お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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お待たせ致しました。少し短めですが、戦闘パートを次話に残して中村編です。


16話 まほら武道会本選第3試合 中村VS楓 (その1)

『 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様

若葉青葉の候、試合の終わった現在、どのようなお気持ちでいらっしゃるでしょうか?

……と、堅苦しい挨拶はここまでにしてエヴァさん、貴女がこうしてこの手紙を読んでいるという事は、僕は死に掛けているか再起不能な状態か、まあ碌でもない状態でベッドに横たわってでもいるかと思われます。本当はこんな手紙でなく自分の口で伝えたかった事ではあるのですが、貴女に勝たねば吐く資格の無い言葉であると僕は思うが故に、この手紙を茶々丸ちゃんに託しました。

まず僕がこの様な有様になった事に関してはどうか責任を感じる事などありませんよう。僕は自分の意志で命を張り、代償を支払って勝負に挑みました。貴女がこの勝負に人生を賭けてくれていた様に、僕も人生を賭けて勝ちに行ったのです。もしこの勝負の後僕の身体に障害が残るか、あるいはもし死んでしまったのだとしても、その全責任は僕にあります。貴女に責任を被せる事も恨みに思うこともしませんし、周りにも何も言わせません。

そしてエヴァさん。こうして貴女が手紙を読んでいるということは、僕は貴女に勝ったということです。単刀直入に問いますが、貴女は僕を受け入れてくれるでしょうか?

貴女が未だに吹っ切れていないのは理解していますし、またそれを情けないとか見苦しいなどと思いはしません。

ただ僕は待たせはしませんし、貴女を置いて行きもしません。

…前の男を下げ連ねて比較する様な言い方は少し卑怯かもしれないですが、僕の偽らざる本心です。

僕は久遠の時を生きる貴女に、生涯寄り添って生きていきたいと考えています。あの時の言葉は、今でも偽らざる本心です。

…以上が、僕が貴女に告げられる言葉の全てです。言葉に出来ない想いの全ては、きっと試合にて僕は貴女に伝えられていると僕は僕を信じます。

エヴァさん、貴女が決めて下さい。僕を受け入れるか、入れないか。もし受け入れてくれなかったとしても、僕は貴女を恨みません。ナギ・スプリングフィールドに一人の男として負けたのだと、無念ですがそう受け入れて僕は生きて行きます故。

願わくば、目覚めた時に貴女が隣に居る事を望みます。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

僕は貴女を愛しています。

時節柄、御自愛専一にてお願い申し上げます。

山下 慶一』

 

〜山下 慶一がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルへ宛てた恋文〜

 

 

 

 

 

 

「くぉんのブァカタレがぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎‼︎」

「ブハァッ!?」

 

中村が助走を付けた全力疾走の後に繰り出したアックスボンバーが豪徳寺に羽交い締めにされた山下の顔面を直撃した。

 

「よし、代われ中村。次は俺がウェスタン・ラリアートをくれてやる」

「どうせならク◯ス・ボンバーにしようぜ俺押さえてるだけだしよ」

「採用ー」

 

「いやちょっと待った待って!?事前に何の相談もしなかったのは悪かったけど幾ら何でも復活したての僕にこの所業は無くない!?」

 

ジッタバッタと暴れながら山下が悲痛な声で抗議するが、バカレンジャー一同はギロリと殺気立った視線を返して一斉に怒りの声を上げる。

 

「五月蝿えボケナスがもう不死身になったんだからサンドバッグと化そうが屁でもねえだろがぁ‼︎」

「死に掛けたと思ったら勝手に人間辞めやがっててめえ一人で突っ走ってんじゃねえよ一言相談しやがれオラァ‼︎」

「貴様が決めた事ならば無碍に反対などせんわ俺達は‼︎どれだけの付き合いだと思っている水臭いのだ愚蠢(ユイチュン)が‼︎」

「ギャァァァァァッ!?」

 

ガッシャーン‼︎と大豪院&豪徳寺による覆面狩りダブルラリアートを喰らって断末魔の声を上げる山下。

 

