アンファングに戻った玉藻は早速騎士に詰め寄られた。
騎士は全身鎧を着ており胸のチェストプレートにはアンファングを示すゴーレムの紋章が刻んである。
「玉藻様ですね。領主様がお探しでした。どうぞ私についてきてください」
「うむ。わかった」
今の時刻は夕方。こんな時間になんのようだと思いながら玉藻は騎士に着いて行った。
城に案内されまた客室に通され、ソファに座ると紅茶を入れられる。
玉藻は紅茶よりコーヒー派だがこの紅茶もうまいと思いながら飲む。
待っていると騎士を連れたサイモンが部屋にやってくる。
玉藻が優雅に紅茶を飲んでいてもサイモンは何も言わなかった。器の大きい男であった。
向かい側にサイモンが座る。
「それで進捗はどうだね? 敵影は見つかったか?」
「うむ。敵の軍勢は皆殺しにしたぞ。これが証拠の首だ」
玉藻がアイテムボックスから将軍の首を取り出した。
ちゃんと将兵の証である熊の被り物を付けたままだ。
「この被り物は反乱軍の将兵の証……! 一日も経たずやって見せたのか!」
サイモンが両目をカッと開きながら驚愕の声を上げた。
「うむ。わらわにとってはこの程度大したことではない」
かっかっかっかと玉藻は笑った。
「これでこの街は暫くは平和だろう。だが反乱軍はまたすぐ来るだろう。既に帝国には援軍要請をかけている。五百の兵がここのアンファングに向かっているはずだ。到着は二週間後になる。それまでの間はどうかこの城でくつろいでくれ。もしもまた何かあったら、その時は頼む」
「うむ。任された」
こうして一時の平穏を手に入れるのだった。
「あぁ、それと反乱軍を殺した場所を教えてくれ。放置するとアンデッドになるかなら」
「わかった」
■
翌日。
玉藻はやることがあったので朝食を食べ終えた後椅子に座ってテーブルの上にアイテムを広げていた。
「うーむ。やはりたらんのぉ」
玉藻はそうアイテムを見て考える。
現在の状態でラスボスであるバァル・ゼブルに挑むのは少し無謀だ。
バァル・ゼブルのレベルは百でプレイヤーと同等。クラス構成はガチ構成の炎特化のエレメンタリストだ。
エレメンタリストとは一属性にのみ特化することでその属性の魔法の消費MPを軽減し威力を上昇させるという物だ。
代わりに一部魔法が使えなくなったり使えても通常より多くのMPを消費することになるなど欠点もある。
バァル・ゼブルはガチガチの炎特化でダメージリソースが馬鹿強いボスだ。
余談だがこのゲーム敵キャラやボスキャラ補正と言うのは基本ない。
種族によって初期ステータスが違ったりするがそう言った違いこそあれど敵キャラゆえのステータス補正などはないため、敵キャラのレベルイコールプレイヤーのレベルで出来る事になる。
そのため格下は格下でどうとでもできるし格上相手には何もできずに死ぬ。
玉藻のクラス構成は基本格下専用だ。レベル六十以下には無類の強さを発揮し九十レベル相手なら接戦になる。
そして同格の百レベルになると本来の戦闘スタイルを投げ捨てて幻術で自分を騙し近接戦用ステータスに変えての近接戦でしかダメージを与える手段がなくなる。
そうなると同格には不利だ。何せ魔法系クラスなのでHPの伸びが悪い。近接戦をするという事はそれだけ相手の攻撃を受けるという事なのだから。
この世界装備でステータスを上昇させることは出来てもドーピング系アイテムは無いので全ステータスカンストなんてことは出来ないのだ。
机の上には便利系のアイテムが置いてある。
最上位の各種召喚魔法の
回復魔法の
幾つかあると便利系の
便利系の
エリクサーという最上位回復薬が一つに最上位ポーションが五十個。
MP、魔力回復用のポーション三十二個。
お遊びの着替え用の装備十着。
可搬の館。持ち運びできる家。
アイテム名の通り無限にアイテムが入る腕輪。中身はクエストアイテムなどを入れていたが、現在すっからかんになっている。
以上。これがアイテムボックスの中身だ。三割程度しか埋まっていない。
アイテムボックスの容量は筋力値ステータスに依存する。レベル三十五相応の戦士職ステータスを持つ為アイテムボックスの容量は少なめだ。
その容量の少なさを改善するのが
「うーむ、どうするか……」
玉藻は考える。
回復アイテムを湯水のごとく消費すればラスボスに勝てるかもしれない。だがそれは痛みを考えなかった場合だ。
