お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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遅くなりました、もう一話、ともすれば二話程で予選終了です。


8話 まほら武道会予選 (中 その1)

「……さて、瓢箪糞爺……失礼、学園長先生の何時もながらに胡散臭……回りくど………まあ腹黒い指示に従い、いい歳して喧嘩最強を夢見てる図体ばかり育った餓鬼共相手に更なる大人気なさを発揮しに行く羽目になった訳ですが、何か思う所はありますか、高畑先生?」

「杜崎先生、少し言い方を……まあ、気は進みませんけれど、ね。しかし、ネギ君も参加していると聞いていますから。不謹慎ではありますけど正直僕は少しだけワクワクしているんですよ」

 

時間は少し遡り、まほら武道会予選開始の約一時間前。とある校舎内の浴室内にて、その場に相応しくないスーツ姿の二人の男性。杜崎と高畑両麻帆良広域指導員は佇んでいた。杜崎の方は額に青筋が浮き上がり元より厳しい顔は今や仁王の如く顰められ誰がどう見ても明らかに機嫌が悪い。そんな同僚の様子に苦笑を浮かべながら、高畑は己にとって様々な意味で特別な存在である、とある英雄の忘れ形見の少年を話題に出した。その少年ーーネギと、杜崎に縁が深いバカレンジャーとは仲が良いので、高畑としてはそこから話が広がれば少しは気が紛れるかもしれない、と気を使って振ったつもりの話題である。

所が杜崎はそんな高畑へ目線を遣ると、顰めた顔を若干困った様なそれに変えて言葉を紡いだ。

 

「高畑先生がネギ先生を買っているのは知っていますし、実際あの馬鹿共も目を掛けていますから、年端もいかない少年の育ち方としてどうなのかという疑問はさて置いてまあ、尋常でない伸びを見せているのは認めますがね、高畑先生……」

 

それでも、と杜崎は前置きして、鏡の如く凪いでいる浴槽の水面を睨みながら言い放つ。

 

「日頃からあの大馬鹿共及び各部活の馬鹿共をぶちのめしているなら御存知でしょう、連中の実力を。幾らネギ先生に才があっても真面に訓練を積んだのはここ数ヶ月でしか無い。ましてや今から我々が赴くのは格闘大会(・・・・)です……寧ろ何故あいつらが参加を許したのか不思議な位だ、恐らくネギ先生は予選も突破出来ませんよ」

 

杜崎はそう断言する。如何にネギが天性の才能を授かっていても、血と汗と涙で構成された武道家達の半生は、生半な努力では越えられないと杜崎は確信している。

別に、杜崎自身には武道家を擁護するつもりは無いし、ネギに対して思う所がある為に否定的な評価を付けているつもりも無い。自分と他人(そのほか)の差異と優劣なんてものに折り合いをつけられる様になれていなければ大人として、しかも教師などやってはいられない。

 

ただ杜崎は知っているだけである。日頃の馬鹿騒ぎを身体を張って鎮圧している為に、文字通り骨身に沁みて。

 

武道家達(あの馬鹿共)は強いですからね」

 

面と向かってはまだまだ教師としてそして一人の先達として、認めてやる気にはなれない正直な想いを杜崎は高畑へ告げる。

 

「……そう、なんでしょうね。至極真っ当な評価だと思います、杜崎先生」

 

高畑は些か眉を顰めたが、やがて一つ頷いて杜崎の意見を認める。己自身も教師の肩書きを持つ故に、生徒達の努力を軽く見ているつもりは元より無い。高畑がネギに水準以上の期待を掛けてしまうのは、杜崎と違って直にネギの父親にして英雄たる、ナギ・スプリングフィールドを識るが故だった。

 

「…それでも、僕は何だかネギ君なら何かやってくれるんじゃないかって期待してしまうんですよね。重い期待は、時に重圧でしかないって解ってはいるんですけれど……」

 

苦笑しながらそう宣う高畑の顔を暫し見ていた杜崎は、小さく息を吐いて呟きを洩らす。

 

「……成る程、解っている様で解っていない、か………」

「?、杜崎先生?」

「いえ、何でもありませんよ。……あの馬鹿共が殊更にネギ先生をガキンチョ扱いする理由が、何となく理解出来た気がしましてね」

「……それは、「へい毎度〜スライム急便ダゼー」…おっと」

 

杜崎の言葉に高畑が何事かを言いかけたその時、目の前の浴槽に張られた水が渦を巻き出したかと思うと、中心から半透明の幼女達ーーすらむぃ、あめ子、ぷりんのスライム三人娘が現れ、飛び散る水飛沫に高畑と杜崎が身を躱す。

 

「遅くなりましタ〜、では龍宮神社付近の水場まで移動しマス〜」

「水中姦……」

「黙れ」

 

相変わらず脈絡も何も無いぷりんの下品なtwitter(つぶやき)をバッサリ切り捨てる杜崎である。

 

「よく来てくれた、早速頼むぞ。…しかし気の利いた申し出だったな、俺と高畑先生の参戦が決定してから直ぐに話を持ちかけたのだろう?」

「アー、まあぶっちゃけ点数稼ぎって奴?中村の野郎が言い出したからヨー」

「立場悪いんだからお前らはこういう細かい所でポイント稼いで挽回すんだヨ、って勝手に電話して決めたんデスー」

「女に対しては気の回る男……ふふスケコマシ」

 

ふとした疑問に対する三人娘の返答に杜崎は糞でも踏み付けた様な顔になり、高畑は苦笑を浮かべる。

 

「なんというか…懐いてるなあ、君達は」

 

高畑の感心している様な呆れている様なその言葉に、三人娘は各々に肩を竦めて言葉を返す。

 

「話してるとウダウダ身構えてんのが阿呆らしくなんだよあの馬鹿ハ」

「ノリがセルヴァさんに似てますからネ〜、私達にとっては付き合い易いんでショウ」

「べ、別にちょっと優しくされたからってアンタなんかを好きになってなんかいないんだからネ」

「「キモっ⁉︎」」

 

ぷりんが無表情のままで一切抑揚を付けずに吐いたテンプレートなツンデレ台詞の余りな不気味さに、すらむぃとあめ子が揃って絶叫する。

そんな様子の三人娘にさっさと転移の準備をしろと一喝してから、杜崎は頭痛を堪える様にこめかみを揉み解しつつ、言葉を吐いた。

 

「……よくもまあ奇天烈な存在にばかり好かれるものだ、あの変態は……」

 

 

 

 

 

 

 

『さぁーっ観客の皆さんお次はCブロック上空(・・)をご覧あれ‼︎飛行部部長 天翔 翼による舞◯術からの砲丸乱舞だぁーー‼︎』

 

 

「うらうらうらうらぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

天翔は地上十五m程の高さ(・・・・・・・・・)でCブロック内を縦横無尽に飛び回り(・・・・)つつ、

背中に背負った鉄籠から陸上競技の砲丸投げで使用(つか)われる鉄球を下の選手へと矢継ぎ早に投げ付けていた。

 

「うぉぉ危ねえ⁉︎」

「テメェ天翔降りて来いやオラァ‼︎」

「それで闘ってるつもりかコラァ⁉︎」

 

「ああ⁉︎五月蝿えよ空飛んじゃいけねえとも鉄球投げちゃいけませんともルールにゃ書いて無かったろうがぁ⁉︎」

 

勝てばいいんだよ勝てばぁっ‼︎と哄笑しながら今度は高所からの落下による重力加速度をも加えて威力の増した鉄球を尚も天翔は投げ降ろす。

 

