お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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お待たせしました、カオス回の始まりです笑)


7話 まほら武道会 予選(上)

其の場所は何とも重苦しく、凶々しい空気に満ちていた。

 

「はっはー……金にガメついてめえなら出場()ると思ったよウッティ・チャイ」

「No、ワタシミナニウィー、ヨバレルネ。ハンゲツ、トモダチヨ」

「…テメェとオトモダチ、になった覚えは無えよ。単に俺は昨年割られたアゴの借りを返してやりてえだけだ」

「オー、イサマシイ?ユウノダカ?ナマクラonlyノガッティッガーデ、ワタシニカツカ……タノシミタノシミ。コレカツ、ファイトマネーモラエルシ、マホラノtopハ、ステータスヨ。ギャラフエルネ、ワタシマケナイ」

 

見る者を不快にさせる、ニタニタした歪んだ笑みを浮かべながら、腰に半月刀(シミター)マン・ゴーシュ(打払用短剣)を履いた中肉中背の男ーー刀剣甲冑部副部長 半月 疾也が傍らの、対照的に長身でニコニコと人の良い笑顔を浮かべたトランクス一丁姿の黒人ーームエタイ部部長 ウッティ・チャイと対話している。チャイは和かに返答こそしてはいるが、半月が発しているのは殺気にも似た敵愾心剥き出しの感情であり、お世辞にも二人は友好的な関係とは言えないだろう。

一種異様な関係と言えるかもしれないが、本日、この場所(・・・・)においてはこの程度の因縁めいたそれは珍しい者では無く、相当に目立つ格好をしている二人だが、此処においては人目を惹くどころか埋没しているに等しかった。

 

控えめに表現しても、其処には修羅が溢れていた。

 

「さてはて、楽しみですねえ。こんな規模で部長クラス、副部長クラスが集まるのは何時ぶりの話でしょうか?」

バカレンジャー(あいつら)が麻帆良五強に決定した極大乱闘以来じゃあ無いかなぁ?まあまあ皆さん殺気立った容貌(かお)しちゃってまあ〜〜……」

 

三揃えのスーツ姿の如何にも紳士然、とした二十歳前後の青年ーーサバット部部長、常道 優也が重ねた年齢以上に悠然とした落ち着きを見せつつも、それ以上に心躍る想いを抑えきれ無いといった様子で呟き、呆れた様な台詞を吐いて応じつつも好戦的な笑みを浮かべて身体を揺らすのは、どちらかというと細身の使い古した道着姿の常道と同年代らしき糸目が特徴の青年ーーテコンドー部部長 天越 修斗だ。

 

「…ふ、相も変わらず醜い脇役達がこの秀麗なる美の化身にしてアフロディテの寵愛を受けし、戦場に咲く一輪の薔薇。…水仙華・エミール・雅美を引き立てる簀の子として散ろうとは、なんとも健気なことだ……路傍の石塊にも金剛石(ダイヤモンド)の輝きは理解出来るとみえるね……」

「聞きたくも無え遠回しな御託をグダグダグダグダ五月蝿えんだよ糞ナルシー野郎が。武器持ちでも良いとこトップテンに入るかどうかも怪しい中堅野郎が大口叩くな哀れで聞いてらんねえから」

 

胸元の大きく開いた白シャツとピッタリした黒のスラックス、腰元に薔薇上の花弁の如き精緻な彫刻の施された籠拳(ナックルガード)のレイピアを備えた金髪碧眼の美丈夫ーー フェンシング部部長 水仙華・エミール・雅美が、その細面をキザったらしい動作と共に掌で覆い、舞台上の役者か何かの様な大袈裟に過ぎる口上を垂れる。それに対して心底ウンザリだという態度を隠そうともせずに投げやりな口調でツッコむのは、荒んだ目付きの三白眼が目立つボサボサ頭の青年だった。樫の棍や鎖分銅、十手等を背中や腰へ身に付け、腰には太刀を手挟んだ全身武装の古武道部部長 東雲 慶である。

 

「……僕に決闘を挑むならまず手袋を用意したまえよ、薄汚い口を利く汚れた野獣?」

「格好付けの御飾り剣術が喧嘩売るかよ身の程知らず。小綺麗な面の鼻っ柱から潰して更にイイ男にしてやろうか?」

 

「……はっはっは‼︎実に滾る顔付きの武士(もののふ)が揃っとる様で何よりじゃなあ‼︎重い腰上げて出場()て来た甲斐があったっちゅうものよ、御主もそう思わんか拳螺⁉︎」

「……恥ずかしいから大きな声で呼ぶな………」

 

ズシーン‼︎と、周りの人間が一瞬振り返る様な凄まじい地響きと共に四股を踏みつつ胴間声を張り上げるのは二mを優に超える長身以上に膨れ上がった横幅の目立つ、小山の様な廻し姿の大男ーー相撲部部長 奉日本 豪臣であった。呼び掛けられて仏頂面でボソリと返答するのは、奉日本には及ばないが二m近い巨漢であり、簡素なシャツとズボンに身を包み、特徴の無い服装の中で唯一両手に着けたボクシンググローブが異彩を放つボクシング部部長 拳螺 一番だ。

 

「うははは相変わらずぶっきらぼうな男よ、そんなデカい成りをしていながらのう‼︎」

「……お前や金剛にデカい成りなどと言われる筋合いは無い」

 

「そうその金剛よ‼︎ふはは奴とは真正面から決着を着けねばなるまいと心残りだったのだ、今回上手く当たれればよいがのう‼︎……それにしてもこうして儂等が平幕の様に先入りしているというのに、随分と遅いでは無いか、横綱級(バカレンジャー)の土俵入りは」

「……俺に言われてもな………!…噂をすれば影、の様だぞ、奉日本」

「ぬ⁉︎」

 

奉日本が拳螺の指す方向へ首を向けると、会場の入り口からある一団が入って来る所だった。

その顔触れを見た会場の面々の一部が、歓喜や嚇怒、憎悪や敵意等、正負種類の区別無い様々な感情を発露する。それは目に見えないながら圧倒的な圧力を感じさせる重圧(プレッシャー)の波となり、会場内から外の龍宮神社の境内まで拡がり、範囲内の人間を打ち据えた。

 

 

「……っ⁉︎」

「………なんや、この………⁉︎」

 

「あ………‼︎ゆゆ、ゆえ〜………‼︎」

「っ‼︎………落ち着く、です、のどか………‼︎」

「…ちょっと、洒落になんないわよこの連中………‼︎」

 

「……お嬢様?」

「……大丈夫や、せっちゃん」

 

「アイヤ、相当いりき立ってるアルね」

「正しくはいきり立つ、でござるよ古。……それにしても、此れ程でござるか、此処(麻帆良)の面々は………」

 

 

その異様な迫力の中に、ネギと小太郎は確かな実力者が群れを成して自分達を注視していることを知覚し、生命の危機を本能が感じて震え、未だ一般人枠を抜け切らないのどかや夕映、明日菜は単純に圧力へ怯えを見せる。木乃香を背後に庇い立てた刹那は、表情を動かさぬままに安否を気遣い、木乃香は武道家達の重圧(プレッシャー)よりも刹那自身を気にかけるかの様に、親友の背中を見やりながら答える。古や楓に至っては、圧力の大きさに感心こそ見せれど平常心そのものだ。

 

「………オラァァァァァァァァァァァァボケ共ォォォォォォォォォォッ‼︎‼︎」

 

