「今日はこちらでお休みください」
そう言って通されたのはホテルの部屋にも似た客室だ。
左手には寝室もある。
「う、うむ」
玉藻は緊張しながらそう返した。
ここまで案内してきたメイドが「では私はここで」と去っていった。
色々あって疲れた、と玉藻は下駄を脱いで部屋に上がりスリッパに変える。
そうして服を脱ぎアイテムボックスに収納し全裸になって寝室に入る。
ベッドが一つあった。ベッドの作りは良く現実の玉藻のベッドより質が良いだろう。
ベッドにダイブすると低反発のベッドが反発してくる。
そのまま横を向く。仰向けにはなれない。尻尾が邪魔するから。
今後について考えながら玉藻は眠りにつくのだった。
■
朝になって玉藻は勝手に目が覚めた。
目覚めはスッキリとしている。ベッドから降りて普段着に着替える。
普段着の
着替えを終え寝室を出ると丁度メイドが食事を持ってきていた。
「玉藻様。こちらが朝食になります」
「ありがとう」
玉藻が椅子に座るとメイドが机の上に朝食を置く。
朝食はパンとスープとキャベツとキュウリが入ったサラダだ。
メイドが出て行く気配はない。
「食事を終えたら私と共に領主様に会いに行って貰います」
「わかった」
そして玉藻は一人「いただきます」と言ってから食事を始める。
(うっま)
この料理は料理人……コックのクラスについている者が作った料理だ。
コックレベル五でもあれば現実の一流料理人を上回る技量を持ち、更に超常的な力によって食料は超常の味へと変わる。
この城の料理長はコックレベル十の人間の為現実のどんな料理人よりも料理が美味く作れる。
玉藻はスープにパンを浸しながら食べ終えると「ごちそうさまでした」と手を合わせ、椅子から立ち上がった。
「では私についてきてください」
「わかった」
そうして玉藻はメイドに連れられ部屋を出た。
廊下に出る。今玉藻が居るのは三階だ。
通路を歩いて四階に上がり、客室に通される。
客室の作りは豪華なモノでよくわからない絵と壺が置いてある。
部屋のソファには既にハロルドが座っていて紅茶を飲んでいた。
玉藻も部屋に上がりハロルドの隣に座るとメイドが紅茶を入れる。
玉藻は感謝してから紅茶を飲む。
(美味いなこれ)
紅茶なんて生まれて初めて飲んだが美味い。
メイドがコックなどのクラスを持っている訳ではないのでクラス補正でうまく感じている訳ではなく、単に茶葉が良いのだ。
玉藻はそんなことわからないが。
「それで、だ。ハロルド。わらわたちはどうなると思う?」
玉藻は気になったことを尋ねた。
「……順当に行けば報酬として大金貰って終わりだろうな。それ以上は、まぁ交渉次第だろうが……」
「そうか……話術に自信はないんじゃがのぉ」
話していると部屋にノックがかかる。
ハロルドが立ち上がると遅れて玉藻も立ち上がる。
部屋のドアが開き領主のサイモンが騎士を連れて入ってきた。
この帝国では三つの武装勢力がある。
帝国そのものに所属し軍事行動をとる軍人。領主や貴族の個人的な武力であり国には属さない騎士。国に所属し警察の役目を果たしている衛兵の三種だ。
サイモンが口を開く。
「おはよう。朝早くから呼び立ててすまないね」
「気にしていないのでお気になさらず」
ハロルドがそう言うとサイモンはそうかね、と笑顔を浮かべたかと思ったらすぐ辛そうな表情を浮かべた。
そのまま二人の向かい側に座ると玉藻とハロルドの二人が座る。
「それえ、報酬の話の前に……新しく君たちに依頼を受けて貰いたい」
その言葉に玉藻は内心ニッと笑み浮かべ、ハロルドは疑問を浮かべた。
「依頼、ですか……それはどのような?」
「うむ。この街を襲おうとしている反乱軍千の兵士を撃退してもらいたい」
(ゲームの十倍やんけ!)
