「………郎」
……なんや、五月蝿いな…………
「……太郎」
…ああ、わかっとるわ姉ちゃん。今日は早いんやろ、でももうちょい……
「…小太郎!」
…だからわかっとるて……
「いい加減に起きろやクソガキゃあぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ⁉︎」
小太郎は耳元で響き渡る大音量の怒号に慌てて跳ね起き、声の主から飛び退って身構える。
「なんやお前は⁉︎耳元でデカい声出すんやな……あぁぁあんたらは⁉︎」
小太郎は寝起きの急な運動で多少フラつく身体を支えつつ文句を吐きかけて、構えた先に並んでいる中村達を見て驚愕の声を上げる。
「起きて早々元気がいいじゃねえの、この坊主は」
「おい小太郎とか言うガキ。病み上がりの寝起きで悪いが早速知ってる事を全部話しやがれ。全部がお前の所為とは言わんがこっちの身内と一般人が巻き込まれてんだよ」
そんな小太郎に対してお世辞にも友好的とは言い難い目付きで中村と豪徳寺が言い募る。
「な、何……?」
小太郎はいきなりの要望に目を白黒させる。小太郎からしてみれば追っ手を何とか振り切った果てに傷が元で意識を失い、気が付けば探していた集団の一員が目の前だ。混乱するのも無理からぬ事である。
最もバカレンジャー、特に豪徳寺からしてみればレスポンスの遅い小太郎の反応は苛立ちを募らせるものでしかなかったらしい、女子供には大らかな態度で接する豪徳寺が、らしくもない荒い態度で小太郎をせっつく。
「おい!ボサっとしてる暇は無えんだよ、早く経緯と事情を説明しやがれ‼︎」
詰め寄る豪徳寺を山下と大豪院が制する。
「落ち着いて豪徳寺、話すものも話せないよその剣幕じゃ」
「この小僧は最前まで意識が無かったのだ、寧ろこちらが先に状況を説明するべきだろう」
諌められ、反射的に口を開きかけた豪徳寺は寸前で思い留まり、一つ深呼吸して僅かに落ち着きを取り戻す。
「っ〜〜!………だな、悪りいお前ら。そっちもな、小太郎…でいいわな?」
「……そうや。なんやわからんが、俺が寝こけてる間に色々あったみたいやな……兄ちゃん達の仲間とカタギが巻き込まれた言うとったが、もしかせんでも、やったのは黒尽くめの爺さんか?」
小太郎の問いに、豪徳寺と大豪院は一度視線を絡めてから同時に頷く。
「っ〜〜!…糞が、やっぱ
小太郎は怒りを表しながらも呻き、豪徳寺達に頭を下げる。
「……詳しい話を聞かせてくれ、小太郎」
豪徳寺の言葉に小太郎は頷き、口を開きかけるが、山下がそれを手で制する。
「山ちゃんどした?」
「時間が惜しいのは解るけど、来たみたいだよ辻が。電話によるとネギ君も直ぐに来る、説明は全員が揃ってからにしよう」
分厚い雨の幕の向こうから険しい表情で歩いてくる辻を指しながら山下が告げた。
「…山下君、なし崩しとはいえ到底この状況で部屋に帰るなんて出来ない。協力出来るかどうかはさて置いて、僕達にもexplanationをしてくれるかい?」
金剛が右腕に巨岩の如き力瘤を無意味に作りながら、巫山戯た動作とは対照的に真剣な表情で尋ねる。後ろの面々も同様の顔付きだ。
「…ま、僕が同じ立場なら無視しろって言われても聞けないだろうからね……」
ただ、恐らく聞いても納得は出来ないと思うよ、と山下は苦笑しながらも注釈した。
「…つまり君を追って奴らは此処にやって来たと言うよりは、寧ろ奴らがネギ君を含む僕達に対して、
眉を顰めるながら山下が纏めた経緯に対して小太郎ははっきりと頷く。
辻が合流して刹那がオカマと液体生物に攫われた旨を伝え、一同に衝撃が走って程なく。これ以上無い程焦りを全面に押し出しながらずぶ濡れになるのも構わず全力で
「…あの白髪のガキが生きていたってのがまず驚きだけどよ、お前なんであのガキの申し出を断ったんだよ?聞いた話だとあの眼鏡の姉ちゃんに置いていかれたことを相当恨んでたらしいじゃねえか。奴らが俺らに何するつもりだったか知らねえが一度は敵対した仲だ、こっちに義理立てする必要も無えだろ?」
