お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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6話 少年の苦悩 武道家達の決意

「…纏めるとエヴァンジェリンっていうネギ君のクラスにいる娘が実は600年生きてる吸血鬼で、15年前にネギ君のお父さんにこの麻帆良に封印されて、その封印を解く為に魔法使いとしてずば抜けた素質を持ってるネギ君の血を吸おうとしている。ネギ君は血を吸われて殺されない為に、将を欲すればまず馬を射ての理論で従者の絡繰ちゃんを倒そうとしたけれどうちの馬鹿共が邪魔したんで絡繰ちゃんは逃げてしまって現在に至る、と」

「はい………」

既に陽は落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。辻とどこか暗い表情で話し合っているネギは教員をやっていると言えどまだ十歳である。本来ならとっくに家に帰さなければいけないのだろうが、色々とそんなことを言っていられる状況ではなくなっていた。辻はネギの下宿先に連絡を入れ、安全に送り届ける旨を先方に確約し、現在の話し合いに臨んでいた。

…電話で出た相手が近衛ちゃんだった時は巡り合わせの凄まじさにかなりビビったが。(やたら朗らかな声で辻先輩が言うなら安心や~、と快諾された。)

「しっかし魔法に喋るオコジョに挙句の果てには吸血鬼と来たもんだ。…一日色々ありすぎて頭混乱して来たぞ」

「痛い程よくわかるけど辻、残念ながら全て現実なんだよね…」

「世界は思ったより摩訶不思議なもんで溢れてた…ってか。にしても魔法かー」

「この目で見ていなければ一笑に付していたのだがな…」

現実を認められないとばかりに沈んでいるバカレンジャー、正直かなり珍しい光景である。

「あ、あの皆さん。先程も言ったんですが、僕が魔法使いだってことはどうか秘密でお願いします。魔法関係者に知られたら僕は本国に強制送還でオコジョにされちゃうんです」

「魔女っ娘かお前は、ともあれ了解だ。他人の秘密にしている事をべらべら喋るなんざ漢のやることじゃねえ」

「というか話しても信じて貰えないだろこんな話」

「正気を疑われるのがオチだね。僕も約束するよ、ネギ君」

「事情が判明した以上ネギ教員に含む所は無い。俺も了承した」

「中村、お前もいいよな、…中村?どうした?」

ネギの嘆願にバカレンジャーが次々了解していく中、一人反応の鈍い中村に辻が確認するがやはり返答は無い。

「……可能性はあるよな」

「ん?何だ?」

中村が何事かを呟き辻が聞き返す。

「ネギ少年‼︎聞きたいことがある‼︎‼︎」

「うぉっ⁉︎」

突如バネ仕掛の人形の如く跳ね上がり、大声を上げる中村。声を聞き取ろうと近づいていた辻が驚いて思わず二、三歩後退するが気にした様子は無い。

「な、何ですか?」

多少怖気づきながらもネギが聞き返す。

「魔法ってのは誰でも身につけることは出来んのか?」

「え?」

中村の予想外の質問にネギが驚いた顔をする。その言葉に周りもざわついた。

「おい中村、お前魔法を身につけようってか?」

「確かに凄い力だけど今そんな場合じゃ無いでしょ」

「それに貴様は既に空手に身を捧げた筈だ。武道家が二足草鞋を行おうというのか?」

口々に中村を非難する他の面々。そんな中辻はなにか悟ったような顔で豪徳寺達を制した。

「落ち着け皆。この馬鹿は空手だけは真面目にやってるから。絶対何か下らないこと考えてるに決まってる」

「えーと、中村さんは魔法を使えるようになりたいという事ですか?」

ネギが驚きから立ち直り中村に尋ねる。それに対して中村は不敵に笑い、応じる。

「応よ、是非とも俺に魔法を教えてくれ、ネギ君。魔法なんて超パワーが使えるようになりゃあ姿を見えなくしたり壁の向こうを透視出来たり、ぶっちゃけ召喚魔法みたいなのでサキュバスとかのエロい生き物呼んだり出来るんだろ⁉︎夢のような力じゃねえか‼︎」

