お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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二万字超えました、何時もの倍近いです。


9話 それぞれの在り方

魔法の射手 連弾 光の17矢(サギタ マギカ セリエス ルーキス)‼︎」

ネギの打ち出した光の弾幕が宙を斬り裂き、悠然と杖を構える篠村に突き進む。

魔法あの射手 連弾 光の7矢(サギタマギカ セリエス ルーキス)

対する篠村はネギの放った弾幕の半数以下の光球を生みだし、ネギの放った弾幕目掛け射出する。通常ならば数の差で篠村の弾幕を捩じ伏せ、篠村を攻撃出来る筈のネギの弾幕は、縦横無尽にあらゆる方向から襲い掛かった光球がまず外側にぶつかり内側へとその衝撃を弾けさせる。その衝撃が内側のネギの光球にぶつかり合って誘爆し、更に弾けた光球の衝撃が内側の光球を撃墜する。

結果、ネギの弾幕は全てが撃墜、又は誘爆して篠村に届くこと無く弾けて散った。

「ええっ⁉︎」

あっさりと無力化された己の攻撃に狼狽の声を上げるネギ。そんな隙を当然篠村は見逃さず、反撃の一手をネギに向け放った。

魔法の射手 戒めの風矢(サギタ マギカ アエール カプトゥーラエ)

新たなる光球の弾幕がネギに襲い掛かる。

「くっ!」

ネギは咄嗟に杖に跨り、高速で上空に飛翔。まるで光弾一つ一つに意志が有るかの様に正確にネギを追尾してくる弾幕を曲芸の様な飛行で何とか躱しつつ、詠唱を始める。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル‼︎ 光の精霊47柱 集い来りて我が敵を討て‼︎ 魔法の射手 連弾 光の47矢(サギタ マギカ セリエス ルーキス)‼︎」

ネギの放った光の弾幕がネギを追尾していた篠村の弾幕を打ち壊し、その後大回りしながらも軌道を変えた残りの弾幕が篠村目掛けて殺到する。

風花 風障壁(フランス バリエース アエリアーリス)

が、篠村の張った大気の壁が光弾を阻み、ネギの攻撃は無効化される。

「……!」

しかし、今度のネギは動じた様子は無く、寧ろ勢い込んで新たに詠唱を始めつつ、上空から急降下を始める。

対する篠村は接近してくるネギを見上げ、一つ苦笑する。

「良くはなったがまだまだ甘いな」

篠村が上空のネギに告げると同時に、ネギの身体に流動する風で出来た帯が纏わり付き、動きを阻害する。

「うわぁっ⁉︎」

ネギがバランスを崩し、杖から落下する。空中でもがき、何とか拘束を外そうとするが、

魔法の射手 戒めの風矢(サギタ マギカ アエール カプトゥーラエ)

更に追加で篠村から撃ち放たれた風の束縛がネギの身体を雁字搦めにして抵抗を封殺する。

「わあぁぁぁぁぁっ⁉︎」

頭から地面に真っ逆さまに落下するネギ。

風よ(ウェンテ)

激突寸前で強風がネギの身体を持ち上げ、落下速度が鈍った所で篠村がネギの体をキャッチし、反転させて地面に降ろす。

「…勝負ありだな、ネギ先生」

「あうう……」

 

「そう落ち込むなよネギ先生。先生は凄い速度で上達してるんだから」

「はい……」

模擬戦が終わって辻達の待つ広場の中央に戻っての反省会で篠村はネギを慰めていた。

「そーだそーだ。始めの方に比べりゃ格段に戦闘が長引いてんじゃねえか」

「実際致命的なミスは先の戦闘でも無かった。後は場数と技術の練度の問題だ」

手合わせをしていなかった中村と大豪院もフォローに回る。実際ネギは自分なりに考えての立ち回りを行える様になってきているし、魔法や体術の上達速度も申し分無い。端から見て順調に強くなっているのだから指導している側からすれば気を落とす要素など何も無いのだ。

しかしネギにとっては現状の自分は不満でしか無いらしい。

「…いえ、まだまだです。攻撃のチャンスを貰っているのに簡単に防がれちゃいますし、防御の方も無防備に攻撃を喰らっちゃってますし……」

「おいおいネギ先生。言っちゃなんだが、それはいささか傲慢な物言いだぜ?」

少し呆れた様に篠村がネギを諌めにかかる。

「先生位の歳で実戦を想定した訓練をしている方が稀なんだ。こっちがある程度手加減しているとはいえ、戦闘が()になっているだけでも凄い話だぜ?俺は確かに大した実力は無いけれど、それでもここでプロの侵入者たちを相手に立ち回っている、裏の方面で仕事を受けられるだけの実力がある魔法使いなんだ。そんな俺に、換算して修業を始めてから一ヶ月も立っていない見習い魔法使いがもっといい勝負が出来なきゃいけないなんて、少し自惚れ過ぎだぞネギ先生」

篠村の言葉にネギはハッと顔を上げ、わたわたと両手を振って弁明する。

「ち、違うんです!篠村さんを馬鹿にするつもりなんて全然‼︎……ただ、僕は……」

「まあ気持ちはわかんぜ、ネギ」

言葉にならないもどかしさに語尾を濁すネギに中村が声を掛ける。

「なまじっか頑張った成果が出てきて実力が着いてきてる実感があるからこそ、及ばない現状が不満なんだよな。俺もガキの頃は試合で勝てないのが悔しくて相手の所に必ず自分が勝ち越せるまで勝負を挑んでは、お願いですからもう付き纏わないで下さいと頭を下げられるまで朝練夜練時には相手の自宅まで押しかけていたからな。ネギが今より上へ行こうと焦る気持ちはわかるぜ」

「単にお前がストーカー地味た性根を身に付けるきっかけの話に過ぎん気もするが…馬鹿の分析が正しいだろう。男として気持ちは解るが、学問に王道なしと言うように鍛錬に近道は無い。地道に功夫(ゴンフー)を積み上げていくしかない以上、気ばかり急いても強くなれんぞ」

「……はい」

気を落としながらも返事は素直にするネギに苦笑しながら篠村が纏めに入る。

「まあ根を詰め過ぎるなって話だよ。何時迄も落ち込んでないで、先の戦闘の反省点を考えようか?」

「は、はい‼︎」

 

「まず欠点という訳じゃ無いがネギ先生。先生の魔法の射手(サギタ マギカ)の使い方はまだまだ単調で牽制にしても満足に活用が出来ていない」

「はい…」

篠村の指摘にネギは項垂れながらも肯定する。

「でも先輩。ネギは先輩みたいにサギタマギタ?だけ使わなきゃいけない訳じゃないんだから、それの上達だけにこだわらなくてもいいんじゃない?」

脇で聞いていた明日菜が疑問を挟む。

魔法の射手(サギタ マギカ)な。まあ確かに牽制や先制攻撃に使える魔法なんて他にごまんとあるし、これだけに拘る必要は無いんだが…俺が魔法の射手(サギタ マギカ)に詳しくて教え易い事を除いても、これを使いこなせるのとせないのとじゃ、実力において大きな差が出てくる程に重要な魔法だと俺は思ってる」

