天狐玉藻の異世界攻略録   作:Revak

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第1話

 

「シャア! 勝利!」

 

 西暦二千四十一年。日本のとあるアパートの一室で男が叫んだ。

 どこにでもいそうな眼鏡をかけた男だ。若干腹が出ている。

 

(このビルド初めてだけどラスボス戦突破ぁ! いやたのちいですわ~)

 

 男がプレイしているゲームはディロールと言うインディゲームだ。

 一年前に発売したゲームだが値段は千二百円、男はセールで買ったのでもっと安く買った。

 このゲームの特徴的なところは種族と職業の多さだ。

 

 種族として人間は勿論、ゴブリンにエルフ、ドワーフにゾンビに吸血鬼にスケルトン、機械人形などの種族になれるのだ。

 勿論それらの種族用の能力、特殊能力(スキル)も実装されているし、種族的特徴や欠点もある。

 数十種類の種族になれるのである。

 

 そして職業、このゲームではクラスと呼ぶがそれもまた百種類以上にある。

 基本的な戦士であるウォーリァー、魔法使いであるスペルキャスター、クレリックなどなど。下位クラスから上位クラスまで含めて百を超えるほどある。

 それらによる自分だけのキャラクタービルドは男にとっては他の趣味を忘れるほどにハマらせた。

 と言ってもゲーム自体はあまり売れていない。ダウンロード数二十程度である。

 これには訳がある。メインクエストの内容が薄いのだ。

 

 メインストーリーとしては異世界の大陸の中央に帝国があり、その帝国で反乱が起こるという物。

 こう聞くと反乱側が主人公に思えるが実際は帝国側が主人公の所属する勢力になる。

 更にクエストも全五章構成で短く味が薄い。

 

 だがメインクエスト以外のクエストは多数ある。

 

 基本的なお使いクエストから討伐クエストまで百を超えるサブクエストが実装されているのだ。インディゲームとしては驚異の多さとも言えるかもしれない。

 それらのクエストを遊べば充分値段に見合ったボリュームはあると言えるだろう。

 

(さて、次は何のビルドで遊ぼうかなぁ~)

 

 男がそう考えながらエンディングのスタッフロールをスキップする。

 すると、新しい画面が出た。

 

「なんだこれ」

 

 パソコンのモニターの画面にはこう出ている。

 

『おめでとうございます! あなたはこのゲームを十回クリアしました! 報酬として特別な二週目を開始してあげます! 二週目に入りますか?』

 

(特別な二週目? 二週目なんてこのゲームにあったのか)

 

 ディロールは周回プレイは出来ない仕様だ。

 エンディングも一種類しかなく周回要素はない。

 

 だが、急に出て来た二週目と言う言葉。

 

(ゲーマーとしてやらずにはいられない!)

 

 そう考えた男は『はい』をクリックした──クリックしてしまった。

 瞬間男の意識は闇に消えた。

 

 

 

 

 

 ■

 

「んあ」

 

 男は目を覚ました。

 

「どこじゃ、ここは」

 

 男の視界に映るのは見たことない天井だ。

 

「……あれ?」

 

 次に男は己の声に違和感を抱いた。

 

「あー、あー、あー?」

 

 声が可憐だ。

 女性の声のように清らかな声。

 風でも引いたのだろうかと上半身を起こす。

 

 ばるん、と胸が揺れた。

 

「は?」

 

 男は己の胸を見た。

 

「おっぱいがある?!?!」

 

 そこには百十センチの爆乳があった。

 服も下着もつけていない、全裸の胸があった。

 

「そして声が女じゃな?!」

 

 叫ぶことで男──女は己の声が女の物になっていることに気づいた。

 

「夢じゃな、これ」

 

 女はそう言いながら己の胸を両手で揉んだ。

 形が変わるぐらい力強く揉みしだく。

 

「……夢じゃなさそうじゃのう」

 

 取りあえずベッドから降りよう、と女はベッドから降りた。

 全裸のままベッドから降りる。なぜか全裸の癖に十の指に指輪をしていた。

 女は己のまたぐらをのぞき込み女の女性器ってこうなってんだなと一分ぐらい観察した。

 いかん見てる場合じゃないと女は己の姿を見れる物はないかと部屋を見る。

 そこそこの広さを持つ部屋だ。

 クローゼットもあるしテーブルと椅子もある。

 

「鏡じゃな」

 

 女はクローゼットの近くに置いてある姿見に近づき己の姿を見る。

 

「……玉藻じゃのう?!」

 

 そして女はついに己のしゃべり方も変わっていることに気づいた。

 

