お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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ようやく話も架橋です。次話辺りで決着…となるでしょうか?


14話 因縁の相手

「ゆえ~…大丈夫かなぁ、ネギ先生達……」

のどかは浮かない顔で、変わらず豪雨の降り注ぐ外を見やりながら息を吐く。

「べらぼうに強いという桜咲さん迄もが攫われてしまったらしいですから、生易しい相手では無いでしょうね……」

夕映もまた渋い表情でベランダの手摺りに凭れ、気難しい顔のままタレるという奇行を行う。どちらも落ち着いてなどいられない、といった様子だ。

「まあまあ。大丈夫だって、あの鬼みたいな先輩達だよ?しかも人質なんてあの人達が一番怒り狂いそうなやり方じゃない、あたしは寧ろ先輩方の誰かが前科持ちにならないかが心配だねえ」

朝倉は苦笑して不景気な面の二人に言い放つ。

「ま、私は村上やいいんちょを上手いこと誤魔化してくるから、思い詰め過ぎなさんな二人共。何たってあの人らガチの神殺し…あれ?誰だろ?」

朝倉が席を立ち、帰りが遅い千鶴を心配しているであろう夏美とあやかをフォローしに行こうとしたタイミングで、部屋のチャイムが鳴り響く。

「…朝倉さん、まさかとは思いますが……」

「…わかってるよ」

ハラハラして席を立つのどかと警戒して鈍器の様な分厚い本を掲げる夕映。朝倉自身も何時でも逃げられる様に腰を引き気味になりながらドアホンに出る。

「…はい、どちら様ですか?」

『闘獣部副部長の獅子崎と言えば判るかしら?』

「……ああーこれはどうも……」

受話器から聞こえてきた女性にしては低めのハスキーな声に、朝倉は予想外な人物の登場からか若干棒読み口調で応対する。

獅子崎 麗華。まるで名を体で表すかの如く、ボリュームのある金髪を持つ怜悧な美貌のクォーターであり、常に体長五m近いシベリアトラ並みの雄獅子を連れている事で有名な女性である。朝倉は部活の取材で何度か顔を合わせた事こそあるが、部屋にわざわざ訪ねてこられる程の仲では断じて無い。反応に困るのも当然だろう。

「あの、すいませんがどのようなご用件で……」

「安心して頂戴、貴女の所が何かデマ記事でもでっち上げて報復をしに来た…なんて物騒な話じゃ無いから」

素っ気なく遮ると獅子崎は一つ息を吐き、朝倉に獅子崎は告げる。

「普通じゃない方法での伝言(・・)を貴女宛に頼まれたのよ」

 

 

 

「だーはははははは‼︎上手く行ったなお前らぁっ‼︎」

「話し掛けないでくれ変態、知り合いと思われたくない」

「右に同じく、気持ち悪いから失せてよ」

「吐き気がしてきた、そのまま死に晒せ」

「その無条件に殺したくなってくる格好で寄るな、殴り殺すぞ」

「アンだてめえらぁぁぁぁぁっ⁉︎」

藪を掻き分け、楓と共に合流した中村に対して浴びせられたのは冷たい拒絶の言葉だった。

「いや先輩、無理も無いって、ヤバいわよホント……本屋ちゃん辺りが見たらショック死するんじゃない?」

「ごめんな〜中村先輩助けて貰たのに…でもウチも流石にそれはドン引きやわぁ……」

「あの、中村先輩…大変申し上げ難いのですが余りお嬢様の視界に入らないで頂けると…」

「……ええと、ノーコメントでよろしいかしら、中村先輩?」

そしてそれは幾分オブラートに包んでいるとはいえ人質勢も同様であった。

「畜生ぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎なんだいなんだいお前らまで‼︎誰が一番身体張ったかなんて一目瞭然じゃねえかよ誰のお陰でスムーズに救出出来たと思ってんだ⁉︎」

「アイヤ、仕方ないアルよ中村。今の格好だと女の敵所か人類の敵アル」

「というかいい加減その奇天烈な衣装を脱いだら如何でござるか?満場一致で不評なのは理解出来たでござろう」

「馬鹿め‼︎俺の格好を見て替えの服なぞ携帯しているように見えるのか貴様らぁ⁉︎」

「偉そうに言うなカテゴリ・ 人間のクズ」

冷たく吐き捨てる辻。中村は気にした様子も無くしょうがねえなー、などと呟きながらその場でフィギュアスケート選手の様に走りながら跳躍して大回転。着地した時には鯱鉾付きビキニパンツ一丁になっており、丁寧に畳まれた変態グッズをそっと枝の上に置き何事も無かったかの様に走り続ける。

「今だ格好はどう見ても変態やのにえらいマシになった感があんのは何でやろうな……」

「張りもの付きのビキニパンツ一枚ってどう考えてもおかしな人の筈なのにね……」

「グダグダ五月蝿えぞガキ共!ともあれ人質は奪還したから後は逃げるだけだなオイ‼︎」

ひそひそと言い合うネギと小太郎を一喝して解決を謳う中村。しかしヘルマン達と事前に相対していた辻や豪徳寺は今だ警戒を緩めない。

「それがそうともいかなそうなんだよ中村。推測だが単純に距離を離しても奴らにはあの半透明の幼女がいる、多分奴らは京都で白髪の少年やら黒尽くめやらが使っていたワープ能力か魔法かと同様のものを使えるらしい。桜咲、お前が「は、はい‼︎何ですか辻部長っ⁉︎」うおっ⁉︎」