疑問に対して、篠村は自身満々に答えた。

「そうなのですか?確かに見聞きした限りでは汎用性がある便利な魔法だとは思いますが…」

夕映が今一納得仕切れないと言う様子で尋ねる。

「うーんそうだな、じゃあ先の戦闘における俺の活用法を元に順を追って説明していこう」

篠村は小さな黒板に図や説明文を描きつつ、解説を始める。

「まずこの魔法は他の魔法に比べて慣れれば誘導性、操作性が桁違いに良い。だから習熟してる俺はネギ先生の弾幕に横からぶつけて誘爆させたり、こっそり一矢だけ先生の迎撃から逃れさせて背後から奇襲させたりが出来る」

「ああ、攻撃に移ろうとしていたネギ先生が拘束された下りは矢張り戒めの風矢(アエール カプトゥーラエ)を分けて操作していたのですね」

刹那が感心した様に言う。

「そう。更に魔法の射手(サギタ マギカ)は少数なら出が早いので手数を増やす、牽制なんかには持ってこい、遅延呪文(ディレイ スペル)なんて高等技術わざわざ使わなくてもある程度なら撃たずに溜めておける。下級呪文だから魔力コストも低い、おまけにネギ先生は光、風、雷の三属性を撃ち分けられる…とまあこんな風に、ざっと利点を上げてもこれだけ使い勝手がいい魔法なんだ」

「はあ〜流石魔法学校で唯一教えてる戦闘用魔法っすね」

滔々と語る篠村の解説にカモが感心した様に呟く。

「ああ。凄いんだよ魔法の射手(サギタ マギカ)は。俺の魔法学校で書いた卒業論文、『魔法の射手(サギタ マギカ)のみを用いた子どもでも出来る飛竜の討伐方法』っていう物だったんだが…」

「凄まじいタイトルだね、篠村…」

豪徳寺との手合わせを終えて戻ってきていた山下がやや引きつった顔でツッコむ。

「うん、当時は俺もどうかしてたんだ、きっと。まあ教師にも爆笑された後鼻で笑われたがよく出来た妄想だから受理って感じで誰も本気で認めちゃくれなかったんだが…いや愛衣は信じたか。兎に角その論文見てその気になった馬鹿ガキ共が本気で飛竜に喧嘩を売るという事件が俺が卒業した後に発生した」

「ええっ⁉︎」

「だ、大丈夫だったんですかー?」

ネギが驚きの声を上げ、のどかが心配そうに聞いてくる。

「ああ幸い軽い怪我人が出ただけで大事には至らなかったらしい。ただ問題は実際にそれで飛竜が本当に倒せてしまった事でなぁ…」

本気(マジ)かよ⁉︎」

驚愕する豪徳寺。

本気(マジ)だ。いや理論上可能だと思ったから書いたんだが真逆実践する馬鹿、それもガキがいるとは思わなかったわ。当然そのガキ共はこっぴどく叱られたらしいが、何故か俺の所にまで抗議文が来てなあ…この場合俺は悪くないと思わないか?」

「大分責任があるだろ…」

辻が呆れた様に呟く。

「悪いのは学校の管理体制の甘さとガキ共の頭の悪さだと思うが……まあ兎に角話が脱線したがネギ先生。俺の挙げた事件からしても、魔法の射手の(サギタ マギカ)は潜在能力の凄まじく高い魔法だと俺は思ってる。俺の様に使用魔法に制限が無く、魔力量も魔法威力も高いネギ先生なら俺には不可能な分野、魔法の射手(サギタ マギカ)を効率的に運用して、援護などもこなせつつ、砲台としての役割も果たすマルチな魔法使いを目指せるだろう。基本魔法と馬鹿にすること無く、真剣に学んでいってほしい」

「…はい!頑張ります‼︎」

篠村の真剣な様子で放った言葉に、姿勢を正して元気良く返答するネギ。その勢いに篠村は機嫌良さ気に笑って一つ頷く。

「よし‼︎なら先ずは先程の戦闘でネギ先生が放った魔法の射手(サギタ マギカ)について改善点を述べよう!先生は魔法の射手(サギタ マギカ)を同じタイミングで同時に敵に着弾する様に撃っているよな?これは同時に衝撃が伝わるから瞬間的なダメージも増すし、何より弾丸一つ一つに細かい操作を加える必要が無いから使い易い。敵が無防備で、間違いなく弾幕を直撃させられる様な場合には、このパターンで撃っていい。しかし、ちょっと体術が出来たり、動きの速い敵に対しては、この撃ち方はあまり良くない。そういう場合は、弾丸の速度に微妙に緩急を付けたり、同時に発射せずに段階に分けて撃ち込んだり、弾幕の間隔にバラつきを作ったりして、敵が回避し難い様な形を色々考えるんだ。例えば……」

喰いつきが良く熱心なネギの反応に心なしか嬉し気な様子で、篠村は黒板を使用しながらイキイキと語り始める。

その様子を眺めつつ、中村がポツリと呟く。

「…やっぱあいつ魔法の射手の達人(サギタ マギカ マスター)でいいだろ」

その言葉に反論する者は誰もいなかった。

 

 

 

そうして打倒、『某チキンのおじさんの紛い物』に向けてのネギとバカレンジャー、そして3ーA女子達の修業は進んでいった。

 

 

 

「神鳴流奥義 斬岩剣‼︎」

振り下ろされる重撃を辻は顔を歪めながらも受け流し、踏み込み様胴薙ぎを刹那に打ち込む。刹那は打ち下ろした木剣の勢いを利用して地面を蹴って、剣を支点に一回転。辻の斬撃を躱すと同時にその身を飛び越え、辻の背後に回る。

「っ‼︎」

振り向き様に木剣を薙ぎ払う辻だが、倒すよりも寧ろ受けさせて動きを止める為に放った、上半身を狙う横薙ぎは、着地と同時に身を屈めていた刹那の頭上を空しく薙ぐ。

「ぐはっ‼︎」

次の瞬間刹那が繰り出した逆胴が辻にめり込み、辻はその場から吹き飛んで決着した。

「辻部長、なまじ剣道部での私との手合わせが多い分、神鳴流としての私の剣術に対応出来ていない様です。…京都で遭遇した月詠のような輩は業界では異端な方で、魔法という要素の関わる裏社会は真正面から打ち掛かって来るような者は寧ろ少数です。どの様な攻撃にも素早く対応出来なければ前衛は務まりません、場数の少ない辻部長には、先ず私の剣に慣れて頂きます…まだいけそうですか?」

地面に転がった後に上体を起こし、顔を顰めて胴体をさすっている辻に、刹那は宣言する。

「…勿論だ。俺の粘り強さと諦めの悪さは誰よりお前が知っているはずだろ?」

辻は勢い良く立ち上がって木剣を構え、小さく笑いながら刹那に返す。刹那もそれに笑い返し、構えを取る。

「…行きます‼︎」

「応‼︎」

互いに瞬動を用いて一瞬で距離を詰めた二人は、激しい打ち合いを開始した。

 

 

 

漢魂(おとこだま)ぁ!漢漢漢漢(おとこおとこおとこおとこ)漢漢漢漢漢漢魂(おとこおとこおとこおとこおとこおとこだま)ぁ‼︎」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ‼︎」