「ほらな」

「最悪だ、こいつ…」

「わかってたことだけどね…」

「本当にブレないな、こいつは」

呆れと軽蔑とほんの少しの感心の視線にもめげずに、中村は鼻息も荒くネギに詰め寄る。

「俺に出来る限りの報酬は払う、頼むネギ君、俺にとっての人生の一大事なんだ、この事実は‼︎」

「安い人生だな…」

豪徳寺が哀れなモノを見るようにポツリと呟く。

「え、えーと中村さん。確かに魔法は訓練すれば予程適性が無い場合を除いて、誰にでも使えるようになるものですけど、相当な時間の修業が必要ですし、邪な目的のために使うのは…」

「何を言ってるネギ少年‼︎力を身につけるのに努力が必要なのは当たり前だろう?己が身を鍛えずして身につく力なんて一つもありゃあしねえ。修業、望む所だぜ‼︎それにネギ君、力そのものに善も悪も無い、ただ使う人間によって善し悪しが決まるんだ。さっきはああ言ったが俺は魔法という力に大いなる可能性を感じている。俺が魔法を身につけられれば、きっと周りの為にその力を振るうことが出来ると思う。だからネギ君、より大きな幸福を導く為に、俺に魔法を教えてくれないか?」

「中村さん…そんな立派な考えで…」

「騙されるなネギ君。一分前の色欲の権化のような姿を思い出せ」

「大体こいつ結局善いことの為に魔法を使うとは断言してないよ」

「幸福の為に云々の発言の頭にはどうせ自分の、がつく。遠回しな煙巻きに惑わされるなネギ教員」

「そもそもそんな悠長にお勉強している場合じゃないだろうが‼︎命がかかってるんだからもっと真面目にやれ、中村‼︎」

辻の怒号に中村も叫び返す。

「俺は大真面目に言ってんだよ‼︎とは言え確かに学習装置が危機に瀕している現状、薔薇色の未来の皮算用をしても始まらねえか。よし、わかった‼︎学習装…いやネギ少年の身の安全の確保を真面目に考えようぜ、お前ら!」

「脱線どころか車道まで逸れたのはお前だよ」

「と言うかこいつ、いたいけな十歳児を学習装置と呼んだぞ」

「人間のクズだね」

「ツッコンでいるときりが無い、後で殺しておけ」

 

一通りの漫才が終わってからネギを含めた一同は、車座になってエヴァンジェリンに対する策を考えてる。

「…つまり現状ネギ君は他の魔法関係者とやらには頼りたくないんだな?」

「はい。相談したいのは山々なんですが、エヴァンジェリンさんはもし魔法関係者に自分のことをバラしたら僕の生徒を襲う、って…」

「解りやすくゲスだなあのチビ女」

「でも話によると封印されてて大分弱体化してるんだろ?こっそり相談して一気に拘束すりゃあいいじゃねえか」

「豪徳寺、相手が600年生きてるっていうのが本当なら凄まじい人生経験持ってるって事だよ。それぐらいは予測済みだと思うし、大体魔法なんて訳のわからない力だ、どこからどう監視されてるかわからないし、弱ってるからって多人数を一気に巻き込む手段が無いと決めつけるのは危険だよ」

