お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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何だか完全な篠村メイン回です笑)


7話 サギタマギカマスター

「…それで、何故朝方のお知り合いと殺し合いをする羽目になったのですか?」

「人聞きの悪い言い方止めろ綾瀬ちゃん。単なる手合わせ、いわば腕比べというか試合だよ。篠村の実力を見たいって話になったんだ」

『新鮮朝市大間のマグロ使用 八倍濃縮魚醤スープ〜ああっ、喉に!喉に‼︎〜』とラベルの張られたジュース?を啜りつつ尋ねる夕映を苦い声で辻が諌める。

「あ、あの〜なんでそんな話に……?」

「ぼ、僕もその辺りの経緯がよくわからないんですが……?」

のどかに問われてネギが戸惑いながら更に辻達へと質問を回す。

「ああ、まあ話せばそれなりに長いんだが、要約するなら手詰まりを感じ始めてる修業の助けに篠村(あいつ)がなってくれないかと思ってな」

二人の疑問を受けて豪徳寺が答える。

「手詰まりって…?なんか私には順調に進んでる様に見えてたけど、何か問題あったの先輩?」

明日菜が不思議そうに尋ねる。

「うん、まあネギ君は僕らの教えを凄い勢いで吸収してて、あくまで実戦では無いとはいえそれなりに動ける(・・・)様になって来た。僕らが思っていた以上に順調だし、そちらには何の問題もない…んだけどねぇ……」

「問題は魔法関係の指導なのだ」

山下の説明を大豪院が引き継ぐ。

「知っての通り俺たちの中でネギ以外に真面な魔法知識を持った者など存在しない。そしてあいつは武道家ではない、魔法使いだ。強くなる、というのなら当然魔法使いとしてのスキルも上げていかねばならんが、それに関して現状俺達は出来ることがほぼ無いと言っていい」

「かといって」

辻が続ける。

「俺達の知り合いの魔法使いなんてのはそれこそ指を詰めたヤクザでも数えられる程しか心当たりは無い。しかも現状、どの人も頼れないっぽいしね。だから篠村の存在はある種のテコ入れになるかもしれない」

辻の言葉に成る程、と女性陣が頷く。

「…しかし辻部長、言い方はなんですが篠村先輩は一魔法生徒に過ぎず、私や部長達と同じく修業中の身です。他者に対して指導を行えるほどの、実力と知識が期待できるとお思いですか…?」

「…んーまあそれは「お兄様は凄い人ですから問題ありません‼︎」おお⁉︎」

刹那の疑問に何事かを答えようとした辻は、横合いから飛び込んできた愛衣の叫びによって遮られる。

「お兄様はとても素晴らしい人なんです‼︎魔力量も魔力を扱う上での感覚でも、お姉様はおろか私にも劣っているのに、弛まぬ努力を小さい頃からずっと続けられて、遂には難関と言われたこの麻帆良の地での研修参加資格をもぎ取ってみせた不屈のお人です‼︎自己を磨くことに関しては他の追随を許さないお兄様ならば、必ずやネギ先生の修業の助けになります!先輩‼︎」

愛衣は爛々と輝く瞳で辻を射抜き、力強く断言した。

「……あ〜熱烈なPRをどうもありがとう。俺は辻 (はじめ)、失礼だけど君の名前を聞いても構わないかい?」

多少引きながらの辻の自己紹介に愛衣はハッと我に返り、真っ赤になりながら慌てて頭を下げ、言葉を返す。

「すすすみません私ったら名前も名乗らないでベラベラと…麻帆良女子中等部二年の佐倉 愛衣と申します!えと、本日はお兄様の付き添いで…」

「へ〜地味めな顔して隅に置けないじゃんあの先輩!いや待って、さっきの話しぶりだとこの子と仲良さそうなお姉様、の存在も気になるし、真逆三角関係なんて展開あっちゃいますかぁ〜⁉︎」

