「ハハハハハハ!!流石は当学園一と謳われた
「何だかご機嫌ですね~超さん………?」
バン、バン!と両の掌で寄りかかっている机を勢い良く叩き鳴らしながら笑声を洩らす超の此れまでに無いテンションの上がり様に面食らった様子で、斜向かいにて機材と睨み合いながら作業を進めていた葉加瀬が声を掛ける。
「確かに
「ハハハ、葉加瀬済まないネ。全く以ってその通りダ、暢気に笑い転げてル場合でも暇も無イ。……しかし如何にも感慨深い、では無いが、其れに近い感情がジワジワと込み上げてくるものでネ」
超は目尻に滲んだ涙を拭って一先ず笑いの衝動を抑えこむと一つ息を吐き、しみじみとした調子で言葉を紡ぎ出す。
「……私が念願成就の為に
だが、と、超の口元に浮かべる笑みが何処か淡いものに変わる。
「あの馬鹿としか言い様の無い途轍もなく馬鹿なノリの馬鹿達は、見ていてとても楽しかたのダ、葉加瀬。そして多少なれどそんな馬鹿の輪に加われて、私は焦燥に駆られ余裕の無かた自分を自覚出来た気がするのダ。……こうして
「……そうですね。超さん、随分明るくなりましたものね~………」
そう語られれば思う所もある、と葉加瀬はこの数年を思い返した。
「…大豪院さんや古菲さんに絡んでいる時が最もはっちゃけてた気がしますけど?」
「そうかネ?勿論葉加瀬や他の皆との日々も良い思い出ヨ」
コロコロと軽快に笑いながら超はデスク上のタブレットを拾い上げ、軽快に指を滑らせ始める。
「ナニ、心配する事は無いヨ葉加瀬。想定外は多かれど致命的な支障は及び得ない。大会がどういう結果に終われど、身内相手であろうと手加減も妥協も無しに闘い抜ける武道家達の
「……まあ、私もそこまで慌ててはいませんでしたけどね。エヴァンジェリンやクウネル?さんの一件は兎も角、ネギ先生に実力が備わるのは悪い事じゃないんでしょうし……」
「実力というよりは覚悟の練成カネ?生半な実力よりも容赦無く闘える気構えとは余程身に付け難いと聞いてル。倫理観等諸々の常識を考えないなら、良い師なのだろネ、ポチ達は」
サテ、と前置きして超は手に持つタブレットの操作をひと段落させ、目の前のモニターに視線を移す。
「次は魔法教師と魔法生徒の対決ダ。予選の様に派手にやってくれないカネ?」
「高音さんでしたっけ?真面目そうな人なのに服の趣味が何だかアレですよね~。魔法も何だか派手派手ですし、虚栄願望とか密かにあるんですかね?」
「……クシュン!!」
「お、お姉様、大丈夫ですか!?さっきはクウネルさんの魔法で雨なんて降っちゃいましたし御風邪でも召されたんじゃ………!」
何処かの誰かによる不名誉な噂の
所為か否か、上品に口元を押さえながらも盛大なクシャミを洩らした高音の調子を傍らの愛衣が心配そうに気遣う。
「大丈夫よ、愛衣。体調が悪い訳では無いから…それよりも…………」
スン、と可愛らしく鼻を一つ鳴らしながら愛衣を制した高音は、呆れた様に目を細めつつ眼前の
『だから何度も言うようにだね杜崎先生!!貴方に全責任がある等と無茶を言う気は毛頭無いし、寧ろ普段からあの
「ええ、ですから此方も同じ台詞を繰り返すことになり恐縮ですがねガンドルフィーニ先生。
「糞ゴリラが純真なる少年の為に奔走した俺様達によもやの鉄拳制裁なぞかましよって、この中村様の天才的頭脳の脳細胞様が死滅したらどうすんだよチクショァ!?」
「貴様の脳細胞なぞ挙って死に絶えようが思考レベルは今と同レベルだろうが。罷り間違ってそのまま自然回復すれば賢くなるやもしれんぞ、一度徹底的に潰してみろ」
「くっそ危うく神楽坂ちゃんにも殺されかけたのにその上拳骨とか……あ、あと中村。様は二度使うなよ唯でさえ頭悪い印象しか無いんだから」
「どうでもいいっつーの辻……俺は仮にも怪我人だぞ杜崎の野郎情け容赦の欠片も無え………!」
「下手をしなくともそれより重傷で殴り転がされた事が俺達は全員あるだろうが。今更ブチブチ文句を垂れるな豪徳寺」
「そんなもん程度の差はあれお前ら全員本来なら病院送りが暫当だろうがさっさと病院行きやがれ人外共が………畜生、理不尽だ理不尽に過ぎる……!死ぬ程痛ぇというか頭がクラックラする俺は仮にも次試合あんだぞ………!?」
「……どうすればいいんでしょうか、お姉様………?」
「……まあ概ね自業自得、としか言い様が無いのではないかしら?」
耳元で喧しくがなり立てる携帯を鬱陶し気に横目で見やりながら杜崎がウンザリした表情で返答を行う足下に於いて、頭部に大きな
「暫くそうして頭を冷やしていなさい篠村。みっともなく喚き散らしているけれど、貴方自分が大変な事をやらかした自覚が本当にあるのでしょうね?」
「だからあの弱味と人の情と油断にえげつなく漬け込む様な詰将棋コンボにゃ俺は不参加だって言ってんだろーが!?」
