お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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大変遅くなりました。麻帆良に戻っての魔法関係者の話です。


関章
閑話 話し合いと決裂 想いの行き場


「……では、彼らに対する処遇は此度の件の謝罪と賠償、及び褒賞を執行する。その上で今後は儂等(・・)を通して活動を取り行って貰える様に打診を行う。こんな所で良いかのう?」

近右衛門は周りを見回すが、納得していない様子の顔は数有れど、反対意見を唱える者はいなかった。

近右衛門は満足気に頷くと、ポンと一つ手を叩き、解散の旨を告げた。

 

「…ふう、そんな訳でなんとか此度は事が収まったわい」

近右衛門は携帯電話の向こうの相手に一件落着を告げながら、手元の報告書に目を落とす。

報告書は、『近衛 木乃香誘拐未遂事件における概要と関係者の行動を記載』の一文で始まっていた。

…まさかここまで事が大きくなるとはのう………

己の見通しの甘さを悔やむ近右衛門に、電話の相手ーー高畑・T・タカミチは申し訳無さそうな声を上げる。

『すみません、学園長。僕が出払っていなければもう少し事態が大きくなる前に収束出来ていたかもしれませんでしたね……』

「いや、タカミチ君がおっても儂等の側で真面な対応は出来なかったじゃろうて。今回の事件は余りに()が起こるのが早過ぎた。責められるべきは東と西の確執を甘く見過ぎた儂じゃろう…」

近右衛門はタカミチの言葉を否定する。

今回の誘拐騒動は、彼ら(魔法使い達)の常識からすれば全てが異常と言えた。取り分け主犯、天ヶ崎 千草に加担した西洋魔術師二人は、一夜明けた現在に至っても身元が割れていない。関西呪術協会の長にしてかつての大戦の英雄が一人、近衛 詠春を容易く無力化するような凄腕の魔法使いの情報が全く割れていないという現状は、この事件が一筋縄ではいかないことを象徴していた。

『…それにしても、不幸中の幸いという言い方はおかしいかもしれませんが、彼ら(・・)には感謝してもしきれませんね……まさか詠春さんがやられる様な強敵を退けた挙句、あのナギが封印することしか出来なかったあの宿儺を斃す(・・)とは……彼らが強いのは身をもって知っていたつもりですが、僕の見極めは随分と甘かったようです…』

タカミチの言葉には驚きと戸惑いに満ちていたが、それも無理からぬことだった。

詠春は、一戦を退いて久しいとはいえ、今だ超一流の剣士であることに変わりは無く、例え不意をついたとはいえ、そこらの馬の骨にやられる様なことは断じてあり得ない。ましてや両面宿儺は正真正銘の『神』の一柱であり、仮に関東魔法協会と関西呪術協会の戦力が集結したとして、再封印を行える迄にどれほどの犠牲が出るか、想像が付かない神格存在だ。

そんな難敵、という言葉が生温い化け物達を、見習い魔法使いと末席の神鳴流剣士、魔法を碌に知らない半素人五人が打倒したのだ。直接現場を見ていない魔法使いの一部が妄言の一言で片付けるのも、決して理解出来ないことでは無い。

「うむ…規格外のアーティファクトが大きな要因であったとはいえ、彼ら無くして木乃香は無事でいられなかったじゃろう……公の立場を抜きにしても彼らには充分な礼を尽くすつもりじゃ…」

近右衛門はきっぱりと断言する。

()あって介入を遅らせたとはいえ、近右衛門の木乃香に対する愛情は本物だ。危機を未然に防いでくれた辻達には組織の長としても一人の祖父としても、近右衛門は感謝していた。

『…僕も当然、異論はありません。ネギ君に彼らは随分と良くしてくれている様ですしね…』

タカミチは近右衛門に同意する。

彼にしても辻達はかつての偉大なる友人の息子を救ってくれた恩人である。例えこれから厄介事(・・・)に巻き込んでしまうのがほぼ確定してしまっているにしても、出来得る限りの礼は尽くしたかった。

「うむ…それにしても、フツノミタマか……辻君が彼女(・・)殺されねば(・・・・・)いいがのう……」

 

