翌日の昼頃。
ディロールの空を玉藻は走る。
ステータスを弄り、速度特化にしつつちゃんと防御力もとることでマッハ二で走ることを可能にした玉藻は時折止まって地図を確認しつつ走って行く。
そうして朝の六時から六時間走ることでようやく目的の村、テッドロルを見つけた。
帰り道は覚えてないので転移魔法で帰る必要があるだろう。
テッドロルは北の奥地にある為基本いつも雪が降っており、今日も雪が降っていた。
雪が積もって十センチほどになっており作物を育てるのには無理があるだろう。
実際この村では林業を営むことで経営している村であり畑は自給自足程度の物でしかない。
空の上から地上へと降りると丁度そこに居た村人に驚かれた。
空を飛ぶ人物はあまり珍しくないが異形の者は珍しくあった。
玉藻はたまたま近くにいた青年に近づくと青年は顔を赤らめる。
「もし、そこの者。教会を探しているのじゃがどちらにあるかえ?」
「きょ、教会ですか? よ、よかったら僕が案内しますよ」
「うむ。では頼む」
玉藻はそう微笑んだ。
青年はちょっと緊張しながら玉藻と共に五分ほど歩くと教会に着いた。
教会は寂れた寒村にあるにしては立派な石造りの建物だ。
村に時間を知らせるための時計と鐘が設置されている。
「ここです。中も案内しましょうか?」
「いや、それは結構。ここまでで充分じゃ」
「そ、そうですか……それではこれで」
青年も名残惜しくは思ったが仕事があるので去っていった。
玉藻は教会のドアを開け中に入る。
一階は礼拝堂だ。この村の住人全員入れるには少し狭いが教会としては普通ぐらいの広さだ。
目的地がわかっているかのように玉藻が奥へ歩いて行くと主催団には人がいた。
六十代程の神父で髪は白くなっている。
「おや、旅の方かな? 女神セラを祭る教会へようこそ」
女神セラとは通貨の名前にもなっている風と空の女神の事だ。
「うむ。わらわはこの教会の地下に用があっての。通させてくれ」
その言葉に神父は冷や汗を流した。
「な、何かね? この教会に地下室なんてものはないよ」
「いいや、あるはずじゃ。別にそれを晒して何かしようという訳ではないから安心せぇ」
「……なんで君はそんなことを知っている? どこで知った?」
「説明している時間も惜しい。端的に言うとこの国を救う為じゃ」
玉藻が真剣な瞳でそう言った。
実際これで国が救われるかどうかの話になってくる。
神父はその瞳を見て、何か事情があるのだと察した。
この者ならば村の秘密を教えてもいいだろう、とも思った。最悪村の神がどうにかしてくれるだろうという思いもあったが。
「……わかりました。地下に案内しましょう」
「おねがいします」
そうして玉藻は神父に案内され別部屋に行き、壁に隠されたスイッチを押す事で地下への階段が開いた。
『ここからは旅人一人で来るが良い』
そんな声がした。
(恐らく
ゲーム上はコンパニオンと遠くでも会話し指示を出せるだけの魔法だった。
「……では、貴女一人で、お願いします」
「うむ。まぁそう問題行動はしないから安心してくれ」
そうして玉藻は地下への階段を降りていった。
階段に灯りはないため暗いが暗視能力がある為問題なく見える。
(しかしレイダンは封印状態のはず。その状態で話せるのか?)
