「なんだか仲良さそうですねーあの二人、そう思いませんセルウァ様?」
相合傘でゆっくりと寮への道を歩む辻と刹那を見て半透明の幼女ーーあめ子と名のついたハイ・スライムと呼ばれる魔物の一種は、傍らのドレスの
「相合傘…アイアイ…猿。……ふふ、猿の様にベッドで盛ル…」
あめ子の横の同種ーーぷりんと呼ばれる幼女はよくわからないこじつけの様な連想ゲームの末に無表情のまま含み笑いをして右手で下品なサインを作っている。見た目が半透明とはいえ愛らしい幼女なだけに酷いギャップだ。
「……ふっ!」
呼び掛けられた当のセルウァは両の瞳を輝かせて無意味に決めポーズを取り、自信満々にあめ子に答える。
「…仲がいい所じゃ無いわね、あの二人、近い内にS○Xする程の仲よ‼︎ぷりんちゃん大正解ね‼︎」
ぷりんが無表情なままぐっと人差し指と中指の間に親指を挟んだサインをセルウァに突き出すと、セルウァも無駄にイイ笑顔で同じサインを突き出す。あめ子はそれをやや呆れた目で見やりながらも監視は続けつつ、暫く経った後に改めて問う。
「所てどうやって攫いますかー?どっちも腕利きなんでしょうし一、両方を素早く無力化出来ないとあの二人、主従らしいですから何か勘付かれるかもしれマセンヨー?」
「そうねぇ……」
セルウァは思案する様に尖った顎に手を当て、暫く考え込むが、やがて大きく頷きながらポン、と手を打ち、二人?に告げる。
「いい方法を思いついたわ‼︎愛し合ってる男女ならば必ず有効な
「騙し討ち……バック○入…」
「イイわよぷりんちゃん!とっても危険な感じだわぁー‼︎」
「騒ぎ過ぎてまず魔法使い達に見つからない様にしましょうねー、私はこれからお嬢様達の方に行きマスカラー」
騒がしい一団は、やがて水の幕が垂れ下がった様な豪雨の中に消えて行く。
…とりあえず誰かはわからんが明日〆て殺る畜生共めが………‼︎
豪雨の中に刹那と一つの傘の中、言葉少なに寮への道を歩きながら辻の心の内半分は、とても武道家とは思えない澱んだ殺意に満ちていた。後の半分は気まずさと照れと緊張であるが、それは今更語っても詮無いことだろう。
辻は今朝の時点で天気予報を見る迄も無く、雨が降り続けるであろう事を解っていた。(現時点で既に大雨だから)そして今や習慣になりつつある刹那の送迎。…この二つの要素が組み合わさった時に発生するのは、やってる事自体は身体がそれ程密着する訳でも甘〜い言葉を吐く必要がある訳でも無い、他愛もないモノの筈なのに、何故か
辻は自分と愛すべき
ならば辻の取るべき
① 送迎自体を行わない(敵前逃亡)
→却下。刹那を送るのは誰に頼まれた訳では無い、自らが課した己の
② こっそり帰る(見られなければどうという事は無い!)
→却下。例え豪雨の中だろうと絶対に誰かしら目撃者が発生する。麻帆良とはそういう所である。
③ 傘を持たずに送迎する(捨て身のノーガード戦法)
→却下。二人揃って風を引きたいのか、阿呆。
④レインコート等、代用品を持参(武装変更)
→却下。見てくれを気にする訳では無いが、そもそも刹那が傘を持っていた場合わざわざ傘を取り上げてレインコートを押し付けるのは馬鹿らし過ぎる。
⑤傘を複数本持参(重装備)
→採用。というかこの雨で刹那が傘を持ってこない可能性が極めて低い以上、辻も傘を持って行けば済む話であった。相合傘とは人数が二人で傘が一本しか無い場合においてしか出現しない
…ここまで考えて自分の空回りっぷりが全力で馬鹿らしくなった辻であったが、それでも辻は
…何故俺の
どう考えても偶然では無く何者かによる
かくして辻は刹那を自らの傘に入れ、まんまと相合傘での移動を実行中である。
「…しかし酷い雨だな。そういう時期だと言ったらそれで終わりだが、今日のは桁外れだ。砂部の連中はさぞかし苦しんでいるだろうよ」
「…前々から小耳に挟んではいましたが、砂部とは一体……?」
「うーん一言で言うなら砂のエキスパートだな。世界中の砂を観賞したいという奴らの訳わからん野望に巻き込まれて、俺達は高校二年の修学旅行にゴビ砂漠へ……」
辻は微妙に気まずい空気を変えようと頻繁に話題を振るが、麻帆良の非、常識人達をダシに盛り上がるには連中の在り方が鋭角過ぎるらしく、今一つ会話は弾まない。
…駄目だな、これは。ここまで会話が続かないなど何時ぶりの……
そこ迄考え、ふと辻は気付く。
…何時の間にか、普通に話せる様になったもんだ、桜咲とも。