豪徳寺が連射する直径一m程の気弾の雨を、気を極集中させて強化した左右の拳で迎撃しつつ距離を詰める中村。

「ンな馬鹿の一つ覚えみてえな乱射が効く訳ねえだろがぁ‼︎」

「てめえに馬鹿なんて言われちゃお終いだなオイ‼︎ならこれでどうだオラァ‼︎」

豪徳寺は連射を止め、左右の拳を腰溜めに構える。

「多少デカい一撃くれえじゃ止まん無えよ俺ァ‼︎」

弾幕が止み、一気に距離を詰める中村だったが、

二重極(ふたえきわみ)漢魂(おとこだま)ぁ‼︎」

撃ち放たれたのは直径三mを超える巨大な気弾が二発(・・)だった。

「ゲェェ⁉︎」

中村は慌てて急停止し、両腕を開いて己の最大級の気を撃ち放った。

裂空掌波(れっくうしょうは)っ‼︎」

生まれた高さ二m、幅四m程の気功波動(オーラウェーブ)が気弾とぶつかり合い、双方が弾けて大爆発を起こす。

「ぬがっ…!」

衝撃の余波を思わず腕を顔前に掲げやり過ごす中村。だが次の瞬間、弾けた気弾の衝撃の中を強引に突っ切ってきた豪徳寺が、振りかぶった大振りの一撃を中村の鳩尾にぶち込む。

「気合パンチ‼︎」

「ゴフッ⁉︎」

重撃に中村の骨が軋むが、怯まず中村は返しの逆突きを豪徳寺の顔面に打ち込む。

「ガッ‼︎」

豪徳寺は呻くがこちらも怯まず、両者の戦いは激しい乱打戦に発展する。

「てめえは今だにそんな防御も碌に出来ねえ喧嘩殺法でこっからどうするつもりだよ⁉︎」

豪徳寺のテレフォンアッパーを捌き様下段回し蹴りを打ち込んで体勢を崩し、頭の下がった豪徳寺の頭に左の肘打ちを叩き込みながら怒鳴る様に告げる中村。

「ぐぅっ!…今更ちまちま型の練習した所でどれだけそれが身に着くってんだ、おい⁉︎半端な真似する位なら俺はこのタフさと、漢魂をぉ‼︎…極める為に進む!そんだけだオラァ‼︎」

豪徳寺の打ち下ろしの左が中村のガードを打ち破り顔面にめり込む。

「ブガッ‼︎…上等だ受け切ってみろや俺の殺人打撃ぃ‼︎」

「望む所だオラァ‼︎」

二人は血塗れになりながらも尚打ち合いを続けた。

 

 

 

「山下は最近夜の修業にあんまり顔出さないアルが何処に行てるアル⁉︎」

活歩からの鋭く、重い崩拳を打ち込みつつ、古は大豪院に問う。

「対練中に質問をするな、阿呆娘。

…エヴァンジェリンの元に顔を出しているらしい」

崩拳を纏で捌き、返しの冲捶を古の胴目掛け叩き込みつつ、大豪院は答える。

「エヴァにゃんのトコアルか?修業放ったらかして谈恋爱(リエ アイ)アルか…山下も変わてしまったアルな…」

「阿呆。山下は山下なりに功夫(ゴンフー)に行っているのだ」

化勁で冲捶を流し様、溜息と共に呟く古に呆れた顔で大豪院は告げる。

「?、なんでエヴァにゃんのトコへ行くのが功夫(ゴンフー)アルか?」

「あの吸血鬼、俺達とやり合った時に合気柔術めいた体術を使っていてな。山下が雑談の際に尋ねた所、あの女郎なんと武田惣角の直弟子であることが判明したのだ」

「??、武田惣角って誰アルか?」

古の言葉に大豪院は脱力し、危うく突き出された単把を喰らいかけて慌てて身を捌く。

「貴様…!……大東流合気柔術、中興の祖と言われる高名な武術家だ」

「凄い人アルか?」

古の質問に大豪院は梱鎖歩で古の身を崩そうとしながら答える。

「当然会ったことは無い。文献でしか知らんが、全国行脚をして己の流派の有用性を広める様な武士(もののふ)だ。達人と呼んで差し支え無かろう」

「おお‼︎それで山下は稽古をつけて貰いに行てるアルな‼︎」

古は軽やかな足捌きで身崩しを躱し、感心した様な声を上げる。

「そういうことだ、上手く稽古をつけて貰えているかは知らんが……そろそろ対練に集中するぞ、古」

明白了(ミンバイラ)

大豪院の言葉を古は笑って数歩後退して構えを取り、肯定する。

拳法家の二人は静かに、されど激しく。淡々と功夫(ゴンフー)を積み重ねる。

 

 

 

「ギャァァァァァァッ⁉︎」

「ははは逃げてばかりでは勝てんでござるよ篠村殿」

情けない悲鳴を上げて全力疾走で逃走する篠村を十二人に分裂した楓が苦無などを投擲しながら追いかける。

「巫山戯んなこんな使い手がなんで呑気に女子中学生やってんだよ⁉︎やっぱ麻帆良(ここ)は色々おかしいぞ畜生‼︎」

篠村は叫びつつ無詠唱で呼び出した十数個の光球を放射状に楓達へと撃ち放つ。

「魔法使いからすれば見事な速度での迎撃なのでござろうが…」

楓とその分身達はそれぞれが軽やかな身捌きで光球を躱してのける。一人につきほぼ一つの光球では楓を捉えるには至らない。

「そう簡単に当たってやれんでござるな」

「当たって貰え無くて(・・・・・)結構だ…自力で当てる‼︎」

篠村は叫び、右手を掲げて力ある言葉を唱える。

大渦(ウェルテクス)‼︎」

楓達を捉えられず飛んで行くかと思われた光球の群れがピタリと空中で一瞬静止し、次の瞬間まるで竜巻か何かの様に、ある一点を軸にして不規則な円運動を高速で開始する。

「…!なんと⁉︎」

楓とその分身達は回避を行うが、微妙に軌道を変えながら高速回転する光球を幾人かが躱しきれず、着弾して風の帯に捕らわれる。

魔法の射手 連弾 雷の9矢(サギタ マギカ セリエス フルグラーリス)‼︎」

篠村が追撃を放ち、大蛇の如くうねりながら突き進んだ光球が尚も渦巻く光球の回避を続ける楓達に襲い掛かる。

「おおっ♪やるでござるな篠村殿‼︎」

分身達が次々と貫かれ、消滅する中、本体の楓は苦無を向かって来る光球に投げ付けて相殺し、虚空瞬動で渦と雷の追尾から逃れると再び影分身で分体を作りつつ篠村に襲い掛かる。

「ギャァァ振り出しに戻ったぁぁー⁉︎」

篠村は再び全力で走り出し、楓はそれに追いすがる。

ネギの指導に戦闘狂(バトルジャンキー)の相手。苦労の尽きない篠村であった。

 

 

 

「いやー想像以上に難敵だねぇー魔法使いの組織って奴は」

報道部の自分のデスクにて、朝倉は広がる資料の山を前に苦笑する。朝倉はネギと辻達へと己が一番役に立つ分野ーー魔法関係者の情報収集を買って出た。敵対する可能性は今や限りなく低下したが、これまでの行動を見るに魔法関係者と辻達は、完全に志を同じくして行動を共にする事は恐らく無い。故に万が一反目する事態になった時の為に、朝倉は少しでも相手取る際の助けとなる様に魔法教師、魔法生徒の情報を収集しているのであった。

