『ボーン・アブソリューション』 (The Bourne Absolution)   作:T/A2000

7 / 19
第7話(アビドス編):インテリジェンス・サイクル

一.百五十四回目

 

二十二日目 〇九一二時。

 

その日の土煙はいつもと違う形をしていた。

 

『――シックス、こちらデルタ。SALUTE送る』

 

シロコの声は北へ五・八キロの砂丘の裏から届いていた。囁きより小さく、そして正確だった。

 

『規模・車両九。うち二両は装輪装甲車。人員推定百二十。活動・展開――違う。訂正。展開してない。並んでる』

 

「並んでいる」

 

『整列してる。……全員こっち向いて立ってるだけ。誰も伏せてない』

 

ウェッブは対策委員会室の壁に貼った五万分の一の地図の上で赤鉛筆の先を止めた。

 

「――エコー。方位と時刻を読め」

 

『エコー・ワン。方位一三八、距離二千三百。時刻〇九一四。……先生、それと、あの』

 

アヤネの声がわずかに揺れた。

 

『装甲車の上に人が二人立ってます。双眼鏡を持って。……こっち見てます』

 

「服装は」

 

『黒じゃありません。砂色の……たぶん軍服です。ヘルメット団の格好じゃないです』

 

ウェッブは赤鉛筆を置いた。

 

そして無線の送信ボタンを押した。

 

「――全局へ。シックス。本日の交戦は行わない」

 

『えっ』

 

『ちょ、ちょっと待ってよ先生!』セリカの声が割り込んだ。『向こう百二十人よ!? 陣地全部埋めなきゃ』

 

「埋めるな。伏せろ」

 

「なんでよ!」

 

「向こうは撃ちに来ていない」

 

ウェッブは静かに言った。

 

「見に来ている」

 

その日、砂丘の向こうの百二十人は一発も撃たなかった。

 

四十分間そこに立ち、整列したまま双眼鏡でアビドス高等学校の校庭を眺め、そして引き返していった。

 

対策委員会も一発も撃たなかった。

 

土嚢の陰で五人はただ伏せていた。

 

セリカが砂に頬をつけたまま小さく言った。

 

「……なにこれ」

 

「気持ち悪い」シロコが答えた。

 

「うん。気持ち悪い」

 

---

 

一八〇〇時。旧一年三組。

 

黒板の四行はいつも通りだった。

 

『一.何が起こると予想したか

二.実際に何が起こったか

三.なぜそうなったか

四.次はどうするか』

 

「三つ目だ」

 

ウェッブはチョークを持ったまま言った。

 

「なぜ今日、敵は撃たなかった」

 

沈黙。

 

「……こっちが強くなったから諦めた?」ノノミがおずおずと言った。

 

「違う」

 

「じゃあ挑発だ」セリカが言った。「わざと撃たせて弾を減らそうとしてる」

 

「近い。だが違う」

 

シロコが顔を上げた。

 

「ん、……測ってた」

 

ウェッブはチョークを置いた。

 

「続けろ」

 

「四十分。ずっと同じ場所に立ってた。……あれ、私たちが動くのを見てたんだと思う。誰がどこに走るか。ミニガンがどこにあるか。誰が二階に上がるか」

 

「そうだ」

 

彼は地図の前に立ち、この二十二日間で彼が引いた線の全部を指した。

 

「今日で通算百五十四回目だ。だが百五十三回目までとは性質が違う。……あれは襲撃じゃない。測量だ」

 

「そくりょう」

 

「陣地の測量だ。火力の位置、交代の周期、指揮所の場所、死角。……全部遠くから見れば分かる。撃たれさえしなければな」

 

アヤネの顔から血の気が引いていくのが分かった。

 

「……先生。それって」

 

「そうだ」

 

ウェッブは言った。

 

「本番の準備が始まっている」

 

---

 

翌日、百五十五回目が来た。

 

そしてその日の夕方、百五十六回目が来た。

 

同じ日に二度。二年間一度もなかったことだった。

 