かつての刹那といえば凍った能面の様な完全無欠の無表情で、話しかけても無視こそされないが素っ気ない一言を返されるのが精々だったと辻は思い返し、感慨深いものを覚える。人とは違う身体、親友である木乃香とのすれ違いなど、悩んでいた事の多くが解決したからこそなのだろうが、随分可愛いらしくなったものだ、と辻は歩く刹那の横顔を見て笑みを溢した。
「……っ、な、何ですか辻部長、人の顔を見てニヤニヤと…」
視線に気付いてか、刹那が恥ずかしそうに尋ねてくる。
「ああいやすまん!……ちょっと昔を思い出してな。短い間に随分色々あったもんだと思わないか?」
辻は、ヤバいセクハラと思われる!と若干焦りながらも弁明する。
「…そうです、ね……本当に、様変わりしたものです…」
辻の言葉に同意しながら、目を細めて宙を見つめる刹那。
「…まあだからって昔の方が良いとは思わないけどな。いいことばかりあった訳じゃ無いが、自分の意志で前進して来た、と自信を持てるよ今の俺は……それに、桜咲も態度を軟化させてくれたからな。正直挨拶一つするのにも緊張する尖ったナイフみたいな頃のお前に、もう一度上手く歩み寄れる自信が俺は無い」
少ししんみりした空気を払拭する為に、悪戯っぽく笑いながら辻は刹那をからかいに走る。
「…忘れて下さい。あの頃は辻部長にも先輩の皆さんにも、本当に失礼な態度を……」
「待て待てリアルに落ち込むな。ちょっとからかうつもりだったというか、軽く巫山戯ただけというかええと…」
軽く怒って反論してくるかと構えていた辻はどんよりした空気を纏い始めた刹那に慌てて弁明に走る。
「大体お前は年頃の娘なんだからそれ位の失敗は当たり前だろ?俺がお前位の頃はもっと傲慢で自分本位で、未熟などうしようもない餓鬼だったよ。お前は寧ろ破格に大人しい反抗期だ」
辻はいささか自嘲気味にそう言って刹那を慰める。それを聞いて刹那は、僅かに躊躇った後に辻へ尋ねる。
「…辻部長は、麻帆良へ来る前はどのような事をしていらしたのですか?」
辻が刹那と同じ中学三年生の頃に麻帆良へ転校してきたのを刹那は前に聞いていた。辻から昔の話を今迄刹那は聞いたことが無かったので、いい機会として聞いてみたかった。
「…そうだな……」
辻は僅かに表情を固くして押し黙り、何事かを考える。
「…あの、気が進まないのでしたら…」
「いや、いいんだ。別に隠している訳でも無い」
気を使う刹那に問題無いと告げ、辻は尚も暫く考えた後に語り出す。
「別に大した話でも無いんだが…俺が薩摩出身で剣術道場の長男なのは前に話したよな?」
辻の確認に刹那は頷く。
「薬丸自顕流、二の太刀要らずと謳われる九州の雄なる流派ですね?」
「そうだ、そこで俺は幼少時から剣に打ち込んでた。そこそこ才能もあったらしくてな、中学生の半ば位には道場の大人顔負けの腕前を身に付けていた」
そこまで語ってから辻は少し言い淀み、言葉少なに続きを話す。
「増長していた…っていうのも何か違うんだが、格好付けるなら力に酔っていた…とでも言うのかな。調子に乗ってやらかして、逃げる様にこっちにやって来た」
辻がやや唐突に話を終わらせ、暫し二人は無言で雨の中を歩く。
……何が、あったのですか?……
その一言を刹那は口に出せなかった。明らかに気が進まない辻の様子からして、到底明るい話では無いだろう。自らも必要に迫られるまで秘密としていた事を頑として語らなかったのだから、臆面も無く辻へ尋ねる事など刹那には出来なかった。
「…碌でも無い話だよ……」
そんな刹那の何とも言えない視線を受けて、苦笑した後に辻は言った。
「…弟をな……斬ってしまったんだ……」
「………は?………」
刹那は辻の言葉に瞠目する。
「今も元気にしているけどな。流石に実家には居られなかった」
「…あの、それはどういう……」
思わず刹那は問いただそうとしたが、辻が足を止めた事により続く言葉を飲み込む。
「さ、着いたぞ。ちゃんと体を温めろよ?」
気が付けばそこは女子寮の手前だった。
「…あの、辻部長……」
「…悪いな、ああ言っておいて何だが、今はまだ詳しく話せない」
口ごもる刹那に、少し寂しそうに笑って辻は入り口まで刹那を誘い、言う。
「…何時か機会があったら、そしてお前が聞きたいなら話すさ」
「…辻部長……」
「じゃあな、桜咲」
屋根の下まで刹那を送り、辻は踵を返した。ゆっくりと遠ざかる辻の背中を刹那は黙って見送り、雨の中に辻の姿が消え去ったのを境に、溜息を吐き、門へと向かう。
