お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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最初に断っておきます、タイトル詐欺になりますがイチャラブでは恐らくありません、ご了承下さい。
予想よりも本編の執筆が捗らないので、先にSSの方を上げさせて頂きます。2本目は、中村中心のコメディ色が大分強い話です。時系列としては第一弾とほぼ同時期、夏休み編です。


10万UA突破記念SS 第2弾 中村と愉快な仲間達

『真夏のくそ暑い今日この頃、夕映っちに至ってはいかがお過ごしでしょうか?と、いう訳で納涼会しょうぜ納涼会‼︎明日の13:00に図書館島の前に集合な、水着持参のこと。

P.S. 折角だから水着は露出度高い奴だと嬉しい主に全俺が。スェクスィ夕映っち降臨に期待しちゃうゾ☆』

 

「…………………………」

 

夜も更け出したPM20:00、寝台の上で少々行儀悪く寝転がりながら読書をしていた夕映の元にそのツッコミ所満載のメールは送られて来た。

見なかった事にして読書を続けようかとよっぽど思った夕映であったが、現在己の抱え込んでいる形容し難いある感情を鑑みてしまえば、色々な意味で台無しという表現がこれ以上似合うことは無いであろうこの残念男の残念メールを無視する様な事は出来ないのだと、ある種の諦念と共に夕映は理解していた。

 

……色々な意味で彼方にしても此方にしてもそれ以前の問題を幾つも抱えていて、到底あり得ないと現状判断している事が前提とはいえ……恋する乙女(・・・・・)とはもう少しロマンティックな気分で相手のことを考えているものでは無いのでしょうか?……………

 

乙女などという柄では無いですが、と些か自嘲気味に鼻を鳴らしつつも夕映は溜息を吐く。

 

まったく本当にどうして、だ。

 

 

「よりにもよって何故アレなのでしょうね…趣味が悪いにも程があります…………」

 

 

ゴロリと身をベッドに投げ出し、ぼんやりと天井を見つめながら夕映は独りごちた。

 

 

 

……何ともはや、つくづく規格外な御仁でござるなぁ…………

 

楓はポカン、と口を開けて呆けている夕映と共に一列横並びとなってつっ立ちつつ、目の前の非常識な光景に苦笑を禁じ得なかった。

 

燦々と柔らかな陽の光が降り注ぐ、半ば水没した樹々と本棚、白い砂浜に彩られる、静謐な雰囲気の漂う図書館島深部の湖畔。その澄んだ水辺に半ば身体を浸からせる様にして羽根を伸ばし静かにリラックスした体勢で横たわるのは、燃え盛る炎の様に鮮やかな朱色の鱗で全身を包んだ巨大な(ドラゴン)だった。

我関せず、とでも言う様な細目で(かんばせ)を伏せたその(ドラゴン)ーーキャサリンことキャシーの背上、身体の中心部辺りにブーメランパンツ一丁の中村が、足元にすらむぃ達スライム三人娘とさよを侍らせつつ、手に持ったデッキブラシを高々と掲げて宣言する。

 

「それではこれよりぃっ‼︎我等がマスコット兼ヒロインたるキャシーのボウディウォォッシュを、行いまぁぁぁぁぁぁぁす‼︎‼︎」

「「イエーー」」

「ソープランド…」

『が、頑張ります‼︎』

 

イェェェェェェェェェイィ‼︎と高速のタップダンスを刻むウザったいテンションの中村へすらむぃとあめ子がポチョパチョ、と水っぽい音を立てて棒読みな歓声と共に適当な追蹤を送り、相も変わらずぷりんは下ネタ連想ゲームに余念がない。ふんすと可愛らしい鼻息を立てて張り切っている様子のさよが唯一の癒しであろうか。最も、直後にドタドタとステップを刻み続けていた中村が喧しいわとばかりにキャシーの尾によって薙ぎ払われ吹き飛ぶ様子に、さよの口からは続けて悲鳴が上がった。

 

「……何なのでしょうか、あの人は?…………」

 

何処からツッコミを入れれば良いのか解らないこの状況に、呻く様な声で疑問を漏らした夕映の様子に、悪いとは思いながらも楓は思わず破顔する。気配を察したのかやや憮然とした表情で見上げてくる夕映に手振りで謝罪をしながら、楓は湧き上がってくる何とも言えないその気分に、上機嫌にて独りごちた。

 

……きっとそれが易々と言葉などでは表し切れない、不可思議にして愉快な御仁だからこそ、こうして拙者達は逢いに来ているのだと思うでござるよ、夕映殿…………

 

「まあ中村殿だからしょうがないでござるよ、リーダー?」

 

クスリと口元に笑みを浮かべて、湖面から這い上がってきた中村に夕映の背中を押して歩み寄りつつ、楓は悪戯っぽい調子でそう告げた。

 

 

 

「鱗の掃除……ですか?」

「おうよ」

 

俄かには概要を理解し難かったのか、眉根を寄せて言われた言葉をそのまま返す夕映に対して、中村は事も無げに頷いた。

 

「ほう、キャシー殿は普段湯浴みや水浴び等行わないのでござるか?」

「うんにゃ、基本的に(ドラゴン)ってな老廃物やら排泄物が殆ど発生しねえらしいんで生きてく上では特に必要無えんだそうだがよ、やっぱ普通にしてりゃ塵やら埃やら身体に付くもんだべ?偶〜に此処来て水浴び位はしてたんだと」

 

一方早くも順応している楓の質問に答える中村。全くペットの世話も碌にしねえたぁやっぱあの野郎生かしちゃおけねえな!と憤る中村がまたもやキャシーの尾による一撃で壁面まで吹き飛び、小さくないクレーターを作るのを無感動に見届けた夕映は、何がツボに嵌ったのかクツクツと震えて笑声を洩らす楓を余所に冷たい口調でヨタヨタと覚束ない足取りで戻って来た中村へ告げる。

 

「一々遠くへフェードアウトしていないで話を進めて下さい中村先輩」

「それが洒落にならねえ一撃喰らって割と深刻なダメージ受けてる先輩に対して言う台詞かい夕映っち⁉︎最近益々俺に冷たくねぇかちょっと〜?」

 

哀れっぽく中村は両手を組んで抗議の声を上げるが素気無くスルーされ、ガックリ肩を落とすも数瞬で立ち直り、今度は素知らぬ顔で寝そべるキャシーへ声を張り上げる。

 