翌日、百五十七回目。

 

月に一度か二度だったものが二日で三回になった。

 

そして規模が変わった。

 

百五十五回目七十四名。百五十六回目九十一名。百五十七回目百六名。

 

いずれも二十分以内に撃退できた。土嚢は崩れず負傷者は出ず、消費弾数は減り続けていた。

 

数字の上では対策委員会は完勝していた。

 

だが二十四日目の夜、事後検討の黒板の前でアヤネが記録板を閉じてこう言った。

 

「……先生。おかしいです」

 

「言え」

 

「三回とも、こっちが撃ち始めてから撤収までほぼ同じ時間なんです。十八分、十九分、十八分」

 

「そうだな」

 

「向こう、勝つ気がないです」

 

彼女は眼鏡を押し上げた。

 

「私たちに撃たせに来てます」

 

ウェッブは黒板の『三.なぜそうなったか』の下に、その日初めて何も書かなかった。

 

代わりに彼はこう言った。

 

「明日、二十五日だ」

 

---

 

二.二十五日

 

二十五日目 一〇〇〇時。

 

その日は月の二十五日でもあった。ウェッブがこの校庭にヘリを降ろした日が、たまたま月の初日だったからだ。

 

砂色の現金輸送車が校門の前に停まった。

 

毎月二十五日。同じ時刻。同じ車。同じ手順。

 

アヤネが革の鞄を両手で抱えて出ていく。運転席から降りてきた作業服の男が受領書を切る。金額欄には毎月同じ数字が入る。

 

七百八十八万円。

 

ウェッブは二階の割れた窓からその一部始終を見ていた。

 

四分十二秒で終わった。

 

車が去ってから、彼は窓の下に置いた記録板に三行だけ書いた。

 

『車両番号、前回と同一。運転手、前回と同一。受領書の連番、前月から四千二百八十七番飛んでいる。』

 

そして四行目。

 

『――同じ用紙で、他に四千二百八十六件の集金が行われている。』

 

彼は鉛筆の先でその最後の一行を二度なぞった。

 

四千二百八十六。

 

この街のどこかで四千二百八十六の誰かが、同じように毎月二十五日に紙の袋を渡している。

 

「……先生」

 

背後でホシノの声がした。

 

彼女はいつからそこにいたのか、廊下側の壁に背を預けて立っていた。

 

「今日、来なかったね」

 

「なにがだ」

 

「ヘルメット団。……いつも二十八日から三十日でしょ。でも先月は二十六日に来た。その前は二十七日。だんだん早くなってる」

 

ウェッブは彼女を見た。

 

「気づいていたのか」

 

「うん」

 

ホシノは天井を見上げた。

 

「先生がアヤネちゃんのバインダー三冊、七分で読んだ日にね。あのあと私、同じの三時間かけて読んだの」

 

「……」

 

「頭悪いから三時間かかったよ。でも同じ数字が出た」

 

彼女は壁から背を離した。

 

「ねえ、先生」

 

「なんだ」

 

「そろそろ、名前言ってくれない?」

 

---

 

三.共有

 

一八〇〇時。対策委員会室。

 

ウェッブはホワイトボードの前に立ち、マーカーのキャップを外した。

 

そして黒い文字で一行だけ書いた。

 

『カイザーコーポレーション』

 

部屋が静かになった。

 

ただし――彼が予想していた静かさとは違う種類の静かさだった。

 

驚きがなかった。

 

「……知ってたわよ」

 

最初に口を開いたのはセリカだった。

 

「ん」シロコが頷いた。

 

「はぁい」ノノミが紅茶のカップを置いた。

 

「……はい」アヤネが小さく言った。

 

そしてホシノはソファの背に顎を乗せたまま天井を見ていた。

 

「……うん」

 

ウェッブはマーカーを持ったまま、しばらく動かなかった。

 

「――いつからだ」

 

「最初から」

 

セリカが即答した。

 

「私、会計だもん。毎月七百八十八万払ってるのよ。払った三日後にあいつらが来るの。二年間よ。……気づかないと思ってた?」

 