 

『な、何やら格闘技大会の予選とはとても思えない様なトンデモ映像が私の目に飛び込んで来ています!っていうか部長ーっ‼︎あれどういう仕組みで飛んでんの⁉︎』

『こーら朝倉ー!実況と解説をする人間は素で喋っちゃいけねえの、お前はただ目に映るありのままを解り易い言葉で届けりゃいんだよー‼︎…オッホン!、失礼しました皆様、あそこの不法投棄をしまくっている煙と一緒で高い所が好きそうな奴は先程申し上げましたように飛行部の部長!四六時中空飛ぶ為に顔を真っ赤にして只管念じてるか気を強化する為にトレーニングしてるかしかしていない変人集団の頂点です‼︎その甲斐あってか何か飛んでるアレの仕組みですが、詳細は本人達も詳しくは不明、気の発現が最低条件としか解っていません‼︎要するによく原理も理解していない力で一切の躊躇なく空飛んでるフライト兄弟もビックリの神風野郎だぁーっ‼︎』

 

 

各ブロックの中心点に立ち、実況として忙しく喋っていた朝倉の悲鳴にも似た問い掛けに叱咤を返し、報道部部長 喧囂 囀はベラベラと良く回る舌による解説を行う。そうしている間にも喧囂の両眼は其々が別の生き物であるかの様に各ブロックの情勢を捉え、両手が霞む速度で状況をメモに取っていた。

 

「五月蝿えよ余計な茶々入れんな喧囂‼︎」

 

解説席辺りを怒鳴りつけた天翔は背中の鉄球の数が少なくなって来たのを察知して、更に高度を上げてからの急降下爆撃により一人一人を確実に処分するかと方針を変更する。両手に鉄球を握り締め、気を放出して上昇を始めようとした、その瞬間。

 

「ゴッ……⁉︎アアァァァァッ‼︎」

 

脇腹に凄まじい速度で突き刺さった硬質の何か(・・)による衝撃が天翔のアバラを軋ませ、集中の乱れた天翔は真っ逆さまに己がブロックへと落下を始める。

 

……何……が………⁉︎

 

顔を苦痛に歪めながらも何とか気の制御に成功し、地上数mで急減速した天翔は、己が土手っ腹にめり込んでいた凶器を見やり、驚愕に目を見開く。それは厚手の牛革を糸で縫い合わせた白い球体ーー野球で使用(つか)われる硬球であった。

 

「遮蔽物の無いお空でグローブも無しにプカプカ浮いてるたぁ随分余裕だなぁフライング野郎ぉぉぉ‼︎」

「この野郎………⁉︎」

 

自らに対して浴びせられた罵声に声のした方向を睨み付けた天翔だが、次の瞬間先程の硬球とは比べ物にならない勢いで飛んで来た第二の硬球を真面に顔面で受け止め、盛大な鼻血と折れた前歯を零しながら力無く地面に落下した。

 

 

『弾丸ライナー直撃ー‼︎や、野球部部長 松坂 秀樹選手の恐るべき精度のバッティングによるボールによって天翔選手ダウーン‼︎』

『何で野球部が格闘大会出場()てんだという皆様方の疑問に前以てお答えします…ズバリ、優勝賞金の為です‼︎野球部部長は守銭奴だったー‼︎ちなみに始めの硬球はピッチングによるものです!松坂選手はエースであると同時に部内屈指の強打者(スラッガー)だぁー‼︎』

 

 

「はーはははははぁ‼︎てめえら組手は出来ても白球取る練習はしたことねえだろが‼︎喰らえ俺の全力投球ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ‼︎」

 

松坂はバットを頭上天高くに放り投げ、何処からか取り出した硬球を右腕で振り上げる。ワインドアップで上体を右腕が背中に隠れる程に捻れ、上げられた前足が前へ伸びると同時に骨盤が急回転。前足の着地と同時に軸足の膝から足先迄が一気に伸び切り、骨盤の回転を更に加速させる。腰から上の上体が捻転、肩が素早く、堂々とした円運動を描き、全身運動によって乗せられた遠心力が腕から手先のボールへ正確に伝わり、凄まじい速度で硬球が放たれる。

 

「MAX!246㎞ぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「ご、はぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

哀れ標的に選ばれた道着姿の短い木刀を持った男の鳩尾に砲弾の様な勢いの硬球が炸裂。アバラ数本をヘシ折りつつ男の身体を場外まで吹き飛ばす。松坂は投球フォームを終えると同時に回転しながら落下して来たバットをキャッチし、不敵な笑みと共に懐から宙に無数の硬球をばら撒く。

 

「麻帆良野球部伝統‼︎一万本地獄ノックだおらぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

あり得ない回転数による高速バッティングによって、硬球が必殺の弾幕となり武道家達に襲い掛かった。

 

 

『さ、先程に続いて前代未聞‼︎格闘大会中にノックが始まったー⁉︎』

『まあ普通に考えれば一発一発投げるのに時間が掛かるピッチングよりもバッティングの方が回転数は早いし威力も上だろうからねえ。まあそれで常識的に他人と闘う際にピンポイントで急所狙う様な真似が出来る筈も無いんだが、そこら辺は半人外の象徴、麻帆良の部長クラスって訳だぁ!』

『部長、部長クラスならしょうがないで何でも纏めるの止め……ちょっとー‼︎顔面イってるけど大丈夫其処の人ー⁉︎』

 

 

「……舐めるな、スポーツクラブの頂点(てっぺん)風情がぁぁぁぁぁ‼︎」

 

朝倉と喧囂が阿鼻叫喚な光景を目まぐるしく実況解説する中、矢の様に飛んで来る硬球の群れを捌き、躱しながら松坂へと突進する、薙刀を手に持つシャギーを入れたショートヘアーの少女が現れた。

 

『あーっと此処で松坂選手に薙刀部らしき選手の襲撃ー‼︎』

『まあ普通に考えて接近戦で勝負になる訳無いからね。距離を詰めれば勝ちってのは間違った判断じゃ無いでしょう』

 

「せぇい‼︎」

「なんのぉ‼︎」

 

薙刀部副部長、弥刀 勇希の繰り出した、首を狙った踏み込み突を松坂はバットを横薙ぎにして刃先を打ち払う。しかし、弥刀の素早い手捌きによって長大な柄の先にある刃が旋回、上弦の弧を描いて松坂の脳天に面打ちが繰り出される。

 

「ぬんっ⁉︎」

 

しかし、松坂もさる者、身を屈めたバントの如き構えでバットを頭上に突き上げ、一撃を見事に真っ向から弾き返す。

しかし、弥刀の連撃は止まらない。脛を狙って足を斬り落とさんとする様な下段の薙ぎ払いを松坂が如何にか退がって躱せば薙刀の刃が毒蛇の如く跳ね上がって顔面を斬り上げんとする。それを仰け反り、松坂が回避しても、面から胴、胴から小手、小手から突へと、無限に変化を見せる攻撃のバリエーションが、必死で直撃を躱しているだけの松坂をドンドンと削って行く。

 

「っ‼︎……さぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

 

一際大きい回避によって松坂が体勢を崩したその瞬間、大きく一歩を踏み込んだ弥刀は、己が一番得意とする全力の踏み込み面を松坂の脳天目掛け全力で振り下ろす。例え防禦(うけ)られようともバットごと斬り下ろすという不退転の全力攻撃だ。全身から気を溢れさせ、霞む速度で打ち下ろされた輝く刀身は、落雷の様に真上から松坂に襲い掛かった。

