お馬鹿な武道家達の奮闘記   作:星の海

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まだ見ていてくれる方がいらっしゃいましたらお久しぶりです。星の海です。約半年振りになる投稿を上げさせていただきます。
更新が途切れてからも感想を下さった方は返信もせずに誠に申し訳ありませんでした、一身上の都合で伏せっておりました。
また更新を再開させていただきます。見てやってもよいという寛大な方はよろしくお願いします。


25話 まほら武道会第8試合 大豪院 VS古 菲 (その1)

八極拳、と一口に言っても様々な流派が存在する。有名なものだけでも武壇八極拳、長春八極拳、呉氏開門八極拳など実に多種多様だ。

このうちの開門八極拳とは、八方の極遠(遥か遠い彼方)にまで達する威力で敵の(防禦)打ち開く(破る)ことを意味している。 解り易く言うならば爆弾でも大砲でも破城槌でも、兎に角凄い威力のイメージがあるものならば何でもいい。それを相手に至近距離で叩き込むというのが近いだろうか。

そして俺は何時しか、極遠を世界の果て。地球(ほし)を越え宇宙(そら)を越え、銀河をも越えるこの世の終着点(そんなものがあるならば、だが。一説には宇宙とは常に広がり続けているらしい)であると認識していた。

ならば八極拳士が、この俺が己が五体より放つ勁はこの世の何よりも大きな一撃(・・)でなければならない。

繰り出した渾身の一撃は地球(この惑星)など易々と砕けなければならない。そう在れる様に功夫(ゴンフー)を積んでいくべきだ。

俺は本気でそう考えていた。いや、正確には現在(いま)もか。

…無論のこと、そんな荒唐無稽な真似が人間に出来る訳は無く、八極の由来も其れ程の心持ちで研鑽に励めという意味合いで伝わっているものなのだろう。俺の考えを聞いた老師は、先達は。驚き、呆れ、それから嗤った(馴染の馬鹿共には笑われた)ものだ。

 

『…(イェン)!!貴様、何をした…何を、している!?』

『…己が功夫(ゴンフー)を示しただけです、老師(ラオシー)

 

だから、かつて打ち壊し、粉々(・・)にした山々を思い返す度に俺は自嘲の念と共に思うのだ。

 

矢張り、俺も馬鹿の一人だと。

 

 

 

 

 

 

「……知らん天井や」

「あら、目が覚めた様ですよ豪徳寺先輩」

「起きて早々ネタかます元気があんなら一先ず大丈夫そうだな」

「…何で豪徳寺の兄ちゃん等が……ああ、此処医務室かい……」

 

試合終了後、全身の打撲と電傷の治療を行う為龍宮神社内に仮設された医務室へ搬送された小太郎は豪徳寺と千鶴に見守られる中覚醒した。全身が灼けた様に熱く疼くのを煩わしそうに重い身体を起こそうとしたがベッドの脇に座る千鶴に優しく押し留められる。

 

「駄目よ、まだ横になっていなさい小太郎君。お医者様が仰るには、全身の神経系が感電で炎症を起こしているそうなの。後遺症は残らないだろうとの事だけれど、安静にしていないと治りが遅くなるわよ?」

「……篠村の、兄ちゃんは………居る訳無いわな。無傷なんやから………」

 

諌める千鶴に直接言葉は返さず、暫し黙りこくった後に歪んだ笑みを浮かべて、ポツリと小太郎はそう溢した。

 

「落ち込むな…っても無理な話だろうが、敢えて気ぃ使わずに言うぞ。今のお前じゃ順当な結果だ」

「…豪徳時先輩……?」

「ンな怖え面で睨むな那波、優しく気遣って欲しいとはこいつも思ってねえよ。…あいつは強え、最低でも俺等と同等位にはな。加えてお前とじゃ相性も…」

「ええわそんなんは、止めてえや兄ちゃん」

 

誰がどう見ても傷心の小太郎に対して欠片も遠慮の無く傷口に塩を擦り込みにいく豪徳時へ、千鶴がやたら威圧感の篭った笑顔で抗議の圧力(プレッシャー)を叩き付けるのを顰めた顔で往なした豪徳時の懇々と諭さんと掛ける言葉を、小太郎は吐き棄てる様な調子で遮った。

 

「…小太郎君。気持ちが解るなんて調子の良い事は言わないけれど……」

「だからええんや、千鶴姉ちゃん。…態度悪いんはすまん、でも本当にそういう(・・・・)んは今、ええんや。……二人が思っとる程落ち込んでも、悔しがってもないねん、俺。……相性悪い〜だの実力が〜だの、そんなもん結局言い訳やろ兄ちゃん。豪徳時の兄ちゃんはあの胡散臭いのに負けたけど、ンな風にナニがどうだったから仕方ないなんて自分で思ったんか?」

「……いいや」

 

我ながら安い慰めだったか、と自嘲気味に笑いながら、豪徳時は一瞬の沈黙の後、小太郎の問い掛けに否定を返した。

 

「お前の言う通り、そんなもんは言い訳だ。相手が思ってたのと違ってたとして、話が違う予想していなかった今の自分じゃ対抗出来ない………。闘うって決めて勝つと誓って、その場に立ったならそんなもんは負ける理由にならねえよ。漢ってのは言い訳をしねえんだ、敗けたのはただ……」

「…自分が弱かっただけ、やろ……?」

 

豪徳時の語りにそっと被せる様に、小太郎はそう口にした。

 

「そうだ。……ああ、だからな。小太郎、お前は篠村より弱かった。そんだけの話だ。次があんなら話はこれで終わらせちゃいけねえが、今はそれだけ解ってりゃいい」

「……解っとる…っちゅうより、なんや。理解(わか)らされた、ってな感じやな……」

 

ドサリ、とやや乱暴にベッドへ起こしかけていた身体を投げ出し、小太郎はぼんやりと天井を見上げながら呟く様に言葉を紡ぐ。

 

「…最後の方はな、折れとらんつもりで折れとったわ。篠村の兄ちゃんの実力がどうとかいう話や無くて、執念…ちゅうんか?…気迫に圧倒されとった。本気で、挑んだつもりや。軽く見とったんは確かやけど、勝とうとすんのを辞めた事は無かった。此れ迄だっていっぺんもあらへん。……それが普通に、敵わんて…思ってしもたわ………」

 

何でやろな、兄ちゃん?と、小太郎は力無く豪徳時に問い掛ける。

 

「…強いってのは理由が要るんか?要るんやったら俺のは弱いんか?それとも俺は何かを間違ったんか?…俺はまだガキや、何もかんも足りんゆうのは解っとるわ。でも俺は、此処まで…」

「相手にもされなかったのがショックだ、ってか?しょうがねえよ小太郎、それはな」

 

今度は豪徳時が小太郎の言を遮り、あっさりとそう答える。

 

「…しょうがないって何やねん……」

「何だっつっても言葉通りだ、しょうがねえんだよ。この世に絶対は無え、俺は絶対に敗けないつもりであのチキン野郎と闘ったが、敗けた。根性に不可能は無えと俺は思ってるが、結果はご覧の有様だ。〜さえあれば絶対に〜になるなんて理屈は、多分何に対しても存在しねえんだよ。認めたかねえが、どんなに譲れないモンが在ろうと、熱いモンを秘めていても、駄目な時はあるし、敗ける時は敗けちまう。認める認めないは別だが、結果として見りゃそうなんだろうよ」

 

でもな、と。らしくもない無機質な乾いた現実論を口にしながらも、豪徳寺の顔に小太郎を否定する色は無い。

 

「だったら裏を返せばどんな理由にも優劣は無い(・・)ってことだ。強くなりたい?姉を探したい?結構じゃねえか、立派な理由だと俺は思うし、仮に馬鹿にする奴、否定する奴がいようがそいつの理由も同レベルだ。理由が無くとも同じ(・・)かもしれねえんだしな。理由が必要と思うんなら、そいつを決して譲らずに闘い続ければいい。それは何かを成す為の絶対的な要因にはならないかもしれねえが、お前を動かし続ける原動力になる。小太郎、お前は敗けたが、間違ってはいねえと俺は思うよ」

 

小太郎は天井から豪徳寺の顔に視線を移し、ややあってからポツリと溢す。

 

「間違えてないなら、何やっちゅうんや……」

「今までやってきた事も、考えてた事も無駄じゃないってことだ。」

 

豪徳寺は小太郎の目を見据えて言い切った。

 

「何もかんも引っ括めて盛大にやり直すなんて面倒な真似はしなくていい。お前は何かが足りなくて敗けた、そんだけだ。終わったばかりで凹むな荒むなってのも無理だろうが、一回敗けただけでそこまで思い詰めんなよ。…生きてりゃまた次がある。お前はまだやりたい事を諦めなきゃいけなくなったわけでも何でも無いだろうが、それとも……」

 

もう頑張るのは止めんのか?と。

豪徳寺は、この男にしては珍しい静かな微笑みを浮かべてそう問うた。

 

「…………………………………、……兄ちゃん」

「おう」

 

豪徳時の言葉に、小太郎は一瞬目を細めてから再び天井に視線を戻し、長い沈黙の後にそっと言葉を紡いだ。

 

「俺は、篠村の兄ちゃんを舐めとった、色んな意味でや。俺の方で諸々、覚悟の決め方と気合の入れ方が足らんかったわ。意気込み不足や。逆に、姉ちゃんの事とか、少なくても試合にゃ関係無い要らんとこで気負い過ぎとった」

「そうか」

 

豪徳寺は相槌だけを返して先を促す。

 

「自分がガキやから、とか何とか。…年齢(とし)引き合いに出すんは言い訳染みてて好きやないけど。今日の出来見りゃ年季が足らん言われんのはしゃあないわ。努力が足らんかは解らんが、時間はまだ俺には足りとらん。……なんやごちゃごちゃ言うてもうたけど」

 

ギロリ、といっそ睨み付ける様な鋭い目付きで小太郎は豪徳寺の顔を見返した。悔しさと不甲斐なさが綯い交ぜになった顰め面で、小太郎はこう締め括る。

 

今日(・・)俺が敗けたんは弱かった(・・・・)からや、認めたるわ!今日(・・)の所はそんなもんや!!」

 

