お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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5話 少年少女とロボ少女の戦闘 武道家、絶叫

「辻の奴は何処にいるんだろうな、馬鹿引きずって来るのに時間喰いすぎたぜ」

「順当に考えて桜咲ちゃんの居る所なんだろうけど僕らにわかるはずないしね」

「このままではとんだ無駄足だぞ。おい馬鹿、お前は心当たりは無いのか」

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿うっせーよ‼︎俺が知るか、いっそ学校まで押しかけて聞いてみるしかねえんじゃねえの?」

時間を少し遡り辻が喫茶店で木乃香と話し始めた頃、中村達四人は遅れて麻帆良女子中等部を歩いていた。周りの奇異の目線も気にせず辻と刹那を捜索する四人だが当てずっぽうに回っても成果は芳しくなく、気づけば敷地の中心からは大分離れた所まで来てしまっていた。

「一旦学校付近まで戻るか。いくらなんでもこんな端の方にいないだろあいつら」

「って言うか電話かけて辻に桜咲ちゃんに会えたかどうかだけでも聞こうよ。会えてないなら僕らも捜索に加わればいいし」

「そうだな…」

このままふらついていても不毛なだけだとの結論に一同達し辻に連絡を入れようと山下が携帯を取り出す。

「じゃあちょっと待ってて皆、一回で出てくれればいいけど…」

「んあ?」

電話をかけようとした瞬間、中村が間抜けな声を上げた。

「どうした中村、ボケが回ったか、ああすまん元からだな」

「言ってやるな豪徳寺、本人はこれでも精一杯生きているのだ」

「うるせえ死ねお前ら。いや、ちょっとあれ見ろよ」

指を指す中村、その方向を三人が見やると、そこには一人の女生徒がいた。

「あの子がどうした、ナンパする気ならやめとけ。成功しないどころか通報される」

「ん〜?なんだかあの子どこかで見た気がするな」

「…超包子の店員をやっている少女だろう。絡繰 茶々丸(からくり ちゃちゃまる)とか言ったな」

大豪院の言葉に他の三人が思わず大豪院へ振り向く。

「…なんだ」

「いや、大豪院が女性関係の話題で情報知ってるのがなんか意外で」

「言われて見ればそうだと解るが普通見ただけで思い出さねえぞ、格好全然違うしよ」

「ま、まさかポチ、ああいう子が好みなのか?お前には古ちゃんと言う将来を誓い合った仲の少女がいるじゃないか‼︎浮気なんてお父さんは許しませんよ!」

「中村、とりあえず死ね。古は単なる中武研の鍛錬仲間だ。そしてポチと呼ぶな、殺すぞ」

「はいはい落ち着いて大豪院。で、中村。その絡繰ちゃんがどうかしたの?中村が節操無いのは知ってるけど中学生にまで手を出すわけ?」

「確かに絡繰 茶々丸は麻帆良美少女ランキング評価A-ついてるハイレベルなロボ娘属性の萌え対象だが俺が指してんのは後ろだ、後ろ」

「って言うかロボなのか、あの子?」

「いや豪徳寺、関節とか耳とか見れば判るでしょ」

「それは今いい、…確かに妙だぞ、見ろ、豪徳寺、山下」

大豪院に促され見た先には、茶々丸の後ろからバレバレの潜み方でついていく少女と少年がいた。何故か子どもだというのにスーツ姿の赤毛の少年に見覚えは無いが、鮮やかな橙色の長髪をツインテールにした少女には一同見覚えがあった。

「何やってんだろうな、ストーカー?」

「お前じゃあるまいしよ。というかあれバカレッドじゃないか?」

「豪徳寺、名前で呼んであげようよ。確かに神楽坂ちゃんだね、隣の少年は誰かな?」

「ま、まさかショタに目覚めちまったってのか、神楽坂 明日菜(かぐらざか あすな)。流石は俺と覇権を共にするバカレッドだぜ…赤髪、眼鏡、スーツをオプションたあわかってんじゃねえかよ」