『主らしくも無い。あんな尻切れ蜻蛉な話の仕方では小娘が思い悩むだけだろうに?』
男子寮へと続く道を歩む辻に背中のフツノミタマが訝し気に尋ねる。辻は歩きながら一つ息を吐き、淡々と返した。
「…俺は桜咲が危険なら、万難を排して駆け付けるつもりだけどな。…あいつは俺を信用し過ぎない様にさせておきたいんだ。もう自分で自分を、肯定出来る環境が出来つつあるからな」
『…… ふむ?』
フツノミタマは疑問符を上げ、ややあってから今度は何処か楽し気に辻に問い掛ける。
『なんだ、あのお人好し共と縁を切って、私と共に修羅道にでも堕ちてくれるのか、主?』
「違う、悪鬼羅刹の見本みたいになるつもりはさらさら無い。…無いんだが、そうなってしまうかもしれないからな」
辻は己の手を見つめ、そして背中のフツノミタマをバッグから取り出して鞘付きのまま眼前に掲げ、告げる。
「
『……そうか、主には悪いが私にとっては……ん?…主、後ろだ』
「何?」
言葉の途中で振り向く様に言ってくるフツノミタマに疑問の声を上げる辻だったが、ふと後ろから微かに聞こえる声に足を止め、訝し気に振り返る。
「…私では、辻部長を支えるにはまだ至らないのだろうか……」
見えてきた女子寮の入り口を力無く見やりながら刹那は溜息を吐く。今更思い返すまでも無く、常日頃から刹那は辻に多大なる恩義を感じていた。木乃香との仲立ちの件、京都の事件で矢面に立たせてしまった件、人外の自分を受け入れてくれた件。 刹那はなんとかして恩に報いたかった。辻が見返りなど望んでいないことなど解っているが、これは刹那の気持ちの問題なのである。
…私を信じてくれるのなら、もっと私を頼って下さい。辻部長……
再度息を吐き、刹那はやや力無い足取りで寮の入り口に向かう。
「……ん?」
しかし、後方から微かに聞こえる声に刹那は足を止め、俄かに警戒心を強めながら振り返る。
その
「……
「辻部長⁉︎帰られたのでは無かったんですか?」
「…このケモミミ少年に?一体どの様な御用件で?……」
犬飼は今だ意識の無い小太郎を抱え直し、警戒心も露わにヘルマンと名乗った老人へ問い掛ける。
「いやなに、大した話では無いのだが「
手に持つ帽子を被り直しながらあくまで物腰は穏やかに何事かを言いかけたヘルマンは、唐突に豪徳寺が放った気弾を土手っ腹に真面に受け、爆発と共に玄関へと吹き飛び、見えなくなる。
「ええっ⁉︎」
「グウ?」
「うぉい⁉︎いきなり何をやってるんだよ豪徳寺君‼︎」
揃って驚愕の声を上げる二人と一匹に構わず、豪徳寺は吹き飛んだヘルマンを追ってゆっくりと前進しながら犬飼に呼び掛ける。
「犬飼、ベランダ伝いに移動して四部屋先の中村の所まで那波を連れて逃げてくれ。このジジイの相手は俺がする」
「え……」
「…知り合いなのかい、その爺さん?」
「いや、だがヤバい奴なのはお前の相棒が解ってんだろ?おまけにどう見ても穏便に話し合いしに来たとは行動からして思えねえ。…お前は兎も角那波を巻き込む訳にいかねえ、頼む」
豪徳寺の嘆願に犬飼はややあって頷く。
「…後で事情の説明と、ドアの修理費を要求するよ」
「安心しな。このジジイから取り立ててやらあ」
「…豪徳寺先輩……」
犬飼の言葉に豪徳寺が軽口で応酬した後に千鶴が何か言いた気に口を挟むが、
「…悪いな那波、今は説明してる時間が無え。後できっちり説明するし幾らでも文句を聞く。ここは俺を信じて言う通りにしてくれ。此処にいると、危ねえんだ」
豪徳寺の真剣な口調に千鶴は続く言葉を飲み込んだ。
「…気を付けて下さい、豪徳寺先輩」
「…応」
千鶴は困惑や文句等様々なものを飲み下し、状況解らないなりに豪徳寺の身を案ずる。豪徳寺は太い笑みを浮かべて短く応じた。
…全く、いい女っぷりじゃねえかよ、那波……
犬飼に促され、ベランダへ那波が、続いてヘルマンを警戒して後じさりしながらサーベラスが向かったのと時を同じくして、粉砕されたシューズラックの破片を払い落としながらヘルマンが再びリビングに姿を現す。
「…やれやれ、いきなり「
息を吐き、 抗議の声を上げようとしたヘルマンは、再度言葉の途中で飛んできた気弾を交差させた両腕で受け止め、弾けた衝撃で後方へ滑りながら呻く。
「チッ…」
あわよくば再度吹き飛ばして時間を稼ごうとしていた豪徳寺は、当てにが外れて舌打ちする。