 玉藻とは男がディロールでプレイしていた自キャラクターの名前だ。

 種族は妖狐系最上位の天狐、レベルは当然のように百。

 クラス構成は幻術特化であり精神操作も可能な最上位クラス、ハルツィナツィオーンに就職しているキャラクターだ。

 

 女──玉藻は己の姿を見る。

 

 身長百九十二センチの長身の狐顔の美女。

 金髪の肩までかかる髪に茶色い瞳。

 胸はでっかく百十センチはある。垂れてはおらず重力に逆らいツンと張っている。

 腰は細くケツはでっかい。

 人の耳はなく頭上には狐の耳が生え臀部からは十一本狐の尻尾が生えている。

 

「どういう事じゃ……?」

 

 玉藻は何が起こったのか考える。

 原因はまず間違いなくゲームの十週目の時に出た画面だろう。はいと押した瞬間こうなっているのだから。

 

「どうすればいいんじゃ……?」

 

 現実に帰りたい、と玉藻は思う。

 見ている途中のアニメや漫画があるし、プレイしたい新作のゲームだってある。

 両親は既に亡くなっているのでそう言った心配はない。兄弟姉妹も居ないし。

 

(まずはここがどこか知らなければ)

 

 というか全裸のままだと不味いのでまずは服を着なければならないとクローゼットを開ける。

 中には女性用の魔法道具(マジックアイテム)の服が多数あった。

 だがどれもしっくりこない。

 

「うーむ」

 

 これがゲームと同じなら玉藻用の最強装備一式をインベントリに入れていたはず、とアイテムボックスを開けないか手を振るう。

 物を取り出すように腕を虚空に突っ込むと腕が虚空に消えた。

 

「おぉ、便利じゃなこれ」

 

 入れるとアイテムボックスの内容がわかった。

 アイテムボックスから下着と己用の最強装備一式を取り出す。

 

 女ものの服など着たことないくせになぜか手に取ると着方がわかってするすると着用できた。

 

 改造した巫女服を着ている。ミニスカートが付いている。

 美女ではある為似合ってはいるがどこか歳に合ってなさそうにも見える。

 足には下駄を履いている。

 乳の上半分は露出している。

 

 これこそが玉藻の最強装備一式であり、己の幻術を強化する最上位装備だ。

 ランクは一つを覗き伝説級で一つは神器だ。

 

 これを着ていれば何かあっても大丈夫だろう、と玉藻は部屋を出ることにする。と言っても己の戦闘力の大半である魔法が使えるかわからないので戦闘力は落ちているだろうが。

 

 部屋を出る。

 木の板の床と天井が広がる通路だ。右手側には階段がある。

 階段を慎重に降りていくと降りた先はリビングだ。

 

「ここは……可搬の館かのう」

 

 玉藻はこの家の内装に覚えがあった。

 可搬の館とはプレイヤーが持ち運びできる家の事であり、ある程度広い場所ならどこにでも設置出来る。

 

 気になった玉藻は玄関まで行きドアを開けて外に出る。

 

「……空は……こうすればよいのか」

 

 玉藻は下駄の魔法効果を発動する。

 下駄には第四環魔法の<空中歩行>(スカイウォーク)が込められている。

 環とは魔法のランクの事で第一環から第十、更に上の無環魔法までの十一種類がある。

 プレイヤーは魔法クラスの場合レベルアップ時に三つの魔法のうち一つを選択して覚えていくので人間種だと百レベルで百の魔法を覚えることになる。

 そこから更に魔導書やNPCから魔法を教えてもらう事で百以上の魔法を覚えることが可能だ。

 

 玉藻は無意識化で幻術の魔法を行使し己の身体能力を馬鹿みたいに引き上げるとジャンプする。

 二百メートル程真っすぐジャンプすると下駄の力で空に立つ。

 

「この地形は……ゲルへアあたりじゃな」

 

 ゲルヘアとはゲーム開始直後の地形だ。

 ゲーム開始時プレイヤーは二つのスタート地点になる。

 

 一つはこのディロールを訪れる南からの旅人か、このゲルへアにとらわれた哀れな囚人Aかだ。

 異形種……玉藻の種族である妖狐やアンデッドを選ぶと旅人、ゴブリンや獣人などの亜人種、エルフなどの人間種を選ぶと囚人スタートになる。

 

 玉藻は一旦地上に降り、可搬の館を回収する。

 触れる事で可搬の館が手のひらサイズになり、それをアイテムボックスに収納する。

 

「どうするかのぉ……」

 

 現状の目的は元の世界への帰還として、それにあたってどういう行動をするべきか。

 原作通りに進むとして原作キャラはどうなるのか、主人公は居るのか、などが気になる。

 

 取りあえずゲルへアに行くか、と玉藻は歩いて行った。

 

 

 

 

 ■

 

 