「ちょっ……!?本気でヤバいマジでマジで‼︎つ、辻‼︎辻助けてちょっと不死者になったのにいきなり殺される!?!?」

 

山下は震える手を車椅子に座ったまま苦笑を浮かべて一連の光景を見ていた辻に伸ばすが、辻はヒラヒラと手を横に振って素気無く助けを求める山下を見捨てに掛かり、

 

「悪い山ちゃん。俺はお前をどうこう言える立場じゃ無いし気持ちは解るから助けてやりたいとは思うんだが……」

 

チラリと殺意の波動を浮かべる他三人を見やってから爽やかな笑顔と共に言い放った。

 

「うん、止めたら俺が何されるかわからないから無理だ。耐えてくれ山ちゃん」

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

「うーしいくぞ次は3D(ダッドリー デス ドロップ)だ、コーナーの代わりに豪徳寺な」

「うし」

「行くぞ」

 

憤怒と絶望の声を上げる山下を中村が抱え上げ、下手をしなくともマット上以外で決めれば人が死ぬ殺陣技の構えに入った。

 

 

「イーノカヨゴ主人、旦那ガ死ヌゼ?」

「旦那は止めろ旦那は、小っ恥ずかしい」

「マスター、セカンドマスターが危険です」

「茶々丸……いや、まあそうするつもりだが………」

 

「うわーデレた。あの闇の福音(ダーク エヴァンジェル)がデレたよマジで。…ひょっとしなくとも歴史的瞬間なんじゃねえのこれ?」

「離しなさい篠村、愛衣!如何に親しい間柄でも人から夜の眷族(ミディアン)へ成り変わる等魔法使いの端くれとして放っておける訳が無いでしょう!?然るべき所へ報告し、然るべき処罰を受けるべきなのよ‼︎」

「そ、それじゃ山下先輩処刑されちゃいますよ〜!?見過ごせないのは解りますけどもう少し落ち着いてから……!」

 

「いや、この一件は学園上層部に報告する。最早個人の間で済ませて良い話では無いからな」

 

そして廊下の傍では山下を拘束せんと突っ込んで行こうとする高音を篠村が羽交い締めにし、正面から愛衣が腰の辺りに抱き着いて阻止している。魔法世界に於いて吸血鬼とは名目上亜人の(カテゴリー)に収まるが、他者の血を吸い害を為すとされる性質上、実際の扱いは殆ど怪物、魔獣の類(モンスター)と変わりない。立派な魔法組織である関東魔法協会の総本山たる麻帆良学園都市の魔法使い達に話が一気に出回ってしまえば最悪私刑が執行される可能性も無いではない為、篠村や愛衣が高音に待ったを掛けるのもある種当然ではある。

しかし、この所見る機会の増えた顰めっ面を更に歪めた杜崎は、事態を余す所無く上に伝える旨を宣言した。

 

「……杜崎先生、立場上その判断は当然の事とは私も思いますが………」

「皆まで言うな桜咲。俺とてそこの大阿呆には拳骨をダース単位でくれてやりたくともこの世から消えて欲しい訳では無い。しかしこんなものは隠し通そうとして隠し通せる訳も無いのだ」

「そういうことだね」

 

車椅子から上体を僅かに乗り出して何事かを発言しようとする刹那を杜崎が遮り、苦笑いを浮かべながら高畑が続く。

 

「エヴァ……いや、エヴァンジェリンは良くも悪くも半ば伝説と化している吸血鬼なんだ。魔法組織(僕ら)の元へ着いて十五年、賞金も取消されたとはいえ、見ている人達はまだまだ彼女に注目している。…そんな彼女が賞金首時代にも行わなかった眷族作り(・・・)を行ったんだ、麻帆良に留まらず本国(・・)にまでこの話は報告せざるを得ないだろうね………」

 

「た、タカミチ……それじゃ山下さんは………!」

 

話を聞いていたネギが顔を青褪めさせながらその()を尋ねるが、話の当人である山下は豪徳寺にギロチンチョークを喰らって青白い顔をしながらも笑って口を挟んだ。

 