「…乱暴にも程があるね。老人には優しくするように教わってこなかったのかな?」
「チャイム数回鳴らしただけで痺れ切らして玄関ぶち破るような短絡ジジイがどの口でほざきやがる。
呆れた様に呟くヘルマンにすげ無く返し、豪徳寺は両の拳を掲げて戦闘姿勢を取る。
「…で?何が目的だよあんなガキ一人の為にわざわざこんな所くんだりに来て?どう見てもてめえカタギには見えねえぞ」
「…ふふ」
ヘルマンは豪徳寺に呼応して半身に緩く握った両手を掲げる、ボクシングの様な構えを取りながら含み笑う。
「確かに彼、イヌガミ コタロー君と君達の関係性では私の目的に見当がつかなくても無理は無いね。彼自身に用は無いと言えば無いのだが、出来ることならスムーズに仕事をこなしたいと私は思っている。だから
困った事態になったものだ、と呟くヘルマンを他所に、豪徳寺の脳内では先程聞いた小太郎の名前を皮切りに、ようやく小太郎が何者かを思い出していた。
…そうだあのガキ、近衛を攫って辻と闘り合ったとかいう京都にいた猿眼鏡女の手先じゃねえか……
「…関西呪術協会、の人間じゃ無えわな。連れ戻してこいってんで雇われたか?」
「さて、どうだろうね?」
ヘルマンは答えをはぐらかし、ジリジリと豪徳寺へにじり寄る。だが、豪徳寺はこれまでのヘルマンの言葉からして、目の前の怪しい老人は西の人間でも西に雇われた訳でも無いだろうと考えていた。
…関西呪術協会は大失態を仕出かしたんで、魔法使い連中に対してデカい態度を取れねえ筈だ。脱走か何か知らねえが連れ戻すのにここまで荒っぽい手段は選ばねえ。…更にこのジジイは、小太郎とかいうガキは主な狙いじゃない様な事を言っていたわな………まあ、いいか。
そこまで考えて豪徳寺は一旦思考を放棄する。
「てめえをぶちのめして聞けばいいだけだわなぁ‼︎」
「ははは威勢がいいね!おじさん君みたいな若者は大好きだよ‼︎」
獰猛な表情で嗤う豪徳寺の気迫にも臆さず、快活に笑うヘルマンに豪徳寺は右腕を振りかぶりながら突撃した。
「おらぁぁぁぁ‼︎」
「っ!ふっ‼︎」
鋭い呼気と共にヘルマンの左拳が閃く。速射砲の如きジャブが無防備に突っ込む豪徳寺の顔面で弾け、余り腰を入れずに打ったとは思えない衝撃の連打が豪徳寺の頭を揺るがす。
「…ぬぅ⁉︎」
「温ぃんだよ‼︎」
しかし豪徳寺はまるで堪えた様子を見せずヘルマンの懐に飛び込み、打ち下ろし気味の右ストレートをヘルマンの顔面に放つ。
「…っ、ふん‼︎」
ヘルマンは首を捻じって掠めただけで攻撃を躱し、カウンターの左フックが豪徳寺の顎を真面に捉えた。
…手応え有りだ‼︎……
「動きに無駄が……なっ⁉︎」
豪徳寺が倒れ伏すだろうと確信し、捨て台詞を吐こうとしたヘルマンは、伸びきっていた豪徳寺の右手が己の襟首を掴み取ったのを感じ、驚愕する。
「…捕まえた、ぜっ‼︎」
豪徳寺の左拳がヘルマンの鳩尾を捉え、大柄なヘルマンの身体が一瞬浮き上がる。
「がっ⁉︎」
「うおらぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
豪徳寺はそのままヘルマンの胴体と襟首を掴んだままその身体を持ち上げると、玄関口へと突進して壊れたドアを踏み越え、廊下から三階下の正面玄関へとヘルマンを投げ下ろす。
「おおおぉぉぉぉ⁉︎」
驚愕の声を上げながらもヘルマンは両足を振り、蜻蛉を切って着地の体勢を整えるが…
「死んどけオラァ‼︎」
「がはぁっ⁉︎」
ベランダの手摺りを蹴って砲弾の様に飛び出して来た豪徳寺に拳を打ち下ろされ、ヘルマンは回転しながら地面に叩きつけられる。
「ぐっ……‼︎」
「沈んどけ」
呻きながら立ち上がろうとするヘルマンに、着地しながら豪徳寺は冷たく言い捨て、両の拳から煌めく気弾を撃ち放つ。
「
直後、麻帆良男子寮の玄関先で大爆発が大気を揺るがした。
「………おし」
白目を剥いているヘルマンをゴスゴスと足裏で踏み付け、反応が無いのを確認してから豪徳寺は踵を返す。
…大分大騒ぎしちまったな……
ジジイを突き出せばお咎め無しにならないかね、などと考えつつ豪徳寺は犬飼と千鶴に合流すべく男子寮の裏へと足を向ける。
…にしても中村の野郎、那波の奴が来たからって妙な暴走してなきゃいいが………待て。
そこまで考えて豪徳寺は猛烈な違和感に襲われ、動きを止める。
違和感の元は正にその中村だ。先程はああ
…いや、それ以前に………!
