お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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遅くなりました、次回から修行パートに本格的に入ります。


5話 課される条件 武道会に向けて

………胡散臭いなぁ………………

辻は目の前の芳醇な香りを立てる紅茶のカップに目線を落としながらも、折を見て目の前で茶菓子を振舞う性別不明人相不明目的不明、即ち正体不明の怪人物に視線を向ける。

 

中村と豪徳寺の安否を気にする一同に、クウネルは表の飛竜に話を通してこれ以上の敵対を止めさせる旨を伝え、中村達も中に招き入れるから安心するように、と告げて一同を半ば強引に茶会の席に着かせた。

無論辻達は敵意が無く、此方を害さないというクウネルの主張をハイそうですかと頭から信用した訳では無いが、楓の感知能力を持ってしても直前まで現れるのを察知できなかったクウネルはかなりの実力者だと理解していた。

…そんな奴がこちらをどうにか(・・・・)しようとするなら、初めの時点で俺達はやられてる……

だからこそ、辻達はクウネルを下手に刺激しないようにする意図も兼ねて、一先ず大人しく歓待を受けていた。

 

「…ふむ、どうやらお連れのお二方は相当に腕が立つ様ですね。彼女が酷く興奮していて宥めるのが大変でしたよ」

茶菓子を出し終え、暫し黙って額に指を当てていたクウネルが一つ息を吐いて辻達に告げる。

「中村さん達は大丈夫なんですか⁉︎」

出された紅茶に口も付けずにソワソワと落ち着かなさ気だったネギが半ば叫ぶ様にクウネルを問い詰める。

「…ええ。何やらオレンジ髪の少年がやらかした(・・・・・)らしく、もう暫くは彼女もじゃれ合う気のようですが、私が通行を許可した事を既に承諾した様ですので当初のような死闘にはならないでしょう。安心して下さい、ネギ君」

クウネルはローブの奥の目を細めてネギを一瞥した後、柔らかい口調で心配無い旨を告げる。

「そ、そうですか…よかった……!」

「いや、じゃれられるだけでも普通に死にそうじゃない?あんなでっかい蜥蜴…」

ネギが安堵した様に息を吐くが、明日菜は引きつり気味の顔で懸念を口にする。

「あのゴキブリ並みに生き汚ない有害生物ならば問題無い。それにしても今度は何をやらかしたあのクズは……」

「…っていうか彼女(・・)って……メスだったんだ、あの飛竜…」

「おお、だからアルか!流石中村アルね‼︎」

「いやいや、流石に中村も巨大な爬虫類は守備範囲じゃ無い…無い……あり得るかもな、アイツなら」

「…そこまでですか……」

言外に女相手だから中村がセクハラ地味た事を仕出かしたのだと言う古の主張を反射的に否定しかけた辻が口篭り、やがて静かに肯定するのを聞いて、夕映が一筋の汗を頬にかきつつ戦慄する。

クウネルはそんな辻達のやり取りを楽し気に眺めつつ、頃合いを見計らって軽く手を叩いて注目を集める。

「さて、外のお客様は一段落した時点で私から改めて迎えを出しましょう。そろそろ皆さんが本日此処へ出向かれた理由を、お聞かせ願えませんでしょうか?」

クウネルの言葉に一同は互いに視線を幾度か交わらせ、やがてネギが一つ息を吐いてからゆっくりと話し出した。

「クウネルさん。先ずは知らなかったとはいえ前触れも無しにお邪魔した件を謝罪します、申し訳ありませんでした。…本日は、僕の父について手掛かりを得る為に、ここまで来ました」

「ほう……」

クウネルは微笑みながら興味深そうに相槌を打つ。

「…詳しく話を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」

「はい」

それからネギは自らの出自、此処に来るまでに至った経緯を辻達の補足を受けつつ簡単に話した。

「…だから、この場所に父さん…ナギ・スプリングフィールドの手がかりがあると判断したんです。クウネルさん、この場所に住んでいるなら何か心当たりはありませんか?……いえ、もっと言うなら、門番に飛竜(ワイバーン)なんて存在を立たせてまで侵入を拒んでおきながら、入ってきた僕達に敵意を見せず歓迎してくれる貴方の対応は、失礼ですがおかしいです。…貴方は、父さんについて何か知っているんじゃないでしょうか?」