情報を共有しようと声を掛けた途端、爆発した様に高速反応して叫ぶ様な声で返答する刹那の勢いに辻は小さく悲鳴を上げて、並列走行していた位置から一歩分距離を取る。

「…どうした桜咲?」

「ど、どうしたとは何ですか?私は至って平常心ですが⁉︎」

「何がどうしたとまで尋ねていないのにそんな答え返してる時点で明らかに平常心とは逆の状態だろ。本当にどうした?…真逆あの連中に神楽坂ちゃんみたいに妙な事されて無いだろうな⁉︎」

顔を紅潮させて、走りながらもバタバタと手足を無意味に動かす明らかに落ち着きの無い挙動不審な刹那に、辻は悪い予感を覚え問い詰める。

「あたしみたいに、って何よあたしみたいにって⁉︎」

「明日菜落ち着くアル、辻も刹那が心配で余裕が無いだけアルよ。明日菜に追い打ち掛けようとかそんな陰険な意図は辻には無いアル、許してあげるヨロシ」

「そ、そうですよ明日菜さん‼︎辻さんは明日菜さんに起こった悲劇に関しても悲しんできちんと憤っていました‼︎ただ刹那さんが心配なだけなんです、許してあげて下さい‼︎」

下着姿で裸足の明日菜は足場の悪い森林の中を走れない為、救出した段階から依然として明日菜を抱え上げて走っていた古と平行していたネギが辻のフォローをする。

「待ちなさいアンタら‼︎まるであたしがあの変態ジジイ共にいかにも何かされちゃったみたいな言い方はやめなさいよ⁉︎」

「えぇーだって他の人質が攫われたまんまの格好で纏めて閉じ込められてんのに一人だけ別に吊るされてて触手っぽい謎エロ生物がいておまけにエロ下着に着替えさせられてんだぜ?……何も言うな、自分で傷口を広げようとしなくていいんだ、アスニャン。大丈夫、俺達は何があっても友達だからよ?」

「アンタは今から先輩後輩の仲ですら無いわよこの史上最強の変態‼︎勝手に人をエロ担当に決め付けんじゃ無いわよーっ‼︎」

明日菜は真っ赤になって怒りながら、抱えられた体勢のまますれ違う枝や細木を引っこ抜いてしたり顔の中村へ投げ付ける。

「危ねっ⁉︎何しやがんだ折角人が気ィ使ってやってんのに‼︎」

「的外れにして心底余計なお世話よこのド変態‼︎」

ぎゃあぎゃあと言い争う二人に介入する者は無く、各所で問い掛けや話し合いが勃発していた。

「い、いえですから本当に何も‼︎それよりも辻部長、色々とまだ整理が着いていないので余り近寄らないで下さい⁉︎」

「何だよそれは⁉︎単に攫われる前の俺の人生録に引いた訳でも無いならお前のその距離感は一体何があったんだよ⁉︎」

「……悪かったな、那波。俺の不注意でお前をこんな荒事に巻き込んじまった。護ろうと大言吐いておきながら情けねえ……」

「…いいえ、こうして助けに来て下さったんですからお気になさらないで下さい。半分は、先輩の言う通り不用意に顔を出した私の責任ですから……」

「助けに来るのなんざ当たり前の話だ、一般人のお前にこんな事態が予測出来る筈も無え。…こんな状況で頭下げた位でチャラにする気は無い。お前を必ず無傷で返して、後で必ず詫びを入れに行く。一度裏切って安くなっちまった漢の言葉だが、もう一回だけ俺を信じて、身を任せてくれ、那波」

「……ふふ、承りましたわ豪徳寺先輩。エスコートをよろしくお願いします」

「応。…エスコートなんて柄じゃ無えがな」

「…なんか短い間に友人達の人間関係が色々変化してるなあ。僕が買い物行ってる差中に一体何があったのやら?」

「俺にもわからん。今回の事件を鑑みれば不謹慎な言い方だろうが、双方にとって悪いものでは無かろうよ」

「そうアル‼︎刹那の鈍感と豪徳寺の女っ気の無さは私から見てもヤキモキするアルから…明日菜、その枝アシナガバチの巣が付いてるアル⁉︎」

「おお〜中村殿も大変でござるなあ。あれは麻帆良の変種、テアシナガバチでござる。中村殿ー‼︎その蜂は長い手足のホールドで木の皮位はあっさり剥ぎ取る力があるでござるから気をつけるでござるよ〜」

「遅いわぁぁぁぉぁっ⁉︎」

「ひゃあぁぁ中村先輩が蜂に吊り上げられたで〜⁈」

「な、中村さーん⁉︎」

「うおっ気味悪りい⁉︎この角度だと丁度旦那の股間が真下から⁉︎」

「おどれら敵から逃げとるんやからもう少し静かに纏まって逃げれんのかい阿呆共ぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」

小太郎のキレ気味なツッコミが薄暗い森林の中に轟いた。

 