「あーテメェ責任逃れか篠っち!!」
「実際責任は無かろうに……」
いい加減にしろや!?と最早泣きそうになりながら喚く篠村を隣の中村が喧しく誹り立て、更に隣の辻が割れそうな頭の痛みに顔を顰めながらも取り成す。
「じゃっかあしゃあ血みどろリア充はだぁってろ!!実際まあ子供に教えるモンじゃ無え、って意見には全く以って反論の余地もねえ。だが俺達はそれでもネギきゅんを見込んでその心意気をだなぁ……」
「言うな馬鹿。杜崎教諭や高音女史の言う通り、俺達の指導は決して褒められた内容のものでは無い。叱責は元より承知の上だろう?…後の責任は全て請け負うと太鼓判を押した以上、言い訳をするべきではあるまい」
「……まあ結局ネギ先生もああしてお叱りを受けていますしね………」
ブチブチと尚も愚痴を垂れ流す中村を諌める大豪院の言葉に、拳骨を喰らっていないにもかかわらず律儀に辻の隣で正座しながら寄り添っていた刹那が苦笑して相槌を打った。
「アンタって奴は本当にもう……!!」
「あぶぶ……!で、でも明日菜さん、仕方なかったんですよ~!僕がタカミチに勝つには不意を討つしか……!!」
「その話は何回も聞いたし納得はしてないけど理解はしたわよ!!でも憧れの人目の前でズタボロにされて理性的な判断なんてもの
「うわーん!?」
「のどか。庇い立てをしてはいけませんよ、ネギ先生が中村先輩の様になってしまったら取り返しが付かないです」
「…う、うん~、それは、私もちょっと、じゃなく嫌だけど~……」
「ちょっとで無く絶対に御免アルよそんなのは」
「拙者個人的にはネギ坊主お見事、と言いたい所でござるが、まあ流石にあれが日常化するやもしれぬと考えれば教師の方等の反応も宜かるかな、と言わざるを得んでござるなあ」
「まあそないな殺伐したネギ君ウチもアレやけど……」
「…そうね、せめてネギ先生位はあんまり殺伐としていない方がいいと思うわ………」
「何でや?ええやんかアレで。お行儀良い道場拳法習っとっても実戦じゃ半分も力発揮できんのやから、ネギも
「そういう訳にもいかないんだなこれがよ。兄貴が一介の並魔法使いの出ならあまり五月蝿くも言われねえんだろうが、
明日菜の鬼の咆哮に涙目で弁明するネギの姿は中々に同情を惹くものではあったが、バカレンジャーの様なある種のどうしようもなさが移ってはかなわないと心を鬼にして見守る一行であった。
そんな一連の大騒ぎを見ていた杜崎は大きく一つ息を吐き、尚もがなり立てる向こうへと短く断って電話を切ってからバカレンジャー及び一行へと向き直る。
「まあ凡そ俺
そう告げると杜崎はもう戻っていいぞ、とバカレンジャーに告げ、のしのしと闘技場の入場口へ向かって歩き始める。その普段からすれば余りにも穏やかであっさりとした説教に中村達は面食らった様子で顔を見合わせるが、
「自分達のやった事を
「…っ!?、は、はい!!」
杜崎の捨て台詞になんとも言えない表情を揃って浮かべるバカレンジャーを余所に、言葉の終わりに脈絡も無く声を掛けられた高音が慌てて返事をすると、杜崎は歩みを止めず肩越しに高音を振り返りながら、そう言った。
「次の俺との試合だが………お前は
「……っつーか高音。真面目にやる気か?」
「主語を抜いて話すのは止めなさい篠村。なんの話かしら?」
「とぼけんな」
雷撃と爆風により何度目になるか解らない半壊と成り果てた闘技場であったが、「今年の祭りは
「まさかさっきの台詞を真に受けて本気で掛かっていったりはしないよな?あの人はちょっと熱に当てられてんだよ今。何だかんだであの人は武道馬鹿達と縁が深いし、高畑先生まであんな風になっちまったからヤケになってる…っつったら言い方悪いけど、ノセられてる感があるだけなんだよ。仕事優先、効率第一で行こうぜ、冷静に考えりゃ此処で魔法関係者同士が争う事にメリットデメリット以前な話で、意味なんか有りゃしねえって解るだろ?…お前に限って
「違うわ」
と、高音は篠村の言葉を途中で遮り、返答する。
「彼等は彼等、私には…私達には私達の立場と事情がある。私が思っていたよりも、ずっと重いものを背負って、重い覚悟で臨んでいた事に関しては、軽く見ていた事を申し訳なくは思うけれど、それと
「…考え直せ高音。そんな馬鹿正直に話を受け止めるな」
素っ気無く端的に言葉を切ってみせるその様は、言葉よりも雄弁に話は終わりだと告げていたが、尚も篠村は食い下がる。
「大会で行けるとこまで行け、ってのは俺等にだけ下された指示じゃ無え。お前の対戦相手の杜崎先生
「篠村」
今度こそ。
高音はその短い呼び掛けによって篠村の二の句を封じ込めた。
