お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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すみません、遅くなりました。


6話 苦労人の情報提供 武道と魔法の交わる一歩?

「…ああ……気が重いぜ畜生……」

篠村 薊は世界樹広場近くの公園へと続く道を重い足取りで歩きながら消え入る様な調子で独り言ちた。

……なんで俺が謝りに来てんだろうな………

晴れ渡った空を仰ぎ、早朝のやや冷たい澄んだ空気を胸一杯に吸い込むが、矢張り篠村の気分は晴れない。

辻達バカレンジャーと麻帆良の魔法関係者達の話し合いから早二週間、篠村は辻達に面通しを改めて行う必要性を感じて、早朝よく鍛錬を行っているらしいこの場所に出向いていた。

理由の一つとして、どうも辻達バカレンジャーの魔法関係者としての参加が内輪で決定しそうな流れがあった。あの夜の交渉めいた話し合いが決裂してから、魔法関係者の間では辻達を自分達の組織の一員に加えるかどうかについて、少なく無い数の議論が行われてはいる。

しかし篠村は理解していた。結局下の者が幾ら騒いで反対した所で、上の者がこうする、と決めれば従うしか無いのだ、こういうものは。

…学園長があの変人共を加えるのに乗り気な以上、遠からぬ内に連中はほぼ間違い無くこちら側にやって来る。

…だからこそ、今のまま(・・・・)では不味いんだよなぁ……

篠村が危惧しているのは腐れ縁のお堅い現在の仮パートナー、高音の存在だった。高音の性格上、上が決定したからといって絶対に割り切っての無難な対応など、バカレンジャーに対してしはしないだろうという確信が、篠村にはあった。

…特にあの気が短そうな学園最大最低の変態とは賭けてもいい程確実に衝突する、というか既にしてるし……!

故に篠村は少しでも辻達バカレンジャーとの関係を良好なものとする為、先日の無礼を謝罪に来たのである。本当は高音本人が頭を下げに来るのが一番いいのだが、散々説得しても高音は自分からの謝罪を拒否した。余程中村の態度が腹に据えかねたらしい。

…まあ俺もイラっと来たし、高音の気持ちも解るだけに難しい所だよなぁ……

篠村としては向こうの言動にも普通に問題があったと思うだけに、こちら側が先に折れることに対して抵抗が無くは無いが、こういう両者に非がある場合の事案は意地を張って関係修復を先延ばしにしても良いことは何も無い。ましてこれから協力して仕事に当たる羽目になる相手ならば尚更だ。

 

…ネギ・スプリングフィールドへの構いっぷりを見るに、真っ直ぐ過ぎるだけで人の良い連中みたいだし、自分達の側にも非があったことを認めてくれれば、高音も軟化してくれるだろ。…俺の安い頭下げて解決するならそれでいいわな……

 

そんなことを考えながら公園内に入っていく篠村。さて連中は何処に居るかと敷地内を見回す篠村の目に、とある光景が飛び込んで来た。

 

「ェンャアァァァァァァァァァ‼︎‼︎」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」

必死で逃げ回るネギの後ろを、何処ぞの未開の地に住む原住民の呪術師か何かが付けていそうな派手で怪しい巨大な仮面を被った腰ミノ一丁の怪人が、両手に燃え盛る松明を持ってそれを振り回しながら追いかけていた。怪人の放つ奇声とネギの悲鳴が、人気の無い朝の公園内に木霊する。

 

「……………………………」

篠村は暫し無言でその珍景を眺めていたが、やがて腰の後ろに手挟んでいた金属製の棒のようなものを取り出して片手に持つと、それを一振りする。

ジャキン‼︎という小気味好い音と共に棒が伸長して、全長五尺少々の片端が槍の様に尖った、全体に紋様の刻み込まれた長杖(ワンド)が現れた。

「…そこを動くな変態野郎ぉぉぉ‼︎」

篠村は獲物を振り上げ、怪人へと突撃した。

 

 

 

「…ったくこの慌てんぼさんが。朝っぱらから少年を鍛えるべく指導に勤しむ好青年に向かって問答無用で殴り掛かって来やがってからに、状況を判断する時はもっと落ち着いて見極めれやお前…」

「誰がどれ程時間を掛けて判断した所で変質者に小学生が襲われている以外の判断は下せんわあの状況は‼︎何を偉そうに説教くれてやがるこのパプアニューギニアの呪術師が‼︎」