松坂は傾ぐ上体を起こして、再びバットを頭上に構え、防禦の体勢を作る。

 

「無駄、だぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

弥刀にとっては想定内の対応。薙刀よ折れよ、とばかりの力を持って一撃を見舞う、と。

その一撃は空を斬る様な手応えの無さと共に松坂をすり抜け、轟音と共に闘技場の床板を破砕して大穴を開けた。

 

「………っ⁉︎」

 

弥刀は瞠目して打ち下ろした直後の前に屈んだ体勢から松坂を仰ぎ見る。見れば薙刀の刃がすり抜けた様に見えたのは弥刀の錯覚であり、実際は松坂の身体ギリギリの所を掠める様にして通り抜けていた。

否、軽く血の滲んでいる右胸から右脇腹までの太刀傷を見るに、実際に掠めていたのだ。則ちそれは、松坂が一撃に呼応して回避を行った事になる。振り下ろされた一撃に対して前足を上げ、バットをスイングする構え(フォーム)にバントの如き体勢からスイッチした、松坂の僅かな身体の動きによって。

 

「……舐めてんのはそっちも同じだろが」

 

それはバントの構えからヒッティングに切り替える事により、バントシフトを敷いている敵の守備陣形の裏をかく奇襲打法。その名を…

 

「バァァァスタァァァァァァ‼︎‼︎」

「ガッ⁉︎…………‼︎」

 

物の見事な一本足打法から繰り出されたフルスイングにより側頭部を強打され、弥刀は一瞬で意識を刈り飛ばされて闘技場の床に倒れ伏した。

 

 

『み、弥刀選手ダウーン‼︎てゆーかバットで脳天フルスイングとか正気かあんたら⁉︎』

『大丈夫だって朝倉、そんな単なる打撃凶器の一発より余程ヤバい代物を普段から喰らい続けてるマゾ集団なんだから武道家ってのは……ともあれ強いぞ野球部、遂に飛行部(イロモノ)に続いて副部長とはいえ正統派武道系部活の猛者を薙ぎ倒したぁぁぁっ‼︎』

 

 

「はっはぁーっ‼︎どっからでもかかって来やがれてめえらゴァハァァッ⁉︎」

 

高笑いしながらバットを振り回し、新たに硬球を取り出そうとしていた松坂に、横合いから飛んで来た清流の様な澄んだ水色に光り輝く気弾が直撃し、弾けた蒼の衝撃に松坂は闘技場の端近くまで吹き飛び、やがてヨロヨロと起き上がる。

 

「な、んだこの……‼︎どいつの仕業だオラァ⁉︎」

「俺だ。何処からでもかかって来いと言っていたからな、遠慮なく行かせて貰った」

 

バットを振り上げ、怒号を上げる松坂に悠然と答えたのは、体前で組み合わせた、淡い光の残滓を纏う両掌を松坂の方に向けて中腰気味の、まるで何かを撃ち出したかの様な姿勢を取っている白いボロボロの道着姿をしている男だった。

男は構えを解くと身体を伸ばし、頭に巻いた真紅の鉢巻きを風に靡かせながら、改めて空手に似た構えを取る。

 

「さあ、楽しもう…戦いの中に答えはある‼︎」

 

 

『……なんか格ゲーから出て来たとしか思えないキャラが波◯拳っぽい一撃で松坂選手を吹き飛ばしたぁーっ⁉︎』

『はい‼︎彼はゲーム研究会部長の 武星 隆選手‼︎スト◯ァイのリ◯ウに憧れるあまり身体鍛えまくって気まで発現させたマジモンの変態だぁぁ‼︎巫山戯た見た目とは裏腹に強いんだなぁこれが!』

 

 

「行くぞ‼︎むぅぅぅん……!波◯拳‼︎」

 

武星が再び両の掌を腰溜めに構え、その手の中に蒼い光球が現れる。たちまち一抱え程もあろうかという大きさに成長を遂げたそれ(光球)を、武星は一息に松坂目掛けて撃ち放つ。

 

「……っ‼︎上っ等だコスプレ野郎がぁぁぁっ‼︎」

 

松坂はその場を動かずにバットを振りかぶってバッティングの構えを取り、高速で近づく波◯拳を伝導させた気によって光り輝くバットにより、見事な一本足打法によって迎え撃った。

フルスイングしたバットと波◯拳の蒼い光球が一瞬拮抗し、次の瞬間光球が爆発して松坂の姿は光の奔流に飲み込まれる。

 

「……野球部舐めんなぁっ‼︎高速、スチールラァァァァン‼︎」

 

光を裂いて飛び出して来た松坂は、身を低く屈めた体勢から凄まじい速度での特攻で一気に武星へと詰め寄る。武星は迫り来る松坂へ、再び腰溜めの体勢から気弾を放ち、迎撃に入る。

 

「波◯拳‼︎」

「甘えっ‼︎」

 

距離にして数m、ほぼ躱し様の無い近距離から浴びせられた蒼の気弾を、しかし松坂はバントでもするかのように両手で持ったバットのスイートスポットで受け止め、撓んで爆発する直前の気弾を思い切り上方へカチ上げて逸らす。松坂の前髪を掠めて斜め上方へ飛んだ気弾は背後で爆発し、寧ろ松坂の特攻を後押しする結果となった。

 

「何っ⁉︎」

「野球だったらファール所か下手すりゃ一死だがなぁぁぁぁっ‼︎」

 

気弾をバットで受け流すという非常識な防御に武星が目を見開くが、構わず松坂は勢いのままにバットを横薙ぎにフルスイング。武道を嗜んでいないとは思えない颶風の如き一撃が武星の頭を薙ぎ払ーー

 

「…………あ?」

 

ーーうかと思われたその瞬間、武星の身体が霞の如くかき消え、バットの一撃は物の見事に空を切る。

 

……俺が、空振り?何処へ………っ⁉︎⁉︎

 

脳内で疑問が形となるよりも早く、松坂は高らかに轟いたその技名(・・)を耳にすると同時に、顎を砕かれて意識を刈り取られた。そう……

 

「昇っ‼︎◯、拳‼︎‼︎」

 

弾ける寸前の撥條の如く、全身の筋肉を撓めてしゃがみ込んだ体勢からの一瞬の爆発。一直線に真上の標的をその拳で穿つ、正しく天高く舞い上がる龍が如き一撃によって。

 

 

『…ジャンピングアッパーカット一閃ーっ‼︎松坂選手、五mは浮き上がって吹っ飛んだーー‼︎』

『迂闊に飛び込んだ奴にはあれ(・・)が炸裂するってんで闘った事のある武道家達からは結構評価が高いらしい‼︎イロモノ枠だからといって弱いとは限らないのが麻帆良の半人外、部長クラスだな‼︎』

 

実況の叫びと解説の語りを背に受けながらフワリ、という擬音が聞こえてきそうな柔らかい着地を見せた武星は、派手な一撃(昇◯拳)に反応して自らの方を向く武道家(バケモノ)達へ拳を突き出し、不敵な笑みと共に宣言する。

 

「掛かって来い!俺は、俺より強い奴に会いに来た‼︎」

 

 

 

各ブロックの闘いは熾烈を極め、また混沌の度合いを増してゆく。

 

 

 

「しぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいぃっ‼︎」

 