「…納得がいかん……」

「杜崎先生、ここまでの事態に発展してしまった以上、彼らはどうあっても我々に無関係ではいられませんよ。学園長は彼らに最大限の便宜を図ろうとしているのかと…」

「解っていますよ、そんな事は…」

明石教授のとりなしの言葉に、杜崎は不機嫌そうに応じる。

「 …あの馬鹿共め…………」

杜崎は不機嫌だった。彼にとってバカレンジャーは下らない騒ぎを引き起こしては鎮圧される、麻帆良の馬鹿さ加減を象徴する元気な学生に過ぎなかった。

…これで彼奴らは目出度く魔法関係者、か……

杜崎は苦々しく思う。辻達がネギに今後関わらないという選択肢があり得ない以上、それは(・・・)ほぼ確定した未来だった。

…馬鹿らしく騒ぎながら学生をやっていればよかったものを……

無論、辻達の将来に干渉する権利は杜崎には無い。ましてや現場に居らず、何もしていない杜崎が結果として木乃香を救ってみせたバカレンジャーに対して何も言う資格など無いだろう。だが、それでも……

「…ままならんな、本当に……」

やり切れない思いで溜息を吐く杜崎に、明石教授が微笑みながら告げる。

「杜崎先生は彼らを随分と気にかけていますね、やっぱり手が掛かる程情が芽生えますか?」

その言葉に、杜崎は渋面を更に不機嫌そうに歪めつつ、低い声で返事を返す。

「…個人の生徒を特別扱いはしませんよ。彼奴らが良くも悪くも出張るのに付き合っているのでそう見えるだけです」

…さて、帰って来た彼奴らに、何を言ってやれるのかな、今の俺は…。

 

「まったく!学園長先生は何を考えているのですか‼︎」

「お、お姉様、声が大きいです!落ち着いて下さい…!」

豊かな金髪を冠いた整った顔立ちの少女ーー高音・D・グッドマンが、その折角の美貌を憤りに歪ませながら革靴を廊下に響かせ、足早に進む。その少女を宥める様に声を掛ける栗色の髪をした少女ーー佐倉 愛衣(メイ)は、此方はまだあどけない、愛くるしいという表現がぴったりな可愛らしい顔立ちだが、同様に焦りを顔に滲ませていては魅力半減というものだ。

…まあ、美人はどんな顔しても美人だけどな。

その二人の更に後ろを続きながら、篠村 (あざみ)はなんとは無しにそんな事を思いながら高音を落ち着かせるべく声を掛ける。

「高音さんよ、愛衣のいう通りちっと落ち着けや。お前ががなったって上の決定は変わんないんだからさぁ」

「そんなことは貴方に言われる迄も無く解っています!口を挟まないで下さい劣等生‼︎」

「お、お姉様…⁉︎」

愛衣の泡を食った反応を横目に篠村は溜息を吐く。

……相当イラついてんなーこいつ…

 

篠村が高音と共に麻帆良に来てからの劣等生呼ばわりは警備のチームを組む時以来である。

…まあ面白く無ぇ、ってのは解らなくも無いけどなあ……

辻達バカレンジャーの警備員への組み込み。言ってしまえば高音達魔法生徒と気が扱えるとはいえ最近まで一般人だった素人達が同列に扱われるという事である。プライドの高い高音からすればそれは納得がいかないだろう。篠村とて、思う所が無いと言えば嘘になる。

…まあこいつの場合は無自覚な上から目線の心配も兼ねてるんだろうけど、拗れ無いといいなぁ連中と。

「へいへい解りました。黙っとくよ俺はな」

肩を竦めて篠村が返すと、何故か高音は益々苛立たし気な顔になり、フン!と一つ鼻を鳴らすと前を向きズカズカと足を早める。

再度溜息を吐く篠村に、こっそりと愛衣が忍び寄り、申し訳無さそうに囁く。

「…すみません、お兄様。お姉様は気が立っているだけですから、余り気にされないで下さい…」

「今更だろ?別にどうとも思わんよ。…それより愛衣よ。好い加減俺をお兄様呼ばわりすんの止めれや。お前みたいな娘にお兄様と呼ばせてるみたいな悪評立ったら俺相当ヤバいことになるからな?」