中村が首を傾げながら小太郎に問う。あれだけ千草に対して尽力しておきながら、その姉貴分の元へ行ける千載一遇の機会を潰してまでネギ達の側に協力する様な真似をするのか、中村はわからなかった。
小太郎はその問いに鼻を鳴らし、ぶっきらぼうながらも答えを返す。
「そうやな、実際話を聞いた時は俺も迷ったわ。せやけど勘違いせんで欲しいんは、俺自身は千草姉ちゃんが連中の組織とやらに入っとるんを納得してる訳や無い、いうことや。彼奴らが何考えて動いとるかは正直どうでもええ、けど姉ちゃんは
ええ、思てるかもしれへんが、必要があったら姉ちゃんも
小太郎ははっきりとそう言った。
「…ちゅうても俺一人でそんな真似出来る訳無いからな、落ち目になるんが決まっとる西に居るより、手の長さじゃあこの国で勝る所は無い、東の
「…つまり俺達への襲撃を未然に防ぐ事で功績を作り、京都の一件に対する恩赦を貰って関東魔法協会に所属しようと画策していたのだな、お前は」
大豪院の言葉に小太郎は頷く。
「そうや。…ちゅうてもそれだけや無い。俺は京都の一件、悪いことしたと思うとる、兄ちゃんらに詫びを入れたい、っちゅう気持ちもある。でも俺が京都でお嬢様の誘拐に加担したんは自分で望んでのことや、本意や無かったとか姉ちゃんの為やとか、今更何ほざいた所でしらこいわ。俺に罪が有るんは変わらん話や。せやから詫びは、行動で示す……つもりやったんけどな…」
小太郎は胡座をかいた姿勢のまま深々と頭を下げる。
「スマン。結局却ってややこしい形で兄ちゃんらに迷惑かけとるわ」
小太郎の行動に、辻達は顔をそれぞれ見合わせる。
「…頭ぁ上げな、小太郎。近衛を攫った事、辻を闇討った事。何れも簡単に水に流せることじゃ無え。それでもお前の心意気、無下にする奴もこの場にはいねえ。少なくとも今回の一件、お前に悪意が無えのは解った。漢なら吐いた言葉の通り、行動で責任を取って貰うぜ」
その言葉に静かに顔を上げた小太郎に、豪徳寺は手を差し伸べる。
「…上等や‼︎」
ガッシ‼︎と力強くその手を握り返した小太郎は、引き上げられる勢いに乗って威勢良く立ち上がった。
「…まあ、蟠りが解けたなら何よりだがよ」
会話に一段落着いたタイミングで軍事研部長、
「結局何がどうしてどうなってるんだよお前ら?俺達からすればお前らは以前に大事件に巻き込まれていて、その犯人の一人がそこの犬耳のガキで、その一件が尾を引いて今回人質を取られて、明らかに碌でも無い事態が待ってる世界樹前広場にこれから行かなきゃならねえ位の事しか解らんのだが?」
「…大体そういう認識で間違い無いし、悪いがそれ以上こっちから軽々しく言えることは無いんだ、一番合戦」
一番合戦の要約を辻は肯定しつつ、申し訳なさそうながら遠回しに説明を拒む。
「…言えない事情があるということだ、そうなんだろう?辻君」
「お、犬飼。起きて大丈夫かよ?」
「問題無いさ。元々僕は吹っ飛ばされて頭を少々強く打っただけで、向かって傷を負ったのは主にサーベラスだからね」
クッションを枕に、黙って全員の話を聞いていた犬飼がムックリ起き上がり、心配して声を掛ける中村に応え、辻の方を見やる。
「一から説明すると話がややこしくなるから詳しくは言わないが、そこの少年、
犬飼の確認に、代表して辻が前に出て答えを返す。
「…済まない、皆。後で納得の行く説明をちゃんとする。今は一刻を争う事態だ、奴らは人質を取っていて俺達以外に増援が来るのを望んでいない。…黙ってここは行かせてくれ」
頭を下げてそう告げる辻に部長達は顔を見合わせ、代表して犬飼が答えを返す。
「
「…ありがとう……」
辻は更に深く、頭を下げた。
「…んで、敵は豪徳寺とタイマン張って互角以上の爺さんと変身能力があるらしいオカマ野郎、更に闘獣部部長の熊をも咬み殺す怪物ドーベルマンを一蹴するマッチョ。ついでに訳わかめな液体生物か……盛り沢山だなオイ」
一同は人質救出の為に逸る気持ちを抑えて、敵の戦力分析に入っていた。ネギなどは特に直ぐにでも飛んで行きたがったのだが、