「そうだな、何にしても情報が少なすぎる。正確な戦力もわからんのでは下手に動くと大惨事を招くかもしれん…」

「「「………………」」」

一同に沈黙が降りる。判断材料がどうにも少なすぎるのだ。

「面倒臭えな、要は魔法関係者とやらの力を借りずにエヴァたんをぶちのめせりゃあ何の問題もねえんだろうが」

「中村?」

重い沈黙にうんざりしたように中村が言った。

「俺らでやっちまおうぜ。それが一番手っ取り早いだろ?」

「…中村、一応確認するが、やろうって何をだ?」

僅かに眉を顰めながらの豪徳寺の質問に、中村はあっけらかんと、

「決まってんだろ、エヴァたんと茶々丸ちゃん。二人をぶちのめすのさ俺たち五人で」

中村の発言に一瞬場が静まり、

「…こいつはつくづく…」

「薄々それしか現状打つ手は無いと思っていたけどよ…」

「いざ言葉として聞くとクるものがあるね…」

「確かに魔法の専門家達に頼らんとすればそれしか無いがな」

否定ではないが肯定しているとも言い難い、迷うような空気が中村を除くバカレンジャーの間に流れる。

「ど、どういう事ですか‼︎」

「そうだぜ、一体何を言い出すんだ旦那方‼︎」

ネギが話が掴めない、といった様子で声を上げる。その肩に乗っているカモも同様だ。

「あん?今のでわかんねえのか?だからお前らを悩ますロリ吸血鬼、俺たちで退治してやろうってんだよ」

「待って下さい‼︎それはつまり、中村さん達がエヴァンジェリンさんと闘うってことですよね⁉︎」

「それ以外にどう解釈のしようがあんだよ?」

「駄目ですよ、危険すぎます‼︎」

「そうだぜ、旦那方の気持ちは嬉しいがそりゃあ無茶ってもんだ」

中村の返答を受けてネギとカモが猛反対する。

「はあ?何が無理だよ、今弱ってんだろ、エヴァたん」

「だからって中村さん達はついさっきまで魔法を知らなかった一般人ですよ、封印状態とはいえ、エヴァンジェリンさんは600万ドルの賞金がかけられた悪い魔法使いの代名詞とも言える人です、勝てる訳ないじゃないですか‼︎」

「聞くだに凄え経歴だけどよ、お前さんで割といい勝負だったんだろ?ならいけると思うぜ」

「え?」

「うん?」

どうにもお互い話が噛み合っていないことに気づき、首を傾げる中村とネギ。

「…ああ、そういうことか」

その様子を見て、得心が云ったとばかりに頷く山下。

「何よ山ちゃん、なんかわかった?」

「うん、まあ意識の違いというか常識の違いというか。考えて見ればネギ君十歳児だし、闘いとかやったこと無くて当然だし、話を聞く限り相当才能あってこの年では破格の強さみたいだし、そう思うのも無理はないかな〜って」

「ん?なんだなんだ?何言ってるか全然わかんねえんだけど山ちゃん?」

疑問符を上げる中村、一方、

「ああ、そういうことか」

「少しムカつくが年相応っちゃそうか」

「この場合責めるのは酷だろう。比較対象無く育てば、人として当然の認識だ」

辻や豪徳寺、大豪院は解ったらしく、苦笑気味に笑いながら頷いている。

「え?何がですか?」

「おい俺にも解るように説明してくれよ山ちゃん」

さっぱり訳がわからない中村とネギは山下に説明を求める。

「うん、まあ怒らないで聞いてよ中村」

山下は一つ頷き、

「ネギ君は僕達が魔法を使えないし、最近まで知りもしなかったから僕達は自分よりも弱いって思ってるんだ」

「……はあ?」

「え?え?」

中村は思わず口を開けて呆け、ネギはなぜそんな確認をするのかと疑問符を上げる。

「…ネギ、お前さん俺がお前よりも弱いって思ってる訳?」

「いや、そんな…」

「まあまあ旦那、怒らねえで下さい、兄貴に悪気はないんです。確かに旦那の腕は一般人にしちゃ立つ方なんでしょうが兄貴はこの歳で魔法学校を首席で卒業、戦闘魔法も多数覚えてる言わば天才なんです。そりゃあ一回り以上も下の子どもよりも弱いなんぞと言われていい気はしないでしょうがここは一つ、寛大なお心で…」

顔を歪めて質問する中村に、流石に失礼だと感じたのかネギは言葉を濁し、カモがとりなすように弁解する。しかしそれを聞いて中村は一層眉を顰める。

「…わかってねえのはお前らだよカモネギコンビ」

と、低い声で告げる。

「いえ、あの…」

「だ、旦那。俺も兄貴も馬鹿にしようとなんざ、」

しどろもどろになる二人を見て苦笑しながら山下が宥める。

「中村、怒らないようにって言ったでしょ。言ってしまえば相手は子どもなんだから、大人気ないよ」

「……よしわかった」

山下の言葉を受け、しばし考えた後中村が何事かを決める。

「カモネギコンビ、お前らが勘違いしてるのはわかった。でもこういうのは口で言ってもわかんねえだろうし、一つ俺らの実力を見せてやろう」

中村はそう告げて席を立ち、何処かしらに歩き出す。

「やれやれ、臍を曲げたか」

「これじゃどっちが子どもかわかんないよ」

「まあ、納得させねば話し合いも纏まるまい」

「俺、それ以前に吸血鬼退治了解してないんだけどな…はぁ、とりあえずネギ君達もおいで、今は納得出来ないかもしれないけど、言えることが一つある」

皆に続いて歩きだし、戸惑っているネギ達を促しながらきっぱりと言った。

「俺たちの中で君より弱い奴は一人もいないよ」

しばらくして、麻帆良の郊外の森で轟音が響き渡った。

 

 

 

