねえなここは一つ、近衛ちゃんを助けたってことでやたらと好意的だった巫女さんに快く許可を貰い記念写真を撮りまくった俺が、記念に一枚写真を分けてやろう‼︎」

やれやれと首を振って中村が、懐から大量の写真を取り出して辻に告げる。

「なんだよその脈絡の無さ過ぎる話題転換は。巫女さんの写真がなんだっていうんだお前…?」

「バッカ関係ありまくりだよ‼︎お前がそうも恋愛関係に関して鈍いのは、真面目くさってエロい事を考えて無えからだ‼︎だからお前には特別にこのもの凄え巨乳の美人巫女さんの写真をやろう‼︎どうだ見ただけで興奮してぶべぇぇ⁉︎」

言葉の途中で辻の容赦無い正拳を顔面に喰らい、中村は後方に吹き飛んだ。ヒラヒラと宙に舞った写真を溜息をつきながらキャッチする辻。

「何しやがるこの野郎⁉︎人が折角善意でお前の性欲の心配をしてやったと言うのに⁉︎」

「もうお前の存在が何なんだよ」

「本当にわかりやすく最悪な男だなお前は」

「許可を貰って撮ったんだったら何も言う筋合いは無いけど、とりあえず黙ればいいと思うよ中村」

「んだとこの野郎共ぉー⁉︎」

ギャアギャアと乱闘を始めた四人を静かにスルーして、辻は先行している刹那達に追いつくべく歩を進める。

 

…長殿から聞いた限りでは、ネギ君に対して何か企みを学園が抱いているのはほぼ確定。宮崎ちゃんや綾瀬ちゃん、朝倉の、魔法を知って今後どうするかも話を聞いて考えなければいけないし、麻帆良に戻る前から頭が痛いなぁ…

詠春は、別荘内をネギたちが捜索している最中、辻達がこっそり集まって、今回の修学旅行で不自然だった点を示しながら、何か思惑があるのではないかと尋ねた時に、確かに言った。

 

『私の立場では、貴方達に対して事情の全てを話すことが出来ません。…言えた立場ではありませんが、ネギ君のことをよく見て、支えになってあげて下さい。あの子には何ら非はありません。ですが難儀な宿命を背負わされようとしています…』

 

「…結局詳しい話は聞けなかったけど、これは本当に帰ってから魔法使いの皆さんとの直談判が必要かもなぁ…」

気が重い、と辻は俯く。

 

『…やれやれ、要らん気苦労を背負い込んでいるな、主?』

あまりに元気のない辻を見兼ねてか、背中のゴルフバッグに入ったフツノミタマが声を掛ける。

「まあ、しょうがないさ。なんだかんだ文句は言っても、望んでやってることだからな…」

『…望んで、ね……』

辻の返答に対して、フツノミタマは含みのある言い方をして、それきり押し黙る。

「…なんだよ、何か言いたげだな、お前?」

『…いや、な………』

フツノミタマは、彼女(・・)にしては珍しく、躊躇うように言葉を濁しつつ辻に尋ねた。

『…主を見ていて、どうにも解らなくてな。あのイカレ女や私が気に入るような狂気的なものを持ちながら、普段の主はお節介の好青年そのものだ。猫を被っているにしては、主の様子には無理をしている所や不自然な点が全く無い。つまり主は、素でお人好しなのだ。…だというのに、人斬りを楽しむ様な感性が同居しているのが不思議でならなくてな……」

フツノミタマの言葉を黙って聞いていた辻は、やがて小さく笑って言葉を返す。

「…お前の疑問はわかるよ。傍から見ていたら、気味の悪い男だよな、俺は」

でもな、と辻は続ける。

「その疑問の答えは、割と単純なものだよフツノミタマ。自分で言うのも何だが、俺は常識的で、ごく普通に善良的な感性をしていると思っている。……ただ一点を、除いてな」

辻は何と無く返す機会を失って手に持ったままだった、巨乳美人巫女の写真に視線を落とす。

「唐突だが俺は中村の馬鹿が言う程枯れている訳じゃ無い。普通にそっち(・・・)の系統の本も持っているし、グラビアなんかも偶に買う」

『…本当に唐突だが、それが一体どうしたというのだ、主…?』

まあ焦るな、と辻は制して、おもむろに懐から短刀を取り出す。

「さっきの異常な感性っていう話さ。開けっぴろげな言い方をしてしまえば、俺の美的感覚や性的衝動かな?俺はなぁ……」

 

辻は短刀を抜いて、巫女の写真を真っ二つに眉間(・・・・・・・・・・・・・)から二つに切り裂いた(・・・・・・・・・・)

 

『っ⁉︎……………』

辻の突然の行為に、フツノミタマは驚いた様な思念を発する。辻は短刀を仕舞い、二つになった巫女の微笑みを見返しながら、うっすらと笑って呟く。

 