「馬鹿野郎、誘拐犯の言うことを鵜呑みにすんな。ノコノコ出て行った所で『はははよく来たね、素直に言う通りにしたご褒美に人質は解放しよう』…な〜んて上手い話がある訳無えだろが。反撃すれば人質を殺す、なんて言われて嬲り殺しにされたらそれで俺達お終いじゃねえか。どうにかして人質掻っ攫う算段建てるんだよ頭は帽子乗せる為だけに付いてるんじゃ無えぞ」
「その頭の中身が空洞化している中村に言われたくは無いだろうが、こいつの言い分が正しいぞネギ。人質は
と諌められ、焦りを顔に浮かべながらも席に着いていた。
「…余りゆっくりともして居られんでござろう。矢張りここは素直に呼び出された面子が顔を出し、彼奴等
の相手をしている間に、顔の割れていない拙者達が隙を突いて人質を救出するしか無いのではござらんか?」
楓が腕を組みながらそう発案する。実際各々が遭遇した相手の特徴を共有してしまえば新たにこの場で得られる情報は無く、人質が居る為下手に増援を呼んだり奇襲を仕掛けたり出来ない以上、対策の建て様が無い。既に機先を制されて人質という大きなアドバンテージを握られているのだから、多少場当たり的な方針が挙げられるのも致し方の無い事だった。
「…そのやり方ならスニーキングに長けている俺や其処の忍者バカも協力出来ると思うぜ」
「…同意」
一番合戦と忍足が楓の案に同意する。
「ふむ…犬飼君はパートナーと共に負傷、僕は身を潜め様にも、この輝かしい筋肉が否が応にもattractionを発してしまうからねえ…残念ながらそういう方面ではお役に立てないよ……実に残念だ‼︎」
「…解ったからもう少し声を絞ってくれ金剛君…傷に響くよ……」
「ああ、済まないね犬飼君!」
無念そうな顔でサイドチェストを決めつつ金剛がデカい声で言い放ち、唸るサーベラスを撫でつつ自身の頭を押さえる犬飼に文句を吐かれる。
「き、危険ですよ部長さん達‼︎詳しくは言えないですけど、相手は凄く危ない世界の人達なんです‼︎」
「ネギ、皆まで言ってやんな。こいつ等はんな事百も承知だよ。本当に協力してもらうかどうかは別として、覚悟の上で言い出してくれたなら、心意気を組んでやるのが漢ってもんだ」
ネギの魔法使いとしての立場からすればある意味当然な制止の言葉をやんわりと豪徳寺が遮る。
「…大体ネギ君、何も知らない素人だから、って言うなら、俺達もそうだったろう?」
「そ、そうですけど……」
苦笑しつつの辻の言葉に、語尾を濁らせるネギ。
「やられたらやり返す、は麻帆良の
「…愚問」
大豪院の念押しに短く答える忍足。
「…ま、それは置いておくにしても長瀬ちゃんの言う通り時間が無いし他に代案も無い。ついでに言うなら大豪院が古ちゃんを説得して諦めさせる時間も無いね」
「そういうことアル、ポチ‼︎」
「きさ……!………いや、確かにこれ以上は俺の
「はいアル」
抗議をしかけた大豪院が思いとどまって数秒程も沈黙し、何時になく重い調子で古を呼ぶ。古は茶化さず、畏まって返事をした。
「もうお前の参戦には、何も言わん。……だが常に最悪命が危ない場であると心掛けろ。単なる対練とは、訳が違うのだ」
「…
この上無く真剣な様子で告げる大豪院に、古は左拳を右掌で包み込む包拳礼を持って、恭しく応えた。
「……大豪院、話進めていい?」
「桜咲達が攫われてるんで苛ついている精神状態を自覚している上で敢えて言わせて貰うが、他所でやれよ二人共」
「てめえらは極めて真剣なんだろうがぶっちゃけ見せつけてる様にしか見えねえ」
「ポチぃぃぃ………イチャイチャしてんじゃ無えU・ZE・E・YO‼︎」
「…まあぶっちゃけとっくの昔から公認夫婦だろこいつら、今更じゃね?」
「確かに、認めていないのは中武研の他部員達位でござろうなあ……」
「…まあ古菲君は格闘系の男子から人気高いしねえ……」
「…One shold not interfere in lover's quarrels」
「HAHAHA‼︎確かにそうだね忍足君‼︎」
「「貴様ら(お前達)其処に並べ(アル)……‼︎」」
「あ、あの皆さん!時間が無いんですって⁉︎」
「……大丈夫なんか、この連中………」