この世界は現実だ。血を流しすぎれば意識は朦朧とするし、痛みで判断は鈍る。
それらを考えると回復アイテムによるごり押しは出来ないと考えた方が良いだろう。痛みに耐性のある種族でもないし。
今の装備は幻術を強化する物であり、ステータス増強系ではない。
さらに言えば奥の手の一つは装備品が自動的に外れるので装備品は役に立たない。指輪は装備したままになるが。
玉藻が装備している指輪は十種類。
時間操作対策の指輪。
探知阻害の指輪。
視界封じ無効の指輪。
行動阻害無効の指輪。
ファウンダー。
疾病無効の指輪。
窃盗無効の指輪。
食事、睡眠、疲労無効の指輪。
死んでもその場でHP全快で復活できる指輪。
毒無効の指輪。これらの十種だ。
ラスボスを倒した直後でエンドコンテンツのダンジョンに行けてないのが辛い。
クラス構成的に装備はガチらないと勝てないだろうと思い装備だけ整えていたのが救いか。まぁ相手に幻術通じなくてステゴロでバトったが。
「仲間でも集めるか……?」
ゲームだと一人しかコンパニオンを連れて歩けないがこの世界は現実だ。何人でも連れて歩けるだろう。
だが問題はラスボス戦に連れていけるレベルのキャラが居るのかという話だ。
ゲーム最強のコンパニオンは帝国最強でもあるエレナ・ヴァハだ。レベル五十の戦士系キャラクターであり大剣を片手で使う。
種族は人狼と言う亜人種でHPが六割を切ると狼の姿に変身して戦う。
人狼の種族
だがバァル・ゼブルが相手だと一瞬で蒸発する雑魚である。
レベル差が十もあれば戦いにならないこのゲームでレベル五十対レベル百は弱い者虐めにしかならない。
ならそれ以外の戦力の当てを玉藻は考える。
現実ならネットで調べものが出来るがここは異世界。ネットなんてものは現状無い。
ゲームで玉藻がバァル・ゼブルを倒すときに使った戦法はタイマンだ。ラスダンにコンパニオンを連れていく事は出来なかったのだ。
だがここは現実なので連れて行けるはずと考える。
「可能性があるとしたら……ハドリムか……?」
ハドリムはダンジョン名竜の山脈に登場するボスキャラの一体だ。
ただ会話可能なNPCであり別にメインストーリーやクエスト上倒す必要はないボスだ。
レベルは七十五と非常に高く玉藻の持っている召喚用の
このレベルならまだ使えるだろう。レベル差も二十五程度だ。更に竜はレベルよりステータスが高い傾向にある。
「他は……ゴルド……いやあいつは商人だから無理かの……」
ゴルドとはデミリッチの商人の事だ。
この帝国、いや大陸一の豪商で金の力でだいたいなんでも解決できるスーパー金持ちだ。
だがデミリッチ、つまりアンデッドなので食に関する事は出来ない。この世界スケルトン系アンデッドは飲食できないのだ。肉体があるゾンビ系は食べれるがバフは得られない。
帝都に拠点を構える商人でレベルは八十と非常に高い。
だが種族レベル二十七、残りの五十三レベルは商人系クラスで埋まっているので戦闘力は低い方だ。
戦えない訳ではない。商人系のクラスは取引時が有利になるだけでなく使用するアイテムの効果が上昇するというクラス的
そのため高位のアイテムをじゃぶじゃぶ使えば同レベルには楽に勝てるだろう。まぁ金が馬鹿みたいに飛んでくので現実的ではないだろうが。
「他なんかいたっけのぉ……」
うーむと玉藻は頭を悩ませる。
ここは現実、死んでも蘇生の魔法はあるが設定上死体の損壊率が高いと蘇生は通じなくなる。そしてバァル・ゼブルは高レベルの敵だ、死体が残るとは考えない方が良い。
だからこそ最善の手段を考える。自分が死なず元の世界に帰る手段を得るために。
そうして悩んでると部屋にノックがかかる。
慌てて玉藻は机の上の
「どうぞー」
そう言うと部屋に一人サイモンがやってきた。
「む、領主様。何用ですかな」
「何、少し話したいことがあってな」
そう言うとサイモンは玉藻の前の椅子に座った。
「あの吸血鬼……オルトロンから聞いた。悪魔が反乱軍を操っている、と」
「あぁ、そうじゃな。それが?」
「君は帝国軍に入り反乱軍と戦うつもりなのだろう? 聖書に出てくる悪魔を……倒せるのかね?」
「まぁ、上位陣ならタイマンならどうにかなるが、バァル・ゼブルはちと厳しいのぉ」
「……厳しいで済むのか?」