「つーか何すんだよキャッシー、ペット呼ばわりがそんなに気に入ら無かったかよしょうがねえじゃん門番やってるとはいえ自分で狩りしねえでエサをあのヒッキーから貰ってる以上どう高く見積っても精々番けオバァァッ⁉︎」

 

皆まで言わせずに今度は上から下へと振り下ろされたキャシーの尾が中村を砂浜に半ば埋め込んだ。キャシーはフン、と鼻から蒸気を洩らして不機嫌そうに一つ息を吐いた後に再び僅かに擡げていた首を再び砂浜に横たえる。

 

「……お、おのれぃこのツンデレ飛竜がぁ…………」

「欠片もデレている様には見えんでござるが?」

「戯言はさて置き中村先輩、キャシー…さんが定期的に水浴びをしているのならば先輩の言うボディウォッシュ云々は必要が無い様に思えますが?そもそも何故それに私達を呼ぶですか?」

「おーい中村ー、遊んで無えでさっさと始めようゼー」

「さっさと終わらせて美味しい水奢って下サイー」

「…竜尾(ドラゴンテイル)スパンキング……ふふ命知らず……」

『な、中村さーん⁉︎大丈夫ですかー⁉︎』

 

ピクピクと痙攣しつつ、這々の態で埋もれた砂浜から這い出しつつ恨み言を吐く中村の状態を見事にさよ以外がスルーしつつ各々が言葉を吐く。

 

 

「…畜生、モテ男への道は遠いぜ…………」

 

戯言をほざきつつも中村はなんとか半身を起こし、話を纏めに掛かるのだった。

 

 

「……はあ、つまり水を被った程度では落ちない奥の汚れを落とす、と」

「ウィー、マドモァゼェール」

 

要点を纏めた夕映の言葉に巻き舌で返す中村。

 

「キャシーもレディーだからなぁ、自分なりに身綺麗にゃあしてるみたいなんだが、何分生き物として俺らたぁ大きさ(サイズ)に雲泥の差があっからなぁ。俺らで言えば毛穴に詰まってる老廃物だの皮膚上に浮いてる垢だのを目で見て一つ残らず落とせなんて言われたらまあそりゃ無理な話だべ?それにキャシーの鱗殆ど金属みてえな硬さと質感だからよ、磨いてやればもっとテカって綺麗になっと思うのよ」

 

んなもんだからスラ娘達も呼んで徹底的にやったろかと思ってな!と無駄に爽やかな笑顔でサムズアップをする中村に、夕映は疲れた様な、楓は楽し気な顔でそれぞれ了解の意を返す。

 

「ふむ、拙者竜の湯浴み手伝い等産まれて初めての経験でござる。喜んで協力させて貰うでござるよ」

「普通の人生を過ごしていれば(ドラゴン)の身体を洗う、等という選択肢は登場しなくて当然かと思いますが……ともあれ、まあ、特にやる事も無いので構いませんよ。ただ体力面を考慮して、あまり戦力になるとは期待しないでいただきたい所ですが……」

 

温度差はあるものの色良い返事を返してくれた二人だったが、中村は不思議そうな表情を浮かべてヒラヒラと手を横に振り、言葉を返す。

 

「いんや?楓ちゃんも夕映っちもンな大変そうな作業は手伝ってくれなくてOKよ?女の子呼び付けて肉体労働させようなんて真似を紳士な俺様がする訳無えじゃん」

 

「およ?」

「……ならば何の為に我々に声を掛けたんですか、中村先輩?……」

 

不思議そうに首を傾げる楓の言葉を代弁する様に、ジト目で夕映は問い掛ける。中村は温度の低い視線にもめげること無く、あっけらかんと答えを返す。

 

「だからメールにも書いてあったろ夕映っち、納涼会に呼んだのよ二人は‼︎水着持参って書いたろ?こんなクソ暑い日にこーんな綺麗な湖があんだから、泳がない理由は無いでしょうちょっと⁉︎…お二人にお頼み申すのは年頃のおにゃの子の溌剌とした肢体……いや様子をボディウォッシュに勤しむ俺様ちゃんの傍らで見せ付けてくれて俺のモチベーションアップに貢献して頂きたいのでごぜぇますよDo you understand⁉︎」

 

段々早口になって行き、最後の方は殆ど息もつかずにビシィ‼︎っと両の人差し指で楓と夕映を指し示しながら言葉を迸らせた中村に対して、夕映は蜚蠊(ゴキブリ)でも眺めているかのような冷たい眼差しを返して言い放った。

 

「率直に言いますが気持ち悪いので死んで下さいです先輩」

「グハァッ⁉︎」

 

言葉の刃がグサッと中村の心臓を抉り抜き、中村はゆっくりと回転しながら地面に崩折れた。

 

『中村さん‼︎しっかりして下さい⁉︎』

 

フワリと棚引く尾を靡かせ、ピクリとも動かない中村に近寄りユサユサとその身体を揺さぶる(・・・・)さよだったが、そんな健気?な少女に対して中村は、まるで急激に歳を取ったかの様な力無く弱々しい目線を、冬眠明けの亀の如き鈍い動きで首を擡げて向け、やはりか弱く震える声にて告げる。

 

「さよ……ちゃん………俺が、死んだら……思い残して化けて出ることの、無いよう……俺の遺灰を、麻帆良女子高の女子更衣室の…床と壁と天井、余す所無く塗り込めて、く…れ…………」

『な、中村さーん⁉︎嫌です、死んでしまうんでしたら幽霊になって、私とずっと一緒に居て下さい‼︎』

「我が生涯に……百九十八片程悔い有り…………ガクリ」

『中村、さん?………‼︎っ、中村さーーん⁉︎⁉︎』

 

安らかな表情で身体から力を抜く中村の身体に取り縋って名を叫ぶさよ、非常に良く出来た三文芝居である。

 

「こんなキモい遺言初めて聞いたぞオイ。つーか百九十八片とか悔い有りまくりダロ、灰塗り込めてもぜってぇ化けて出るゼ?」

「というかガクリって口に出して死んだフリする人初めて見たデスゥ」

「……大和撫子系気弱幽霊天然ロングストレートぼっち娘……ふふ数え役満」

「……というかさり気に告白地味た事を口走っていますが、さよさんのアレは天然ですか悪ノリですか?」

「存外狙って言っている可能性もあるでござるよ、夏は女を積極的にするらしいでござるからなぁ。…ふふ、うかうかしてられんでござるな夕映殿?」

「……何を仰りたいかは大体察していますが、私を数に含めないで下さいです」

 

素直で無いでござるなぁ、という楓の言葉を無視して夕映は無表情のままズンズンと歩を進め、死んだフリを続ける中村の頭を軽く蹴り飛ばして注目させる。

 

