「ここじゃな」
二十分ほど地図と睨めっこしながら進むことで玉藻はアンファングの下水道に続くマンホールの上に来ていた。
原作通りだが、こんな暗くて臭くて汚いところに行かなくてはならないのかと思うと気が滅入ってくる。
仕方がないと諦めてマンホールの蓋を開けて中の梯子を伝って降りていく。
下水道と言う割には綺麗だった。
足場は整備されているし清掃されている。
流れている下水も綺麗な物で汚物は見られない。
下水の中には一応灯りが等間隔で置かれているがそれでも薄暗い。しかし玉藻には問題ない。
妖狐の種族的特徴に暗視能力がある為灯り一つない暗闇でも昼間のように見通せるのだ。
(なんでこんな綺麗なんだ?)
玉藻は疑問に思いつつまぁいいかで済ました。
理由は勿論あり、現実には無い存在、
それにより汚物は綺麗に浄化されているのである。魔法万歳である。
玉藻は地下まではアカシアの地図の効果が出ないので
自身が使用できるクラスの魔法ならば消費することで魔法を発動できるが、その魔法の威力は最低値固定で
だが玉藻は幻術師。自身と世界を騙すことでどんなクラスの魔法でも使用可能だ。ただその場合はMPを消費することになるので
使うのはMP消費なしで使える魔力系の
このカラスが迷宮を導いてくれる。最短でトラップなどが無い安全な経路を案内してくれる魔法だ。
それに従い玉藻は念のために扇子を持っておきながら奥へと進んでいくのだった。
奥へ進むこと十分。下水の先で人に遭遇する。
黒髪黒目の男であり少し太っている男だ。
灯りのランタンを持った男は玉藻を見るなり警戒して剣を抜いた。
「そこのあんた、一体こんなところに何の用だ?」
「ちと人を探しておっての。そのものを探しに来た」
「下水なんかに人探しを? 怪しいな……まぁ、いい。この先は悪いが通すことは出来ないから他のところを通ってくれ」
「悪いがお断りじゃ。
行使するのは第三環魔法だ。
勿論親友なので出来る事には限りがある。例えば死ねと言っても死んではくれないし、豚と性行為しろと言っても親友程度の関係性だとしてくれない。
「まぁ、あんたらならいいか……どうぞ」
「うむ。ありがとう」
そうして玉藻は奥へと進んでいった。
奥へ進むと扉があった。
扉の前でカラスは消える。目的を果たしたのだ。
玉藻がコンコン、とノックをすると扉についている小窓が開いた。
「……合言葉は?」
「川」
玉藻は適当に答えた。
「あんた、誰──」
「
扉越しだろうと一定の距離にいるならば魔法は使える。
魔法で魅了し扉を開けさせた。
中は簡易的な会議室になっていた。大きめの机が一つに椅子が六つある。
座っていた男女が立ち上がって剣を抜いた。
玉藻は扇子をアイテムボックスに仕舞い両手を挙げた。
「野蛮な侵入方法で失礼したな。こちらに敵意はない」
「精神系魔法を使っておいてどの口が……!」
女が怒りの声を上げた。
(うーんごもっとも!)