「矢張り意地でも止めるべきだったな……」

「まあそりゃそうよねえあの状況見てれば…」

仮面を地面に置きながらやれやれといった様子で言い放つ腰ミノ一丁の変態ーー中村の言葉に篠村が青筋を立てて反論し、大豪院と明日菜がやり切れなさそうに呟く。

あれから篠村の大上段からの一撃を片方の松明で受け止めた怪人が反撃の為に空いた方の松明をフルスイングしようとした所でネギが慌てて割り込み、騒ぎを聞き付けた辻達が制圧(主に中村を)して一先ず事は収まった。

「…他人の行動にとやかく口挟みたくは無いが、もう少し他人の目線てものを考えた稽古の付け方しろよお前ら。端から見ていれば年端も行かない少年を集団でいじめている外道集団以外の何物でもないぞ?」

篠村の指摘に、中村を除いた面々は恥じ入る様に俯く。

「この恥知らずを止められず申し訳ない……」

「普段はもう少し、健全な見た目なんだがな、俺達の修業風景は…」

大豪院が頭を下げ、豪徳寺が呻く。

「んだよ人の行動に文句ばっか付けやがっててめえ等は……ん?そういやお前は誰だよ?さっきの杖捌きは結構出来そうだったから杖術部かなんかの奴かと思ってたけど、お前なんざ知らねえぞ?お前レベルなら確実に俺の記憶に残ってる筈だがな……?」

自覚と反省という単語を母親の腹の中に置いて来た中村がふと悪態を途中で止め、訝しげに篠村の顔を覗き込む。

篠村はがっくり肩を落とすが、中村は顔を合わせた時にかなり激昂していたし、高音が主に突っかかっていたから無理も無いかと思い直し、改めて自己紹介をしようとする、が…

「…えーと誰だっけ?なんか見覚えは有るんだよね……?」

「そうなんだよな…それも割と最近見た気がすんだよ……」

「ふむ…………思い出せんな」

「おいお前ら失礼だろ!この人は……えーと……………ほら‼︎一ヶ月前に麻帆良の武道家なにするものぞ、って言いながら麻帆良武道系部活に道場破りに来た怪しげな武術集団の中に、多分……」

「…確かに名乗ってはいなかったけどよ……影が薄くて悪かったなあ⁉︎俺の名前は篠村 薊だ‼︎お前らが京都から帰って来た日に顔合わせてそこの変態と喧嘩した金髪女を止めに入ったのが俺だよ畜生‼︎」

中村はおろか、他のバカレンジャーにまで顔すら碌に覚えられていない事実にヘコみながら、篠村は半ばヤケクソ気味に名乗りを上げた。

「ああー……ンだこの野郎、てめえの女の仇討ちに来たってか、ああ?」

篠村の正体を聞いて中村がドスの効いた声で凄んでみせる。

「高音は俺とはなんでも無えよ!単なる警備上の仮パートナーだ、間違っても本人の前で言うなよ⁉︎俺が半殺しにされる‼︎」

冗談じゃないとばかりに目を剥いて篠村が叫び返す。

「…ねえ、いまいち話が見えないんだけどこの人は誰で何しに来た訳、先輩達?」

それまでのやり取りを黙って見ていた朝倉が怪訝そうに辻達へと尋ねる。

「あ〜………」

辻が言葉を詰まらせ、呻く。魔法教師、魔法生徒と会合した件についてはネギを含めて、3ーAの人間では刹那以外に知る者はこの場にいない。どうにもきな臭い話を聞かせて不安にさせない為と、バカレンジャー達にも事情が判っていないこの段階で、バカレンジャーの主観が混ざった説明により魔法関係者達が一方的に悪いかの様な誤解を与えない為である。

…と、言ってもどうしようか、この状況……

上手くボカした説明が出来ないものかと辻が内心懸命に頭を捻っていると、そんな様子を黙って見ていた篠村が皆に対して語り始める。

「ああ、自己紹介もせずに失礼、俺は篠村 薊。そこのバカレンジャー達の知り合い…っていう程でも無いな、顔見知り位の関係だ。こいつらが噂の子供先生を寄って集ってイジメてる、なんて噂が最近流れてたもんでさ、気になって確かめに来たんだよ」

「……ああ〜………」

「ええっ⁉︎ち、違いますよ⁉︎」

普段の修業風景を思い出して、明日菜が遠い目になり、ネギが焦ったように否定の声を上げる。

「辻さん達には僕の方から望んで稽古をつけて貰ってるんです‼︎イジメなんてそんな……!」

「ああわかったわかった、落ち着いてくれネギ先生。正直見た目はアレだったけど先生自身は真面目にやっているようだったしね。双方合意の元にやっているんだったら俺からとやかく言う筋合いは無いさ。騒ぎ立てたりもしないから安心してくれ」