「もし処刑だの禁固刑だの話が物騒になったらエヴァさんと逃げるよ僕は。エヴァさんもそれを覚悟で僕を受け入れてくれたんでしょ?」

「……そ「そんな真似はさせるか、この女には暴力沙汰以外の方法でたっぷり灸を据えてやる」……!」

 

言葉を口にした直後に目を吊り上げた中村も加わってのツープラトンブレーンバスターを喰らって轟音と共に沈黙した山下にエヴァンジェリンが一瞬躊躇った後に開いた口を、素早く言葉を紡いだ杜崎が遮った。

 

「いい歳をして面倒臭い恋慕の情拗らせて若者に無茶をさせた責任の一端は貴様にあるぞ吸血鬼。都合が悪くなったから逃げ出すなど今更此方が許すと思うな。先ずは貴様は学園長の元で絞られて来るがいい、我々はどれほど手間が掛かっても貴様には諸々の騒ぎの尻拭いを過激(・・)で無い普通のやり方でさせてみせる。……日陰者だ悪者だと開き直る様な真っ当でない道を連れ合いに歩ませるなよ、依然としてそこの大馬鹿(山下 慶一)には未来がある。此奴と結ばれた以上は貴様にも(・・・・)だ。色々台無しな真似は上に取らせん、だから貴様も偶には踏ん張って堪えてみせろ……当然貴様にも処罰は下るぞ山下ぁ‼︎残りの学祭期間中どころか暫くは説教と調書と反省文と労働で日々が埋まると思っておけ‼︎‼︎」

 

「……ああ、解ったよゴリラ教師」

「……承知しました…………」

 

エヴァンジェリンは言葉を受けて一度目を閉じ、神妙な顔で頷いた。山下もまた、一旦拘束を解いた中村の間から身体を起こして、深く頭を下げる。

 

「…じゃあ僕達は一度報告と今後の対応の為に学園長の所へ行って来るよ。エヴァンジェリン、一緒に来てもらうよ。そして山下君、こうなった以上は君も試合を棄権して一緒に来てもらう。何せ別の生き物に変わったばかりだ、身体に異常が無いかも検査しなければならないからね」

 

「解っている、何処へでも連れて行け。チャチャゼロ、茶々丸。供をしろ」

「アイヨゴ主人」

「かしこまりました」

 

エヴァンジェリンは抵抗すること無く高畑の言葉に応じると、山下の隣に立ち、そっと手を取りつつ苦笑と共に促した。

 

「付き合って貰うぞ慶一(・・)?何せ永い人生だ」

「勿論だよエヴァさん。何処までもついていくさ。……皆、悪いけど………」

 

「気にすんな、あんな優男は俺だけで充分だ」

 

中村達の方を振り向いて頭を下げる山下に、クウネルの初戦に於ける対戦相手の豪徳寺が笑って頷いた。

 

「正直まだまだ殴り足りねえがまあこってり絞られてくるみてえだし、今の所はこんぐらいで勘弁してやらあ」

「学園側がどうにもならず逃げる羽目になったならば顔を出せ。一発殴った上で逃亡補助に加担してやる。ほとぼりが冷めたらまた逢いに来るがいい」

「……まああれだ。お互い急に身を固める事になったけど、頑張っていこう山ちゃん。ネギ君達の面倒と大会は任せてくれよ」

 

笑って送り出すバカレンジャー達に続いて3ーA女子達や篠村達も声を掛け、すらむぃ達の転移(ゲート)によって山下とエヴァンジェリン、付き添い兼連行員の杜崎、高畑は学園長室へと送られていった。

 

 

 

「……今度は、今度こそ血生臭い事にはなんないわよね?」

 

不安わ隠しきれない様子で明日菜が観客席にて独り言の様にそう洩らした。

 

『さぁぁぁぁぁぁっ‼︎第一試合、第二試合と、凄惨という言葉が生温い様な凄まじい試合が行われ、選手は勿論闘技場に観客席から観客の皆様にまで被害が行くような危険度MAXな試合運びでごさいましたが‼︎第三試合からはどのような試合となっていくのか、正直な話もう闘技場ぶっ壊すのもお互い死に掛けるのも無差別広範囲攻撃も無しな方向でお願いします選手の二人ぃぃぃぃぃっ!?』