「…兎に角あの液体生物共が使てんのは恐らく水を利用した、陰陽道で言う飛梅の一種や。ある程度量のある水の所へなら自由に移動が出来るんやろ……俺が追跡を振り切れなかったんもあのチビ共が居たからなんが大きいわ」

気を取り直して追跡の余念を語るのは実際に追いかけられた経験が前にもある小太郎である。

「…飛梅っていうのは…」

「…西洋魔術で言う転移魔法(ゲート)ですね。水、若しくは液体が媒体ならこの大雨は最悪のシチュエーションです」

辻の疑問に、まだ直接顔は向けられないながらも何とか平静を取り戻した刹那が答える。

「…連中が直ぐに追ってこない理由はなんだ?ああ迄見事に初手から潰された以上、遊んでいる余裕はあるまい?」

大豪院が眉間に皺を寄せて呟く。

「…奇襲する隙を狙っているんじゃない?奴等の手の内は今だに割れていない以上、どういった攻撃をして来るのか僕らには予測が困難だからね」

「小太郎。お前を追っていた時の奴等はオカマが普通の魔法使いっぽい攻撃、ジジイが手足と口から怪光線、でかブツが剣を振り回す他に目から怪光線だったな?」

「ビーム率高くね?」

山下の推測を受けて豪徳寺が小太郎に再確認を行い、中村が茶々を入れる。

「ああ…強いて言うなら爺さんの口から出る怪光線は手足のと違ってもっとヤバそうで、マッチョ野郎の怪光線は、なんつうか超強力なサーチライトみたいな感じやった。それこそ肌が焼ける位のや」

苦々し気に背中の火傷に触れながら小太郎が補足する。

「……この分だとオカマは股間からビームを出しそうだな………」

「中村、死ね。考えていても仕方が無い、追撃が来ないなら今の内に距離を稼ごう。幸いこの時間帯なら此処らを縄張りにしてるスレイプニルも寝ぐらに戻っているだろうし早く市街地に…」

「それは困るね」

辻の言葉の途中で全員の背後から聞き覚えのある老人の声が響き渡る。慌てて振り返る一同の目に飛び込むのはいつの間にやら直ぐそこまで距離を詰めていたヘルマン、セルウァ、ニテンスの姿だ。足元には半透明の液体に姿を変えたハイ・スライムの姿もある。

(カオ)‼︎」

「言ってる側から追いついて来やがったか‼︎」

憎々し気に叫びながら一行は抱えていた人質を下ろして陣の中央に導き、大豪院や豪徳寺、ネギに刹那達は構えを取る。そして、

 

「ああ、やっぱりな(・・・・・)

「来ると思ったぜ」

 

振り向いた全員の背後(・・)から突き出されるニテンス(・・・・)の大剣とセルウァ(・・・・)の黒雷を、ヘルマン達から瞬時に視線を外して再び振り返った辻と中村が、黒雷をフツノミタマで斬り裂き、大剣を蹴り上げてそれぞれ防いだ。

 

「…あぁ⁉︎」

「う、後ろ⁉︎」

「辻達が対処してる、正面から目を離さないの二人共‼︎」

予想外の奇襲に慌てるネギ達を鋭く諌めるのは山下。あくまで大豪院や豪徳寺も正面のヘルマンから目線を外さない。

 

「……っ‼︎」

「あらぁ〜⁉︎」

ニテンスとセルウァはそれぞれ驚愕の声を上げながらも、反撃の刺突と気弾を躱し様飛び下がって辻達から距離を取る。そのままヘルマン達が辻達を挟み込む様な構図のまま、暫し両者は睨み合う。

 

「…ふむ、絶好の奇襲だと思ったがね。外見によらず余程場数を踏んでいる、ということかな?」

ヘルマンの何処か残念そうな問い掛けに応ずる様にヘルマンの側に立っていたニテンスとセルウァの姿が崩れ、それぞれが半透明の身体を持つ幼女、あめ子とぷりんの姿になり、ヘルマンの足元で蠢いていた残る一体、すらむぃも詰まらなそうな表情で幼女の姿を形取る。

「…まあこの歳にしちゃ奇っ怪な経験積んでるけどよ、奇襲が読めた原因は他にあるぜ」

中央の千鶴達を庇う様に両腕を広げながら、豪徳寺が皮肉気に言う。

「先ずそこのオカマは俺に一度見破られて知っている筈だが、姿形だけ 似せても俺は()の違いで別人と解る」

辻が冷ややかに、

「次に貴様らの存在を我々は認識していなかったというのにわざわざ声を掛けて奇襲の機会を無意味に潰す理由が無い」

大豪院が鼻を鳴らし、

「更にそこの半透明幼女は三人居たのに、声掛けてきた時にジジイの足元に蠢いてた液体幼女はどう多く見積もっても二人分しか居なかった」

中村が舌を出し、

「後は桜咲ちゃんからの情報でそこの液体幼女が返身能力を持っているのは知ってたから、態々奇襲の機会を潰した事実と合わせて鑑みればマッチョかオカマのどちらか、又は両方の姿に液体幼女が化けさせてるんじゃ無いかと推測出来る。後はカモフラージュの為にご老体の足元で液体幼女の最後の一人を、何人が纏まっているのか判別し難い液体の渦状に変化させた上で、背後から僕らに声を掛ける。振り向いた僕らに自軍の全員が居ると思わせておいてから、今迄僕達が進んでいた方向であるという理由も兼ねて、二重の意味での死角である背後から不意打ちが来るんじゃ無いかと読んだだけだよ」