ネギはローブの奥に見えるクウネルの目を見据えて問いを放つ。

「…ふむ………」

周りの目線がクウネルに集中する中、クウネルは一つ頷きネギに向けて言葉を返す。

「ご名答です、ネギ君。確かに私はナギ・スプリングフィールドについて少なくない情報を知っています。近衛詠春がこの場所を教えた理由も私あってのことでしょう」

クウネルの言葉に、俄かに辻達は色めき立ち、ネギは勢い込んでクウネルに尋ねかける。

「ほ、本当ですか⁉︎父さんは今、何処に…‼︎」

「落ち着いて下さい、ネギ君」

クウネルはあくまで泰然とした態度を崩さないままネギを宥める。

「す、すみません、僕…」

「いえいえ、行方不明の父に関わる話なのですから、焦るのも意気込むのも当然のことですよ」

鷹揚に返しながらも、そこでクウネルは口調を困ったような、僅かに申し訳なさそうなものに変える。

「しかしネギ君、申し上げ難いことですが、貴方の父親に関する情報を今直ぐ貴方に教える訳にはいきません」

「え……⁉︎」

「なに……?」

まさかの拒絶の意に、ネギが愕然とした顔でクウネルを見返し、辻や大豪院、山下は表情を厳しいものに変える。そして到底納得のいかないその台詞にネギが食って掛かろうとするのを大豪院が押し留める。

「落ち着け、ネギ」

「大豪院さん⁉︎なんで……!」

「もう一度言う。落ち着け、ネギ」

大豪院は強い口調でネギの抗議の声を封殺し、肩に手を置いてやや強引にクールダウンを図り、耳元で言い含める。

「気持ちは俺達も同じだ、遥々来ておいて教えられない、と言われておめおめ引き下がるつもりは無い。しかしだ、熱くなって闇雲に噛み付いてもいい結果は得られん。奴を見ろ、どう考えても一筋縄ではいかん相手だ…一先ず俺達に任せておけ」

大豪院はネギから離れ、変わらず笑みを湛えるクウネルに問い掛ける。

「…訳を聞いてもいいだろうか?」

「勿論ですとも…ナギ・スプリングフィールドの手掛かりが手に入ったとして、ネギ君は当然彼を探そうとしますよね?」

「は、はい…」

クウネルに問われ、ネギは頷く。

「だからです、ネギ君。貴方はその歳にしては破格の能力(ちから)を持っていますが、今のままでは、まだ足りません(・・・・・)

「それは何に対しての不足なんですかね?」

今度はネギが何か言う前に、山下が何時もの笑みを浮かべつつ、ただ目のみが笑わぬままに尋ねる。

「子どもが親に逢いに行くのに何の危険があるっていうんですか?仮になんらかの事情で危険が有るっていうなら、大人達が護ってあげるのが筋ってものだと僕は思いますよ?…別にそれを貴方にやれって言ってるんじゃありません。ただ、危険だだの力が無いだのなんてのは理由にならないんじゃないかと言ってるんです」

山下の言葉を大豪院が引き継ぐ。

「俺達はネギに無条件で協力する。荒事が起こるというなら降りかかる火の粉は俺達が払おう。それでもどうにもならないなら魔法関係者に頭を下げよう。…もう一度問わせて頂く、俺達では、足りないか(・・・・・)?」

鋭い目線と共に問いを突きつける大豪院。クウネルは暫し沈黙したままネギや辻達バカレンジャー、明日菜達3ーA女子を順繰りに見るが、反対を唱える者は、いない。

「…足りないとは言い切れません」

クウネルは口を開いた。

「正味の話、表の彼女を抜けて来られるなら貴方がたは既に戦闘力では一廉の戦士でしょう。そして皆さんは皮肉でなく立派な志をお持ちしています。通常ならば、何ら躊躇うこと無く、皆さんにお任せするでしょうね…」

しかし、とクウネルは続ける。

「ナギ・スプリングフィールドへと到達するまでの道のりは、尋常でなく苛酷なものです…私は今現在の貴方がたでは、彼へと辿り着くことならず、道半ばで力尽きることとなると判断します。故に……私は口を開けません」