 

あれよあれよという間に麻帆良建築部の残像が見える様な高速での修復作業により十五分弱で元通りとなった闘技場で朝倉が間もなく入場となる中村、楓に向けて大音量で叫び、何処か悲痛なものが篭ったその言葉に散々危ない目に遭った観客達は懲りずに湧いている。

そんな中登場する大会選手の殆どが知り合いと言っていい一行はとても朝倉の様子を他人事として笑えはしなかった。

 

「……大丈夫や明日菜〜。中村先輩のこと楓ちゃんが気になっとる言うてもあれはまだバトルジャンキーなそれ多分に含んでる思うし………」

「少なくとも殺し合いめいた真似にはならない、かと………」

「そ、そうだよねゆえ〜、毎回毎回、あんな事にはならない、よね〜………?」

「……そうねえ、流石にあんな試合が続いたら見ている方も心臓が保たないもの………」

 

明日菜の呟きに木乃香や夕映、のどかに千鶴も同意するが、その顔には一抹どころでは無い不安が見て取れる。二度ある事は三度あるでは無いが、赤の他人同士が争うので無い以上人と人との関係は何処でどう捩じくれるか解りはしないのである。

ましてや次の選手はあの中村であった。去り際に『これ以上問題を起こしたら冗談抜きで磨り潰すぞ』と般若と仁王が融合した様な顔の杜崎に脅されて、『大丈夫だ、問題無い』とドヤ顔で返していた中村なのである。人と成りをよく知る彼彼女らが不安に思うのも致し方ないことであった。

 

「ン~まあ大丈夫じゃないアルか?中村は馬鹿だけど残忍でも愉快犯でも無いアルよ。普通に全力で、真っ当に勝ちに行くだけだと思うアル」

「そういうこった。長瀬の方も人が出来てる、一線を越しちまう様な真似はしないだろうぜ」

「漸く真面に観戦が出来るという事だ。既に峠は越えている、俺達はまた何時の間にか消えているあの怪しげな男の撃破と、個々の目標達成だけを考えていれば良いのだ」

 

不穏な空気を払拭しようと古やバカレンジャー達は言葉を紡ぐ。

 

「仮に何か起こったとしても俺はもう知らねえからな、人の気もしらねえで戦闘狂共が勝手に殺し合ってやがれ、ケッ!」

「お、お兄様………」

「止めようとする度に邪魔をされて心配を無碍にされたから拗ねているのよ、そんな精神的幼児は放っておきなさい、愛衣」

 

『ネギ先生、中村さんと楓さんはどっちが強いんですか?』

「え。そ、そうですね……」

「まあどっちが有利て断言出来る程腕に差は無い、っちゅうことや相坂の姉ちゃん。そもそも戦闘のタイプが全然違う二人やからな、予想は見当もつかんのが正直な話や……」

「まあ、あの人外地味た旦那方の強さを良く知ってる身としては忍者の姉さんがやや分が悪いんじゃねえかと俺っちは見てるけどな」

 

各々が予想を語り合う中、いよいよ選手入場の時刻となり、先ずはゆったりとした足取りで一つの影が闘技場へと入って来る。

 

『それでは皆様、大変長らくお待たせしました、いよいよ選手入場となります‼︎先ずは麻帆良の類稀なる……って何だぁぁぁぁぁぁっ!?!?』

 

朝倉が紹介の途中で驚愕の悲鳴を上げた理由は入って来た人物?の姿形にあった。

 

「皆さんこんにちわ、お加減如何ですか?」

 

柔らかい声音でそう観客達へ呼び掛けるのは、白い風船の様な丸々とした柔らかそうなボディを持つ、洋梨型のロボットだった。某天才科学者の弟を持つ兄が作ったケア・ロボットのような外見を持つ風船ロボットだったが、球形の頭部から生えるオレンジ色の鶏冠めいた髪の毛が頗る違和感を見る者に叩き付けて来る。

 

「私の名前は……ナカマックス!貴方達の心と身体を……ケアしない‼︎野郎が怪我した?唾付けてすっこんでろ!心に傷?根性でどうにかせい‼︎女性の方はこのナカマックスがじっくりねっとりと入念なケアをーー」