玉藻は引きつった笑みを浮かべた。
ゲームのストーリーの流れはこうだ。
悪の吸血鬼が領主を操り街に反乱軍を入れ攻め落とさせようとしている。
領主を操れば無血開城も夢ではないという訳だ。
そして悪の吸血鬼を倒しても攻めてくる反乱軍は変わらない。
その兵士を倒してほしいというのがゲームの流れであり今である。
「それは……率直に言うと私個人では無理です」
「……敵の進軍を遅らせるだけでもいい。三週間……いや二週間耐えてくれれば帝国から援軍が来るはずだ」
「その反乱軍の兵士をこれまでどうにかしてなかったと?」
「あぁ。吸血鬼に操られ見張りも用意せず敵の進軍をますますと許していた。あと二日もすればこの街に攻めてくるはずだ」
「二日?! ほとんど猶予がないじゃないですか!」
「だから藁にも縋る思いで君たちに頼んでいるんだ。今この街の軍事力では撃退する事も耐えることも出来ない。だが吸血鬼をどうにかしてくれた君たちならば……」
この世界はファンタジーだ。故に個の力が群れを上回る。
このゲームのレベルカンストは百であり、レベル差が十もあればまず負けることがないぐらいには差が生まれる。と言ってもそれは戦闘職間の間だが。
そのためにレベル一から五程度の軍勢相手にレベル三十程度がぶつかればまず勝つのはレベル三十側だ。
そして吸血鬼オルトロンのレベルは二十。それを苦も無く倒したとなればレベル差は最低でも十は離れているとみるべきだとサイモンは考えた。
「……俺個人では無理です。吸血鬼を倒したのは隣の玉藻だ」
「そうだったか、では玉藻殿。受けて貰えないか? 報酬は出来る限りの物を用意しよう」
その言葉に玉藻は内心ニッと笑み浮かべた。
「ではわらわを帝国軍に推薦してもらおうかの。反乱を鎮める重要人物として」
「……そんなことでよいのか? 報酬として富を与えることも出来るぞ」
「む、ならばそれも貰おうか。まぁメインは帝国軍に入ることじゃがの」
「わかった。私から推薦状を書こう。どうか……この街を助けてほしい」
そう言うとサイモンは平民相手に頭を下げるのだった。
にっと、玉藻は笑みを受かべた。
「任せておけ」
「ならば二十の兵を君につけよう。上手く使ってくれ」
「あぁ、いらんいらんそんなもの。居ても邪魔じゃ」
玉藻がそう言うとハロルドとサイモンは目を細めた。
「わらわのクラスは幻術師、敵を騙し殺し合いさせるクラスじゃ。味方はその場で作るから不要じゃ」
「……そうか。ならば敵を倒したら将軍の首を持ってきてくれ。それを持って報酬を渡そう」
「うむ。承った」
サイモンはなんでこいつ恩人とはいえ貴族相手に敬語使わないんだろうと思いつつまぁ恩人だからなと深くは突っ込まないで置いた。
■
玉藻とハロルドは城を出た。
城を出た途端ハロルドが口を開く。
「千の軍勢相手に勝てる見込みはあるのか?」
「あるぞ。わらわのレベルは百。千人程度苦にもならんわ」
レベル百と言う言葉にハロルドは顔をひきつらせた。
「今の帝国……いや大陸最強がレベル五十という話だが、その倍? 冗談だろう?」
この世界ではレベル三十もあれば英雄と呼ばれる領域であり二十もあれば達人級だ。
レベル十は熟練程度と考えれ百はもう神々に次ぐレベルだ。
尚公式に発表されているのがレベル五十の亜人種の女でしかなく実際には帝国外にレベル百の超越者な何人かいるが。
因みに一番弱いドラゴンのレベルが三十でドラゴンの平均が四十五なので帝国最強はドラゴンにも勝てる。竜王クラスには勝てないが。
「事実じゃ。まぁ、今信じなくともよい。すぐに事実だとわかる。だが問題が一つある」
「……それはなんだ?」
「普通に敵軍がどこにいるかわからん」
「……まぁ、だろうな」
オルトロンの言で敵軍が攻めてきていることは分かったが肝心の敵の野営地がわからない。
千の軍勢だからある程度開けた場所にはいるのだろうが、ここはゲームと違う。
ゲームの約七倍の広さを誇るのだ。この七倍というのも玉藻にはあてがある。
製作者のSNSアカウントをフォローしていてその呟きに『ゲーム上の都合でワールドマップは世界観設定上より狭いです。七分の一ぐらい。だから本来はもっと広いんだよね』というのがあったのだ。
だからここが現実のディロールの世界だとするとゲームの地形知識はあてにならないだろう。
「一応捜索手段がないわけでもないんじゃがの」
ゲームが現実となったことで幾つかの
玉藻の種族のうちの一つ九尾の狐の種族
レベル十の妖狐(人型ではない)を召喚し使役するという物だ。種族レベルに応じて召喚可能数が増え今の玉藻なら五体召喚できる。