「……」

 

「ノノミ先輩なんてもっと前から知ってる。実家の会社が土地の権利を全部あそこに持ってかれたんだから」

 

ノノミがゆっくりと頷いた。

 

「はい。……うちの父が三年前に一度だけそう言いました。『あの会社は砂漠が欲しいんじゃない。砂漠の下が欲しいんだ』って」

 

ウェッブの指がマーカーの上で〇・二秒止まった。

 

「先生」

 

アヤネが眼鏡を押し上げた。眼鏡の奥の目は真っ直ぐだった。

 

「私たち、馬鹿じゃないんです」

 

「知っている」

 

「じゃあ、なんで黙ってたんですか」

 

ウェッブはマーカーを置いた。

 

画像のように正直に答えた。

 

「君たちに標的を与えると、君たちが行くからだ」

 

「……」

 

「あの日、俺があの部屋で『カイザーだ』と言っていたら、その週のうちに誰かが一人で本社ビルに向かっていた」

 

「行ったよ、たぶん」

 

ホシノが天井を見たまま言った。

 

「行っただろうな」

 

「今は行かないの?」

 

「行く」

 

ウェッブは言った。

 

「ただし今度は俺が先に地図を作る」

 

彼はホワイトボードの『カイザーコーポレーション』の下に線を一本引いた。

 

「今日で守りの段階は終わりだ」

 

「……終わり?」セリカが目を丸くした。「え、防衛やめるの!?」

 

「やめない。防衛は継続する。だが防衛だけでは絶対に勝てない」

 

彼は五人を見渡した。

 

「二十二日間、俺は君たちに『来たものを止める技術』を教えた。……あれは時間を買う技術だ。買った時間で何をするかを決めていなかったら、ただ長く負けるだけだ」

 

「じゃあ、何をするんですか」

 

アヤネが訊いた。

 

ウェッブは線の下に五つの単語を縦に並べて書いた。

 

『要求

収集

処理

分析

配布』

 

「情報の環(サイクル)だ」

 

彼は言った。

 

「一.何を知りたいかを決める。二.集める。三.読める形にする。四.意味に変える。五.必要な人間に渡す」

 

「……五番目要ります?」セリカが首を傾げた。「分かったら終わりじゃないの」

 

「五番目が一番難しい」

 

ウェッブは平坦に言った。

 

「ほとんどの組織は四番までやる。そして五番で失敗して人を死なせる。……俺は四番までしかやらない組織で二十年働いた」

 

彼はマーカーのキャップを閉めた。

 

「明日からこの環を作る」

 

---

 

四.三つの技術

 

二十六日目 〇六〇〇時。

 

昇降口の掲示板に三枚目の紙が貼られた。

 

一枚目も二枚目も剥がされなかった。三枚とも並んで貼られた。

 

『アビドス高等学校 廃校対策委員会 訓練計画表(第三次)』

 

セリカが読み上げた。

 

「……『廃棄物分析』。『標的型心理詐欺』。『秘匿侵入』。……なにこれ、なんか字面が犯罪なんだけど」

 

「上から順に覚えていないと死ぬ順だ」

 

「毎回それ言ってない!?」

 

「毎回本当だ」

 

体育館の壁にウェッブは大判の紙を三枚並べて貼った。

 

「今日から三つ教える。全部俺が二十年やって一度も誇りに思ったことのない技術だ」

 

五人が顔を上げた。

 

「一つ目」

 

彼は一枚目の紙を指した。

 

『廃棄物分析工作』

 

「ゴミを読む」

 

「……ゴミ?」

 

「そうだ」

 

ウェッブは言った。

 

「人間は口で嘘をつく。書類でも嘘をつく。会議でも報告でも嘘をつく。……だが捨てるときには嘘をつかない」

 

彼は五人を見た。

 

「捨てるとき、人間は『これはもう誰にも見られない』と信じている。信じている人間は最も正直だ」

 

「……」

 