次はギタギタにしたるわいあの地味面三白眼!!と最後の方は殆ど叫ぶ様に言い捨て、小太郎は布団を頭から被さり拗ねた様に丸まった。

 

「若えっつーか確かにまだガキだな、お前はよ……」

「………………………」

 

カカカと笑声を洩らす豪徳寺を途中から微妙に蚊帳の外となった千鶴は面白くなさそうな半目で睨んでいたが、ややあってニンマリと人の悪い微笑みを浮かべ、ベッドの上で丸まる小太郎の背中(恐らく)?に優しく手を置き、言葉を掛ける。

 

「小太郎君、よく頑張りましたね。お母さんが褒めて上げますよ」

『誰の親父がそこのリーゼントやねん!!』

「……?…!!、一瞬意味が解らなかったわど阿呆無駄に捻った返しをすんな!!こっちだってお前みたいな生意気な餓鬼は願い下げだぁ!!」

「あらあら、私に対して何も言及は無いのですか?」

「どう答えてもドツボにハマりそうだから何も言わん!!」

 

「……イチャついてんなや怪我人の前で………」

 

包まっていた布団から顔を出した小太郎は、目の前でギャアギャアと(主に一方的に豪徳寺が)喚いている光景に溜息混じりでそう溢した。

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁアザミンよぉ。何があった訳お前と高音(とぅわくゎね)ちゅわん?」

「しつけえなお前は少しでも魔力回復する為に瞑想してんだから絡むな馬鹿野郎!こんだけ拗れてる大元を聞かれてはい〜ですよと説明するとでも思うか諦めろや!!それから誰がアザミンだ馴れ馴れしいんじゃボケぇ!?」

「そうそうこのキレつつも律儀に返答はしておまけにきっちりツッコミ返す感じ、何時もの篠村先輩よねぇ」

「ウチは篠村先輩やる時はやる人やと思てたからさっきのもあんまり違和感無かったな〜」

 

所変わって会場の選手席では、素気無く高音に問答を拒否された中村が懲りずに試合を終えるなり席にて黙想し、次に備えようとしている篠村に絡んでいた。既に大豪院と古 菲の二人は控え室にて待機しているが、例によってボロボロになった闘技場の修復に加え何やら重機(クレーン)まで持ち出して建築部が総出で大規模な補強を行っている為第八試合の開始が遅れている故の小休止であった。

 

「中村、ホントにそれ位にしておけよ。誰にだって知られたくない秘密の一つや二つあるもんだろうが。ましてや男女のあれそれなら口を挟むのが野暮だろ」

「え〜俺ぁ知られて困る過去なんざ何一つ無えぞ?」

「真の恥知らずとはこういうことか……」

「大体人の恋路を云々て言うがよ、こいつらの道明らかに樹海か崖に一直線だぜ?馬に蹴られようがスレイプニル(麻帆良四大魔獣)に蹴り砕かれようが、下世話に無粋の極みの汚名を被ってでも道を正してやんのが友達ってもんだろが」

「その通りです!!」

「うぉスイッチ入った……」

 

辻の白い目線にもめげずに(というか堪えずに)篠村と高音の迷走振りを引き合いに出して力説する中村にお姉様お兄様至上主義者(佐倉 愛衣)が乗っかった。

 

「お互いにお互いを想い合うが故に道を違えようとしている、真実(まこと)に相手を思い遣るお二人の高潔なる精神には心の底から敬意を表します!ですが恋とは耐えるものであっても最早互いを求め合った以上は、これは愛です!!愛し合うお二人ならば例えどのような障害だろうと…」

「愛衣?取り敢えず恥ずかしいから…」

「…座ってろお前は!!」

「ひぁああああっ!?むぐぐぅー!?」

 

燦然と立ち上がり輝く瞳(イっちゃった目付き)でポエムを垂れ流す愛衣を息の合ったツープラトンで座席に投げ飛ばし、ハンカチを口に詰め込んでから縛り上げ強制的に黙らせた篠村と高音は、何とも言えない顔付きで暫く見つめ合った後ネギ一行を振り返り交互に口を開いた。

 

「なんか紛らわしい事になったから話整理すっけどなぁ、要は俺が立派な魔法使い(マギステル マギ)目指して邁進する高音に魔法使いの従者(ミニステル マギ)として付いて行くか否かって話してんだけだよ。男女の意味合いは無え」

「…失礼ですが、魔法使いが従者を定めるというのは現在の魔法社会では恋人を定める様なものだと聞いていますが……」

「そういった風潮があくまで流行っている、というだけの話よ。仮契約なら兎も角、本契約を結んだ魔法使いと従者は余程の事がない限り契約破棄はしないし、そもそも出来ない。魔法使いとして活動する上での大半の時間を共に過ごすのだから当然ね。要は其れ程重い契約を交わす仲であり、それが異性の相棒(パートナー)ならそういう仲(恋人、夫婦)に発展し易いのは自然な話だからそんなイメージが定着したのよ」

「実際同性のパートナーも珍しくねえし、そういった連中は一部の特殊性癖除いて仲の良い友人ってとこだ。男女でも事務的効率的に戦力の相性だけで組んでる奴等も居るからあくまで綾瀬の言ったのは主に若い世代の恋人探しの名目にしてるアーパー連中の言い分だぁな」

「個人的には唾棄すべき下らない風潮ね。真面目に社会貢献を果たそうとしている先達はいい面の皮だし後輩は道を誤る原因よ」

『確かに高音さんはそういうのお好きじゃなさそうですね〜』

「え、ええと、じゃあ高音さん、もあくまでビジネスパートナー…みたいな意味合いで……?」

「ええ……この卑屈な男の戦力を私は買っていますので」

「嬉しい嬉しい御世辞をどうもありがとよ…と、まあこんな具合で拗れてる訳だ」

 

嘘だナ(ダウト)

「それだけでそこまで話は縺れませんヨー?」

「……組んず解れつ……箇条書きマジック…」

 

話をさっさと切り上げようとした篠村に、中村の頭上と両肩でタレつつのスライム三人娘が揃ってツッコんだ。

 

「五月蝿えな何なんだよ軟体生物がしたり顔で人間様の心情ケチ付けんなや」

「ア〜その発言亜人差別ですヨ〜〜?」

てめえ等(ハイ・スライム)亜人(デミヒューマン)でなくほぼ魔物(モンスター)枠だろが」

「マアナー、その人外風情にも見て判る位お前等迷走してるって事ダロ?」

「……ええまあ。確かに客観視すればそういう(・・・・)風にしか見えないのでしょうし、敢えて誤解を恐れずに言ってしまえば痴情の縺れだものね」

「…kwsk」

「……おい高音ぇ………」

「この煮え切らない話をこのままグダグダ続ける方が疲れるわ。私をフッたのが其処の男よ、世にも最悪なフり方でね」

「…ンのアマ…馬鹿言えお前がフッたってーか愛想尽かしたんだろがやらかした俺に」

「と、まあ見解の相違はあれど。そんな所よスライムさん?」

「…開き直ってるでござるなぁ高音殿……」

 

フラットな表情のままサラリと爆弾を投げ付ける高音に一筋の汗を垂らしつつ楓が唸る。

 

「はーいお兄ちゃんお姉ちゃん!僕そのやらかしたの部分詳しく聞きたいでぇーす!!」

「キメェ、黙れ。……ハイハイそうだよその通り。俺の人生ぶっちぎりにNo.1で黒歴史案件だから詳細は語らん、絶対にだ」

「でしょうね、私も好んで恥を晒したくないしこれ以上はノーコメント、よ」

 

気味の悪い裏声を発してきた中村を揃って一蹴し、二人は互いに顔を背けたまま工事中の闘技場へと視線を固定した。これ以上語る気は無いとの意思表示である。

 

「下らん色恋沙汰は終わりか?ならば私の問いに答えろ馬鹿連中。主も構わんな?」

「……フツ。お前前の試合前後位からフラッと居なくなってたけど何処行ってた訳?」

「結果の見えた勝負など詰まらんからな、暇潰しに色々と覗いて来ただけだ。幾つか面白いものも見れたので後程教えよう主」

「……む………」

 

前触れも無く後方の入り口から滲み出る様にして現れたフツノミタマに辻が半眼でツッコむが、何処吹く風と表情を変えぬまま聞き捨てならない台詞を返して音も無く辻の傍らに戻る。後ろの刹那が敵意と困惑が綯い交ぜになった曖昧な表情でフツノミタマを軽く睨むが、超絶マイペースを貫く幻想武器(アーティファクト)にはそよ風程も通じないようである。

 

「へいへいほー、美女の頼みとあらば喜んでぇ、と言いてえトコだがまず何が聞きてえのよフツちゃん?」

「アレは何をしている?私は化学だの何だのは疎い、説明しろ」

 

言ってフツノミタマが指差したのは丁度複数の建築部部員が気で身体強化を行い、床を基盤ごと人力で持ち上げるという力技を披露しながら分厚いゲルの様な質感の緩衝材を下へ仕込んでいる絶賛強化(改造?)中の闘技場そのものであった。

 

「あーありゃ次の試合に耐えられる様に改造…補強?してんのよ建築部が。何せ一発の威力に関しちゃ俺等(バカレンジャー)どころか恐らく麻帆良No.1のポッちんがこれから闘うからさー、下手すりゃ闘技場はおろか神社通り越してここら辺一帯に被害出っからよ。まあ必要な事だべ」

「………え、なに?大豪院先輩ってそんな凄いの、なんて言うか破壊力?」

 

ケタケタと笑いながら何やら物騒な事を言い出した中村に明日菜が聞き捨てならんと追求する。

 

「大豪院先輩の武術は八極拳…でしたか。近年では映画やアニメーション等の所謂娯楽媒体でも取り上げられているので有名といえば有名ですね。矢鱈と破壊力というか一撃必殺とでも表現すべき要素が強調されていますが、これは恐らく李氏八極拳の創始者、()書文(しゅうえん)の影響で……」

「夕映夕映〜今そっちの豆知識はええて〜」

「で、でも、大豪院先輩は、見てて一番凄いっていうか……」

「あー確かに素人目にもいっちゃんとんでもねえって解り易いのは大豪院の旦那だわなぁ。何せ一瞬大地が揺れんだぜ地震が起きたのかってレベルでよぉ」

 