ゲームのストーリーではこの村の村長と一定値親密度が上がると村長から開封の剣を取って来てくれというクエストが発生する。
そのクエストをクリアすることでプレイヤーは初めてレイダンの存在を知り、村長とと共に封印を解くのだ。
その報酬としてプレイヤーは好きな魔法が込められた
玉藻が地下へ降り切ると其処は広間だった。
そして青白く輝く球体があった。
その球体には鎖が幾つも巻き付けられている。
その球体は声を発した。
『私を探していたようだな』
「その通りじゃが……なぜわかった? わらわは探知阻害をしているはずじゃが」
『それは第九環魔法の
「……わらわの知識が正しければ其方は封印状態にあったはず。何故そこまで動ける?」
『封印されているのには変わりない。ただ魔法の行使範囲がこの村内に限定されているだけだ』
「……案外緩い封印じゃな。ではわらわの目的も知っているのか?」
『予想はついている。反乱軍を指導している悪魔をどうにかしたいのだろう?』
「というよりは反乱軍が活動することで結果的に召喚される悪魔の王をどうにかしたい感じじゃの。何か当てはあるかの」
『召喚を阻止するのは不可能だ。だがこの世界に来た者を送り返すならば、戦力が居る』
「その当ては?」
『ブトの森の奥地に魔女が住んでいる。その者の力を借りると良い。彼女のレベルは八十七、強力な助っ人になるはずだ』
「ブトの森というと……」
玉藻は地図を思い出す。
「ブラックウォークから南にある森じゃな。その奥地にそんな者がいるなど聞いたことないが……」
ゲーム内ではただの森であり、ある少年と共に薬草採取をするクエストがあるだけだ。
『彼女は俗世から離れて暮らしている。知らぬのも無理はない。あとは君も考えていただろうがハドリムを頼ると良いだろう』
「其方は手を貸してくれんのかえ?」
『手を貸したいが無理だろう。私の封印は強固で破るには特定の手順を得る必要がある』
「……協力する気があるような言いぐさじゃな。なんじゃ、悪魔が蔓延るのは嫌か?」
『私は魔法を極めたいのだ。そのためには安定した世界が必要だ。悪魔蔓延る世界では魔法の研究もままならないだろう』
「なるほどな。では今回に限りわらわと其方は仲間という事でよいか?」
『構わない。いや、もしかしたらずっと仲間になるかもしれない』
「……?まぁ良い。それじゃあ……その封印を解除しようかの」
『……なるほど確かに。君の力ならば可能かもしれないな』
「なんかこっちが言おうとしたこと先に言われるとむず痒いの。で、解除していいかね」
『よかろう。解除したまえ』
「では行くぞ──The world is shrouded in illusion」
瞬間玉藻から強力な魔力が迸った。
世界すら騙し己の理想を現実へと書き換える
それによりレイダンの封印は解除された。
ぱりん、と鎖がはじけ飛んだかと思えば次の瞬間には男が出て来た。
まだ若い、二十代程の顔つきの男だが髪は白く眼も真っ白だ。
顔つきは賢者のように知性を感じさせる。
程よい筋肉がついた体をしており、白い肌をしている。全裸。
かと思えば魔法で黒いトーガを作り出し纏った。
「ふむ。久方ぶりの現世だ」
レイダンはそう右手をぐーぱーしながら体の感覚を確かめていた。
(確か設定では封印されて二百年は経っているんだったか)
それならば久方ぶりの現世を懐かしく思うのも無理はないだろう。
「ところで、何故其方はそこまでわらわに協力する姿勢を見せるんじゃ?魔法の研究以外にもあるじゃろ」
「……異界より来た者がどのような道をたどるのか興味がある」
レイダンはそう言った。
「わらわが別世界から来たことも知っておるのか」
玉藻は苦い顔をした。あまり言いふらしたくはない事だ。
「魂と器に齟齬がある。いずれは馴染むだろうが……そういう君は元の世界に戻る気はあるのか?」
「……一応あるにはあるが、まぁ最終的にはこっちに戻ることになるかもしれんな」
玉藻は異形種であり寿命が無い。そうなれば仮に地球に戻ったとしても地球で永遠を過ごすことになるだろう。
それは苦労が多い道だ。苦難もあるだろう。
それに天狐の体は良くも悪くも目立ちすぎる。普通に暮らすのは無理だろう。
それならばこの世界で生きていく方が良いのでは、と考え始めていた。
「まぁ君の人生だ。好きにしたまえ……では道を開こう」
「うむ。わかった」
「
レイダンが唱えるのは第九環魔法の転移魔法だ。
ワープゲートの魔法で黒い靄が渦となり道を作り出す。
一点と一点を繋ぐ魔法であり距離無制限の魔法で理論上は月にも火星にも行ける魔法だ。
レイダンが最初に通り次に玉藻が潜る。
出た先はうっそうとした森の中にある小さな屋敷だ。
庭があるが門はなく開けている。
屋敷自体は中ぐらいの物で二階建ての物だ。
庭の庭園をある少年が弄っていた。
「あの者は……」
玉藻にはその姿に見覚えがあった。
ゲームに登場した少年であり、ブトの森で薬草採取のクエストを発注し護衛することになる対象だ。
白い髪に赤い目の少年で歳は十四かそこらだろうが意外と体は鍛えられている。
庭仕事をするにあたって汚れても問題ない服を着ている。
その少年は二人に気づくと庭いじりを辞め立ち上がって駆け寄ってきた。
「あれ? お客さんですか?」
そう少年は笑みを見せた。