「一枚のレシートにはその人間がいつどこで何を食ったかが書いてある。一枚の宅配伝票には何がどこから来たかが書いてある。シュレッダーの屑にはその日誰が何を隠したかったかが書いてある」

 

「シュレッダーって、細かくなってるんじゃ」

 

「細かくなっている。だから戻す」

 

「戻せるの!?」

 

「戻る」

 

ウェッブは言った。

 

「時間はかかる。だがこの部屋には二年間毎日同じ欄に同じ字を書き続けた人間がいる」

 

アヤネが自分を指した。

 

「わ、私ですか!?」

 

「他に誰がいる」

 

「二つ目」

 

彼は二枚目の紙を指した。

 

『標的型心理詐欺』

 

「人を騙す」

 

セリカが眉をひそめた。

 

「……それ、ただの詐欺じゃないの」

 

「詐欺だ」

 

「そこは否定してよ!」

 

「否定しない」

 

ウェッブは言った。

 

「だが原理は詐欺じゃない。……人間は権限のある声に従う。制服を着た人間の言うことを聞く。伝票を持った人間を通す。名札のある人間に道を教える」

 

彼は自分の胸を軽く叩いた。

 

「相手を騙すんじゃない。相手が既に信じているものを利用する。……人間が組織で生きるために必要な信頼をそのまま逆から使う」

 

「……えげつな」

 

「そうだ」

 

「三つ目」

 

三枚目。

 

『秘匿侵入工作』

 

「入って、出る」

 

「泥棒じゃない!?」

 

「泥棒は物を取る。これは取らない」

 

ウェッブは言った。

 

「入るのは簡単だ。難しいのは――入らなかったことにして出ることだ」

 

彼はそこで三枚の紙の下に赤いマーカーで太い枠を書いた。

 

そしてその中に三行書いた。

 

『一.人を傷つけない。

二.物を壊さない。

三.足跡を残さない。』

 

「この三つを守れ」

 

彼の声が一段低くなった。

 

「一つでも破ったら、そこから先は工作じゃない。ただの犯罪だ」

 

沈黙。

 

そして恐る恐るアヤネが手を挙げた。

 

「あの……先生」

 

「なんだ」

 

「三つ守っても……犯罪ですよね?」

 

体育館が静かになった。

 

ウェッブはしばらく彼女を見ていた。

 

そして言った。

 

「そうだ」

 

「そ、そうだって……!」

 

「嘘はつかないと言った」

 

彼はマーカーを置いた。

 

「奥空アヤネ。……君は今正しい質問をした。この二十六日間で一番正しい質問だ」

 

「え」

 

「これから俺が教えることは全部法の外にある。シャーレの権限で形式上は覆えるが、覆えることと正しいことは別だ。……だから君たちには選ばせる」

 

彼は五人を見渡した。

 

「やらない者はここに残れ。防衛だけをやればいい。それは恥じゃない」

 

長い沈黙があった。

 

最初に動いたのはシロコだった。

 

彼女は無言で一歩前に出た。

 

次にノノミがカップを置いて立ち上がった。

 

セリカが「……もー!」と言って前に出た。

 

アヤネは眼鏡を押し上げてから小さく、しかしはっきりと言った。

 

「……常識を大切にする対策委員会です」

 

「そうだな」

 

「でも、うちの学校が無くなるほうが非常識です」

 

そして最後にホシノがソファから立ち上がった。

 

「うへ〜。おじさん、悪いことするの久しぶりだなあ」

 

「久しぶりなのか」

 

「一年生の頃はけっこうやってたよ」

 

「……そうだろうな」

 

「そこ、否定してよ」

 

---

 

五.焼却工場

 

二十七日目 〇二三〇時。

 

アビドス自治区外縁、第七廃棄物焼却工場。

 

塀の高さ二・四メートル。有刺鉄線なし。監視カメラ二基、うち一基は死んでいる。夜間の常駐職員は二名で、そのうち一名は〇一〇〇時から仮眠室にいる。

 