集団の先頭に立っていた中村が凄まじい声量にて一喝した。ザワザワとさざめいていた会場内の武道家達がピタリと会話を止め、視線が中村に集中する。

それにより一層増した圧力が中村へと叩き付けられるが、鼻で笑って中村はそれを余裕で受け止める。

 

「こっちにゃパンピーも居んだよボケ共‼︎気ぃ納めろや、マナーだろがぁ‼︎」

 

中村の怒喝に会場が僅かに揺らめいた後。

潮が引くかの様に急速に、殺到していた圧力が消えて行った。

 

「…ったくこっちゃあ色々それどころじゃ無えってのに……大丈夫か全員、特に女の子ぉ‼︎ガキ二人は割とどうでもいい!」

「ええぇ⁉︎」

「なんやとゴラァ‼︎」

「五月蝿え‼︎」

 

抗議の声を上げるネギと小太郎を黙殺する中村である。

 

「は、はいー……」

「口振りはアレですが感謝するです、中村先輩」

「いいってことよ!……しっかしなーあすこら辺はまだいいとして……」

 

のどかと夕映に対して無駄に爽やかな顔でサムズアップを決めた後、一点してウンザリした表情で中村は後ろを振り返る。

 

「いいか那波、此処に集まってる連中は頭のネジが最低三本は抜けてる様な馬鹿しか居ねえ。中には武道家精神とは程遠いゴロツキ紛いの奴も居るから、余り一人で行動すんなよ?」

「はい、解りました。じゃあ所用の際は豪徳寺先輩にお声を掛ければよろしいですね?」

「……いいけどよ………」

 

「はーはははははぁ、豊作アル豊作アル‼︎どうやら麻帆良のナンバーワンを決める時が来たみたいアルね‼︎」

「恥ずかしいから燥ぐな阿呆。いいか、望み通り当たれば決着をつけてやるが、俺達がここに参加すると決めた当初の理由をくれぐれも忘れるなよ?」

 

中村の視線の先には戯れる二組の男女である。お仲が良ろしい様で結構な事で、と吐き捨ててから、今度は怖々と中村はその横を見る。

 

「「………………………………」」

 

「…………あ、あんな〜せっちゃん……」

「近衛ちゃん、きもちは解るけどそっとしとくしか無いさ。あの状況はまんま僕らの男女逆だ、……桜咲ちゃんはもう覚悟を決めてるし、辻は意地でも受け入れない。大会で譲れないもの秘めた武道家が二人……勝負でしょう」

「ネタ走っとる場合や無いんや山下先輩〜‼︎てゆうか先輩もそんな飄々しとる場合や無いやんか〜〜⁉︎」

「ハハハゴメンね近衛ちゃん、いや静かにジッとしてると僕も弾けそうだからさあ。一種の開き直りだよね、うん」

 

オロオロと半ば泣きそうになりながら惚けた事を言う山下を詰る木乃香に何処か虚ろに笑う山下だった。

見れば普段よりも明らかに間隔の開いた距離感で佇む辻と刹那。辻は苦虫を噛み潰した様な表情だし、刹那は眉一つ動かさない無表情で淡々と装備の点検を行っている。何かあったーーそれも良くない方のものがーーのは明白であり、午前中から大会直前までデートをしていた事実を鑑みれば答えなど一つしか残されていないだろう。龍宮神社に入る直前に合流した木乃香が尋ねても、『申し訳ありません、時が来たら話します』の一点張りで刹那は真面に話しはしないし、辻に至っては人の良い普段の態度が嘘の様に機嫌が悪く、とても話の聞ける状態では無かったのだ。木乃香が不安になるのも当たり前の話だろう。

 

「……ていうか何でせっちゃんあない殺る気マンマンなん?辻先輩も殺気立っとるし、絶対ネギ君のお父さん関連の為だけであないになる訳無いやんか〜〜‼︎そないに気負うて参加するもんや無いやろ〜〜‼︎」

「どうどう近衛ちゃん、落ち着いて。いや気負わないどころか本気出さなきゃ危ないからね今回予選から。……まあ何にしても放っておけない状態なのは確かだけれど、間も無く予選が始まるんだ。悪いけど口を出してる時間も余裕も無いんだよ…だから豪徳寺や大豪院達も敢えて普通にしてるんだと思うしね。……これ(予選)が終われば明日の本戦まで時間はまだある。それまでに必ず力になるから、今は見守っていてくれないかい、近衛ちゃん?」

「…………、う〜〜…………」

 

「……あれだからなあオイ」

「な、何があったんでしょうか〜…?」

「事情は聞いていますが、単に辻先輩が操られた云々の話を引きずっているだけとは思えませんしね……」

「え〜〜…じゃあ他になんだっていうのよ?」

「さて、神ならぬ拙者らには窺い知れぬことでござるが、山下殿の意見が正しいでござろう。今は当初の目的の第一段階を果たすことに集中するべきでござる」

「…楓ちゃんにさんせーとして、その上でどうすんべ、これぁ……」

 

面倒臭ーなーさっさと始まりゃいいのになー、と中村は内心でボヤきながら色々追い詰まっている二人の悪友を見て溜息を吐く。

 

……山ちゃんの方は勝つにしろ負けんにしろ一応の決着は着くんだろうが、(はじめ)ちゃんとせったん明らかに拗れたべ。……あの糞真面目野郎もしや操られたにせよ愛する者に刃を向ける様な男は君に相応しく無い‼︎…とか言ってせったんの告白拒否ったんじゃ無だろな……?

 

そんな風にドンピシャに近いニアピン予想を立ててから如何にも有りそうだ、と再度深い溜息を吐いている中村へ近付く人影があった。見れば中村だけで無くバカレンジャーの面々、3ーAの実力者である古や楓の元へも寄る影が認められた。

 

 

 

「あれ部長じゃん、ヘロー元気してます〜?」

「…ああ、絶好調だとも中村。お前を倒す為に以前から万端の用意を整えて来たのだからな……」

 

中村は目の前に佇む空手着を来たオールバックの良く似合う、鋭い目付きの青年に軽い調子で声を掛けるが、その青年ーー空手部部長 真隆 正樹は敵意に満ちた声音で攻撃色の伺える言葉を吐く。友好的な態度を示す気は欠片も無いようだ。

 

「ヨイヨイ部っ長ぉ〜ん、何いきり立ってんのよ?雄々しく勃つのは我等が股間の息子様だけで充分でしょうが?」

「っ……‼︎……中村、この際だからはっきり言わせて貰う。お前の、実力を身に付ける事に関しての求道者振りは一人の武道家として尊敬している。……しかしお前のその、どうしようも無く軟派で巫山戯た言動と、仮にも部に所属しているにも関わらず碌に顔を出さずに、後輩の指導等を全放棄する自分さえ良ければいいという独善的な部分が。…どうしようもない位に大嫌いだよ」

 

からかう様な中村の軽いおちょくりに、額の血管に青筋を浮かべて激昂しかける真隆だが、一度深呼吸を行って怒気を抑え付けると、隠し切れない敵意と侮蔑の伺える言葉にて中村へ宣言した。お前の事が大嫌いだと。

しかし、中村はそんな拒絶の言葉をそですか、という軽い頷きにてアッサリと受け止めてみせる。

 