 

最後まで言わせずに観客席から無数の投擲物がナカマックス?に降り注いだ。

 

「巫山戯んな中村このヤロー‼︎」「黙れ変態が、消えろ‼︎」「大体パクリじゃねえかその格好ー‼︎」「ここまでシリアスかつ緊迫したいい雰囲気だったのにぶち壊しにしてんじゃねぇぇぇぇ‼︎」

 

「皆さん、危険です。物を投げないでください。物を投げないでください。物を………喧しいわ空気が殺伐としてっから和ませてやろうとしたんだろがボケ共がぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

裂空掌ーー‼︎とナカマックス改め着ぐるみ着用の中村が観客席の四方八方へと気弾を飛ばし、観客達が逃げ惑う。朝倉はそんな光景を静かな瞳で観察していたが、軈てガックリと脱力して力無くマイクに声を通す。

 

『……あー色々キャラが濃過ぎる人格破綻者なんで気合入れて紹介文作ってましたが……中村 達也選手、変態で大の付く馬鹿です‼︎この一言で説明 は十二分と私考えを改めました‼︎』

 

「誰が馬鹿で変態じゃあ朝倉ぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

「「「「お前だよ‼︎‼︎」」」」

 

朝倉はおろか、観客席と選手席の辻達までもが声を揃えて断言した。

 

 

『……対するは長瀬 楓選手‼︎中学三年生という華の乙女な年頃でありながらその類稀なる体術とまるで忍者を思わせる摩訶不思議な力によって並み居る猛者を打ち倒して本選出場を果たしたその実力は本物です‼︎馬鹿VS忍者!どの様な闘い振りを我々に見せてくれるのかぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

「だから俺のキャッチフレーズを馬鹿で固定すんなやパパラッチ風情が!天才空手家とか超絶美形闘士とかもっと色々相応しいのがあんじゃろがい!?」

「朝倉殿、拙者忍者では無いでござるよ、ニンニン♫」

 

「……キャッチフレーズ通りの二人ねぇ…………」

 

先程迄の鬼気迫る握力を有していた面々が醸し出していたそれに比べてあまりにも気が抜けるその情景を見やりながら、明日菜が力無く洩らした溜息混じりの言葉に一同が無言で首肯する。

 

「……まあ二人共真剣に勝負をするのでしょうから気が抜ける、などという感想は失礼でしょうが……先程の二試合に比べれば心に余裕を持って見ていられそうですね」

 

冷ややかな視線を着ぐるみの頭から飛び出て綺麗な三回転半のトリプルアクセルを決めつつ闘技場にドヤ顔で降り立った中村へ向けながらも、表情とは裏腹に少し安心したような口調で夕映がそう口にする。

 

『中村さん、格好良い所を見せてくれるらしいですよ夕映さん!楽しみですね‼︎』

「あの人のセンスからして格好良い光景が本当に見られるかどうかには疑問を覚えますが……一体何を見せてくれるのか、という怖いもの見たさのような気持ちはありますね…」

 

「そうだそうだ、そんぐらいの気楽な気持ちで見てりゃ良いんだよ」

 

いかにもわかりやすく全身で私ワクワクしています、という身振り素振りを見せながら話し掛けて来るさよに対しての夕映の返答に豪徳寺がカラカラと笑いながら同意する。

 

「そうだな、勝った負けたで当人達の人生がどうにかなる訳でも無い。ここから先は心情的に気楽なものだ」

 

「……まあお遊びじゃあ無えのは百も承知だけどよ。ならここからは本当に命の危険とかそういうのを心配せずにただ観戦してりゃいいってことだな?」

 

未だにブスッとした表情を浮かべていた篠村が大豪院の言葉に少し臍を緩めてそう尋ねる。それに対して豪徳寺と大豪院は笑顔で頷き、声を揃えてそう(・・)言い放ったのだった。

 

「ああその通りだ篠村、貴様にも随分と心労を掛けたな」

「もう大丈夫だ、安心して見てろ。ここから始まるのは気楽なーー」

 

「「普通の殺し合い(・・・・)に過ぎない(ねえ)からな」」

 