山下が薄く微笑んでそれぞれが告げる。

「単に認識されない状態から不意を討っても直前で察知されて何人かには迎撃されると踏んで挟み撃ち状態での奇襲から混乱の後の殲滅戦に移りたかったんだろうが、生憎だったなてめえら」

豪徳寺の締めくくりにヘルマンは言葉を返さない。逆方向のニテンスやセルウァ、ハイ・スライム達も顔を歪めつつ、無言のままだ。

 

「…どうかしたのか、あいつら?」

「驚いているんですよ一瞬で戦術を見切って打ち合わせも掛け声も無しに完璧な連携を取って対処して見せた先輩達の腕前に‼︎⁉︎」

訝し気に呟く辻に対して、堪り兼ねた様子で刹那が叫び返す。

 

「…あの状態からの奇襲では拙者も直前の気配から回避を行うのが精一杯でござるな」

「迎撃所か反撃してるポチ達が異常アル‼︎」

武闘派女子の面々からのツッコミにバカレンジャーは各々不満そうな顔で返す。

 

「え〜…こん位の奇襲なら中学時代から軍事研の奴等や刀剣甲冑部の集団に中学時代からされてたぜ?」

「エヴァさんやら京都の鬼達に白黒コンビも波状攻撃が得意だったり集団で潰しに来たりコンビプレイが凄まじかったりと多方面からの攻撃はここ最近でも喰らい慣れてるし…」

「連携に関しては何と無く誰がどう動くか解るとしか言えねえし…」

「そもそも事前に人質を取るような輩が正面から来る筈も無し、常に死角は警戒していた」

「凌いだだけで敵の頭数を減らせた訳でも無いんだから、そんなに過剰に評価されるようなことかなぁ、こんなもの?」

 

「ベテランでも瞬時にんな行動は中々取れんわい、何なんや兄ちゃん達は⁉︎」

「…うん、もう辻さん達だからしょうがないんじゃないかな、小太郎君」

「兄貴⁉︎んな風に諦め混じりの悟りを掴むにはまだ早えですぜ⁉︎」

得体の知れない者を見る様な目付きでツッコミを入れる小太郎に何処か遠い目付きででネギが答え、

「…ま、そうよねえ、先輩達だもんねえ……」

「なんや解らんけどえらい説得力ある台詞やなあ、それ」

「…なんだか凄い、って事位しか解らないわね、私だと……」

明日菜と木乃香は笑い、千鶴は苦笑した。

 

「フ、フハハハハハハハハハハ‼︎‼︎」

周囲に浮かんだなんとも言えない空気を裂いてヘルマンが愉快そうに高笑いを上げる。

「フ、フフフフ……!…ニテンス君、どうだね?只の色物集団で無いことは証明された様だが⁉︎」

ヘルマンの言葉を受け、ニテンスは大剣を上段に構え直しつつ、薄れた怒りに反比例して真剣味の増した目線を辻達に向けて返答する。

「…そうだな伯爵。俺もいささか怒りで目が曇っていたようだ」

「良かったじゃないニテンス!強敵と殺し合いたいってアンタの願い、叶いそうよこれだと‼︎」

「…ま、確かに単なる変態集団では無いみたいダナ」

「舐めてたつもりは無いですが、今回も楽な仕事じゃありませんネー」

「…抵抗された方が野郎は燃える…フフ……」

「ぷりん、貴様の言動は何時もながらズレている、黙っていろ」

「あらこれが良いんじゃない天然電波系幼女なんて稀有な属性よ⁉︎萌えが解って無いわねえ相変わらず‼︎」

 

漫才の様なやり取りを聞きながら、辻達は中心の非戦闘員を守る様に陣形を前後に厚くする。

「…さてあっさり追い付かれた訳だがここからどうする?」

「…とりあえずあのオカマ野郎は同志の匂いがするからあんまり闘り合いたく無えな…」

「どうでもいいわ阿呆。何とかして非戦闘員を逃がすのが第一だが…」

「長瀬ちゃんと古ちゃん桜咲ちゃんに、ネギ君小太郎君を付けて僕らがぶつかった隙に市街地方面に進ませよう。魔法使いの後衛に前衛後衛を兼ねた退魔剣士、一定以上の実力がある前衛三人が居れば新手がいても対応は出来るよ」

「…それしか無えな。総員聞いた通りだ、文句を聞いてる暇は無え。那波、巻き込まれんのも初めてなお前は一等訳解らんだろうが、こいつらと一緒に逃げてくれ」

ものの数秒で方針を決めてしまったバカレンジャーに、ある意味当然ながら反論が飛ぶ。

「冗談や無いで兄ちゃん達‼︎やられっぱなしでこのまま逃げろ言うんかい⁉︎」

「奴等の実力は未知数です、辻部長達だけでは危険です‼︎」

「魔法知識の不足している辻さん達だけじゃ危ないですよ⁉︎」

「ポチ‼︎また自分達だけで格好つけるつもりアルか‼︎」

 