「いやいや大した一撃だ、一瞬本当に気を失ってしまったよ」
「っっ⁉︎」
背後から聞こえた声に反射的に振り返った豪徳寺は、次の瞬間腹を中心に身体をくの字に折り曲げ、男子寮の壁まで吹き飛ばされた。
「っ〜〜〜〜⁉︎⁉︎」
壁に激突し、一瞬の間を置いて地面に落ちた豪徳寺は、胴体の中心で爆発した痛みに声にならない苦鳴を口端から洩らす。人外地味たタフさを持つ豪徳寺にして身体から力の奪われる、滅多に味わうことの無い大打撃だ。
咳き込む豪徳寺を他所に、ヘルマンは光の残滓が纏わる拳を振ってから背面の泥と濁った水を払い落とし、破れた服やコートを
「その歳にして素晴らしい気の練りだね、
「っ!……ゴホッ‼︎…何…?」
豪徳寺は腹を押さえて立ち上がりつつ、ヘルマンの言葉を聞き咎める。明らかにヘルマンは今し方、辻や豪徳寺の個人に対して何かしらを成す為に接触してきた旨を口に出した。つまり初めからバカレンジャーを含むネギ達の集団が狙いだったということである。
「不意を突かれた状態からの私の一撃を喰らい、立ち上がるタフネスは賞賛に値する。しかし、本気の私を果たして君一人で相手取れるかね?」
ヘルマンは拳を構え、全身から
「…一つ、聞いていいか?」
豪徳寺は再び拳を振り上げながらヘルマンに尋ねる。
「私が答えられることならば答えよう」
「…男子寮の連中に何をした?魔法か何かで眠らせたとかか?」
豪徳寺の質問が想像していたものと違ったからか、ヘルマンは僅かに目を見開くが、ニコリと笑って豪徳寺に答える。
「御名答だ。騒ぎになってはこちらの立場が不味いからね、ここの住人達には魔法の霧で眠りについて貰っているよ。しかし、他人の心配をしている場合では無いと思うがね?」
「いいや」
ヘルマンの指摘に豪徳寺はニヤリと笑って返す。
「…お前は襲撃する場所を間違えた。此処は麻帆良の男子寮。確かにパンピーも居るには居るが、純然たるキワモノが多く住む麻帆良の魔窟だってのによ」
「…?、何を言っているのかね?」
突然あらぬ事を語り出した豪徳寺にヘルマンは怪訝そうに尋ねる。が、豪徳寺は構わず話を続ける。
「実戦慣れして無え連中も多いから動けるのはそれ程いねえだろうが、それでもてめえを沈めるには充分だろうよ」
「だから…何を言って…」
「つまりは」
その声はヘルマンの背後から唐突に響き渡った。
「っ⁉︎」
ヘルマンは無駄に振り返り隙を晒す愚を犯さず、軸足を捩じり凄まじい勢いの後ろ回し蹴りを背後に叩き込む、が。
「貴殿は麻帆良を舐め過ぎだ」
声の主は軽いダッキングで蹴りの一撃を躱す。その姿はゆったりとした黒装束に包まれ、顔を何故か頭部の半ば迄を覆う、合成樹脂製のケブラーマスクで覆っている。面の男は攻撃を躱し様に手に持つ武器ーー自動拳銃のシグザウエルP226をヘルマンの胴体に撃ち込んだ。
「おおぉっ⁉︎」
悲鳴を上げるヘルマンを他所に計五発を撃ち込んだ面の男は、瞬動を用いて一瞬で豪徳寺の横に移動する。
「大事無いか、豪徳寺?」
「…やっぱお前は起きてたか、忍足」
「無論」
豪徳寺の言葉に短く答える面の男こと忍足。
「……何者、かね?………」
撃たれた箇所を押さえながら尋ねるヘルマンに、肩を竦めて豪徳寺が答える。
「我流で忍術極めてる変態だよ」
「否……麻帆良忍術部部長、忍足 将門。…貴殿は何故昏倒しない?」
忍足は短く名乗り、唯一覗く切れ長の目を細めてヘルマンに尋ねる。
「昏倒?…ああそれ麻酔弾かよ?」
「是…常人ならば既に倒れている」
豪徳寺の質問を肯定する忍足。
「…生憎と普通で無い身でね。成る程増援という訳かい、ゴウトクジ君?」
「いいや?睡眠ガスか何か知らねえが最初に喧嘩を売ったのはそっちだろうがジジイ。麻帆良の武闘派達は、売られた喧嘩は借金してでも必ず買うぜ?」
若干憎々し気に問うヘルマンにあっさり答える豪徳寺。そう言っている内に玄関から窓から、何れも普通で無い格好の変態達が姿を現す。
「HAHAHA‼︎忍足君に聞いたよ豪徳寺君、不審者だって?これは一つ僕の広背筋と大円筋と上腕二頭筋が唸りを上げるべきだろうね‼︎」
無駄に馬鹿でかく、テンションの高い声を上げながら玄関先から姿を現すのは身長二m五十二cm、体重四百十二kgの、ダブルバイセップスを決めている筋肉達磨だった。黒のマイクロビキニパンツ一枚しか履いていないその全身は謎の光沢をテラテラと放ち、黒光りしている。