これらは全部シロコとアヤネが三日かけて記録した内容だった。

 

「――デルタ、こちらシックス。搬入路の門扉、鎖のかかり方は」

 

『ん、二重に巻いてあるだけ。錠は下から二番目の輪。……持ち上げれば隙間が四十センチできる』

 

「よし。ブラボー、チャーリー、行け」

 

『チャーリー、ウィルコ!』

 

黒見セリカは全身を黒い作業着で包み、両手にゴム手袋を二重にはめ、口元を防塵マスクで覆っていた。

 

そして隙間から中へ滑り込み、〇・五秒後にこう言った。

 

「――うっっっ、くっっっさ!!」

 

『チャーリー。無線を切れ』

 

「無理よこれ! ねえこれ本当に人間のやることなの!?」

 

『ブラボー、彼女の口を塞げ』

 

「はぁい」

 

ノノミが後ろから両手でセリカの口を塞いだ。

 

「セリカちゃん、我慢ですよ。ほら、ハンドクリームも持ってきましたからね。あとで一緒に手を洗いましょうね」

 

「んーーーっ! んんーーーっ!」

 

十メートル先の圧縮機の脇に業務用の袋が四十六個積まれていた。

 

そのうち二十二個の口には緑色の結束テープが巻かれていた。

 

『――緑のやつだけだ』

 

無線でウェッブが言った。

 

『緑はカイザーコンストラクション本社の分だ。三日前、シロコが搬入時刻に印を確認している』

 

「よ、よく分かるわね、そんなの」

 

『トラックの荷台に緑のテープが四箱積んであった。それだけだ』

 

セリカは袋の口を開けた。

 

そして三十分後、彼女は焼却工場の裏手に敷いたブルーシートの上で四つの山を作っていた。

 

一つ目の山――生ゴミ。触るなと言われた。

 

二つ目の山――紙。

 

三つ目の山――シュレッダーの屑。

 

四つ目の山――ウェッブが「その他」とだけ呼んだ分類できないもの。

 

「……ねえ」

 

セリカは四つ目の山からトナーカートリッジの空箱を拾い上げた。

 

「これ、要る?」

 

『取っておけ』

 

「なんで!? ただの空箱よ!」

 

『型番が書いてある』

 

「型番なんか――」

 

『複合機の型番だ』

 

無線の向こうでウェッブが言った。

 

『機種が分かれば保守を請け負っている業者が分かる。業者が分かれば点検の周期が分かる。周期が分かればいつ誰が正面から堂々と中に入れるかが分かる』

 

セリカは箱を持ったまましばらく黙った。

 

そして言った。

 

「……あんたの世界の見え方、やっぱりこわいわね」

 

『そうだな』

 

その夜、対策委員会が持ち帰ったのは三十六キロの紙と、七キロのシュレッダー屑と、空箱十一個だった。

 

そして帰り道、セリカがふと言った。

 

「……ねえ先生。一枚だけ分けといたのがあるんだけど」

 

「なんだ」

 

彼女はビニール袋から一枚の紙を出した。

 

くしゃくしゃに丸められた給与明細だった。

 

社名の欄には『カイザーPMC』とある。

 

支給額の欄の下に赤い判子で一行だけ押されていた。

 

『支払留保(第三次)』

 

「……これ、あいつらの兵隊のよね」

 

「そうだ」

 

「……三回も給料止められてんの?」

 

ウェッブはその紙を受け取り、明かりに透かした。

 

「四回目だ」

 

「え」

 

「判子の色の濃さが四段階ある。……同じ判子を四回押している」

 

セリカは自分の作業着の裾を握った。

 

「……なんかさ」

 

「なんだ」

 

「あいつらのこと、殴りたくなくなってきたんだけど」

 

「殴るな」

 

ウェッブは言った。

 

「殴る相手はもっと上にいる」

 

---

 

六.紙の復元

 

二十八日目から三十日目にかけて、旧一年三組は工場になった。

 

奥空アヤネはそこに三日間籠もった。

 

