お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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すいません、中々調子が戻らず遅くなりました。


4話 性別不明の竜と人

飛竜の口内に紅蓮の炎が燃え盛る。

「躱せぇぇぇぇぇぇぇぇっ⁉︎」

山下がネギ、中村が夕映、楓がのどか、大豪院が朝倉、刹那が木乃香をそれぞれ抱え上げ、左右に飛ぶ。

『グオォォォォォォォォォォ‼︎‼︎』

直後、飛竜から竜の吐息(ドラゴンブレス)が飛来、上級呪文に匹敵する威力の火炎の波が分断された辻達の中間を焼き焦がしながら壁に着弾、爆炎を周囲に巻き上げる。

『ガァァァァァァ‼︎』

火炎を吐き出した直後に飛竜は石畳を粉砕しながら前方に向けて突進。左右に分かれた内の片側、山下、中村、楓側へと突き進む。

「げぇこっち来た⁉︎修学旅行からこっち、僕こういう方面の運勢にとことん恵まれて無いんだけど‼︎」

「言ってるバヤイか山ちゃん!へいブルー‼︎リーダー頼めっか⁉︎」

「無論でござるが……よもや一人でアレを相手取るつもりでござるか?」

中村の言葉に頷きながらも楓がやや非難するように問い返す。

「生憎虎殺しは出来ても竜殺し名乗るにゃあ修行不足だぁな。つっても心配すんな、多分こいつ、強えは強えんだが…」

「京都の鬼達以上エヴァさん以下って所かな?」

山下がネギを地面に降ろしつつ言葉を繋ぐ。

「中村先輩…」

「心配すんな」

夕映の呼びかけを中村が遮り、宣言する。

「兎に角退避‼︎言い争ってる時間が無い、ネギ君も‼︎」

「っはい‼︎」

「無理は禁物でござるよ、捕まっているでござる、のどか殿!」

「は、はい‼︎」

楓が片腕で夕映を抱えて上方へ跳躍、ネギも杖に跨り楓に続く。

「合わせてよ中村‼︎」

「応ともよぉ‼︎」

眼前に迫る飛竜に山下と中村は短く言葉を掛け合い飛び出す。

 

極漢魂(きわめおとこだま)ぁ‼︎」

飛竜の剣角が中村と山下に届く寸前、横合いから豪徳寺の放った巨大な気弾が飛竜に炸裂、甲殻を軋ませつつも外傷は与えられなかったが、その衝撃で飛竜が僅かにバランスを崩す。

「っるあぁぁぁぁぁぁ‼︎」

それに合わせて中村が大質量の一撃を躱し様、瞬動で飛竜の踏み出した左足前に移動。全力の下段踵蹴りが飛竜の足の甲を踏み抜き、刹那の時間飛竜の足を地面に縫い止める。

『グァア⁉︎』

気弾の衝撃に続いて中村の一撃により更に体勢を崩された飛竜は、元々前のめりで頭部の剣角にて貫かんとしていた姿勢も災いし、つんのめる様にして前方に倒れ込む。

「ふんっ…ぬあぁぁぁぁ‼︎‼︎」

その倒れ込む飛竜の真下に陣取っていた山下は、両手を頭上に掲げた姿勢で落下して来た飛竜の体を掴む。その瞬間、莫大な重量により潰される前の一瞬で山下は全身を捻転駆動。下半身からの運動エネルギーをフルに使用しながら飛竜の前方に倒れ込む動きに干渉、その勢いを加速させながら更に真横に運動のベクトルを変える。

『グアァァァァァァァァ⁉︎』

結果飛竜は吹き飛ぶ様に水平に疾駆して、辻達一行が入ってきた通路の入り口に着弾。轟音を上げながら通路の壁を粉々に砕き、半ば瓦礫に埋もれる様に飛竜は体を横たえる。

「痛ったたたた…流石に無理があったね、…名付けて竜の投擲(ドラゴンスロー)?」

「へいお見事山ちゃん。…まあ状況が悪化した気がしないでも無えが…」

腰骨の辺りを押さえて呻きながらも戯けたことを宣う山下に中村は賞賛を送りつつも、厳しい表情で飛竜を見据える。

向きを左右方向にも変えられるだけの余裕が山下に残っていなかったので仕方が無いが、恐らく大したダメージを与えられていない上に結果的にではあるが入ってきた入り口が今の攻防で潰れてしまった。上の空間は開けているが、空を飛べる人員が不足している現状では、このどう見ても空飛ぶ方が走るよりも得意です的な形状の飛竜相手に逃げられるとは思えない。