「……何時ものノリじゃねえですか、兄貴。ある意味余裕ありやすぜ?それから小太郎っつったか?腕
閑話休題。
「…気を取り直してもう一度。増援を呼ぶなと言ってる以上奴らに僕らは監視されてると思った方がいい。流石に今この場の話まで聞かれてるとは思わないけれど、救出組は隠密能力に長けた人だけがタイミングを僕らが出て行く時とずらして細心の注意を払って近付いて貰う。…これ位しか出来る事は無いね。不安は残るけどもう時間が無い、今直ぐ行動を……」
「待てい、山ちゃん」
方針を纏めに掛かった山下の言葉を、先程から何事かを一心に考えていた中村がおもむろに遮る。
「なんだ馬鹿、山下の言った通り時間が無いのだ。妄言を吐くならまた今度に…」
「馬鹿野郎ポチ、この状況で巫山戯る程俺も事態を軽く見ちゃいねえ。更に今言った方針にも反対するつもりは無え。…ただ、それだけじゃ
「弱い?」
「…どゆことや、兄ちゃん?」
中村の発言に辻が首を傾げ、小太郎が尋ね返す。
「隙を突いて人達を奪還、ってのはいいが奴らだって当然んな当たり前の戦略はお見通しの筈だ。普通に考えてどれ程俺らが派手にふっかけた所で人質のガードを緩めるとは思えねえんだよ」
「…確かに人質を前提とした場合の対人戦のセオリーを相手が理解していないなんてのは希望的観測に過ぎねえな……」
「……でもよ中村、それを言っても始まらねえだろ。今直ぐ行動するしか選択肢は無え以上何とかして隙を作るしか…」
「それだよ」
反論する豪徳寺を遮り中村が指を立てて立ち上がる。
「この俺様が出鼻で奴らから
中村の言葉に各々は顔を見合わせ、代表して楓が尋ねる。
「中村殿。それが出来れば苦労は無いでござるが……具体的に方法は決まっているのでござるか?」
「愚問だな」
中村は不敵に笑い、言い放つ。
「俺様にいい考えがある」
「……なあ兄ちゃん、巫山戯とんのか?アンタは………?」
小太郎が怒りを通り越して呆れを抱きつつ、疲れた様に問い掛ける。周りも一部を除いて大体似た様なリアクションだ。
「俺は至極大真面目だ。これで度肝を抜かれねえ奴はいない」
中村はきっぱりと断言する。
「…中村さん!巫山戯ている場合じゃ無いんです‼︎明日菜さん達が攫われて今にも酷い目に遭わされようとしてるかもしれないんですよ⁉︎」
ネギが怒りさえ口調に交えつつ、立ち上がって中村に猛抗議する。
「ネギぃ‼︎言ってんだろうが、俺様は大真面目だ‼︎あのゴリラ教師をも束の間行動不能とした俺様の秘技だぞ⁉︎信じろ、絶対に上手く行く‼︎」
「いや無謀を通り越して無茶苦茶だぜ旦那‼︎ほら、他の皆さんも何か言ってやって下せえ‼︎」
カモの促しに、しかし意外な言葉がバカレンジャーから返ってくる。
「…いや、それで行こう」
「ええ⁉︎⁉︎」
真逆の辻からのGOサインにネギが絶叫する。
「そこの変態の言う通り、あの冗談が一切通じねえ杜崎が怒り心頭の状態で数秒呆ける程の破壊力だ。もしかしたら本当に上手く行くかもしれん」
「仮に失敗してもそこの変態が殺されるだけだからデメリットは何も無いよ」
「一種の陽動と考えろネギ。囮は派手な方が敵も引っ掛かり易い」
「……本気で言ってんのかお前ら?」
バカレンジャーの言葉に、一番合戦がキチガイを見る目で尋ねる。
「…いや、案外いけるかもしれないよ一番合戦君」
続いて賛成したのは無意味にオリバーポーズを取りつつ話を聞いていた金剛だ。
「…いや、私も巫山戯ている様にしか思えないんだが……」
「その気持ちはよく解るよ犬飼君。これ以上無い程に非、常識的且つ変態的な意見「お前にだけは変態呼ばわりされる筋合い無えよ」HAHAHA、僕の筋肉に嫉妬しているのかい、中村君?それはさて置き、まあ考えてもてくれたまえ二人共?いきなり今話した様な存在が現れて、即座に迎撃出来る自信が果たしてあるかい?」
「……ぬう………」
「……確かにサーベラスさえ硬直するだろうね、そんな中村君は……」
金剛の問い掛けに唸りながらも否定の言葉が出ない二人。
「…本当にやる気かい、兄ちゃん……?」
「中村……変態だ変態だとは思てたアルが、そこまで変態だとは思わなかたアル」