「朝倉ぁーこれ生物災害(バイオハザード)の奥さんの近況及び人と成りを纏めた奴な。大した事は書いてないけどよ」

「はーいありがとね先輩。このお礼は必ずするから」

「いいよ。お前の事だからまたデカいスクープでも狙ってんだろ?記事を賑わせてくれりゃそれで満足よ俺はな」

わはははは、と豪快に笑い声を上げながら去っていく高等部の先輩に頭を下げ、朝倉は早速資料の統合に掛かる。

「幾ら秘密裏に活動しようと麻帆良(この地)で生活している以上、全く痕跡も個人情報も残さずに行動するなんて不可能だ、ってね」

朝倉は資料に追記事項を記入し、パソコンで検索を掛け、少しづつ情報を纏めていく。

「…いやー腕が鳴るねえ、いい所に一枚噛んだよ、私も」

 

 

 

「綾瀬君、宮崎君。この辺りは足場が悪い上に魔物(モンスター)が襲い掛かってくる危険な地帯だ。くれぐれも僕達の側から離れない様にしてくれ」

「了解です、部長」

「は、はいー」

道というよりも溝と表現した方が相応しい様な断崖絶壁の僅かな隙間を、夕映とのどかは図書館探検部の部長と主力部員達により率いられて通り抜けていた。

ここは図書館島の地下四階層。図書館探検部曰く、『即死系の(トラップ)が増え始め、魔物(モンスター)の強さも一気に跳ね上がる。この階層を越えられるかどうかが図書館探検部レギュラーへの分水嶺』との事である。

…図書館探検部で地下二階層よりも下の階層へ潜れるのは、高校生以上且つ相応の実力がある者だけとされているです。()の情報は部員の間で徹底して情報規制が敷かれている為、漏れ聞く部長達の実力などは話半分に聞いていましたが……

夕映は此処に至るまでの光景を思い返し、頭痛を覚える。なにせこの図書館探検部部長及び部長の率いるレギュラー達の立ち回りといったらまるで…

 

「…来たな、総員戦闘態勢!綾瀬君と宮崎君は僕がいいと言うまで壁にしっかりしがみ付いて動かない様に‼︎」

先頭を進んでいた部長が右手側の薄暗く広大な空間の彼方を睨み据え、鋭く叫ぶ。

「了解よ、部長‼︎」

「懲り無え連中だぜ、本当によ!」

「ま、所詮ケダモノとかとノーミソの出来そんな変わんないんでしょうしー」

レギュラー部員…正確には副部長とNo.3、No.4のランクが部の中で付けられている図書館探検部の最精鋭達が各々頼もしい返事を返す。

「夕映ちゃん、のどかちゃん。こんな場所での戦闘だから不安に思うかもしれないけれど、この階層で私達を手こずらせる様な強さの魔物(モンスター)は出現しないわ。じっとしていれば傷一つ付けさせないから、安心して頂戴」

艶やかな黒髪を後ろで纏めた、クールビューティーという言葉がピッタリと当てはまりそうな美貌を持つ副部長が、怜悧な顔を柔らかく微笑ませて夕映とのどかに告げる。

「…御迷惑をおかけしますです」

「よ、よろしくお願いしますー」

夕映とのどかは色々ツッコミ所の多い状況と台詞に戸惑いながらも、頭を下げて返事をする。

「ん、任せておいて」

「逢崎、来るぞ!」

「後輩ちゃん達、足手まといになんないでよ‼︎」

胸を叩いて請け負う副部長に部長以外の二人が声を掛ける。

「わかってるわ…部長‼︎」

「ああ、先ずは数を減らす、一斉射撃‼︎」

宙を舞いながら接近していた無数の黒い影に対し、探検部パーティーの内三人が片手を突き出し、叫ぶ。

「炎よ‼︎」

「疾走れ雷‼︎」

「アクアショット‼︎」

部長の手からは三つの炎球が、副部長の手からは十個近い帯電する光球が、No.4のショートカットの小柄な女性部員からは数個の水球がそれぞれ放たれ、黒い影ーー蛇と鳥が合わさった様な不気味な獣に着弾する。

『ギシャアァァァァ⁉︎』

何匹かは飛来する攻撃を躱したものの、弾丸の大半は着弾して弾け、異形の獣を撃ち落とす。

「上々だ、蛇鴉相手ならオーソドックスな対応で押し切れる!僕と里中は近接戦闘用意!二人は次弾を‼︎」

「応よ‼︎」

背負っていた長剣(・・)を引き抜きながら指示を出す部長にNo.3の筋肉質な巨漢の部員が短く答え、手に持つ片手斧(・・・)を構える。他の二人は既に呪文(・・)を発動する為の集中に入っていた。

『ギャォアァァァ‼︎』

魔物(モンスター)ーー蛇鴉は耳障りな鳴き声を上げると一列に並ぶ図書館探検部一行の中衛、夕映とのどか目掛けて大半が殺到する。

「ひ…………!」

自分達を狙って近づいてくる魔物(モンスター)の群れに、のどかが僅かに怯えた様な声を上げる。

「安心しな、嬢ちゃん。俺達は…」

「こんな雑魚にやられはしないよ」

部長と里中と呼ばれた部員は、腰に巻き付けたザイルの端に付いたカラビナを断崖絶壁の壁に一定の間隔を置いて取り付けられていた鋼鉄の輪に取り付けて命綱を作ると、ほぼ同時に壁面を蹴って跳躍して蛇鴉の群れの前に躍り出る。

「はぁっ‼︎」

「オラァ‼︎」

気の光を纏った部長の長剣が一閃して数匹の蛇鴉を斬り裂き、里中の巨大な片手斧が縦横無尽に振り回されて蛇鴉達を血煙に変える。

「煌めけ光よ‼︎」

「ウインドスラッシュ‼︎」

部長と里中によって殆どが蹴散らされた蛇鴉の残りに光球と圧縮空気の刃が殺到し、砕き、斬り裂いて駆逐する。

『ギシャアァァァァァァァ‼︎』

あっという間に残り数匹になった蛇鴉は、鳴き喚きながら踵を返し、遠ざかって行く。

「あーらら、逃げちまった」

「放っておけ、里中。今は非戦闘員を抱える身だ」

己が身に繋がる長さを調節したザイルを引いて軽やかに元の道へと着地した部長と里中が言葉を交わす。

「歯応え無いねぇ〜ま、蛇鴉じゃあなぁ〜」

「出てきたのが雑魚で幸いよ、この悪路で余り無茶はしたく無いもの。…二人共、何処か怪我して無い?」

副部長の確認に、半ば呆けながら戦闘を眺めていた夕映とのどかは慌てて返事をする。

「だ、大丈夫です!」

「そもそもこちらにあの化け物共は届いていませんでしたから」

「ま、そーなんだけど念の為にね。なんか体調に異常があったり小さくても怪我したらあたしに言いなよ。よっぽど酷いのじゃ無きゃ癒してあげらられっから」

二人の返事に肩を竦めながらNo.4の部員が告げる。

「……癒す、ですか………」

「ああ、到底見えねえだろうが氷室の奴はゲームなんかで言う治癒術師(ヒーラー)って奴なんだわ似合わ無えよなあガハハハハハハ‼︎」

里中が戸惑う夕映に笑いながら解説する。

「うっさいよ筋肉以外能が無い馬鹿力だけの役立たず。探検の際に総合力で一番役に立ってないのあんたからね」

氷室と呼ばれた女性部員は鼻で笑いながら辛辣に言い返す。

「このアマ…」

「ホントの事でしょ〜?」

「ほら止めなさい二人共。幾ら魔物(モンスター)が居ないからって、こんな所で騒いでたら危ないわ」

「そうだ。早くこの断崖絶壁を抜けて、目的のエリアまで到達しよう。ぐずぐずしていては綾瀬君と宮崎君に負担が大きい」

睨み合う二人を副部長と部長が諌める。

「じゃあ綾瀬君、宮崎君、進行を再開するよ。この階層メインの書物棚は此処を抜ければ直ぐだ」

「…はい」

「わ、わかりましたー…」

一行は再び進み始める。

 