「聞こえてんだよパパラッチ‼︎愛衣は単なる後輩でそれ以外の関係は断じて無い!俺はきっちり否定したぞこれで高音の件も含めて妙な噂やゴシップ記事が出回ってみろ、名誉毀損で訴えてやるからなぁ‼︎後愛衣!過大評価も甚だしい美辞麗句でおれを持ち上げるな⁉︎お前がそんな調子だから俺はお前を可愛がってる高音に睨ませるし、ガンドルフィーニの堅物に不順異性交遊を疑われるんだよぉ⁉︎」

篠村を褒め殺す愛衣と、愛衣の熱弁にテンションを上げてメモ帳に何事かを凄まじい勢いで書き殴っていた朝倉に、緊迫し始めた立ち会いの空気をぶち切って篠村が叫ぶ。

「…なんだろう、篠村とは凄くいい友人になれそうな気がしてきたぞ……」

「だろうね、今のテンパり気味の絶叫、桜咲ちゃんとの関係でいじられてる時の辻とそっくりだもん」

「まあお前は最近結構な割合でボケと惚気をかます様になったから純粋にツッコミキャラっぽいあいつとは微妙に違うけどな」

しみじみ共感を込めて呟く辻に山下と豪徳寺の容赦ないツッコミが飛ぶ。

「…何処の誰が何時ボケて惚気たって?」

傍らの二人を睨み付ける辻だが、当然の如く堪えた様子は無い。

「アイヤ、自覚が無いとは末期(モァチー)アル」

「あるいは薄々勘付いていながら往生際が悪いだけかもしれんでござるな」

「う〜ん抵抗してももう意味ないのになぁ〜やっぱり辻先輩微妙にヘタレやわぁ〜」

「五月っ蝿いなお前らは寄って集って‼︎」

古と楓、木乃香の無慈悲な追撃に辻はとうとうキれて怒鳴り散らす。

 

「…なんか辻の奴とは仲良くなれそうだな何と無く。物騒極りないアーティファクト手に入れてるからもっと危なそうな奴かと思ってたんだがな……」

うら若い美少女二人(黒人メガネも居るが)とのチームに所属している所為で日頃からやっかまれたり冷やかされたりする篠村はなんだか他人事とは思えない辻の様子に同情を禁じえなかった。

「…おいコラ……」

「ん?」

ドスの効いた声に呼び掛けられ、振り向いた篠村の視線の先には偉くピキっている中村がいた。

「てめえ金髪巨乳高飛車高慢系女子だけに飽き足らずあんなツインテール赤毛素直系後輩属性持ちのキャワイ娘ちゃんにまで慕われてっとはどういう了見だこの大富豪野郎‼︎(はじめ)ちゃんと違ってヤバめの属性の女がいねえ以上「余計なお世話だ馬鹿野郎‼︎」…純粋に羨ましいだけじゃ無ーかクソ野郎‼︎」

「たった今否定したばっかだよな俺⁉︎」

途中で挟み込まれた辻の悲痛な絶叫にもめげず、メラメラと嫉妬の炎を纏いながら糾弾する中村に篠村は全力で反論する。

「つーかお前高音とはかなり険悪な感じに喧嘩してたろ!それで羨ましいとか言ってることがおかしいぞこの野郎⁉︎」

「バァァァカが‼︎曲がりなりにも面倒みてるガキが関係してるから怒っただけで本来優等生っぽい気位高いの委員長タイプの一種に近い女の子なんざ大好物に決まってんだろ馬鹿かお前は⁉︎」

「馬鹿はお前だろ⁉︎」

中村の妄言に堪らず篠村は叫び返す。

 

「駄目だ、中村に対する耐性がまだ出来ていない」

「日ごろから付き合いのある僕らでも二、三日に一回はキツイのがあるんだから仕方ないよ、あれは…」

 