「アウチ⁉︎夕映っち最近ツッコミと言動が厳しくね?」

「自らの行いを省みて反省すれば手も口も飛びはしないですよ、自業自得です。それよりも中村先輩、私達を呼んだ目的に関しては解りたくはありませんが理解しましたが、何故に私を呼んだのですか?」

「はい?」

 

質問の意味がわかりません、とばかりに首を傾げて夕映の方を見やる中村に、夕映は苛立った様子で起伏の無さが悲しい己の胸に手をやり、自嘲気味というよりは半ば投げやりな口調で言葉を紡ぐ。

 

「楓さんは解りますが、私の様な貧相な体型で顔もそれ程良いとは言えない、更には口まで悪いという三重苦なチビ女を呼ぶ理由は無いでしょう、といった意味合いです。声を掛けなければ角が立つ等と考えているのでしたらそれこそ余計な……」

「ストップストップ夕映っち、何よダウナーな空気出しちゃってらしく無えぜ〜?」

 

ありがとなさよちゃん‼︎と寄り添ってくれていたさよに一声掛けて跳ね起きた中村は、唇を尖らせて夕映に言葉を投げ掛ける。

 

「自虐的になるのは止めえやね夕映っち。確かに夕映っちのお胸は少々所では無く慎ましやかで寧ろ抉れてんじゃ無えかと不安になるようなナイ胸だが………」

「わかりました、その喧嘩格安で買いましょう」

「その分厚い(鈍器)どっから出したのよ危ねぇっ⁉︎……ともあれ夕映っち、胸の大小なんざ気にすんだけ無駄ってもんよ。俺ぁ巨乳も貧乳も等しく魅力的だと思ってんぜ、何処ぞの淫獣も言ってるが大きいオッパイは包まれたい、小さいオッパイは包んであげたい、ってなあ!大体夕映っち、仮にスレンダーバディがマイナスポイントだったとしても夕映っちは美少女だし女の子からの罵倒なんて寧ろご褒美でしょ⁉︎自己評価が低いのもいい加減になさいってホバアァッ⁉︎」

 

語りの最中に夕映の手によって(鈍器)を顔面に叩き付けられ、中村は転倒する。

 

「何⁉︎なんなのよキレキャラで売っていく訳夕映っちは⁉︎」

「喧しいです!……さて置き、下心ありきとはいえお気遣いには感謝しますが、私も手伝うですよ」

「why⁉︎」

 

乙女の様に両手で顔を覆い、嫌々と首を振りながら砂浜を転げ回る中村のリアクションに一切構わず、夕映は仄かに赤い顔をプイと背けながら踵を返して、ズンズンと湖畔の岩陰に歩んでいった。

 

「もう!年頃の女の子は繊細過ぎて扱いに困るわぁ……」

『…ふふふ、中村さんが女心を理解してないからですよ?』

「ええさよちゃんにまで言われた⁉︎」

 

起き上がりながらしなを作り、クネクネと身体全体を蛇の様にくねらすす中村に、さよがクスリと笑いながら言葉を投げる。ほぼ無条件で味方だった筈のさよからもツッコまれたのが地味にショックだったのか、中村は顔をムンクの叫びが如く縦に圧し潰した。

 

「然り、でござるな。まあ中村殿、働いている人間を他所に水遊びではバツが悪い気分になるというものでござる。キャシー殿に拙者らは学祭でお世話になったでござるし、ここは一つ恩を返す意味合いでも協力させて頂くでござるよ」

「………う〜〜ん…………」

 

結局労働力として呼んだみたいになって悪いなあ、という中村の呟きに女性陣は笑い、スライム娘達は、アタシらは初めから労働力として呼んでたろーガ!と思い思いに中村へタックルをかましていた。

 

 

 

「これってよーまんま掃除家電のアレだヨナー……」

「私達の奥の手をまさかお掃除に使うとは恐れ入りマシター」

「…飛竜の性感帯が見つからない……」

「「何をしてやがる(ですか)ぷりんは」」

 

体長が二m程(・・・)に膨れ上がったすらむぃ、あめ子、ぷりんの三体が身体から湯気を立てつつ、掌から高温の蒸気(スチーム)を高圧で放ち、キャシーの背中側の鱗を洗浄していた。正しくその姿は高温・高圧の蒸気でガラスやサッシ、風呂のカビから車の油汚れまでも綺麗に落とす、年末大掃除に忙殺される主婦の頼れる味方、ジェットスチームクリーナーそのものであった。

 

「……大丈夫なのですか、あの子達は。熱湯で身体を作ったりなどして、体組織が壊れたりしないのですか?」

 

すらむぃ達の後方から蒸気によって浮かされた汚れをデッキブラシで刮ぎ落としつつ、夕映が隣の中村に尋ねる。

 

「んーあいつらによると強酸性の劇薬とかでも無けりゃあらゆる液体を身体として纏えるらしくてよ、熱湯はちっと負担が掛かるけどあんま長い時間そうして無きゃあ大丈夫らしい。身体の本体っつーか内臓であり脳味噌も兼ねてるみてえな(コア)ってのがあるらしんだわ…殆ど透明で見えねえけど。で、それは柔っかくてあんま頑丈じゃ無えらしいが、温度差には結構強いんだとよ」

 

しっかし熱湯で出来た幼女とか闘いたく無ーよなあ、二mの幼女って長身系少女とはまた違ったジャンルの萌えじゃね、…巨女(きょうじょ)?などと呟きながら中村は手際良くブラシで鱗を磨いて行く。中村を挟んで夕映と逆隣りの楓はやたらと楽し気にブラシを動かして進みつつ、足下のキャシーに声を掛ける。

 

「キャシー殿〜、遠慮無しに擦りまくっているでござるが、痛くないでござるか〜?」

 

大声での問い掛けに返ってくるのは低い唸り声、心無しか心地良さ気な弛緩した響きを伴っているようにも感じる。

 

「『大事無い、続けるが良い』だとよ、もう!キャシーったら男女問わずに魅了して奉仕させちゃう魔性の女‼︎」

「……理解出来ているでござるか?」

「うんにゃニュアンス。でも今まですれ違いがあったこた無えから合ってんだろーよ」

「また適当な……」

 

呆れた様に呟く夕映に何故かドヤ顔でサムズアップしてから、中村は後方の水着姿(・・・)のさよへ声を掛ける。

 