「…部長、差し支えなければ質問をして宜しいでしょうか?」

慎重に壁に手を這わせて罠が無いかを確認しつつ、夕映は部長に尋ねる。

「ああ、罠の類に気をつけながら話を聞けるなら勿論答えるよ。聞きたいことは大体予想がつく、僕らが使っていた魔法の事についてだろう?」

部長は朗らかに笑いながらなんでもない事の様に言い返す。

「…魔法……ですか」

「うん、便宜上そう呼んでるね。綾瀬君、宮崎君が探しているという魔道書を読み込んで我らが先代達が独学で仕上げた、図書館探検部最大の秘密にして目玉だ。最も27代目になる僕の段階でも魔道書の研究は殆ど進んでいないけれどね」

後半の台詞を苦笑しながら部長は告げる。

「綾瀬ちゃんやのどかちゃんも部活の訓練で精神統一みたいな事を週何回かやっているでしょう?実はあれは、高等部に上がってから魔法を習得する為の下準備なのよ。備わる力は個人差があるけれど、どんなに才能が無くても高等部を卒業する位にはマッチみたいな火ぐらい起こせる様になってるわ」

「まあその中で特別筋が良くて尚且つ本人が望んだ場合において、図書館島深層部探検の為の訓練をさせることになってるな。さっきの見りゃわかると思うが、最悪本当に命の危機があるかもしれねえ危険な探索だから、もちろん全員が望む訳じゃ無いんだけどな」

「ま、魔法に才能無くても麻帆良の武道系部活のバケモンみたいに気を発現させればそのマッチョみたいにレギュラーになれるしね。ホントは高等部に入るまで秘密なんだよ、これって。まあ君達は事情が事情だし特別って事さ」

口々に図書館探検部レギュラーの面々が衝撃の事実を明かしていく。

 

図書館探検部(ここ)は麻帆良の奇妙奇天烈な部活の中では大人しい方だと思っていましたが……

どうやらトップクラスにトンデモ系の部活だったらしいと夕映は内心頭を抱える。

…なんですか独学での魔法習得って。

確かに夕映が見る限り、先程部長達が放った魔法の射手(サギタ マギカ)らしき魔法一つ取っても、威力や発動速度など篠村やネギの放つそれと比べて明らかに劣る。それも当然で、恐らく図書館探検部の面々は、呪文らしきものを放つ瞬間に叫んでいるが、それは単なる掛け声の様なもので、実質無詠唱魔法で魔法を放っているのである。

「あ、あのー…皆さん、魔法を使う時に、言葉がバラバラだったんですがー……」

のどかも同じ点が気になってか、質問を投げかける。

「ああそれはね、言ってしまうと僕らの魔法は声を出さなくても念じれば発動出来るんだ。ただ自分が使う魔法のイメージを口に出して唱えると魔法が使いやすいからね。それぞれが好きな『名前』を自分の魔法に付けて使用しているんだよ」

「だから中二臭い技名唱える様な奴が出てくんだよなぁー、アクアショット‼︎とかなんかのゲームかっつのプッククククク……!」

「何あんた陸で溺れ死にたい訳?って言うか使えない(・・・・)奴の嫉妬が透けて見える発言だわねぇあ〜やだやだ器の小っさい男!」

「はいはい貴方達、喧嘩は探索を終えてからにしなさい、毎回言ってるでしょ」

のどかに対する部長達の返答が夕映の推測を裏付ける。

「…部長」

「なんだい、綾瀬君?」

色々言いたいことも聞きたいこともあったが、夕映は一番の疑問を部長に尋ねた。

「魔道書がそれ程力のある物だと知っていながら何故、それを探しに行きたいという私達の無茶な願いにこうしてわざわざ護衛についてまで応えて下さったのですか?」

図書館探検部が中等部以下に存在を秘匿しているのは魔法が少なからず危険な側面を持つことを理解している故にだと夕映は事情を聞いた今推測していた。だというのに何故自分やのどかの様な何の力も無い中学生が魔道書に触れる機会を妨げる所か協力してくれるのか、夕映にはわからなかった。

「うーん、理由を説明するには少し長くなるけど構わないかい?」

部長の確認に夕映が頷くと、部長はゆっくりと語り出す。

「まず僕達は部内における情報規制をしっかり行っている自信がある。だから綾瀬君達が部内で魔法の存在を知る可能性は極めて低い。そして、綾瀬君達はしっかりとした目的があって魔道書を探していると、僕達に捜索を依頼しに来た時の口ぶりで解る。…つまり綾瀬君達は部内以外の何処かで魔法の存在を知って、その魔法に関係する何らかの事情で魔道書が必要になり、僕達の元へ来た。此処までは合っているかな?」

伺う様な部長の言葉に夕映は一瞬煙に巻くことも考えたが、この聡明な部長を前に下手な誤魔化しは通用しないだろうと思い直す。

「…はい、その通りです」

夕映の肯定に部長は満足そうに頷き、続きを話す。

「それならば綾瀬君達は僕達とは別の…そう、もしかしたら本物の魔法使いと知り合いなんじゃないか、と僕は推測した。これも君達の話からして自分で魔道書を扱おうとしている様には思えなかったからね。綾瀬君はこの探索において僕達に何らメリットが存在しない点を不思議に思っていたみたいだが、僕らのメリットとはズバリそこだ。君達を通じて僕達の様な我流で技術を強引に習得したのとは違う、正式に一から知識を学び、正しいやり方で魔法を身に付けている魔法使いの存在が明らかになるんじゃないかと僕達は期待しているんだ」

部長の言葉に夕映は僅かに身を固くする。

「…つまり、部長は私達を通じて魔法使いとコネクションを持ちたい、ということですか?」

「…ゆ、ゆえ〜………!」

夕映の言葉にのどかが何かを言いたげに声を掛ける。

「わかっているです、のどか」

夕映はのどかの方を振り向き、安心させるべく僅かに微笑んでから前方の部長の方に向き直り、はっきりと宣言する。

「部長、先に申し上げておくです。私達は確かに魔法使いの存在を知っているですが、その魔法使いにも色々と事情があるです。場合によっては私達からその魔法使いを紹介することが難しくなると思いますが、部長はそれでも私達に協力して頂けるですか?」

夕映の言葉に部長は、はっきりと頷いた。

「勿論だ。何がなんでも紹介しろと言うなら、初めにそれをはっきり条件として突き付けているよ。今回の所は部活の更なる躍進となるかもしれない存在の、実在が明らかになっただけで良しとするさ」