「…よう金剛、元気そうだな」
「HAHAHA、何だか筋トレをしていたら眠気が襲って来たから、これは僕の筋肉に対する愛が足りないんだと奮起して本気のメニューをこなしていた次第さ‼︎僕の全身は今、美しい筋肉が程良いビルドアップを果たしている……‼︎」
そう言ってダブルバイセップスからアドミナブルアンドサイへ移行するボディビル研究会部長、金剛 力也。
「…筋肉馬鹿はさて置き、巫山戯た真似をしてくれたのはそこの爺さんか?とりあえず銃殺してやるからそこに直れや」
外に面した窓から身を乗り出してきたのはボディアーマーを私服の上から身に纏い、顔にNBC防護マスクを装着したAKー47を構える長身の男である。
「……なあ、お前の所に行った霧って防護マスクで防げんのか
「あん?何を訳解らん事言ってんだ軍艦頭。麻帆良の軍事研が使用する対NBC防護用品が催眠ガスなぞ通すかよ」
マスクの下で鼻を鳴らして答える軍事研究会部長、
「どういう状況だ、豪徳寺?」
「おう、やっと比較的真面なのが来たな」
二階の廊下から飛び降り、豪徳寺の傍らに着地した功夫服の大豪院。
「襲撃だ、犬飼の部屋でそこのジジイに襲われた。那波が一緒だったんで犬飼に中村の部屋まで行かせてる」
「…那波?ああ古のクラスの。あの馬鹿が出てこないのはそういうことか」
大豪院は首肯し、ヘルマンへと一歩進み出て構える。豪徳寺を初めとして忍足、金剛、一番合戦も各々が戦闘姿勢を取った。
「…で、まだ大口叩く余裕はあるかジジイ?」
豪徳寺の問い掛けにヘルマンはやや引きつった笑みを浮かべる。
「…この様な人間が何故一所に集中して居るのかね?」
「別に女子寮襲撃しても教員寮襲撃してもキワモノはゴロゴロ居んよ。麻帆良を舐めんな、クソジジイ」
鼻を鳴らして言い放つ豪徳寺。
「…成る程、私の想定が甘かったということだろうね、いやはや恐れ入ったよ。ならば私は一旦引かせて貰うとしようか」
ぬけぬけとそんなことを宣うヘルマンに、周りが俄かに色めき立つ。
「…爺さんよ。何がしたいのか知らねえが、集団昏睡事件なんて舐めた真似仕出かしといて俺らが黙って返すとでも思ってんのか?」
「Yes indeed!御老体には優しくするのが世の習いとはいえ、時と場合によるよ?」
「…同意」
各部長が言い放ち、大豪院も無言のまま眼光鋭くヘルマンの一挙一動を見張る。尋常でない
「豪徳寺君、唐突で済まないが聞かせてくれたまえ。部屋にいた美しいお嬢さんは君の好い人かね?」
「……あ?」
本当に脈絡も無い質問に豪徳寺は間抜けな声を上げる。
「…部屋にいた」
「beautiful woman?」
「…恋人?」
「違えよ‼︎」
「…話がややこしくなるから流せ貴様ら」
リレーの様に代わる代わる疑問を向ける三人に目を剥いて豪徳寺が怒鳴り、嘆息して大豪院が制する。その様子を見てヘルマンは笑いながら言葉を続ける。
「おや、違うのかね?随分と気にかけているようだから当たりを付けて見たのだがね、これは失敗だったかもしれないな」
その含み有る様子にある予感を感じた豪徳寺は、顔立ちを厳しいものに変え、低い声でヘルマンに問い掛ける。
「…てめえ。まさか那波を……!」
「おや、……察しがいいねゴウトクジ君。その通りだ、あの女性は今、私達が身柄を預かっている。更に言うならば、コノエコノカ嬢、カグラザカアスナ嬢、サクラザキセツナ嬢の三人も、だがね」
ヘルマンは帽子を深く被り直しながら、見えている口元だけで嗤い、言い放った。
「……辻部長………」
刹那は半ば呆然と辻の名を呟いた。
「桜咲…さっきの今で済まない。でも、矢張りお前には俺のことを聞いて貰いたくて、な」
辻はゆっくりと歩み寄りながら、何処か思い詰めた様子で刹那に告げる。
「…何故です?」
刹那は緩く首を振り、辻に問う。自ら先程、この状況を望んでいたというのに刹那は納得がいかなかった。
「…私に、全てを話して頂けなかったのは、私がまだ未熟だから…辻部長が頼るに値しないと判断したから、なのではないですか?…自分がまだまだ至らないのは理解しています。それなのに何故、突然心変わりを……?」
刹那が引っ掛かっているのはそこだった。辻は理由はどうあれ、刹那に自身の事情を話すには時期尚早だと判断した。或いは、辻が単に話したく無い話題だっただけなのかもしれない。それでも辻は
…この人はまた、私に気を使って、私が要らぬ気を回さない様に自分にとって辛い話を無理にしようとしているのでは無いだろうか………