 歩く事二十分。ゲルへアが地上からでも見えてきた。

 ゲルヘアは小さな、と言うとおかしいが砦の中に村がある砦だ。

 防衛力の高そうな石の城壁に塔が二つ、鐘のついた物見櫓が一つ立っている。

 

 歩いてゲルヘアに近づき、門の前まで行く。

 門は開いていた。門番が二人立っているが特に気にされることなく入ることが出来た。

 

 街並みは普通の寂れた村と言った感じだ。一応鍛冶屋と雑貨屋と宿屋が一件ずつある程度である。

 

 取りあえず宿屋に行くか、と足を向けようとした瞬間櫓から鐘の音が響き渡る。

 

(──ゲームと同じか)

 

 原作通りならばこの鐘の音は襲撃を知らせる音であり、襲撃者は反乱軍だ。

 反乱軍の兵士二十人がこの砦を攻め落とさんと来ているのである。

 原作ではその軍勢によってこの砦は攻め落とされ、住人は虐殺される。

 

(原作通りに……いや)

 

 玉藻はふと考える。

 今の自分には力がある。レベルカンストという最上位の力が。

 それをもってすれば今から攻め来るレベル一から七程度の二十人を蹴散らすことなど容易だ。片手間で殺せる。

 

(だが、俺に人が殺せるのか?)

 

 玉藻はそう考える。

 所詮かりそめの力を与えられただけの一般人Aが自分だ。戦うなんて出来るわけがない。

 

(いや……俺自身が戦わなくていい)

 

 その力が玉藻にはある。

 

 見殺しにするのは嫌。だからと言って自分が直接人を殺すのも嫌。

 故に──玉藻は最悪の手段をもって解決しようと跳躍した。

 

 

 

 

 玉藻のクラス構成は幻術特化だ。幻術とは精神干渉術でもある。

 

 玉藻はゲルヘア前の平原に降り立つ。そこには五百人の反乱軍の兵士が進軍してきていた。馬に乗っているのは少数でほとんどは徒歩だ。

 

 その数を前に玉藻は原作とちげぇ!と顔をひきつらせた。

 己にとって五百人程度敵ではないがゲームだと二十人しかいなかったのだ。

 これは現実とゲームの違いか、と玉藻は気合を入れた。

 

 玉藻は反乱軍の前に立つ。

 反乱軍の兵士たちがなんだ? と疑問を抱く。

 異形種の女一人などこの数の敵ではないと強気に兵士は出る。

 

「どけ!女! 我々はこれから大義を成すのだ!」

「──ここから遠く離れて行ってくれんかのぉ、反乱軍の兵士たち。出なければわらわは何もせん。だがこの先のゲルヘアに攻め入るというのなら……地獄を見てもらうぞ」

「笑止! ならばお前を殺して突き進むとしよう!」

「──警告はしたぞ」

 

 玉藻はアイテムボックスから扇子を取り出した。

 赤色の彼岸花が描かれた扇子だ。己の行使する幻術系魔法を強化する力が込められている伝説級の魔法道具(マジックアイテム)だ。

 

 扇子を広げ、振るう。

 

 それだけで五百の兵士全員の精神に異常をきたさせた。

 

「殺せ!」

「お前が死ね!」

「げぎゃるぎぎぴっぽろぱー!」

 

 兵士たちが武器を抜き取り戦いを始めた。相手は近くに居た同胞である反乱軍の兵士。

 兵士たちは今精神を弄られている。激昂状態となり近くにいる相手を敵と認識し襲い掛かるようになったのだ。五百の兵士全てがだ。

 

 更に攻撃力を上昇させ防御力を低下させることで死にやすくしている。

 

 兵士たちは本気で殺し合う。その様を見ている玉藻はうっぷと吐きそうになったが耐えた。

 腕が切り飛ばされ、腹を切られ内臓が飛び出る。頭を勝ち割られ脳髄が出る。

 

 そうして五分も経つ頃には九割が死に、残る一割は動けなくなっていた。

 

「せめて安らかに死ぬがよい」

 

 そう扇子を広げ幻術の炎を展開する。

 幻術で炎や雷を生み出すことが出来るが、これは相手の精神耐性に依存する攻撃だ。

 相手が現実だと認識すればそれは本物となるが精神耐性が高く偽物だと思われれば効果が弱まる。

 今の精神が弱体化している兵士たちにはちょうどいいと玉藻は炎の波を起こし生き残った兵士を焼き払った。

 炎は草原の草を燃やさず死体を燃やさず、生きている兵士だけを焼き尽くした。

 

 結局自分で手を下したことに嫌悪感を抱き吐きそうになるも気合で堪え、玉藻はゲルヘアに戻っていった。

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