「…部活の為、ですかー、部長?」

のどかが部長の言葉を不思議に思い、尋ね返す。

「ああそうさ。僕達図書館探検部は魔法を純粋に図書館最深部攻略の為だけに磨いている……まあ、魔法そのものに関心を置いている部員もいるが、攻略レギュラーの面々は少なく共そうだ。しかし現在僕達はどうしても突破出来ない階層があり、足踏みをしている状態だ。魔物(モンスター)が強力なのもあるが、魔法を使わねば突破出来ないであろう罠や仕掛けが多数あってね。不完全な魔法の習得のツケが回ってきているんだ」

部長は僅かに悔しそうに声の調子を変え、罠などが無いか確認して慎重に道を進みながら言葉を紡ぐ。

「だからこそ魔道書の解読も進んでいない現状、本物(・・)の魔法使いの実在は嬉しいニュースだ。君達に紹介して貰えればそれが一番だが、駄目だった場合は他に魔法使いへの接触手段を考えるさ。魔法という一種の技術が本という媒体に記されている以上、魔法使いとは一定以上の人数が世の中に存在するのだろうからね」

「…そう、ですね……」

 

…真逆学園だけでも数十人単位で居るとは言えませんね、少なく共今は……

 

額に鈍い汗を掻きつつ相槌を打つ夕映。

「だから夕映ちゃん、のどかちゃん。安心してくれていいわ。今しがたの質問に答えてくれただけで私達は充分よ。貴女達の知る魔法使いさんが顔を合わせてくれるかどうかは、また別の話としましょう?」

「…恩に着るです、皆さん」

「あ、ありがとうございます!」

副部長の言葉に頭を下げて礼を言う夕映とのどか。

「いいってことよ。魔法使い云々を抜きにしてもこんな地下深くまで潜って書物を求めるその姿勢、図書館探検部の鏡だぜ!先輩としちゃあ損得抜きで手助けしたくなるってもんだ」

「うわカッコつけー」

「五月蝿えよお前はいちいち⁉︎」

ぎゃあぎゃあと喧嘩を始めた里中と氷室を部長、副部長は溜息をついてスルーする。

「ともあれ里中の言うことも一理ある。図書館探検部に必要なのは本に対する情熱とまだ見ぬ本を探しに行く飽くなきバイタリティ。理由がどうあれ君達が本を求める以上、僕達は全力で協力しよう。さあ、此処を一刻も早く抜けようか」

「はい!」

「は、はい!」

二人は部長の喝に勢い良く応え、一歩一歩を慎重に踏み出し、進み始める。

 

「…頑張りましょう、のどか。ネギ先生の為にも」

「…うん!」

 

 

 

「明日菜ー、大丈夫なんー?」

「痛たたたた…大丈夫よ、木乃香。単なる筋肉痛だし、寝れば治るわ」

身体中を襲いくる痛みに呻き声を上げながらもストレッチで身体をほぐす明日菜に木乃香が心配して声を掛ける。

「辻先輩も刹那さんも鬼みたいに強いし、私の動きが良くなって来たとか言って段々訓練メニューがハードになって来るし…そりゃ自分が望んでやってる事だけど愚痴の一つも出るわよ…ねっと!」

開脚しての前屈に移行する明日菜を木乃香は何とは無しに眺め、やがてポツリと呟く。

「…皆、頑張っとるなー………」

「んー?」

明日菜は暫く黙って俯せになっていたが、

「…別に、無理して何かしようなんて焦らなくていいと思うわよ」

なるべる気楽に聞こえる様に明日菜は告げる。

「!……明日菜……」

木乃香ははっと顔を上げて明日菜を見やる。

「別にあの先輩達も、刹那さん達も。そりゃあの融通が効かないマジメ過ぎるお子ちゃまの為に、って気持ちは勿論あるんだろうけどさ。何より自分がやりたいからやってんのよ。だから皆木乃香に強制して何かやらせようとはしないんだわ」

「……でも、明日菜ー………」

あくまで声の調子の暗い木乃香に、苦笑しながら言葉を掛ける明日菜。

「ん、解るわ。逆に辛いわよね、そういうの。誰かに決められた方が楽なことって、確かにあるから。…でもね木乃香。そんなに難しく考えないでいいんじゃないかしら?」

「え?」

意外そうに聞き返す木乃香に、明日菜は告げる。

「先輩達は、危険な場合があることを身を持って実感してるから、こっち(・・・)の道には、きちんと覚悟を決めてやって来いって言うでしょ?それはもちろんあたしもその通りだと思うけれど、でも木乃香、今何を始めたらいいのかすらまだ分からない状態でしょ?」

「……うん」

明日菜の言葉にこっくり頷く木乃香。

「だったらさ、とりあえず少しでも興味の湧いた事をとりあえずやってみればいいんじゃないかしら。別に始めたら止められない訳でも何でもないんだから。深刻に考え過ぎなのよ」

明日菜は笑って語る。

「無理だと思ったら止めていい。あの人達は誰もそれに文句なんて言わないわ。万が一ブー垂れる奴がいたらあたしがぶっ飛ばしてあげるわよ!だから木乃香、もっと気軽にやりたいこと始めなさい!迷ってる位だから何かあるんでしょ?大丈夫よ。何かあっても、鬼より強い先輩達と、刹那さんが居るでしょ?」

勿論あたしもね、と明日菜は笑顔で締めくくる。

「……明日菜ぁ…………!」

「ちょ、何よ木乃香、大げさねー!」

目尻に指を当て、涙ぐむ木乃香に、照れ臭そうに呼び掛ける明日菜だった。

 

「…刹那さんにも相談してさ。もっと気楽に行きなさいよ」

「……うん」

 

 

 

「……よくもまぁ、おめおめと顔が出せたものだな、優男」

「あれ、僕そこまで嫌われてたかい、エヴァさんに」

傷付くなぁ、と山下は苦笑する。

「…二度と顔を出すなと言ったろうが」

「エヴァさんそれ何日前の話さ?あれから何回も顔出してるじゃない」

「…稽古はつけん。何故私がそんな面倒な真似をせにゃならん」

「ええーいいじゃないエヴァさん。武田惣角の直弟子との組手なんて、今の時代で願ったって絶対に叶わない凄い事なんだよ。お願いだから付き合ってよ、別に毎日じゃ無くていいんだ」

「巫山戯るな、私に何の得がある?」

両手を合わせての山下の懇願を、けんもほろろに突っぱねるエヴァンジェリン。

「んーじゃあ謝礼を払うよ、一日幾ら?」

「金などいるか、阿呆」

「じゃあどうすればいいのさ?」

「諦めろ」

「そこを何とか‼︎」

ズバッ!と勢い良く頭を下げて頼み込む山下。エヴァンジェリンはうんざりした様に溜息を吐く。と、そこに奥の部屋からチョコチョコと可愛らしい足取りでチャチャゼロが歩み出てくる。

「イイジャネーカゴ主人、ドウセ暇ダロ?」

「貴様は黙っとれ、何故こいつの味方をする?」

「理由ハ同ジダゼ、暇ナンダヨ、俺モ。折角自由ノ身ダッテノニ相変ワラズツマンネー警備バッカデ雑魚ヲ斬リ刻メモデキネー。ダッタラ優男ガ手足ヤ首ノ骨バキボキヘシ折レルノヲ見テル方ガナンボカ楽シイカラヨ」

「いやゼロさん、手足は兎も角首が折れたら死んじゃうんだけど……」

ケケケケ手足笑いながら物騒な事を言う殺人人形(キリングドール)にツッコミを入れる山下。

「アア?ソンナモン根性デナントカシヤガレ」

「無茶言うなあ、ゼロさんは……」

 