「脳が腐る、黙れ。…もしや噂の子供先生とやらか?」

大豪院の呟きに再び他の三人が振り向く。

「今日はどうしたポチ、何時もあんま喋んねえくせにやたら今日は役に立つじゃねえか」

「何気に女子中学生の情報通だったりするか大豪院」

「僕は女の子に興味のある大豪院の方が好感が持てるからその調子で行って」

「囃すな貴様ら、古に担任が子供に変わったと話を聞いて風貌を聞いていただけだ」

「なにもうポチちゃんったらさっきから惚気てくれちゃって‼︎俺の嫁自慢ならもっと堂々とやってくれていいのぐべぇっ」

皆まで言わせずに大豪院の崩拳が中村に打ち込まれ宙を舞う中村。

「馬鹿は放っとくとしてどう思うよ?」

「遊びでやっている雰囲気じゃ無いしね。気にはなるけど声をかけるのもなぁ」

「面識がある、という程でもないが神楽坂は理由も無く人をつけ回すような人間ではあるまい。様子を見た方がいいかもしれんな」

「俺は無視かよ薄情者共‼︎」

中村をきっちりスルーして一行は少し離れた物陰から尾行を観察することにした。

「絡繰ちゃんってどんな娘なの?僕は超包子で位しか見たことないけどクールな娘ってイメージしか無いな」

「ロボが感情豊かってのも違和感あるけどな。評判は俺も知らん、変態、出番だ」

「科学部の野郎連中には大人気でその他コアな属性の奴らから根強い人気を得ている、ランクB越えはそのおかげだろうな。人と成りは山ちゃんの言った通り無口でクール、ただ面倒見はいいらしい。ガキやじっちゃんばっちゃんらは通学路周辺で助けて貰ったってのが大勢いるんだと。更に何故か麻帆良ロリッ娘ランキングTOP3に毎回入るエヴァたん知ってんだろ?あの変態教師多田野が狙ってる金髪幼女。あのロリの身の回りの世話してるらしい。茶道部所属で趣味は野良猫の餌やり、スリーサイズは残念ながら非公開だが俺が見たとこバスト84のCかDだな。悪りいがこんなこと位しかわからん」