「兎に角俺は悲モテ男の代表として貴様を許さん‼︎多少は手加減した状態で始めようかと思ってたが死なねえ程度に全力でボコる‼︎‼︎」

「単に俺の実力測る為の軽い模擬戦じゃ無えのかよ⁉︎みっとも無えぞてめえの宣言⁉︎」

「篠村ー、馬鹿に正論は言うだけ無駄だから止めとけ体力消耗するだけだから」

「そうそう、狂犬病付きの野良ドーベルマンにでも噛まれたと思って諦めて相手をするしかないんだから」

律儀にツッコミを返す篠村に外野からのちっとも有難くない助言が届く。

「下手すりゃ死ぬレベルの災難じゃ無えかそれは⁉︎というか止めろよお前ら、目が完全に殺る気だぞこの野郎⁉︎」

「ああ、今後俺らと仮に付き合いを続けて貰う場合中村の理不尽に耐えられない様だと到底続かないからさ。悪いが一回は自力でなんとかしてみせてくれ」

辻が申し訳なさそうながらも堂々と篠村を見捨てる。

「て、てめえ人がシンパシー感じてたのにやっぱりこの問題児の仲間って事かよ‼︎評価を改めるぜ常識人ぶってるお前も絶対真面じゃ無え‼︎」

「前を向け篠村同級生、来るぞ」

「お兄様ー‼︎前!前です⁉︎」

襲い掛かる理不尽に絶叫していた篠村に大豪院と愛衣の助言が飛ぶ。

「っっ⁉︎」

素早く振り向いた篠村の眼前には立っていた地点から飛ぶ様な勢いで踏み込んだ中村の刻み突きが迫っていた。

 

「おっ!……」

「へえ…やるね…」

「中々出来るな…」

「中村の特別手を抜いてない初撃を不意打ちに近い状態で受けられるなら麻帆良の副部長クラスの実力はあるな…」

振り向き様に長杖(ワンド)を跳ね上げ、中村の突きを紙一重で逸らした篠村を見てバカレンジャーは感心する。

「…その台詞には色々ツッコみたい気分ですが、あれでは……」

刹那が呟く。

なんとか攻撃を捌いたのはいいが篠村の体勢は大きく崩れていた。中村は即座に腰を回転させて左の逆突きを打ち込む体勢に入っている、あれでは次撃の回避は不可能だろう。

中村の突きは並の魔法使いが常時展開している障壁で防げる威力では無いし、身のこなしからして篠村は魔法剣士の様だが、一目見て刹那や辻達よりも近接戦闘の技量は劣る。つまりは終わりという事だ。

「お兄様ーっ⁉︎」

愛衣は絶対絶命の篠村に対して悲痛な絶叫を上げていたが、最早勝敗は決した。

……かと思われた、が。

篠村は長杖(ワンド)から片手を外し、指先を中村に突き付ける。

直後。

高速で飛び出した帯電する三つの光球が中村の体を捉え、中村が雷撃のスタン効果で僅かに動きが鈍る。

「おっ⁉︎」

それでも尚突き出された正拳に対して、篠村は中村の胴体に照準していた指先を今度はそちらに合わせ、新たに先程よりも遥かに大きな一つの光球を発射。正拳と激突した瞬間弾けて衝撃波を撒き散らし、一撃を相殺する。

「はあっ⁉︎」

驚愕の声を上げる中村に構わず、篠村は長杖(ワンド)を持った左手側から右足を軸に半回転しつつ、動きの止まった中村に右手の指を突き付け、新たに三つの光球を放つ。

「っ、ンなろっ‼︎」

中村が短く叫び、弾かれた左手を素早く戻し、両手で迫り来る光球を全て叩き落とす、が。

「うぉぉ⁉︎」

光球は中村が接触した際に弾けたが、そのまま霧散する事無く数条の帯となって腕に纏わり付き、中村に纏わり付いた側とは逆の先端が地面にめり込み、固定。あっという間に中村は両腕を拘束された状態でその場に縛りつけられる。

そこに、一回転して遠心力を乗せた篠村の長杖(ワンド)による一撃が中村の首筋に迫る。

「っんがっ‼︎」

中村は咄嗟に拘束された左手側の肩を強引に上げ、受けに入る。

「ああ無駄だよ」

しかし篠村はポツリと呟き、直後中村に激突する寸前の長杖(ワンド)の側面に帯電する巨大な光球が出現する。

「速度差は有れど今の俺が一瞬と呼んでいい時間で呼び出せる限度は七矢(・・)有るからな」

肩にぶち当たる光球付きの長杖(ワンド)。直後雷撃が弾け、中村の全身に走る。

「があっ⁉︎」

雷撃と肩に喰らった長杖(ワンド)の衝撃で篠村から見て左に吹き飛ぶ中村に、篠村は長杖(ワンド)を突き付け、言い放つ。

 