妙に気安く配下と話す山下を見てエヴァンジェリンはまた苛立ちが募る。

…こいつは何故私に構う?…………

…好きだから?………

「……ハッ!」

馬鹿馬鹿しいとエヴァンジェリンは鼻を鳴らす。そんなものは信用がならない。仮に本当だったとして、受け入れられない。

……私はナギが好きだ。それが答えだ……

エヴァンジェリンはチャチャゼロと漫才の様なやり取りを続けている山下に、言葉を投げ掛ける。今度こそ、鬱陶しい人間(・・)を追い払う為に。

「おい優男。お前はどうしても私に稽古をつけて貰いたいか?」

「え?あ、うん‼︎何、エヴァさんその気になってくれた?」

勢い込んで尋ねる山下に、エヴァンジェリンはニヤリと邪悪に笑って答える。

「ああ、貴様が私の言う対価を支払ったのなら、よかろう稽古をつけてやろうじゃないか」

「何なに?なんでもするよ、僕は?」

「ほう、何でもと言ったな、よかろうならば…」

エヴァンジェリンはきっぱりと告げる。

 

「お前の血を私に寄越せ」

「……え?」

 

思ってもみなかった言葉に、山下は目を丸くする。

「稽古をつける度に貴様の血を私が頂く。無論失血死するまで吸い取ったりはせんさ。その後の増血処理もきっちりしてやる。簡単な条件だろう?一つを除けばな」

「……それって………」

「そうだ」

何事かに思い当たった山下の顔を見て、エヴァンジェリンは嗤って告げる。

「映画か何かで見たことはあろう?吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼になる。一度に吸い尽くさねば即座に吸血鬼化はせんだろうが、それでも私が稽古をつける度に血を吸われるならば、遠からず貴様は化け物の仲間入りだ。暖かい血の通わぬカインの末裔になる覚悟が有るならば、貴様の修業に幾らでも付き合ってやろうではないか」

さあどうだ?とエヴァンジェリンは山下を促すが、山下は何事かを呟きながら顔を伏せて答える様子は無い。

……まあ当然だな………

たかが稽古で人間辞めろと言われているのだから受け入れる筈が無い。エヴァンジェリンは始めから不可能な条件を出して山下を追い払おうとしていた。

「…オイゴ主人……」

「チャチャゼロ、黙っていろ」

何事かを言いかけたチャチャゼロを制するエヴァンジェリン。この一件に関しては、誰にも邪魔立てをさせる気は無かった。

「どうした優男?無理だと思うなら帰るがいい。始めからここは貴様のいる場所じゃ無いんだよ」

「…あ〜、うん……」

エヴァンジェリンの言葉に山下は顔を上げ、曖昧な笑みを浮かべつつ返事をした。

 

「……わかった、エヴァさん。その条件、受け入れるよ」

「…………何?…………………」

 

エヴァンジェリンは思わず聞き返す。聞き間違いだ、と己に言い聞かせながら。

「いや、だからその条件、飲むよ。幾らでも付き合ってくれるんだよね?早速今日からよろしくね」

「なっ、貴様…巫山戯るな‼︎」

あまりにも平然と話を続ける山下にエヴァンジェリンは怒鳴り返す。

「なに怒ってるのさエヴァさん?」

「貴様の言動に決まっているだろうが‼︎私の言葉を脅しか何かとでも思っているのか⁉︎私は詰まらん嘘はつかんぞ、貴様は!化け物に‼︎成り果てると言っているんだ私はぁ‼︎‼︎」

徐々にボルテージを上げながら叫ぶエヴァンジェリンを、若干五月蝿そうに眉を顰めながら山下は言葉を返す。

「わかってるって、僕はエヴァさんと同じで吸血鬼になるんでしょ?はっきり言わなきゃわからないなら言うけど、僕は吸血鬼になっていいから貴女の稽古を受けたいんだよ」

「っ‼︎…貴様………‼︎」

「逆に聞くけどさ」

激昂するエヴァンジェリンの瞳を静かに見返しながら山下は告げる。

「エヴァさんは何がそんなに気に入らないのさ?そりゃ僕も馬鹿じゃ無い、エヴァさんが僕を追い払う為に無理な条件を出した事位解るよ。…でも、それでもエヴァさんは条件を出した(・・・)んだ。エヴァさんは言うだけ言っておいて都合が悪くなったら前言を翻す様な詰まらない小悪党とは違うんでしょ?だったら僕がそれを受け入れたなら二言は無い筈だ。エヴァさんが誇るエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはそうじゃなきゃいけない(・・・・・・・・・・・)。……僕の言っていることは何か間違っているかい、エヴァさん?」

「っ〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎‼︎‼︎」

エヴァンジェリンは言葉にならない憤りにギチギチと歯を喰いしばり、頭を掻き毟る。

「ケケケ一本取ラレタナゴ主人」

無言で殺気立った視線を向けてくるエヴァンジェリンに、チャチャゼロは首を竦めて無い息を吐く。

「ンナ怖エー目デ睨ムナヨ。埒ガ明カネーカラ俺ガ纏メテヤンヨ、ゴ主人」

テクテクと前に出てチャチャゼロは山下に尋ねる。

「要スルニゴ主人ガ言イテーノハヨ、タカガ稽古二テメエハアル意味命ヲ賭ケルヨリモ重大ナ事ヲアッサリト了承シヤガッタカラ、オメーガソコラ辺ヲマルデ考エズニ軽〜イ覚悟デOKシタ様二シカ見エネエ、ダカラ受ケ入レラレネエ。ソウ言イテーンダ」

いつの間にかチャチャゼロの手には、己の身長を遥かに超える大鉈が握られ、その刃は椅子に座る山下に向いている。

「化ケ物二ナルッツーノハオ前ガ想像スルヨリ、ズット重イコトダ。ゴ主人ハソノ重責ヲ、六百年背負ッテ生キテンダ。オ前ハマダ若造ダ、全テガ理解デキナイノハ当タリ前ダワナ。ダガ足リ無イナリニオ前ハソノ意味(・・)ヲ、少ナク共理解シヨウトスル(・・・・・・)姿勢ガ無クチャイケネエ。…ソコラ辺ヲマルデ考エズニサッキノ言葉ヲ吐イタンナラ……」

ヒュン‼︎と風切り音と共に大鉈が山下の首筋に突き付けられる。

「…刻ムゾ、クソガキ。ゴ主人ヲ虚仮二スルッテノハ俺ヲモ虚仮二スルッテコトダ」

チャチャゼロはドスの効いた声で山下に告げる。エヴァンジェリンもまた、そんな従者の言動を咎めずに、山下を灼ける様な視線で睨み据える。

山下は大鉈を突き付けられている状況にも動じずに暫し何事かを考え、やがてゆっくりと口を開く。

「…確かにあっさり了承した様に見えたかもしれないけどさ。僕は僕なりに、考えて吐いた言葉だよ」

山下はエヴァンジェリンな目をしっかりと見返し、言葉を紡ぐ。

「ゼロさんの言う通り、僕はエヴァさんの苦渋も何も、全然解ってないんだろう。そんな僕が貴女に、上っ面だけの薄い言葉を吐く気は無いよ。同情なんてまっぴらごめんだろうしね。…だけど僕は僕以外の何者でも無い。今までの経験からしか貴女を判断出来ないし、そうした上で覚悟を決めるしかない。だから僕は考えてその上で貴女と同類になってもいいと思ったんだ」