 

「大丈夫かお前ら⁉︎」

「おお山下やるアルな!あのでかい(ロン)吹っ飛んだアルよ‼︎」

反対側の辻達が駆けつけ、古が目を輝かせながら山下に告げる。

(ロン)というよりは飛龍(フェイロン)だろう…はしゃいでいる場合では無い兎に角逃げるぞ、ここ迄の化物は想定外だ」

「賛成だが…偶然とはいえ入ってきた通路は絶賛あのデカブツが占領中だぜ、何処に逃げんだよ?」

瓦礫を身体中から振り落としつつ、ゆっくり立ち上がる飛竜を見やりながら豪徳寺が大豪院に返す。

「あの手の西洋竜は非常にタフです。専用の装備を整えても討伐には最低でも日を跨ぎますよ」

木乃香を抱えたまま刹那が顔を顰めて言う。どう考えても現状真面にやり合える体勢では無い。

「…しゃあねえここは一つ俺が奴を翻弄する‼︎ここは俺に任せて先に行け、お前ら‼︎」

中村がバーンと無意味な決めポーズ(◯ョジョ立ち ◯ッチ神父ver)を取りつつ堂々と宣言した。

「よしわかった、任せたぞ中村」

「じゃあ中村、その勇気に免じてこの前貸した三千円返さなくていいよ、頑張って‼︎」

「頼んだぞ、中村。なあに非戦闘員を逃がしたら俺達も直ぐに戻ってくるさ‼︎」

ネタのつもりで言い放った台詞にあっさり他のバカレンジャーが同意して、他の面々が反応を返す前に身体を引っ張って奥の巨大な扉へと走り出す。

「………あれ?」

ネタで言った筈の台詞が受け入れられて呆ける中村。

「よく言ったぜ、それでこそ漢ってもんだわなぁ中村‼︎が、お前一人にいい格好はさせねえぜ‼︎」

ある意味王道なシチュエーションに若干ウキウキしている豪徳寺。二人の元へ、怒れる飛竜が襲い掛かる。

 

「ま、待って下さい‼︎あんな怪物の前にたった二人を残して置いていくつもりですか⁉︎」

夕映が半ば浮いたような状態で引っ張られながら抗議する。考える迄も無く無茶な戦力比だ、他一部の面々も非難する様に辻達を見やる。

「長々説明してる暇は無いが大丈夫だ‼︎見た目は確かに無茶な構図だが、倒すんじゃ無く足止めの時間稼ぎならあいつら二人で充分なんだよ!」

辻がフツノミタマ片手に先頭を走りながら説明する。

「でも辻さん、飛竜(ワイバーン)ですよ⁉︎下級とはいえ竜族を倒すのなんて一流の魔法使いでも難しいんです‼︎今からでも戻って…!」

「落ち着けネギ。別に中村辺りはあれで死んでもそれはそれで構わんが」「構いますよ⁉︎」「ああ悪かったよ。兎に角時間稼ぎと言ったろう?あの飛龍(フェイロン)は、動きはそれ程速く無い。火を吹くだけなら幾らでも躱し様はある、寧ろ大勢で群れてる現状が危険だ!先に最低でも宮崎と綾瀬と朝倉を逃がす‼︎」

「でも退路が無いからあの扉の向こうに退避する‼︎あんな門番の守ってる場所だから下手すれば此処よりヤバいかも知れないけど逆に安全地帯かも知れない!どっちにしても僕らが着いて行けば最低でも逃げることは出来ると判断しての行動だよ‼︎」

立て続けの山下と大豪院の解説に、沈黙する一同。

「…敢えて拙者が問わせて貰うでござるが、それでも大丈夫なのでござるか…?」

やがて、のどかの手を引きながら楓が細い目を見開き、真剣な声色で尋ねる。それに対して辻は、走りながら振り向き様に笑顔を浮かべ、自信を持って返す。

「伊達に三桁を超える数の殺し合い地味た勝負をしちゃあいない。あいつらの実力なら、大丈夫だ!」

 