魔法の射手・戒めの風矢(サギタ マギカ アエール カプトゥーラエ)

放たれた七条の風の矢が、今だ空中で身動きの取れない中村に着弾し、縛鎖となって全身を拘束。中村は地面に縫い止められ、動きを止めた。

 

 

 

「「「「……………………」」」」

「お、お兄様ー‼︎お見事ですー‼︎」

観戦していた一同は、愛衣を除いて絶句していた。

「お兄様は止めろって言ってるだろうが愛衣ーっ‼︎こいつのボルテージが上がったのお前の所為だぞ⁉︎うぁぁぁ危なかった‼︎初撃が凌げて無きゃ今頃悶絶してのたうち回ってたぞ俺⁉︎」

声援を送る愛衣に叫び返し、篠村は半ば力尽きた様に地面にしゃがみ込み、自身の無事を喜ぶ。

…中村が、負けた……?こんなにあっさりと…………⁉︎

辻は目の前の光景が信じられなかた。確かに中村は邪念というか雑念に囚われており、全身全霊で油断無く挑み掛かったとは言い難い。それでも中村は攻防に決して手を抜いてはいなかったし、二撃目を弾かれてからは完全に気の出力以外は本気だった。にも関わらず勝負は結果だけ見れば篠村の完勝と言っていい。

 

……こいつ……強い…………‼︎

 

 

 

「…質問をしていいだろうか?篠村同級生?」

その後一分弱で中村の拘束は解け、魂の抜けている中村をとりあえず座らせた後、一同は車座になり芝生の上に座り込む。そしてまず口火を切ったのは大豪院だった。

「勿論だ、まあ大体聞かれる事の見当はつくけどな」

篠村は受諾し、大豪院を促す。

「…貴様が中村に放ったあれ(・・)は、魔法の射手(サギタ マギカ)と呼ばれるそれか?」

問いの内容に篠村は少し意外そうな顔をする。

「へぇ…魔法使いでもない近接専門の前衛に、即座に看過されるとは思わなかったな」

「無論魔法的な根拠などわからんが、こちらも魔法使いと言う人種には短いながらも相当な密度で関わっている。加えてネギの指導をするに中って、最低限未満ではあるのだろうが魔法の知識を学んでいる。乏しい知識の中から照らし合わせて、該当するようなものがそれ以外無い、というだけの話だ」

大豪院の説明に篠村は軽く拍手して、肯定の言葉を放つ。

「ご名答。俺が先の模擬戦で使用した魔法は全てが魔法の射手(サギタ マギカ)だ。初めのと中村に杖と一緒に打ち込んだ一撃が雷、攻撃を弾いたのが光、捕縛二回が風。と属性の違いは有るけどな」

「…こっちからそうだと決めつけておいてなんだけど、本当にそれって魔法の射手(サギタ マギカ)って魔法?僕らが今まで見てきたのと全然違うんだけど?」

「あ、あのそれは、お兄様が無詠唱魔法と呼ばれる技術を得意としているからです…」

一頻り騒いで興奮のおさまった愛衣が、篠村の隣でおずおずと手を上げ、答える。

「無詠唱魔法?」

「えっと、魔法を使う際には詠唱と呼ばれる、世界の魔力や精霊に対しての呼び掛けを行い、自然のエネルギーを使用者に従わせる為の一連の手順が存在するんです。無詠唱魔法は、魔法の使用に習熟することによって、その手順を省略して心の中で念ずるだけで魔法を発動する高度な技術なんです」