割と切実なものを込めた篠村の言葉に、愛衣は首を傾げて言い返す。

「え…でもお兄様はお兄様ですし、それこそ今更ですよ?なんで今になって…?」

「いや俺もぶっちゃけそんなに気にして無かったんだが、今度紹介される通称バカレンジャーの中に…」

「愛衣!何をやっているの、行きますよ⁉︎」

篠村の言葉の途中で遅れている愛衣に気付き、高音が声を掛ける。

「あっはい‼︎…すみません、お兄様…」

「ああ、いいから行け。…まあ兎に角お兄様は止めてくれ、いいな?」

「はい……」

納得していない様子ながら、愛衣は一礼して高音の後を追う。

「ふぅ……それにしても世界一の英雄の息子に、どっかに持って行かれた(・・・・・・・・・・・)とはいえ鬼神を斬った剣士か…どうなるのかね、これから………?」

 

「……ふぅ………」

自販機で買ったコーヒー片手に、葛葉 刀子は溜息を吐く。

「…流石に古巣の惨状は気が重いか、葛葉?」

神多羅木は紫煙を空に吐き出し、浮かない様子の刀子に問い掛ける。

「神多羅木さん……まあ、それも勿論あります。此方に嫁いで来てから実質絶縁状態とはいえ、生家ですから思う所はあります」

「取り潰しにはならんだろうが今回の一件で半強制的にこっち(・・・)との融和は進むだろうからな。主犯の女、此処まで考えて事件を起こしたならかなりあれな女だな、あー怖い怖い」

大袈裟な仕草で肩を抱く神多羅木を半目で見やるが、刀子はやがて視線を落として僅かに項垂れる。

「…本当に元気無いな、どうした?…」

「…決まってるじゃないですか……」

刀子は恨めし気な視線を神多羅木に向け、

「刹那のことですよ刹那の⁉︎」

叫ぶ様にそう言い放つ。

「刹那?刹那ちゃんてあの……あ〜〜」

合点がいったとばかりに手を打つ神多羅木に構わず、刀子は堪えていたものを吐き出す。

「なんなんですかあの娘は⁉︎つい最近まで部活動の先輩相手にどう考えても気がある様にしか聞こえない聞いてるこっちがヤキモキする様な無自覚っぷりで話をしていて、全くまだまだ子どもね、って感覚で微笑ましく見ていたのに‼︎それがこの三日間で仮契約(パクティオー)って何ですかこの短期間でどこまで進展してるんですか⁉︎きっかけがあると今の子達ってそこまで進んじゃうんですか神多羅木さん⁉︎」

「俺に聞かれても知らんよ…」

呆れた様な神多羅木の返答も気にせず刀子は取り乱した様子で捲し立てる。

「なんでしょうかこれが若さなんでしょうか……私が元旦那と西を飛び出した時にそこまでの勢いがあったのかしら…ああ羨ましいわ、今の彼もそれ位の積極性があれば私も今頃……」

「おーい葛葉、戻って来い」

いつしかブツブツと現在の彼氏への恨み言をトランス状態で呟く刀子を神多羅木が呼び戻す。

…っていうか仮にも生まれ育ちの故郷があれな状態なのにお前にとってはそっちの方が衝撃的なのか……?

「あ……すみません、神多羅木さん…」

「まあ落ち着けよ、若い奴らの様子はどうせ今夜には解るさ。……噂に聞く麻帆良トップクラスの問題児達、果たしてどんな奴らなのかね?」

 

 

 

「…糞が、糞野郎があのゴリエッティ杜崎がぁぁぁぁぁっ‼︎仮にも美少女の危機を颯爽と助けて見せた俺達に対して反省文と補習だと⁉︎あの類人猿には血も涙も無えのか⁉︎⁉︎別に英雄然としたもてなしをしろってんじゃ無えがもうちょっと何かあんだろうが畜生ぉぉぉぉぉぉぉっ⁉︎しかも帰って来たその日の夜に全員集合しろ拒否権は無いとか何様じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎⁉︎」

「ギャーギャー五月蝿えよ‼︎覚悟の上でのサボりだったろうが今更喚くんじゃねえっ⁉︎」

夜空に向けて無念を叫ぶ中村に、豪徳寺がこちらも半ギレでツッコむ。

「まあ気持ちは解るよ、もしかしたら、なんて淡い期待を抱いていたけど、さすがにそこら辺はきっちりするよねぇモッさんは…」

「無断欠席に無断外泊だ、無理もない所か当然の話なのだが、気持ちの上で納得がいかんと言うのは確かにあるな…」

隣を歩く山下と大豪院も珍しく気持ちの整理がついていないのか、愚痴めいたことを呟きながら歩を進める。

「…そりゃないだろうとは俺も思うけど、もう言いっこ無しにしようぜそういうのは。賞賛されたくてやったわけでもなければ謝礼が欲しかった訳でも無いんだから… っていうか、謝礼めいたものはもう貰ってしまったし…」