ネギを宥めながら、篠村は辻の方に目配せをした後、踵を返す。

「じゃあ皆さん、邪魔しちゃって悪かったね、部外者はこれで退散させてもらうよ。ご縁(・・)があればまた近いうちに(・・・・・)

ヒラヒラと後ろ手に手を振りながら退散する篠村。

「…ん〜!どう思うアル、楓?」

「ふむ……負ける気はせんでござるが、中々得体の知れない御仁でござるなぁ…」

「喧嘩も売っていない相手の力を図るのはいい加減に止めろ」

「ほんとそればっかだなお前らは…」

立ち去る篠村を見てやや興奮気味に問い掛ける古にニンニン♪と楽し気に笑いながら楓が答え、そんな戦闘狂(バトルジャンキー)二人に呆れながら大豪院と豪徳寺がツッコむ。

「…まぁ普段の僕らもあんまり人のこと言えない気がするけどね……」

「言うなよ山ちゃん……」

苦笑しながらの山下の言葉に、頭痛がするかのように頭を押さえながら辻が力無く言う。

「…で?結局あいつは何しに来たんだ?」

「含みのある視線と台詞をしてたろうが、少しは相手の言動の裏を読むということをしろよお前は」

(ハテナ)マークを頭に浮かべながら言う中村に、やれやれと首を振りながら辻が返す。

「…こっちの様子に気を遣って一旦退いてくれたんだろう。多分また近いうちに会いに来るよ、何か話があったんだろうな…こっちに」

 

 

 

「よう、朝方ぶりだな、お前さん達」

朝方の鍛錬を終えてから登校したバカレンジャー。朝の辻の予想通り篠村は昼休みに辻達の元へ現れた。

「来るとは思っていたけど早いな」

「急を要する話でも有るのか、貴様?」

僅かに驚きながら辻が言葉を掛け、僅かに疑念の篭った目で見やりながら大豪院が尋ねるが、篠村はその言葉に苦笑いを浮かべながら手を軽く左右に振りつつ否定する。

「物騒な話を持ち込むつもりは無いし、今の所上が何かあんたたちに対する方針を決めたわけでもないから、情報を伝えられる権限を持って無い俺はそもそもそっちの方面では何も言えないな。いや簡単だ、この前の一件を謝りに来たんだよ俺は」

「この前の一件…っつうとウチの馬鹿とお前んとこの金髪女が衝突したアレか?」

豪徳寺の言葉に篠村は頷き、頭を下げる。

「この前は高音が失礼な事を言って悪かった。こっちにどんな事情があろうが命懸けで子どもや少女救ったあんたらに対して敬意の足りない発言だった、許して欲しい」

殊勝な篠村の態度に、戸惑った様に互いの顔を見合わせるバカレンジャーだったが、

「…此方こそ、話も全て聞き終えもしない内に失礼な態度を取った。謝罪させて貰おう」

「そっちの対応に引っかかるものはあるけどよ、俺らも現時点で全面的に喧嘩売りたい訳じゃ無いんだよ」

「熱くなり易い奴がこっちに居てさ、売り言葉に買い言葉で言い過ぎちゃったんだ。寧ろこっちの方が短絡的で非が有るよ」

「……中村?」

「っ〜〜‼︎わーってんよ畜生俺が悪かったっつうの‼︎餓鬼みてえに文句言うだけ言って空気悪くしてすんませんでしたぁ〜〜っ‼︎‼︎」

各々自分達の側にも非があった事を認め、中村は辻に促されて不本意そうに、だがしっかりと頭を下げた。

「スマンな、こんな奴で…」

「いや、俺の方も喧嘩した当人が頭を下げに来ていない以上筋を通しちゃいないんだ、気にしないでくれ」

苦笑して返す篠村にお互い大変だな、と辻も苦笑いを返し、一先ずバカレンジャーと魔法生徒の一端は和解を迎えた。

 

「…で、伸ばし伸ばしになっちまったけど、お前さん何しに来たのよ?」

一旦仕切り直し、昼食を迎えた一同が各々食事を取る中、巨大な弁当箱の中身を掻き込みながら中村が尋ねる。

「いやな、流石に謝罪に来ときながら頭下げただけで帰るのも誠意が足りないと思ってな。詳しい事情は話せないけど、せめてこっち側の大まかな情勢だけでも教えようと思ったんだ」