「ククク何とでも言うがいい‼︎お利口さんでいい子ぶってるお行儀の良いてめえらには真似の出来ん行為だろうよ!この俺をして変態的と思われる必殺の一撃、見事決めて今回のMVPとなってくれるわぁ‼︎」
「…開き直った馬鹿は強い」
高笑いをする中村を見て、忍足はポツリと呟いた。
「……まあ更に不安な要素が増えたけどネギ君。そこの変態はどうなろうが構わないように。君は生徒の救出だけを考えていればいいよ」
「…ほ、本当にやるんですか……?」
構わず話を進める山下に、ネギは途方に暮れた様子で聞き返す。
「くどいでネギ。俺もどうかとは思うけど兄ちゃんらの言う通り失敗しても無視して俺らが人質救えばええんや。あの変態な兄ちゃんはいないモンとして扱えばええわ」
「そういう事だ」
小太郎の無情な宣言に大豪院が同意する。
「…中村の案は受け入れるとしてもう行動に移ろう。大分時間を喰った。…こう言っておいて何だが俺からもう一つ、犬飼、頼みがある」
「…なんだい?」
辻の言葉に、怪訝そうに犬飼が答える。
「……バレない様な保険の掛け方を、お前
そうして、更に幾ばくかの打ち合わせをしてから、ネギと小太郎、バカレンジャーは世界樹広場に向かって移動を始めた。
「……遅いな……」
「焦らないのよニテンス、がっつく男はモテないわよぉ〜?」
「ははは、刺激の無い
「自分で着せた癖に何ほざいてんのよこのエロジジイ‼︎そんな風に気を使うんなら初めっからこんな真似するんじゃないわよー‼︎」
何処かズレているヘルマンの気遣いに、触手の様なものに捕らわれたセクシーランジェリー姿の明日菜による全力のツッコミが炸裂する。
巨大な世界樹の鎮座する広場のステージ上、一段高い壇上に明日菜、木乃香、刹那、千鶴の四人は拘束されていた。
明日菜が立った状態で個別に拘束されているのに対して、他の三人は半球状にせり上がった水のドームの様なものの中に閉じ込められていた。
「…申し訳ありません、お嬢様…‼︎その身をお護りする立場でありながら、卑劣な騙し討ちなどにやられ、この様な醜態を…」
「せっちゃんせっちゃん、もう言いっこ無しや。こっからどうするのか考えた方がずうっと前向きやで〜?」
「…ふふ、強いわね木乃香さん。流石に私は、この状況に狼狽えてる自覚があるわ……」
手足を縛られて身動きも碌に取れない状態ながらも、自責の念に駆られて頭を下げる刹那を木乃香が慰め、千鶴は現実離れした展開の連続にやや乾いた笑みを浮かべる。
「ま、慌てず騒がず大人しくしてるだけ大したモンだぜ、アンタ」
「一般人とは、思えまセンネー」
「肝っ玉母ちゃん…」
「う〜んちょっと遠いわねぷりんちゃん!」
すらむぃ、あめ子、ぷりんの三体とセルウァは千鶴に声を掛けつつそんなやり取りを行う。
「…貴様ら、一体何が目的だ‼︎
刹那の激しい語気での問いに、セルウァが肩を竦めて言葉を返す。
「んもう!そんな顔して怒っちゃ駄目よサイドテールちゃん。可愛いお顔が台無しじゃない」
「巫山戯るな‼︎」
からかう様なセルウァの返しに刹那は激昂する。
「怖いわねえ……やっぱり乙女心を弄ぶ様な真似をしちゃったのが良くなかったかしら?あの彼氏、
「……真面に答える気は無いということか……‼︎」
刹那は更なる悪態が飛び出そうになる口を噤み、呼吸を落ち着かせる。刹那一人ならば兎も角、木乃香を初めとして他にも人質が居るのだ、余り挑発的な物言いは避けなければならない。
最もセルウァはそんな事を気にした様子は無く、自分の謝罪が誤魔化しと取られた事の方が不満らしかった。
「心外ねえ、貴方達への行いについては、焦らなくてもあの子達が来たらちゃーんと伯爵が説明してくれるわよぉ。そんな事より、アタシは結構真剣に悪いと思ってるのよ馬に蹴られる様な真似をしちゃったの。勝手な言い分だけれど、下げた頭をあんまり安く見て欲しくないものだわねえ?」
身体をくねらせながらも本気で不本意そうに息を吐くセルウァに対して、刹那は鼻を鳴らして吐き捨てる。
「貴様の様な輩にまでありもしない仲を言及されるとは私の方こそ不本意だ。辻部長もさぞかし迷惑だろうよ、俗な見方をされていて」