「解っているわ、貴方の言う事は最もな話よ。単に勝ち進んで注目を集めるだけならば私達よりも経験豊富で実力のある先生方にお任せした方が確実だものね。私達はあくまで組み合わせに難があったり、高畑先生や杜崎先生に他の指令が下された場合の保険要員、といった立場なのでしょう。…別に私はそんな扱いが不満な訳では無いわ。自身の分は弁えているつもりだもの……そうね、確かに杜崎先生の考えは理解できない。効率的でも無ければ意味があるとも思えないわ」
「……だったら…」
「でもね」
皆まで言わさずに高音は続けて言葉を紡ぐ。
「貴方も解っているでしょう?杜崎先生は一時の感情に流されて公私を混同しないし、私達の為にならない事をする人では無い。…きっと深い考えがあるんだわ。上からはっきりと指示を頂いていない以上は、私は試合に全力を尽くす。それだけよ」
言い切ると高音は篠村へ背を向け、選手の入場口へと歩き始める。篠村は何かを堪える様に顔を伏せ、ややあって遠ざかる高音へ叫ぶ様に言葉をぶつける。
「……そういうのを融通が効かねえって言うんだよ!義理を立てる所と糞真面目な性分発揮する場所が間違ってんだろうが!!なんで其処で態々キツイ方を選択すんだよ、いいじゃねえか妥協しても!?あっちだけがお前に怪我がありませんように、なんて気を使ってくれる訳じゃ無えんだぞ!こんな所で
「……なら、それでいいでしょう?」
篠村の言葉が途切れた拍子に高音はピタリと足を止め、振り向かぬままに抑えた様な低い声で返す。
「貴方がそう思うのなら思っていればいいわ。それが正かろうと、そうで無かろうと私は
「高音……!」
「貴方は!!」
堪え切れなくなった様に、何処か悲痛な響きを持った高音の叫びが篠村の言葉を掻き消す。
「貴方は何時もそうなのよ!!勝手に人の事を解った気になって、何時も勝手に行動して!私が心配してくれなんて貴方に頼んだ事がある!?……貴方の気遣いは、心配は!そうやって何時も、独り善がりな自己満足だわ!!」
「……っ………………!!」
篠村は高音の叫びに顔を歪ませ、強張る口元を動かし言葉を紡ごうとして。それは形にならずに力無く口を開閉するに留まった。
高音は細かく震える身体を強く己が両腕で掻き抱き、一瞬強く震えると、何事も無かったかの様に再び歩き出す。
「……御免なさい、言い過ぎたわ。でも篠村、私の事は放っておいて。…貴方は唯の、仕事上の
振り返らぬままに言い捨てると、高音は速い足取りで篠村の前から歩み去って行った。
「……だから仕事で口出してんじゃねえかよ………お前は今、絶対冷静じゃ無えよ、ムキになってる、だけなんだよ…………!」
篠村は力無く呟きながら片手で顔を覆い、天を仰ぐ。
「……成長して無えなあ…あいつも、俺も………………」
『さあさあ、まほら武道会一回戦も後半に差し掛かって参りました!第六試合、早々と入場を果たしガ◯ナ立ちにて待ち構えるは音に聞こえた麻帆良屈指の
生息のゴロツキ…もとい武道家達をボールの様にひしゃげさせ、吹き飛ばす!!その容赦無い制裁振りから一部の命知らず達からは類人猿教師との異名を冠する、デス眼鏡高畑先生と双璧を成す麻帆良広域指導員屈指の強者!…
『ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオォォォォォッッ!!』
「……後ほど貴様にも拳骨をくれてやる」
「いやいやいや、勘弁して下さいよ私はただ場を盛り上げようと……」
最早罵声と歓声が入り混じり過ぎて地鳴りの様にしか聞こえない音のうねりの中で、杜崎はガッシと腕を組んだ仁王立ちのままに朝倉を睨み付けた。
「……まあいい。お前を構っていられる程此方も余裕がある訳では無いしな」
「いやいや本当にお仕事お疲れ様です杜崎先生、大変ですねえ教師や広域指導員としての仕事もあるのにこんな所まで」
「
「…ねえなんか私に対しては言葉キツくない先生?」
「日頃の行いを省みろ」
短く言い捨ててから杜崎は一つ息を吐く。
「……俺はまだ二十七だぞ、小僧小娘共の青春劇にケチを付けに行く役割をこなすには手前の青い体験思い出に仕切れておらんというのに………」
「まあ真面目に大変ですよねぇあの先輩達の御相手は。こればっかりは皮肉で無く御愁傷様です本当に」
「……彼奴ら
「質は違えど馬鹿をやりたがらん生真面目連中までが馬鹿に影響されていてな。見習おうにも羽目の外し方が解らんので拗れている始末だ」
「生真面目連中って……ああ、はいはい。まあ前々から拗れてましたものねえ、高音さんと篠村先輩」
伊達に他者への探りを入れるのが習わしの報道部期待のホープなどと呼ばれていない朝倉は杜崎の言わんとする事を直ぐに察し、苦笑と共に言葉を紡ぐ。
「何であんなになってるのかご存知ですか杜崎先生?」