「充分詳細で気持ち悪いが今回ばかりはよくやった、ただし後で死ね。そうするといよいよつけ回される理由がわからんな」

「中村じゃないけどストーカーはついてもお礼参りが来るような娘じゃ間違っても無いね」

うーむと一同首を傾げる。そうしている内に茶々丸はどんどんと外れの方まで歩いて行き、やがて川べりの高架下でネコ缶を取り出すと寄って来た野良猫に餌をやり始めた。

「あ、本当にやってるぞ餌やり。なんだ、いい娘じゃねえかよ」

「しかし引く程寄ってくるね猫。よほど普段からやってないとここまで寄り付かないよ」

「野良は警戒心強いしなー、あ!今子猫がスカート下に潜り込んだ、いいなぁ俺も猫になりてぇ」

「とりあえずお前はもういらないから黙っていろ。そして何やら不穏だぞ、見ろ」

大豪院の指摘に他が首を向けるとネギと明日菜が姿を現し、茶々丸と正対した所だった。

「おいなんだ、楽しくお喋りって空気じゃねえぞ」

「事情はさっぱり飲み込めないけどやりあう空気だね」

「おい止めようぜ、少なくとも片方は知らない仲じゃねえしよ」

「女子どもだからと言って私闘をしてはいかん訳でもない。行き過ぎるようなら止めればよかろう」

「いや、あの子達は武人じゃないんだからそんなバトル脳な考えで纏めちゃいけないでしょ、止めようよ」

「そうだ。女は暴力なんざ振るうもんじゃねえ」

「じゃあ古ちゃんとかどうなるんだよ?」

「混ぜっかえすな中村、とにかく他人の問題に迂闊に首を突っ込むものではあるまい」

「んなこと言ったってお前、」

「黙れお前ら、始まるぞ!」

揉める一同を中村が鋭く制する。その直後、ネギが杖を構え何事かを呟くと明日菜の体が発光を纏い、常人には見切れぬ速度で茶々丸に向かって飛び出した。

「ああ⁉︎」

「なっ……」

中村達は驚愕し、思わず声を漏らした。

神楽坂 明日菜という少女は天性のバネを持っており、下手なスポーツマンよりも優れた動きをするのを、多少付き合いのある中村達は知っていた。だが明らかに今の動きは、素人らしく初動はバレバレ、無駄な動作も多かったが「多少優れている」の域を超えていた。

と、言うよりは生身の人間では不可能な速度を出していた、という表現の方が異常は明確にわかるだろう。すなわち普通でない力が、今の明日菜には働いている。例えば、「気」のような。

その速度に茶々丸も面食らったらしく、反応し切れずに明日菜の攻撃を喰らう、何故かデコピンだったが。

さらに二人の後方でネギが杖を振り、輝く十数発の光弾を茶々丸に向けて撃ち出した。

「やべえぞ、あれ‼︎」

中村が、この男にしては珍しく切迫した声を上げる。普通でない力を持っている彼らから見て、あの光弾には、少なくとも当たり所が悪ければ死ぬ程の威力が篭っているのが彼らにはわかった。

「止めねえと‼︎」

「くっ…」

出遅れた豪徳寺、大豪院が失態に歯噛みする。が、

「言わないことじゃ、ない‼︎」

一人、他の三人よりも抜きん出て早く飛び出した姿があった。

「山ちゃん‼︎」

「援護、頼むよ‼︎」

叫んだ山下の姿が、かき消える。

 

 

 

「マスター、すみません。私が壊れたら猫の世話を…」

茶々丸は呟き、目の前に迫る光弾を静かに見据える。

「あっ…止ま、」

その呟きが耳に入り、ネギは魔法の射手に制動をかける。ネギは最初から迷いを得ていた。自分が狙われているからといって生徒を手にかけていいのかを。迷いながらも魔法を撃ったネギだが、茶々丸の己の最期ですら猫を気遣うその優しさに、自らの教師としての本分を思い出したのだ。

 

だが、その制動は必要のないものだった。

「レディへの扱いじゃないけど、許して、ね‼︎」

「あっ…」

光弾の直撃する寸前、瞬動と呼ばれる気を使った移動術で茶々丸の側に山下が現れる。

山下は茶々丸の襟と左手を掴み、自らの後方へ体を沈める。茶々丸が引かれてバランスを崩し、山下へ倒れかかる動きになった瞬間、山下の全身がブレる。全身の筋肉が瞬発し、茶々丸の倒れかかる力の動きに強力な力が加算され動きの方向が変わる。

次の瞬間、凄まじい速度で反転した山下の手に茶々丸は既に掴まれていない。茶々丸は、風に舞い上げられたビニールかなにかのように、緩やかに回転しながら宙を舞っていた。

「川に落ちるから大丈夫と、思いたいね…」

そう呟く山下に、光弾が着弾する、その寸前。

裂空掌・散(れっくうしょう さん)

漢魂(おとこだま)ぁ‼︎」

咆哮を上げながら中村と豪徳寺がそれぞれ掌打と腰だめの突きの動きで腕を突き出す。

次の瞬間、中村の手を外から内へ振るう動きの中、無数の光弾がその手から放たれ、まるで散弾銃のような十発近い弾幕を形成し、ネギの放った光弾の群れに横から突っ込む。

一方、豪徳寺の突き出された拳からは直径1m程もあろうかという巨大な光弾が飛び出した。何故か表面に「漢」と読める文字の浮かんだ光弾は高速でネギの光弾幕の頭を抑えるように飛び込む。