裏に関わる羽目になってから持ち前の知識収集欲により各種武術や魔術系統に深い造詣を見せている夕映の無駄に詳細な解説を木乃香が流しつつ、のどかとカモが納得の声を上げた。

実際、端から見ていて所謂凄い、即ち達人っぽいのが良く解るのは大豪院の豪快な一撃である。踏み込み(震脚)により大地が揺れ動き、大気が突き出された手足の衝撃により甲高い音を立てて弾け、炸裂した人体が宙を舞い、物は粉々に割れ砕ける。素人に真似出来ない凄い事としてみれば極めて明快な演舞披露(デモンストレーション)となるだろう。

だがしかし。

 

「あー、俺が言わんとする事ぁまあその通りじゃあるんだけどよ。多分チミ達が今開いてる回想シーンにある大豪院のそれ(一撃)は本人曰く………なんやっけ(はじめ)ちゅわん?」

「そこで俺に振るなよ……视为儿戏(シーメン アィシィ)、だったかな?児戯に等しい、らしいよあいつの普段(・・)の打は。そして俺達も、まぁ同意見かな?」

 

その素人目にも凄まじい一撃を、中村と辻、そして伝聞ながら大豪院(本人)迄もが大したことの無い代物と評した。

 

「え゛っ……!?」

「…到底人類が捻り出せる威力じゃねえと思うんだけど。なんだ、サ◯ヤ人にでもなろうとしてんのかあのカンフーマスターは?」

 

雲行きの怪しくなって来た話にネギが濁った驚愕の声を上げ、完全に未確認生命体(エイリアン)でも見るような目付きで篠村が問い返す。

 

「ああ〜ある意味間違ってねえわあいつの目標その気になりゃ惑星一つ粉々に出来る様になるこったし」

「その言い方だと語弊があるだろ。…要は目標の違いかな?俺達(バカレンジャー)は揃って切った張ったや血みどろの潰し合いに青春賭けてる碌でなしだけど、概ね全員に共通してるのは強くなる(・・・・)事。でも強いって一言に言っても色々形はあるものだから…今更隠すことでも無いから正直に言うけど、俺の場合は綺麗な人を綺麗な二枚おろし(・・・・・)に出来る様に、どんな相手でも圧倒するよう剣の腕を磨いてた……いや、いるか」

「お友達に対してあんまりこういうこと言いたくないけれどせったんでなきゃ警察呼ばれてっからね(はじめ)ちゃん。そんな一気にワイルドにならずに昔の程良くヘタレな(はじめ)ちゃんも混ぜてくれてもいいのよ?」

 

恥ずかしながら、と照れ笑いを浮かべながら車椅子の握り(グリップ)に添えられていた刹那の手に手を添える辻。多少顔を引き攣り気味ながらも微笑みを浮かべて添えられた手を握り返す刹那は、正に痘痕も靨(好きなもんはしょうがねぇ)であろうか、おもわず中村も真顔でコメントを述べようというものである。

 

「まあ(はじめ)ちゃんの将来に関しては大いに心を配りたいとこだけどそれはまぁ置いといて…目標の違いってのはまあそうだな。(はじめ)ちゃんは妖怪真っ二つになること、俺ぁこの世で一番強くなること。リア充腐れリーゼントもロリコン確定色物柔術家もまあ同じだろ。ただムッツリ疑惑唇野郎は多少ニュアンスが違うっつーのかねぇ……」

 

なんて言ったもんかと腕を組んで唸りながら中村は続けて言葉を紡ぐ。

 

「ポッチンは八極拳っつー拳法の在り方に惚れ込んで、自分の思う八極拳士として完璧な実力(ちから)を身に付けたいってのが目標でなぁ、最強を目指すってのはビミョーに違う。まぁ拳法やら武道やらはざっくり言っちまえば他人(ヒト)ぶっ倒すのが目的なんだし、どーせ本人に聞いても”完璧な八極拳士なれば其即ち最強に決まっているだろうが”とかなんとか言うだろーから同じ様なモンだけどよ〜」

「話を要約出来ない馬鹿の話が長いから纏めるけど、目標とする到達点(ところ)が同じでもそれを目指す為の手段…空手に然り喧嘩殺法然り、柔術中国拳法剣術然り、だ。道が違えば当人の才能や努力を差し置いても当然、差異は出てくる。実力差なんていう解り易い点以外でもね」

 

「要は得手とする分野の差だな」

 

と、中村の大工事に関する説明を聞き一先ず満足したらしいフツノミタマが変わらぬ冷めた表情のままに先を引き継ぐ。

 

「主が武器(かたな)を用いた中距離に於ける戦闘で他の追随を許さぬのは貴様等にも理解出来よう?そこな馬鹿ならば人体破壊に特化、内気外気共に練り上げている為人外(・・)とも渡り合えはするだろうが最も得手とするは対()戦闘だろう。逆にあの番カラはあの耐久力にあの外気、だ。対人などという小さい的よりも魔獣辺りとやり合う方が得意だろうな。…斯くして主を含めた五人(バカレンジャー)が偏に同程度の実力を持つ、といってもその有り様は十人十色にて千差万別だ。そもそも基本として対人戦以外を想定していないのが武術というものだろう?対応(アジャスト)が済んで来たといっても主達の現在の立ち位置は畑違いにも程があるということだ」

「相手が人外だった、聞いてない話が違うそれ用に鍛えて無いから無理〜なんて死んでも言わねえけどな、格闘技の選手(スポーツマン)じゃねんだよ俺等。そもそも強くなってけばそこら辺の区分あんまり関係なくなってこね?」

「…概ね同意見だけど、つまりだ」

 

話を纏めようとしている内にまたしても脇道に逸れ出した話の流れにネギを始めとした幾人かが渋い顔で首を捻っているのを見て辻が再度流れを浚った。

 

「大豪院は大豪院の理念に則って彼奴なりの強味(・・)を磨いてる。其れが解り易く言うなら一発の破壊力って事になるかな。単発での火力なら、俺達はおろか学園一だと思うよ…あの発勁は」

 

「…先程の話からすると、彼は普段本気を出して鍛錬を行っていないと。そういう事かしら?」

 

辻の言葉に眉根へ仄かに皺を寄せつつ高音が問い返す。よもやこの男達(バカレンジャー)が真面目に修業を成していないなどとはこの数ヶ月曲がりなりにもそれなり以上に深く関わって来た手前思わないが、それならば尚更訳の解らない話となる。

 

「んん〜ま、そういうことになっかな?でも誤解しないであげて高音ちゅわん、あの糞の上に超が付いちまう様な真面目ちゃん鍛錬に手を抜くなんてこたあ死んでもしねえ奴だから。やむを得ない事情があんのよ事情が」

「ンだよ、本気出したら麻帆良が崩壊するとかのサイ◯人理屈か?」

「お、冴てんね〜アザミン大正解〜〜!!」

 

「「「…………え゛……………………!?」」」

 

「ああ、そろそろ始まるかな?多分見た方が早いと思うよ、大豪院(あいつ)のトンデモっぷりは」

 

と、皮肉混じりの冗句(ジョーク)としてかました篠村の発言に諸手を叩いて肯定の意をかました中村に一拍遅れて辻以外の全員が呆けた声を洩らす中、闘技場の入口に現れる見慣れた長身を視界に収めつつ、辻はそんな言葉を紡いだ。

 

 

 

『さあさあそれでは皆様!波乱続きというか化け物続きの麻帆良武道会本選一回戦もいよいよ最後の死合…もとい、試合と相成りました!!そんなある意味一区切りとなる試合を飾る両選手はなんとどちらも同じ部活の出身、即ちある種の同門対決だぁーっ!!先ずこのかわいそうな闘技場に足を踏み入れるは知る人ぞ知る麻帆良百十二不思議の一角、”麻帆良大震源地”の原因にして元凶たる公式環境破壊兵器!!その拳撃は山を崩し、その脚撃は海を割る!防御不能な破滅の一撃、中国武術研究会、略して中武研副部長…『崩山裂海』大豪院 ポチ選手ぅぅぅぅぅぅっ!!』

 

「本名で登録をした筈だろうがぁぁ!?」

 

『『『ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オッ!!』』』

 

どうあっても真面に名前で呼ばれない自らの運命に大豪院が目を剥いて吼えるが周りは、特に本来身内の筈の中武研の反応はにべもない。

 

『死に晒せタラコクチビルゥゥ!!中部研には菲部長一人で充分よぉっ!!』

『貴様の存在は冗談抜きに麻帆良(ここ)で生きてく上で迷惑なんじゃあこの巨大ナマズめが!そして菲部長は渡さねえぇぇぇぇ!!』

『今日という今日が有害指定生物筆頭たる貴様の命日だ菲部長のお美しい御御足をせめてもの冥土への土産として目に焼き付け逝きやがれあぁぁぁぁぁっ!!』

 

讨厌、讨厌(うるさい、うるさい)。正に雀の頼母子だな、負け犬の遠吠えまで他力本願とは本当に卑屈で哀れな連中だ(ズォウ)共が」

 

『『『『テメェェェェェェェァア!!』』』』

 

 

「ほんとポッちん自分(テメー)んトコの部員と仲悪いよなぁ」

「強くて可愛い娘なんて麻帆良にはゴマンと居るのにな。……まあ古 菲ちゃんは実力では頭一つ抜けている組になるからその所為じゃないか?」

「…後は人格が(比較的)破綻して無えからじゃねえの?」

「ああ、かもなぁ……」

 

「……あのー、先輩方………?」

 

功夫服を着た筋骨隆々の暑苦しい巨漢共が放つ聴くに耐えない罵詈雑言を涼しい顔で受け流す大豪院の様子を呆れた様に語り合う辻と中村にその場の全員を代表して愛衣が尋ねる。

 

「…あの大豪院先輩の本気で麻帆良が危ないとは一体……?」

(はじめ)ちゃんが言ったべー?見た方が早えよ絶対」

「いやいや気になるわよ先輩。っていうか本当にそんな、物凄いことになるなら試合させてもいいの?」

「だから建築部が今の今まで頑張ってたんだよ…と、始まるな」

「は、始まるって…」

 

と、たまらず尋ねかけたのどかの機先を制する様に大豪院が悠然と佇む闘技場へと脚を踏み入れたのは先程まで最後の調整として何故か側の水堀へと入り込み土台の基盤を弄くっていた麻帆良のマイ◯クラフター建築部の長、安藤 豊雄であった。