辻の性格ならば充分にあり得る事だと刹那は思う。ならばこそ刹那は、自分の悩み位は自分の都合を優先して貰いたかった。辻には唯でさえ返しきれない程の恩がある。これ以上自らの事で、刹那は辻に負担を掛けたくは無かった。
刹那の言葉を聞いて、辻は何処か寂し気に笑うと更に刹那へ距離を詰め、ゆっくりと刹那に告げる。
「桜咲…それは誤解だ。俺はお前の事を信頼している。でなければ俺の、立ち入った事情を話そうとしたりはしないさ。…只、俺は話してお前に嫌われるのが怖かった」
辻は手を伸ばせば顔に触れられる位置で、刹那の顔を正面から見据える。
「俺は、かなり真面じゃ無い部分がある。お前に対して偉そうな事を言っておきながら、俺もお前と同じだったよ。…受け入れて貰えないかもしれないと思ったら、急に怖くなって、な。お前の前から、逃げてしまった」
「……何を、馬鹿な…!」
刹那は思わず取りすがる様に辻へ詰め寄ると、下から辻の目を見てはっきり告げる。
「私は、辻部長に私を受け入れて頂きました!私がそれで、どれだけ救われたことか、どれだけ勇気を貰ったのか、解っているんですか辻部長‼︎……私は大袈裟で無く辻部長に命に代えても、恩義に報いたいと考えています。貴方がどのような人であろうと、掌を返す様な真似を私は絶対にしません‼︎…だからどうか、私が少しでもお役に立てるなら、私に
刹那の言葉を聞き、辻は束の間目を閉じて何かに感じ入る。やがて目を開いた辻は、潤んだ瞳で刹那に礼を言う。
「…済まない。ありがとう、桜咲」
「当然の事です」
自分の言葉に照れてか、刹那は顔を赤らめながらも言葉を返す。
「…唯、な、桜咲。恩に報いるとか、役に立ちたいとか、そういう堅苦しい理由でお前には動いて欲しく無いんだ、俺は」
「…え………」
辻の思いもよらない言葉に、刹那は戸惑う様に声を上げる。
「俺の
「い、いえ……」
微笑みながら刹那の顔を覗き込む様にして囁く辻に、刹那は若干ドギマギしながら答える。
「…周りで散々言われてるよな、俺とお前は恋人同士だって」
「な、何を仰りたいんですか、辻部長?」
「簡単さ。…今の俺はそれを、デマにしたくなくなってる。意味が、解るか?」
「…………え?」
刹那は告げられた言葉が理解出来ず、数秒固まってから沸騰したかのように顔を赤く染めた。
「え、えぇっ⁉︎そ、それはつまり……ほ、本気ですか、辻部長⁉︎⁉︎」
刹那は間違い無く過去最大級に慌てふためきながら問い返す。
……つ、辻部長が、私に⁉︎………
「…嫌か?」
「い、いえ‼︎嫌というか何と言うか…⁉︎と、突然のことで、な、なんと言っていいか…⁈」
言葉の途中で刹那は辻の手が自らの顔へと伸びているのに気付き、ビクン!と一度身体を震わせてから硬直する。
「…桜咲………」
「は……は、い………!」
ゆっくりと辻の手が刹那の頬に添えられ、辻の顔が近づき………
刹那の身体を抱きすくめる様な体勢で辻の身体が
「……え………⁉︎」
刹那は碌に何が起こったかも解らぬまま、半液体の膜に包まれ、
やがて液体が立ち上がり、身の丈よりも長い長髪を地面に垂らす幼女ーーぷりんの姿を形取る。
「…セルウァ様の言う通り…………せめて、『好き』の言葉は本人から、神鳴流剣士………………」
「…桜咲……」
「…どうかされたんですか、辻部長、それはフツ…さんでは?」
敵か何かが?と刹那は周りを警戒する様に見回す。
「………いや、何でもない。ちょっとフツと話をしててな……それよりどうかしたのかはこっちの台詞だ。傘も差さないで何をやってんだ、お前…‼︎」
辻は急いで刹那へと走り寄り、己が持つ傘の中へ刹那を引き入れる。
「…すみません……」
「気にするな。それよりどうした?…何故、俺を追って来た?」
辻の問い掛けに、刹那は濡れた顔を俯かせると、口端からポツリと言葉を洩らす。
「……先程の話を、辻部長から伺いたくて、来ました………」
「……桜咲………」
「我儘だというのは理解しています」
刹那は顔を上げ、一歩辻に詰め寄ると、下から辻の顔を見上げ、思い詰めた様子で辻に言葉を投げる。
「ですが、辻部長は先程私に、辻部長の
「………………」
辻は刹那の問い掛けに無言のまま、答えない。
「…もし、そうなら。それで辻部長が少しでも気が晴れるなら……どうか私に、話して頂けませんでしょうか?私は、少しでも辻部長のお役に立ちたいのです。…少しでも、辻部長がそれで…」