「「のわぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」」

仲良く悲鳴を揃えて中村と豪徳寺は左右に飛び離れ、伸びてきた火炎放射を回避する。

「畜生ネタのつもりのここは俺に任せて先に行け発言に便乗して俺を見捨てやがって!覚えとけや薄情者共がァァァッ‼︎」

「五月蝿え馬鹿が本来ならそのまま丸焼けになっちまっても一向にこちとら構わねえのに、こうして俺が加勢に来てやっただけでも有難いと思いやがれ‼︎」

ギャアギャアと喚く中村に豪徳寺が目を剥いて怒鳴り返す。

『グオォォォォォォォォォォッ‼︎‼︎』

飛竜は苛立った様に頭を振り、咆哮を上げるが、辻達が奥の扉へと向かっているのを目にした瞬間、瞳孔を見開き翼を広げて、全速力での突進を辻達へ敢行する。

「やっぱ門番みてえなもんかコイツ‼︎」

「行かせねえよデカ蜥蜴‼︎」

自分達の間を突っ切ろうとする飛竜に対して中村と豪徳寺は全力の気弾を放つ。

裂空掌波(れっくうしょうは)ぁ‼︎」

極漢魂(きわめおとこだま)ぁ‼︎」

飛竜を挟み込む様に気功波動(オーラウェーブ)と大光球が炸裂して凄まじい衝撃が飛竜を打ちのめす。

『ガァァ⁉︎』

然しもの飛竜もこれは効いたのか、苦鳴を上げてよろめく飛竜に中村が全速力での助走の後跳躍。砲弾のような勢いの飛翔蹴りを飛竜の頭部に叩き込む。

漢魂(おとこだま)ぁ‼︎」

同時に反対側から豪徳寺の放つ気弾が飛竜の頭部に着弾、身体に続いて頭部をサンドイッチされた飛竜は脳震盪でも起こしたか、グラリと身体を傾がせ倒れかける。

『グ…ァアアアアアアァッ‼︎』

しかし寸前で踏みとどまった飛竜は顎を開き、空中の中村へ喰らい付く。

「おわあぁぁぁぁぁっ⁉︎」

中村は噛み砕かれる寸前に両手足を突っ張り、上顎と下顎を支えて真っ二つを免れる。

『グウゥゥゥゥゥゥ……!』

飛竜は顎に全力を込めて中村を噛み潰そうとしながら、喉頭の奥に火炎を呼び込む。

「うおぉぉヤベぇぇぇぇぇぇっ⁉︎」

中村はBBQ一直線の未来に焦るが、全身の力を振り絞っても飛竜の咬筋力とほぼ拮抗している為に身動きが取れない。

「何やってんだ馬鹿野郎‼︎」

豪徳寺が気弾を連射して脱出の隙を作ろうとするが、飛竜は中村を咥え込んだまま再び辻達の方へと突進を再開、胴体に数発が当たるものの脱出の機会を中村に与える迄には至らない。チロチロと中村の身体の全面を上ってきた炎が舐め始める。

「う熱っちちちちちちっ⁉︎…ンの(アマ)そっちがその気なら肚決めたるわこっちもおぉぉぉぉっ‼︎」

叫ぶと同時に中村は支えていた上顎から手を放し、噛み砕かれる一瞬前に全力で飛竜の口内に飛び込んだ(・・・・・)

『グボゥグッ⁉︎』

飛竜にとって予想だにしない中村の行動。既に溢れ出てきている火炎に炙られるのも構わず、中村は気を込めた全力の正拳を飛竜の喉奥へとぶち込んだ。せり上がる火炎と衝撃波がぶつかり合って弾け、飛竜はくぐもった苦鳴を洩らして堪らず顎を開き、中村を吐き出す。

「つぁぁぁぁぁぁぁぁっ…痛でっ⁉︎熱っちぃぃぃぃぃぃぃっ⁉︎」

間延びした悲鳴を上げながら地面に激突して苦鳴を上げ、更に火傷の痛みで転げ回る忙しい中村。

「油断すんな阿呆‼あんなガタイの生き物相手に隙のデカい技を軽々しく使うんじゃねえよ‼︎」

「あ〜悪かったなコン畜生‼︎つうか(はじめ)ちゃん達はどうなったよ薫っち?」

悪態を吐きつつも跳ね起きた中村が豪徳寺に尋ねる。

「よくわからねえが如何にか扉の奥に行けたみてえだ。ちょっと目を離した隙に居なくなっていたからな」

豪徳寺が背後の大開きになった巨大な扉を親指で指して告げる。

「うおマジだ…まあだったら後は……」

「応、このデカブツをあしらうだけだぜ」

『グルルルルルルルルル…!』

一方、頭を振りながらも飛竜は開いた扉の奥に向かったであろう辻達の方を睨み付けている。その様子に中村が目を細め、右手に気弾を精製すると飛竜の頭部目掛けて叩き付ける。