「じゃあ吉報を待ちな、ネギ君よ」

女子寮の前、ネギとカモを送り終えての別れ際、からからと笑いながら中村が告げる。

「…すみません。皆さん、どうかお願いします」

深く頭を下げてネギが頼み込む。

「任されたよ、じゃあネギ君、おやすみ。ゆっくり休んでね」

「大船に乗ったつもりでいな。じゃあな」

「さらばだ。お前は自らの職務に専念することだけ考えていればいい」

「…じゃあね、ネギ君」

残りの面々も口々に別れを告げ、女子寮を後にするバカレンジャー。

「……皆さん‼︎」

大声での呼びかけに振り返ると、ネギが思いつめた表情で言葉を紡ぐ。

「…皆さんには危険なことをお願いする身です。その上で、厚かましい頼みなのですが…」

ネギは一旦言葉を切り、少しだけ迷ってから続きを口に出した。

「エヴァンジェリンさんに暴力で言うことを聞かせるのは、エヴァンジェリンさんが説得に応じなかったらにしてもらえないでしょうか‼︎」

ネギの言葉に辻達は誰も言葉を返さない。ネギは頭を下げ、言葉を続ける。

「エヴァンジェリンさんは、悪い魔法使いで、僕の生徒を襲った悪い人です。でも、エヴァンジェリンさんも、僕の生徒の一人なんです。説得もしないで暴力で排除するなんてことしたくないんです、だから…」

「…ネギ君、それは僕達に無用の危険が降りかかることをわかっていて言ってるんだよね」

ネギの言葉をやんわりと遮るように、静かに辻が尋ねる。

ネギはその言葉に声を詰まらせる。しかし、言いづらそうに言葉をつかえさせながらも、ゆっくりと言葉を繋ぐ。

「…自分はその場に行きもしないのに勝手なことを言ってるって、わかってるつもりです。でも、僕は…」

「皆まで言わなくていいよ」

今度も辻はネギの言葉を遮るが、その口調は先程と違い、柔らかい。

「バーカ、ネギ坊主てめえ、お兄さん達が任せとけっつったのがわかんなかったのかよ、弱っちいロリ吸血鬼一人、言葉かける位は何でもねえっての」

「こっちとしても始めから吸血鬼退治のノリで行くつもりは無いよ。あくまで説得に応じなかったら実力で排除する予定だったんだ。ネギ君に言われるまでも無いよ」

「あんま心配すんな。あっちも馬鹿じゃねえんだ、穏便に済むだろうよ」

「説得をしろと言うなら否やは無い。平和な解決が成就することを祈っていろ」

辻を皮切りに、安心しろ、と皆はネギに告げた。

「皆さん…ありがとうございます」

「旦那方、すまねえ、よろしくお願いしやす‼︎」

ネギとカモは再び、深く頭を下げる。

「じゃあね、ネギ君また、明日会おう」

辻の言葉を最後に、今度こそ女子寮を後に辻達は歩き出した。

「……僕は、卑怯者だね、カモ君」

「兄貴。自分を責めねえで下さい、旦那方も言っていたじゃねえですか。兄貴はまだ子どもなんです。旦那方は兄貴よりも歳上で、兄貴よりもずっと経験を積んでいて、強いんです。今回は旦那方にお任せしましょう。兄貴はゆっくり成長して、いつか恩を返せばいいんです」

「……うん」

「さ、明日菜の姐さんや木乃香の嬢ちゃんが心配してますぜ、部屋に入りましょう」

カモはネギを促し、やがて一人と一匹は寮の中に入っていった。

 

 

 