クウネルの言葉に、幾人かが抗議の言葉を唱えようとして、皆一様に口をつぐむ。クウネルは何処か芝居がかった、掴み所の無い雰囲気を纏う人物であり、事情を一切語らないその態度は現時点で到底信用の置けるものでは無い。

しかし、今の言葉を放つクウネルは全身から怖い程に真剣なオーラが漂っていた。口元からは曖昧な笑みが消え、ローブの奥の視線は真っ直ぐな光を湛えて辻達を射抜いている。その様子からはクウネルが、少なく共、ネギを含めた辻達全員の身を案じて言葉を発したことが伺えた。

……それでも…………

辻は傍らのネギを見やる。ネギはクウネルの言葉と気迫に気圧されながらも、到底納得をしていないことが、表情から見てとれた。

…そうだよな………

 

危険だろうが、何だろうが。子どもが親に会うのを諦めるなどということが、あっていい筈が無い。

 

「クウネルさん…詳しい事情は話して頂けないんですね?」

辻の確認の言葉に、クウネルは頷く。

「はい、お話し出来ない事情があります。話は出来ない、訳も話さない、では納得出来ないであろうことは重々承知ですが、この点について譲歩の余地はありません」

「…わかりました」

辻はそれを承諾する。

「つ、辻さん……」

「先輩…」

抗議の声を上げようとするネギ達を手で制し、辻は言葉を続ける。

「ではクウネルさん、その他の点で譲歩して頂けませんか?」

「…どういうことでしょうか?」

訝しむクウネルに辻は告げる。

「貴方が俺達に一切の話が出来ないのは、要するに俺達が弱いから、実力が足りないからなのでしょう?」

「…そうですね。大まかに言うならばその通りです」

「ならば俺達が貴方を納得させるだけの力を示せれば、貴方はネギ君のお父さんに関する情報を明かしてくれるのですね?」

「…そうなりますね……」

辻は頷き、言い放つ。

「ならば条件を提示して下さい。俺達が何をすれば貴方が俺達の実力を認めるのかの条件を。その条件を俺達は満たしてみせましょう。その時に貴方は俺達に情報を明かすことを約束して下さい」

辻の言葉に、クウネルはローブの奥の目を僅かに見開く。

「…本気ですか?」

「冗談でこんなことは言いません。どうです、認めて頂けますか?」

辻はクウネルを見据えて念を押す。

「ち、ちょっと先輩……!」

「…少々短絡に過ぎる結論ではござらぬか?」

「そうだよ辻。こういうことはもっと慎重に……」

「皆が言いたいことは解る。確かに俺は端から見れば結論を急ぎ過ぎているように見えるかもしれない」

辻は掛けられる複数の声を遮り、告げる。

「でも理解してくれ。どんなに話し合っても結局俺達にはこの方法しか残されていないんだ」

「…どういうことですか……?」

夕映が辻に疑問を放つ。

「考えてもみてくれ。現状どうあってもネギ君に情報を明かす訳にはいかないなら、そもそもこの人は情報を知っていること自体を隠すのが賢明な手段だと思わないか?」

辻はクウネルを見る目線を厳しいものに変え、言葉を紡ぐ。

「ネギ君や俺達が説得に応じずに無理にでも事実を知ろうとすれば、万が一情報が漏洩してクウネルさんが危惧したように俺達が逸って最悪命を落とす様な事態が有り得るかもしれない。ならば何故俺達に自らが情報を握っている旨を教えるんだ?単にそこまで気が廻らなかったのか?…俺はそうは思わない。理由はわからないが、クウネルさんは情報という餌をぶら下げて俺達をその気(・・・)にさせようとしていると、俺は感じた」

…ネギに対する麻帆良の魔法関係者と同じように、な………

言葉を受けたクウネルは、黙したまま続きを促す。

「先程俺達の身を案じた貴方の言葉が全て偽りとは思えない。それでも貴方は、現時点で絶対に教えられない、では無く実力が足りないから教えられないと言った。…つまりはそういうことでしょう?」