「まああれっすよ。部長みてえな堅物と俺みてえのは合わねえんでしょ何処までも。まあぶっちゃけちっとは俺も悪いとは思ってんすよ、後輩共の件とか。けど俺手加減苦手ですし、何よりあれだ……強くなる為に血反吐吐く覚悟も無え様なハンパな連中相手に構うのなんざ時間の無駄だと思うんすよねえ……」

 

別にクラブ活動(・・・・・)にケチ付ける気は無いっすから、今後も部長の指導で仲良くやってりゃいいじゃないっすか?と、中村は投げやりに言う。真隆は中村の言葉を聞いて静かに首を振り、最早戦意を隠そうともせずに宣言する。

 

「…解ったもういい、確かに俺とお前は相容れないらしいな。なら単刀直入に言う。…フラフラして問題ばかり起こしてる幽霊部員が空手部最強なんてのが俺達は耐えられない。だから今回の大会で、俺が直々にお前を潰す」

「おっ!いいねえ部長、そういうわかり易い展開は好きよ〜〜」

 

鋭い眼光で睨み付けて来る真隆に対して、歯を剥き出した獰猛な笑みを中村は返した。

 

 

 

「……ふむ?それは拙者に対する戦線布告ということでよろしいのでござるかな、忍野先輩?」

「……ええ、その通りよ長瀬さん」

 

楓は目の前に立つ長身の、首元から足首までを覆う漆黒のボディスーツを着た、怜悧な印象を受ける冷たい美貌の女性ーー忍術部副部長 忍野 瀧姫を、それなり以上の驚きを持って見上げていた。

ケブラー繊維が織り込まれているという濡れた様な輝きを放つスーツは素肌に直接身に纏っているらしく、引き締まりながらも女性的な豊満な乳房や臀部のラインをくっきりと浮かび上がらせている。今も話している最中に重たげな双丘はユサリと艶かしく動き、なんとも言えず扇情的だ。そんな格好をしている本人は表情の変化が少ないクールな美人である為、服装とのギャップが一瞬異様な色気を発している。楓はその姿がクノイチというコンセプトに則っての一種制服に近いものだと理解しているが、事情を知らない者からすれば単なる痴女である。そんな忍野と楓はそれ程親しい訳では無く、顔を合わせて幾らか話をしたことがある程度。故に楓は態々尾け狙われる理由が解らなかった。

 

「……ふむ、何故、と問うても?」

「……申し訳無いけれど教えられないわ。唯、部活関連で無く私個人の因縁である、とだけ言わせて貰うわね……」

 

迷惑だとは思うけれど、喧嘩を買って貰うわ……、と言い残して踵を返し、忍野は楓の元を去って行く。

 

「…ううむ、訳が解らんでござるなあ……」

 

楓は形の良い引き締まった尻を僅かに揺らしながら遠ざかる忍野を見て嘆息する。楓自身はストイックな性分であり、修業により鍛えた心身と技の数々を思う存分揮える機会に心躍らないと言えば嘘になる。故にこの手の挑戦も来る者は拒まないスタイルで此処まで来たし、ネギに協力する為の打倒偽物チキンオヤジはそれとして、強者と闘えることにワクワクしながら来たものであったが…

 

「拙者何か忍野嬢に悪いことをしたでござるかなあ……」

 

これである。知らぬ内に恨みを買っていたとなれば気になるし、それが自分と無関係とは言えない人間ならば多少ならずとも堪えるものなのであった。

 

「……忍足殿はいない様でござるし……明日にでも聞いてみるでござるかな?」

 

楓は軽く頬を叩いて気持ちを切り替える。何せ今日の相手の大半は最低でも(・・・・)外気、内気のどちらかを使い熟す超人集団、麻帆良武道系部活の部長、副部長の群れである。

 

「……最低でも、中村殿と当たるまでは負けたくないでござるな……」

 

 

 

「やぁやぁ、辻君元気……じゃあ無さそうだねー、どしたの怖い顔して?」

「辻 (はじめ)ぇっ‼︎何時もの様に腑抜けた表情をしているかと思えば、漸く貴様も本力で我等と相対する気になったか‼︎」

 

道着に刃を潰した薙刀一本を抱えた身軽な格好の太刀嵐と、元々女性にしては長身の身体に総身板金鎧(スーツ アーマー)を纏い、二m近くにまで巨大化(・・・)した鎧塚がそれぞれ、強張った表情でベンチに座って得物(刃潰しの日本刀)を点検していた辻へ言葉を投げ掛ける。辻は面倒臭そうな素振りを隠そうともせずにぞんざいな目付きで二人を見据え、ぶっきらぼうに返事を返す。

 

「…ああ、どうも太刀嵐先輩、鎧塚。元気そうで何よりです」

「そう言うそっちは何やら暗いねー。どしたのホントに、辻君らしく無いよ?」

 

太刀嵐は普段から考えられない程投げやりな辻の対応に目を白黒させている(重厚な面頬付き兜(クローズド ヘルム)を被っている為に見えないがその様な素振り)鎧塚を他所に、心配気に眉根を寄せて辻へ尋ねる。

しかし、太刀嵐の台詞に辻は顔を歪めて吐き捨てる様に言い放つ。

 

「らしく無いって……貴女が俺らしさ(・・・)の何を知ってるって言うんですか。…解った様なことを言わないで下さいよ」

 

そのどうにも棘の生えた辻の返答に、太刀嵐が何か言うよりも早く鎧塚がガギョリと鎧を鳴らしながら怒鳴り付ける。

 

「辻 (はじめ)!曲がりなりにもこのユルフワ女は貴様を心配して言っているのだ!その様な返事の仕方は失礼だろうが‼︎」

「……ねー彩華ちゃん。そんな風に気遣ってくれるならユルフワ女呼ばわりも止めてよ。どっちかって言うと私そっちの呼称の方がショックだよ」

「ぬ……⁉︎……そ、それよりも私を下の名前で、しかもちゃんを付けて呼ぶな‼︎女々しい響きを気に入っていないのだ‼︎」

「あぁん⁉︎それは大蛇なんていう仰々しい名前してる私への当てつけかこのデカ女ー‼︎」

 

何時の間にか互いに心の柔らかい所をつつき合ってしまったらしく、辻をそっち除けで睨み合い始めた太刀嵐と鎧塚を見て、辻は僅かに表情から険が消え、力無い苦笑へ変わる。

そんな辻の変化を目敏く見咎めた太刀嵐が直前までの怒り顔をパッと笑顔に変え、勢いに任せて何事かを捲し立てかけた鎧塚の口元…は塞げないので面頬に平手を当てて黙らせ、辻に朗らかに話し掛ける。

 

「ヤホウ辻君、落ち着いたかい?」

 

「…すいませんでした。何処までも自業自得ではあるんですが、やり切れないものを感じてましてね……」

 

「……ふーん、まあいいや。何かあったのか、なんて聞かないよ。人間生きてりゃ何かしらあるもんだからねー、」

 

でもさ辻君、と太刀嵐は僅かに目を細めて尋ねる。

 

「まさかここまで来といてやる気ありませんー、適当にやって帰ります、なんて言わないよね?悪いけれど、そっちの事情がどうあれ私はリベンジに燃えてるんだからさー?」

 

「…ご心配無く。寧ろ半分はやり場の無い怒りを発散させる為に来た様なものでしてね。八つ当たりなのは重々承知の上ですが、やり過ぎてしまいかねないので注意して下さい」

 

辻の宣言に太刀嵐は何とも嬉しそうに顔を綻ばせ、先程から黙って会話を聞いていた鎧塚も哄笑して歓喜を表す。

 