「…せっちゃん、誘拐犯の人にまで言われとるんやなぁ……」
「あらあら…」
こんな状況にも関わらず、何だか微笑ましいものを見る様な表情で不機嫌そうな刹那を見やる木乃香と千鶴。一方セルウァはそんな刹那の物言いに首を傾げた後、暫しして得心がいったとばかりに頷き、言い放つ。
「…そっか、自分でまだ気付いて無いのねぇ、それとも無意識で否定しちゃってるのかしら?何にしても可愛いわねぇあんなにあからさまなのに…」
「…何が言いたい……」
クスクスと笑うセルウァに、目を細めて刹那が問いかける。
「サイドテールちゃん、告白紛いの事言われた時にどう思ったかしら?きっと悪い気はしなかったわよねぇ、モテて嬉しくない女の子はいないもの。…貴女は結局告げられた相手が偽物だったから
でもねえ、とセルウァは長い睫毛の奥の瞳を悪戯っぽく煌めかせ、刹那に告げる。
「じゃあさっきのシチュエーションが本当に起こったらどうかしら?…貴女の答えはどう?彼みたいな人はタイプじゃ無いかしら?」
その問いかけに刹那は心臓が一つ、脈打つのを確かに感じた。セルウァに言われた通り、偽物だったから、騙し討ちの手段に過ぎなかったから。と、あり得ない想定に狼狽えて捕まった、単なる恥ずべき失態として押しやろうとしていた、そんな心を見抜かれた様な気がしていた。
「…別に今直ぐアタシに何か言わなくていいわよぉ、いきなりこんなこと言われたら混乱するものねぇ…」
それでも一つお節介、とセルウァは何処か楽し気に。
「女の子って現金よ。相手に悪いな、何て思ってても結局タイプで無いなら嫌って言えちゃうもの。…だから男の子に告白されたとして、理由や動機なんて考えられなくともいいわ。それが嫌だと思わなかったなら…」
セルウァは両手で作ったハートマークを胸に当て、ビシィッ‼︎と半身のポーズを決めて宣言した。
「…L・O・V・E!! LOVEしちゃってるってことよ‼︎‼︎」
「…どうやら来た様だね」
「…待ち侘びたぞ」
「んふふふふ、囚われのお姫様がこんなにいるんだもの、王子様は何人いるかしらねぇ?」
遠方に微かに見えてきた、ヘルマン達に向かって疾走してくる厚手のレインコートを羽織った人影に、何れも楽し気に笑いながら臨戦態勢を取るヘルマン達。
「…せっちゃん、言われてしもたなぁ……」
「あらあら、大丈夫かしら桜咲さん?」
「…頭から湯気出したまま動かねえぞあの神鳴流剣士……」
「こんな状況で乙女やってる場合じゃあ無いと思いますケドネー?」
「…ラブコメ時空……」
…何やら緊張感の無い空気が水牢の周りでは満ちているが、戦況は動き始めた。
「…一人か?他の連中はどうした?」
「んー?逃げた訳でも何処ぞに応援呼びに行った訳でも無いのは
「猪の様にただ突っ込んでくる訳では無いということだよ二人共。楽しみじゃあないか、どのような策を練ってきたのか、ね!」
ニテンスの言う通り、ヘルマン達目掛け突っ込んでくるのは一人を除いて姿が視認出来ない。その背格好からして男性らしい、フード付きのレインコートを着ているため表情さえ伺えない人物は、更に一段階加速すると同時にヘルマン達から残り四百m程の位置で、着ていたレインコートを勢い良く脱ぎ捨て、その姿を露わにした。
後に明日菜はその時の凄まじい光景についてこう語る。
「いやもう何て言うか……ヤバいわねあの人。うん、 ホントそれしか言えないわ、うん。確かにあのエロジジイ達が揃って呆気に取られてたんだから、確かに有効な手段だったと思うわよ?でも普通あんな場面であんな事仕出かそうなんて誰も考えないでしょ頭おかしいんじゃないかと本気で思ったわ……まあだからこそ成功したんだし、それで助かったんだから文句言うのは筋違いだってわかってるんだけど…やっぱりねえ……」
その人物は先ず股間の逸物に相当する部分に金の鯱鉾がそびえ立つ、ピッチピチの黒いビキニパンツを履いていた。凶悪に反り返った鯱鉾に持ち上げられてめくれ上がり、風に翻るのはマイクロミニのシフォンミニスカート。丸見えになっていて意味の無い絶対領域を強調する様にニーソックスを身に付けた足元で一歩足を踏み出す毎にプギュプギュと愛らしい音を鳴らすのは、可愛らしくデフォルメされた熊さんスリッパだ。