『グルゥアァ‼︎』

ダメージは無いに等しいものの、露骨な迄の挑発に飛竜が怒気を露わに中村を睨み付けるが、中村は構わず不敵な態度で宣告する。

「余所見してんじゃねえよ色女(・・)。お前は俺だけ見てりゃいいんだよ」

中村の言葉に、飛竜は何処か人臭い仕草で目を細め、完全に中村に向き直る。

「極自然に俺を忘れんじゃねえよ馬鹿野郎。てめえも俺を忘れんじゃ……女⁉︎メスなのかコイツ⁉︎⁉︎」

文句を言いながら飛竜に言葉を発していた豪徳寺が聞き捨てならない中村の言葉にやや裏返った声で叫ぶ様に問いかける。

「はあ?何言ってんだ薫っち、見りゃわかんだろ」

「わかるか阿呆‼︎こんなデカい蜥蜴始めて見たんだぞ、ましてや爬虫類の性別なんざ見分けがつくか‼︎」

無茶なことを言ってのける中村に豪徳寺が堪らず抗議する。

「はっ!だからてめえは朴念仁の喧嘩馬鹿だっつってんだ馬ー鹿‼︎爬虫類ってのは尻尾の付け根付近に生殖器が収納されてん場合が多いんだよ!オスなら凹んでてメスなら平べってえ、更に見ろあの尾っぽを‼︎全体と比較すっとややスマートで仄かに色香の様なものを感じるだろうが、人間で言うなら美脚だ美脚‼︎きっとあいつからしても密かに自信あるポイントだぞ!何故わからねえ⁉︎」

「わかるお前がおかしいんだよ変態がぁ‼︎性欲の権化みてえな奴だとは思っていたがまさか人らしい要素の欠片も無え蜥蜴まで範疇たぁいよいよ救えねえな悪食野郎が‼︎」

「は?はあ?はあぁぁぁぁぁぁぁ⁈てめえは何もわかって無えなこのカスが‼︎こういったケモミミ属性とかの域を遥かに越えた人外要素の醍醐味ってのはんな下品なモンじゃ無く、もっと純粋で尊いもんなんだよ‼︎カ◯ムとアン◯ルの種族としての垣根を越えた純愛を知らねえのか⁉︎あのゲームは出てくる人間の形した女共より(ドラゴン)の方がよっぽど萌えられんだぞ‼︎」

「知・ら・ね・え・よ‼︎‼︎‼︎」

力説する中村に力の限り叫び返す豪徳寺。

『ゴアァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎』

阿呆なやりとりを繰り広げる二人に対して、飛竜は一際大きな咆哮を上げる。その瞳は一層剣呑な光が宿り、明らかに先程までよりも怒りのボルテージが上がっている。

「なんか怒ってんぞオイ⁉︎」

「お前の所為だカス野郎‼︎お前が無知なる童貞の所為で俺が奴の生殖器云々について指摘をする羽目になり、結果セクハラを受けた形になった飛竜女史は怒りに燃えてんだよ‼︎そんなこともわからねえとは女心への不理解も大概にしろウドの大木‼︎」

「それが原因ならセクハラしたのは結局てめえじゃねえか巫山戯んなゴミ野郎‼︎」

ギャアギャアと言い争う二人に飛竜の尾撃が襲い掛かる。

 

 

 

「……しっかしなんだろうなこの状況は。俺達は図書館という概念の建物の探索に来た筈なのに古代遺跡もビックリの罠の数々を潜り抜け謎の生物に襲われて、挙句の果てに(ドラゴン)なんてファンタジー生物に追われて薄暗い通路を進行中とか……」

「辻部長、私も大概にしろとは思いますが今は考えないようにしましょう。脳が痛くなるだけです」

先頭で何処か虚ろな目付きになりながら懐中電灯とフツノミタマを手に進み、呟く辻に刹那が労るようにフォローを入れる。

 