「桜咲」
刹那の言葉の途中で辻は刹那に呼び掛け、刹那は小さく震えて続く言葉を飲み込む。
「……すみません。ですが、私は……」
「もういい」
辻は再度刹那の言葉を遮り、刹那から一歩距離を取って告げた。
「
辻は何の前触れも無く、左手に持ったままだったフツノミタマを瞬時に抜き放ち、唐竹割りに刹那を斬りつけた。
「………あぁら…なんで気付いたのかしら、これでもあたし、変装にはぷりんちゃん達にも負けない位自信あったのに?」
間一髪、前髪に掠めただけで辻の斬撃を躱した
「…答えてやる義理も無いけど、
ゴキリ、と首を鳴らして据わった目付きで辻は答える。
「…うふふ。何よ、情報と全然違うじゃない、坊や。アーティファクトだけ気を付けてればいいなんて何処のボンクラが言った訳?」
刹那の姿が霞んで消え、ドレスを身に纏う長身の男が姿を現して嘆息と共に言い放つ。
「…京都の一件の関係者か」
「ごめんなさいね、それはあたしの口からは教えられないわぁ。……それにしても坊や、案外クールねぇ。理由は解らないけれど、あたしを偽物だと解っていたにしても今の太刀筋、迷いが微塵も伺え無かったわぁ。…気を掛けてる女の子の姿を斬る事に、いささかの抵抗も無いってことなのかしらぁ?」
笑いながらドレスの男ーーセルウァが辻に問い掛ける。
「……逆だよ」
辻は静かにセルウァの言葉を否定する。
「え?」
「お前が桜咲の姿で、
「……どういうことかしらぁ?」
怪訝そうに問い返すセルウァに、辻は
「だってお前、偽物であるにしろ
桜咲の姿だ。…偽物なら
にこやかに告げる辻に、セルウァは暫くの間黙り込んでから、絞り出す様に言い放つ。
「…あたし本気で人間相手に
辻はそれを聞いても然程気にした様子も無く、セルウァに問い掛ける。
「そうかよ。所でお前は何が目的でこんなことをしてる?真逆桜咲を
辻は無造作に一歩踏み出しながらそう告げる。口調は静かだというのに、得体の知れない鬼気迫る
……成る程、
セルウァはゾクリと全身を総毛立たせながらも、ニヤリと楽し気に嗤う。
「…心配しなくていいわ。確かに私が化けてた子や、貴方と仲の良い子を
セルウァの言葉に辻は目を細め、得体の知れない
「怖い顔しても無駄よ♫取り返したかったら学園中央の巨木の下、ステージの上にいらっしゃい。来てもいいのはバカレンジャーって呼ばれてる五人とネギ君……おまけするとしたら、伯爵が気に入ってる小太郎君位かしら?じゃあ、確かに伝えたわよ?」
セルウァが言葉を終えると共に、その身体を半透明の液体が包み始める。
「……おい」
「何かしら?」
辻の問い掛けににこやかに答えるセルウァに、辻は静かに告げる。
「
「……怖いわねぇ……」
セルウァは呟き、水の中へと姿を消す。辻はセルウァが消えてからも、暫らく無言でその場に佇んでいた。
『…どうやらまた厄介事のようだな、主?』
何処か楽し気に言ってくるフツノミタマに、溜息を吐いて辻は答える。
「…とりあえず全員集合するか……」
「…てめえ………‼︎」
ヘルマンから辻に対してと同様の説明を聞いた豪徳寺は敵意も露わにヘルマンを睨み付ける。
「言うまでも無いが魔法関係者には増援を頼まない事をお勧めするよ。人質の身が大事ならば、ね…」
ヘルマンの身体が半透明の液体に包まれ始める。
「……貴様、何が目的だ?」
大豪院が鋭くヘルマンに問い掛ける。
「何、私は知りたいだけだよ。君達と
そう告げると共に、ヘルマンは水溜りの中に沈む様にしてかき消える。
「「「「……………………」」」」
ヘルマンが消えてからも、その場の全員は無言で佇んでいた。
「……あれ?どうしたの皆?勢ぞろいで?」
掛けられた言葉にその場の全員が声の主に視線を向ける。
「……え?なにどうしたのさ?」
その声の主ーー山下は買い物袋片手に気圧された様に半身を引く。大豪院は溜息を吐き、山下に首を振りながら告げる。
「…緊急事態だ、山下。……また厄介事だぞ」
閲覧ありがとうございます、星の海です。今まで最長の時間を掛けてしまいました。どうにも上手い表現が浮かばず、描き直しを繰り返した結果がこれです。申し訳ありません。次回こそは早めに…とは思います。再三期限延長を繰り返している私ですので、偉そうな事は言えませんが、どうかお見限り無くお付き合いいただければ幸いです。それでは、また次話にて。次もよろしくお願いします。