聞き慣れない単語に鸚鵡返しで疑問を発した豪徳寺に対して、ネギが解説を行う。

「な、なんか凄そうな技術ね…」

「実際に凄いです、篠村さんは‼︎魔法を放つ時に殆どタイムラグも技後硬直も無く、本当に流れるように魔法の射手(サギタ マギカ)を連続使用していました‼︎ 無詠唱魔法が使えるだけでも凄いのに、僕、感動しました‼︎」

「へぇー、何さ篠村、大したこと無いみたいな謙遜しておきながら凄く強いんじゃないか」

明日菜の呟きに対して、目を輝かせながらネギが行った解説を聞き、山下が感心した様に篠村を称賛する。

しかし当の篠村本人は苦い笑みを浮かべて言葉を返す。

「止めてくれよそんな手放しでの高評価は。俺はそんな大したもんじゃないんだ」

「過ぎた謙遜は嫌味にしかならないぞ」

辻がやや眉を顰めながら篠村に言う。

「俺たちは確かに魔法に関してはまだ半素人もいい所だが、普通以上の激戦を潜り抜けてきたつもりだ。中村は格別油断をしていた訳でも無かったのに、結果としてお前に封殺された。お前が特別強くも無いなら、俺達は雑魚以下とでも?」

辻にしては強い言葉での反論に、篠村は苦笑の度合いを強くしながら、首を振りその言葉を否定する。

「そういう意味じゃあ無いんだ。確かに俺の無詠唱魔法による魔法の射手(サギタ マギカ)は、一流の魔法剣士と比較しても劣るものではないという自負がある。…でもなぁ、俺は、それだけ(・・・・)なんだ」

「…どういうことアルか?」

要領を得ない言葉に、古が尋ねる。

「言葉通りさ。俺は、魔法の射手(サギタ マギカ)以外に、殆ど使える魔法が存在しないんだ」

「……え?」

篠村の言葉に、ネギが目を見開く。

「お兄様……!」

「いいよ愛衣。なんだかんだで長い付き合いになるかもしれない連中だ」

心配そうに見やる愛衣に篠村は笑って手を振り、問題無い旨を告げる。

「俺は生まれつき精霊との接触(コンタクト)が下手糞でな。真面に交流出来るのは下位精霊まで、中位精霊以上には、どんなに頑張って呼び掛けても碌に反応が返ってこないんだ。おかげで、魔法学校を卒業して麻帆良で実戦に就いていながら、未だに俺は中位呪文も真面に使えない。加えて各方面の魔法に特別秀でた才も無く、魔力量も並程度。……劣等生なのさ、俺は」

高音の言葉を思い出しつつ、自嘲気味に篠村は言う。

「…ま、そんな俺でも、なんとか戦う術を身につけられないかとあれこれ考えた挙句、目をつけたのが魔法の射手(サギタ マギカ)だ。俺が真面に交流出来る下位精霊を用いた魔法でありながら、兎に角応用性が広くて多数を撃てばある程度火力不足も補える。だから俺は色々頑張って、魔法の射手(サギタ マギカ)の応用と無詠唱魔法技術、おまけに近接戦闘術を身に付けて、如何にか一端に闘えるだけの実力を手にした。…お陰で何とか、此処(まほら)でもやっていけてるよ」