「……解らんな」

剣呑な空気を緩めないままエヴァンジェリンは呟く。

「何がお前をそうまでさせる。それ程までに強くなりたいか、貴様は」

「勿論それもある。僕は武道家だ、己を磨く為なら何でもするよ。人を辞めてまで修練を積むかどうかについては、流石に人によるだろうけどね」

「…ならば」

「だけどそれだけじゃない」

何事かを言いかけたエヴァンジェリンを遮り、山下は言葉を続ける。

「エヴァさんが何処まで本気で言ったかは知らないけれど、貴女と同類になるかと言われて、僕は嫌な気はしなかった。自分でもこれだけ人の身に執着が薄いなんて驚いてるけど、兎に角僕は、吸血鬼になる事が、嫌じゃ無いんだ」

「だから…それが何故だと聞いている‼︎」

「知らないよ、そんなの」

苛立った様に問いかけるエヴァンジェリンに、山下はあっさりとそう言った。

「なっ⁉︎……」

「理由なんか知らないよ。そんなものは思い起こせば何とでも言える。僕が何も知らないから何を言っても薄っぺらいと言ったのはそっちじゃないか。僕は自分の心に問うただけだ、エヴァさんに血を吸われて、吸血鬼になってもいいかって。僕の心はその問いに応と答えた。だからそれが答えだ!細かいことはいいんだよ、男にウダウダと語らせるな。僕は貴女が嫌いじゃない、だから血を吸われても構わない!僕が言えるのはこれだけだ‼︎……後は貴女が応か否かだ、答えろよ、エヴァさん‼︎‼︎」

山下の叫びが室内に木霊する。エヴァンジェリンは目を見開いた驚愕の表情のまま固まっており、反応は無いが山下は構わずエヴァンジェリンを見つめ続ける。と、その時……

「…ク、ククク…………!」

「?、ゼロさん……?」

大鉈を突き付けたまま微動だにしなかったチャチャゼロが、カタカタと震えながら声を洩らし、

 

「クケケケケケケケケケケケケケケケケ‼︎‼︎」

 

大鉈を取り落とし、天井を向いて大音量の笑声を響かせた。

「……ゼロ、さん……?」

「…チャチャゼロ……」

「クケケケケゴ主人、アンタノ負ケダナ」

「な、何……?」

己が従者の高笑いにようやく硬直を脱して戸惑う様に声を掛けたエヴァンジェリンだったが、チャチャゼロの敗北宣言に、更に戸惑いを増して声を上げる。

「男ハ不言実行ガ魅力的ッテナ。イヤハヤ、確カニヤボナ問イヲ言ッチマッタミタイダゼ。コウマデ言ワレタラ受ケ入レルシカ無エナゴ主人。ナニセ吸血鬼ニナルナンテ嘘ッパチナンダカラヨ」

「…………は?…………………」

チャチャゼロのネタばらし(カミングアウト)に目が点になる山下。

「チャチャゼロっ‼︎」

「諦メナゴ主人。コイツノ宣言ヲ聞イタダロ?コイツハ本当ニ化ケ物ニナルトシテモ条件ヲ飲ムゼ。マサカコウマデコンナ若造ニ覚悟云々トカ言ッテオイテ、自分ハヤッパ無シナンテ言ワネエヨナ誇リ高キ悪ガヨォ?」

「ぬ、ぐぅ……‼︎」

「……あの〜………」

悔し気に唸るエヴァンジェリンを横目に、山下はそっと手を上げてチャチャゼロに質問する。

「ンダヨ?」

「さっき言ってた、吸血鬼になるのが嘘って……?」

「アア、簡単ナ話ダ」

チャチャゼロはあっさりと説明を行う。

「吸血鬼ガ眷属ヲ増ヤスニハタダ単ニ相手ノ血ヲ吸ウダケジャナクテソレナリニ複雑ナ儀式ミテーナ事ヲ一緒に行ワナキャイケネーンダ。ダカラ稽古ノ代価トシテ血ヲ吸ッタダケジャ、ゴ主人ガソノ気ニナンネー限リ百遍吸ッテモテメーハ人間ノママッテコッタナ」

「…………………………」

山下はチャチャゼロの言葉を聞いて暫し無言で言葉を反芻していたが、やがて勢い良く立ち上がると顔を赤くしながらエヴァンジェリンに指を突き付け、叫ぶ。

「騙したなエヴァさん、僕を追っ払いたいが為に大法螺吹いて‼︎僕の覚悟は一体何だったんだよ恥ずかしい真似人にさせやがって‼︎」

「五月っ蝿いわ黙れぇぇぇぇぇぇ‼︎」

山下に負けず劣らず大きな声でエヴァンジェリンはヤケクソ気味に叫び返した。

 

 

 

「…じゃあエヴァさん、僕が血を提供する代わりに僕に稽古をつけてくれるって事で、契約成立でいいね?」

「……………………」

すったもんだでしばらくした後、騒ぎを聞きつけて掃除を放り出して駆けつけた茶々丸までを動員し、どうにか落ち着いた場で改めて山下はエヴァンジェリンに確認を取る。エヴァンジェリンはムスッとした顔で頬杖をつき、返事を返さない。

「…エヴァさ〜〜ん?……」

「マスター……」

「ゴ主人ヨォ、往生際ガ悪イゼ?」

「五月蝿いぞどいつもこいつも‼︎ええい解ったわ‼︎契約成立だ感謝しろ優男‼︎」

山下所か二人の従者にまで責める様な口調で話し掛けられて、エヴァンジェリンは遂に折れた。

「うん、感謝するよエヴァさん」

「っ〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎」

ふにゃりと柔らかく笑う山下にエヴァンジェリンは怒りのやり場を失って地団駄を踏み、山下の顔面に鋭い指を突き付けると宣言した。

「いいか優男、いや山下‼︎私は指導を請け負った以上半端な真似はせん‼︎打ち身所か骨がへし折れるのを覚悟しておけ‼︎私の憂さ晴らしを兼ねて早速今から組み手だ組み手‼︎口答えは許さん‼︎」

山下は多分に横暴なその言葉も気にせず、笑顔で立ち上がると元気良く答える。

「望む所だよエヴァさん‼︎会津の小天狗と謳われた達人の技を受け継いだその実力、是非とも僕に見せてくれ‼︎」

「上等だクソガキ‼︎表に出ろ‼︎」

「承知‼︎」

ドタバタと慌ただしくログハウスを出て行く二人を見て、ケケケと愉快気に笑いながらチャチャゼロはポツリと呟いた。

 

「…本気デ見込ミアルカモシレネーナ…期待シテルゼ、山下………」

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。いやはや、全員の修業パートを纏めたら、馬鹿みたいな長さになりました。バランス考えるべきですね、申し訳ありません。今回のメインは図書館探検部とエヴァと山下ですね。図書館探検部のトンデモッぷりは本編に影響を及ぼす事はほぼありませんので、ギャグとして流して下さい笑)我流で魔法身につけて、詠唱魔法すっ飛ばして無詠唱魔法覚えてる馬鹿共です。エヴァと山下については、山下がとりあえずもう見ようによっては告白みたいな熱い宣言かましております。予定よりも大分展開が早いですが筆が乗ったので仕方がありませんよね?それぞれの今後に乞うご期待下さい。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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