机を六脚並べ、割れた窓のガラスを一枚外して机の上に渡し、その下にデスクランプを置いた。彼女が独力で作った簡易な透過台だった。

 

そしてシュレッダーの屑を、幅二ミリの短冊を一本ずつ並べていった。

 

「アヤネちゃん、ご飯」

 

「あとで」

 

「アヤネちゃん、寝て」

 

「あとで」

 

「アヤネちゃん、それ何時間やってるの」

 

「……十一時間です」

 

ノノミが黙って毛布を肩にかけた。

 

三日目の〇三〇〇時。

 

アヤネは透過台の上にA4の紙一枚分の短冊を隙間なく並べ終えた。

 

そして震える指でテープを貼り、光にかざした。

 

「――先生」

 

彼女は無線ではなく、走って旧一年三組の隣の教室のドアを叩いた。

 

「先生、起きてください、先生!」

 

ウェッブは既に起きていた。

 

「――出たか」

 

「出ました」

 

アヤネは紙を差し出した。

 

『社内通達(写) 複合機更新に伴う保守契約の切替について』

 

そこには三つのことが書いてあった。

 

一つ。カイザーコンストラクション本社ビル十二階の複合機は先月新機種に更新されたこと。

 

二つ。保守を請け負っている業者名――『キヴォトス事務機サービス』。

 

三つ。そして通達の最後に担当者の連絡先として印字された一行。

 

『総務部 設備課 佐々木 [email protected]

 

ウェッブは長いことその一行を見ていた。

 

「……先生?」

 

「――形式が出た」

 

「形式?」

 

「姓、点、名の頭文字、アットマーク、ドメイン。……この会社の社員のメールアドレスは全部この形だ」

 

彼はアヤネを見た。

 

「君は今、あの会社の社員全員の連絡先を手に入れた」

 

「え。……えっ? で、でも私、一人分しか」

 

「名簿は別の袋にあった」

 

ウェッブは机の上のもう一つの山を指した。

 

「社員食堂の月次精算表だ。氏名と社員番号が二百七十四人分並んでいる。……あれだけでは何の役にも立たなかった。この一行が来るまでは」

 

アヤネは自分の手の中の紙を見下ろした。

 

三日間目を焼いて指を切って二千八百本の短冊を並べて、たった一枚戻した紙。

 

「……先生」

 

「なんだ」

 

「これ、価値ありますか」

 

「情報というのは」

 

ウェッブは言った。

 

「価値の分かる人間の手元に届いたときにだけ情報になる」

 

---

 

七.声

 

三十一日目 一四〇〇時。

 

対策委員会室の机の上に電話機が一台置かれていた。

 

シャーレから持ち込んだ回線で、発信者番号は闇市場の中古端末屋のものに偽装してある。

 

「ノノミ」

 

「はぁい」

 

「君に電話をかけてもらう」

 

十六夜ノノミの紅茶のカップがソーサーの上で止まった。

 

「……あら。どちらへ?」

 

「カイザーコンストラクション本社、総務部設備課」

 

部屋の空気が変わった。

 

「セリカでもアヤネでもなく、俺でもない。君だ」

 

「……理由をうかがっても?」

 

ウェッブはしばらく黙った。

 

そして言った。

 

「君は一度も『お願いします』を言ったことがない人間の喋り方を知っている」

 

ノノミの睫毛が一度だけ震えた。

 

「……それ、褒めてます?」

 

「褒めていない」

 

「あら」

 

「使えると言っている」

 

長い沈黙があった。

 

セリカが何か言おうとして、アヤネが袖を引いて止めた。

 

「先生」

 

やがてノノミが言った。

 

「私、その喋り方あんまり好きじゃないんです」

 

「知っている」

 

「……知ってるんですね」

 

「君は二十七日間一度も命令形を使っていない。ミニガンを撃ちながらでもだ。……あれは癖じゃない。訓練の結果だ。誰かが君にそれを禁じたか、君が自分に禁じたかのどちらかだ」