語り終え、篠村が周りを見回すと、皆形容し難い表情で黙りこくっている。

…まあ、こんな話聞かされてもリアクションに困るよな……

篠村は再度苦笑して全員に語りかける。

「暗い話になってしまって悪いな。別に同情して貰いたくて自分語りをした訳じゃないから、気を使わないでくれ。ただ俺は手放しで賞賛される程大した人間じゃないと…」

「…当たり前だ、誰が同情なんてするかよ……」

篠村の言葉を遮って、復活した中村が低い声で告げる。

「…ん?」

「てめえはどう言い繕おうと俺に勝っただろうが‼︎そんだけ強え癖して自分が大したことないとか、負けた俺を馬鹿にしてんのかぁ⁉︎」

「ええ⁉︎いや、俺の戦法は初見殺しの感が強いから、次やったら普通にお前が勝つと思うが…」

「ンなもんが慰めになるかオラァ‼︎兎に角てめえは俺に勝った時点で俺のライバル認定だぁ!俺が同格と見なしたからには、二度と詰まんねえ謙遜を入れるんじゃねーぞ‼︎」

「……えぇー………」

無茶苦茶な中村の言葉に、篠村は呻く。

「…おいあんた方からも何か言って…」

「確かにそうだな、お前は強ええ」

辻達に助けを求める篠村の言葉を豪徳寺が遮る。

「あんたもか⁉︎」

「あんたじゃ無え、ちゃんと名乗りをあげて無かったな、俺の名前は豪徳寺薫だ。俺もお前を今日からライバルとみなすぜ」

「うんうん、じゃあ僕も。山下慶一だよ、よろしく篠村。いやーいい先生見つけたね」

「全くだ、篠村同級生、いや篠村よ。俺は大豪院「そいつの名前はポチでーす‼︎」貴様中村ぁ‼︎……兎も角今後とも、俺たちとネギの指導員としてよろしく頼むぞ」

「いや待て、なんだお前らこの格闘漫画での強敵と書いて戦友(とも)と呼ぶみたいな流れは…っていうか先生?指導員?何の話だ?」

言葉の途中で、辻達の言葉尻のなんとも嫌な響きの単語を認識し、恐る恐る聞き返す篠村。

「簡単な話だ。これから貴様は魔法関係の指導員として、俺達の修業に付き合ってもらう」

「はあ⁉︎」

大豪院からの余りにも唐突すぎるその提案に、篠村は目を剥いて驚きを表す。

「なんだその超展開は⁉︎」

「いや元々手合わせして相応しい実力があるなら頼み込むつもりだったしな」

「聞いてないぞ⁉︎」

「そりゃ言って無いからな」

辻のあっけかんらんとした言葉に反論する篠村に、あっさりと豪徳寺が告げる。

「俺らも魔法使いとの戦闘経験はまだまだ足りねえからなぁ。お前はまさにうってつけなんだわ、何より俺に勝っておきながら勝ち逃げは許さねぇ‼︎」

「そっちから仕掛けてきた癖になんて言い草だ⁉︎勝手に決めるなよ‼︎」

「僕らに謝罪する時にできる事は何でもするって言ったじゃない。それに今ネギ君に必要なのって、ドッカーンとした大技よりも、正にこういう小手先の技だと思うんだよね。そういう意味でも篠村はうってつけの教師なんだ」

「小手先で悪かったな小手先ばかり上手くて‼︎確かに何でもするとは言ったが、俺に負担が大きすぎる!この話断らせて…」

「お兄様、おめでとうございます‼︎」

「愛衣⁉︎」

拒否しようとした篠村に、愛衣が目を輝かせながら賛辞を送る。

「お兄様の頑張りが遂に認められたんですよ‼︎魔法世界でも此方でも、周りの人は才能で劣るからといってお兄様の技術や戦法を馬鹿にする人が殆どでした‼︎逆境にもめげずに淡々と積み上げて来たお兄様の努力が遂に実を結んだんです‼︎是非ともこの話受けましょう!ここからお兄様の力が世に広まっていくんです‼︎」

「何トランス状態で夢見てんだ落ち着け愛衣‼︎大体、自分で言うのもなんだかこんなせこい技術、あの英雄の息子たるネギ先生が習いたがる訳…」

「僕からも是非お願いします‼︎」

「ブルートゥス、お前もか⁉︎」

目を輝かせたネギが愛衣の隣に並んで頭を下げ、篠村は絶叫する。

「僕、篠村さんの話を聞いて感動しました‼︎生まれついての不利な条件にもめげずに、自分に何ができるのかを一生懸命考えて、あんなに強い中村さんを倒せるような実力を身につける篠村さんは本当に凄いです‼︎僕は、篠村さんよりも遥かに恵まれた条件にあったのに、本当に漠然とした感覚でしか魔法を学んで来ませんでした…今の僕に足りないものの一つは、篠村さんの持つような気概なんだと思います‼︎そんな篠村さんが磨き上げた技術、是非とも僕に習わせて下さい‼︎」