「大体の事情はな。しかしパパラッチに語る舌は持たん」
「あぁんいけずぅ〜…」
「いいからさっさと自分の仕事をしろ」
取り付く島も無い杜崎の態度に目が無い事を悟ってか、不満そうな表情を浮かべながらも続く選手の紹介に移る朝倉を横目に、杜崎は再度溜息を吐く。
「……やれやれ、この手の御節介など柄でないにも程がある………」
『さあ、続いてそんな麻帆良の
『ワアアァァァァァァァッッ!!』
「スタ◯ド使いじゃあぁぁぁぁっ!!」
「観測だ、観測を行えぇ!!あの謎の能力を何としても解き明かすのじゃあぁぁぁぁっ!!」
「……篠村…!本当に、覚えていなさい………!!」
先程の杜崎に対してとは異なる、何かヒーローショーを見ている子供が上げる様な期待と興奮に満ちた喝采、更には一部の研究者やらマニアやオタク達の上げる嬌声を一身に浴びた高音は、羞恥と憎悪により顔を真っ赤に染めつつ凄まじい形相を浮かべていた。
「おうおうてえした盛り上がりだな、っつーか高音ちゅわん凄え顔してんぜ」
「魔法使いから色モノ能力者へジョブチェンジされてしまったのが屈辱なんだろ、幾ら認識上の事だけとはいえ」
「そういった意味では貴様の所為だなあれは」
「五月蝿えよ関係無えだろがテメエ等にゃ畜生が……」
選手席にてそんな様子を見守りながら大豪院が篠村へと矛先を向けるが、篠村は不貞腐れるを通り越してやさぐれた様な形相で顔も向けずに切って捨てる。
「高音殿との話が拗れてえらく立腹でござるなぁ、篠村殿?」
「……聞いてやがったかよ………」
「あんなデカい声で言い争てれば私等やポチ達には普通に聞こえるアルよ」
「そーよそーよイカれで悪かったわね!!」
「五月蝿え変態が、殴らば殴れ。俺ぁ発言を撤回するつもりは無えからな、この際だからはっきり言わせてもらうがテメエら全員どっかおかしいんだよ」
甲高い声で不気味にクネクネとくねりながら中村が叩き付けた文句に半ばヤケクソ気味に言葉を返すと、篠村はバカレンジャーイチ欠け(説教が終わったので豪徳寺は医務室に叩き返された)及び楓達3ーA武闘派の面々をギロリと睨め付けた。
「たかが惚れた腫れたでリアルに鍔迫り合い起こして殺し合いなんぞ仕出かしやがって、見ているこっちの身になってみろってんだよ。尋常の勝負だ手を出すな、死ぬ事も武道家として覚悟の内だぁ?警備や戦争出てんならまだしもこれは単なる試合だろうが。常在戦場だか何だか知らねえが
吐き捨てる様に言葉を切ると文句あっかコラ?と半眼で各々にガンを付ける篠村だったが、
「うんうんそーねー、篠っちの言うこたぁ尤もだぁねぇ」
軽い口調の中村にあっさりと己が主張を肯定され、道端の糞でも踏ん付けたかの様に顔を顰めた。
「……何なんだよその軽いノリは…………」
「実際自覚はしてるんだよ、少なくとも
「常人の神経ではおおよそ辿り着けぬ境地を目指しているのだ、狂わねばやっていられぬよ。武道に限らず
辻が、大豪院が。何れも狂人呼ばわりに対して怒りも浮かべず、寧ろ穏やかとさえ言える表情で言葉を返す。
「なんつーかよ、イカれイカれと言うんならぶっちゃけ麻帆良の連中は半分くれえはイカれだぜ篠っち。何か知らねえが
「…そういうことが言いてえんじゃねえんだよ、俺は…」
軽い調子ながら何処か諭す様な中村の語り掛けに、しかし篠村は首を縦には振らない。
「……あいつさぁ……、…口ではあれこれ言うけど、本当の所はお前等を相当気にして、相当影響受けてんだよ」
「というと?」
「…あいつが杜崎先生の本気で来い発言に異を唱えなかったのはさ、上司命令だからってのと、本部から明確な指示が出なかったからってのの他に、お前等の事も理由の一つだと思うんだよ」
水を差し向ける辻のみで無く、その場に居るバカレンジャー全員に向けて篠村は語る。
「お前等が思っている以上にあいつはお前等を評価してるんだ。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの一件、京都の一件、悪魔共との一件。常に最前線でネギ先生や近衛ちゃん護り通して撃退して、結果出して見せたのはお前等だ。あいつは生真面目で割と思い詰める
「……まぁ、プライド高そうだもんなぁ、高音さん………」
「手柄だ出世だと功名心が強い様には感じねえから、先達としての自尊心や責任感が強いんだべ?ツンツンしてっけど面倒見は良さそだしよ」
「解らんでもない話だが……そんなものは比べるだけ意味のない話だろう。俺達は偶々荒事に関わる機会があったから注目されている、それだけの事だ」
大豪院の言葉に篠村は渋い表情で頷きを返した。
「まあ、そうだな。
『……あの〜、高音さんが杜崎先生に本気で挑むのが、何で高音さんが焦りを解消するって話になるんでしょうか……?