「いい子だね、ネギ君」

辻達バカレンジャーは男子寮に続く道をゆっくりと歩いて帰っていた。

言葉少なに歩む中、山下がポツリと呟く。

「ああ、ホントに十歳児かって聞きたくなるほどの男だぜ、いや漢だな」

「平然と無茶言ってくれっけどな。実力未知数の海千山千ババア相手によく言うぜ」

「平然とはしていまい。無茶を言っているのはわかっているだろう。そんな所は年相応と考えてやれ」

「わかってんよ」

言い合いながら歩く中、黙って歩く辻を見かねてか、中村が声を掛ける。

「後悔してんのか、辻?」

「ん?」

顔を上げて聞き返す辻に、

「皆わかってんだぜ。お前は試合や手合わせならともかく、相手を害しようとする闘いを苦手に、いや違うな…望んじゃいないってよ」

「中村…」

中村は応じず、言葉を続ける。

「過去になんかあったのかなんて聞かねえよ、人間生きてりゃなんかあるに決まってらあ。俺にも、豪徳寺達にも語りたくない身の上の一つや二つある。…ネギは確かにヤバい状況にいる。お前も助けたいって思ったから、あの場ではロリ吸血鬼退治を了解したんだろ?でもこんなもんは嫌々やるもんじゃねえよ。相手は封印とやらでまともに力出せねえらしいしよ、お前一人いなくともなんとかならあ。中途半端な覚悟で行ってもお前が危ないだけだし、はっきり言って足手まといだ。…元々お前は茶々丸ちゃんの一件に関わってねえんだし、抜けても文句は言わねえぜ。俺らも、ネギ達だって責めはしねえ。こっちから巻きこんどいて今更なんだと思うかも知れねえが、お前は桜咲のこともあるしよ」

笑いながら気軽に中村は告げる。後ろの豪徳寺達も穏やかな顔で頷く。言葉を受けて辻は黙って暫し歩を重ねた。やがてゆっくりと、想いを語り始める。

「…気遣ってくれてありがとう、皆。確かに中村の言う通りなんだ。…俺は、迷ってた。お前達みたいに、迷い無く自分を信じて、力を振るう自信が無いから。…ネギ君に助けてやると、明言出来なかった」

でもさ、と辻は続ける。

「理不尽だろ、ネギ君の現状。自分は何もしてないのに、勝手に親のツケを押し付けられて、命まで脅かされてるんだ。…だって言うのに誰も助けてくれない。魔法関係者か何か知らないけど、子どもは助けて、なんて口に出さなくても、大人が助けて当然なんだ。…だから助けるよ、大人が動かないなら俺達が動こう。十歳児が怯えながらも自分で何とかしようと頑張ってたんだ、俺が小さな自分の都合で尻込みしていられない。…俺も行くよ。近衛ちゃんにもネギ君のことは任されてるんだ、お前らだけにいい格好、させてたまるかよ」

きっぱりと辻は断言した。それに対し豪徳寺達は笑い、

「やっぱ人が良いわ、お前」

「なんていうか、辻って感じの言葉だね」

「ならばこれ以上何も言うまい、当てにしているぞ、辻」

「ああ、任せとけ」

笑って辻は軽く腕を掲げる。

「…辻…………」

「ああ、お前も心配するな、中村。大丈夫だ、俺は」

そんな辻の言葉など聞いていないかのように、中村は驚愕の表情で告げた。

「…近衛ちゃんに任されただぁ?貴様いつの間にランクA-の大和撫子系美少女、近衛 木乃香に手を出した‼︎桜咲というクール系女子とよろしくやろうとしているだけに飽き足らず、天然系女子までも毒牙にかけようと言うのかぁ‼︎‼︎」

「ってそっちかよ‼︎」

騒がしい一団はわいわいと騒ぎながら夜の道を歩いていった。

 

 

 

あくる日の昼日中、辻達は昼休みに学校を抜け出して、とあるファンシーなログハウスの前に居た。

「おいおい吸血鬼っつーからもっとおどろおどろしい建物かと思えば、いいとこ住んでやがんなぁ」

中村が感心したように言った。使い古して肌に慣れた空手着に身を包み、直ぐにでも動けるよう足元は裸足だ。

「まあ確かにイメージと違うが、んなことはどうでもいい。それよりちゃんとこの中に居るんだろうな?」

豪徳寺が言葉を返す。格好は何時もと基本的に変わらない。サラシが巻いてある位である。

「ネギ君に午前中に電話したけど、今日は学校を休んでるらしいよ。家にいる可能性は高いね」

山下が捕捉する。何時もの悪趣味な格好は鳴りを収め、ゆったりとした道衣に袴姿である。

「くれぐれも油断せず行くぞ。敵の本陣だ、何があるかわからん」

眼光も鋭く大豪院が続ける。こちらも格好は普段通りだが、雑納を背負い、手には棍が握られていた。

「…とりあえず正面から行こう。交渉出来るならそれに越したことは無いからな」

幾分固い表情で辻が締めくくる。着慣れた道着姿で、手には木剣が握られている。背中にはリュックサックと、鞘袋が背負われていた。

五人は顔を見合わせ、一つ頷くと、足を踏み出す。

「…行くぞ!」

「「「「応‼︎」」」」

辻の呼びかけに四人は返す。鳴らした呼び鈴が済んだ音を立てた。


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