辻は微妙な顔をしながらも、他四人を宥めにかかる。

 

三泊四日の修学旅行を終え、ネギ達と一緒に帰って来た辻達をホームで待ち受けていたのは生物災害(バイオハザード)杜崎の姿だった。

反射的に戦闘姿勢を取るバカレンジャーに構わず、杜崎が行ったのはただ一言、良くやった、という言葉を告げるのと一人一枚の封筒を渡す事だけだった。それきり踵を返し、姿を消した杜崎の静かな対応を、全員不気味を通り越して戦慄さえ覚えながらも貰った封筒を開いてみると、その中には、一枚の小切手と、各々に宛てた手紙が入っていた。手紙の内容は、明日からの放課後の補修の日程と、本日2000に世界樹前広場に集合というものだった。

 

「貰った小切手は報酬と賠償ってことらしいけど過剰でしょ明らかに。0が六つついてたんだけどどういう事?」

「書いてはいなかったが口止め料を込み、ということなのだろうよ。…話したところで誰かに信じてもらえるとは思わないが、組織というものはこういった手順を踏まねばならないものなのだろう…」

山下の疑問に、大豪院が渋面を作りながら答える。

「いいじゃねぇかよ別に。金が欲しくてやったわけじゃ無えが、くれるっつうなら貰っとこうぜ?」

「…ま、確かにな。要らねえってんなら孤児院にでも寄付すりゃいいんだしよ」

中村と豪徳寺が、さしたる金に執着も見せずにそんな事をのたまう。

「…それにしてもこの集合ってなんなんだろうな。補習を受けさせるって事は俺たち停学や退学になる訳でも無さそうだし、わざわざ広場に集める要件が想像出来ないんだが…?」

遠目に見えてきた広場を前に、不安そうな声で辻が呟く。

「…あんまり考えたくは無いけど、越権行為も甚だしいって事で、魔法教師とかが全員で出張ってきて潰されたりしないよね…?」

顔を歪めながら山下が言う。

「はっ、そん時はこの溜まってる鬱憤を叩きつけて、最低でも半分は道連れにしてやらあ…!」

「まぁわざわざ集める以上、そんなことにはならんと思うが…苦言を言われる位の事は覚悟したほうがいいな」

「ま、行ってみればわかることだろ?つべこべ言わずにさっさと行こうぜ?」

言い合いながらも、バカレンジャー一行は世界樹前広場に辿り着く。

そこで待っていたのは、老若男女様々な姿の集団だった。

「…おぉっと…?」

「…恐らく魔法関係者、だろうね。全員かどうかはわからないけど、それにしてもこんなに数がいたんだ…」

想像していたよりも大人数の出迎えに、驚いたように声を洩らす豪徳寺に、呆れた様な感心した様な声で感想を呟く山下。

「…よく来てくれたのう、五人共。知っているとは思うが、儂は近衛近右衛門。麻帆良学園の学園長にして、関東魔法協会の長を兼任しておる。話すのはほぼ初めてじゃな?どうか楽にしてくれい」

バカレンジャーの姿を見て、僅かにざわめく魔法関係者達を手で制し、近右衛門が代表して声を掛ける。

「…どうも、学園長先生。初めまして、辻 (はじめ)です。本日この場に私達が呼ばれたのは、学園長先生の孫娘である近衛さんの一件に関わることと思いますが…」

無難に挨拶を返し、探りを入れる辻に近右衛門は頷き、言葉を返す。

「まさしくその通りじゃ。先ずは色々ややこしい組織の長としての建前や、情勢なんぞは脇において、一人の孫馬鹿の祖父として礼を述べさせて貰うぞい。…此度の一件、うちの木乃香を助けてくれて本当にありがとう。心から御礼を言う」

そう言って深々と頭を下げる近右衛門に、バカレンジャー一行は毒気を抜かれる。とりあえず姿を見せたら、不審な対応について洗いざらい文句を述べてやろうと身構えていた中村さえも、真摯に礼を述べていることが一目で解る近右衛門に対して、流石に罵倒からは入れなかったようだ。