「五月蝿え‼︎‼︎」

 

豪徳寺の怒喝に、反論の言葉がピタリと止む。

「言い争ってる時間は無えんだよ、先ず何を優先するかを間違えんな‼︎身内を助けに来たんなら先ず身内を護るのが当たり前だろうが‼︎」

「…で、でも先輩達……」

先程抗議した面々には居なかったが、矢張り納得しかねる明日菜が声を掛ける。言う迄も無く、辻達が告げた配置では五人組の方に負担が大き過ぎるのだ。

「言いたいことは解る、でもお前は近衛ちゃんの護衛で親友だろ、桜咲。どっちを優先するかなんて、言う迄も無いだろ?」

「小太郎、お前は俺らに迷惑掛けた借りを返すんだろうが。なら個人の感情は捨てて言うこと聞け!カタギの安否を先ず気遣うのがお前の姉ちゃんのやり方じゃ無えのか⁉︎」

「ネギ君、僕らは奴等を殲滅する訳じゃ無いしある程度は小太郎君から聞いて戦力も解ってる。何より君は明日菜ちゃん達を助けに来たんだろう?前にも言ったよ、僕達を、信頼してくれ」

「古、言った筈だぞ。これは対練では無い、下手を打てば命の危ない場だ。魔法戦の経験が無い貴様を真正面から敵主力にぶつけるにはリスクが大き過ぎるのだ、漏れるかもしれん残敵に備えろ‼︎」

それぞれが反論を封じられ、それでも何かを言い募ろうとするが、

「…任せるのが最適でござろう。まだ実戦で連携を取った事の無い拙者達が下手に混ざれば、下手をすると先の連携を乱す事にもなりかねんでござる」

それまで黙って考え込んでいた楓が辻達に賛同する。

「楓‼︎」

「楓さん⁉︎」

刹那やネギは咎める様に声を上げる。が、楓は敢えて答えず、中村へ向けて言葉を放つ。

「面倒な事態ばかりでござるな。主に信じて任せろ、としか言われていない気がするでござるよ」

言外にまだまだ信頼はして貰えていない様でござるな、とでも言いた気な楓に中村は苦笑して軽く頭を下げる。

「済まねえな。でも迷わずかわい子ちゃん達を任せられんのは、楓ちゃんを信じてっからこそだぜ?」

その言葉に楓は僅かに目を見開き、中村を見やるが、やがて小さく吹き出して中村に告げる。

「…その格好では真面目な事を言っても説得力は無いでござるよ、中村殿」

「人を見かけで判断するなよ楓ちゃん!男にとって重要なのは中身だぜ中身‼︎」

「先ず中身が腐っている様な男が戯言をほざくな」

「こんな時に巫山戯んなやポチぃ‼︎」

「巫山戯てんのはおめえの格好だボケ‼︎」

中村の抗議を一蹴して豪徳寺は千鶴を促す。

「重ねて済まねえ、行ってくれ」

「…あまりに世界が違い過ぎて今の私からは言えることなんて無いのでしょうけれど……」

少し悲し気にそう返しながらも千鶴は怒った顔を作り、豪徳寺に告げる。

「女の子に心配ばかり掛けさせるのはいい()なんかじゃありませんよ?…無事に戻って下さいね」

「……応、約束するぜ」

豪徳寺は重々しく頷き、はっきりと答えた。

「……そんな訳だ。納得出来なかろうが行け、行ってくれ皆。まだ俺達には勝算がある。考え無しに身体を張る訳じゃ無いんだ」

辻が最後にそう言い放ち、会話は終わりだ、と言わんばかりにバカレンジャーの全員がヘルマン達に向かい距離を詰め始める。

 

「……伯爵?どうも逃げちゃうみたいよお姫様達」

途中から大声での言い合いになってしまった為、ヘルマン達にも辻達の行動は伝わってしまっていた。セルウァが大仰な動作で嘆きながらヘルマンに問い掛ける。

「ふむ、その若さで自らの実力を過信せず、冷静に対応する判断力は私をしてとでも好ましいものだが、こちらとしてもそれでは少々困った事態を招くのでね…本意では無いが、陳腐な三流悪党の台詞を吐かせて貰おうか」