裂帛の気合いと共に繰り出された稲妻の如き突きが、オリバーポーズと呼称()ばれるポージングをやたら爽やかな笑みを浮かべつつキメている、どこからどう見ても隙だらけな体勢の黒い小山ーーボディビル研究会部長 金剛の喉元に突き刺さった。

穂先には覆い(カバー)が施されており、突き刺す武器としての本領を発揮すること叶わぬ槍の一撃ではあるが、刀剣甲冑部に併合されたとはいえ元槍術部部長の全力、下手な鋼板程度ならば貫通しかねない、人外の領域に足を踏み入れた者の一撃だ。常人ならば首が吹き飛んでもおかしくないそれを喰らってーー

 

「…うん、良いthrustだ。僕が十年槍を振るっても確実にこうはいかないだろうね。……惜しむらくは槍中君、余りにも君は非力過ぎる。せめて倍のweightが無ければ僕の筋肉は、貫けない」

 

ーー全く堪えた様子も無く、首元に撓んだ槍の穂先をめり込ませたまま、金剛は笑ってそう言った。

 

「気を落とすことは無いよ槍中君。これが真剣…真槍かな?であったならば、流石の僕もこうcasuallyには受けられは…むぐっ⁉︎」

「…舐めるな、筋肉達磨がぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

 

金剛の言葉を皆まで聞かずに、槍中は一撃で倒せぬのならば手数で打ち滅ぼすとばかりに槍を閃かせ、まるで機関銃の掃射の如き槍の連撃を金剛の肘、肩、膝等の関節部や鳩尾、眉間、喉元といった急所に見舞う。

しかし、気を込められて光り輝く槍の猛撃を雨霰と貰いながらも金剛は笑みを崩さず、ポージングによって分厚い大胸筋の手前で固めていた両の腕をゆっくりと伸ばし、振り上げていく。

 

「やれやれ……elegantでは無いね槍中君、そして僕の方こそ舐めないで貰いたい。君のmaximumで通らぬ我が筋肉の鎧、そのような手数頼りで抜ける筈が無いだろう?」

 

尚も槍の連突を浴びながら、金剛は脅かす様に両手を掲げたまま大腿四頭筋に力を込め……

 

「今度はこちらから行かせて貰うよ‼︎」

 

……その巨体からは信じられない程の高速で槍中目掛けて躍り掛かった。

無論槍中もそんな特攻を馬鹿正直に喰らうつもりは無い、素早く後ろに退いて間合いを開けながら牽制の為に槍を顔面目掛けて突き出した。

しかし、槍中の予想を超えた速度で踏み込んだ金剛は、槍の一撃をその分厚い胸筋で受け止めて弾き返し、逆に突き込んだ槍中の体勢を崩す。

 

「Yaaaaaaaahaaaaaaaaaa‼︎‼︎」

「うおぉっ⁉︎」

 

金剛は雄叫びと共にその丸太以上に太く、長い両腕で槍中の身体を無造作に引っ掴むと、細身とはいえ70kgを優に超えているであろう槍中を、まるで藁束か何かでも持ち上げているかのように軽々と頭上に抱え上げる。

 

「て、てめぇ……‼︎」

「HAHAHA‼︎プロテインを飲んで出直して来たまえぇぇぇぇぇ‼︎」

 

金剛は無造作に槍中の身体を闘技場の床に投げ落とした。

ドギャァッ‼︎という鈍い音が響き渡り、叩き付けられた場所に巨大な陥没痕を作りながら槍中はボールの様にバウンドし、数m離れた地点に再び激突してゴロゴロとしばし転がってから漸く停止する。白目を剥いて痙攣するその姿は、明らかに戦闘不能であった。

その余りに強引かつ豪快な力技に周りが僅かに気圧される中、金剛はダブルバイセップスで決めポーズをとりながら笑って言い放つ。

 

「この世全てのものは筋肉によって補い、代わる事がpossibleなのさ…‼︎そう、強ささえも、筋肉があれば武術など必要無い‼︎それをattestしてあげよう‼︎」

 

 

 

「ハイハイハイハイハイハイハイハイィ‼︎」

「くっ!…ぬ、ぐぁっ‼︎」

 

テコンドー部部長 天越 修斗の放つ横回し蹴り(ヨップ リギ)前蹴り(アプ チャギ)横蹴り(ヨプッ チャギ)外回し蹴り(フリョ チャギ)後ろ蹴り(ティッ チャギ)等の変幻自在な多種多様の連続した蹴りがレスリング部 部長 腕木 孤月を襲っていた。傍目からは手数ならぬ足数に頼った軽快な乱打に見えるが、一発一発が重く、芯に残る必倒の意志が篭った連撃であることを、必死に捌き、躱している腕木自身が文字通り骨身に沁みて理解していた。

 

「どうしたどうしたどうしたのさぁグラップラー‼︎組み付きに来なきゃお前の力は発揮出来ないでしょおぉぉぉぉっ⁉︎」

「…っ!の、野郎……‼︎」

 

やたらハイテンションな天越の挑発地味た捲し立てに腕木は歯噛みするが、不用意にガードを解いて前に出る様な真似はしなかった。一撃でも喰らえば其処から濁流の様な連撃に呑み込まれ、忽ち戦闘不能と化すことは解っていたし、一呼吸に二、三発の蹴りが飛んで来る凄まじい回転数での攻撃である。このまま何とか凌いでいれば、何れ息が上がって隙が出来ると腕木は判断し、あくまで致命傷を貰わないことだけに気を付け、愚直に攻撃を捌いていた。

 

「……しつ、こい!ってのぉぉぉぉぉぉっ‼︎」

 

そん変わり映えの無い攻防に嫌気が指したか、天越は一際鋭い横突き蹴り(ヨプチャ チルギ)をガードの上から構わず叩き込み、衝撃にたたらを踏んだ腕木に対して跳躍すると、時計回りに回転しながら奥足である右脚側で蹴りを叩き込む、飛び捻り蹴り(ティミョピトゥロ チャギ)を見舞った。

しかし腕木は、天越が跳躍して蹴りを繰り出す迄に空いた一瞬の空白で即座に身を屈め、両手を突き出して自分の首目掛け飛んで来る蹴り足を受け止めに掛かる。

 

……引き摺り下ろして組み付きさえすればお前(テコンドー)(レスリング)の敵じゃ無え‼︎

 

そんな想いと共に腕木は飛燕の如く迫り来る蹴り足をまず両腕でブロックして勢いを殺しに掛かり。

その想定していたよりも遥かに軽い(・・)手応えに悪寒が走った。

脳裏に閃いた予感が形になるよりも早く本能が鳴らす警鐘に衝き動かされ、腕木はあっさりと己が前腕に弾かれた天越の右脚を掴み取りに行く、が……

 

「ハイヤァァァァァァァァッ‼︎」

 

腕木の両手が捕らえるよりも一瞬早く天越の身体が旋回を早め、右脚は腕木の眼前を斜めに通り過ぎて行き。

斜め上から打ち降ろされた天越の左脚が、虚しく空を掴んでいた腕木の両腕上をすり抜け、米神に横合いから突き刺さった。

 

「が……っ⁉︎」

 

空中での360°回転蹴り。強烈な衝撃を頭部に受け、腕木の視界が暗転し、膝が崩れる。そのまま腕木は前のめりに倒れかけ、危うい所で踏み出した足が身体を支える。

 

………これを……耐えれば…………‼︎

 

「お、ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

 