安藤は全身から流れ落ちる雫を払うのももどかしげに大豪院へと歩み寄り、普段の彼よりも幾分高いテンションで声を掛けた。

 

「大豪院!我等が宿敵にして怨敵大豪院よ!!今年もやって来たな俺達建築部と貴様の決闘の機会がぁ!!昨年の惨敗から俺達は更に高みを目指し、そして昇華した!前の俺達と同じと思うなよぉ!?」

闘技場(あしば)を比武に耐え得る状態に強化してくれた事には感謝するが、俺は貴様等の耐久(・・)試験の為にこの場にいる訳では無いぞ」

「貴様が全力をこの場で出す以上同じ事よぉ!!さあ加減は無しだ!、遠慮無く踏み込む(・・・・)がいい!!」

「……御前達がそれで満足なら俺は何も言わんが………」

 

と、呆れた様に嘆息しながらも大豪院は佇まいを背筋に芯の通ったそれに変え、僅かに腰を落とした半身の姿勢を取る。

 

『さてさて皆様御刮目下さい!!これより大豪院選手が試合前の示威行動(デモンストレーション)…いや興行(パフォーマンス)?まあいいや兎に角凄い事やらかします!!麻帆良の人外枠たる武道家(BANZOKU)は知らぬ方などいないでしょうがまぁ改めて御戦慄くださいこの方の超・人外振りを!!』

『麻帆良の五強バカレンジャーは其々がそれぞれに麻帆良の人外枠、武道家の中でも格の違う人外振りを発揮していますが…大豪院選手は最もそれが一般の方にも理解り易い(・・・・・)脅威として示してくれます。ブン屋(報道部)としては少々複雑ですが、百聞は一見に如かずという奴ですね。どうか腰を抜かさぬようご注意を』

 

「…五月蝿い外野だ……」

「雑音は気にするな、()めい、大豪院!!」

「……、………」

 

本人そっちのけで気焔を上げる安藤に大豪院は一つ嘆息して緩やかに半歩分、前に出るか出ないかの域僅かに身体を前に出し、するりと踏み込む脚が前に出る。

 

踏み降ろした足が地に着くと同時、闘技場の床に同心円状の波紋を観客の皆は幻視した。

それとは別に確かな事実として、闘技場が大豪院を中心に一瞬撓む(・・)のをネギ一行は視認して。

 

 

直後、龍宮神社の境内は縦に大きく跳ね上がり、震災級の直下型地震が如き激震に揺れ動いた。

 

 

「「「「………………………っ!?………」」」」

 

 

「おー、大分マシになってね?」

「建築部の尽力の成果かな、()で喰らうよりも破格に穏当だ。物理的に身体が宙に浮くどころか近間の奴は吹き飛ぶからなぁ大豪院のあれは」

 

未だ縦揺れに震える場内、何処となく死んだ瞳で場外に避難していた朝倉が見つめる先、闘技場に出来た綺麗な円状のクレーターから埋もれた足首を引き抜く大豪院の引き起こした比喩でなく天災(・・)級の一撃に言葉も無く戦慄するネギ達を余所に、中村と辻はいっそ呑気とも言える様子でそんなことを宣う。

 

「……待て、頼むから待て!!」

「どったのアザミン。大?まさか大なの、もよおしてる!?お客様ーっ!お客様の中に携帯トイレをお持ちの方はいらっしゃいませんかぁぁぁぁぁっ!?」

「五月蝿え!!」

「ろまんりお!?」

 

己のヤクザキックで吹き飛ぶ中村(バカ)には目もくれず、篠村は恐怖と焦燥に血走った目を比較的会話の通じる方()に向け、叫ぶ様に問い掛ける。

 

「…っンだありゃあ!?!?」

震脚(・・)。八極拳のみならず中国拳法では結構な割合で見られる割とポピュラーな技法だね。八極拳のそれ(震脚)は他流派と違ってあまり足を高く上げずに普通の踏み込みの延長みたいな感覚で繰り出すから驚いたかもしれないけど……」

「違う!!心底驚いたというかビビったのは確かだが微妙にというか130度は論点が違え!?比喩表現抜きに大地が揺れたぞなんだあいつは!?」

「ああ威力というか破壊力にビビったのねアザミっち」

「ああ…うん、感覚麻痺してるからなぁ俺達。まあ驚くのも宜からん馬鹿げた代物なのは確かだけれど、それ(・・)が大豪院の特化方面なんだから仕方がないとしか言い様が無い」

「だからお前等は自分達の非常識が周りの害になると自覚しやがぬがっ!?」

「少し落ち着きなさい篠村。……先程話した”何に秀でているか”の話かしら?(大豪院)の場合はそれが…所謂気の放出に特化している故にこの馬鹿げた破壊力だと?」

「まあ放出っつーか発勁つーのかね?ポチは一撃の威力をどれだけ高められるかに焦点当てて鍛え続けてんだ、ずーっとな」

 

一撃必殺目指す俺たぁ同じなようでいて全く違え。と、中村は呆れと感心の入り混じる歪んだ笑いを浮かべた。

 

なんもかんも(・・・・・・)を後回しにして全ブッパやり続けたポチの発勁は本気(マジ)で打ったら魔法で言やあ上級魔法くれえの威力は優にあんだろ。信じられます奥さん体当たりで学園裏手の小山砕いたことあるんですのよあの唇ちゃん」

「序でに言うならそれは中学の頃という話なんだな。当時の俺達で悪ノリして囃し立てたら意外に煽り耐性の低いあのカンフーマスターが本当に粉々にしてしまったものだから、半日近くも鬼の様な形相の杜崎先生に追いかけ回されたっけ……」

「……なんと言うか、その…………」

 

改めて日常生活から何かが狂っているバカレンジャー(イかれ頭五人)の、殺伐とした話をのほほんと語るブッ飛んだ調子に冷たい汗を額に感じながらも刹那は問いかける。

 

「…不躾な問いですが……此れ程の練氣を納めながら(はじめ)さん達と何故修行を……」

 

「まあ、そうだね。極論すれば大豪院の場合俺達との手合わせに殆ど意味は無い(・・・・・)

「ポッちんヤーティ神信仰してる論者だからぶっちゃけせったんの言う通りよー。…そのまんま(・・・・・)じゃいけねって彼奴も解ってっから俺等と頑張ってるんだろけどー」

 

「…?…それは、どういう……」

 

ケケケと甲高い笑声を漏らす中村の含み有り気なもの言いに夕映が眉根を寄せて問い質そうとした時、大豪院のド派手な一撃に恐怖と高揚から湧いた場内へ気を取り直した朝倉の声が響き渡る。

 

『さあぁ皆様!!之なるじめんタイプの引き起こした大技(じしん)に興奮冷めやらぬ所ではございましょうが「俺はポ◯モンか」先輩ちょっとステイ!…そんな意志在る大災害に挑まんとする勇気百倍な何処ぞの食用ヒーローが如き蛮勇の持ち主が此処に居たぁ!!先程紹介に上がりました麻帆良武道系部活の中でも有数の実力者を抱える中武研の長、その貧相…もといスレンダーにして小柄な体格からは想像も付かない強烈な打撃にて並み居る猛者を薙ぎ倒し本選出場をもぎ取ったもう一人のカンフーマスター!!昨年度ウルティマホラ優勝者、古 菲(クーフェイ)選手ぅぅぅぅぅっ!!』

 

「「「「ヴァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」」」」

 

 

「朝倉、失礼アル!」

 

「俺に比べればマシだろうが……」

 

プンスコと頬を膨らませながら入場してきた古に大豪院は糞でも踏みつけた様な顰め面でそう告げる。

 

「菲部長ぉぉぉぉぉっ!!その災害タラコに正義の鉄槌を!ズタボロにしてやって下さいぃっ!!」

「ウラァ今日という今日こそ年貢の納め時じゃあ人望ゼロの名ばかり副部長が!!菲部長、遠慮は要らないんでやっちまって下さい、いっそ殺っちまって下さぁぁい!!」

 

「……だ、そうだぞ麗しの菲部長」

「ポチはホント彼奴らに嫌われてるアルねー。真面目に鍛えて仕事もしてるのにかわいそアル」

「大半は貴様の所為だよアーパー小娘」

「聞き捨てならないアル!私がポチに何したアルか!!」

「もういい加減訂正するのも疲れたが俺をポチと呼ぶな、そして普段の言動を省みろ。どうせ言っても無駄だろうが……まあ、そんなことはどうでもいい」

 

ムガー!と両腕を振り上げて吠える、思えば随分な付き合いになる少女の変わらぬ天真爛漫を絵に描いたような様に大豪院は一瞬目を細め、自らも変わらぬ憎まれ口を叩いてからゆっくりと身体を開き、僅かに腰を落とす。

 

「ム……」

「案ずるな、よもやこの様な舞台で奇袭(チィーシィー)など仕掛けん。古……」

 

拘らせてもらうぞ(・・・・・・・・)と。

 

大豪院は目の前の少女、古 菲(クーフェイ)に出会ったその日。対峙した其時と変わらぬ言葉を昂然と告げる。

 

一次打击(イーツゥダーヂィー)《一撃だ》」

 

 

 

「…なんて言ったの?最後?」

「一撃だ、だってよ。よーするにワンパンKO宣言?」

二打不要(アーダーブーイャォ)…だったかな?さっき綾瀬ちゃんが解説してくれてた李 書文先生の異名の一つ。どんな相手でも初めの一発で打ち倒した事で付いたまさに”一撃必殺”そのものだね」

「…はあっ…はあ…っ……お前相手なら、一発で充分だってか?流石に自惚れ過ぎだろ。あのカンフー娘ンな弱くねえぞ、キワモノ馬鹿集団の頂点(部長クラス)でもトップレベルに強いんじゃねえの?」

 

ようやく先程の狂騒を少しばかり落ち着けた篠村が息を切り切り辻と中村に尋ねる。伊達に日頃の鍛錬では楓に絡まれ古に絡まれとバカレンジャーの一行たる戦闘狂(バトルジャンキー)達に絡まれ続けているわけではない、確かに古 菲はバカレンジャー五人には及ばないものの力量そのものに隔絶した差は無く、闘いの流れ次第では充分勝ちを狙いにいけるだけの実力があると篠村は分析していた。