「うん、やっぱりこっちの方が綺麗だな(・・・・・・・・・・・・・・)

 

『っっ〜〜〜⁉︎」

フツノミタマは、身体の感覚が人と異なるにも関わらず、全身の隅々にまで氷を流し込まれたような、そんな感覚を得た。

「俺はなぁ、人や物が二つに分かれている(・・・・・・・・・)方が綺麗で、魅力的に感じるんだ。だからお前の、人斬りを楽しむ、って言葉は間違いだよ。俺は斬るのが楽しいんじゃ無くて、真っ二つにするのが、なったものを見るのが楽しいんだ、有り体に言えば、興奮する。…何で人は両断されたら生きていられない生き物なんだろうなぁ、二つになった方がずっと美しいのになぁ、美しいものが儚いっていうのは本当なんだなぁ。…そんな事を思いながら、生きてきたよ俺は」

辻は巫女の写真をポケットに入れて歩み続ける。

「……ああ、これが一般的に見て、異常な感性だってのは理解しているぞ?理解しているけど、直らなかった(・・・・・・)俺はそういう生き物らしい(・・・・・・・・・・・・)。それ以外は正常だから、一見して真面に見えるんだ…俺は」

理解出来たか?と、辻は背後のフツノミタマに尋ねるが、フツノミタマの返事は無い。

「…やっぱり解らないかぁ……お前は人に近い意識を持っているけど刀だから、もしかしたら理解できるかと思ったんだけどなぁ…」

嘆息して、刹那達に追いつこうと足を早める辻。だが、次の瞬間。

『はは、ははは。はははははははははははははははは‼︎‼︎』

「うおっ⁉︎」

突然フツノミタマがとんでもなく強い笑い声の思念を響かせ、辻は思わず身体を竦ませる。

『ははははははは素晴らしい‼︎なんて狂った存在だ貴方は、はははははははははははは‼︎』

「…お前突然テンション上がるよな……言われなくとも解ってるよ、異常な感性だっていうのは…」

『違う‼︎確かに異常な性癖だが、そんな人間は太古の昔から一定数存在した‼︎私が主を狂っていると言う点は、そんな感性をしていながら貴方が正常(・・)だという点だ‼︎自身の異常を正常に認識し、それでいて精神は極めて安定している‼︎なんと矛盾して、狂った存在なのだ貴方は‼︎はははははははは‼︎』

「…ボロクソに言われてるな、俺……反論出来ないけど……」

凹んだ様子の辻に、フツノミタマは笑ってそれを否定する。

『まさかまさか⁉︎私は主を絶賛しているのだ‼︎好ましく思ってはいたが確定だ‼︎私の運命は貴方と共に在る事だったのだ‼︎主、是非とも貴方はそのままでいてくれ、そのままで生きてくれ‼︎ああ、貴方が人の身で在るのが残念でならない‼︎何らかの方法で不老不死になってくれないか、主⁉︎私は、貴方と。…何時か世界(・・)を断ってみたい……‼︎』

辻は黙ってフツノミタマの熱弁を聞いていたが、やがて小さく吹き出し、言葉を返す。

「…全く他人の事は言えないがなぁ、フツノミタマ。……お前も大概危ない奴だなぁ…ホント」

 

 

 

かくして、異常な主従は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「…さよならって、何や……何やねん、姉ちゃん‼︎‼︎」

『苦労ばかり掛けて済まんかった。お前はもう、自由に生きぃ。…楽しかった、ありがとう小太郎。…天ヶ崎 千草がお前宛に、私に託した伝言だ』

「…巫山っ戯んなぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎」

 

 

 

「…じゃあ、行くよ。これからよろしく、千草さん」

「…帰ってからあの剣士のアーティファクト、調べないとなぁ…回収した両面宿儺(・・・・)も再構成しなくちゃだし、あ〜面倒臭い……」

「…上等や、こちらこそよろしゅう、クソ魔法使い共」

……サヨナラや、コタ………。

 

 

 

これより世界は、荒れ始める。

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。ようやく終わった、という感じの修学旅行編です。今回は要所要所に、今後に繋がるフラグを立ててみました。いや〜それにしても中村の馬鹿が書きやすいことこの上ありませんでした。私が一番好きなバカレンジャーは辻なんですが、一番書きやすいのは中村です笑)また、辻の異常性がはっきり描写されました。辻は希代の真っ二つマニアで、正確に二つに分かれた人や物を美しいと感じ、興奮を覚える人間です。そんな感性を持ちながら、お人好しで善良な普段の姿は決して演技では無くて、辻の中でそれらは矛盾なく収まっています。受け入れていただけるか心配ですが、今後の展開を楽しみにしていただければ幸いです。次回は閑話か、登場人物及び設定紹介になるかと思われます。場合によってはしばらく間が空いてしまうかもしれませんが、なるべく早い投稿を心がけます。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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