攻撃を終え、着地するしかない天越を捉えることが出来る。強靭に鍛え上げたタフな肉体と、苦しい鍛錬にて培った精神力が、K.O寸前の腕木の五体に力を取り戻させ、未だ宙に有る天越の身体へ腕を伸ばすことを可能にした。

 

しかし。

 

結果として腕木のその踏ん張りは無駄に終わる。

腕木の暗転していた視界が回復し、天越の姿がその目に映し出された時。その身体は腕木に背面を見せており、尚も旋回を続行していたのだ。

その意味を正確に理解するよりも早く、再度頭部へ襲い掛かった衝撃が、腕木の精神を今度こそ束の間の夢現へと旅立たせた。

 

「…やれやれ、こういうガタイがモノ言う様な連中はタフガイ過ぎて好かないねえ」

 

自慢の蹴りが軽いんじゃないかと不安になる、と天越はボヤいた。空中一回転の二段蹴りで腕木が完全に意識を飛ばしていないことを悟った天越が繰り出したのは、更に半回転しての右脚による飛び外回し蹴り(ティミョフリョ チャギ)である。つまり天越は飛び上がってから着地する迄に一回転半の回転をしながらの計三発の回し蹴り、言わば540°回転蹴り(オペクサシプ ターン チャギ)を繰り出したのだ。

 

「さーて……次のお相手はどいつですか〜?…っとぉ」

 

力無く床に崩折れている腕木には最早一瞥も無く、その大人し気な顔に似合わぬ獰猛な笑みを浮かべて天越は次なる対戦者を求めて歩き出した。

 

 

 

武道家達は、己が全力を振るうに相応しい強敵達との相対に、歓喜に震え猛り狂う。

 

 

 

「遅いわぁぁぁぁっ‼︎」

「ぐぇぇっ‼︎」

 

相撲部部長、奉日本 豪臣が矢継ぎ早に繰り出す鉄砲の嵐が、その圧力に思わず身を躱そうとした柔道着の男に炸裂した。鋼鉄の柱が高速で叩き付けられた様な剛打の連続に、必死でガードを固めた男の粘りも虚しく枯葉の様に吹き飛ばされ、宙を舞う。

 

「ぬははははっ!何とも血が滾るのう、儂の張り手を正面から受けられる奴なぞ部内以外じゃ金剛か豪の字位じゃろうに‼︎命知らずが溢れておるわぁ‼︎」

 

呵々と高笑いしながら、奉日本は摺り足のまま次の獲物を求めて闘技場の中央に戻る。基本的に一対一を前提とする周囲の武道家達の性質上、不意打ちや多数に同時に掛かられたりする心配は少ないとはいえ、その足取りは余りに無造作であり、不安の欠片も無い。それだけ奉日本は日頃のぶつかり稽古によって粘り鍛えた己の肉体を信頼していた。

 

「ゴッ⁉︎………‼︎」

「ぬ?」

 

そうして悠々と歩を進めていた奉日本の足元へ、サンボジャケット姿の大柄な男が転がり込んで来た。その男は小さく苦鳴を上げた後に喉を抑えて痙攣している。男の飛んで来た方向を見やった奉日本は、其処に立つ道着姿で木刀を青眼に構える男の姿を捉え、表情に喜悦と微かな緊張を浮かべる。

 

「…ふははっ!辻ぃ‼︎わいが相手かぁ、ならばきばるとしょうかい‼︎」

 

ズゥン‼︎と一際高く跳ね上げた足で地響きと共に四股を踏んで腰を落とし、両手を床へと下ろした奉日本の構えは正しく立ち合いの構え。元々二mを超えている小山の如き巨体が全身に力を込めて構えを取る様は、最早巨獣の猛進を予感させる重圧(プレッシャー)を放っていた。

対する辻は何処か冷めた表情のまま木刀を振り上げ、己が源流の薩摩が太刀。右蜻蛉と称される必殺の姿勢を取る。

 

「…奉日本先輩。私事な理由で大変申し訳ありませんがね、俺は今虫の居所が悪いんです。……やり過ぎてしまいかねませんが、お覚悟は宜しいですか?」

「……はんっ‼︎」

 

奉日本は辻の宣言を鼻で笑う。

 

「確かに険しい顔をしとる。お主がそんな顔になっとるぐらいなんじゃからまあ、余程の事があったんじゃろうがな…本気で腹を立ててる様な人間はまず馬鹿丁寧においは危ないから注意しろ、何ぞと警告したりはせんわい。律儀な性分もええ加減にしたらどうじゃあ?……」

 

奉日本は身体を撓め、不敵な笑みと共に言い放つ。

 

「胸貸してやるわ。遠慮無う、掛かって来んかい辻ぃ‼︎」

「…礼を言います、なら堂々と八つ当たらせて、貰いますよ」

 

堂々たる奉日本の豪語に、辻は微かに瞳孔の開きを見せ、笑みと呼ぶには躊躇われる獣が牙を剥き出したかの如き狂笑を見せる。

次の瞬間、両者の動きが示し合わせたかの様に停まり。

 

「…っちぇぇぇぇぇぇぇいぃっ‼︎‼︎」

 

()………………っ‼︎‼︎」

 

猿叫と裂帛の気合いが交差して、二人は同時に飛び出した。そう、少なく共踏み切って前に飛び出した拍子(タイミング)は確かに同時であった。

しかし。

 

「ぎぁ………っっ⁉︎」

 

奉日本自身が改心の出来と認める立ち上がりからその巨体を砲弾の様に前へと放ち、一歩目の踏み出した足が床に着くよりも早く、打ち下ろされた辻の木刀が奉日本の脳天に叩き付けられ、奉日本は気が付けば口端から勝手に洩れていた苦鳴と共に顔面から床へと墜落していた。

それは立ち上がりの動きが全格闘技中最も敏捷(はや)いとされ、必然的に開始直後の高速戦闘域で瞬時の判断を求められる故に、動体視力も思考速度も磨きに鍛えられている筈の相撲取り。その中でも麻帆良において自他共に認めるNo.1の実力を持つ奉日本をして全く視認出来ず(・・・・・・・)に気が付けば喰らっていたと後に言わしめる程の神速の斬撃。加えてその威力たるや、常日頃から軽くtを超える衝突力を持ってぶちかましを行っている奉日本をして、一撃にて身体から根刮ぎ力を奪い取る致命の破壊力を伴っていた。

まず間違い無く、真剣であったのならば頭部所か身体毎両断されていたであろう必殺の太刀。強靱(つよ)さも迅速(はや)さも、正に雲耀の名に相応しい一撃だった。

それでも、辻の前に立つのは麻帆良内でも屈指の身体能力を持つ、相撲部部長奉日本 豪臣だった。

 

……流、石じゃのう、辻…全く見えん………地べたに顔を付けた以上、相撲取りとしちゃあ敗け…なんじゃがなぁ………‼︎

 

歯を喰いしばって力の入らぬ五体に喝を入れ、再び奉日本は地に伏した体勢から残心を取る辻目掛けてぶちかましに行った。

 

(いち)、武道家としてこのまま沈めはせんわぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

 

それは至近距離での躱し様が無い肉弾砲。高速で迫る奉日本に対して、辻は焦った様子も無しに対応へ移る。

元より薬丸自顕流が雲耀は全身の力を用いて振り下ろす、二の太刀要らずの一撃必倒が太刀。逆に言うならばもし一撃にて仕留められなかった場合、反撃されて躱したり捌いたり出来る様な余裕は身体に残っていない、ということである。

 

「…すいませんね、奉日本先輩」

 