ヘルマンはさも残念そうに溜息を吐きながら辻達に向けて、滴る毒の言葉を投げ掛ける。

「私達の闘争における見物人(ギャラリー)を簡単に引かせて貰っては困るね。心配せずともか弱い淑女に暴力など振るいはしないよ、バカレンジャーの諸君?」

その戯けた物言いに辻達は一斉にがなり立てる。

「巫山戯ろジジイ‼︎」

「誘拐すんのが暴力行為じゃ無えとでも思ってんのかボケ‼︎」

「二つに下ろされたい(・・・・・・)のかアンタは?」

「そもそも貴方がバカレンジャー呼ばわりしないでよ普通にムカつく」

「他那种厚颜无耻的态度令人吃惊……‼︎」

罵倒の嵐にも動じず、ヘルマンは涼しい顔で言葉を続ける。

「まあ落ち着いてくれたまえ。…時にカグラザカアスナ嬢の衣装は気に入ってくれたかね?私的には中々良いチョイスだと自負しているのだが…?」

「……変態臭い発言だ」

「きゃ〜〜!伯爵ちょっと所か完全にセクハラよセクハラ‼︎」

「流石だぜ伯爵」

「悪役の方向性違って来てマセン?」

「…公開処刑」

実にイイ笑顔でのたまうヘルマンを囃し立てるセルウァ達。対照的に明日菜は静かに目を細め、小さく呟いた。

「…………殺す」

「あ、明日菜さん冷静に‼︎冷静になって下さい⁉︎」

「はっ!確かにアスニャンのセクシャルアピールポインツが脚から尻にかけてのラインに有ると見て下半身をシンプルなショーツ一枚で強調したてめえのセンスは中々だがまだまだ甘えな‼︎ワンポイントアクセの使用でまだまだ幾らでもアスニャンの美しい尻からぶばぁぁぁぁぁ⁉︎」

「アンタから死ねぇぇぇぇぇぇ‼︎」

「オー綺麗に飛んだアル…」

「真面目にやれやアンタらぁぁぁ⁉︎」

コントのようなやり取りを他所に、辻はヘルマンの発言の真意を探る。

 

……真逆本当にセクハラ目的での発言じゃあるまい。しかしなんの意図が………⁉︎

 

辻はネギをコッソリと引き寄せ、耳元で囁く様に尋ねる。

「…ネギ君、神楽坂ちゃんの衣装から何か魔法的な要素とか気配みたいなものを感じないかい?」

「え………⁉︎」

ネギは驚きに目を見張るが、辻に促されて明日菜を見やり、暫くして再び目を見開く。

「…感じます。多分ペンダントが何かの魔法具で、明日菜さんと繋がって(・・・・)…います」

「…やっぱりか」

辻はヘルマンを正面から睨みやり、ヘルマンも辻を見返す。

「結局無事に返すつもりは無いと?」

「それは誤解だ。彼女のそれ(・・)は私達の要求に応えてくれさえすれば、発動しない。どうかね?…おっと、もう少しの間でいい、キレずに(・・・・)話を聞いてくれたまえ、諸君」

全員(・・)の目が据わったのを見てヘルマンが少々慌てて釘を刺す。

「要求といっても理不尽な事を言うつもりは無いよ。君達の実力が知りたい、私達を倒すことが出来たらカグラザカアスナ嬢に取り付けた仕掛けは直ちに解除しよう。君達好みのシンプルな条件だと思うが、如何かな?」

「……仕掛け、ってのはあたしの首に付いてるこれよね」

明日菜はヘルマンの言葉を受けて、首元の華奢なペンダントを握る。

「そうだね」

「…無理矢理外すとヤバい事になるってのがお約束のパターンだわなぁ……」

「さて、私の口からは何も言えないね」

低い声で問う中村にも動じず、ヘルマンは答えをはぐらかす。

「…糞が。結局逃げられません、ってか?」

豪徳寺が吐き捨て、一同の退去は中断を余儀無くされる。

 

 

 

……よくやるわよねぇ伯爵も……

 

セルウァは一連のやり取りを聞きながら内心でほくそ笑む。

何せあのペンダントは明日菜の魔法無効果能力(・・・・・・・)をヘルマンに移し変える(・・・・・)為の魔法具。それも普通に取り外すだけで効力を失ってしまう様な脆い仕組みのものなのだ。

 

私達(・・)は決して嘘は吐かない。ただ往々にして真実を語らないことが多いだけ、とは言うけれどこれは伯爵の手腕を褒めるべきよねぇ……

 

本来ならばあんな形で奇襲を喰らい、人質を奪還された時点で詰んでいたのだ。それを巧みなブラフで有りもしない仕掛けを意識させ、全員をこの場に縫い止めた。

 

「…こういう所はもっと見習わなきゃよねえニテンス?」

「…私は好かんが、お前が正しいだろう」

ニテンスは苦い表情ながらもセルウァの言葉に同意する。

 

「…確かになあ。ぶっ倒せば終わりってのは俺達好みだぜ、ちったあ気に入った」

「そうかね、ならば…」

「但しその百倍、気に入ら無えがなぁぁ‼︎‼︎」

静かに呟いた豪徳寺は、ヘルマンの合いの手を掻き消して咆哮する。

 

「てめえはそれだけの為に、女共を攫ってこんな大掛かりな真似しやがったってかぁ⁉︎っ戯んなよ糞野郎が‼︎そんなもんなあ、俺らは挑まれりゃあ、何時でも無条件で(・・・・・・・・)受けてる話なんだよ‼︎‼︎…それを、カタギを巻き込んでまでコトを広げやがって……‼︎」

 

憤怒の形相で豪徳寺は叫ぶ。同調する様に辻達は目を細め、戦意を傍目にも明らかに、増加させて行く。

 

「私達を倒せたら?上等だオラァ‼︎舐めた宣言した事を、地べたでのたうちまわらせながら後悔させてやるぜ…‼︎」

ゴン‼︎‼︎と破裂した様な音を立てて拳を打ち合わせる豪徳寺。その隣に並ぶは彼の悪友達。皆が豪徳寺に負けず劣らずの闘気、いや殺気に近い壮絶な気を撒き散らしていた。

 