 

「あー違う違う。古ちゃんが弱いとかそういうんじゃないのよ、寧ろこの麻帆良じゃ練ってる技…あー言葉にしづれえから彼奴ら流にクンフーでいいや、においちゃあ普通に俺等(バカレンジャー) ≒ 古ちゃんだもんよ。あ、リーゼントの阿呆は別な。ありゃある意味天才だけどそう呼ぶのはなんかムカつくからバグだバグ。…んで古ちゃんはあの介党鱈(スケトウダラ)とはまあ武術系統被ってっからなー、そうなっと純粋に素の実力勝負になっちまうから噛み合うけど相性悪いのよ。ぶっちゃけそれなりに真剣(マジ)な勝負で古ちゃんが(すけとうだら)に勝ったの見たこと無えわ」

「どうでもいいですがさっきから大豪院先輩に対するスケトウダラ連呼はなんなのですか?」

「知ってるー夕映っちー?俺等がタラコだと思って食ってんのはスケトウダラの子なんだってー。少なくとも一般的に出回ってるようなのは」

「そうですか……どうでもいいですね…」

「そうなんです……どうでもいいわなー」

 

「話元に戻してくんないそこの馬鹿?」

 

それまでの話題を明後日の方向にふっ飛ばしてから夕映と漫才の様な掛け合いを繰り広げる中村は辻の冷たいツッコミにへいへいと頷き、脱線した話の流れを修正に掛かる。

 

「まあ要するに古ちゃんはスケトウダラ唇より実力で半枚落ち…までいかねえか、一枚落ちくらいだわねえ。真っ当にコンディション万全の状態同士で当たりゃ普通に十回闘って七、八回負けちまう位には差があっけど、モチのロン一発でやられちまう程の実力差は無えよ。あれは単にポチ袋の拘り(・・)だあね」

「聞いてて混乱するので呼び方統一せんでござるか?……拘り、とは古に対して?」

 

紛らわしい中村の語り口にツッコみながらも楓は合いの手を入れる。大豪院は兎も角古 菲とは短くない付き合いである楓だが、しばしば闘り合っていると話す古 菲の口からそれらしい話を聞いた事は無かったからだ。

 

「俺等にもそうだけど、古ちゃんに対しては一際かなー?普段の手合わせやら鍛錬でいっつもやってるわけじゃねえから楓ちゃん達が知らないのは無理ねえよ。真剣勝負の時ほど、あいつの阿呆な拘りは顔を覗かせると来たもんだ」

「…まあ、俺としてもこればっかりは中村に同感かな?色々趣味嗜好じゃ他人のこと言えた義理じゃあ無いけれど。やっぱり大豪院も俺達とウマが合うだけのことはあったんだというかなんと言うべきか…」

 

「つまりは馬鹿の同類という所だろうよ、主」

「曲がりなりにも主と呼んでる男を馬鹿呼ばわりするなよ…反論出来ないけど」

 

曖昧な言葉で評する二人にフツノミタマが皮肉気に口端を曲げながらバッサリと言い切り、遠慮の無い己が刀の混ぜっ返しに辻は嘆息混じりに応じる。

 

「……で?」

「一撃必殺主義」

 

結局なんなの?と言外に含ませる明日菜の促しに辻は正確な表現じゃ無いけど端的に表すなら、と前置きしてそう口にした。

 

「”八極の果てまで通ずる極限の我が打、たかが人間(レン)如きの打倒に二撃は必要無い”…んだってー、おめえも人間だろっつーなー。まあ有体に言って阿呆だあな」

 

ケタケタと甲高い笑声を吐き出しながら、言葉の内容とは裏腹にどこか弾むような調子で中村は言った。

 

 

 

「…やっぱりそれ(・・)アルか。馬鹿にされてるでも嘗められてるでも無いのはもう解てるけど…ぐつぐつポチも中村や豪徳寺の同類アル」

「その煮えてる擬音はつぐづくと言いたいのかもしや?…ともあれ、そうだな。こればかりは反論出来ん」

 

相も変わらず微妙に可哀相な日本語力をしている目前の腐れ縁な少女の相変わらず振りに嘆息しながらも、発言の内容自体には反論の余地も無く。改めて己は阿呆な真似をしていると自嘲の念が込み上げてくる。

しかし、それでも。

 

「これが対練ならば自重しよう、実戦ならばこんな下らん拘りなど掃いて捨てる。友や庇護者の安否に変えられる様な崇高なものでは断じて無い。…本来ネギの悲願が掛かっているこの場でも抑えねばならんものであるが……」

 

こうでなければ嫌なの(・・・・・・・・・・)だから仕方がない(・・・・・・・・)

 

 

「古、お前が相手ならば。お前だからこそ、俺は拘らせて貰う」

 

「…特別扱いは嬉しいアルよ?こんな()でも女孩子(ニュイハイシィ)アルから」

 

古は一瞬目を見開いた後、クツクツと小さく笑みを漏らす。

 

「私は付き合わないアルよ。遠慮なく、キメに行くアル」

「それでいい、そうでなくてはならん。これは俺の、我儘だからな」

三体式。左足を前に前後へ大きく開き後ろ脚は僅かに曲げて重心を中心やや後方へ、両手は指を揃えて開き右掌は下を向け半身に開いた丹田付近、左掌は腕を真直に伸ばし、天へと指を揃え目前の敵手へと自然に向ける。

緩く腰を落とし、上から糸で上半身を吊り上げられているかの様な”軸”の通ったその構えは、まだあどけなく華奢な印象さえ抱かせる幼さの残る面相を持つ少女(クーフェイ)が、その若さにそぐわない並々ならぬ功夫(ゴンフー)を積んできた事を、理解る(・・・)者には如実に表していた。

対する巌の如き大男が取るのは腰を落とした少女とは逆身の半身構え。右足の爪先を真直に相手へ向け、前後に大きく開いたそれは少女のものに共通するが、大男(だいごういん)のそれは名も無き八極拳の構えよりも更に腰が深い。後ろ脚は左斜後方へ肩幅二分を優に越え、右足首と膝の角度はほぼ床と垂直に近いその重心の低さは、一見して機動性を無視した待ち(後の先)の構えに見える。肉厚にして巨大な体躯を低く、大きく開いたその姿は、山がその身を今にも爆ぜさせ此方を巻き込まんと、その圧倒的な質量を撓めながらジリジリと迫り来る様な錯覚さえ感じさせる圧迫感(プレッシャー)を放つ。

 

 

「…じゃ、お二方は準備万端?始めるよ」

 

几点都行(ヒィデートゥシャン)《いつでも》」

不需要言语(プゥシアァヤンイィ)《もはや言葉は不要だ》」

 

「中国語あんまり達者じゃないんだって私…まあ言いたいことは大体分かったけど」

 

最早互いのことしか見えていないザ・中華’sの端的な返事に苦笑を浮かべつつも、同時に間違いなく今迄の試合と同等かそれ以上の破壊劇がこれから始まるのだろうと暗澹とした気分にその笑みが引き攣ったものになる朝倉である。

高確率で開幕から発生するであろう衝撃波に備える為、闘技場の端に備え付けられた避難シェルターMk-Ⅱ(哀れ初代はネギと高畑の試合の余波で半壊した)の内側へそそくさと避難する朝倉を見て喧囂は口を開く。

 

『さて、間も無く試合開始と相成ります。大豪院選手versus(ヴァーサス)古 菲選手、この二人の対決には余計な装飾は不要でしょう。中国4000年の歴史を誇る…まあ中国武術の起源が本当に紀元前の倍程も前から連なっているのかは諸説あり確定してはいませんが…』

 

『余計な装飾(セリフ)をいれてんじゃねーかよ!?』

 

『おっと失礼……流派は違えど同じ故国(クニ)より生まれ出でた最上級に伝統的(クラシック)な武術の使い手。決着は拳を一合交えたその瞬間(とき)に、既に終わりを告げているやもしれません。見逃すことの無いよう固唾を呑んで、それでいて二次()害を警戒して腰は完全に座席へ着けないままご覧下さい』

 

簡潔に纏めようとして己が業により余計な茶々が入りかけた喧囂の解説に観客の一人が咆哮し、明らかに格闘大会で入るべきではない警告文句を添えつつ言葉を切った。

 

 

「……参考までにお伺いしますが、この試合も下手をすれば……?」

「下手しなくても奴らぁ付き合い長い分、弁えてるように見えて遠慮が無いから死人はでっかもしれんぜ。安心せい夕映っち」

「…………、………………………」

「ゆ、ゆえ〜!前に内容全部が作者に対する敬意の無いパロディの二次創作小説読んだ時みたいな顔してるよ〜!?」

「どんな顔だヨ、ソレ」

「好き嫌い通り越して理解したくない類のもの見た顔じゃないですカ?」

「…スカトロプレイ……」

「黄土茶色になりてえかプリン体めが。…まあ大丈夫だろ、前回のガチ手合わせじゃ古ちゃん両肩ボグッと逝って靭帯伸びまくった程度だったし……」

「充分重体です。……まあこれまでの試合を鑑みれば何を今更という話なのでしょうが……」

 

改めて、お祭り騒ぎのノリで流してしまうには血生臭過ぎる一大イベントに執心している同級生(クラスメート)と先輩連中の、異国人を通り越して異星人染みた精神性(メンタリティ)の違いに眩暈にも似た感覚を覚え頭を押さえる夕映である。

違うと感じることとそれを悪しと感じることはイコールで結ばれるものでは決して無く、其れなりに長い付き合いにもなった現状からすれば今更この程度の相違で喚く気も拗ねる気も無いが、それにしたって端から見ていれば死に急いでいるようにしか見えないその様は一言くらい物申したくなるものであった。

 

「言いてえ事は大体察するけどよー夕映っち、好きなモンの為だったらいくらでもはっちゃけられるのが人間だろーよ。夕映っちやのどかちゅわんだって本一冊の為に下手なダンジョンより危ない魔窟に潜ってんじゃん。たかが本なんつったら怒るかもしんねえけど俺からしてみりゃそっちの方が狂気の沙汰だぜ、要は方向性の違いよ方向性の。俺らぁ戦闘狂(バトルマニア)で夕映っち達はなんつーの、ビブラムフィリア?」