しかし(・・・)、辻は元より、奉日本へ放った一太刀に全力(・・)を込めてはいなかった。

理由としては、本気の一撃を見舞えば如何なタフネスを誇る麻帆良の部長クラス(半人外)だとしても殺して(・・・)しまいかねない故に。中学生の当時から化け物地味ていた中村達バカレンジャーをして、何度も彼岸へ葬送(おく)りかけた殺人剣である。奉日本の指摘した通り、頭から理性が飛び切っている訳でも無い辻は、己が流派(薬丸自顕流)の理念を裏切ってでも手心を加えることに抵抗は無かった。

最も、だからこそ辻の憂さ晴らしで無駄な打擲を奉日本は喰らう羽目になるのだが。

 

……俺もこの場に限っては剣士としているつもりは無いんですよ……

 

武道家としても失格かもしれないけどな、と己を嘲笑いながら、辻は腰の落ちた体勢から後ろ向き(・・・・)に瞬動を行い、奉日本のぶちかましを完全にスカした。

 

「っ!……おのれぃ……………‼︎」

「言ったでしょうが……八つ当たるって、ねぇ‼︎」

 

失速した無防備な身を辻の前に晒す事となった奉日本は、無念の表情で呻き、辻は何処か苦い笑みを浮かべながらも、裂帛の踏み込みと共に連撃(・・)を見舞う。

斜め上方に伸び上がる体勢となっていた奉日本の喉元に弾丸の様な突きが炸裂し、尋常ならぬその衝撃とそれまでのぶちかましの勢いが互いに殺し合う事によって一瞬宙に浮く様にその場で静止した奉日本。さらなる追撃の面打ち…否、兜割とでも言うべき打ち下ろしが今度こそ、250㎏を超える目方の奉日本の全身を地べたに叩き付けた。

僅かに震えた後に、身体を弛緩させた奉日本を一瞥してから、辻は再び木刀を振り上げて次の武道家を見据える。

 

「……ホント、碌なもんじゃ無いな俺は………」

 

 

 

「……っ‼︎、シュッ‼︎」

「っと」

 

もう何度目になる光景か。鋭い、されど段々と乱れ始めた呼気と共にトランクス姿の男が放つハイキックを、軽い呟きとは裏腹に飛燕の如く翻った手刀で打ち落とすのは空手着姿のオレンジ髪ーー言わずと知れた中村であった。グシャリ、と鈍く湿った音が手刀で防禦(うけ)られた男の足の甲で響き、遂にトランクスの男ーーキックボクシング部部長 沢村 沖の顔がハッキリと苦痛に歪む。

払われた蹴り足ーー僅かに変形し、脛や甲など複数箇所から血の溢れる傷付いた右脚を軸足にスイッチしながら憎々し気に沢村は吐き捨てる。

 

「……防御しているだけでこれ、か…この化け物が」

「阿呆、てめえの鍛え方が足りねえだけだ。人体やサンドバッグだけ蹴り込んでても僕ちゃん等人間のおみ足は強靱(つよ)くなっちゃくれねえの。俺みたく鉄柱蹴り込めたあ言わねえから、ムエタイの連中倣ってバナナの木でも蹴り込んだらどうよ?」

 

中村は沢村の悪態を鼻で笑い飛ばしてそんな事を宣う。沢村が蹴りを放つ度に中村は拳足でそれを払い、打ち、叩き落とした。その赤黒い(・・・)手足は人類に属する生命体としてはあり得ぬ程に硬質であり、容易くコンクリ壁を粉砕する筈の蹴打乱幕を受け止めて傷一つの綻びも見せていない。鋼の凶器に優る強度を、鍛錬によって中村の紅い手足は備えていた。

 

「んじゃ、行くべ」

「っ‼︎」

 

構えつつ、軽い口調で告げられた中村の宣言に、両腕のガードを上げて沢村は迎え討つ姿勢を見せるが……

 

「うら」

「っぐぁっ⁉︎」

 

無造作な、しかし凄まじい速度での踏み込みから打ち出された順突きの中段正拳をブロックした沢村の腕が軋みを上げ、激痛が走る。気で強化して尚、中村の一撃は鍛え上げている沢村の橈骨と尺骨に罅を入れたのだ。衝撃に身体の浮いた沢村へ間髪入れず打ち込まれるのは逆腕での正拳逆突き、初撃により空いたガードの隙間から捻じ込まれた鉄塊の様な拳は、炸裂した土手っ腹付近の肋骨を内側に向けて数本を纏めて圧し折る。

矢継ぎ早に襲い来る激痛に悶絶しつつも、沢村は己が胴体に拳を打ち込み、至近の距離に居る中村の米神目掛けて肘を振り切る。

ゴキィ‼︎という骨が骨を打つ、鈍い音が響き渡った。

 

「…U◯Cルールって肘有りだったっけ?」

「……クソが」

 

肘を受け止めに差し込まれた腕越しに中村と沢村の目線が交差して。

 

「フンッ‼︎…っらぁ‼︎」

 

ゴギャリィ‼︎と、とんでもない音を上げながら中村の頭突きが沢村の顔面にめり込んで血を飛沫かせ、僅かに距離の空いた隙間から蛇の様に摺り上がった右脚が沢村の側頭部を真面に捉えた。

 

「グ…⁉︎っそ………っ‼︎」

 

尚も堪えようとして膝が抜け、歯噛みしながら沢村が崩れ落ちる。

 

「おーっし。…ってーかシンドイわマジに‼︎どいつもこいつも無駄にタフネス発揮しやがってからに、大胆不敵にして素敵に無敵なこの中村様に跪いて道開けねえたぁ脳味噌腐ってんのか脳筋野郎共が……」

 

「戯言は終わりか?ならばそろそろ行かせて貰うが」

 

残心を取り終えた後に、まだまだ半数近く残っている己がブロックの他選手達を見渡してからウンザリした様子でブチブチと文句を垂れる中村に、横合いから声が掛けられる。あぁん?と、 インネンを付けてくるチンピラそのものな表情で中村が声の主に向き直り、その顔を見て多少表情を真面なそれに変えた。

 

「……なんだ部長か………」

「ご挨拶だな、どうでもいいが。……構えろ、中村」

 

真隆は背筋を真っ直ぐに伸ばして軽く腰を落とし、足を前後に開き臍の辺りに左右の拳を置いた、身体の中心に重心を置く構えを取る。空手の中でも伝統派と呼ばれるそれによくある構えだ。対する中村は溜息を一つ吐くと、やや前傾姿勢からアップライト気味に緩く開いた両手を構える、やや変則的なフルコンの構え。一昔前のボクシングにも似た構えを取った。

 

「試合前はああ言ったけどさあ。…懲りないよねえ部長も。俺に空手で(・・・)挑むってのがどんだけ無謀な事か理解(わか)ってんでしょうに?」

「自惚れるなよたかだか二十にもならないガキの分際で。追放されたとはいえ()での無差別優勝、此処(麻帆良)では俺を下した程度の事で、空手の頂点に立ったとでも言いたいのか?」

 

ジリジリと摺り足で間合いを詰めつつ呆れた様に言い放つ中村。その軽い調子がすこぶる気に入らないらしく真隆は眉を吊り上げて言い募るが、中村は鼻を鳴らして真隆の思い違い(・・・・)を一蹴する。

 