上半身には『やらないか』の文字と共にとある悪っぽいツナギ姿の自動車修理工の姿が印刷されたTシャツを纏い、駄目押しに乳首の部分が丸く切り落とされて男の綺麗なピンク色のそれが露出している。剥き出しの首元には何故か金ラメの蝶ネクタイ、赤いシュシュの付いた左右の手には左手に特太のキュウリを逆手に、右手には獅子舞の頭を持ち、歯を絶えずカタカタと鳴らしながら上下左右に振り回す。顔にはエロマークの記入された女物の純白パンティを仮面の様に被り、頭には無数の細い三つ編みにされて先端がピンクのリボンで結ばれた紫色の長髪カツラ。七色の発光ダイオードが塗られたマントをたなびかせながら走るその人物は、鳴き声の様な奇声を発しつつ、一直線に突っ込んで来た。
「モポォォォォォォォォォォォォォ‼︎‼︎‼︎」
どう控えめに表現しても史上最大の変態が其処に居た。
「「「………………………は??…………………………」」」
ヘルマン達は揃って間の抜けた声を上げ、近付いてくる怪人をポカンと見つめる。怪人がヘルマン達から残り百mを切った所で、同じく呆然としながら見入っていた明日菜がハッと我に返り、叫ぶ。
「な、なんか来たぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎」
その叫び声に各々が正気に戻り、その場は大混乱に包まれた。
「なななな、なんやあれ、なんなんや〜⁉︎」
「お、お嬢様‼︎私の後ろに!早く‼︎」
「……何かしら…あれ…………」
「ギャアァァァなんか来たゾォォォ⁉︎」
「気持ち悪イデスゥゥゥ⁉︎」
「……オオーー……‼︎」
「キャアァァー‼︎何、ド級の変態⁉︎」
「迎撃だ、迎撃しろ⁉︎」
「ぬぅぅぅぅぅぅ⁉︎
得体の知れない悪寒に突き動かされ、ヘルマンの放ったエネルギー波の様な一撃が怪人目掛けて突き進む。
「ちょわっ‼︎」
しかし怪人はバネ時掛けのオモチャの如く、尻を横合いに突き出した反動で後ろ向きに跳躍、攻撃を紙一重で躱すと半回転してガニ股で着地、そのまま腰を左右に振りたくり、身体全体をくねらせた気持ちの悪い女の子走りで尚もステージに接近する。
「……巫山戯た真似をぉぉぉぉ‼︎」
「ベッロ・アドーネ・ダメリーノ 闇の精霊97柱……」
「ぬぅん‼︎」
何処までも巫山戯たその動きにニテンスは激昂して虚空から大剣を引き抜いて突進し、セルウァは呪文の詠唱に入る。ヘルマンは怪人を近付けさせまいと先程よりも小振りなエネルギー波をジャブの動きで連射し始める。
「ふふふ…当たらないよ………!」
怪人はクネクネした動きで器用にエネルギー波を躱し、突っ込んでくるニテンスに対して獅子舞の頭を盾のように構え、キュウリをナイフの様にチラつかせる。
「っ…‼︎真っ二つにしてくれる‼︎」
あからさまな挑発にニテンスは青筋を浮かべ、大剣を大上段に振りかぶり全力で突き進む。
「
「………!」
セルウァが全方位から半円状に
しかしヘルマン達は余りに予想外なナマモノが現れたからか、冷静に対処しているようで冷静では無かった。怪人の格好は確かに超絶的な
襲いかかる驚異を前に、怪人ーー言うまでも無い事だが中村であるーーは不敵に笑い、叫んだ。
「今だてめえ等ぁっ‼︎‼︎」
その瞬間、ステージ脇の座席を乗り越え茂みを掻き分け、中村以外のバカレンジャーとネギ達が人質に向かって飛び出してきた。
「「「なっ……⁉︎」」」
「
振り返って驚愕するヘルマン達に構わずネギの放った雷撃がすらむぃ達に炸裂、
「ぬワァー⁉︎」
「痺レマスゥー⁉︎」
「っ…‼︎感電プレ、イ……‼︎」
スライム達のガードが空いたその隙に、大豪院と豪徳寺が水牢を叩き壊し、辻は明日菜を拘束する触手のようなものを一刀の元に斬り払う。
「先輩‼︎」
「え、ええ⁉︎」
「あ、あれは陽動…⁉︎な、中村先輩ですかあの変態は⁉︎」
「あの…豪徳寺先輩?」