「…良い気を放つね……」

ヘルマンは嗤う(・・)

「才有る若者はこう(・・)で無くてはいけない。勇気と無謀、その刹那の差を行き交うある種向こう見ずとも取れる言動の勢い(・・)。…矢張り有能な人間とは……美しいね………‼︎」

グニャリ、と。刹那の間、ヘルマンを見ていた者は、その顔がヒトでは無いナニカに歪んで見えた。

 

「……地が出かけてるわよぉ、伯爵?」

「ああ」

クスクスと笑うセルウァの指摘に、左右に長く裂ける、まるで鮫の様な笑みを無理矢理に収め、ヘルマンは言い放つ。

「どうかねニテンス君、セルウァ君?もっと趣向を凝らして闘おうと私はつい先程まで考えていた。それもある意味私達らしさ(・・・)だからね。…しかし彼らのこの純粋な闘志。何を置いても私達を殲滅せんとする必殺の覚悟だ。…私達は既に一本取られた身でもある。ここは一つ、彼らの胸を借りるつもりで全力(・・)を、最初から出してみないかね?」

ヘルマンの言葉に、呼び掛けられた両者は目を見開き。

そしてヘルマンと同様に、ある種陰惨な、捕食者の笑みを浮かべる。

「…丁度私も煩わしい制限(・・)抜きで殺り合いたかった所だよ伯爵」

「あらあらあらあら。…若い子達相手に本気って、イイのかしらねちょっと、どうしちゃおうかしらウフフフフフフフフ……‼︎」

 

「っ………‼︎」

ネギは、小太郎は。そして刹那達は。三人から発せられる異様な気配にある種呑まれかけるのを自覚した。

「……どうして……‼︎」「なんなんや……‼︎」「……これ、は………‼︎」

歯噛みする。言葉を発しなかったとはいえ、彼らの、彼女らの怒りは辻達と同様だった。誘拐騒ぎまで起こして態々腕試しに来たなどと言う巫山戯た言動に対する怒りは本物であった。だというのに、彼らが発する得体の知れない圧力(プレッシャー)は、ともすれば足を引いてしまいそうな弱気を生む、異形の迫力に満ちていた。

「…人や無い、ンなことは、わかっとる‼︎」

言葉にして形容するならば恐怖と名が付くのだろう。そんな怖気を振り払う様に、小太郎が叫ぶ。

「俺も闘るで‼︎元はと言えば俺から繋がる因縁や‼︎兄ちゃん達だけにええ格好はさせへんわ‼︎」

「…戦闘には私も参加します」

続いて刹那が、緊迫した表情ながらも申し出る。

「…せっちゃん……」

「お嬢様……いえ、このちゃん。安心して下さい。二度不覚は取りません」

不安そうに声を掛ける木乃香にきっぱりと宣言し、刹那はヘルマンに問い掛ける。

「よもやそこまで大仰な宣言をするからには、相対する人数に制限など付けまいな?」

「勿論だとも」

笑顔のままヘルマンは快諾し、ネギへと目線を向ける。

「ネギ君、君は…どうするかね?」

「っ…‼︎」

ネギは不可視の圧力に顔を歪めるが、僅かに震えが残る、されど力強い声で宣言する。

「…戦います、明日菜さん達を攫った貴方達には僕だって怒ってる‼︎絶対に僕の生徒に、手出しはさせない‼︎」

「…イイね……‼︎」

ヘルマンは一層愉快そうに嗤うと、楓と古の方へと向き直る。

「この際だから総出でかかって来て構わないがね?」

「…貴殿らの言葉はいささか信用に欠けるものでござるからな……」

「…口惜しいものも感じるアルが……」

目線を向けられた二人は辻達に視線を向け、頷きを返されると、木乃香達非戦闘員を連れて脇の方へと移動し始める。

「最低限の保険として拙者達は皆の護衛に着かせて貰うでござる」

「誘拐犯の宣言なんて当てになんないアル」

ヘルマンはある種挑発めいた言葉に気を害した様子も無く、肩を竦めて了承する。

「構わないよ、私達からすれば無用な心配だが、君達からすれば当然の用心だろうからね」

そしてヘルマンはゆっくりとした歩みで辻達の脇を抜け、ニテンスとセルウァの方へと移動する。

「すらむぃ、あめ子、ぷりん。君達も下がっていたまえ……このレベルの闘いに巻き込むのも偲びないからかね」

スライム三人娘は言葉を受けて、各々反応を返しながらも素直に下がる。

「舐めんな、と言いてえ所ダガヨ…」

「お楽しみみたいですカラネー」

「…間男的扱い…」

「ハハハ絶好調だねぷりん」

 

「…舐められてっか?俺達もよ……!」

中村は青筋を立てつつ呟く。辻達には全力で掛かって来いと言いながら向こうは戦力の温存と来たものだ。余裕の言動に怒りを感じるのも無理からぬことではある。

「誤解にならないように言っておくが…すらむぃ達は確かにこの環境下では著しく戦闘力を増す一端の戦力となるだろう存在だ。しかしそれを持ってしても、悪いが私達には誤差と言っていい範囲でしか戦力の増強にはならない。これでも彼女らは限界してから長年付き合っている可愛い使い魔(ファミリア)でね。出来れば危険に晒したくは無いのだよ」