「最後の最後にオチをつけないでください。愛書家(ビブリオフィリア)です、日本では慣用的にビブロフィリア。誰が合成ゴム底の偏執家ですか」

 

少し真面なことを言ったかと思えばいまいち締まらない中村のボケに夕映は肩を落としてツッコミを入れながらも、言われた内容(こと)自体には得心のいく思いであった。

”好きこそ物の上手なれ”ではないが、何かしらの分野で成功し、評価されるものの多くがそれらの事柄に感情の正否を別として執着(・・)するものである。何かを極めるには高いモチベーションの維持が不可欠である以上、中村達(武道家)が常人から見て常軌を逸した振る舞いをしているように見えるのは寧ろ必然であり、おかしなことではない(・・・・・・・・・・)

 

「人の趣味嗜好にケチをつけるのは無粋の極みでござるからなあ。こうして中村殿に懐いている拙者等自身をも嗤うということにござる」

「懐いて……いえ、まあ。…ともあれ、冷たい言い方をしてしまえば所詮他人事ですからね。元よりこれ以上常識云々を吐かす気はありませんが…」

 

夕映は半眼で横の中村を見やり、どこか嫌味たらしい調子で言葉を締め括った。

 

「それでやる事為す事全てが正当化される訳ではありませんからね」

「返す言葉もごぜぇやせん」

 

 

 

『…はい、実況員こと私の避難も終了いたしましたのでこれより第八試合、大豪院選手VS古 菲選手の試合を始めます!!最後に皆様、どうか観戦中はお気を抜かれる事のありませんように!この試合確実に此れ迄のどれより酷い試合になりますので!!観客席には万全を期して安全防護処置が為されておりますが本当に!ボーッとしてると最悪死にますからね!!私警告したからね!?』

『いいから早く決闘(デュエル)開始の宣言をしろ磯野ォ』

『誰が微妙にリアクションの萌えるKC社員よ、ノらないからね!?……ああ、もう!!』

 

注意を促す体でこれから始まる大破壊劇を間近で見届けねばならない緊張と恐怖へ覚悟を決めんとしていた朝倉は喧囂のフってきたボケに対して反射的にツッコミ返し、一拍遅れて気を遣われた事に気付く。

何もお前目掛けて攻撃が飛んで行く訳じゃあない、肩の力を抜いていけ、とでも言わんばかりに薄い笑みにて笑い掛ける喧囂を一瞥して朝倉は半ば勢いで強引に肚を決め、手に持つマイクを折れんばかりに握り締める。

 

『……試合!』

 

大豪院と古の身体がほぼ同時、紙一枚程も無いあるかないかの域で沈み。

 

『開始ィィ!!』

 

弾かれた様に両者(・・)共に前方へと飛び出した。

 

 

「……ッ!?」

 

互いが互いに開始直後からの近接を選んだが為に手の届く距離まではほんの一刹那。その僅かな間に古の脳裏を掠める様にして浮かんだのは驚愕と疑念だった。

 

 

……他从自己出现了(自分から、出て来た)………!?

 

 

大豪院は一撃での決着に拘っている。

 

少しでも武道という形でこの男と関わりを持てば誰もが知っている事柄であり、其れに拘るが故に大豪院の出足は遅い。確実に初撃を当てる為に後の先を狙う事が殆どだからだ。

過去何度もその”一撃必殺”に沈められた事のある古だが、その流れは決まって低く腰を落として待ち構える大豪院に猛然と打ち掛かった古がその打を捌かれ、いなされして反撃(カウンター)の一打にて吹き飛ばされる形であった。

八極拳は前に出られない拳法では無い、敵の動きを制し必ず当てる事を旨としている為に陸の舟(動かないもの)とも形容されるが、歩法が洗練され小さく目立たない故の印象である。熊歩虎爪《熊の様にどっしりと安定した歩みで虎の如き猛烈な打を見舞う》の別称を持つその動きだが、間合いを詰める際のその速度は熟練した拳士ならば鈍重である筈も無く。

 

「…っ、()ァァ!!」

 

その危疑が形となる前に古は強く踏み込み、迷いを払うかの様に強く右拳を大豪院の中心(鳩尾)へ打ち出した。元より古が主体(メイン)として修める形意拳が理念は”硬打硬進”、相手の虚実に拘らずただ真中を打ち抜くのみである。

跟歩からの進歩、後脚の付いた床面が爆発した様な踏み込みから継いだ右脚が踏み込まれ、趾球と足指に全体重の乗ったそれにより闘技場は一瞬縦に揺れる。丹田を中心とした猛烈な腰の捻りから打ち出される崩拳(ポンチュアン)は、不意を突かれた形となった一時の劣勢を引っ繰り返すに余りある古 渾身の一打であった。

 

「………!!」

 

床にクレーターを作り上げながら打ち込まれた岩をも砕く超常の一撃に、大豪院は防御迎撃回避、何れの動きも取りはせず、ただ震脚による急制動にて床へ破壊痕を穿ちながら止まった(・・・・)

 

「っ!?」

「…()ッ!!」

 

態々前に自分から出ておきながら動きを止め、攻撃を喰らいにいくかの様な大豪院の異様な行動。当然迎撃、回避から次の動きに入ると踏んでいた古は己の拳がいとも容易く大豪院の鳩尾に吸い込まれた事に目を見開く。が、打撃(インパクト)の瞬間吼える様な大豪院の放つ裂帛の気合いと共に、その内側から噴き上がる様にせり上がった(・・・・・・)力に己が打撃を弾き返され、その(まなこ)は更に開かれる。

 

『こ、これはぁぁ!?』

『古 菲選手の中段突きを無防備に攻撃を喰らったかに見えた大豪院選手、頽れるどころか打ち込んだ古 菲選手を跳ね返しました!!』

 

両者の踏み込みによる衝撃の余波が会場を揺らす中、攻撃を放った側が吹き飛ぶという異常な光景に会場はどよめき、

 

「あ、やべえ」

「まっずいなあれ…」

 

零れる様に選手席の中村と辻がそう洩らしたその瞬間には、もんどり打つ様にして後方に流れる古の体前に大豪院が地響きと共に踏み込んで(震脚して)いた。

 

糟了(ザオラ)…っ!?」

「勝つのが二の次だと不快な感違いをされても困るのでな…決着(ヂュエスゥァン)だ」

 

転倒こそ免れたものの、完全に体勢を崩した古の悪態に静かに応じ、大豪院は前方へ跳ぶ様に左脚を床へ叩き付け躍り出る。殆ど古の身体と交差する程に深く踏み込まれた右脚は古の側面を越え左斜下方に。

 

再び龍宮神社を直下型の大地震が襲う。

 

『うわわ、わ……!』

「「「「うおおっ!?」」」」

「「「「きゃあぁ!?」」」」

 

「ぐ……っ!!」

 

 

朝倉が僅かに恐怖と、単純な振動による物理的影響で僅かに上擦った震え声を、内臓から浮き上がる様な一瞬の浮遊感に観客が悲鳴を上げる中、震源地(・・・)にいた古は踏み込みで発生した衝撃波により身体が宙に浮かされて、無防備な姿を晒す。その(死に体)目掛け大豪院の身体は踏み込まれた右脚を軸として急速に旋回し、左脚は破壊痕(クレーター)にめり込む右脚へと寄り添う様に叩き付けられる。

瞬動に値する速度の歩法による前進の勢いが、局地的な地震を引き起こす程の震脚(踏み込み)によって急制動。慣性の法則により前方へと打ち出される上体による靠撃に練り上げられた外気による発勁が加算された大豪院の絶招。

 

 

「…()ッッ!!」

 

 

鉄山靠(ティエシャンカオ)が古へと炸裂した。

 

『ちょ、直撃ぃぃぃぃぃっ!!』

 

古は独楽の様に激しく回転しながら弾丸並みの速度で斜め上方に射出され、観客席を繋ぐ廊下の屋根へ着弾する。重厚にして頑丈な春日造の木材を微塵に破壊しながら古は尚も止まらず、緩やかな放物線を描いたその身体は闘技場から二十m程も離れた境内に鈍い音と共に叩き付けられた。

 

 

『『『『…………………………っ!?!?』』』』

 

『菲部長ぉぉぉぉぉぉっ!?』

『てめえこのバケモンがぁぁぁぁぁ!!』

 

『……どう見る?』

『いや……相当にイイのが入ったぞ。厳しいのではないか?』

 

 

目の前で起きたあまりの惨劇に観客は水を打ったように静まり返る。元気なのは同じ穴の狢の武道家達と身内同士の対戦とは思えない程に一方に対してだけヘイトを高めている中部研だけであった。

 

『以後は転倒しない様、大豪院選手が打ち込む際立見のお客様は近くの手摺にあらかじめお掴まり下さい。…さて、試合開始直後から早くも古 菲選手は大打撃を喰ってしまいました。果たして闘技場へ二十カウント以内に復帰する事は可能でしょうか?というか朝倉、早くカウント…』

「カウントもへったくれも無いでしょうがスタッフー!!待機させといた医療班急行させてぇぇぇっ!?」

 

そんな中変わらぬポーカーフェイスを保ったまま解説席の喧囂は、改めて格闘大会で入るべきでは到底ありえない注意を観客に向けて発した後朝倉に場外カウントのカウンティングを促す。が、当然と言うべきか朝倉は古への対処で頭が一杯であった。

 

「職務放棄は感心せんぞ朝倉。まず無駄になるだろうが仕事はきちんと果たせ」

「あんたには血も涙も無いのか!?ああ、さっきみたいな殺人技躊躇いもなくぶっ放せるんなら無いんでしょうねこの冷凍タラコ!!」

「まあ聞け、古は今に上がってくる。が、お前の良識もそう捨てたものでないな。級友(クラスメート)の安否を気遣えるならば上司のサイバーテロリストと違いまだ抹殺リストには入れずによさそうだ」

「例え私が古ちゃんと犬猿の仲でも心配するわこんなん!?そして上がって来るわけ無いでしょ高速道路でダンプの前に飛び出してもあんな景気良く吹っ飛ばないよミンチ肉詰めた肉袋みたくなってんでしょどう考えたって!!古ちゃんで人型餃子でも作りたいのかあんたはぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