玉藻としてはできうる限り原作通りにしたいだけなのでここで終始敵対状態の場合は無視して領主の城に行くだけになる。
「待て、マーサ。相手に惑わされるな」
そう男、ハロルドは女をいさめた。
「この女、相当強い。恐らく俺たち二人で挑んでも……負ける」
ハロルドがそう歯ぎしりしながら言った。
ハロルドは黒黒目の鍛えた筋肉を持つ男だ。服装も黒い。
対する女マーサは赤い髪に赤い目の女でミニスカートを履いている。
「察しが良くて助かる。わらわはこの街の領主を助けようという義勇軍を知ってな。協力出来ないかと思ってきたのじゃ」
「……あんたほどの強者が協力?」
「まぁ、わらわ一人でどうにかしてもいいが……それだとおぬしらは嫌だろうとおもてな」
その言葉に二人は歯ぎしりをする。
玉藻と自分たちの力の違いを感じ取る。
「……さて、それでどうする? わらわとしては協力関係を結びたいんじゃが」
玉藻のその台詞にハロルドはたっぷりと一分以上の沈黙ののち答えた。
「良いだろう」
「ちょっとハロルド、正気? こんな得体のしれない女を仲間にするなんて! 領主の一味だったらどうするの!」
「それはないだろう。それならばとっくに俺たちは死んでいる……」
その正論にマーサは黙りこくった。
「じゃあ本題に入ろうかの。わらわは領主の館に入り領主の……名前なんじゃっけ」
「……サイモン・ローグだ。これから助ける相手の名前も知らないのか……」
「ド忘れしてただけじゃ。それでぬしら、作戦は?」
玉藻の問いかけにハロルドとマーサは考える。この女をどこまで信用していいのか、と。
精神系魔法とは厄介な物だ。それを容易く使っている相手は要注意人物である。
だがここで何もかも疑っていては事典は好転しないとハロルドは口を開いた。
「俺たちの仲間が街の廃屋に火をつけて騒ぎを起こす。その間に下水道から領主の城に潜入し、領主を助け出す」
(ゲーム通りだな)
その内容に玉藻は内心喜んでいる。
「うむ。ならばわらわが幻術で潜入をサポートしよう。他者にも幻術をかけれるのでな、わらわは」
「それは……助かる。結構日は決まって居る。二日後だ」
「あいわかった。それまでわらわは……適当に暇を潰すとしようか」
それに慌ててハロルドが待ったをかけた。
「それは待ってくれ。下手に動いて名と顔を知られるのは不味い。こちらで潜伏先を用意するからそこで待機しててくれ」
「……むぅ。わかった。おぬしに従うとしようか」
「そうしてくれると助かる。今から潜伏先の家に案内しよう」
「わかった」
「じゃあマーサ、案内してやってくれ」
その言葉にマーサは露骨に嫌な顔をし、いやいやながら了承した。
「こっちよ」
「うむ」
玉藻はマーサに連れられて小部屋を出て行った。
出て少し歩くとマーサが話しかけてくる。
「それであんた、目的は何よ」
ジロッとした目でマーサは疑問を投げかけてきた。
ここで下手に答えたら関係性が終わるな、と思い玉藻は事実を言う。
「わらわはただこの内乱を終わらせたいだけじゃ」
「内乱そのものを? 大きく出たわね」
「まぁ、今回のこれは足掛かりじゃ。この手土産を元に帝国軍に入るつもりでの」
「ふぅん……一応納得してあげるわ」
そうして進むと梯子に着き、マーサが先に上がっていく。
玉藻は後ろから上がっていくがパンツを見たらあかんと下を向いたまま上がっていった。
「ここから少し歩くわ」
地上に出てマンホールの蓋を戻し、玉藻はもう少し歩く。
五分ほど歩く事で目的地に到着する。
「ここよ。さ、入って」
「うむ。邪魔するぞ」
連れていかれた先は一軒家だ。庶民の家としては若干大きめだがその程度の家で庭は狭いがある程度。
門を開けて中に入り家の扉を開けて中に入る。
「それじゃあ決行の日まで私の家に居てもらうから」
「なんじゃ、ここぬしの家か」
「そうだけど、文句ある?」
「んなもんないわ。しかし二日後まで暇じゃのう」
「本ならあるからそれでも読んでて」
「むぅ、わかった」
そうして玉藻は決行の日を待つのであった。
■
玉藻は翌朝目を覚ました。
マーサの家だが客人用の部屋ぐらいはあり、その部屋のベッドで目をこすった。
ベッドかてぇなと文句を思いつつ玉藻はベッドから起き上がる。
「ナイスボディじゃな」
玉藻は首から下の全裸の己を見て呟いた。
玉藻のアイテムボックスには着替えが幾つかあるがそれらは観賞用の装備で寝間着なんてものは持ってなかった。
故に服を着たままより全裸のがマシかと思い全裸で寝たら意外とあっていた。