クールタイムは二十四時間なので五体だすと丸一日召喚できなくなる。
効果時間は長く二時間持つので五体を五方向に飛ばせば軽く調べられるだろう。
更に玉藻はこちらは生成にのみMPを消費するが分身を作り出すことが出来る。
尻尾の数引く一分作ることが可能で最大十体まで分身を作れる。
ゲーム中では的を増やすことぐらいにしかできないしHPとMPが本体と同期しているので分身が死ねば本体も死ぬなどの欠点がある。
こちらは一日の使用回数制限などは無いので幾らでも分身を作れる。
「ま、人海戦術じゃな」
これから忙しくなる、と玉藻は街の外へと向かうのだった。
■
三時間後。
「よーやく見つけたぞ……!」
玉藻は進軍している反乱軍の軍勢を見つけた。
騎馬隊二百に歩兵六百工作員二百の軍勢だ。
何もない、ぽつぽつと木が生えているだけの平原を反乱軍は我が物顔で歩いている。
その上に玉藻は浮いていた。下駄の力だ。
分身を自滅しない程度に速度特化に変え妖狐も出して空と地上両方を走り回らせることでようやく玉藻は千の軍勢を見つけたのだ。
空の上から反乱軍の兵士全員をターゲティングする。
使う
ゲームだと処理の都合上最大十人までだったがこの世界では追加でMPを消費することで最大数なんてものは無くなった。
そして玉藻は持っている神器の力で追加で消費されるMPが一になっている。
玉藻のMP量は十万を超える。つまり理論上は最大十万人まで一気に支配下に置けるのだ。
使う魔法はゲルヘアを襲ったやつらにも使った魔法
この魔法は対象一体を完全に支配下に置くが、魔法なので時間制限がある。大体六時間しか持たない。
永続的な支配をするならばオルトロンにしたように一度精神を破壊してから作り直す、もしくは第九環魔法の
こちらは永続的に支配できる分抵抗難易度が低いので失敗したくない玉藻はあまり使わない。
玉藻はゆっくりと降下し魔法の範囲内に反乱軍たちを入れる。
入れれば当然反乱軍たちも玉藻に気づき弓を向けてくる。
「では行くぞ。
一度に千人、玉藻の支配下にはいった。
魔法的な繋がりが生まれる。己の支配下にあるという糸のようなものだ。
「それじゃあ……殺し合え」
玉藻がそう命令すると反乱軍の兵士は武器を抜き近くの者に襲い掛かった。
生かしても問題になる。一個人の支配下にある千人の兵隊なんてものは残しとくだけで問題になるのだ。
誰が管理するのか、とか問題を起こした場合の責任などと問われると玉藻はどうしようもない。
なのでここで殺し合わせる。
玉藻の支配下にはいった為各々全力で攻撃し合う。
共に語らった友を。仲良く談笑した友人を。この戦いが終わったら結婚するんだと誓い合った恋人を、彼ら彼女らは己の手で殺していく。
二度目になると少し慣れたので玉藻は現実の戦闘ってこんなんなんかすげーと空中で器用に胡坐をしながら観察する。
兵士たちのレベルは最大の者でも七、雑魚である。
中には
そうして十分も経つと千人の兵士の九割は死に、残る一割は死にかけで何もできなくなっていた。
「では止めじゃな」
玉藻は自分であまり人を殺したくないので直接手を下す事はあまりしたくなかった。
それでも少しは魔法の関係上残るので仕方なく魔法を使う。
行使する魔法は第九環魔法の
玉藻が扇子を上に向けると玉藻の頭上に巨大な、太陽を思わせる巨大な火球が生成される。
これは現実にあるものではなく幻だ。実体を持たない。
精神を持つ者にのみ作用する幻覚魔法でありこの魔法が焼くのは生物のみ。
玉藻が扇子を降ろすと炎が地面に着弾し周囲一帯を焼き尽くすように炎が広がった。
だが焼かれるのは生きていた兵士たちだけで草は焼けないし死体も焼かれない。
こうしてアンファングを襲おうとしていた軍勢は全員死んだ。
玉藻は地上に降りる。
死体の海を歩くとそのグロさによって吐き気が来て一回死体に向かって吐いてしまった。
口を魔法の水ですすいでまた吐いてから目的の人物の死体を探す。
適当に乱戦にさせたため原形が残っているが心配だったが十分ほど探す事で見つけることが出来た。
熊の被り物をした反乱軍の将兵の一人だ。
玉藻は右手の爪をとがらせる。
妖狐の種族的能力で素手攻撃力が種族レベル分上昇するのだ。更に上位種の天狐なので素手攻撃力は結構高く鋼鉄程度なら容易く斬り裂けるしミスリルだって切れる。
その爪を持って首を切り落とし、気持ち悪いと思いながら玉藻はアイテムボックスにしまった。
転移で帰る気分でも容易く転移も出来ないので玉藻は徒歩でアンファングに帰るのだった。