購買で買ったらしきパンを適当に噛み千切って飲み込みながら篠村がわざわざ顔を出した理由を語る。

「それは願っても無いが…貴様はそんなことをして大丈夫なのか?」

大豪院が箸を休め、怪訝そうに疑問を放つ。

「味噌っカスの俺が知っている情報なんざ大した重要性も無い、その気になって調べればわかる程度のものだよ。単にあんた方の手間を省く以上のもんでは無いさ。それに、確かにあんた方は一部で相当敵視されちゃあいるが、交流を持つなと命令された覚えは無い」

「…そういうことなら遠慮無く、と言わせて貰おうかな?」

山下がタコさんウインナー(タコが三匹並んで脳天串刺しで口からケチャップの血糊を吐き出している)の串からタコを外しつつ言う。

「ああ…所であんたの食い物の悪趣味な装飾はツッコミ待ちか?」

「いや、この残念イケメンはこれが素だから触れないでやってくれ、調子に乗っから」

「いやあ〜可愛いよね、タコさんウインナーって」

「…スルーな、スルー……」

のほほんと串を掲げて笑う山下を半目で見やりながら辻が呟く。

「オッホン!…まずあんた方に対する魔法関係者の評価、というか印象だけど、まあ概ね良く思われちゃいない。言っちゃなんだがここは一癖有るが有能な連中が集まる、相応にプライドの高い連中も多くてね。勿論全体がそうだと言う訳じゃ無いんだが、魔法使い以外を下に見るというか、一般人に対して優越感にも似た感情を持っている奴らが居る。そういった連中からは先の喧嘩騒ぎもあってあんた方みたいな素人の餓鬼なんぞ不必要だとさ」

「ハッ!だから俺らは混ざりたいなんざ言っちゃいねっつうのぉ〜」

「結果的に混ざらなきゃならんのだから意味無えよその反論」

「いい気はせんが概ね予想通りの反応だな」

「ま、普通に組織のトップに暴言吐いてるからねえ。闇討ちされないだけマシな方じゃない?」

悪態を吐く中村の頭を豪徳寺が小突き、半ば諦め混じりに呟く大豪院と山下。篠村は苦笑して双方の側に対するフォローを入れる。

「誤解しないで欲しいんだが、あんた方の存在も功績も認めていないのはほんの一部だけだ。大半はあんた方の先の一件の態度にこそ不快感を得ちゃいるが、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと京都の事件でのあんた方の行動方針と実積を評価してる。中村、でいいよな?に噛み付いた高音だって、あんた方の参戦にこそいい顔をしちゃいないが、あんた方の実力と弱者の為に奮戦した精神性には手放しで評価してたんだぜ?ただ、自分らの領域に畑違いの人間が急に入って来そうなんで受け入れられて無いだけなんだ。それをあんた方に解ってくれとは言わないが、決してあんた方を見下している連中が全てでも主流でも無いってことは頭の隅にでも置いといてくれ」

余り真面目な印象は受けない口調とは裏腹に、真剣な表情と真摯な言葉を放つ篠村に対する評価を辻は内心で上方修正していた。

…やる気無さそうな態度取っていたけど、朝の様子からして気は回るし同僚へのフォローには来るし、随分と弁えたというか、大人びた男だなあ、こいつ……

そんな感心した様な辻の視線に気付いてか、若干照れ臭そうに首を竦めながらも篠村は話を続ける。

「…学園長があんた方の警備員入りに乗り気な以上、遠からぬ内に再び勧誘を受けると思う。無論俺は行動に口を出す権利なんて無い以上、あんた方が話を突っぱねるのも自由なんだが、ネギ・スプリングフィールドの助けに今後もなりたいなら…」