「ん?………ああ………」
尋ねてきたさよを始めとして、3ーAの幾人かが腑に落ちないといった表情を浮かべているのを見て、言葉足らずだったか、とひとりごちてから篠村は話を続ける。
「
「えらいざっくりと馬鹿にされたな………」
「虚仮にしてるつもりは無えよ、今言ってるのはいい意味での馬鹿だ。
ハアァ………と細く長い溜息を吐いた篠村は、ふと後ろに控えている筈の愛衣の存在に思い当たった。
……あいつが高音関連の話で口挟んでこねえなんざ珍しい通り越して何やら異常だが………
何かあったのかと背後を振り返った篠村は、すぐ側に居た愛衣を見て思わず上体を仰け反らせた。
愛衣は感極まったかの様に両手で紅潮した頬を押さえながら整った顔をくしゃくしゃに歪め、両の瞳からポロポロと大粒の涙を零していたのである。
「なんで号泣してんだよお前は!?」
「お゛兄様ぁ〜〜………!!」
ヒクヒクとしゃくり上げながら愛衣は得体の知れない様子にジリジリと後退する篠村へと詰め寄り、叫ぶ様に告げる。
「お兄様が、お兄様はあんな風にお姉様に拒絶なされたのに、こんなにもお姉様を心配していて下さったのですね!?私、二人の絆が別たれてしまったんじゃないかってずっと、不安で。…不安でぇ〜〜!!でもお兄様はそんな私の詰まらない心配を難無く吹き飛ばしてくれて!私、今本当に嬉しくて感動してるんです!!やっぱりお姉様の最大の理解者はお兄様なんですね!大丈夫ですお兄様ぁっ!!ここまでお兄様はお姉様の事を想ってるんですから、お姉様もきっと解ってくれますよ!!」
「とりあえず落ち着けお前は!!」
荒ぶる感情を抑え切れなくなったのか、両手を広げて突進してくる愛衣の顔面を引っ掴んで押し留めながら篠村は助けを求めて振り返るが、
「いや何つうかお前はもうアレじゃね?夫じゃね冗談抜きに」
「この聞いていて尻の穴がむず痒くなる様な面映ゆい語りは何処かで聞いたと思っていたが、あれだ。桜咲後輩について語る時の辻そっくりだな」
「待て。俺はこんなに相手を何もかも
「「新幹線内で京都へ向かう時の語りを思い返してからもう一度言ってみろ」」
「ハモりやがった!?」
「とりあえず高音に聞かれると先の言い合いを含めて俺が確殺されるから黙れお前等!!それから愛衣、さっきからお前はどういうテンションの跳ね上がり方だ引っ付いてくんなあぁぁぁぁっ!?」
「あの男は何を騒いで……………」
「…………ふっ…………………」
高音が闘技場内に足を踏み入れ、杜崎と対峙する傍らでギャアギャアと騒ぎ散らしている篠村を中心とした一行に、挨拶もそこそこに高音が渋い顔で悪態を吐く様子を、杜崎は思わずといった様子で溢れた笑みと共に細めた目で見やる。
「お前の事を心配しているのだろうよ、聞こえていたぞ。こういう揶揄いをお前が好かんのは知っているが、まるで痴話喧嘩だぞお前達の様子は」
「…………………………」
杜崎の言葉に高音は冗談じゃないと ばかりに顔を顰めるが、軽く噛み締められた口元から返しの言葉が放たれることは無かった。
「…なんだ?否定しないのか?俺が教師だからといって遠慮する必要は無いぞ。お前の悪態なぞよりあの馬鹿共の日頃の行いの方が万倍腹が立つからな」
「……勿論、肯定する訳ではありませんけれど。……醜態を晒した自覚は有りますから。ああまで端から聞いていれば思わせ振りな台詞を自分で口にしておいて、詮索するな……と言える程に私は自分を中心に世界が回っているとは思っていません」
「殊勝なことだ。……下衆の勘繰りはさて置き、良いコンビだとは思うがなお前達は」
「……それは違います、杜崎先生」
杜崎の言葉に、高音はそれまでの渋面をふと陰らせて返す。
「私達は息が合っているので無くて、篠村が私に合わせているだけなんです。…昔から、ずっとあの男はそうしてきました……これでも、少なくない割合で凭れかかっている自覚は有るんですよ?……」
「……ならば何故?」
「私が。…未熟だから、未だ子供のような意地を張っているからでしょうか…………」
言外に、ある程度お互いを認め合えているのなら、迷惑をお前が少なからず掛けている自覚があるのなら。お前達は何故そう啀み合っている?、と問い掛けた杜崎の疑問を正確に汲み取った高音は、自嘲の笑みと共にそう溢した。
「……昔の話です。お互いに子供で、特にあの男は取り返しの付かない馬鹿をやらかして、私がそれを許せていないだけ。…謝らないあの男もあの男ですけれど、私もいい加減歩み寄って、水に流すべきなんだって解ってるんです。……それでも私は、篠村が非を認めて謝罪しなければ
「…それこそ思わせ振りな語りだろうが。全てを話す気もない癖に、訳ありな事情を匂わすな。甲斐性のある男なら構ってやるのだろうが、生憎俺は連れ合い一人に応えるので精一杯でな。…助けて欲しいならはっきりそう言え、力にはなってやる、
「……っ!…申し訳ありません、これでは本当に単なる愚痴を溢しただけ、ですね………」
恥じ入る様に俯く高音を、杜崎は深く長い溜息と共に一瞥して、独りごちる様に言葉を紡ぐ。
「……意味合いは違うが、確かにお前はある種面倒な女だ。篠村も相当にアレだがな………まあ、元より俺はお前達の先達で、役職として上司という立場に立ってはいても、本質的に部外者だ。少しばかり口を出した程度で柵を解けるとは思っておらん。……だが、これだけは聞かせろ高音」