「はははっ!いいねいいねえ。理由はどうあれ本気で来てくれるんなら文句は無いよ‼︎」

「貴様にしては大きく出たな辻 (はじめ)‼︎ならば私はその上で貴様を真っ向から打ち破り、貴様と貴様の剣道部を我等が傘下に加えて見せよう‼︎」

 

呵々と高笑う二人を前に、辻は自分以外に聞き取れない様な小さい声で、ポツリと呟きを洩らす。

 

「……悪いな、桜咲。お前がその気(・・・)なら、俺はお前相手でも容赦はしない」

 

 

 

「……やあ、エヴァさん」

「……よう、山下……」

 

その二人は喧騒の中、静かに会合を果たした。

 

「……予想以上に馬鹿が多いな、この都市は。正直舐めていたと言わざるを得んのだろうが、まさかお前はこいつら(・・・・)が私の戦力を多少削るなり解き明かすなりしてくれることを期待しちゃいまいな?」

 

エヴァンジェリンは初めて山下達と闘り合った時と同じ、身体にぴったりとしたボンテージコスチュームに身を包み、背中には裏地が血のように朱い、漆黒のマントを羽織っていた。外見は歳幼い少女の些か過激な格好も、多種多様な仮装の煌めく麻帆良学園祭の中、尚異形の揃うこの会場内では不思議に相応しく見える。

 

「まさか。先輩方及び日夜修錬に励んでいる同期後輩を貶すつもりは無いけれど、彼らは貴女に初めて遭った時の僕らより大体は下さ。寧ろ勘を取り戻す良いウォーミングアップになってくれると思うけど?」

 

対する山下は、ピッタリとした首までを覆う、一枚繋ぎの袖無しフィットスーツの上から同材質の長手袋に、足元迄を覆い隠す黒皮で出来た袴の様な前垂付きの衣装を身に纏っていた。まるっきり格闘ゲームの怪しい武術使いとかがしていそうな、見栄えを重視した機能的とは余り言えない格好だ。

どちらも現実に即したとは到底思えない、不釣合いや虚飾製とは一段階離れた所に有る服装センスである。

一般人が有り体に言うなら服の趣味(センス)が悪いと一蹴しそうなこの二人(エヴァンジェリンと山下)、実は感性が案外似通っているのかもしれない。

 

「フン、薄い希望に縋り付いている訳でも自棄になった訳でも無いようで一先ず安心だ」

「いやまあ相応に気負いも緊張もしているけどねえ。今回はネギ君には悪いけれど、全体のしがらみ全部忘れて自分の為だけに動いてたから。……勝つも負けるも懸かっているのは己の望み唯それだけだ。ならば気取らず気取って行こうと思ってさ。どうだい、イカしてるだろエヴァさん?」

「…ああ、悪くは無いセンスだ」

 

フンと鼻を鳴らしながらも、至って馬鹿にしたり皮肉気な様子は欠片も見せずにエヴァンジェリンは頷く。

 

「………、退く気は無いな?」

「何を今更」

「ならば、いい」

 

二人は短く言葉を交わし、やがて一方は踵を返す。

その場に残ったもう一方ーー山下が、傍目にはボンヤリとエヴァンジェリンの小さな背中を目で追っていると、後方から近付く大小の影がある。気配を感じて振り返った山下は、其処に立つ物影(・・)二体を見て有るか無いかの身体の緊張を緩めた。

 

「やあ、零さん、茶々ちゃん」

「ヨウ山下、応援ニ来テヤッタゼ」

「こんばんは、山下先輩」

 

小悪魔風の仮装衣装に身を包んだチャチャゼロが制服姿の茶々丸に抱えられて小さな手を振っている。外見こせ可愛らしいが、その実態は何百何千という主人の敵対者を手に持つ刃で切り刻んで各世を歩み、遂には仮初の生命(いのち)を持つに至った筋金入りの殺戮人形(キリングドール)だ。人やものはつくづく見かけによらないよなあ、と内心山下が思いつつも、先程の気になる発言を問い質す。

 

「あれあれ零さん、零さんはエヴァさんの相棒(パートナー)なんだから、エヴァさんの応援をしなくていいのかい?」

「イインダヨ、前ニモ言ッタダロガ。俺ァドッチカッテートオ前ノ意見ニ賛成ダッテヨ。俺ハ人形ダガゴ主人ト一緒ニ、酸イモ甘イモソレナリニ噛ミ分ケテンダ。ゴ主人第一主義ノ妹達ト違ッテ、ゴ主人ガ自分デ選ンダ以上、ドウナロウガ自分デ選ンダ道ダ、ッテコトデ諦メハ付クゼ。俺ハ唯追イテクダケダカラナ」

 

ソレデモ、とチャチャゼロは変わらぬ表情の中、心なしか柔らかい響きを持っている様に感じる声音でチャチャゼロは締め括る。

 

「ドウセナラ幸イナ方ガ良イ、ナンテノハ当リ前ノ話ダロ?」

 

「……だねえ………」

 

マアオ前ガ幸セニ出来ルッツウ保証モ無エンダケドヨ、とケラケラ笑って混ぜっ返すチャチャゼロに山下が苦笑していると、それまで黙って話を聞いていた茶々丸が一歩進み出て、姉とは方向性の違う無表情の中に確かな真摯の光を湛えさせながら山下に申し出る。

 

「山下先輩。私や姉さんは立場上公然と山下先輩を応援することは出来ません。また正直に申し上げますが、マスターと山下先輩が戦闘を行った場合において、山下先輩が勝利する確率は極めて低いと言わざるを得ません」

「うわあはっきり言うねえ茶々ちゃん」

「悪気ハ無エンダロガ正直ナ末妹デ悪イナ山下」

 

ザックリと斬り込み、ぶっちゃけた茶々丸の台詞にガックリと首を垂れる山下と、全く悪いとは思っていなさそうな雰囲気でケケケと笑うチャチャゼロ。しかし茶々丸は一人と一体の反応(リアクション)を意に介さず、続く言葉を口にする。

 

「しかし、マスターも山下先輩も、勝算の有無等を計算して雌雄を決するので無い以上は、私の外面的観察要因に基づいた予想等不用にして無意味な空論なのでしょう。……私はガイノイドです。山下先輩の勝利を祈る行為に対して、意味を見出すことが未だ出来ない人ならぬこの身でありますが、感情を交えぬ論理の機械として有る身だからこそ、創造主の一人にして主君たるマスターに絶対の忠誠を捧げるモノ(・・)故に、私は主君の幸いを望みます」

 

意味の理解(わか)らぬ祈りを貴方に捧げる不全な行為をお許し下さい、と頭を下げる茶々丸に、山下とチャチャゼロは顔を見合わせた後、同時に愉快気な笑い声を周囲に響かせた。

 

「……………?………」

 

「ケケケケケ、悪イナ妹ヨ。オ前ノ拙エ意思ヲ嘲笑(ワラ)ッタ訳ジャ無エ、許セヤ?」

「うんうんその通り、笑うべきで無い場面で笑ったのは謝るよ。……茶々ちゃん、自分をそんなに卑下して想いを口にする必要なんて無いよ。自覚は無いのかもしれないけど、君には確かに自我が目覚めている。主君(エヴァさん)の命に反しながらも、主君(エヴァさん)の幸いを望むその姿が何よりの証拠だ。……承ったよ。これでますます、()けられなくなったねえ」

 