「すわぁよちゅわあん‼︎大丈夫ちゃんと汚れ流せてる疲れて無えー⁉︎」

『あ、はーい‼︎大丈夫です中村さん!キャシーさん綺麗になっていますし、私の方も違和感とかはありませーん‼︎』

「そっかー!でもちょっとでもおかしいと思ったら直ぐに言いなさいよー‼︎」

『はーい、ありがとうございます‼︎』

 

パールホワイトのフワフワとしたフリルの付いたバンドゥ型の水着を纏ったさよは上機嫌な様子で、騒霊現象(ポルターガイスト)によって持ち上げた巨大な水球から水をシャワーの様に振り撒き、すらむぃ達、中村達の後へ続きながら残った汚れを洗い流していた。元気に返事をしてくる姿からも何ら不調は無さそうに見える。

 

「えがったえがった。この分ならさよちゃんを遊びに長時間連れ出してもなんら問題は無えな、俺の魔力も持ちそうだし」

「……ツッコンでよろしいでしょうか中村先輩?」

「あによ?」

「……さよさんはどうやって衣装を変えたのですか?寡聞にして服を着替えられる幽霊というのは聞いたことがありませんが……?」

 

夕映の疑問は最もであり、幽霊(ゴースト)の類は一般的に死んだ時、若しくは本人にとって馴染み深い服装と状態で格好が固定されているものであり、着替えも何も先ずこの世のものならざる幽体には服に触れる事など出来はしない。故に幽霊(ゴースト)の格好とは固定されているものである。

中村はああ、と得心のいった顔になり、頭をさよから夕映の方へ向け答えを返した。

 

「どうよあの水着さよちゃん色白だから超似合ってね⁉︎最初はマイクロビキニにしようかと思ったんだけど幾ら何でも貞淑そうなさよちゃんには似合わねえしキツイかと思い直したんだけどよ」

「本当に最悪な企みしか持ちませんねこの男………待って下さい、つまり中村先輩がさよさんにあの水着を?」

 

相も変わらず下世話な思考を何故か得意気な表情で告げて来る中村にウンザリした顔で罵倒しかけて、夕映は中村の言葉の意味に気付いた。

 

「そーそー。皆で水遊びだってのにさよちゃんだけセーラー服のまんまじゃ可哀想だべ濡れ透けになる訳じゃ無えし……ウォッホン‼︎つー訳でおれが水着買って来てお焚き上げ(・・・・・)でプレゼントしますた!」

 

どうよ?と自慢気な中村をスルーして夕映と楓は顔を見合わせる。

 

「…お焚き上げ、というと……」

「故人の想いが篭った形見の品などを焼くことによって供養する、というあれでござるか?」

「うんうんそれ」

 

中村は頷いて肯定し、説明を続ける。

 

「つっても俺がやったのは日本の退魔屋や霊能力者なんかが除霊や供養なんかに使うそれで、普通のお焚き上げとはちっと意味合いが違うらしいのよ。死んだ人間に思い出の品を手に取らせて正気に戻そうとしたりすっ時に使われるらしんだがまあ詳しくは知らねえや。俺はこれ利用すればさよちゃんにも物くれられんじゃねえかと思って教わっただけだからよ」

 

俺の勘は正しかったぜ、と自慢気に鼻を鳴らす中村に楓が続けて尋ねる。

 

「何方がそのような?」

「刀子せんせー。ほらあの人色々あったけど今幸せの絶頂じゃん、実に気前良く教えてくれたわ。ちょっと前ならピリピリして学生の分際で不純異性交遊云々と喧しかったろうなあ……」

「「ああ……」」

 

と、楓と夕映は声を揃えて納得の声を上げる。苦節ウン年の努力が実ったのだ、今頃大人の夏を満喫している事だろうというのが全員の共通認識だった。

 

「よくやるでござるなあ中村殿も」

「こんぐれえは当たりめえよなんたって俺ぁさよちゃんの一の親友だぜし・ん・ゆ・う‼︎そうじゃ無くても野郎は女の子が為に金を惜しまねえもんだべや?」

 

カラカラと高笑いを上げる中村だったがその言葉を聞いて何故か二人は微妙な表情になる。ややあって夕映が珍しくオズオズとした様子で中村に問い掛ける。

 

「…中村先輩………」

「はーい夕映っちなんでごぜぇましょうかぁ⁉︎」

「……中村先輩はさよさんにモーションを掛ける気は無いのですか?」

「……うん?」

 

あまりに予想外な質問だった為か、ハイテンションな空気を霧散させてゴキリと90度近く首を傾ける中村。

 

「…悪りい夕映っち、質問の意味がいまいちよく解らん」

「いえ、ですから……誰彼構わず節操の無い中村先輩が、とりわけあれやこれやと気に掛けているさよさんに対して先程親友、と断言していましたので…言葉尻を挙げ連ねるつもりはありませんが、少し気になったものですから……」

「ああ、ああ成る程、理解了解」

 

中村は何度も頷いて了承の意を示してから、事も無げに言い放った。

 

 

「やだなあ夕映っち、そもそも俺みたいのが女の子に振り向いて貰える訳無いでしょうに」

 

「っ⁉︎…………………………………」

 

 

夕映と楓は思わず絶句し、それから長い沈黙を挟んだ後に震える声で言葉を紡ぐ。

 

「……自覚が………あったのでござるか…………⁉︎」

「ならば何故……普段の言動を、改めないのですか………………?」

「そりゃまあアレよ、自由に生きてえんだ俺。実際そうしてっし」

 

あっけらかんと中村は言葉を紡ぐ。

 

「取り繕ってカッコつけて女の子と付き合っても絶対俺は長続きしない自信があんのよねえ。だったらありの〜ままの〜自分でいる、の、よ〜ってな風に行動して、その上で素の俺を好いてくれるおにゃのこ見つけようと思ってよぉ」

 

今の所全戦全敗だけどな!と胸を張って堂々と宣言してから畜生イケメン死ね‼︎と怪気炎を上げてブラシの速度を上げる中村に、夕映が半眼になりながら問い掛ける。

 

「……では懲りずにナンパをしているのは?」

「億分の一くれえの確率で奇跡が起こって頷いてくれる娘がいるかもしれねえじゃん。大体さよちゃんみたいな器量好しだったら俺の兆倍イケメンで性格紳士で真摯な野郎掴まえるに決まってんでしょ〜」

 

中村の言いように、楓と夕映は再び顔を見合わせて同時に溜息を吐いた。

要するに中村という男、自己評価が限りなく低い(普段の言動を鑑みれば適切な自己判断とも言えるが)為、普段何かと積極的な割にその実受け入れられるとは全く思っておらず、そもそも異性に己が好意を持たれるという前提を頭の中で想定していないが為これ程までに鈍いらしい。