 

ノノミはカップを見下ろしていた。

 

「嫌なら断っていい」

 

ウェッブは言った。

 

「代わりは俺がやる。成功率は君より低いがゼロじゃない」

 

さらに長い沈黙。

 

そして十六夜ノノミはカップをソーサーの上にきちんと戻した。

 

「――いいえ」

 

彼女は立ち上がった。

 

「ノノミがやります」

 

彼女は電話機の前に座り背筋を伸ばし、受話器を取る前に一度だけ深く息を吸った。

 

呼出音が三回鳴った。

 

『はい、カイザーコンストラクション総務部でございます』

 

そして十六夜ノノミの声が変わった。

 

「――キヴォトス事務機サービスの十六夜と申します。恐れ入ります、御社十二階の複合機の件で」

 

穏やかでゆっくりで、そして一切の躊躇がなかった。

 

『……はい、少々お待ちください。えー、点検のご予定でしたでしょうか』

 

「ええ。先月の更新に伴う初回定期点検です。九十日以内に実施する契約になっておりますので」

 

『……あの、こちらの控えにその予定が』

 

「あら」

 

たった二文字だった。

 

だがその二文字には電話の向こうの人間を反射的に謝罪させる何かが含まれていた。

 

『あっ、い、いえ、こちらの記録漏れかもしれません、申し訳ございません』

 

「いえ、こちらの担当がまた手続きを飛ばしたのでしょうね。うちの若い者はすぐそうするんです。……申し訳ございません」

 

『いえいえ、そんな』

 

「では、日程だけ先に押さえさせていただいてもよろしいでしょうか。……ええ、作業は九十分程度、機械のある十二階だけで結構です。ああ、入館手続きはどのような」

 

『あ、はい、当日一階の受付で作業伝票をご提示いただければ。あと警備の交代が一二〇〇と一八〇〇なので、その時間だけ避けていただけると助かります』

 

「承知いたしました。ご丁寧にありがとうございます」

 

「――失礼ですが、ご担当者様のお名前を控えさせていただいても?」

 

『あ、設備課の岡本と申します』

 

「岡本様ですね。ありがとうございます。当日はうちの若い者が二名と責任者が一名伺います」

 

七十二秒だった。

 

受話器が置かれた。

 

対策委員会室はしばらく誰も動かなかった。

 

「……」

 

「……」

 

「……ノノミ先輩」

 

セリカが震える声で言った。

 

「今の、誰?」

 

十六夜ノノミは受話器を置いた手をそのままにしてしばらく黙っていた。

 

そして小さく言った。

 

「……お母様の声なんです」

 

「え」

 

「私、小さい頃からずっとあの声を聞いて育ったので」

 

彼女は自分の手を見下ろした。

 

指先が細かく震えていた。

 

「ちゃんと出るんですよ。いつでも。……出したくないのに」

 

ウェッブは彼女の前に立った。

 

そして言った。

 

「十六夜ノノミ」

 

「はぁい」

 

「今の七十二秒で、君はこの学校の全員の命を一日分延ばした」

 

「……」

 

「その声は君の母親のものかもしれない。だが今日それを何のために使ったかを決めたのは君だ」

 

ノノミはしばらく顔を上げなかった。

 

やがて彼女はいつものおっとりとした調子で言った。

 

「……あら。先生、ずるいですね」

 

「そうか」

 

「そんなふうに言われたら、また使っちゃうじゃないですか」

 

---

 

八.十二階

 

三十四日目 一四三〇時。

 

キヴォトス中央区、カイザーコンストラクション本社ビル。地上二十六階。

 

正面玄関に灰色のバンが停まり、三人が降りた。

 

作業服。胸に『キヴォトス事務機サービス』の刺繍。腰の工具ベルト。手にはクリップボードと作業伝票。そして靴にかける不織布のカバー。

 

先頭に立っているのは三十半ばの男だった。

 

この街では極めて珍しい大人の顔。

 

その後ろに猫耳の一年生と狼耳の二年生。

 