山下の言葉に、僅かだが目を見開く茶々丸と、そんな末妹を見て笑うチャチャゼロを見て、山下は決意を新たにする。

 

……貴女に勝って、貴女を幸せにしてみせるよ……エヴァさん…………

 

 

 

「桜咲〜‼︎」

「お〜い、桜咲‼︎」

「……副部長、何故此処にいらっしゃるのですか?」

 

息急き切って面白い格好の危ない男達、(少数の女)を掻き分けながら現れた剣道部の副部長,Sを見て、固い表情で押し黙り、待合席に腰掛けていた刹那は僅かに驚いた様子で目を軽く見開いた。

 

「どうもこうも無いよ!あんなことになっちゃったから上手くデートをシメられるか心配だったけれど、部長と桜咲にバレた以上は尾けて行く訳にもいかないし‼︎」

「それでヤキモキしてたら案の定明らかにお前ら雰囲気おかしいじゃん!一体どうしたんだよ、出場()るとは聞いてたけれどそこまで桜咲と部長が殺気立ってるのもおかしいし‼︎二人の性格上喧嘩別れなんて無いとは思うが、何かしら拗れたんだったら俺達一同が覗きの詫びも兼ねて誠心誠意仲直りのお膳立てを……‼︎」「先輩達、宜しいですか?」

 

副部長(男)の言葉を静かに遮り、刹那は言葉を放った。いっそ穏やかとすら言える刹那の言動に、しかし不穏な何か(・・)を感じた副部長,Sは言葉を呑み込み、続く台詞を待つ。

 

「私、辻部長のことが好きなんです」

 

と、周囲(まわり)からすれば周知の、しかし本人達の口から周りに暴露されることはまず無いだろうと思われていた事実の突然過ぎる告白(カミングアウト)に、副部長,Sは目を白黒させた。

 

「…でも、理解していなかったんです。好きっていう感情がどういうものなのか。……好きな人が、隣に居ないとどんな気持ちになってしまうのか。……私は全く、理解(わか)っていなかった。あれだけ自信の欠片も無いような醜態を見せていながら、辻部長は私以外に振り向きはしない、なんてここの何処かで考えてでもいたんですかね?」

 

なんとも傲慢で、恥ずかしい話です、と刹那は苦笑しているが、何やら先程から発せられている得体の知れない迫力に副部長,Sは全く笑えない。

 

「……いやあの桜咲…?」

「……ああ、すみません副部長。要領を得ない話ばかりベラベラと不躾でしたね、申し訳ありません」

「…い、いや、愚痴くらいなら幾らでも聞くけどな……?」

 

目からハイライトが消えている等という解り易い変化は起こっていないが、明らかに現在(いま)の刹那はおかしい。そして、その原因はどうも告白したのかする前にそれとなく拒否されたのかは判らないが、どうも刹那が辻にフラれたことにあると副部長,Sは結論付けた。

 

「……え〜何で?何で上手く行かないわけ本当に?凡百の何が気に入って付き合いだしたかもわかんないモブカップルなら兎も角部長と桜咲だよ?どうチョッカイ出しても結局は上手く行きそうだからこそ安心してイジってたのに…………」

「解らん、解らんが口振りからして部長がフッたっぽいのは事実らしい。……あの部長が他に好いてる女が居るなんてことはほぼあり得ねえし、億が一そうだったとしてそれを黙ったまま他の女と逢引き出来る様なクソ根性は絶対にあの部長には無え。つまりはほぼ間違いなく二人は相思相愛だが、部長の方で何かしらやむを得ない事情があって桜咲をフッた……って事になるの…か……?」

 

副部長(男)は自分で言いながら自信が無くなって来て語尾を濁す。そもそも付き合えない何らかの理由が有るのならば、デートに行くよりももっと前の段階から交際を深めない様に立ち回るのが普通の考えである。ならば考え違いを起こす程の何か(・・)が辻には有るということになるのだろうが、ならばそれは何だという話に戻る。

 

「……何だか凹むねえ、マイダーリン……」

「だな……そりゃあ無二の親友だなんて自惚れてたつもりは無えけど、普通以上に仲良くしていたつもりだったのにな、マイハニー……」

 

ふう、と二人揃って辻の内心を察することの出来ない不甲斐なさに溜息を吐く副部長,S。そんな二人を心無し柔らかくなった目で見やりながら、刹那は言葉を投げ掛ける。

 

「…私はおろか、一番付き合いの長いであろう中村先輩達にも、はっきりとは打ち明けていなかった話らしいですから。きっと誰であろうと踏み入らせるつもりは無かった話なんだと思います。…だから私を、あの人は拒みました。自分の為で無く、私を気遣って。……本当に、お人好しですよ、黙っていれば嫌われるかもしれない危険性(リスク)を負わなくて済むでしょうに」

 

刹那の言葉に、今だ話が見えないながらも副部長,Sは頷く。断片的に刹那から告げられた話が本当ならば、それは正しくあの男(辻 一)らしいと。

 

「……私は、どうやらフラれて諦めが付く程物分かりの良い女では無かったようです。到底褒められた方法ではありませんが、あの人と添い遂げる為に私は此処に居ます。…私の気が違ったと、見ていて思われるかもしれません。協力して欲しいとは言いません、嫌悪されることも覚悟の上です。…ですがどうか、私の行いを止めないで下さい。お願いします、陽愛先輩、優月先輩」

 

そう言って深々と頭を下げる刹那の姿に副部長,Sーー陽愛 月求と優月 陽求は一瞬顔を見合わせてから破顔する。そうして二人は刹那の両肩にそれぞれ手を置いて身体を引き起こし、顔を上げさせられて少し驚いた様子の刹那に目線を合わせて告げた。

 

「大丈夫だよ桜咲、あんたが何をしたって私達は味方で居てあげるから。水臭いこと言ってないで、私達に出来ることがあるなら何でも言いなさい」

「お前さんの男は部長以外にあり得んさ。昼間のゴスロリ女が何なのかは知らんが、お前の気持ちが固まってるんなら何も問題無い。恋する乙女は無敵だし、何したって許されんだ。無理を承知で突っ走れ、大したことが出来るとは思えんが、援護射撃と尻拭い位はやってやるから」

 

だから単刀直入に言いなさい、やがれ、と声を合わせて副部長,Sは言い放つ。

 

「「俺は(私は)何をすればいい?」」

 

刹那は暫し固まっていたが、やがて頬を緩ませてもう一度頭を下げると、ありがとうございます、と一言礼を告げてからその言葉を口にした。

 

「私と辻部長が予選、または本選で闘うことが出来る様に、お力を貸して下さい」

 

 

 

 

 

 

それぞれが負けられない想いを胸に秘め、まほら武道会はある少女の宣言にて幕を開ける。

そして、その内容は魔法使い(・・・・)達にとって到底無視出来ないものを秘めていた。故に……

 

 

 

「……呪文詠唱の禁止(・・・・・・・)ってまあ、ブッコンできたなああのチャイナ娘……」

「何を暢気に構えているの篠村‼︎これは公に存在を知られてはならない私達魔法使いに対しての重大な背信行為であり、超 鈴音の拘束は急を要するわ‼︎ボウっとしていないで準備なさい‼︎」

 

何処か遠い目で明後日の方向を見やりながら現実逃避気味に呟く篠村と、魔法の存在の暴露に繋がりかねない超の発言に憤り、怪気炎を上げながら今にも会場奥へ踏み込まんとしている高音の姿が此処にあった。