悠々と語るヘルマンが一拍間を置いたタイミングで、ニテンスが一歩前に出て言い放つ。

「これ以上の言葉は無粋だ伯爵。…私はもう待ち切れない。始めようではないか、闘争の宴を‼︎」

「あらあらせっかちねえニテンス。……いいかしら、伯爵」

「ハハハ済まないねニテンス君。歳を取るとついつい長話をしたくなる。ならばあと一言だけ……ネギ君、予定とは大分異なった形ではあるが、私達はこれから君を試させて貰う。無論それは辻君達に対しても同じ事が言えるが、君にとっては正しく人生における一つの転機となり得るだろうからね」

「……どういう、意味ですか?」

意味不明なヘルマンの言葉に、ネギは思わず問い返す。

 

「なに、簡単な事だ。…君は悪魔(・・)が憎いだろうから、ねぇ」

「…………え?………………」

 

その言葉にネギは一瞬呆け、辻達は意味を謀りねて眉根を寄せる。

 

しかし誰かがそれに問い掛けるよりも早く、ヘルマンに変化が訪れた。

 

三人の全身が一瞬ブレると、身体が異形(・・)へと変貌を始める。

 

ニテンスの身体は急速に膨張を始め、手足や胴体が今迄の数倍の大きさへと膨れ上がる。肌は鉄錆の様な楠んだ赤色に変わり、剥き出しになった下半身には肌と同色の短い獣毛が生え揃う。両の足先は馬や羊のそれに似た、黒檀の輝きを放つ蹄に変わり、人のままの造形を保った両の手には、しかし刀剣の如き鋭い鉤爪が生え揃う。

何よりも大きく変貌したのは頭部。巌の様な厳めしい面相は人のものですら無くなり、螺子くれた二本の角を頂く巨大な山羊のそれとなる。両の(まなこ)に瞳は無く、ただ熾火の様な青白い光が洩れていた。

 

セルウァの全身は金属質の輝きを放つ黒い装甲の様なものに覆われて行く。何処か昆虫めいた妙に生物的な外見を持ち、湿った輝きを放つ其れは頭頂から足先迄を完全に覆い尽くし、セルウァの外見を異形の昆虫の様な、騎士の様な姿へと変貌させた。背中からは蝙蝠にも似た翼が現れ、頭部には僅かに湾曲した四本の角が王冠の様に生え揃う。尻から垂れ下がる多関節を持った蛇の様な尾が、まるで一個の生命体の如く自らの全身を這い回る。

 

ヘルマンの衣服は軽装の甲冑へと姿を変え、十指には鉤爪が、背部には蝙蝠の羽根が、尻からは滑らかな質感の、三角形の先を持つ尾がそれぞれ現れる。つるりとした卵の様な質感を持つ楕円状の球体めいた形状になった頭部には二重に折れ曲がる二本の角。その下の瞳はまるでランタン持ちの男(ジャック オー ランタン)が掲げる灯篭の様な、茫洋として何処か不気味な光を放つ。歯車の様な凹凸を持つ四辺形の歯の奥では、まるで核融合の如き不気味な白い光が時折瞬いていた。

 

三体の異形は整然と横に並び、人の姿をしていた頃と変わらぬ確かな知性体の動きで、呆然とする一同に名乗りを上げる。

 

七mを超える巨体と化したニテンスは、己と同じく巨大化した片刃の大剣を地面に突き刺し、剣の柄に両の手を組み、雄々しく名乗る。

「序列503番、階級は男爵、称号は《輝く瞳》人の界にて名乗る名は無い。さあ始めよう、純粋なる闘争を」

 

セルウァは全身を滑る様に光らせながら以前と変わらぬ物腰でしなを作り、右の人差し指を頬に当てながら軽快に名乗る。

「序列498番、階級は子爵、称号は《覇王の従僕》さあ可愛子ちゃん達、アタシを愉しませて頂戴、色んな意味で…ね」

 

ヘルマンは優雅に一礼し、正しく異形の身に相応しい歪んだ笑みを浮かべながら、朗々と名乗る。

「序列328番、階級は伯爵、称号は《未来の狩り手》これまで通りヘルマンで構わないよ諸君。…一つ付け加えるならば…」

立ち尽くすネギを見据えて嗤い、ヘルマンははっきりと告げた。

 

 

 

「君の仇ということになるね、私達は」




閲覧ありがとうございます、星の海です。仕事は前より忙しくはなくなったのですが調子が今一戻りません。結局投稿が遅れて申し訳ありません。作中の悪魔の序列や階級、称号などは独自設定なのでお気に入り触らなければ幸いです。原作でヘルマンは正体を現した際、ごくわずかに召喚された爵位級上位悪魔の一体、といった発言をしていましたので、描写されなかっただけでリーダー格のヘルマンの他にも上位悪魔が暴れていたんじゃないかと考え、ニテンスとセルウァを創作しました。外見通り前衛と後衛、みたいな感じです。原作よりも戦力が三倍くらいに跳ね上がってますが、ネギ達はそれ以上に人数がいますので大丈夫でしょう、きっと笑)それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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