 

「え、何、どしたのおめえら凄え顔して……?」

「……中村先輩は馬鹿ですね、今更周知の事実である筈の認識を通り越す位に馬鹿なのですね………」

「然り。全くもって一分も反論の余地無くその通りでござるな」

「あっるぇー?俺という概念が酷く念入りに馬鹿にされてんだけどもし?」

 

 

……やっぱり、凄く優しいなあ中村さんは………

 

さよは何とも言えない幸せな気分で、新たに水を湖から持ち上げるとキャシーの背中に浴びせかけて汚れを洗い流す。無論掃除に幸福を覚えている訳では無い、さよ自身の生活事情の変化からだ。

誰にも認識して貰えずに、独り孤独を抱えていたほんの一、二カ月前までが嘘の様に、今のさよは満たされている。級友達と声を掛け合い、お喋りに勤しみ、遊びに行く。当たり前な一人の女学生としての日常というものを、さよは漸く数十年越しに取り戻せた気分だった。

更にさよは今現在、流行りの水着なんてものを好きな人(・・・・)からプレゼントされて、一緒に水遊びなんて洒落込んでいる。

 

……好きになって、当然だよね…………

 

相坂さよは中村 達也の事が好きである。

理由は様々あるようで、その実きっとシンプルだ。自分に気付いてくれたから、最初から友好的に接してくれたから、身体を張って助けてくれたから、初めての友達になってくれたから。

要は優しくしてくれたから絆されたのだ。単純だなあと思わないでは無いが、別にちょろい女と言われるならば言われてしまって全然構わないと、さよは自信を持って言える。

 

……理由なんて何だっていいんだ。私にここまで好意を向けてくれる人なんて、他に絶対居はしないんだから…………

 

だからさよは開き直って現在(いま)の幸福な日々を謳歌している。中村はさよを良く気に掛けてくれ、幽霊であるさよが少しでも普通の女の子と同じように生活出来るように、あれこれと気を遣ってくれている。だからさよは中村に深く感謝をしていて、自分が出来ることで中村の力になれるのならば何でもやってあげたいと考えていた。この位の手伝いなど軽いものだ。

唯、さよは自分の抱えている想いが身を結ぶのは難しいだろうな、と同時に考えてもいた。

 

「つーか楓ちゃん影分身の人海戦術で尾っぽと両脚側やってくれんのはマジで助かるけどすらむぃ達(クリーナー)無しで大丈夫か?背中の面積デカいから三機並列使用してるけど、大変ならすらむぃクリーナー辺りを一機貸すぜぃ?」

「クリーナーって呼ぶんじゃ無えヨ‼︎」

「扱いが雑でスゥ‼︎」

「クリーナー…………バター犬…」

「やかましいです」

「……ふふ、大丈夫でござるよ中村殿。これでも壁登りの為のリベリングは得意でござる故」

「楓さん、それはツッコむ所ですか⁉︎」

 

……難しいよなぁ…………

 

生きている中村が恋人を作るなら生身の人間の方が都合の良いに決まっている。さよは当たり前のことを当たり前に理解していた。きっと皆優しいから、そんなことは無い、なんて言ってくれるかもしれないけれど、それは純然たる事実なのだ。

最もさよは其れ程悲嘆に暮れてはいない、あくまでも現在は、だが。

級友達と触れ合えて、好きな人と一緒に遊べて。さよは今、充分に満ち足りている。楓も夕映も優しい、いい人だ。彼女達ならば、もし中村と結ばれたとしても祝福出来るのではないかとさよは考えていた。

中村は生きている人なのだから仕方がない。だからさよはぼんやりと、思うのだ。

 

……中村さんが死んじゃったり(・・・・・・・)したら、幽霊になってくれないかなぁ…………

……そうなったら、ずっと一緒に居られるのになあ…………

 

と。

無論さよは中村に()、死んで欲しくは無い。こんな何もかも中途半端な時期に召されてしまっては、中村は一生後悔するだろうし、周りの人達も悲しむだろう。折角仲良くなれたのだ、好きな人が、友達が。悲しむことをさよは望まない。

それでも、もし中村が死んでしまうような事があったなら。

ネギ一行の中でさよは、さよだけはそれでもいい(・・・・・・)と思える存在である。

 

……中村さんが死んじゃって幽霊になったら、沢山、沢山慰めてあげよう。そうして落ち着いたら、世界中を見て回るなんていいかもなあ。中村さんが一緒なら、百年だって千年だって、きっと楽しくて幸せだろうなぁ………………

 

ふふっと、まだ見ぬ未来にさよは想いを馳せて、幸せそうに笑う。ああ、なんて自分は幸せなんだろうと。

 

「さーよちゃーんお疲れ様ぁー!泳ぐぉうずぇぇいぃ‼︎」

『はい‼︎……楽しいですね、中村さん』

「さよちゃんが楽しいなら何よりだぜぃ‼︎」

 

 

 

……全くもって五月蝿い奴だ、あの男は…………

 

キャシーは灼けつく様な熱を帯びた空気を鼻から吐き出し、溜息にも似た仕草を行う。飽きもせずに他竜(ひと)の周りで、囀る小鳥の如くピーチクパーチクと喧しい。

 

「へいへい夕映っち、タンキニとはまた渋いチョイスでごぜぇますねヒュゥゥゥッ‼︎」

「褒めているのですかそれは?味も素っ気も無いと自分で理解していますので、無理に褒めようとなさらなくて結構です」

「いやいやなーに言ってんの夕映っち。身体にピッタリしたタンクトップトップスって、まるでスポブラを見ている様で健康的なエロスが有るから個人的に大好物ですハイ!」

「何度でも言わせて頂きますが気持ち悪いです中村先輩」

「罵って頂きありがとうございます‼︎………楓ちゅわ〜ん、半ば本気の発言とはいえボケをスルーって一番やっちゃいけねえ事だと思うんだ‼︎」

「仕方がないでござるよ、中村殿は気持ち悪いだけで無くウザったいでござるからなあ」

「ヴ オ゛オ゛オ゛オ゛なんてこったい楓ちゅわんにまで夕映っちの毒舌が‼︎まあそんなことはどうでもいいとしてくわぁえでちゅわ〜ん‼︎‼︎そのシンプルなチューブトップ系の水着はもうアレだね、素晴らしいとしか言えないね‼︎悲しいかなこの魅惑の果実が見事に実って無えと単にサラシ巻いたみてえな印象受けるからひんぬーな娘さんには似合わないのよね痛ってえ⁉︎夕映っち俺夕映っちの名前出して無えじゃん、小指は流石に無しでしょ無し⁉︎」