 

「お、おおおお姉様‼︎お、おちちゅ、おちゅちゅいて……‼︎」

「先ずお前が落ち着けや佐倉。高音よ、上の指示を待たずしてお前らだけで突っ込んだら独断専行ってことで却って処罰されんじゃ無えか?一先ずぬらりひょ…学園長辺りに報告して指示を仰いだらどうよ?」

 

自身も突発的な異常事態にテンパっているのかわたわたと手を振り回しながら盛大に噛みまくっている愛衣に声を掛けてから高音を宥めに掛かるのは観客席で木乃香達と観戦に移る、と言う千鶴を送ってから超の宣言を聞き、色々と余裕の無い悪友達に代わって篠村達の様子を見に来た豪徳寺である。

 

「……そーそー高音。場合によっちゃあ俺ら下っ端の出る幕じゃ無くなっかもしれねんだから落ち着こうぜ?今電話してみっからさあ」

「……っ‼︎………………早急な対応が必要なのは事実よ…早くしなさい、篠村」

 

ハア、と一際大きな溜息を吐いてから現実に帰還した篠村の、携帯電話を取り出しつつの執り成しに、高音は顔を真っ赤にして何事かを捲し立てかける。が、感情的になって喚き立てても事態は好転しない、と寸前で自制して数度深呼吸を行い、やがて低い声にて篠村へ告げた。

 

「はいよー……にしてもホント何考えてんだろなあのチャイナ?」

「や、やっぱり再三私達に対する調査行為を失敗したことに対する腹いせでしょうか?」

「……超 鈴音は極めて明晰な頭脳を持つ優れた超科学の担い手よ、私達はおろかベテランの魔法先生の方々でも彼女の対応には手を焼いたらしいわ。……そんな彼女が今更私怨如きで此れ程大掛かりな騒ぎを始めるとは考え難い以上、兼ねてから魔法の現在(いま)の扱いに思う所があって、今回辣腕を振るっていると考えるのが妥当でしょうね……」

 

手早くダイヤルボタンを押しながらウンザリした声音で篠村が呟く。愛衣が漸く呼吸を落ち着けながら推測を口にするが、高音が口元に手を当てながら熟考した後、それを否定する。

 

「……何にしろ今大豪院が古の奴を連れて超の所へすっ飛んでった。まさか正直に全てを話すとは思えねえが、事実上敵対してるみてえなお前らよりは穏便に話し合いに持ち込めるだろうよ。ともあれ指示を待とうや」

 

考え込んでいる三人組に対して、それ以上に明確な知識を持つ筈も無い豪徳寺は当然意見を持ち得なかったが、開会宣言の終了と同時に突っ込んで行った友人達の事を話して思考を止めに掛かる。下手の考え休むに似たりでは無いが、持ち得る情報が余りにも少ない現状推測を立てても確認のしようが無いのだ。サボりたい訳では無いが、豪徳寺が元から向いていない頭脳労働を拒否したくなるのも一概に責められないだろう。

 

「……貴方も少しは危機感を……」

「……ええぇ⁉︎」

 

渋い顔で豪徳寺に苦言を呈しようとした高音の声が、学園の上層部相手に通話を行っていた篠村が上げた驚愕の悲鳴が遮った。

 

「…篠村?」

「ど、どうされましたか、お兄様⁉︎」

 

高音と愛衣が驚いて声を掛けるが、手を上げて篠村は二人を制止して会話を続ける。

 

「はい…はい……いやしかし………それは…………解りました、やらせて頂きます……はい、では」

 

ブツリ、と通話停止ボタンを押した途端に脱力した篠村は、何事かと詰め寄る高音と愛衣に対してやさぐれた声で呻く様に告げた。

 

「……どーも近接戦そこそこでしか無い俺と如何あってもコッソリ行えないお前と、そもそも近接戦を想定した訓練をしていない愛衣は役に立てなそうだから参加しねえ予定だったってのに……bad newsだぜ高音。愛衣を除いた俺とお前、まほら武道会参加が洩れなく確定だ」

 

「………はあ⁉︎」

「え、えええ⁉︎」

 

「……超展開だな、おい………」

 

揃って驚愕の悲鳴を上げる高音と愛衣を他所に、渋い表情で豪徳寺は麻帆良学園の方角を睨み付けた。

 

 

 

「……どういうことダ、と言われてもネ。開会宣言で言たことが私の望みであり目標ヨ。…と言ても納得してくれないのだろうネ、大豪院」

「当然だ」

「……超……」

 

龍宮神社の本殿と拝殿を繋ぐ間の通路にて、相も変わらず人を食ったような笑みを浮かべている超の目前に、大豪院と古は佇み、超を問い詰めていた。その理由(わけ)は、つい先程のまほら武道会開会宣言にての言葉である。

 

『表、裏の世界を問わず私は最強を確かめたい』

『大会における禁止事項は銃火器の使用、及び呪文詠唱の禁止』

 

超はハッキリと世間に知られ得ぬ魔法の存在を仄めかしたのだ、それも一般人ならぬ一パソ人とでも言うべき半人外とはいえ、超の言う裏の世界に関わり無き表の世界の住人達に。

 

「……超。私にむつかしいことはよくわかんないアル。前から超のそういう頭を使てる方面では敵うと思たことは無いから、聞いてもあんまり理解は出来ないと思うアルけど……」

 

大豪院の傍らに控えていた古が、彼女にしては珍しく遠慮がちな、言い換えれば気弱な様子でオズオズと問い掛ける。

 

「……魔法が秘密にされてるていうのは私も知てるアル。それも、魔法使いの先生達や、篠村や高音みたいな生徒が、とても頑張って秘密を保てるって聞いてるアル。……超のしてることは、大勢の人の努力(ヌゥ リィ)を無にする……義に反することじゃ無いアルか?」

 

古は伏せがちになっていた面を上げ、超の顔を揺れる瞳で、されど真っ直ぐに見据える。

 

「 言てる事が的外れで、超を侮辱してしまたなら臥して謝るアル。だから超……教えて欲しいアル。超のしてる事は、悪いことアルか……?」

 

言葉を終えても古は超から視線を逸らさない。ただどの様な感情からか、強く握り締めた大豪院の功夫服の裾の手に、大豪院は僅かに視線を落としてから一度だけ古の頭を軽く撫ぜて、同じ様に超を深く、静かな力強い視線で捉えた。

 

「…そんな目で睨まないで欲しいネ、二人共。まるで私が極悪人の様ヨ?」

「超、茶化すな」

 

苦笑しながら戯けた様に肩を竦める超を、大豪院が僅かに目を細めつつ些か語調を荒げてピシャリと制した。

 

「おお怖いネ……ふむ、些か難しい質問ヨ、古。私は私の目的の為、信念に基づいて行動してイル。そして私は正しいことをしようとしているつもりヨ?…しかし古、絶対的な正しさなんてものが空想の世界でしか有り得ない様ニ、私のしようとしてる事が全ての人にとって正しく益するものでは無いという事ヨ」

「…つまり」

 

超の言葉の後を引き継ぐ様に大豪院は言葉を放つ。

 

「お前の計画は絶対多数的に多くの人間にとって益するものである為に多数方式において正しいものであり、それによって不利益を被る者達がこの学園の魔法使い達……という認識で良いのか?」

「おお、流石は大豪院ネ、少々頭の残念な隣の我が朋友(ポン ヨウ)と違て頭の回転が早いヨ」

「世辞は要らん、肯定とみなすぞ」

「というか誰が残念頭アルか超‼︎」

 