「お前は、
「…………………………………」
高音は暫しの沈黙を挟んだ後、尚も口にするか否かを迷う様子を見せていたが、静かに先を促す杜崎の眼差しに勇気付けられて、おずおずと話始める。
「……あんな風に成りたかった、のでしょうか……………」
一つ紡ぐと、高音の口からは堰を切った様に言葉が溢れ出した。
「…誤解の無いように明言しておきますが、彼らの素行や振る舞いを羨んでも憧れてもいません。嫌悪とまではいきませんが、非常識を地で行く輩とは気が合いませんので。……ただ。…ただ、そうです。私が彼等の様に後先を考えず、事情を知らず。…組織などに属していなかったなら、私は今までに何度ネギ先生達の助けになれたのだろうか、と考えました。
高音は辻達の居る選手席に視線を移し、静かに呟くかの如く言い放った。
「私や篠村、愛衣よりもネギ先生に必要なのは、きっと
「…お前は何故、そう思う?……」
「
何処か寂し気な笑みと共に。
「英雄の息子、大魔法使いの息子。……その肩書きに恥じない才能。良くも悪くもネギ先生は
『
高音の脳裏に蘇るのはそんな、かつて辻達に投げ掛けられた言葉の数々。
『別に俺達は、
『優遇も過ぎれば差別と結局は同じことだ、
『組織のお偉いさんやら世間の事情やらは知らねえがよ、ネギの奴は飛び級なんて真似してまでさっさと一人前の魔法使いになろうって頑張ってんだぜ?これ以上何を頑張らせて無理をさせる必要があんだよ』
『見ていれば解ると思うけれど、ネギ君は凄い頑張り屋さんだから。周りまでが生き急がせたら何時か潰れてしまうと僕は思うよ、期待に応えようとした結果ね。
…魔法使いという枠組みに、慣れ過ぎていたのかもしれないわね………
高音は思う。
ネギの育成に関する組織の
故に、
高音は辻達から意見を聞いた上で尚も思っていた。
其れは
だが、それでも。
「杜崎先生、ネギ先生は…子供ですよね」
「……まだほんの。本来なら初等部を卒業しているかどうかの、…子供でしかないんですよね………」
ネギ・スプリングフィールドという血筋も才能も申し分ない、英雄の後継足るに相応しい
「…言葉に上手く出来ないのですけれど……何だかおかしいと…しっくり来ないな、と……彼等に言われて、私は思ったんです………」
「…………そうだな………………」
そんな、戸惑いを多分に含んだ高音の言葉に杜崎は目を瞑り、無理矢理絞り出した様な重々しい響きの篭った短い返事を返す。
「そうだな。お前の言う通り、おかしな話だよこれは。高々餓鬼一人に大騒ぎをし過ぎだと、俺も思うぞ。
暫しして目を見開いた杜崎は、苦笑と呼ぶには苦味の強過ぎる笑みを浮かべて言葉を続ける。
「魔法使いを……今の世界を、間違っていると思うか?高音」
「いえ」
その問いに、高音は即座に短くはっきりとした否定を返す。
「私は彼等の思想に影響を少なからず受けたのでしょう。しかし、私は魔法使いとしての己に誇りを持ち、属する組織に今だ大義を見出しています」
ただ、と高音は短い前置きの後、些か躊躇いながらも続く言葉を放った。
「ネギ先生は類稀な才能と優れた精神性を兼ね揃える、素晴らしい少年です。そしてネギ先生は、魔法は皆が幸せになる為に使われるものだと、そう信じてくれています。……ええ、綺麗事だと一笑されても仕方のない子供の考えでしょう。世の中が夢と希望ばかりに満ち溢れてはいない事は私も知っているつもりです。
世間知らずの小娘や子供の夢と
高音
「間違っているとは
……だからこそ、私は彼等
「彼等の様な強さを身に付け、彼等自身も、ネギ先生も。篠村も愛衣も、軈て世界をも。私は正しく導きたい。…自己中心的で他者の気持ちを省みない、傲慢な考えなのは百も承知ですが、私はそう成りたいのです」
私は正しく在りたいのです。
高音はそう、小さくではあるがはっきりと締め括った。
「……な〜んか拗らせてんなぁお前の嫁もよぉ?」
「お、お姉様は何を話していらっしゃったのですか中村先輩!?もしかしてお兄様に対する熱い想いを……!?」
「黙れや。っつーか尋ねられても俺はお前等化けモン程超人的な聴力持ってねえから何話してっか解んねえよ!んでもって愛衣、お前はもういいから黙って座ってろ!!」
「真面目を通り越して馬鹿真面目が思い詰めるとああなるんだろ。何となく刹那に似てるよ考え方が」
「……いえ、私は………………」
「反論するだけ墓穴を掘るぞ桜咲後輩、黙っておけ。そして辻、お前も他人の事は言えんわ」
「ちょと押し付けがましいアルけど、高音の夢は立派だと思うアルよ私は」
「で、ござるなぁ。大言壮語になるか否かは当人の頑張り次第。志の高い人間の理想を嘲笑う
「あ、明日菜さん。杜崎先生と高音さんは何を……?」
「…聞いちゃってる私が言える台詞じゃないけど、他人の事情にあんまり首突っ込むもんじゃないわよ。ま、あんたの味方で、立派な人なのよ高音さんって」
例によって聞いていた(聞こえていたと言うべきか)面々が高音の一筋縄ではいかない拗れ振りに唸る中、傍らに愛衣を引っ付けながら膨れっ面をしていた篠村が呻く様に尋ねる。
「……で?結局あいつガチで闘る気なのか……?」
「そらもうやる気満々よ」
「大体篠村の言った通りだな、目標の大きさにはビックリしたけども…」
「世界平和と大差はあるまいな。地に足が付いた上で目指すならば好感は持てるぞ」