時間は少し遡り、堅く閉ざされている扉に対して、辻はフツノミタマによる断裁で強引に押し通ろうとした。

「つーか斬っちゃって大丈夫な訳、この扉⁉︎」

息を切らしながら朝倉が辻に問い掛ける。

「中に居るかもしれない何かと接触した場合を考えると得策じゃ無いかもしれんが緊急事態だ!まさか押しただけで開きはすまい、責任は俺が取る‼︎」

辻は走りながら近づく扉目掛けてフツノミタマを振り上げる。

「よもや断てないとは言わんよなフツ‼︎」

『愚問だな主、一刀両断にして見せよう‼︎』

フツノミタマはウキウキと辻に返す。辻が今にも斬撃を振り下ろそうとした、その瞬間。

扉の紋様が光り輝いたかと思うと、軋み、擦れるような異音を上げつつも扉がゆっくりと観音開きに開き始める。

「なに……⁈」

「え、なんで…⁉︎」

驚く一同を他所に扉は緩慢に、だが確実に開いていき、やがて完全に開け放たれて、奥へと続く暗い通路を覗かせる。

「………またあからさまな迄に誘われてるね……」

「……だが行くしかあるまい。少なくとも此方を迎え入れる意思はあるらしいからな」

「…ねえ先輩方、その人?がフレンドリーな可能性ってどん位だと思う?」

「他者に対して友好的な人間は家の前に(ドラゴン)住み着かせないだろ……兎に角、油断しないように」

「言われるまでもありません。のどか、行きましょう」

「う、うん……」

「ひゃ〜なんやドキドキするなぁ…」

「お嬢様、お気をつけて…」

「行きましょ、中村先輩達逃げらんないわよこのままじゃ」

「そ、そうですね…!」

「まあ、チラッと見た限りじゃ大丈夫そうっすけどね、旦那方…」

辻達は僅かに迷いながらも、扉の奥へ入り、そして現在に至る。

 

「…そろそろ出口が見えてきた、先に言っておくけど、何があっても一人で勝手に行動しないように。戦えない人は俺達の後ろにいること、いいね?」

辻の言葉に全員が頷く。それを確認して辻は前に向き直り、僅かに足を早める。

 

「…うわぁ……!」

明日菜が思わず、といった様子で上げた感嘆の声が広い空間に響き渡る。

暗い通路を抜けたその先は、黄昏時の陽光が降り注ぎ、一面が茜色に染まった優美なテラスだった。天井の一切が開けているようであり、一面の壁からは滝が飛沫を上げて雪崩落ちているにも関わらず、完璧に空調の整った広大な空間のなかには品の良いテーブルセットが揃えられており、入って来た過程を考えなければ、大富豪の庭先にでも迷い込んだと錯覚してしまいそうな光景であった。

「…なんか、凄い所に出ちゃったね……」

「あのまま迷宮の主に遭遇する様な展開よりは遥かにマシだが、な…」

山下と大豪院が予想外に平和な光景にやや気勢を削がれつつも、警戒は解かずに呟き合う。

「綺麗な場所ですね…何処か前に訪れた秘密の小部屋に近い雰囲気がありますが…」

「う、うん〜……あ、見てゆえ〜!あそこ、本棚が一杯〜‼︎」

「わ、本当や〜‼︎彼処と同じで珍しい本仰山あるんやないか〜⁉︎」

「お、お嬢様‼︎迂闊に動かないようにして下さい…!」

図書館探険部の面々が絶景に感嘆を覚えつつも本好きの性を覗かせる。

「は〜半端無く金掛かってるねこの空間。どんなリッチマンが使ってんのかしら…」

「ちょっと朝倉、刹那さんも言ってるけど、勝手にどっか行っちゃ駄目よ?」

「兄貴、何か感じるか…?」

「…うーん、多分強力な結界が空間内に張られてる。ここの空気が静謐に感じるのもその所為だと思う。だけど…他には何も感じない。あんな風に狙い澄ましたタイミングで扉が空いた以上、絶対にこの中には誰か居ると思うんだけど……」

ハンディカメラ片手に周りを撮影する朝倉に明日菜が釘を刺し、ネギとカモはこの空間内に存在するであろう何者かを密かに探る。

「楓、どうアルか?」

「……ふむ………」

古の問い掛けに楓は細い目を微かに見開いて辺りを見渡す。

「居所迄は判らぬが…居るでござるな、なにか(・・・)が」

『なんとも拍子抜けだな…爵位級上位悪魔(グレーターデーモン)でも現れるかと期待していたのだが…』

「さっきその手の呟きに見事にフラグが立ったんだからそういうこと言うの止めろ‼︎本当に出てきたらどうすんだ⁉︎」

物騒な呟きを洩らすフツノミタマに堪らず抗議する辻。

『両断してやればよかろう。鬼神を断っておきながら今更なにを恐れるというのだ、主よ?』

何でもなさそうに言い返すフツノミタマに、一つ溜息を吐いて辻は語り始める。

「お前が俺になにを望んでいるかは解るが、俺はお前のご機嫌取りの為だけに行動する気は無い。態々危険に飛び込む様な真似をしてたまるか」

辻はきっぱりと断言する。フツノミタマは気分次第で持ち主を殺す危険な存在だと辻は理解しているが、それでも不興を買わない事だけを考えて言うことを聞いているだけでは、フツノミタマが擬体で自らを振るうのと何も変わりはしない。未だ琴線が何処にあるのか解らない以上、上手い付き合い方を手探りで摸索して行くしか無かった。