横から飛び込んだ中村の弾幕はネギの弾幕にぶつかり、次々に爆発してネギの光弾を誘爆させて行く。撃ち漏らした数発は、割り込むように進路に入ってきた豪徳寺の光弾がその内の一発に当たった瞬間、直径数mの巨大な爆発を起こし、全てが弾けて散った。

「え、何⁉︎」

「い、今のは」

「なっ増援が来やがったのか⁉︎」

ネギと明日菜、ついでに地面から響く謎の声は唐突に飛び出し、茶々丸を守り攻撃を撃ち落とした集団に驚愕の声を上げる。

「て、言うか、え?あれって中村さん達…?」

「そうだ、神楽坂。曲がりなりにも状況が理解出来たならこちらを向け」

「は?…」

疑問の声を上げた明日菜が後ろから掛けられた声に振り向くと、そこには後ろからネギの首を抑え、同時にネギの足を踏みつけて動きを封じる大豪院の姿があった。

「痛っ」

「黙っていろ、小僧。妙な動きをしたら即、意識を奪うぞ」

押さえ付けられ苦痛の声を上げるネギに冷たい口調で大豪院は告げる。たとえ子供といえども得体の知れない力を使い、人を殺傷出来る攻撃を放つ以上、油断するつもりは大豪院にはない。

「ち、ちょっと、大豪院先輩‼︎ネギにそんな…」

「てめえ兄貴を離しやがれ‼︎明日菜の姐さん、どうにかして兄貴を‼︎」

「黙れ貴様ら。俺の行為が酷いと感じるなら、貴様らは今あちらの少女に何をしようとした?」

大豪院は何処かから響く甲高い三人目の声に不意を突かれないよう警戒しつつ鋭く言葉を返す。

「そ、それは…」

「黙れと言ったぞガキ。骨の一本も折られたいか?」

「う……」

反拍の声を上げようとするネギを脅す大豪院。彼の口調に冗談の響きは無く、本気であることが見て取れた。その迫力に怯えるネギ。

「ま、待って大豪院先輩‼︎とてもすぐには説明し切れないけど事情があるの‼︎ネギは命を狙われてるのよ‼︎」

「……何?」

切羽詰まった明日菜の叫びに、思わず疑問の声を漏らす大豪院。その間にも周りは制圧の終わった大豪院の元へ集まり始める。

「よし、神楽坂ちゃんと子供先生も確保と。危ねえ所だったな、怪我は無いか全員」

「俺は気弾撃っただけだから問題ねー、山ちゃん無事か?」

「目の前の爆発には肝を冷やしたけど大丈夫。茶々丸ちゃんはなんかしばらく空に浮かんでたんだけど、こっちに頭下げてから飛んでっちゃった」

「空飛べんのかよ⁈パネェなロボ娘!」

「というか事情聞かないといかんのに黙って返すなよ山下」

「全員聞け。何やらこいつらおかしなことを言っている」

大豪院の言葉に全員がネギと明日菜の方を振り向く。

「あんだ〜?カッとなってやった。反省はしているが後悔はしていない、なんぞとほざいたんならガキでもぶん殴るぞ〜」

「事情をとりあえず聞こうよ。神楽坂ちゃん、素直に話してくれるなら手荒な真似は誓ってしないしそっちの子も解放するよ」

「お前らの動機によってはそのまま広域指導員送りにするけどな。後なんだ今のは?気じゃねえよな二人が使ったの」

各々聞きたいことは山とある。が、未だ混乱状態にある明日菜は満足に言葉を返せずにいる。中村達が普段とは違い、何処か剣呑な雰囲気を醸し出しているのも原因の一つだろう。ネギに至ってはそもそも大豪院によって喋れる状態にない。