「…そうか………ぁんの馬鹿真面目馬鹿女めが人の気も知らねえで……いや、知った上でこれか…………」
畜生儘ならねぇ〜〜、と頭を抱えて唸る篠村。今にも血を吐きそうな程の心労が顔に浮かんだ様子は端から見ても哀れみを誘う。愛衣がワタワタと慌てながらも慰めに入るがあまり効果は無いようである。
「まあまあ篠村の兄ちゃん、ンな心配すんなや大丈夫やて。あのゴリラみたいなゴッツイオッさん、見た目と違て話せば真面な人やったから。高音の姉ちゃんも怪我くらいするかもしれんけど兄ちゃん等みたいに死にかけたりはせぇへんて」
「せやせや、案ずるがより生むが易しやで〜篠村先輩?」
「事情があるのは察しますが、高音さんが決めた事ならば協力して良い形に持って行くのも一つの方法かと思うですよ」
「たた、高音先輩は、口では色々言ってても、篠村先輩の話は、ちゃんと聞いてますから〜……落ち着いたら、きっと解ってくれると、思います〜」
「まあ旦那、あっしのような凡俗としちゃあ旦那の事勿れ主義もよ〜く理解できやすが、古来より腹括った女を野郎が止めんのは無理な話って相場が決まってまさぁ。ここは信じて見守ってあげやしょう」
『一緒に応援しましょう、篠村さん!!』
「…………っはぁぁぁぁぁ〜〜……………………」
俺に味方はいねえらしい、と小さく呟いてから篠村は近距離にある愛衣の顔を力無く見上げ、投げやりな様子で問いを放つ。
「……まあ、今更俺なんぞに止めようが無えからなに言ったって愚痴でしかねえんだけどよ。愛衣、お前は高音に無理してほしくないとか思わねぇか?」
「思いますよ、当たり前じゃないですかお兄様!!」
ともすれば敬愛するお姉様への愛情を敬愛するお兄様に疑われたとでも思ったのか、非常に心外な様子で即座に肯定の意を返す愛衣。
「…ですけれど、お兄様。お姉様は今、確かに慣れない事をやろうとしていて、それはとても大変な事だと思いますけど。お姉様は無理をなさろうとはしていないんだと思います」
「……どういうこっちゃ………」
「お姉様は、
愛衣はそっと微笑んでそう告げる。
「お姉様が最近悩んでいらっしゃるのは見ていて判りましたし、お兄様が気を遣っていらっしゃるのも判っていました。お姉様は話してくださいませんでしたから私は何も出来ませんでしたし、お兄様が声を掛けて、お姉様が意地になって跳ね除けてしまわれた時はこのまますれ違ってしまうんじゃないかって不安でした」
だけど大丈夫です、と愛衣は明るい声で断言する。
「お姉様は何時も通りなんです、お兄様。ちょっと思い詰めてしまわれただけで、それで変わってしまわれたりしません。
「……何時も通り、か……………」
仲直りの言葉を考えておいてくださいお兄様!あわよくばこれを機に進展を…!と、再びハイになって騒ぎ出した愛衣を押さえ付けつつ、篠村はポツリと呟いた。
「……ま、そうだよな。何時も通りっちゃホントにそうだ。お前の言う通りだよ愛衣………」
「民草だの人々だの、要するに赤の他人な見ず知らずの幸福なんてもん目標に出来て、周りが引くくらい努力家で。その上周りへの気遣いや面倒見んのを忘れない。そんな出来た奴だから好きになったんだよな、お前も……………俺も」
………焚き付けたからには、しっかり面倒見てくれよ、杜崎先生……熱血バカゴリラ呼ばわりしたのは、謝っから、さ……………
「……生き急ぎ過ぎだ、と言っても聞くまいな…………お前を唆しておいてなんだが、俺の教育方針は無茶は認めど無理をさせるな、だぞまったく………」
まあお前自身は無理などしていないと言うのだろうが、と杜崎はひとりごちる。
「いっそのこと馬鹿共と当たっていればゴチャゴチャと考えずに却って上手く行ったのやもしれんが、こうも固められたならば仕方があるまい。妙な所で
だからこれは上司命令だ、と杜崎は高音に告げる。
「思いっきりの全力で、かかって来てみろ高音。あの馬鹿共のようにな。馬鹿の行動を真似た所でお前が馬鹿になれる訳でも無ければ、そもそも馬鹿になり切りたい訳でも無い、どうなりたいか
全く以って理に適っていない、と杜崎は太い笑みを浮かべた。
「なんとも自分らしくない真似をしている、と何処かで思っているだろう?確かにお前らしくは無い。俺が促したとはいえ、普段のお前ならば俺の馬鹿げた提案など一蹴して勝ちを譲るだろう。それが今こうしているのは、先程お前が語った様に馬鹿共に感化された部分もあるのだろうが、元々お前にも馬鹿な部分が有るからだよ高音」
決して馬鹿にするつもりは無いが、一言で言うなら世界を平和にしたい、などと真剣に宣えるのは立派な馬鹿だよ、と、杜崎は厳つい顔に似合わぬ邪気の無い笑顔を浮かべて告げた。今更ながらに子供染みた夢を語ったのが恥ずかしくなってか、揶揄するような杜崎の言葉に顔を赤く染める高音だが、杜崎の
ただ、愉快そうな笑みと共に。何処か楽し気に杜崎は語る。
「形は違えど、それはお前の馬鹿の素だ高音。理屈で考えなくていい、筋道立っていなくていい。お前が考えているよりも、変わるきっかけなど簡単に見つけられるものだ。お前はまだ、若いのだからな。……少なくとも馬鹿に学ぶと決めたお前の判断を俺は好ましく思う。お前は勤勉で熱意があり、他者に対して誠実な良い生徒だ。が、反面その気質故か責任感が強過ぎて思い詰める節がある…と、俺は判断している。それも若さだ、仕方がないといえば仕方がない、が……もう少しお前は柔らかくなっていいと、心配はしていた」