「喧しいです変態男‼︎」

「正に。これが一番サラシの感覚に近いから購入したのでござるよ」

「ウワァ残念女な解答来マシター」

「ちなみにこっちの幽霊の水着はどういうチョイスだよ中村ー?」

『え⁉︎わ、私ですか⁉︎』

「えーほらさよちゃんスレンダーな体格してっからさー、バンドゥ型でトップスにフリルやフレアーが付いてるタイプって胸元にボリューム出来てデザインも女の子らしくて可愛いじゃん?だからさ‼︎」

「オー…」

「……意外にちゃんと考えてた」

「ふふん、恐れ入ったかぁ!」

『中村さん……‼︎そんなにちゃんと私の事を考えて選んでくれて、私凄く嬉しいです!ありがとうございます‼︎』

「いいってことよさよちゃん‼︎……ここだけの話色白な娘が白い水着着てると、一見して裸になってるみたいで最高だよねって…」

「「「「死ね(です、ヤ、でござる、デスゥ)‼︎」」」」

「ギャァァァァァァァァッ⁉︎⁉︎」

『な、中村さーん⁉︎』

「……自業自得…ふ、Letsスパンキーング」

 

……全くもって喧しい。

 

今度は口から灼けた息を吐き出しながら、キャシーはふと人の身であれば笑みでも溢したくなる様な、おかしな気分に襲われた。煩わしい思いが無いではないが、道化師の如き男の言動は人間(ひと)と精神構造の大きく異なる飛竜(キャシー)の身を持ってしても面白い(・・・)

かつて此処とは異なる、正しく異界の空を舞い踊り、獲物を己が爪で牙で引き裂き喰らい。生命を脅かす敵対者を紅蓮の炎で焼き払っていた頃は、この様な考え方は決してしなかったであろう。唯、今の生活は退屈なのだ。全くもって退屈に過ぎるのだ。

彼女(キャシー)は元の世界に於いて最強では無かった。彼女(キャシー)よりも強い生命体は、多くはないものの存在していた。

なんの因果か本の年寄りに掴まり、番人として缶詰にされている現状に不満は多いに有るが、折り合いは己の中で着いている。どう言い繕おうが結局の所、キャシーは己よりも遥かに強い年寄りに膝を屈したのだ。

媚へつらって惨めに生きる位ならば、とも考えたが、退屈である事を除けば存外此処(麻帆良)での生活は悪いものでは無かった、別に大層な誇りを抱いて生きていたつもりも無い。無意味に死ぬ位ならば生きるべきだ、とキャシーは思っていた。

 

しかし退屈だ、退屈なのだ。

 

侵入者所か生ける者さえキャシーを恐れ近寄りはしない。時間さえも忘却された様な光差す広場で、横たわりただ微睡み続けたこの百年と少しは、振り返ってみても思い起こせる何か(・・)等欠片も存在しはしない。生きながら死んでいる様なものだったと、キャシーは思い耽る。

 

……そう、暇潰しには丁度良い。

……この位に五月蝿い方が、煩わしいが面白い。

 

ギャアギャアと元気に騒ぐ中村達を見下ろしながら、キャシーは笑う。

殺し合いに近い相対の最中にキャシーの生殖器の話を唐突に始め、年寄りに水を差されて不貞腐れていたキャシーにあれこれ愚にも付かない事を尋ね、挙げ句の果てに名を持たない事を告げれば激昂して己よりも遥かに強者である年寄りに突っ掛かりに行く様な飛び切りの愚か者だ。

良くも悪くも斜め上にブッ飛んだ男の言動は、キャシーにおそらく竜生に於いて初めて、愉快という感情を知らしめてくれた。加えて男は頑丈で小さい存在にしては強い。時折キャシーの元を訪れての鍛錬と称する潰し合い(・・・・)は、退屈していた身には頗る愉快な娯楽である。

そう、言うなればキャシーは、この妙に馴れ馴れしくも面白可笑しい、馬鹿な道化師を気に入っているのだ。

 

……楽しませてくれよ人間。私を退屈させないでくれ。

……呼びたければ名など好きに呼ぶがいい、ジャレつきたいなら好きにするがいい。気に入らなければはたき落すだけだ、どうせその程度で潰れはしないのだろう?

 

……名と言えば人間、お前の名はなんといったかな?

 

ふとキャシーがそんなことを考えた瞬間、何時の間にか巨大化したすらむぃに卍固めを喰らっていた中村がキャシーに対して話し掛けて来た。

 

「あ痛でででででで⁉︎………あ、そうだキャシー、高飛び込みやりてえから後でお前さん伸び上がって、お前さんの頭から飛び込ましてくれよ‼︎新技見してやっから、ウケるぜこれ五回転半だぞ五回転半‼︎」

「……痛みと状況を三秒位で忘れているんではないですか?この急激な話題の飛び方は」

 

……やはり馬鹿だな、この男は…………

 

フン、と鼻を鳴らして、キャシーは返事を返した。

 

 

「グルゥゥゥアァ…グァウ(勝手にするがいい、中村よ)」

 

 

 

「『好きにしろ』ってよ!よしぷりん、スカイラブハリケーンツイスターだ‼︎」

「リョーカイ……どんな技かは知らないケド、適当にフィーリングで合わせル」

「なぁ本当にあの飛竜(ワイバーン)は了解してんのカ?今の唸り声お前を尻尾で弾き飛ばした時との差が解んねえんだケド?」

「というか適当にフィーリングで合わせて上手く行くのでござるか、スカイ何たらとかいう五回転半するらしき大技は?」

「楓さん、ツッコむべき所はそこでは無いです‼︎」

「とイウカ、言動全てがツッコミの対象ですヨネー」

「すぁよちゅわーん‼︎三人連携やるー?」

『ええ⁉︎ええっと、どうすればいいんでしょうか‼︎』

「やめてください変態先輩、常識人枠筆頭のさよさんを汚染しようとするのは」

「ンんだとゴルァァァァァァァッ⁉︎」

「……唐突にマジ切れ……ふふDV夫婦」

「「黙りやがれ(なさいです)下ネタ担当幼女‼︎」」

「……息がぴったりでござるなあ」

 

……ああ、本当に喧しい…………

 