「…私からは肯定も否定もせずにおきましょう」

クウネルは明言を避け、目線を辻一人に絞り言い放つ。

「ならば貴方は、私が仮に機会を作ったとして、ネギ君の為にそれを果たそうというのですか?そうまでして、貴方がネギ君に手を差し伸べる理由は何です?」

「…まあ、理由を挙げようとすれば色々ありますけどね、一番の理由は簡単です」

辻は大豪院と山下の方を向く。山下は笑って頷き、大豪院は軽く鼻を鳴らして肩を竦める。辻は二人の無言の肯定を受けて再びクウネルに向き直ると、顔を正面から見据えてきっぱりと言い放つ。

「俺達は武道家(・・・)だからです。子どもが親に会いたがるのが何かおかしなことですか?親子なんてものは一緒に居て当然でしょう。仁義を尽くすのが俺達(・・)だ。…それに今更関係無いような言い方は止めて貰いたいですね」

辻は傍らのネギの肩に手を置き、宣言する。

「とっくに俺らは、ネギ君の友人なんですから」

「…辻さん……!」

ネギは瞳を潤ませ、辻を見上げる。

泣くなよネギ君、と苦笑しながら頭を撫ぜる辻を見て、明日菜が笑い、感受性の強いのどかは貰い泣きで目を潤ませ、夕映がこちらも微笑みながら介抱を行う。

「…いやはや、素晴らしい心意気です。感銘を受けましたよ、矢張り若者とはこうでなくてはなりません」

クウネルが両手を叩きながら賞賛を送る。

「…なーんか胡っ散臭いわねこの人……」

「うーむ怪しいと言えば始めから最大級に怪しいから無理ないアル」

「まあ明らかに偽名と解る名乗りに顔の伺えぬ装い、挙句の果てに話の内容に具体的なものが一切無いのでは当然でござるな」

「あはは〜確かにそやな〜」

「…いや、皆さん。曲がりなりにも交渉中なんですからそういうことは思っても口に出さない様に…」

「構いませんよ、神鳴流のお嬢さん」

「っわ⁉︎」

事実とはいえ中々に失礼なことを宣う朝倉達に刹那が釘を刺そうと口を開いた瞬間、クウネルに声を掛けられビクリと背中が跳ねる。

「自身を客観視してこの上無く胡散臭い人物像であると自覚はありますからね」

「ならば直しては如何か…?」

フフフフと何故か自慢気な含み笑いと共に告げるクウネルに大豪院がツッコむ。

「いえ、私はこのキャラが気に入っているものでして…」

「…いい性格してますよ、貴方…」

辻が顔を引きつらせながらも言う。

「…それで、若干話が逸れましたが…」

「ええ、わかっています。流石の私もそこを煙に巻くつもりはありません」

山下の仕切り直しにクウネルは応じて、本題に入る。

「貴方がたの覚悟はよくわかりました。その尊い在り方に免じて、私も譲歩を行わせて頂きましょう。ナギ・スプリングフィールドの情報をお渡しする条件は…」

ピンと一本指を立て、語り始めたクウネルだったが、言葉の途中で口を噤み、宙を仰ぎ見る。

「……?」

首を傾げる辻達だったが、直後入ってきた通路の奥からドカドカと荒々しい足音が響くのを耳に入れて、疑問が氷解する。

…ああ、中村達が来たのか。

辻は内心胸を撫で下ろす。熱くなりやすい直情傾向の中村が先程迄のやり取りを聞いていれば、まず間違いなく交渉の途中でキレていただろうからだ。その意味ではベストなタイミングでやって来たと言える。

 

「たあぁぁぁぁのもおぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎飛竜女史の飼い主はどいつだあぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」

しかし、やって来た中村は何故か怒髪天をついていた。

「なんでキレてるんだよお前は⁉︎」

つくづく思い通りに動いてくれない馬鹿の日本代表に思わず辻は叫び返す。しかし中村は辻のツッコミを見事にスルーし、テラスを血走った目で見渡してクウネルをロックオンする。

「てめえかあぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

「はい、彼女はペットではありませんが、食事などを提供しているのは私ですね」

凄まじい剣幕の中村が放つ唐突な質問にも一切怯まずに、クウネルはにこやかに応答する。

「ほぉぉぉぉぉう、ならばてめえは己の罪が自覚できているかぁぁぁ?」

「ええ、彼女に襲われた件に関しては無礼をお詫びします。しかし、彼女は有象無象の人物が入ってこない様

に入口を警備するのが仕事ですからね。どうか寛大な心で容赦して頂けませんでしょうか?」

飛竜に襲われた事を憤っていると当たりをつけたクウネルは頭を下げて許しを乞う。しかし、中村 達也という男はそんなわかりやすい反応をしない男であった。

「んな事はどうでもいいわあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

「……は?」

「いやよくねえよ」

予想外の言葉にローブの奥の目を丸くするクウネルに、遅れて入ってきて、ツッコミを入れる豪徳寺。

「てめえ、飛竜女史の名前を言ってみろぁぁ…‼︎」

「は?名前、ですか…?」

戸惑いながらも受け答えをして考え込むクウネルだったが、ややあって顔を上げ、返答する。

「…私の知る限りでは彼女に人が呼び掛ける類の名称はついていない筈ですが……?」

「何が筈ですが、だこの大馬鹿野郎があぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

クウネルの言葉に再度激昂する中村。

「いえ、あの何を怒って…」

「わからねえなら教えてやるこの無責任飼い主が‼︎なんと無く鳴き声のニュアンスとジェスチャーから理解した限りじゃあ、飛竜女史はどうやらここで門番をするようになってかなり永いみてえだなぁ……‼︎」

「…え、ええ………」

「うわ〜あの怪人が完全に気圧されてるわよ…」

「流石と言うべきか馬鹿がと言うべきか…」

「完全に後者だろう。そもそも蜥蜴の鳴き声とジェスチャーだけで何故そんなことが解る?」

「知らねえよ、メスだからじゃねえか?」

中村とクウネルを除いた全員の呆れた様な会話を一切気にせず、中村は尚も言い募る。

「それだけ永い時間面倒を見ておきながら名前もつけてやらねえとは何事じゃああ⁉︎てめえみたいな無責任な野郎が多いから山では野犬が増殖し、公園の生態系はブラックバスに壊されんだこのカスがぁぁぁぁぁ‼︎」

「はぁ⁉︎いえ、彼女は別に気にしては……そもそもそんな会話んする程私と彼女に接点は…」

「それは単にてめえの怠慢だタコがあぁぁぁぁ‼︎さっき話した感じでは名前欲しいかって質問に満更でもなさそうだったぞこの外道が‼︎」

「何者ですか貴方は⁉︎」

クウネルの珍しい大音量によるツッコミが広いテラスに木霊した。

 

 

 