理解(わか)って無えなあ部長。俺とあんた…いやあんたらとじゃあ、前提も目標も違い過ぎ(・・・・)んだよ。まあ別に理解して貰いたい訳じゃ無えから詳しく語るつもりも無えけど、俺はもう空手最強なんてのは通過点のつもりであり、目標でも何でも無え。強い空手家が居りゃあ闘ってみてえけど、空手の世界(・・)はもうウンザリだ」

 

はあ、と溜息混じりに中村は真隆を見据えて、吐き棄てる。

 

「空手ってのは武道でしょうが、人ぶっ倒せてナンボでしょうが。…全力で他人ぶっ潰して文句言われて、稽古で骨の一本も折られる覚悟も無えヌルいスポーツ競技(・・・・・・)なんぞ眼中に無えんだよ。異常と言いたきゃほざいてろ、こっちゃあ世界最強(・・・・)目指してんだ健康体操野郎が」

「……もう黙れよ、お前」

 

ドン‼︎と鋭い踏み込みの音と共に真隆の身体が、まるで背面が爆発したかの様な勢いで中村に突っ込んだ。槍の様に打ち込まれる右中段逆突きを内受けであっさり打ち落とす(・・・・・)中村だったが、真隆の腕は骨を軋ませながらも防禦(うけ)とは到底思えない、中村の破壊的な手刀に耐え抜く。

流石に鍛えてっかと中村が内心で舌打ちしていると、御構い無しに真隆は弾かれた右手を引き樣に右上段回し蹴りを連続で中村に見舞う。継ぎ目を殆ど意識させない高速の二撃目に、打ち落としに使用(つか)った左手の戻り切らない中村は、軽いスウェーバックで鼻先を掠めさせる様にして蹴り足を躱す。

しかし、真隆は蹴り足が躱されたと見るや素早く叩きつける様に地面へ落とすと、その足をそのまま軸足に大きく一歩踏み込み、左の上段逆突きを仰け反る中村の顔面目掛け打ち込んだ。

 

「あぁぁいっ‼︎」

「…っと‼︎」

 

裂帛の気合いと共に迫る正拳を前に、しかし中村は笑みさえ浮かべながら右手でそれを防御(ガード)に掛かる。

 

……ちっと下手こいたとはいえ、俺に払わせ(・・・)無えとはホントに腕上げたじゃんよ、部長………

 

カッ!と笑声を溢しながら中村はカウンターの左正拳を腰溜めに引き絞る、が。

パンッ!と中村の想定を遥かに下回る軽い衝撃と共に真隆の左正拳が中村の掲げた腕に叩きつけられる。

 

「………あ?」

 

中村はそれを反射的にフェイントの一撃と判断して、真隆の次なる挙動を見極める為に真隆を注視して。

腕に当たった左正拳が退かれずに掌を広げられて、右顔面を覆う様に目の前に掲げられた事により、中村は真隆の狙いを悟る。

 

「っんの野郎…⁉︎」

「しぇぇぇぇぇぇいぃっ‼︎」

 

轟く気合いの声と同時に、右の視界を覆われて死角となった中村の右側頭部へと、真隆の()上段回し蹴りが炸裂した。

 

…………よし、決まったっ‼︎

理解し易く言うならば左ストレートからその突いた腕をブラインドにして死角から左ハイキックという真隆の変則的な攻め。(すだれ)と呼ばれる伝統派空手の技の一つである。流石に三連撃からのフェイントを用いた奇襲は中村の対応力を超えていたらしく、まごう事無きクリーンヒットを真隆は中村へ果たした。

 

……畳み掛けさせて貰う‼︎

 

真隆は気を緩ませず、左足をそのまま踏み込んで再び軸足にせんと、蹴り足を引き下ろしーー

 

「ぐ、はぁぁっ⁉︎」

 

ーーその最中に一切動作に遅滞無く即座に突き出された中村の左中段逆突きを真面に鳩尾へ喰らい、肋骨のへし折れる鈍い音を体内に聞きながら真隆は吹き飛び、受身も取れずに床を数回転して仰向けに倒れ伏した。

 

「…っ痛〜〜、うわ〜ダッセェ。部長にあんな大口叩いちゃっといて一発綺麗に貰っちゃったわ、どう見てもこれ一本だな。……悪りぃ部長、流石に健康体操は言いすぎたわ。マジに腕上げたじゃん、いやホント馬鹿にして申し訳無え」

 

バツが悪そうに蹴りを喰らった側頭部を摩りながら頭を下げる中村。真隆は腹の底から湧き上がってくる激痛に荒い息をする吐いて脂汗を滲ませながら、何とか半身を起こして中村を睨み付ける。

 

「……な、ぜ………!」

「ん?」

 

息も絶え絶えに、問い掛ける真隆に中村は数本近寄り耳を側立てると。

 

「何故!……俺の、渾身の蹴りを…喰らって‼︎……即座に、お前は反撃出来る⁉︎」

「……………あ〜〜…………」

 

文字通り血を吐くような真隆の叫びに、中村は天を仰ぎ、ボリボリと頭を掻いてしばらく言い淀んでいたが、やがて腕を下ろすと共に真隆と視線を合わせ、ゆっくりと語り出す。

 

「まあアレだ、大言吐いといて一本取られてっから偉そうに言えた筋合いじゃ無えんだけどよ、部長。あんたの一発、殆ど俺には効いてねんだわ」

「……な、に…………⁉︎」

 

気不味気に顔を顰めながらも、中村は告げる。

 

「これが試合や練習ならあんたの勝ちだ、実際面目丸潰れだわな俺ぁ。…まあでもこれは空手じゃ無えし、先に喰らった方が負けなんてルールでも無え。……別にアンタが試合感覚で俺と相対してたとは言わねえよ、実際あんた一発入れても調子こかずに次へ繋げようとしてたもんな」

 

アンタが甘いのは、と中村は真隆に指を突き付け、ハッキリと言い放つ。

 

あの程度の一発(・・・・・・・)で俺の動きを一瞬でも止めらるなんて思っちまった事だ。言っちゃなんだがあんたの全力、普段から馬鹿共の馬鹿みてえな重撃喰らい慣れてる俺からすりゃ屁でも無えよ。身体の鍛えも、気の練り込みも、あんたはまるで足りて無えんだ。……俺に勝つ為に鍛えて来た、って言ったよな、部長。どう足掻いても現在(いま)のあんたにゃ、無理な話だ」

「…ぐ、………っ!……くっ‼︎」

 

中村の断言に、真隆は血が滲み出る程に歯を噛み締め、視線で射殺さんとばかりに中村を睨み付けるが、中村は動じない。

 

「言いたかねえが次元が違えよ。俺はホンマもんの化け物とここ最近闘り合ってたし、それに合わせて死ぬ気のレベルが一段階違う鍛え方をしてた。…もし何も無かった俺らなら、今よりあんたは喰い下がれたろうけど、それでもあんたにゃ勝ちは無い。…あんたは強えよ部長、自惚れじゃ無く俺が真面目に空手やって、一発貰うなんざそうは無えわ。でも俺は、打倒個人なんて狭い目標追っちゃいねえ。色々今はしがらみが出来ちまって、色々やっちゃあ居るけどよ。元々誰より強くなりてえなんて馬鹿達だけで集まって俺等は腕磨いてんだ。俺の土俵に入りたきゃ、ホントのホントに死ぬ気で鍛えて、出直してくれよ、部長」

 

今日の所は、俺の勝ちだわ。と中村は最後に告げ、ヨロヨロと立ち上がった真隆へ一歩踏み込む。

 