キャシーは鰐の様な口元で緩やかな弧を描きながら、磨かれて一層鮮やかな朱色の澄んだ輝きを放つようになった己が鱗にしがみつき、頭の後ろに半透明の幼女を引っ付けてロッククライミングならぬスケイルクライミングを始めた馬鹿な男の飛び込み台になってやる為に、身体をゆっくりと上方へ伸び上がらせた。

 

 

 

「キィエェェェェェェェェェェェェッッ‼︎‼︎」

「イェーーイ……」

 

テンションに落差のありすぎる掛け声と共に、手を繋いでキャシーの頭から並んで飛び降り、途中で逆さになりつつ抱き合いながら回転して。水面が迫ると体勢を変え足の裏と裏を合わせて、お互い逆方向の斜め上に跳躍。結果空中にハートの形を己が身体により緩やかな放物線で描きながら再び着水寸前に合流し、抱き合いながら中村とぷりんが巨大な水柱を上げる。

 

『わぁぁぁぁ………‼︎凄いです中村さん、ぷりんさん‼︎』

「確かに凄えけど何で打ち合わせも無しにフィーリングで合わせてこんな複雑な連携が出来んダヨ」

「もう以心伝心とかいう域を越えてますヨネー」

「……というかこれ、描いたハートの形を最後に水柱で二つ割っているからlove()というよりはheartbreak(失恋)でござるな」

「……いえもうツッコミは意味を成さないでしょうから何も言いませんが…………」

 

夕映は身体から力を抜き、(或いは抜けて)水面に仰向けになって浮かびながら、横目で犬神家‼︎等と叫びながら水中で逆立ちになり水面からガニ股の両足を突き出している変態(馬鹿)をボンヤリと見る。

 

…………本当に、何ででしょうか…………

 

「……何であの男なのでしょうか…………」

 

「言ってしまえば、きっかけは吊り橋効果でござろうなあ」

『うーん、中村さんは普段楽しくおちゃらけてくれる人ですけど、いざという時に凄く頼もしいじゃないですか。ぎゃっぷ萌え、っていう奴だと思います!』

「さよ殿さよ殿、萌えは必要無いでござるよ」

「ゴボォッ⁉︎」

 

しみじみと呟いた1独り言に複数の返事が返って来て、驚いた夕映はバランスを崩してしこたま水を呑み込んだ。

 

「ゲッホゲホゲホ‼︎」

『夕映さん、大丈夫ですか?』

「リーダー、驚き過ぎでござるよ」

 

心配そうに夕映の半身を(騒霊現象(ポルターガイスト)によって)引き起こすさよと、あいあいと背中を摩る楓の二人を軽く睨みながらも夕映は何とか落ち着きを取り戻し、聞き捨てならない先程の言葉の意味を問い質す。

 

「……先刻のあれはどういう意味ですか?」

『え?中村さんを夕映さんが好きになった理由、ですよね』

「リーダーは些か素直で無いので照れているでござるよ、さよ殿」

「待って下さい」

 

夕映は堪らず二人の言葉を押し留める。

 

「リーダー…いや夕映殿。些か以上に往生際が悪いでござるよ?」

「楓さん……いえ、まああれです。流石に私があの人を憎からず思っているのは認めましょう。ですが私のそれ(・・)は何と言いますか、お二人のそれとは違うのです」

 

夕映は懸命に抗弁した。少々以上に捻くれている己の気質があるがままを素直に認めようとしない所為も確かにあったが、それ以上に夕映は本気でよく解らなかったのだ。

 

「私が好ましく思うのは、知的で真面目な落ち着いた人間です。自己分析では、懐いていたお祖父様の影響を多分に受けているのだろうと判断しています。…故に年頃の思春期女子にありがちな父性や家族愛と恋愛感情の混同を視野に入れたとしても、余りに中村先輩は私の好みから掛け離れているのです」

 

それに、と夕映は心の中だけで続く言葉を紡ぐ。

 

……私はさよさんの様に純粋な好意をぶつけられませんし、楓さんの様に共通して打ち込んでいるものが有る故の共感、親近感を持ち合わせていません………

 

問題行為云々の追求はさて置いて、夕映は中村の人格を好ましくは思っているのだ、奔放で助平だが面倒見が良く、女性や子供に対しては器の大きさを見せる中村の本質を。

しかし、幾ら普段の言動の大半が巫山戯ているとはいえ、口を開けば出てくるのは憎まれ口ばかり。中村は気にしていない所か時折喜んでいたりもするが、明らかに言い過ぎていた場合も一度や二度では無いのである。

だから夕映は思うのだ。そんな自分がもし本当に中村の事を好きなのだとしても、愛されるべきに相応しい者は他に居るだろう、と。

考えていて何やら暗鬱な気分になって来た己が内心をおくびにも出さずに、夕映は話を纏めようとする。

 

「ですから、私は……わひゃっ⁉︎」

「んー………肌触りは良シ……」

 

しかし、何時の間にか足下から接近していたぷりんが水中に沈む夕映の下半身全体を撫で摩る様にしながら夕映の前にポチャリと浮き上がる。

 

「……ぷりんさん、私は今大事な話を……」

「ん、聞いてタ。………夕映っちの話は、前提が違ウ……」

 

眉根を吊り上げて苦言を述べようとした夕映の言葉を遮り、ぷりんは告げる。

 

「は?」

「……中村を好きになったナラ、中村 達也が夕映っちの好きなタイプ。好きなのかどうかで悩んでるなら……ふふ、悩んでる時点で、惹かれてる証拠……」

「……なっ⁉︎」

 

何を言うかこの不思議ちゃんは、と夕映はぷりんの両頬を手で挟み込んで持ち上げるが、ぷりんは気にした様子も無くコンビッニッはー♬、と何やら歌を歌い始めた。

 

『…ぷっ!ふふふっ…………‼︎』

「はっはっはっ…真理らしき一言を貰ったでござるな、夕映殿」

「何処がですか⁉︎」

 

真剣を通り越して必死そうに見える夕映と無表情ながらお気楽さの漂うぷりんの、余りに落差がある雰囲気の違いが何ともシュールで、まずさよが吹き出し、楓も愉快そうに笑いながらツッコミを入れた。

 

「……ともあれ難しく考え過ぎない、好きなら好きでいいじゃない。恋は盲目、命短し恋せよ乙女」

「……そうして思考停止するのは愚かな事と理解(わか)っていますか?」

「好〜きなモンはしょ、うが、ねぇ♬」

「ネタに走らないで聞きなさいです!」

 

あくまでも真顔でボケに走るぷりんに堪らず夕映の怒号が突き刺さった。

 