「すまんちょっと盛った。無理めかもしれん」
「……では相手の計画をとん挫させる方向で動くのはどうだ?」
その言葉は玉藻にとって青天の霹靂だった。
「そうか、何も馬鹿正直に相手の計画を実行させる必要はない……!」
それならばどうにか出来る、と玉藻は考える。
バァル・ゼブルがこの世界に顕現するには多数の生贄が必要だ。
そしてそれは、現在進行形で捧げられている。
このディロール地方の全体の各所に魔法陣が設置されており、その魔法陣が円形上に配置されることでこのディロール地方全体で死んだ者は全てバァル・ゼブル召喚の生贄にされている。
故ゲーム進行上ではどうしようもなかった。あくまで魔法陣は設定上設置されている物でゲーム中で出てくるわけではない、まぁディロールの僻地にのみ設置されているのでプレイヤーがいけないところに置かれていても可笑しくはないが。
更にラストバトルでは帝国軍vs反乱軍全軍が起こり、その大量の死者がトリガーとなってバァル・ゼブルが顕現するのだ。その反乱軍の死を抑え、術の起点である叔父のアグミルを殺してしまえば術は止まる。
玉藻はゲームの世界なんだからゲーム通りに進むだろうという前提の元考えてしまっていた。
「そうなると……うぅむ、どうすべきか」
一番は生贄のトリガーとなっている魔法陣を壊す事だが、どこにあるかがわからない。
それにまず玉藻はどこからか現れた不審者Aだ。帝国軍に入ることは出来てもそこから帝国軍を自分の好きに動かせるわけではない。
精神操作で全員操れば可能だろうが、そんなことをしたら即世界の敵認定食らうだろうから出来ない。
(存在を教えるだけ教えて、あとは信用だよなぁ。それがないと話にならん)
信用を得るために帝国軍で働くとしても働いてたらその間にストーリーが進行してバァル・ゼブルが出現しましたでは話にならない。
(というかストーリー進行この世界だとどうなるんだ? ゲームみたいに進めなければ止まったままとかじゃないだろうしな……)
それを考えると魔法陣を壊すのは現実的ではないだろう。
となれば。
(精神操作で反乱軍全員支配下に置くか……?)
だが問題は反乱軍の数だ。
ゲーム上では反乱軍の戦いは設定上であり、主人公は反乱軍の拠点の城、クリスタルパレスに潜入する事になる。
クリスタルパレス外では反乱軍と帝国軍が攻防しているのだ。
だがしかし、反乱軍全員支配下に置くにしてもMPを消費してしまう。
ただの雑魚十万人だとしてもMPがすっからかんになるし、そんなことでMP回復薬を使ってバァル・ゼブル戦で消耗したくない。
「うぅむ……」
「……誰か信用できる友はいないのか? 私では相談相手には無理だろうが……あの者、ハロルドは友ではないのか?」
「いや……相談と言っても……ハロルドは利害の一致で動いただけの者じゃし……あ、一応いたな……」
思い出したのは北にある寒村、テッドロルという村だ。
村と言う割には設定上は人口二百人の村だが、この村にはある神にも似た存在が居る。
魔法を極めすぎた事で魔法其の物に近づいた存在であり、レベルも九十と非常に高い。
だが現在この存在、名をレイダンという。
ただ現在レイダンは封印されており、封印を解除する必要がある。
(確か封印解除には開封の剣が必要だけど……あれ無くなってたんだよな)
ゲームだとテッドロルから一日で行ける場所にその武器があるダンジョン、剣の山に行ける。
攻略にはゲーム内時間で丸一日かかる。
それを考えると会いに行くには少しリスキーかもしれない。
(いや、奥の手使えばいけるか?)
玉藻の奥の手は三つある。
そのうちの一つに世界を騙す幻術と言うのがある。
これはゲーム上の処理はあらゆる
だが設定上は名の通り世界を騙すことであらゆることを可能にするという物の為、やろうと思えば封印を破るぐらいできるだろう。
因みにクールタイムはリアルタイム百時間と言うぶっ飛んだ時間が必要になる大技だ。
だが現在はいわば常にログイン状態なので四日と少し待てば再度使えるようになるから問題ないだろう。
「うむ。領主様。帝国軍が来るのはいつじゃったかの」
「それは二週間後……いや、十三日後だが、どうかしたのか?」
「少し出てくる。地図を貰えないかの」
「……貸し出すだけならば」
「ありがとう。ではちょっと行くとするか、世界を救うピースを探しに」