『ふむ………まあ、いいだろうさ。それはさて置き主よ。半ば途中から避難が優先事項に成り果てていたが、此処は目的の場所でもあるのだろう?私の感じた所でも危険は無い。探索を始めるなり、戻ってあの飛竜(ワイバーン)を二枚に下ろすなり、行動に移ってはどうだ?』

「ああ…まあ、そうだな…」

やけにあっさりと引き下がったフツノミタマの態度に疑問を覚えつつも、言っていることは最もなので辻は動き始める。

「まあ皆、兎に角今直ぐに危険は無いみたいだから最低限の調査をして、異常が無かったら非戦闘員を此処に護衛付きで残して中村達を助けに戻ろう。正直豪徳寺は兎も角中村は野垂れ死んでも別にいいんだがあんなんでも一応仮にも友人だ。戻る他無いな」

「まあ確かに。見捨てるのも寝覚めが悪く…なる所か寧ろ爽快になりそうだけど、一応今回は役に立ったんだし、しょうがない、助けに行こう」

「心の底から気は進まんが…まあ後輩達の前で仮にも人間というカテゴリに爪の先程は引っ掛かる生き物を見捨てたとあっては先輩として沽券に関わる。行くしかあるまい…不本意だが」

「ねえ先輩達、そこまで言う?」

明らかに吐き捨てられたガム並みの扱いを受けている中村の言われ様に引きつった顔で明日菜がツッコむ。

「蛇蝎の如く嫌われてんな中村の旦那…」

「ねえ先輩達、友人なんだよね中村先輩って?」

「…まあ普段の言動を鑑みるに自業自得という気はしますが……」

口々にツッコまれながらも辻達は行動に移る。

「じゃあ何組かに別れて調査を…」

「その必要はありせんよ、皆さん」

唐突に辻達に向けて、男にしては高く、女にしては低い、落ち着いた声色の声が掛けられる。反射的に声のした方を振り仰いだ一同が目にしたのは、テラスの奥からゆっくりと歩み出てくる、フード付きのローブを頭からすっぽりと被って顔や体型を隠した背の高い人物の姿だった。

「此処には皆さんに危害を加えるような者は私を含めて存在しません。招待状は出してはいませんが、実に久方ぶりのお客様ですね、歓迎しますよ」

ローブの人物は何処か芝居掛かった動作で両腕を広げ、柔らかい口調で歓迎を示す。だが、辻達は警戒を解かずに、各々が身構える。

ローブの人物はおやおや、と肩を竦めて頭を振り、申し訳なさそうに告げる。

「表の彼女のインパクトが強過ぎたでしょうか?直ぐには信用出来ないのも無理からぬことでしょうが、私に害意が無いのは本当ですよ、どうか肩の力を抜いて頂けないでしょうか?」

「…そうしたいのは山々だが、こちとら刺激の強い状況が続き過ぎていたものでしてね」

辻が一応はフツノミタマを下げつつもローブの人物の一挙一動を油断無く見やりながら応答する。

「勝手に入ってきた此方にも落ち度はありますが、(ドラゴン)を門番に立たせる様な人間に対して直ぐに友好的に接せる程平和な頭はしていないんですよ。申し遅れましたが、俺は辻 (はじめ)といいます…お名前を教えて頂いても?」

「ああ、これは此方こそお招きした立場でありながら失礼しました」

ローブの人物は優雅に頭を下げ、名乗りを上げる。

「私はクウネル・サンダースと申します。この図書館島の司書を勤めております、皆さんどうぞお見知り置きを」

その人物ーークウネルは唯一見える口元で弧を描き、にこやかに笑った。




閲覧ありがとうございます、星の海です。今回も遅くなりました。これから調子を上げていけることかと思われます、今暫くお待ち下さい。中村の暴走が激しく、思ったよりも手前で話を上げることとなりました。矢張り弾けたキャラは此方も描いていて楽しいです笑)次回は謎の人物笑)と辻達の対話です。原作とは既に斜め上に違った方向に吹っ飛んでいますが、楽しんで頂けれは幸いです。それではま次話にて、次もよろしくお願いします。
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