いそいそと服を着替え玉藻は部屋を出て一階に向かう。
「おはよう。今朝ごはん作ってるから待ってね」
「うむ。ありがとう」
適当な席に座り待つ。
(この世界の料理は現実以上だったけか)
この世界には料理用の
それらのクラスを持つ者が作る料理はまさしく絶品で食べるとはじけ飛ぶぐらいに旨いという。
一回食って見てぇと思いつつ料理を待つ。
料理はベーコンとエッグが乗ったトースト二枚だ。
「ありがとう」
そう言って皿を受け取り食べ始める。
食事前の挨拶、いただきますとかはこの世界には無いので無言で食べ始める。
「うむ。美味い」
「あら、ありがとう」
そうして玉藻は食事を進める。
夢の中でステーキを食べたことがあるがその時は味なんててんでわからなかった。
だがこの世界の料理は普通に味がするし見た目通りの味がして美味い。
やはり自分は異世界に来ているのだと実感してしまい若干気分が落ち込んだ。
食事を終えるとマーサは立ち上がった。
「それじゃあ私は出かけてくるけど……あんたはどうする?」
「下手に名と顔を知られるのはまずいんじゃろ? ここで本でも読んでるわ」
「そう。あ、料理の片づけお願いね」
「承った」
そうしてマーサは去っていった。
玉藻は皿を集めキッチンに行き洗い物を始める。
リアルだと一人暮らしの為洗い物ぐらいは出来る。
洗いつつ玉藻は考える。
己は一体なんなのか、と。
ゲームのキャラクターが実体化しているなりゲームの世界が存在していたのだとしても自分はいったいどこからどう生まれたのか問題だ。
五分ほど考えたが結論が出ないので放置することにした。
洗い物が終わったので手をタオルで拭き書斎に入る。
本棚から適当な娯楽小説を取り出しソファに座る。
「しかしなんでわらわこんな口調なんじゃ?」
それが疑問だった。
何故かのじゃのりみたいな口調になっている。思考まで変わっている訳ではないのは救いか。
少し考え原因が思いついた。
このゲームでは自キャラクターや自作アイテムにフレーバーテキストを設定できる。その設定に幾つか書き込んだ覚えがある。
その一つに廓言葉を使うというのがあったはずだ、と思い出し頭を抱えた。
(この設定が現実になっているのなら! 俺の性欲は無茶苦茶強くて男をとっかえひっかえする可能性が?!)
そう頭を抱えた。
しかし悩んでもしょうがない、と玉藻はどこか諦めた瞳で読書に入った。
■
二日後。決行日の夜、玉藻は下水道のある梯子前に来ていた。
梯子前には玉藻以外にハロルドとザックが居る。
ザックは老年の男で領主に仕える執事だ。この道三十年になる大ベテランである。
だからこそ領主のサイモンが操られているのにいち早く気づき外に助けを求めることが出来た有能な人材である。
「この先が城のトイレになります」
「わかった。ここからは慎重に行くぞ」
「わらわの魔法があるからそう気負うな。魔法を使うぞ……
「それじゃわらわも消えるが、ちゃんとついて行ってるから安心するがよい。
最後に使ったのは第九環魔法の隠密系魔法最上位で自身の姿を隠し音を消し、気配も消し足音や臭いすら消す隠密魔法だ。
欠点として自分自身にしか使えず他者にかけることが出来ない。
瞬間ハロルドとザックの二人の視界から消えたが二人はすぐ気を取り直し梯子を上っていった。
梯子を上った先は男子トイレの一室でトイレのタイルを外し地上に上がる。
最期に玉藻が上がりタイルを元に戻す。
そうしてトイレを出てザックの案内の元城を進んでいった。
今三人が居るのは城の一階で城は四階建てで領主の部屋が四階にある為そこまで階段を上らなければならない。
エレベーターもあるが使うと露骨に人がいますよと宣伝するような物なので使えない。
徒歩で進んでいると慌ただしく兵士たちが走っている。
「火事だ! 四丁目で火事が起こった!」
「すぐに消防隊に連絡を! 住民の避難を!」
原因はハロルドの仲間マーサで燃やしているのは廃墟だ。
周辺に住んでいる者はいないので火事が燃え広がっても人的被害はでないだろう。家屋は焼けていくだろうが。
その騒ぎに乗じ隠密しつつ領主の部屋へと進んでいく。
そうして二十分ほど隠密しながら進むことで目的の部屋前に到着した。
ザックが合い鍵で扉を開け中に入る。
中は領主サイモンの自室で入ってすぐはリビングのような作りでソファが二つテーブルが一つあり奥の窓際には執務机が置いてある。
入って右手には壁があり扉もある。そこが寝室になっている。