シリアスな表情浮かべてる大豪院の横で両腕を振り上げてウガー‼︎と古が憤慨しているが、超も大豪院もそれを黙殺する。

 

「そうネ……大体において正解と言ておこうカ、大豪院。唯私の計画において不利益を被る人達においても私は充分な補償をするつもりヨ。またその不利益という者も、彼らの掲げる信念からすれば許容せざるを得ないものの筈ダ」

「……何?」

「?、???」

 

謎めいた超の発言に大豪院は眉を潜め、古に至っては既に頭から煙が上りかねない様子だ。

そんな二人の様子を見て超は笑い、くるりと衣装の裾を翻して本殿へと歩み始める。

 

「超、待て!まだ話は終わっていない」

「そうネ。だが大豪院、此処へ今日出向いた目的を忘れてはいないカ?」

 

引き留めようとする大豪院に対して、超は境内に仮設された闘技場を指差し、告げる。

 

「間も無く予選が始まるネ、選手は指定された各ブロックに集合しなければいけないヨ、大豪院、古?」

 

「…………ぬぅ…………」

「……嵌められたアル‼︎」

 

何やら型にはめられたかの様な鮮やかなる超の身躱し振りに、歯噛みする大豪院と古。

 

「……心配要らぬヨ大豪院。私は事情(わけ)を話すと前に誓タ。友との诺言(ヌゥオ ヤン)を破る程私は落魄れてはいないサ。ネギ坊主とのそれを優先するとイイ」

「…………いいだろう」

 

超の言葉に、大豪院は渋面を崩さぬまま尚も詰め寄り、文句を吐こうとしていた古の首根っこを引っ掴むと闘技場へ向かって歩き出す。

 

「では何れまた、ポチ」

「……その名で呼ぶな」

 

 

 

悲喜交々の想いを載せて、混沌(カオス)(カーニバル)が幕を開ける。

 

 

 

「おやおやぁ…?此処は子供の遊び場じゃあありませんよぉ、僕ちゃん達ぃ?」

 

オリシと呼ばれる六十cm程の短棍棍を両手に持った浅黒い男の揶揄う様な声に、場内の何処かで抑えた笑いが起こる。

 

「………………………………」

「……遊びに来た様に見えるんかい、兄ちゃん」

 

様々な道着、防具、武器によってその闘技場内は異形の彩りに染められていた。古今東西多種多様の武術、武道を修めた麻帆良の強者達、各部活の副部長、部長クラスが一つのブロックに二十人。それは則ち、猛獣以上の危険性を備えた脅威の顕現が群を成して佇んでいる事に他ならない。

同じブロックに配置されたネギと小太郎であったが、明らかに小学生以上にはどう頑張っても見ることは出来ない子供の姿に好意的な目線は向けられなかった。ネギは兎も角、血気盛んな性格をしている小太郎ならばもっと威勢良く噛み付いても良さそうなものであったが、それが出来ない理由は単純にして明快である。

 

「……あんまりお子様に厳しいことは言いたく無いんだけどさぁ。君達武道始めてどれ位?一年かな、五年かな?まあどう頑張っても十年以上ってことは無いよね?…ああ、答えなくていいよ。返答次第じゃ大人気なく怒っちゃいそうだからさ」

 

先程の二棍使いに続いて、黒く染め上げられた縄を手に持つ道着姿の男が顔を顰めつつ、睨む様にして自分達を見つめて来る小太郎に淡々と告げる。

隠し切れない憤りをその目に宿して。

 

「……此処に今こうして居る連中の大半はさ。物心ついた頃から、理由は色々だけど一つの何に魅せられて、寝ても覚めても強くなることだけ考えて、文字通り血反吐吐く様な思いをしながら自分鍛え上げた奴らなんだよ、解るかお前ら?……遊びに来たんじゃ無えのは目と立ち振舞い見りゃ判るよ。お前ら真剣だし、その歳にしちゃあり得ない位に実力有るんだろう。俺が同じ歳の頃より強いかもな………で?」

 

ブワリ、と実態が無いにも関わらず、熱く乾いた何か(・・)に吹き付けられた様な感覚をネギと小太郎は覚えた。

その正体は、怒気。

誇り(プライド)に触られた、武道家の怒気だ。

 

「……舐めてんじゃ無えよガキ共。調子こいてねえか天才少年達?そっちの子供先生は頭の出来だけじゃ無く腕っ節も飛び級かオイ。中村達に目ぇ掛けられてるらしいが、てめえらが出場()て来んには十年早えんだよ。……忠告だ、今直ぐ棄権しろ。俺達みたいな人種はキレてる(・・・・)奴も多い、優しく手加減して貰えるなんて夢見んな?病院送りならまだいい、下手すりゃ死ぬぞ。……いい歳こいて最強目指してる様な男は大人気無えんだ、もう一度言う。怪我しねえ内に帰れ」

 

男は言い終えると、年端もいかない子供相手に遠慮無しで凄んだからか、多少バツの悪そうな表情を浮かべながらも吐いた言葉は撤回しない。周りの部長、副部長達も同様だ。

 

 

「…………アレやなネギ、ホンマに」

「……うん、井の中の蛙、って奴だったんだろうね」

 

ネギと小太郎は力無く笑い合うと、周囲の男達を見渡す。誰も彼もが凄まじい気迫を身に纏っており、京都で遭遇した十把一からげの妖達などよりも遥かに強大な力を持っていることが、現在の二人には理解出来ていた。

 

『……二人揃ってギリ合格じゃあ、まああるんだが……馬鹿にする訳じゃ無えけど、正直予選突破も厳しいぞお前ら。馬鹿が大挙して集まっちまったからな〜…俺らだけに任せる気は、本当に無えんだな?』

 

合宿(・・)最終日に中村から渋い表情で告げられた言葉がネギの脳裏に蘇っていた。

 

……馬鹿だな、僕は…………

 

ネギは己の考えの無さを嗤った。

辻達バカレンジャーは毎日毎日まだ暗い内から夜遅くまで、一切の妥協無く、ネギや小太郎がへたばっても一心不乱に己を苛んでいた。文字通り血反吐を吐く荒行を日常(・・)として辻達は行っていた。

そんな辻達に張り合う彼、彼女ら(麻帆良の武道家)達が弱い筈は、ましてや未だ付け焼刃に過ぎないネギの武術で、たとえ魔法というアドバンテージがあったとしても簡単に打倒出来る筈が無いのである。

寧ろ近接技術と身体能力(フィジカル)ではこの場の誰よりも劣るであろうネギと小太郎は、男の言った通り敢え無く地を這うことになる可能性は高いだろう。

 

……でも、それでも…………!