血腥く容赦の欠片も無い試合が続き、その内のほぼ全てが顔見知りの潰し合いであった為に朝倉は精神的にクる心労から大分参っていた。其処に来て比較的に常識人(バカレンジャー当社比)である大豪院までが開幕公開殺人現場を披露と来たものである、いい加減にここいらでこの世紀末な世界観にもの申さんと朝倉は猛っていた。

 

『朝倉、落ち着け。そろそろ起き上がるぞ古 菲選手、其処なタラコの言う通りカウントは必要無いだろうが戻ってくる前に平静を取り戻せ。報道部の一員として其処に立つ以上、私情で実況を投げ出す事は許さん』

「っ!!だっから部長……っ!?っんな、ええ!?!?」

 

そんな朝倉の機先を制する様に、個人通信用の無線機よりフラットな喧囂の言葉がイヤフォンから届く。その感情の色が欠片も伺えない冷めた声にカチンと来た朝倉が実況席側へ振り返りながら怒鳴り返しかけたその時、観客席の一角が大きくどよめく。反射的に向けた朝倉の目に、廊下に溢れ返る観客の合間から古の姿が飛び込んで来た。

古はフラフラと頼りなく身体を左右に揺らしながらもその両足で立ち上がり、やや覚束ない足取りながら闘技場(こちら)へ向かい歩き出していた。

 

『朝倉、実況だ。古 菲選手が吹き飛んだのと反対側の観客は何が起きてるか解らんのだぞ』

『……、………っ!!…古 菲選手、場外より起き上がり、闘技場に向け歩き出したあぁぁぁぁ!!信じられないタフネスです、流石にダメージは大きいようですが時間内に戻ってこられるかぁぁ!?………なんで生きてんの?古ちゃん」

 

再び喧囂に促され、朝倉は半ば呆けながらも培った報道部としての経験からマイクへ哮り、最後にぽそりと呟く様に誰へともなく洩らす。そんな朝倉を含めた観客の大半が抱くであろう疑問に答えたのは、次第に確かな足取りで近付いて来る古を見やりながらしたり顔で頷いていた大豪院である。

 

往なした(・・・・)からだ」

「いや…吹っ飛んでたじゃん、これでもかって位」

「ああ、但し回転しながら(・・・・・・)、な。考えてみろ、俺は古の身体の真芯目掛けて勁を放った。本当に直撃したならば古は真っ直ぐ俺の打した方向へ一直線に吹き飛ぶ筈だろう?古は俺から見て四十五度近く右方へ、水平で無く斜め上方に放物線を描きながら飛んだ。…忠告した通り、半端だった化勁(ホァジン)は磨いてきたらしい」

大豪院は不敵に笑いながら観客の群れる渡り廊下を乗り越え、闘技場内へ入って来る古を睨めつけた。

 

 

 

「成る程、化勁(かけい)という奴か」

「うん。中国武術なんかでは太極拳や形意拳が主な使い手かな?(ほん)勁を用いて攻撃を吸収し逸らして、威力を減衰させ軌道を変化させる。僕やエヴァさんの合気と似た技術だね」

「聴勁と発勁が備わり初めて充分な往なしとなる、昨日今日で備えられる技ではあるまい。極まればベクトルの操作だけでなく相手の力に自らの力を加え威力を倍加させてはね返す(・・・・)ことすら可能とするらしいが、流石にあのアーパー小娘はまだその域では無い、か」

「あはは、そんなのエヴァさんや僕もまだ完璧じゃないんだ。幾ら何でも齢十五の古ちゃんに抜かれる程ヌルい修業はしてきて無いよ、そう簡単に抜かれちゃ面目が立たない」

「ハッ、才能の有無は時として真摯な努力などという健気な代物を一度の会合で無に帰すがな。お前も数多湧き出る有象無象の可愛い努力家達に挫折と苦悩を味わわせてきた口だろうに、お為ごかしとまでは言わんが、綺麗事も程々にする事だな慶一?」

「ナニセお前ハ今ヤコノ闇ノ福音タルエヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルノ愛スル旦那ナノダカラ、オ利口ナ物言イハ似合ンカラナ!!……ドウシタヨ、ゴ主人?スゲエ顔シテ。恥ズカシガリ屋ノゴ主人ガ思ッテテモ口二出来ネエ最愛ノ気持チヲコノ童姿ノ魔法使イ(イチ)ノ忠臣、チャチャゼロ様ガ代弁シテヤッタンダゼ?」

「お見事です、姉さん。マスターは折角自らの為に命まで賭けて身体を張ってくださったセカンドマスター、慶一様に対して気恥ずかしさからかプライドからか、対応が素気ないにも程があります。もっと素直に愛情を示さねば慶一様が早々に愛想を尽かし、成田離婚ともなりかねません」

「オオ怖イ怖イ」

「貴様等纏めてスクラップにしてやるから其処に並べボケ人形共!!」

「エヴァさん、大丈夫!僕はエヴァさんが素直じゃない人…吸血鬼だって知っているからエヴァさんの態度は高純度のツンデレだと思いながらマゾ寄りの感覚で楽しんでるから!!」

「止めろ!?確かに私はサドかマゾかで言えば紛う事なきサドだがくっ付いた初っ端からSM意識して新婚生活過ごしたくないわぁ!!」

「ヲイヲイ聞イタカヨ妹、新婚生活ダトヨ」

「ああ、マスター…!甘い生活への期待と昂りを遂に口に出されて……!!」

「違うわ開き直っただけだ、じゃあほかにどう言えというんだ六世紀物の純潔引っ提げた化石吸血鬼が男を身内に入れたなぞこの惑星(ほし)の何処の誰が聞いてもそういう(・・・・)意味にしか取らんわぁ!!上等だ行ってやろうじゃないか新婚旅行(ハネムーン)!ベッタベタのハワイだのモルディブだのでショッピングやレジャーやらロマンチックな海の景色やら満喫して逐一写真撮った後知り合い全員に結婚報告葉書と一緒に送り付けてやるからな覚悟しろ慶一ィ!!」

「僕からすれば寧ろバッチこいだけどエヴァさんステイステイ、ノリと勢いと自棄で行動すると碌な事にならないから。ゼロさんも茶々ちゃんもエヴァさん今怒濤の展開で花婿兼眷属出来ちゃって混乱気味なんだからイジるのは程々にしないと……」

「ダナ。流石二俺モ燦々ト輝ク太陽ノ下白イワンピースト麦藁帽装備ノ満面ノ笑ミ浮カベテオ前ト腕組ンダ主人二抱エラレテ撮ラレタ写真バラ撒カレンノハブッ壊サレテモ御免ダゼ、コノグレェ二シトクカ」

「マスター、まず結婚報告と新婚旅行を行うには式を挙げる必要があるかと。恐れながら私の愚行といたしましてはセント・パトリック大聖堂を一日貸し切り大々的な……」

「ハハハハハハハハ真祖の吸血鬼たる私がローマ教皇の訪れる神の家で挙式だと!?気に入ったぞ茶々丸早速プランニングに掛かれ!!」

「「いいから落ち(イイカラ落チ)着いてよ二人共(着ケヤボケ主従)」」

 

「貴様等全員表に出ろ」

「ガンドルフィーニ先生、このテンションだと表に出した瞬間恋ダンスとか踊り出しそうだから止めましょう」

 

 

 

『……古さんがまだ大丈夫みたいなのは解りましたけど…やっぱり危ないですよ中村さん』

 

所変わって選手席、ふよふよと上下に浮き沈みを繰り返しながらさよは中村に苦言を呈する。闘技場ではどうにか二十カウント以内(試合記録用映像からの逆算)に場内へ舞い戻った古が朝倉に試合続行が可能かの確認を受けている真っ只中である。

正常な思考回路を有している者ならば、大豪院が放ったあの一撃を見て古が尚試合を続行しようとしているのは自殺行為としか思えないだろう。奇襲の様な形とはいえ古の攻撃を難なく往なした上で汚い爆弾(dirty bomb)もかくやと言わんばかりの破壊劇をお披露目であった。これ以上続ければ古が誇張無しにミンチより酷い状態になるのは想像に難くない様に思える。

 

「ってったってな〜さよちゃん、やるかやらねえか決めんのは外野でも審判でも無くて結局は古ちゃんなのよ。上がったんなら古ちゃんはやる気だべ?大体此れ迄と比べてなんか判り易くデーハーだからヤバいと感じるだけで、一試合目の(はじめ)ちゃん時から充分地獄絵図だったじゃないさー?」

 

まあまあ落ち着きんしゃい、と高速スクロールするさよを手振りで宥めつつ、中村は辻へ言葉を投げた。

 

(ポチ)は結局ノーダメかね(はーじめ)ちゃん?まあ古ちゃんのもいい突きだっだけど」

「まあ少なからず響いたろうけど動きが鈍るレベルではないだろうな。あれのおかげで微妙に初動が遅れたから古 菲ちゃんも化勁が間に合ったんだろうし、無意味ではなかったさ」

「…いや、そう言えば古ちゃんのパンチ直撃してたでしょ大豪院先輩。なんで平気で動いてんの?いや先輩達が人外の域にいるのは今回の放送禁止映像フルコースでよ〜〜〜く理解(わか)ったけど、幾ら何でも凄すぎない?」

 

どうせ止めても無駄だこれ、と死んだ目付きで語っていた明日菜が、中村と辻の会話にふと我に返り尋ねた。深く掘り起こして更にドン引きな事実が判明する可能性が高い為気は進まないが、化物要素をこれでもかという程アピールしてくる人生の先達として見習いたくない先輩達の謎をそのまま放置していれば、その内人間扱いすら出来なくなってしまいそうなので曲がりなりにも種や仕掛けがある事を知って安心したいのである。

 

「明日菜さん、あれは発勁を用いたカウンターによる相殺です。大豪院先輩が古の攻撃を受ける直前に震脚を行い止まったのは見えましたか?あれで突進の勢いを外気と共に腹から放って古の打撃へぶつけ、無効化したのです」

「……つまり、先程古さんを吹き飛ばしたものと同様の攻撃を…腹部から放ったと?そのようなことが可能なのですか?」

 

そんな明日菜の疑問に答えたのは辻の傍らに居る刹那だった。言葉の意味としては耳に入ったものの到底理解不能な話だったか、眉根に深い皺を作りながら続けて夕映が問い、それに対して隣の楓が答える。