「おや、羽虫が二匹紛れ込んだみたいだ」
そう声がした。透き通るような男の声だ。
奥の執務机の上に男が優雅に座っていた。
先ほどまでは居なかったはずなのにさもいて当然ですよと言う顔をしている。
「吸血鬼……!」
男の目は赤く、口には牙があった。吸血鬼特有の外見的特徴だ。
「その通り。悪い悪い子ネズミは駆除しなくちゃ、ね」
男はそう言い執務机から降りる。
途端玉藻が姿を現した。
それに対し男は疑問を抱く。
単純な透明化なら見破る
だが大したことではないと男は思った。見た限り実力は自分より下と思えるからだ。
玉藻が普段装備している探知阻害の指輪の力で実力が悟られることはない。
「
使ったのは
基本吸血鬼はアンデッドなので精神系能力や魔法に対し無効化能力を持つ。
だが玉藻は精神操作に超特化した
と言っても一日に使える回数には制限があるしMPも通常の倍以上消費する。MPは所持している神器の力でほとんど消費しないので気にしなくていいが。
「あぎゃ」
瞬間男吸血鬼は白目をむき口から泡を吹いて倒れた。
「や、やったのか?」
ハロルドが玉藻に尋ねた。
「やったぞ。ただこれだけだともったいないから……
扇子を振るい魔法を行使する。
今度使った魔法は精神が壊れた相手限定に使える精神を作り直す魔法だ。
設定上では結構幅広く作り替えれるがゲーム上の仕様は相手を召喚モンスターと同じ扱いのコンパニオンにするという物だ。創造主に絶対的に服従を誓う存在に出来る。
瞬間男は立ち上がり玉藻に向かって膝をついた。
「我が主よ。私を作り直していただき誠に感謝いたします。ご尊名を伺ってもよろしいでしょうか?」
「玉藻じゃ。して主の名は?」
「オルトロンです。我が主よ」
「そうか。主の知っていることのすべてを話せ」
「はい。私はバァル・ゼブル様のご命令でこの地を反乱軍に明け渡すよう細工をしておりました」
バァル・ゼブルの名にハロルドが戦慄する。
「聖書に出てくる悪魔の王じゃないか、そんな大物が何故……?!」
「悪魔は通常手段でこの世界にこれんからな。大方こっちで顕現したいとかそこらんじゃろうて」
悪魔はプレイヤーが選択できる種族でもある。
魔界に住まう種族で基本は召喚魔法を使われないとこの世界にこれないし、現実側から何かしらの干渉がないと現世に何もできない存在だ。
悪魔は人間に対して特に何も思っていないのでそれでいいが、現世と言う遊び場を欲しがる者も居る。
そう言った者は悪魔召喚を行っている者に悪魔を介し干渉し大規模な召喚魔法の儀式を行わせるのだ。
永続的な召喚に加え術者よりレベルが上の悪魔を召喚できる用な邪悪な魔法を。
(ゲームだとバァル・ゼブルがこの世界に来るために王の叔父を操っている、だったか)
ゲーム通りならばそのはずだ。
因みにその情報は本来ゲーム中盤で判明する情報だ。
「で、この吸血鬼どうする? 殺しとくかえ?」
玉藻がなんてことないかのようにハロルドに問いかけた。
ハロルドは熟考したのち口を開いた。
「……玉藻、お前の精神支配はどれくらい持つ?」
「基本は永続的じゃ、一度かけた相手がわらわと同レベルの精神系魔法の使い手にでも当たらない限り解除されることはない」
「そうか……ならそいつを味方として使おう。使い道はあるからな」
「わかった。ではこれからどうする?」
「領主に会いに行こう。精神操作を解除させよう」
「わかった」
(ゲームだと支配してもストーリーが進行するだけで殺処分されるだけなんだが、ゲームとはやはり違うな……)
そうしてザックが寝室の扉を開け全員中に入る。
大きなベッドには五十代程の男が眠っていた。白髪で顔つきはくたびれたサラリーマンに見える。
「オルトロン。精神操作を解除せよ」
「わかりました。我が主よ」
吸血鬼が持つ種族的
効果時間は短いはずだがオルトロンは魔法的手段で効果時間を永続化させ操っていた。
それを解除すると領主サイモンが目を覚ました。
「……これは……私はいったい……?」
混乱しているサイモンにザックが話しかける。
「ご領主様。あなたは悪しき吸血鬼の手で操られていたのです。元凶は倒しました」
「そうか……おぼろげだが記憶がある。そちらの者たちが助けてくれたのか?」
「その通りです。ハロルド様と玉藻様がお力になってくれました」
「そうか……アンファング領主として公式に礼をしよう。明日には謝礼も出そう。今日は夜も更けている。白に泊ると良い」
こうして領主を助け出すことが出来たのだった。