 

ネギは傍らの小太郎に目を向ける。小太郎も呼応して視線を合わせると、一度小さく頷き合って視線を正面の武道家達に戻してはっきりと言い放つ。

 

「……無礼千万は承知の上や、それでも俺は、勝ちに来たんや‼︎」

「…退くことの出来ない、理由があります‼︎お相手を、お願いします‼︎」

 

 

「…………そうかよ」

「あ〜〜あ〜〜……」

「…命知らずが」

「若いっていいねえ」

 

 

幾人かは舌打ちをし、ま達幾人かは面白いものを見たと言わんばかりに顔を綻ばせ。

そして幾人かは憤怒に燃えていた。

 

『それでは間も無く予選開始の合図となります、皆さん用意を……』

 

審判の声が遠くに聞こえる。

凄まじい重圧(プレッシャー)が吹き付ける。

 

そして試合開始のゴングが鳴り響いた瞬間、ネギと小太郎の眼前には、其々槍の様な横蹴りと蛇の如く疾走(はし)る黒縄が迫っていた。

 

 

 

……身の程知らずなガキには、キツいお灸を据えてやら無えと、な‼︎

 

テコンドー部副部長 チェ・ヨンハンは横突き蹴り(ヨプチャ チルギ)を小太郎の顔面へと試合開始直後に放っていた。

 

……死なねえ程度に加減はしてやる。度胸は認めるが、それだけで罷り通る程この世界は甘くねえんだよ‼︎

 

 

 

……どう反応しようとも出足を潰し、頚動脈を締めて落とす、それだけだ………

 

古武術部副部長 馬締 束彦(まじめ かねひこ)は、得意とする縛法にてネギを可及的速やかに退場させようと縄を疾走(はし)らせていた。

 

……やる気と熱意は買う、しかしお前の様な子供には、まだこの場所は早いんだよ少年………!

 

 

 

そんな開始早々の苛烈な洗礼に対してネギと小太郎は。

 

 

「……ンな緩い蹴り放ちよって、舐めてんのはそっちやオラァ‼︎」

 

「……っ‼︎はぁぁぁぁっ‼︎」

 

小太郎は蹴り足が髪を掠める程の寸前で躱して飛び掛かり。

ネギは己の首目掛けて伸びて来た輪状の縄内に左腕を突き込み、勢いを付けて背後へ倒れ込む様にしながら強く縄を引く。

 

「「………………っ⁉︎」」

 

この時のヨンハンと馬締に油断はあっても慢心は無かった。ネギと小太郎のことをそれなりの実力者と看做していたからこそ、それなりに本気を出した初撃を捌かれた動揺はあっても次撃を放つその動作に停滞は無い。そうでなければ麻帆良の武道系部活で副部長(No.2)は名乗れないのだ。

故にヨンハンは横突き蹴り(ヨプチャ チルギ)が空を切り、前に傾いた重心に逆らうこと無く宙に舞うと、残った足により横回し蹴り(ヨットラ チャギ)を空中で回避の術無き小太郎へ見舞い、馬締は敢えて引き込む動きのネギの力に逆らわず前にのめりながら両の手を閃かせ、半呼吸程の間も無くネギの左腕を肘と手首、肩の三点から完全に固めて捩じり上げる。後は縄を引き上げて張らせればネギは身長差もあり、殆ど身動きが取れなくなる寸法である。

 

しかし、詰めに入ろうとしていた副部長二人の予想を、ネギと小太郎は些か以上に越えていた。

 

ヨンハンは小太郎の土手っ腹に真面にめり込ませた蹴り足の感触にほくそ笑みーー

次の瞬間、その顔を凍り付かせる。

何故ならば蹴りを真面に喰らったかに見えた小太郎の姿が一瞬ブレ、次の瞬間には霞か何かの様にその五体を四散させていたからだ。

 

「……な、なん…⁉︎」

「影分身、ちゅう技術(わざ)や。ここも楓姉ちゃんの他に忍術部とかいう所の連中が使うんやろ?」

 

空中にて動揺の声を上げたヨンハンは、己の下方から聞こえてくる少年のにギクリと身体を強張らせる。先程空中で逃げ場のない小太郎(の分身)を、身動きの出来ない死に体と見なしてヨンハンは全力で蹴りを放ったのだ。

則ち、現在(いま)は同じく空中で、しかも攻撃を放った直後のヨンハンは、これ以上無い死に体ということである。

 

「これはさっきの一発の礼やぁオラァ‼︎」

「が、はぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」

 

拳に犬神を纏わせての、小太郎の放った全力のジャンピングアッパーがヨンハンの脇腹へ真面に突き刺さり、ヨンハンはアバラのへし折れる軋んだ様な音を腹内で響かせながら場外へ吹き飛んだ。

 

「……っし‼︎あと十何人、掛かって来いやあ‼︎」

 

 

 

「それは悪手だよ、子供先生……‼︎」

 

馬締が言いつつ、縛り固めたネギの左腕を引き揚げ様とした、その瞬間。

バツン‼︎と弾ける様な音を立てて、ネギの腕に巻き付いていた黒縄が千切れ飛び、周りに散らばった。

 

「…………は?……………」

 

思わず馬締は刹那の間、我を失う。それも無理の無い話で、締め付け過ぎて骨などを折ってしまわない様に気こそ込めてはいなかったものの、馬締の使っていた黒縄は数種類の靭性、耐久性等がそれぞれ異なる繊維を幾重にも織り合わせ、結果として刃物を用いても容易に切断の叶わない様な剛性を得るに至った特性の捕縛縄なのである。刃物はおろか、何ら抵抗らしい抵抗をしている様に見えなかったネギの腕にてあっさり千切られたとあっては驚きに固まるのも無理は無い。

そう、無詠唱で腕に纏わせる様に展開した魔法の射手(サギタ マギカ)の雷にて、幾ら丈夫でも所詮は繊維の束にしか過ぎない黒縄を焼き切ったことなど、魔法使いならぬ馬締には理解(わか)り得ぬことなのだから。

そして馬締の大き過ぎるそんな隙を見逃す程甘いシゴきを、ネギは辻達から受けた覚えは欠片も無かった。

 

「…っ⁉︎、しまっ………‼︎」

 

数瞬の動揺から馬締が立ち直った時には、ネギの身は既に馬締の懐深くへと入り込んでいた。そしてネギの振り下ろした足が、その小さな身体から発せられたとは思えない程に重く、響き渡る轟音が響き渡り、

 

「……()‼︎‼︎」

「ご………っ⁉︎」

 

ネギの繰り出した鉄山靠が馬締の身体を十m近い距離まで吹き飛ばし、その身体を境内の石壁に叩き付けた。

 

「……純粋な武道家として僕は未だ貴方達に及びません。持てる力の全てを以って、当たらせて頂きます‼︎」

 

奇しくもほぼ同時にそれぞれの相手を返討ち、高らかに宣言してみせた二人の少年の姿に、一連の光景を目の当たりにしていた幾人かの動きが一瞬停まり。

 

「「「……上っ等ぅぅぅぅぅぅっ‼︎‼︎」」」

 

複数の影が颶風と化して、ネギと小太郎に襲い掛かった。

 

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。遂に始まりました、まほら武道会の予選。最もはじまったのは本編の最後の最後ですが。いやはや原作と変更の無い部分は可能な限り省略してはいるのですが、色々流せない前置きもあった為にあまり話は進んでいません。暫く混沌としたバトル回になるかと思われますのでご了承下さい笑)
さて原作の予選をイージーモードとするなら、ベリーハードかいっそルナティックモードとでも評するべきキワモノ揃いの本作における予選です。ネギと小太郎は、魔法や犬神等のアドバンテージから、総合的な戦力では副部長クラスよりは強いですが、部長クラスに換算するといいとこ中の下から下の上だったりします。このまま正面から闘り合ってたら高い確率で予選は二人共抜けられません。バカレンジャーでもこの面子だと欠片でも油断したら予選敗退があり得るレベルです。そんな感じで最早原型の欠片も無いキワモノ揃いの武道会変更、お楽しみ頂ければ幸いです。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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