「「「「……………………は?…………」」」」

 

 

 

 

 

 

「……さって、随分と再戦が遅れちまったなぁ楓ちゃんよ?」

 

何時もの空手着姿となった中村がゴキリバキリと手足を鳴らしながら、不敵な笑みと共に楓へ告げる。

 

「修学旅行のホテルの一件以来…でござるか。それほど昔のことではないと言うのに、確かに久しぶりに感じるでござるなあ」

 

対する楓は彼女にとっての正装である忍者装束に身を包み、飄々とした普段の笑みで中村の重圧を受け流していた。

そんな楓を見つめる中村はふっと威圧感のある笑みを抑え、表情を若干柔らかいものに変えると再び楓に話し掛ける。

 

「楓ちゃんよ、一応確認しときてえが何処まで(・・・・)やる?」

 

一聞しただけでは謎めいて聞こえる中村のその問いに、しかし楓は若干意外そうに目を見開くと直ぐさま言葉を返す。

 

「これは異な事を問うでござるな、中村殿?全力(・・)で闘り合う以外に答えがあるのでござるか?」

 

楓の答えに、中村は破顔する。

 

「はっはー、だよなぁ‼︎……楓ちゃんならそう言ってくれると思ってたぜ」

「あまり見くびらないでほしいでござるな中村殿。拙者一人の武人として此処に立っている以上、情け容赦も遠慮も無用でござる」

「ん、OKOK悪かった。…んじゃ明らかに戦闘不能っぽいなら止めは無しで」

「ああ、それ位が丁度良いでござるな」

 

はっはっは!と快活に物騒なことを宣っている中村と楓に、再び嫌な予感がこみ上げてきたらしい朝倉が恐る恐る話し掛ける。

 

「……ねえ二人共さ、前の辻先輩桜咲や山下先輩みたいな無茶しないわよね?いくらなんでもあんたたちは大丈夫よね?」

 

朝倉の言葉に顔を見合わせた二人は、直後に爽やかな笑みを浮かべて朝倉の心配を一蹴する。

 

「HAHAHA安心せいや朝倉!いくら何でもでもあそこ迄の無茶はしねえよ‼︎」

「然り。あくまでこれは健全な決闘である故、心配は無用でござるよ」

「本っ当でしょうね!?もう爆発も烈断も私は御免だからね‼︎」

 

朝倉は目を吊り上げて念を押した後仕事モードに入り、マイクで観客席へと呼び掛ける。

 

『それでは皆様!間も無く第三試合、中村 達也VS長瀬 楓の試合を開始致します‼︎』

 

「心配すんな、朝倉」

「で、ござるな、中村殿。何せ……」

 

「最悪不幸にも打ち所が悪ければ死人が出る、ってだけの話だしな」

「殺す気は無くとも殺る気でいかねば真剣勝負など茶番に成り下がるでござるからなぁ」

 

クツクツと笑い合った二人は構えを取り、試合開始位置にて向かい合う。

 

『試合、開始ィッ‼︎‼︎』

 

「行くでござるよ、中村殿‼︎」

「来いやぁ楓ちゃん‼︎」

 

 

試合開始直後に音も無く四人(・・)に分裂した楓()と、矢の様な速度で踏み込んだ中村が正面からぶつかり合った。

 

 

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。
今回は大した見せ場もありませんが、後半は辻達バカレンジャーというか武道家は普通の基準がそもそもおかしいというお話でしょうか?普段から殺し合いの様な訓練やってますので、明らかに此処で追撃したら死ぬ、というレベルや、下手をしなくともこれを打ったら相手は絶対に死ぬ、というレベルの攻撃を出さない他は辻達の訓練は殺し合いと変わりません。因みに第一、二試合はそれすら守られているか怪しかったのでバカレンジャーも緊迫してました。山下なんか自分から死にに行きましたし笑)
と、いう訳で緊迫はせずとも血生臭さは抜けそうにない麻帆良武道会本選はこれからも続きます。次回で中村達は決着ついて、いよいよクウネルとバカレンジャー豪徳寺の試合です。豪徳寺は漢気見せますのでお楽しみに。
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。

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