これでは埒が明かないと、捕まえているネギに事情を聞こうとした大豪院だが、

「やいやいやい手前ら‼︎さっきから聞いてりゃ事情も知らねえ癖にこっちの邪魔しやがって、どうしてくれんだこれじゃ兄貴が殺されちまうだろうが‼︎」

地面から響く声に遮られた。

「あ?なんだこの声」

「誰かいるのかまだ?」

「気をつけて。隠れて奇襲しようとしているかも…」

「俺っちは逃げも隠れもしてねえ‼︎俺っちはここだぁ‼︎」

自分達の遥か下から響くその声にネギと明日菜を除く全員が下を見やると、そこには小さな白い生き物がいた。

「…鼠か?」

「フェレットじゃない?」

「鼬だろ?」

「何でもいいが喋ったかこの小動物?」

「俺っちは由緒正しいオコジョだ馬鹿野郎‼︎兎に角今すぐ兄貴を離しやがれ‼︎」

キーキーと喚くオコジョーーアルベール・カモミールに、その場に沈黙が降りる。

「…疲れてんのか、俺?」

「中村、僕にも聞こえるよ。夢や幻じゃないみたいだ」

「いや待て。色々待てよ、何だこの状況?」

「……腹話術か?」

「何をブツブツ言ってんだ!いいから兄貴を」

「ま、待って下さい‼︎」

いよいよ事態に収集がつかなくなりそうだったその時、全員を制したのはネギだった。

「ぼ、僕がきちんと説明します。僕が何者でなんで茶々丸さんを襲ったのかも全部説明しますから、カモ君と明日菜さんに乱暴しないで上げて下さい‼︎」

「あ、兄貴‼︎」

「ネ、ネギ、大丈夫よこの人達悪い人達じゃないから!先輩達、これ以上私達何もする気は無いからネギを放してあげて‼︎私達傍から見てたらすごく洒落にならないことしてたのはわかってるけど事情があるのよ、ホントに‼︎」

「あ〜わかったわかった。大豪院、一旦放してやれよ。どうやらもうやり合う気はねえみたいだし」

必死に頼み込むネギ達に気勢を削がれた中村は頭を掻きながら言った。

「…大丈夫か?」

「まあいいんじゃない?動きからしてもし逃げても捕まえ直せるし」

「そうしようぜ。言っとくがお前ら、妙な真似したら今度こそ叩き潰すぞ」

各人念を押して放すように大豪院に言う。大豪院は一つ息をついてネギの拘束を解いた。

「ケホッケホッ」

「ち、ちょっと大丈夫ネギ?」

「兄貴、無事ですかい⁉︎」

咳き込むネギに心配して駆け寄る一人と一匹。

「だ、大丈夫です。ありがとうございます、えーと」

「大豪院だ。礼はいらん、こちらも子どもに対して少々やりすぎたからな。だがきちんと説明はしてもらう」

頭を下げるネギにぶっきらぼうに返し、説明を促す大豪院。

「まあまあ大豪院、あんまり強く言っても萎縮するだけだよ。ひとまず落ち着いて、君たち。手荒な真似をする気はさっきも言ったけど無い。でもさっきの絡繰ちゃんは僕らからして襲撃されるような悪い事をする娘じゃないんだ。君たちにも言い分はあるだろうけど、黙って君たちをこのまま帰す訳にはいかない。ゆっくりでいいから、説明をしてくれるかな?」