 

「何なのですか、本当に………」

「まあまあ夕映殿、焦らずじっくりと、されど思い詰め過ぎずに考えてみれば良いでござるよ」

 

一通り水遊びを満喫し終わり、よっしゃあアイス喰いに行こーぜっ‼︎という中村の鶴の一声によって一同撤収準備を始めている中、夕映は慣れない恋話?からぐったりと憔悴しているのを楓に励まされていた。夕映の苦悩を余所に中村とスライム三人娘、さよ達は相も変わらず元気に騒いでいた。

 

「ところでアイスって燃えんのかな、ガソリンでも掛けりゃいいのか?」

「ガソリン掛けたモン食わせようとすんなよボケ」

『中村さん……やっぱりそこまでしていただかなくても…………』

「なに言ってるの、皆でスイーツを食べに行くってのに一人だけ食べられないなんて何のイジメよ!あたしは絶対にそんな陰険な真似許さないんだからね‼︎」

「何でカマ言葉ですカ」

「……お供え物…………?」

「おおっ珍しく真面な意見その卑猥な口から出すじゃねえかぷりん‼︎でもあれって墓に供えりゃいいのかねえ……埒があかねえから(はじめ)ちゃんの嫁に聞くか、今日は二人して昼まで寝てねえ筈だし」

「アレ?お二人はもうそんな関係でしたカ?」

「間違い無えだろ、こないだ二人でヤってる声の最後辺りが聞こえたし。危うく真っ二つにされる所だったぜ、頭蓋骨を頭に仕込んでおかねば死んでいたな‼︎」

『用意周到ですね、中村さん‼︎』

「ツッコミ不在って怖ーナァ……」

「ツッコミ不在……百合?」

 

……こちらの気も知らないで…………

 

はぁ、と溜息を洩らす夕映。そりゃあ惚れた腫れたはこちらの都合である以上、想いを告げる所か好意が確定してすらいないのにあちらに気を遣えなど、単なる暴論でしか無いと夕映も解っている。解ってはいるが理屈で感情を抑えられるなら世の中戦争が起こったりはしないのである。

 

「まあ夕映殿、愚痴っていても始まらないでござるよ。居辛くなったので無いなら合流しようでござらぬか」

「……そうですね………」

 

着替え終えた二人は騒ぐ中村達に向かって歩き出す。

 

「…楓さんは余裕ですね。私の事情は一旦棚上げするとして羨ましいです」

「なに、拙者もまた悩める一人の女でござるよ。産まれてこの方修業の他碌にしなことも無い田舎娘は他にやり方を知らんでござるからなぁ…」

 

羨望の眼差しで楓を見る夕映に、楓は意外な答えを返した。

 

「拙者もあまり夕映殿の事は言えぬ身、益荒男(強い男)は好きでござるが、それは恋愛対象に向けるべき好き(・・)なのか?と問われれば答えに窮する、というのが本音でござる。……一先ず拙者は現在(いま)の時を充実して過ごしている故に、今はこの関係で満足しているのでござるよ」

 

先の事は先で考えるでござる、と笑う楓を見て、夕映は一つ肩の荷が下りたような感じを覚える。

 

「…そうですね……考えてみれば今直ぐ解明しなければどうにかなってしまう、という類の話でもありませんでした……」

 

夕映はふ、と一つ息を吐いて、両肩と首に幼女三人を乗せ幽霊を引き連れる人誑かし(中村)の元へ歩み寄る。

 

「解ってんだろーな中村、ミネラルウォーター俺ら三人合わせて60ℓだかんナ」

「わーってるっつーの、でも身体の水分入れ替える前にお前らもアイス食えよ、確か一応味覚あんだろ?」

「なに食べても美味しく感じるバカ舌ですけどネー」

『お、美味しいんでしたらいいんじゃないでしょうか?』

「さよちゃんが真理を言ったぜ!そうだよ食物なんざ美味けりゃいんだ美味けりゃ」

「アイス……幼女…………おまわりさーん……」

「止めい‼︎広域指導員のゴリラや眼鏡なら兎も角、幼女の悲鳴を聞き付けて糞塵変態(只野)が現れたらどうする‼︎今日を最後に俺ぁ少年院に行っちまうぞ‼︎」

 

「馬鹿なことを言っていないで早く行くですよ」

 

疲れもせずにテンションの高い中村一同の隣に並び、夕映はグダグダな空気を纏めに掛かる。

 

「それで、さよさんのアイスはどうにかなるのですか?」

(はじめ)ちゃんに嫁連れてアイス屋に来させる事にしたからなんとかなんべ。あ、そうだキャシー‼︎後でお前にも特大アイス玉買って来っから何時もの場所に居ろよー‼︎」

「ゴァァァァ…………」

「……因みになんと?」

「『はいはい』的な感じ?一応食ってくれるみてえよ、火竜ってアイス食えんだなぁ。つーか夕映っち元気無えけどどうしたよ、泳ぎ疲れたそれとも冷えた?生理不順になっちまうから常備してる漢方薬でもアウチ⁉︎」

「流石にデリカシーに配慮しろです……本当に人の気も知らないで…………」

「ほえ?」

「なんでもないです、行きましょう中村先輩。こうなれば兼ねてから挑戦しようと考えていた世界10大珍味の十段重ねアイスを奢って貰うです」

「……奢んのは勿論いいけどよ。夕映っちそれ本当に美味そうな訳?」

「ええ、確かラインナップはハウカットル、セビチェ、スティンクヘッド、ホンオ・フェ、シュールストレミングの魚介臭系コースを上段に、茶外茶、コピルアック、ルーテフィスク、カース・マルツゥにサルミアッキをトドメにしたデザート系コースが下段の筈です」

「聞き覚えのある奴だけでも世界一臭い缶詰が入ってんじゃねーか‼︎夕映っち、言いたか無えけど最近単なる変なジュース好きからゲテモノ好きにランクアップしてね?」

「失礼な…………‼︎」

 

 

ワイワイと賑やかな一行を、何処か穏やかな眼で飛竜が見送っていた。

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。はい、もう中村が悪目立ちし過ぎで恋愛話じゃありませんね笑)まあそれでもバカレンジャー中最多フラグを立てている馬鹿ですが本人は鈍感?です。報われない感じも微妙に漂っていますが、女の子に対する扱いはきちんと出来る男なので大丈夫でしょう。……因みにハーレム化か否かは未確定です、中村の甲斐性次第ですねえ。それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。…………本編は今しばらくお待ちを‼︎

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