「…此方としては、自らの義に応じて行動をした迄です。礼はありがたく受け取らせてもらいますが、失礼ながら学園長先生。それだけのためにここまで俺達を呼び寄せた訳では無いでしょう?早速ですが事の真意を述べて頂きたい」

大豪院が礼を受け取るのもそこそこに、集会の目的を単刀直入に問い正す。

「おい、君…」

「些か失礼なものの言いようじゃ無いかね、それは…」

見ようによっては近右衛門を軽んじているとも取れる大豪院の態度に、魔法関係者の一部が咎める様な声を上げる。

だが、近右衛門は再び手を上げてそれを制する。

「よい、大変な苦労をして帰って来た矢先にこんな時間に呼び出されたのでは疑問、不満が出るのは最もな事じゃ。それについては改めて無作法を詫びよう…君達については要点だけを簡潔に話した方がいい様じゃから、ならば早速本題に入らせて貰おう」

近右衛門は辻達の顔を順繰りに見やりながら話し出した。

「初めに言っておくが、これから君達に行う提案は決して強制するものでは無い。あくまで聞いて貰えれば此方側が助かるというだけの話で、断ってもなんら君達に危害は加えないと約束しよう」

 

それから近右衛門が話し出した内容を要点だけで纏めると、辻達の腕を見込んで、学園で魔法関係者の一員として今後は働いてみないか、というものだった。辻達が近右衛門を中心とした魔法関係者達の対応に色々と納得のいかない点があるのは理解している。しかし、言葉を選ばなければ単なる部外者である辻達に踏み込んだ話は今の立場では出来ない。故に組織の一員として参入して貰えれば、事情を説明することも出来るしネギを助けたい、という辻達の希望にも可能な限り組織的に協力も出来る、とのことだ。

 

「…つまり自分達の側に取り込んで、下手な事仕出かさ無え様にしてからじゃねえと、事情も説明しねえってか?」

一通り話を聞き終えて、中村が剣呑な口調で近右衛門に問い正す。

「そうキツい見方に取らんで欲しいものじゃが…そうじゃな。言い方はアレじゃが中村君の言う通りじゃ。差し障りの無い範囲で言い訳をさせて貰うなら、月並みな言葉じゃが儂等にも事情がある。軽々しく話せぬ内容である以上、恩がある君達相手といえど此処は譲れぬ点じゃ。儂等は決して悪意があってネギ君に対し傍観を決め込んでいた訳では無い。納得し難いじゃろうがこの提案、飲んで貰えんかのう?」

「巫山戯んなジジィー‼︎」

中村が爆発する。

「黙って聞いてりゃ調子良いことばっか抜かしやがって‼︎結局当たりの柔らかい言い方してんだけで要はこっちを黙らせて今後も良いようにやってこうってだけの話じゃねえか‼︎つべこべ抜かしてねえで今直ぐネギに対する盛大な集団放置プレイの訳を説明しやがれオラァ‼︎人数(かず)揃えときゃ言うこと聞くと思ってんなよジジィ‼︎‼︎」

「おい、止めろ馬鹿‼︎」

「此処で喧嘩売って良い事なんて何も無いって‼︎」

その他の四人が暴言を吐き散らす中村を止めにかかる。近右衛門は苦笑し、いきり立つ中村を宥め様とする。

「フォッフォッフォッ、中村君や、君の」「いい加減になさい、この無礼者‼︎」「フォッ⁉︎」

しかし、近右衛門の言葉を遮って魔法関係者の人垣の中から一人の少女が現れる。

「先程から黙って聞いていれば何ですかこの野蛮人‼︎学園長先生が下手に出て話していれば付け上がって好き勝手なことをベラベラと‼︎事情と顛末も真面に理解し得ない素人が調子に乗るのも大概にすることね‼︎」

その少女ーー高音は後ろで引き留めようとする少女と少年を振り切って前に進み出ると中村に対峙する。

「ああ⁉︎誰だてめえは、今の俺ぁかつて無い程に気ぃ立ってんだ、別嬪だからって承知しねえぞオラァ‼︎」

「承知しないとは此方の台詞ですわチンピラ‼︎何も知らない癖に偉そうにベラベラと、だから貴方達のような勘違いした素人を無私の心で公の為に心身を尽くす、私達魔法使いの側に迎え入れようなどという話には反対だったのです‼︎」