高圧的な大豪院を制し柔和に微笑んで落ち着かせようとする山下。中村も豪徳寺もとりあえず黙って話を聞くことにしたらしい。

「何が悪い事をする娘じゃないだ‼︎何も知らない野郎どもが偉そうにぐぇっ⁉︎」

「あんたは黙ってなさい馬鹿カモ‼︎せっかく先輩達が落ち着いてくれたのにまた凄まれたいの⁉︎」

「ナーイス神楽坂」

再びまくし立てようとしたカモが明日菜によって締められる。その素早い制止に親指を立て賞賛する中村。

「あっちは気にしないで。じゃあネギ君、でよかったかな?話を始めてくれるかい?」

「あ、はい、わかりました…」

ネギは一つ息をついて話し始めた。

「まず、僕の名前はネギ・スプリングフィールドと言います。明日菜さん達の通っている麻帆良中等部の3ーAで担任をしています」

「うん、噂では聞いてるよ。それでどうして君は担当する生徒の一人の絡繰ちゃんを襲ったんだい?」

「はい、それは僕の特殊な立ち位置に関係しているんです」

「立ち位置?」

「ち、ちょっとネギ。それ言っちゃって大丈夫なの?」

傍で心配そうに話を聞いていた明日菜が慌てて聞く。

「はい。この人達には既に見られてしまいましたし、エヴァンジェリンさんと茶々丸さんの事を説明するには避けては通れませんので」

「そう…」

「兄貴…」

「っていうかなんか今エヴァたんの名前出なかった?」

黙って聞いていた中村が唐突に出た少女の名前に質問をする。

「はい。僕が茶々丸さんを攻撃してしまったのはエヴァンジェリンさんに関係があるんです」

ネギははっきりと断言する。

「…いよいよ訳わかんねえが何か因縁があるのはわかった。で、さっき出た立ち位置ってのはなんだ?」

豪徳寺も口を挟み、先を促す。

「はい。エヴァンジェリンさん達は僕の血を欲しがって僕に襲撃をかけて来たんです。その理由が、僕に特殊な血が流れているからなんです」

「……血?」

「なんで血よ?」

「特殊な血ってなんだ特殊な血って」

「皆待った。気持ちはわかるけど先に話を全部聞こう。ネギ君それで?」

「はい。僕に流れているのはある偉大な魔法使いと呼ばれている父さんの血なんです。僕自身も立派な魔法使いになる為にこの学園に修業に来たんですが、それを知ったエヴァンジェリンさん達が、封印されている自分の身を自由にしようと、僕の血を吸って力を取り戻す為に僕を襲って来ました。命が危ないと思ったから僕は、茶々丸さんを襲ってしまったんです」

後悔している様子でネギは言った。しかし、それに対する反応は無い。

不思議に思ったネギが顔を上げると、そこには奇妙に顔を引きつらせた四人がいた。

「え?」

何かおかしな所があったかと明日菜達の方を振り向くと、明日菜とカモはまあそういう反応になるわよねー、そうっすねー、といった感じに苦笑していた。

「え?え?」

ネギが四人に向き直ると丁度中村が奇妙な無表情のまま片手を上げた。

「……え〜それでは皆様、ご唱和下さい、さん、はい」

片手を降ろす。

「「「「っなんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」」」」

四人の魂の叫びが暗くなり始めた麻帆良の空に木霊した。

 

 

 

「んでそっから魔法の実践して貰ったり魔法使いの成り立ちやら何やら聞いたり、エヴァたん達の襲撃理由聞いたりしてこれは俺らだけで何とかなる問題じゃねえなと思ってよ」

「これが本当なら放っておけねえが大人においそれと相談できるような話でも無いって事で」

「とりあえず僕らが聞いちゃったから桜咲ちゃんのことで大変な辻には悪いんだけど」

「少しでも多い人数で相談したかったのでな。すまんが辻、お前も力を…どうした辻、聞いているか?」

辻は頭を抱えて地面にうずくまっていた。

「辻〜信じらんねえかもしれねえけど信じろよ。手っ取り早い証拠として今この毛皮に話させっから」

「待て中村、とりあえず腰を落ち着けてたがもう少し人目の無い所じゃねえと誰が聞いてるかわかんねえぞ」

「そうだね、詳しく話したいからまずどこかに移動しよう。あ、ちなみに話しに出てた神楽坂ちゃんは時間も遅いし必ずネギ君は帰らせるって約束して先に帰らせたから」

「女生徒達の目線も厳しいしな。移動するぞ辻。…辻、聞いているか?」

辻は答えずに何事かをブツブツと呟くといきなり立ち上がり夜空に向けて思いっきり叫んだ。

「…一日色々ありすぎだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


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