「あぁ。闇夜の魔女に会いに来た」
「師匠に? わかりました、読んできますから待っててくださいね!」
そう言うと少年は去っていった。
「あれが弟子……? 何の力も感じないが」
レイダンはそう疑問を口にした。
玉藻もそう言う感知系の
屋敷から女が出て来た。
銀髪碧眼の美女だ。左目にはモノクルを付けている。耳は尖っていて長いエルフ耳だ。
黒いとんがり帽子をかぶり魔女のローブを被っていて足元は見えない。
胸は大きい方だろう。玉藻には劣るが比べられるぐらいには大きい。
手には煙管を持ち煙草を吸っている。
身長は百八十センチほどだ。
「おや、もう封印が解けたのかい?」
そう女──リラはレイダンに親しそうに話しかけた。
「あぁ。この者が解いてくれた」
レイダンがそう玉藻を指すとリラは興味深そうに玉藻を見た。
「……へぇ。異世界からの転移者か。珍しいね」
「……珍しい、という事は割といるという事かの?」
玉藻は気になったことを問いかけた。
「そうだね、割と居るよ。不死の吸血鬼に機械の王女、あやかしの女王様に今は魔王様もいる」
「意外と多いの……」
あのゲーム異世界転移系の作品だったのかと玉藻は妙な気分になった。
「早速だが本題だ。悪魔を撃退するのに力を貸してほしい」
レイダンがそう言うとリラはタバコを吸って息を吐いた後、口を開いた。
「断る。私はもう暫くは
「……理由はなんだ?」
「……クレス、ちょっと庭でも弄っておいで」
「? わかりました!」
そう言うと少年、クレスは走って行った。
「さて……
行使するのは一定範囲内から音が出名来るようになる魔法だ。
「……あの子供が関係あるのか?」
レイダンがそう尋ねた。
「……そうだよ。あの子は捨て子でね、森に捨てられたところを私が拾ったんだ」
「……珍しいな。お前はそこまで人間に興味がなかっただろう」
「……私だって長生きすれば気も変わるさ。あの子がいるから今の私は動けない」
「……あの少年をここに縛り付ける気か?」
「まさか、そんなことはしないよ。いずれ外に旅立たさせるさ」
「その時世界が悪魔に覆われていてもいいのか?」
「そうはならないだろう。君たちがどうにかするのだから」
そうリラは微笑んだ。
「敵は悪魔の王、バァル・ゼブルじゃ。正直わらわたちじゃきつい」
レイダンもレベル九十あるので最低限仕事は出来るがそれでも二対一で優位に立てるかと言われたら微妙なところだ。
レベル八十以上の強者は複数必須なのである。レベル百を相手にするには。
「けど私にはあの子の事がある。うかつに動くことは──」
「まだるっこしいの。その餓鬼に聞けばいいじゃろ」
そう言うと玉藻はずかずかと結界から出てクレスに近づいた。
玉藻はしゃがんで庭を弄っているクレスに問いかける。
「おい、もうすぐ世界が悪魔に覆われて大変なことになりそうだというのにお主の母親はあれこれ理由をつけてやろうとせん! お主はどう思う?!」
玉藻は威圧的にそう問いかけた。
クレスは立ち上がって答えた。
「世界を救う力があるとしても、それを持って救う義務があるとは思いません。責任は行動の後に生じる物。行動してない者には何の責任もありません」
「ぐうの音も出んな!」
正論を言われて玉藻は黙るしかなかった。
確かに世界を救ってほしいのは究極的には玉藻の欲求でありリラにとっては世界がどうなろうと知ったことではないのだ。
玉藻だって元の世界に帰るという理由が無ければ放置してる。
それを見てレイダンはため息を吐いた。何をやってるんだ、と。
「……ならば私から対価を払おう」
レイダンがそう言いだした。
「封印されてたあんたに払えるものがあるのかい?」
「今はない。だから後払いになる。開封の剣を後で渡そう。それを持って悪魔王討伐に協力してほしい」
「……あぁ、あの封印を解除できる代物か。だが……」
そこにクレスがやってくる。
結果以内にするりと入る。尚四つん這いになってへこんでいる玉藻は放置された。
「師匠、何か仕事の話ですか?」
「……そうだよ。だけど、ちょっと依頼主の支払いが渋くてね。断ろうかと思っているんだ」
「……師匠がそう言うのなら、反対はできません。けど断ると世界が大変なことになるんですよね。さっき狐の人が言っていました」
「そうだよ。だけど私には関係ないから──」
「僕には関係あります。世界が大変なことになったらアグナさんやブラックウォークの人たちも大変なことになる。だから……僕の貯めていたお小遣いを報酬として依頼を受けてくれませんか?」
そうクレスは懇願した。
それに対しリラはくらっと来た。可愛い可愛い子供の頼みごとを聞けない親がどこにいるのか。まぁ現実にはそう言う頼みを聞かない屑は結構いるのだが。
リラは大きいため息を吐いた。
「わかった。それで手を撃とうじゃないか。ただし、悪魔の王を討つまでの間だからね」
「……感謝する。そこの狐、倒れてないで戻ってこい」
レイダンがそう言うと玉藻は正気に戻って戻ってきた。
「そちらの狐の子は初めてだから自己紹介をしようか。私はリラ。レベル八十七の
「私もしてなかったな。私はレイダン。魔力系
「次はわらわじゃな。幻覚や精神系に特化した魔力系
「え、えっと、クレス、十四歳です。
こうしてここに帝国最強のパーティが生まれた。