だからこんな柄でも無い御節介を焼いている、とその笑みを些か苦いものに変えながらも、杜崎は話を締め括りに掛かった。
「だが安心したよ、真面目も過ぎれば充分に馬鹿の素質だと俺も学んだ。……一先ず何も考えずに、思いっきり掛かって来い高音。あの馬鹿共に当てられるものがあったなら、それできっと上手く行く」
「……解りました…………!!」
『さあ、間も無く試合開始となります!麻帆良の
「高音、一つ忠告だ」
「…なんでしょうか?」
地鳴りのような観客の歓声が響き渡る闘技場内の中央。向かい合った高音に杜崎は告げた。
「全力で来い、と言ったが俺は全力を出すつもりは無い。有体に言えば手加減をしてお前の相手をする。…お前を舐めている訳では無い、これは上司として、先達として。…歳上の矜持であり、行って然るべき配慮だ。……まあそれが災いして高畑先生はあの馬鹿共の毒牙に掛かった訳だが、
「……全力で無いからと油断する事無く、私に防御を真剣に行え、と?」
「有体に言えばな。……馬鹿にしていると思うか?」
「いえ」
短く答え、高音は己の衣服と
「元より。杜崎先生が全力であろうと、そうで無かろうと。私は
「……良い答えだ」
「……あ〜、お二人さん?………」
ニヤリと悪鬼の如き笑みを浮かべる杜崎と、それに対して不敵に微笑み返す高音。
そんな二人の様子に何処か不吉な
「もうさっきまでの会話聞いてたから半ば諦めてはいるけれどさ……魔法バレだの何だのって心配はさて置いても、直ぐに直せるからって全く建物にガタが来ない訳でも無いんだからさ。…あんまり闘技場ぶっ壊さないでよ?」
「善処しよう」
「ワザとは壊しませんよ、朝倉さん」
「……うん、まぁもいっか…………」
悟った様な笑みと共に朝倉は一歩、二歩と後退し、マイクを口元に持って来ると試合開始を宣言に掛かる。
『……それでは第六試合…………!』
「行くぞ」
「行きます」
静かな互いの宣言と共に、朝倉の声が響き渡った。
『開始ィッ!!』
その大音量の絶叫に重なり合う様にして低く、重い打撃音が会場中に響き渡る。
「ワォ!」
「いきなりか」
「まぁ、杜崎教諭ならばこうなるだろう」
「力は抜いても手は抜かないアルからね〜〜杜崎は」
「上手い事を言うでござるなぁ、古」
「……いや、しかしこれは…………」
刹那が呻く様な声と共に見つめる先。
試合開始直前まで杜崎が立っていた闘技場の床が、まるで埋めてあった地雷が爆発したかの様に捲れ上がり、大きな穴が空いている。
杜崎が開始と同時に魔法によって強化した脚力により、踏み込みを行ったが故に。
そして、そんな規格外の踏み込みによって放たれた疾く、重い右のストレートは、高音が一瞬で展開した複数枚の影精により編まれた漆黒の衣を盛大に撓ませ、半ば引き裂きながらも受け止められていた。
「…良し、口だけではなかったな。舐めて掛かったならば今ので終わりだったろう」
「重ねて言いますが防御は私の十八番です、そして私は口先だけの輩が大嫌いなのですよ。……己の至らなさにより迷惑を掛けている以上、半端な真似をするつもりはありません!!」
言い捨てると共に高音は新たな黒布を呼び出し、杜崎の身体を巻き取ろうとするが、杜崎は素早く右手を引くと同時に大きく後方へ跳躍し、束縛から逃れる。
高音は元より杜崎を退がらせるのが目的だったか、刹那の遅滞無く両腕を跳ね上げ力有る言葉を紡いだ。
「
「……ふん…………!」
マスケラの様な面を被った黒衣の巨人を背後に召喚する高音を前に杜崎は獰猛な笑みを浮かべ、半身に拳を構える。
「……だから言ったじゃねえかよ……………」
「いくら見かけによらず常識人だからって日常的に
閲覧ありがとうございます、星の海です。
ゴールデンウイークに投稿するなどとぬかしておきながら一月以上皆様を待たせた馬鹿作者が通ります、本当に申し訳ありません。仕事がなんというか、本当に大変な……と、それはあくまで私事であり、言い訳でしかありません。待って頂いていた読者の方々には最早お詫びの言葉もありません。重ねて申し訳ありませんが、暫くはこの様に月に一度、更新出来れば良いような亀更新となってしまいそうです。それでも良いよ、という寛大な方は今後もどうかよろしくお願いします。
あまり情けない話ばかりツラツラと続けても不快でしょうから内容の話を。今回は高音さんと篠村がメインでしょうか。前置きばかり長くなってしまいましたが、ネギを中心とした一連の流れの中で、魔法生徒側から焦点を当てた形になります。高音さんと篠村の過去話にも今後触れつつ、魔法教師代表格の杜崎先生の良いところも描写出来れば良いなと思っています。(オリキャラ二人の描写に興味ある方居てくださるのでしょうか………汗)
結局戦闘が始まった所で切れてしまいましたが、次回で決着と相成ります。次も篠村と小太郎という、原作とは異なるオリ展開となってしまいますので、テンポ良く仕上げたいです……結局相応にお待たせする事になってしまうかとは思われますが、どうか今後もお付き合い頂ければ幸いです。
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。