「は‼︎言うに事欠いて何ほざくかと思えば自分らを正義の味方だとでも思ってんのか笑わせてくれんぜ幼気なガキ見殺しにしようとした弱い者虐め集団がどの面下げてほざいてんだバァァァァァァカ‼︎」

中村の罵倒に高音の怒りに歪んだ顔が無表情になり、身体の各所で黒い何か(・・)が蠢く。

「…その汚い口を今すぐ閉じないと私が口を聞けなくして差し上げますわよ……!」

対する中村も剣呑に目を細めると、腰を落として構えを取る。

「上等だオラ、そっちこそ舐めた口聞けなくしてやんよ…‼︎」

高音と中村が今にも激突せんとした、その時。

「止めろっつってんだろ中村‼︎」

「先走んな落ち着け高音‼︎」

辻と篠村がほぼ同時に二人の間に割って入る。

「っ!どけや(はじめ)ちゃん‼︎あんな舐めた口上、聞き逃していいと思ってんのかおい‼︎」

「んなことは言って無い、兎に角今は(・・)下がれ中村‼︎ここでムキになって噛み付いた所でこっちの要求が通る筈無いだろうが⁉︎」

「誰が貴方に出て来いと言いましたか⁉︎下がっていなさい、劣等生‼︎」

「巫山戯るな‼︎それを言うなら誰がお前に前に出ろって言ったよ⁉︎気持ちが解らんとは言わねぇが、分を弁えろバカ女‼︎」

尚も言い募ろうとする両者を双方の陣営が止めにかかり、場が混然と成り始める。

 

「静まれぃ‼︎‼︎」

 

近右衛門の鋭い一喝が広場に響き渡り、揉み合いになりかけていた両者と周りがピタリと動きを止める。

近右衛門は一つ息をつき、静かに場を平定しに掛かる。

「中村君、辻君達。話を進めるには少々性急に事を運び過ぎた様じゃ。必ず改めて場を設ける。呼び出しておいて済まんが、今日の所は帰って貰えんかのう?」

「…はい、こちらこそ無礼な言動の数々、お許し下さい」

「おい…‼︎」

「黙れと言っている、馬鹿が‼︎今日の所は帰るぞ‼︎」

近右衛門の謝罪に、辻も頭を下げて謝罪を返し、尚も文句あり気な中村の首根っこを大豪院が締め上げ、黙らせる。

「うむ、それでは皆の衆。今日の所は解散じゃ」

「学園長先生⁉︎」

思わず声を上げる高音の方を静かに近右衛門は見やり、語りかける。

「高音君、君が誇りを持って麻帆良(ここ)で勉学に、職務に励んでいるのは理解しているつもりじゃ。しかしそれと同じだけの理解をを前提に、他人に意見を押し付けるのは少々いただけんのう。君の言い分も解かるが、彼らは事情も知らぬながらに、こちらの失態をカバーしてくれた言わば恩人じゃ。正当性を笠に此方の主張ばかりを認めさせようと言う言い方は控えなさい」

「っ‼︎……申し訳、ありません……」

近右衛門の静かな、しかし力強い叱責に、高音は一瞬悔しそうに唇を噛むが、やがて深々と頭を下げ、謝罪した。

近右衛門は頷くと、改めて全体に解散の旨を告げた。

 

 

 

「…っていう感じでさあ。一気に魔法関係者の反感を買っちゃったんだよねえ、多分…」

「ははははは‼︎仮にも関東最大の魔法組織の本営を相手になんとも威勢のいいことだ‼︎矢張り貴様らは面白いなぁ、おい‼︎」

山下の話を聞き終えて、エヴァンジェリンがさも愉快そうに笑い転げる。

山下は話し合いが決裂に近い形で終わった次の日に、エヴァンジェリンに修学旅行での土産を届けるべくエヴァンジェリン宅に訪れていた。エヴァンジェリンは山下の姿に眉根を上げ、決して歓迎はしていなかったが、山下のお土産の内容と、昨晩の話の顛末の概要を聞かせると、暫し考えた後に訪問を許した。先ずは話の方を聞かせろとせがむエヴァンジェリンに山下が語って聞かせた挙句が先程の反応である。