「篠村と言ったな、皆まで言うな」

篠村の言葉を大豪院が静かに遮る。

「俺達もそこ迄馬鹿じゃ無え。ネギの奴と今後も関わって行くならそうするしか無えって解ってんよ」

「愚痴るつもりは無いけれど先の一件はあくまで中村の暴走で、僕らは最終的にそうなるしか無いとは考えてたから」

「へぇへぇ全部俺が悪いんですぅ〜……今度は途中でキレねえ様にすんよ、マジでな」

「そんな訳だよ、篠村さん」

辻がバカレンジャーの言葉を引き取り、告げる。

「貴方と基本的に考えは同じだ。此方としては二度と事を荒立てるつもりは無い。安心してくれ」

辻達の言葉を聞き、篠村はホッとした様子で椅子に凭れ掛かる。

「…そうか。それならこっちも気が楽だ。あんた方相手に武力行使なんて事態はほぼあり得ない話だが、世の中に絶対なんざあり得ないからな」

「確かになぁ……」

絶対だと思っていた常識をここ一ヶ月足らずでぶち壊されまくっている辻は何処か遠い目で同意する。

何と無く会話が途切れ、暫し食物を咀嚼する音だけが場に響く。

「……ああ、先程あんな事を言っておいてなんだが、多分あんた方に勧誘の話が来るのはもう少し先になるぜ」

一足先に食事を終えた篠村が、パック入りのコーヒー牛乳を啜るのを止め、思い出した様に告げる。

「ん?どういうこった?ンな揉めてんのか、俺らの受け入れ云々?」

中村が不思議そうに尋ねる。

「いや、それも無いでは無いんだが…まあ端的に言って、今はそれ所じゃあ無い大変な問題が迫っているんだな…」

篠村がゲンナリした様子で呟く。

「…話が見えんが、端的に言ってトラブルに見舞われているということか?」

尋ねる大豪院に対して、何故か篠村は恨めし気な視線を返す。

「他人事みたいに言いやがって…ある意味あんた方が元凶だぞ、この問題……」

「ああ?」

「…どういうことだ?」

中村と辻が唐突に告げられた穏やかでは無い台詞に眉根を寄せて聞き返す。

「あー何て言うかな……」

「エヴァさんの件でしょ、きっと」

僅かに言い淀み、迷う様に口を開きかけた篠村の言葉を遮り、山下が言い放つ。

「…??……どういうことよ、山ちゃん?」

意味がわからないといった様子の中村が尋ねる。

「思い出してよ中村…僕が前に言ったでしょ、エヴァさんもうすぐ封印が解ける(・・・・・・)んだって」

「……ああ、そういうことか…」

大豪院が得心を得たと頷く。篠村も山下の言葉に頷きを返す。

「そう。かの『闇の福音』の封印が解け、六百万$の賞金首として魔法世界全土になを馳せた伝説クラスの悪の魔法使い(・・・・・・)が全盛期の力を取り戻すんだ。言い方は悪いが、力を備えているとはいえたかが学生数人の処遇なんて議論している時間は無い、今は手の空いてる連中は洩れなくエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの警戒に当たってるって寸法さ」

「はー大層な話だな吸血鬼のババア一人に」

豪徳寺が呆れた様に呟く。

「こっちとしちゃその無警戒っぷりが信じらん無えよ殺し合った間柄なんだろうが、報復に来るとか考えないのか?」

篠村の言葉に辻達は顔を見合わせる。

「…何と無くあのババアそういうキャラじゃ無んだよな」

「来るにしても宣戦布告してから襲ってきそうな感じだよな」

「あれで僕らの事は評価してるらしいからねぇ、こっちから喧嘩売らない限りは大丈夫でしょ?」

口々に言うバカレンジャーに、篠村は頭痛がしたかのように頭を押さえる。

「…生きてる世界が違うってのはこういうことかね。脅威の度合いがわかって無いのかただ単に肝が太いのか……」

「おそらく両方だろうな」

肩を竦めて大豪院が返す。

「…兎に角情報ありがとう篠村さん。かなり助かった」

「篠村でいいよ、同い年だろう?こっちこそたいした情報もくれてやれないで悪いな、他に何かあれば出来る限りは手伝うんだが…」

「お、そういうことならよぉ」

中村がニヤリと笑って言い放つ。

「そっちの立場に支障ない範囲でいいから、力ぁ貸してくんねぇ?魔法使い」

「……何?」

 

 

 

「……何でこんな事になってんだ………」

長杖(ワンド)を構え、体を開いて半身の姿勢を取りながら、篠村は遠い目で呟く。

「グォッフォッフォッフォッ、んじゃそれなりに本気で行くぜぇ篠ちゃんよぉ?」

真正面に立つのは道着姿の中村、既に臨戦態勢で篠村に不敵な笑みを見せている。

「大丈夫なんでしょうか、あれ…」

「ん〜結構出来そうだから大事にはなんないと思うけどねぇ?」

「お、お兄様!頑張って下さい‼︎」

「お兄様は止めろっつったろ愛衣ぃ⁉︎」

何故か居る愛衣に対して怒鳴り返しながら、篠村は溜息を吐く。

 

「ホントなんでこうなった……?」

「っしゃ‼︎そろそろ始めるぜ、手合わせ!」




閲覧ありがとうございます、星の海です。いやはや話が進んでいません。魔法関係者の近況報告だけでほぼ一話使ってしまいました。修業パートに入ると言いつつの説明回、お許し下さい。次回はちょっとした戦闘パートを交えつつ、話をそれなりに進めます。話に出てきた篠村君は、魔法生徒が原作では魔法教師に比べて少ないと思って考案したキャラです。そろそろオリキャラタグも作品に追加するべきでしょうか?それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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