「止めろーっ⁉︎俺に全身が痒くなる様な賞賛を送るのは‼︎俺お前が思うような立派な動機で魔法を身に付けてなんていないからな⁉︎考え直せ頼むから‼︎」

「何を言ってるんですかお兄様‼︎正当な評価ですよ‼︎」

「お前ちょっと黙ってろ愛衣⁉︎」

ギャーギャーと喚く篠村を中心に、騒ぎは加速する。

 

「しっかしこれだけの実力を持ってるお前を馬鹿にするとか、周りはよっぽど節穴ばっかだったんだな」

「そうです!お兄様は魔法の射手の達人(サギタ マギカ マスター)と二つ名を付けられる程の実力者なのに周りの人達は揃いも揃って……‼︎」

「その通り名を俺に付けたのはまさしく俺をバカにしていた連中だよ⁉︎皮肉で言われてたんだその二つ名は‼︎つうか格好悪いから言うなって言っただろうがその呼び名はぁ⁉︎」

「いいじゃねえか格好いいぜ魔法の射手の達人(サギタ マギカ マスター)。よっし魔法の射手の達人(サギタ マギカ マスター)‼︎早速俺と再戦じゃあ!今度こそは俺が勝つ‼︎」

「連呼すんな殺すぞ変態野郎⁉︎誰がやるか今度こそ挽肉にされるわ俺が‼︎」

「ああズルいよ中村!一回戦ったんだから次は僕だって‼︎」

「ああなら俺が先だ俺が‼︎この俺の漢魂と弾幕勝負と行こうじゃねえか篠村ぁ‼︎」

「引っ込んでいろ貴様ら。次に戦るのはこの俺だ」

「ああズルいアルポチ‼︎私魔法使いと闘たことないアルから私が最初アル‼︎」

「およ?その論法なら拙者にも最初に闘える資格があるでござるな」

「黙りやがれ戦闘狂(バトルジャンキー)共俺は誰とも闘わねえよ‼︎辻、辻さん助けてくれこの中で唯一と言ってもいい常識人‼︎」

「いやあ俺は常識人振ってるだけの実は真面じゃ無い奴らしいからちょっと無理かなぁ」

「畜生意外に根に持ってやがるこいつ⁉︎」

「…ま、なんにせよ良かったわねネギ」

「せやな〜なんや優しそうな人やし、ええ師匠見つかったなぁネギ君」

「はい‼︎これ以上ないほど今の僕に相応しい師匠が見つけられました‼︎」

「勝手に決めるな俺はまだ承諾してないぞ⁉︎」

「篠村先輩。この人たちは一度決めたらテコでも動かないので諦めた方うがいいと思うです」

「往生際が悪いぜぇ、篠村の旦那?」

「いやぁいい話だったねえ宮崎。記事にできないのが残念だよほんとに」

「は、はい〜凄いと思います、篠村先輩…」

「……私も立場上賛成ですので、申し訳ありませんがよろしくお願いします、篠村先輩……」

「てめえらぁ〜〜〜‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

篠村の絶叫は夜空に虚しく消えていった。




閲覧ありがとうございます、星の海です。ネギの魔法方面の師匠一人目が確定しました笑)篠村 薊というキャラクターは、元々私が考えていた複数のネギまSSの中の主人公のひとりでした。生まれつき魔法使いとして不利なハンデを背負った非才の主人公が、周りの不理解と悪意に苦しみながらも、自分に出来る精一杯の努力を続けてネギ達を助け、徐々に理解者を増やしながら強くなっていく設定でした。サギタマギカって、極めれば相当強いと思うんです、特に戒めの風矢とか。フェイトですら決まれば数十秒拘束出来るだけの魔法が初級魔法。何故他の魔法使いはこれを積極的に使わないんだろうというのがキャラを作った動機です。…まあきっとハイレベルの闘いでは魔法抵抗で無力化されるとか理由があるんでしょうが。兎に角、篠村は今後もそれなりの頻度で登場しますので、気に入って頂ければ幸いです。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。…今日は代休貰えたので二話目を上げられました。今後はせめて二日に一回の更新を目指します。

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