「なんだそりゃあ?あの野郎巫山戯たことを抜かしやがって……!やっぱキャシーの件も含めて二三発叩き殴っとくべきだったぜ‼︎」

「向こうからすりゃお前の存在の方が余程巫山戯てん様に思えてるだろうよ。…っていうかなんだキャシーって?」

「察し悪りいなあ薫っちい、飛竜女史に俺がつけた名前だよ名前はキャサリン、愛称でキャシーな」

「えらい可愛い名前だなぁおい⁉︎」

図書館島からの帰り道、中村の返答に対する辻の叫びが辺りに轟く。

あれからグダグダになった流れを辻と刹那、大豪院の奮戦によりなんとか元に戻し、クウネルとの交渉を終えて一同は暗くなった寮への帰り道を歩んでいた。

「しかし平然と無茶言うねえあの怪人ローブ男。あと何ヶ月も無いっていうのにどうしようかホント?」

山下が困り果てた様子で溜息を吐く。

「…あのさぁ。あたし腕っ節とかそういう方面とんと疎いからよくわかんないんだけど、そんなに強い訳、あのローブ男だか女だか?」

「多分野郎だぜ?俺にはなんと無く解る」

(ドラゴン)の性別を見破った人間?が言うと説得力が違いますね……」

朝倉の末尾の疑問に答えた中村の言葉に、夕映が一筋の汗を流して呟く。

「いや、それはどうでもよく無いけどいいとして、あたしもよくわかんないわ先輩達、あの胡散臭い奴強いの?」

後を引き取った明日菜の疑問に、バカレンジャーは一様に浮かない顔で頷く。

「…まあ、俺達はおろか楓ちゅわんにすら直前まで気配を悟らせずにあの場に現れた時点で既にタダモンじゃ無えんだけどよ…」

「座っていながら立ち振る舞いの一切に隙が無かった。多分肉弾戦でも相当強いね、あの人…」

「加えてネギに魔道書を余裕綽々でわざわざ貸してくれた際の口ぶりからして明らかに魔法使い。そちらの腕前は想像すら付かん」

「ムカつく対応だが、仮に俺らがあそこで一斉に襲い掛かっても対処出来る自信があったからこそのあの腹立つ態度なんだろうぜ」

口々に告げられるのはあまり愉快でない状況を指す内容だ。

 

『今度の麻帆良学園祭にて、麻帆良武道会という名称の伝統ある格闘大会が行われます。その大会でどなたでも構いません。私から見事一本取ることができれば、ナギ・スプリングフィールドに関する情報を貴方がたにお教えしましょう』

 

それがクウネルからネギ達に対して告げられた条件だった。

「…現状で勝ち目が無いから期間を置いてくれたのは解るが、何故学祭の、それも殆ど名前も聞いたことが無い様なマイナーな大会で試験を行うんだ?更に言うならどなたでも、なんて言って見事にボカしちゃいるが、明らかにネギ君に向けた条件だぞこれは」

「え…僕、ですか?」

辻の言葉に、ネギが驚いた様に自らの顔を指で指す。ネギにしてみれば、自身の父親に関する話したなのだから当然辻達に黙って全てを委ねるつもりは無く、自分自身でも出来る限りのことをするつもりはだったが、同時に現時点で自分は辻達よりも一部の限定的な状況を除けば実力が劣ることをはっきりと自覚していた。その為、何と無く自分は蚊帳の外に置かれる気がしていたのに、辻のこの言葉である。

「どういうことですか、辻部長?」

刹那の疑問に辻が答える。

「考えても見ろ、格闘大会なんて場所で試験を行う以上一対一での戦闘になる。この時点で複数人の力を合わせてクウネルを沈めるのは暗にルール違反とされている。即ち個々の実力であの怪人を上回らなければいけない訳だが、こんな条件を出す以上あの男?はこの場の全員に一対一で勝つ自信があるんだ。そして武の道を志す者なら嫌になる程理解していると思うが…」

「アイヤ、強くなるのに近道無し、そういうことアルね」

古が珍しく察しの良い返事をする。何気に大豪院が驚愕していた。

「そういうこと。たったの数ヶ月で実力は劇的に上昇したりはしない。つまり始める前から理屈の上ではこの試験、合格するのが非常に困難な訳だが……」

「…成る程、そこでネギ坊主でござるか」

得心した様に楓が頷く。

「…そう、まだまだ修行を始めたばかりで伸び代が大量に残ってるネギ君なら、もしかしたらこれからの成長具合によっては、あの怪人を打倒出来るかもしれないって話だ」

「…お言葉はわかりましたが……」

夕映が僅かに眉を顰めつつ、反論する。

「戦闘方面に関しては私も素人ですのでよく解りませんが、漫画や小説では無いのですから素人に近い人間がたった数ヶ月の修行で達人を打倒する、などということが現実にあり得るのですか?」

「まあはっきり言って無いに等しい」

きっぱりと中村が断言する。

「勝負は実力だけで決まるもんじゃ無えが、同時に全体で八、九割の勝因は実力で勝るこった。普通に考えりゃ、あと数ヶ月でネギが俺らより強くなるなんざアリエッティだぜ」

「だが、前にも少し言及したが、ネギの上達の早さは異常の域だ。恐らく奴は何らかの方法でそれを知っていたからこそ、こんな条件を出してきたのだろう」

中村の後を大豪院が引き継ぎ、渋い顔で締めくくる。

…またか………

辻はうそ寒いものを感じ、首を縮める。

魔法関係者達と同じだ、クウネル・サンダースという怪人までもが、ネギに試練を投げかけ、成長を図ってくる。

……一体裏ではどういう扱いになってるんだ、ネギ・スプリングフィールドって存在は…………!