「色々ツッコみたい事はあるだろうがまず逃げるぞ‼︎」
「豪徳寺は那波ちゃんを‼︎近衛ちゃんは僕が、小太郎君⁉︎」
「直ぐや…千切れたで!走れるか神鳴流の姉ちゃん⁉︎」
「ええ‼︎明日菜さんは⁉︎」
「俺達が連れて行く、全員散れぇぇぇぇっ‼︎」
辻の号令と共に、豪徳寺が千鶴を、山下が木乃香をそれぞれ抱き上げ、手足の拘束を小太郎に解いて貰った刹那、ネギと小太郎を共に一丸となって走り出す。途中で明日菜を抱えた古の傍らで追撃を警戒する辻と合流し、一目散に麻帆良の本校舎方面へ一同は駆け出した。
「ッガァァァァァァ‼︎‼︎」
怒りの咆哮を上げたニテンスが身体を急旋回させて逃げた辻達の方へ向かおうとするが、
「どっち向いてんだゴリマッチョォォォ‼︎」
「ガァァ⁉︎」
「っ‼︎行かせないわ、よぉぉぉぉっ⁉︎」
「済まぬがそれは、此方の台詞でござる……忍‼︎」
一番辻達に距離の近かったセルウァが足止めをしようとした矢先、唐突に目の前に巨大手裏剣が現れてセルウァに叩き付けられる。同時に手裏剣に括り付けられた爆符が楓の掛け声と共に炸裂。衝撃と爆風で逆にセルウァはヘルマンの側へ吹き飛ばされる。
「っ…‼︎
「当たるかボケェ‼︎」
ヘルマンが歯噛みしながらも中村へ攻撃を仕掛けるが中村は素早く瞬動でその場を飛び離れ、攻撃を回避する。
中村は傍らの楓と共に数回の瞬動であっという間にヘルマン達から距離を離すと、観客席の最上段で振り返ってミニスカに包まれた尻を左右に振り、心底ムカつく口調でヘルマン達を嘲笑った。
「へっ、馬ぁぁ鹿 馬ぁぁぁぁ鹿‼︎きっちり俺様の陽動に引っ掛かりやがって間抜け集団がザ・マ、アァァァァァァ‼︎‼︎格好付けていざ迎え撃たんと気炎上げてた所を勝負さえして貰えずにスルーされてねえ今どんな気持ち?どんな気持ちですかぁぁぁぁん⁉︎…うぉっと⁉︎」
「お怒りの様でござるなぁ……無理も無いでござるが」
憤怒の形相でニテンスが投げ付けた観客席の一部を中村は軽やかに躱し、尚も挑発を重ねる。
「兎も角これでてめえ等と潰し合う理由も消えたわなぁ⁉︎大人しく尻尾巻いてお家に帰って、マンマのおっぱいに顔埋めて悔し泣きでもしてろや凸凹トリオ‼︎それではこれにて私失礼致しまぁぁす!アデュー‼︎」
「人を怒らせることにかけては天才でござるな、中村殿。…最も単刀直入に言ってその格好は気持ち悪いでござる」
「ヒデェ⁉︎」
最後に尻を二回叩いて中村は楓と言い合いながら観客席を飛び降り、森の中へ消えた。
「「「…………………………」」」
残されたヘルマン達は暫しの間無言で佇む。
「………伯爵………」
「……なんだね?………」
軋る様なニテンスの呼び掛けに、奇妙な迄の無表情でヘルマンは答える。
「……あの巫山戯た餓鬼は俺に殺らせてくれ、…八つ裂きにしてくれる…‼︎」
全身から壮絶な殺気を漏らしながら、ニテンスは宣言する。
「あぁぁら、じゃあまだヤるのね?」
「…なんだ?貴様はこのまま引くとでも言いたいのかセルウァ?」
「睨まないで頂戴な、勿論アタシも追っかけるわよん♫……ここまでコケにされたのは産まれて初めてだもの。ねえ伯爵?」
「無論だ。すらむぃ、あめ子、ぷりん。動けるかね?」
「応よ伯爵ー」
「これ位のダメージでしたらまだまだイケマスー」
「…第二ラウンド…」
「うむ」
ヘルマンは両の拳を打ち合わせて轟音を発し、何時もの笑みを消して言い放つ。
「
閲覧ありがとうございます、星の海です。…申し訳ありません!遂に一週間も間を開けてしまいました。仕事のトラブルでここ最近ずっと缶詰だったのですが、そんな事は私事であり、読者の皆様には関係ありません。更新が遅れたことを、心よりお詫びいたします。…本文ですが、ようやく戦闘回に入れそうです。中村がもう、なんかあれですが、ウチの中村は最早こういう仕様ですのでお諦め下さい笑)次回こそは、次回こそはなるべく早めに上げてみせます。どうかお見限り無く、今後もよろしくお願いします。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。