 

「己の推進力を震脚などの踏ん張りによって重心を沈下させ反作用で身体を固定し、力を減衰させずに伝え打ち出すのが発勁の原理でござるが…達人ともなれば手足の様な末端から末端への大移動を大きな動作により行わずとも、重心移動と体捌きによる最適化された最小の動きで身体のあらゆる箇所に力を伝導させ、打ち出すことを可能とするそうでござる。……その辺りの理屈を抜きに判り易く言うなれば、腹を使った体当たりでパンチを弾き返したのでござるな」

「わ、解ったような、解らないような〜……」

 

勉強は出来ないが得意(好き)な分野ならば小難しい理屈もなんのその、と刹那の解説を掘り下げて説明する楓だが、明日菜を始めとして主に3ーAの面々がピンと来ない様子で首を傾げている為、結果だけを踏まえる噛み砕いた結論を口にした。

 

「まあ自分(てめえ)で実践する訳でも無し、なんとなくそういうもんだと理解しときしゃええべや」

魔法使い(わたしたち)からすれば本当になんの参考にもなりませんからね……」

「…っつーかそれ以前にあんなとんでもねえ打撃を恐ろしい事に殺意の欠片も無いままブッパした所業にまずツッコみ……無駄か、無駄だわな。そういう奴等だわなお前等(バカレンジャー)って……まあ、いいや…それはそれとして、なんで初っ端からあんな無茶すんだよ大豪院(・・・)は。上手く合わせられたから良かったが、腹なんざ重要器官のわんさか詰まってる急所だぜ?タイミング誤ったら内臓ペーストにされちまってたろうが」

「寡聞にしてこういった拳法の理には詳しくないけれど…此方の大道芸人で、大型のハンマーで己の腹部を殴らせるパフォーマンスをしていた方がいたそうよ。気血、というのかしら?を用いて幾度殴られようとびくともしなかったらしいけれど、少し気を抜いた瞬間に一人の観客に殴られて内臓破裂により亡くなられたらしいわ。無知なりにあれ(・・)定跡(セオリー)に則った攻防で無いのは解る、同じ見解ね。何を焦っているのかしら彼は?」

 

中村の身も蓋もない纏めに苦笑しつつ愛衣が応じ、何か色々なものを諦めた据り目の篠村が恨めし気に溢しながらも疑問を呈する。高音が同意しながら視線で辻と中村を促すと、二人は事も無げに返答を返した。

 

「焦ってる、というのは少し違うかなぁ……実際、普通に攻防を重ねながら一発を狙うだけの腕前が大豪院にはあるし、意表を突く為にしろ些か以上にリスキーな選択だったのは確かだよ」

「ポチョムキン一発屋が好きだけど分の悪い賭けや一か八かを好む訳じゃねえ。寧ろあんな誰が見てもヤベえと理解出来る全力ブッパを決めようとすんだから、勝負の組み立ては俺等ん中でも慎重で繊細な質だぜ。そんな奴が何でああもかっ飛ばしてるかっつうと…」

 

「気になる女との勝負だからじゃネーノ?」

「意地でもお前にだけは負けられんって感じですからネー、力んじゃってますカー?」

「ツンデレ乙……」

「まあそれも無いわけじゃないかな?」

 

ケラケラと笑いながらのすらむぃ達による茶々入れに苦笑しながら辻が応じ、中村はそんなスライム娘達の頭をペペペペン!と水平に軽く掌で凪ぎながら続けた。

 

「簡単だ。少々危ねえ橋渡ってでも最初に有利(アドバンテージ)稼いどきてえ位に古ちゃんが強えからだ。なんか雰囲気的に古ちゃんの負け一色な空気になってるけどよ。直ぐに解るぜ、こりゃ人外と人の闘いでなく怪獣大決戦だったって事がな」

 

 

 

『古 菲選手、何とか二十カウント以内に場外より復帰を果たしました、驚異的なタフネスです!!』

『まあ派手な吹き飛び方からして化勁か何かにより威力は流していたのでしょう。更に言うなれば大きく飛ばされるという事は衝撃が体内へ十全に伝わらず運動エネルギーに変わっているという事ですからね。その様な勁を働かせる対象を”移動”させない為に密着した状態で筋肉が弛緩した瞬間を作り、衝撃エネルギーを通す打撃を二試合目に山下選手が用いた浸透勁と呼びます。大豪院選手に完璧な打撃を施す余裕が無かったか、古 菲選手の防御がそれだけ巧みだったかまでは解りませんが、何れにしろまだ勝負はこれからという事でしょう』

『尚、通常のルールにおいては場外から時間内に一方の選手が復帰した場合令なく試合続行となっておりますが、選手の生命状況が危ぶまれる様な危険な状態においては審判の、場合によってはドクターのチェックを受けた上で続行か否かを判断させていただきます!!……ねえ古ちゃんちょっと、本気(マジ)で大丈夫?痩せ我慢とか意地で堪えてるだけなら正直に…」

没问题(メイウェンティ)。心配掛けたアルね、朝倉」

 

古は忙しく解説実況をこなしながらも心底心配そうに此方を案じてくる朝倉に軽く頭を下げて応じながらも、五感にて五体を確かめ戦闘続行に向け余念がない。

 

……打ち込んだ手は折れてはない、強めに捻っただけ。勁を流すのに逆腕はかなり無茶させたけれど、筋肉の断裂程度。筋も骨も逝ってない。動悸、発汗、強めの目眩と耳鳴り、手足が軽く痺れて身体が若干フラつく。…流しきれなかった勁が内臓へ浸透した為の循環機能の乱れによる一時的な異常。ついでに肋骨が二本…三本か。罅は入ったけど折れてない…………

 

己の散々な状態を正しく理解した古は、最後に軽く顎をひきながら付け加えた。

 

「このぐらいなら、軽いアル」

「……いいのね?」

「無論」

「……解ったからそんな睨むみたいにして見ないでよ。選手がやるって言ったらやらせるしかないんだから、こっちは」

 

苦笑を一つして古から離れ、己の仕事場たるシェルター(恐らくというかほぼ間違いなく三代目への交代が近い)へと足を向けながら、マイクへ高らかと宣言する。

 

『皆様、大変お待たせいたしました!!古 菲選手は問題無く試合続行可能と判断出来た為、間も無く試合再開と相成ります!!』

 

『ウォォォォォォォォォォ!!』

 

『菲部長ォォォォ!流石ですぅあぁぁ!!』

『一生ついていきますぅぅぅぅぅぅぅ!!』

 

「開始早々一発で吹飛ばされて、もーろとしながらなんとか復帰した奴に投げる台詞じゃないアルよお前等…待たせたアルね、ポチ」

「ああ、待ったぞ古。最も決められなかった俺からすれば忸怩たる思いだ、が…あの様な半端な一撃で決着などと言われても不完全燃焼に過ぎる故な」

 

大豪院は太い笑みを浮かべて腰を落とす。

 

「良い化勁(ホァジン)だ。一から磨き直したか」

防禦(うけ)だけは私より上手い太極拳使う部員にみちり学んだアル。余波だけでこんななてたなら闘う所じゃないアルから」

 

応じて古は再び三体式の構えを取り、その面に戦意を満たした。

 

「真逆これで勝ったも同然とか思てないアルな?」

「無論だ。多少何処ぞを痛めようが、当たれば一撃(・・・・・・)はお前も同じだろう?」

()………」

 

口を横に広げて笑んだ古は、唐突に片脚を天高く突き上げ、床へと勢いよく振り落とす。

 

大地が、震える。

 

『ちょぉ、待…!?』

 

『『『『うわぁぁぁっ!?』』』』

 

『はい、今度は古 菲選手の示威行動(デモンストレーション)です』

 

先程よりは小さく、だが確かに一瞬境内が縦に上下する。完全にシェルター内へ避難していなかった朝倉は振動で転倒し掛け、前触れ無く揺すられた観客達が悲鳴を上げる中、喧囂はブれずにコメントを挟む。

余震に震える闘技場内にて、猛り滾った嗤い顔の古はへたり込む朝倉へ向け吼える。

 

「さあ、試合再開アル朝倉ぁ!!私は反対側にポチを吹飛ばしてやらねばいかんアル!!」

「最早敢えて訂正はすまい、その舐めた態度の代償は身体で払わせてやろう!早く再開の宣言をしろ朝倉!!」

 

 

『あーもうこのサ◯ダとガ◯ラがもう知らんわあんた等なんざ!!怪物共がこれより激突します皆様ヤバいと思ったら迷わず退避をぉ!試合再開ィィッ!!』

 

叫ぶや否やシェルターに飛び込んだ朝倉を余所に、再び弾丸の様に飛び出した古の抉り込む様な腹部への蹴りと顔面目掛けての突きが同時に飛ぶ白鶴亮翅(はくかくりょうし)と、大豪院のその場で体を沈めた待ちの構えから地響きと共に繰り出した、身体を横に開いた突きの冲捶(ちゅうすい)が交錯した。

 

場内が再び、激震に揺れ動く。

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけた話人ぶっ倒すのに大豪院のそれは威力過剰すぎんだよ。古ちゃんは大豪院よりパワー重視じゃ無えってだけで全力の発勁は軽く大岩砕くぜ?ゴジ◯とTレックスが殺し合う様なもんだっつーの」

 

 




龍宮神社「貴様等私に何か恨みでもあるのか」


閲覧ありがとうございます、星の海です。諸事情ありまして暫く離れておりました、漸く復活出来ました故、更新再開とさせていただきます。暫くは以前の様に間隔が空いてしまうかと思われますが、それでも良いというお優しい方は今後ともよろしくお願いします。
今回は、大豪院はバカレンジャーの中では真面に見えますが、やっぱり辻達と連んでいる以上大概な奴だというお話です。余談ですが、麻帆良へ物的被害を及ぼしている順位はこの男がダントツです。理由は今話を読んでいただければ御察しいただけるかと 笑)
次回で洩れなくまほら武道会第1回戦は全て終了と相成ります。そこまで行ければ後は作者かねてからの念願も多いので、多少のスピードアップが図れるかと。何年掛かろうと完結させる所存です、お付き合いいただける方は、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。
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