辻が考え込みながらもふと視線を落とすと、ネギが何事かを考えながらブツブツと小さな声で呟いている。

……あ、ヤバい。

辻はネギの思考が良くない方向へ向かっているのを感じ、ネギの頭に手を置いて語りかける。

「ネギ君、大体何を考えているかは解るけど、さっき君が強くなってあのクウネルさんを打倒する云々の話はあくまでクウネルさんが望んでいるであろう展開の話だ。今から君がうんと無理をして強くなろうなんてのは、俺達は認めるつもりは無いよ」

「えっ⁉︎な、なんでわかったんですか僕の考えてることが⁉︎」

ネギが頭に置かれている辻の手もそのままに、驚愕の声を上げる。

「誰でも解るわ阿呆」

「いつかも言ったけどネギ君、僕らは何時でも君の味方でいるつもりだ。まだ幼い君が無理をする必要は何処にも無いんだよ」

「大体さっきは勝ち目が薄いみたいな話してたが、俺達はそうそうたる化け物どもと渡り合って此処にいるんだぜ?こっから絞り込んで行けばあんな野郎にこっちが負けるなんてことは無えよ。何せこっちは最低五人もいるんだぜ?」

「第一お前が幾ら無理をした所で、身に付く力はあくまで付け焼き刃だ。可能性が無くは無いというだけで、勝率など無いに等しいぞ?」

口々に諌められてネギは言葉を詰まらせるが、それでもその顔は到底納得したそれでは無い。辻はこっそりと溜息を吐く。

……ネギ君も案外頑固だからなぁ………

この場で幾ら言い含めても納得することは無いだろうと辻は判断し、中村達に目配せをすると一旦話を終わらせに掛かる。

「…まあネギ君、今後も修行は継続するし、まだ時間もある。何にしろ俺達は全力で協力するから、ゆっくり勝つ為の方針を決めて行こうか?」

「は、はい‼︎皆さん、ありがとうございます‼︎」

いいよ、と辻が笑っていると、のどかが緊張しながらも前に出てくると、何時もの彼女よりも大きな声で、つっかえながらもネギに告げる。

「せ、せんせ〜‼︎わ、私も及ばずながら、協力しますー‼︎」

「のどかさん…」

「そうそう。何が出来るかはわかんないけどさ、あたしらも出来ることはやっちゃうよ、ネギ君?」

「先輩達だけでカッコ付けんのは無しよ無し!私も協力するわよ、ネギ‼︎」

「ふふふふ、修行とかそういう方面なら私も力になれるアルよ‼︎」

「此処まで話を聞いてさようなら、ではいささか寝覚めが悪いでござるからなぁ。及ばずながら、拙者も協力するでござるよ」

「ん、ウチもご飯作ったり、色々できるえ〜ネギ君。せっちゃんも力になってくれるわ〜」

「無論です。得体の知れない相手ですが、まだまだ時間はありますからね」

「…と、まあ、言いたいことは皆さんに言われてしまいましたが、私も気持ちは同じです。頑張りましょう、先輩方、ネギ先生」

「…は、はい‼︎」

夕映の言葉に、ネギは声を詰まらせながらも笑顔で頷いた。

 

 

 

「…ふふ、健やかに育っていましたねぇ、ネギ君も、アスナ嬢も」

月明かりが照らす中、ティーカップ片手にクウネルは誰にとも無く呟いた。

「…世界は貴方達に決して優しくはありません。強くなりなさい、ネギ君、アスナ嬢。…そうでなければ、意に沿わぬ一生を送る羽目になるでしょう…」

或いは、とクウネルは思う。あの真っ直ぐな若き武道家達が二人の行く末に、良いものを齎してくれるだろうかと。

 

…こんな形でしか、貴方の息子と妹分に関われない私を恨みますか?ナギ、アリカ様………




閲覧ありがとうございます、星の海です。いよいよネギの方向性と今後の指針に向けての触りに触れられました。これから修行パート、それから大小の事件を挟み、作者にとっての待望、麻帆良武道会編に繋がって行きます。相変わらずあまり早くの更新はできていませんが、どうかお見限り無く、今後もよろしくお願いします。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。
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