「…っ‼︎……おああああ゛あ゛あ゛‼︎‼︎」

 

激痛を無視して真隆は中村を迎え打ち、拳を振るうが、

 

「っらぁぁっ‼︎」

 

その拳と交差する様に跳ね上がった中村の左上段回し蹴りを真面に喰らい、糸が切れた人形の様に真隆は倒れ、今度こそ動かなくなる。

 

「悪りいな部長。ウチのお子ちゃまの為、ってのもあんだけどよ。何より俺ぁ……」

 

中村は一つ息を吐いて残心を終えると、常人には届かず、また聞こえないであろう人と幽霊(・・)の微かな声援のする方へ向けて拳を掲げる。

 

「…可愛子ちゃんの声援貰っときながら負ける訳にゃあいかねえのよ」

 

 

 

『あ‼︎綾瀬さん綾瀬さん!聞こえたみたいですよ、中村さんほら手を振ってます‼︎』

「…どういう耳をしているですかあの人は。というか試合中に余裕ですね」

「………う〜〜ん…………」

「あらあら、宮崎さん、しっかり」

「きゃー本屋ちゃん大丈夫⁉︎余裕が無いのはこっちよもー!何この世紀末空間⁉︎⁉︎」

「明日菜明日菜ー、落ち着きや〜、辻先輩達とドンパチやれる言うとったんやからこん位の地獄絵図は想定しとかな〜」

 

呆れた様に手にしたメガホンを口元から下げる夕映の頭上でさよがはしゃいで手を叩き(鳴らないが)、あまりのバイオレンスな光景の連続に目を回したのどかを千鶴が介抱し、悪鬼羅刹共の殺し合いの凄まじさに明日菜が現実を疑い、木乃香はそれを宥めようとしていた。

 

全身鎧の巨人が手にした長大な斧槍(ハルバード)で周囲の武道家達を人形の様に薙ぎ払い、傍目からは虚空から溶け出る様にして現れたとしか思えないラバースーツの美女が何が起きたかさえ悟らせずに一人の武道家の意識を刈り取り、ランナーウェアを着た黒マッチョの巨人がクラウチングスタートからの突進でソニックブームを巻き起こし、直線上の全てを薙ぎ払う。人種年齢性別体格武門競技、全く以って全てに共通点の無い多種多様な人物達が、磨き上げた己の一芸を披露し、闘技場は戦場と化していた。

観客席は大いに血湧き肉躍るの様相を呈し、湧き上がっていたが、少なく無い数の知り合いがこの地獄の様な光景の一助を担っているとあっては、彼女達は無責任に騒いではいられないらしい。

 

「いやにしたってこれは無いわよ‼︎なんでこんなちょっとファンタジー混ざった格闘漫画で主役かライバル役張れそうな魔人共がこんなに存在してるわけ⁉︎」

「うーん、麻帆良だからしょうがないんじゃ無いかしら?」

「正直その台詞は現実逃避ですよ。…まあこの半人外達の中でも先輩達は別格のようですね」

「せやな〜古ちゃんも楓さんも勝ち残っとるし……問題はネギ君とコタ君やな〜」

「…うぅ、ネギ先生が、ネギ先生が〜…………‼︎」

「のどかのどか、しっかりしぃ……わ!な、なんかネギ君とコタ君がトランクスの黒人と薙刀の人に絡まれとる〜⁉︎」

「あら…あの方は確か、麻帆良大学部の太刀嵐先輩ですね……」

「え、あ‼︎あの辻先輩に絡んでた‼︎……って言うかネギ〜〜⁉︎」

「なっ⁉︎……ネギ先生吹き飛びましたよ⁉︎」

『はわわわわわわ……‼︎な、何とか中村さん達に助けて頂けないんでしょうか⁉︎』

「……難しいでしょうね。そもそもブロックが違いますし、何より豪徳寺先輩達も、決して余裕は無さそうです」

 

これ以上無くピンチに陥っているらしい子供二人の様子に3ーA一行は色めき立つが、当然のことながら観客席からでは何も手出しのしようが無い。

 

「……やはり、中村先輩達の仰る通り、参加は止めさせるべきだったのでしょうか?」

 

見るに耐えない光景に眉を顰めながら夕映がポツリと呟く。

 

「…………ううん。夕映ちゃん、それは違うわ」

 

しかし、明日菜はそんな夕映の言葉に違を唱え、先ほどまでの狼狽4表面上だけとはいえ沈め、はっきりと言い放つ。

 

「先輩達は相当厳しいし危険だからできれば止めておけ、とは言ってたけど、無理だ、なんて言わなかったもの。それを聞いた上でネギと小太郎はやるって決めたんだから。…ガキンチョだからってその覚悟を無にしちゃいけないわ。……あたし達が今やるべきは、今更どうしようも無いこと悔やむんじゃ無くて、あいつ等が勝てる様に祈って、応援してやる事よ‼︎」

 

キャーキャー騒いでたって現実は変わんないんだから、声出してくわよ皆‼︎と、決意を秘めて立ち上がった明日菜に一同は顔を見合わせ。

 

「……そうですね、元より化け物の様に強い先輩達は兎も角、外野が勝手に悲観して嘆いていても始まりません。のどか!目を回して無いで、ネギ先生に声援を送りますよ‼︎」

「うぅ………、…うん‼︎」

「あらあら、じゃあ私はネギ先生達は勿論だけれど、皆さんの分まで先輩方を応援しましょうか」

「あはは〜那波さん強いな〜、明日菜もよう言うわぁ、さっきまで一番ワタワタしとったのに〜」

「う、うっさいわね木乃香‼︎…ネギ〜〜小太郎〜〜‼︎気張りなさい正念場よ〜〜‼︎」

『皆さ〜〜ん‼︎頑張って下さ〜〜い‼︎‼︎』

 

 

果たして少女達の声は、少年に力を与え得るのか。

 

 

 

「お、お姉様、横から凄いのが……お兄様後ろ‼︎後ろです〜〜⁉︎」

「大丈夫かよオイ、魔法使いチーム……俺っちにも出来ることがありゃあなぁ……」

「ま、アタシ等の出る幕は無えナ」

「まあ私達も一応応援はしましょうカ〜?」

「……勝ったらすらむぃとあめ子が粘液プレイ………」

「誰がやるか阿呆‼︎」

「貴女がやりなサイ‼︎」

「……解っタ」

「「エエ⁉︎」」

「……真面目に応援しようぜ嬢ちゃん達………」

「お、お兄様危っ、お、お兄様〜〜⁉︎⁉︎」

 

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。引き続き半人外野郎と一部女達のイカれたバトルロワイアルの実施中です笑)武道家はおろか一部スポーツクラブと運動系ですら無い連中も混ざっておりますが、麻帆良の部活は大体頂点になると何がしかの戦闘力を保有している為にこうなります。何だか基本てきに真っ当に武道やってる連中よりもキワモノ枠の方が戦闘力高い感じな印象ですが、正道から外れた連中は絶対数こそ少なかれど時にとんでも無い力を発揮する突然変異が現れるということで一つご容赦を笑)
ちなみにさよちゃんが他の面子と会話出来てる感じなのは中村が死霊系魔法会得してさよちゃんに魔力を以って存在の活性化を行っているからです。
残りのバカレンジャーと古達篠村達。更にネギコタコンビが勝ち抜けるか否かの描写を行えば予選は終了です。あ、勿論眼鏡とゴリラもきちんと出ますよ。次回を楽しみにお待ち下さい。
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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