「色々笑い事じゃ無いんだけどねぇ……絶対口に出さなかったけど僕らに不満がある人間、一人や二人じゃなかったと思うんだ…」

「ふん、私の知ったことでは無いな。連中の正義面は私としても気に食わん、空手屋の小僧を心情的には応援してやりたい気分だ」

「勘弁してよ……そりゃ僕らも学園長達の対応は引っ掛かるけどさぁ…」

他人事なのをいいことに面白がっているエヴァンジェリンにゲンナリしながら山下は力無く反論する。

「…まあそれはいい。貴様も私に意見を請いに来た訳では無いだろう?それよりも、一体貴様どういうつもりだ?」

「どういうつもりって?…ああ、お土産のこと?別に他意は無いよ。ネギ君から話を聞いて、何と無く持ってきてあげたくなっただけだから」

山下のあっけかんらんとした物言いに、エヴァンジェリンは苛立たし気に目を細める。

「それが解せんと言っている。私と貴様らは殺し合った仲だぞ?貴様が私にこの様な気を使う理由が無かろうに?」

「あはは、それ桜咲ちゃんにも言われたなあ。まあ理由なんて何でもいいじゃない。僕はこれに対して何の見返りも要求しない。本当に唯の善意だからね。っていうか、エヴァさんは見たく無いの?だったら持って帰るけど?」

「ぬ………」

悔し気に唸るエヴァンジェリンに、はい決まり、と朗らかに山下は告げ、黙って傍に控えていた茶々丸にビデオデッキある?と問い掛けた。

 

「…これが多分ネギ君のお父さんの書斎でさ……」

「…ふん…………」

山下は茶々丸が用意したビデオデッキで撮って来た映像を流しながら場面の解説をエヴァンジェリンにする。エヴァンジェリンは大きな反応こそ返さないものの、目はしっかりと見開き、大人しく山下の解説を聞いていた。

山下は内心そんなエヴァンジェリンの様子を微笑ましく思いながら熱心に解説を続ける。

「それでさ、ほら写真が映ってるでしょ?随分若いけどこれネギ君のお父さんだよね?ネギ君ったらこれを見て長さんに熱心に質問を繰り返してさあ…」

その時の様子を思い返しながら、山下はふとエヴァンジェリンの顔を見て、思わず続く言葉を失った。

エヴァンジェリンは映像に映る写真を見やりながらなんとも形容し難い、愛しさと切なさと、憎しみの入り混じった、なんとも言えない人臭い表情で、ナギ・スプリングフィールドの写真に見入っていた。

暫く無言のまま時が流れ、ふと我に返ったエヴァンジェリンが、黙り込んだ山下に不審そうに声を掛ける。

「…おい、どうした?人の顔をぼけっと眺めて……?」

山下はエヴァンジェリンの言葉にハッと我に返り、慌てて無作法を詫びる。

「あ、ごめんなさい…!女性の顔をジロジロ眺めて、失礼な真似をしました!」

頭を下げる山下を鬱陶しそうに手を振って不問に処し、エヴァンジェリンは続きを促す。

「…別に構わん。惚けていたのはこっちだからな。それよりも続きを話せ」

「了解。それでね…」

解説を再開しつつ山下は、先程のエヴァンジェリンの様子を内心で思い返す。

…なんだろう……凄く真摯に恋してるんだなぁ…この女性(ひと)は………

…こんなに想われながら、何してるんだよ、ネギ君のお父さんは………

… 僕なら絶対、放って置かないのになぁ………




閲覧ありがとうございます、星の海です。今までで最も長く、間を開けてしまいました。本当に申し訳ありません。今まで一切話題に上がっていなかった、魔法関係者の反応の回です。高音がなんだかやな感じですが、彼女の性格からして、中村がこんな反応をしていれば、激昂して当然だと思います。なんだか雲行きが怪しいですが、辻達が今後どうして行くのかは、学祭に入るまでに詳しく描写します。お待ち下さい。今後はのどか達の関わり方と、ネギの強化の報告性を主体に暫く話が進みます。原作とは大分違った展開になりますが、受け入れていただければ幸いです。今日中に兼ねてから話していた、登場人物紹介と、オリジナル設定、魔法などの紹介を上げるつもりです。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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