「……先生」

 

セリカが口の端だけで言った。

 

「心臓が口から出そうなんだけど」

 

「出すな」

 

「出したくて出るわけじゃないでしょ!?」

 

「呼吸を四秒で吸って四秒止めて四秒で吐け。三回だ」

 

「……」

 

「――やった」

 

「もう一回やれ」

 

一階受付。

 

作業伝票を出す。受付の生徒が端末を叩く。

 

三秒。

 

五秒。

 

八秒。

 

セリカの右手の指がズボンの縫い目を探してそこを二回叩いた。

 

(――落ち着け。落ち着け。落ち着け)

 

『チャーリー』

 

イヤホンの奥からアヤネの声が届いた。八百メートル離れた向かいのビルの屋上から。

 

『心拍が速いです。……たぶん』

 

(見えてないでしょ!?)

 

『はい、見えてません。でも分かります』

 

「……はい、確認取れました。十二階ですね」

 

受付の生徒が入館証を三枚滑らせた。

 

「エレベーターは奥の三番と四番をお使いください。十二階、お疲れ様です」

 

十二階。

 

フロアの南側に複合機が二台。片方は静かに待機し、片方は排紙トレイに紙を溜めたまま「用紙詰まり」の表示を出していた。

 

「――ん」

 

シロコが屈み込んで前面カバーを開けた。

 

「本当に詰まってる」

 

「直せ」

 

「え!?」セリカが小声で叫んだ。「直すの!?」

 

「直す」

 

ウェッブはクリップボードの上で作業伝票にペンを走らせながら言った。

 

「壊れたままにしておくと、明日本物の業者が呼ばれる」

 

シロコは十四分で定着部のローラーを分解し、詰まった紙片を三枚取り除き、清掃し、組み直した。

 

複合機が短い電子音を鳴らして復帰した。

 

「……直った」

 

「上出来だ」

 

その間にウェッブは機体の背面に回っていた。

 

背面下部の空洞。電源の内部コンセントが一つ空いている。そしてネットワークの差込口が一つ。

 

彼は工具ベルトから掌に収まる黒い箱を出した。

 

差込口からケーブルを抜き、黒い箱を挟み、その先を機体へ戻す。

 

配線が増えない。

 

一本の線の途中に一つの箱が挟まっただけだった。

 

「――増設するな。挟め」

 

彼は誰にともなく呟いた。

 

「増えたものは見つかる。挟まったものは見つからない」

 

そのときだった。

 

「――そこ、何してんだ」

 

フロアの北側から声がした。

 

砂色の戦闘服。腰に拳銃。カイザーPMCの制服。

 

セリカの全身が硬直した。

 

(――どうしよう。どうしよう。なんて言えば――)

 

イヤホンからウェッブの声が届いた。ごく低く。

 

『答えるな』

 

(え)

 

『相手に喋らせろ。……そして紙を渡せ』

 

黒見セリカは〇・八秒で自分のクリップボードを胸から外した。

 

そして振り返り、それを差し出した。

 

「――あ、ちょうどよかったです。そこ、サインもらえますか」

 

「……は?」

 

「立会確認欄です。フロアの方のサインが要るんですけど誰もいなくて」

 

「……いや、俺、警備で」

 

「じゃあ警備の方で大丈夫です。所属とお名前と時刻を」

 

PMC兵は差し出されたクリップボードとボールペンを見下ろした。

 

そして三秒後、彼は非常に嫌そうな顔でこう言った。

 

「……悪い、俺そういうのは分からん。総務に言ってくれ」

 

「あ、そうなんですね。すみません」

 

「……ああ」

 

彼は去っていった。

 

去り際に一度だけ振り返ってこう言った。

 

「――なあ、あんたら給料ちゃんと出てるか」

 

「え」

 

「いや。……いいんだ。頑張れよ」

 

足音が遠ざかった。

 

セリカはクリップボードを胸に抱えたまま、しばらく動けなかった。

 

一五五八時、退出。

 

作業完了の伝票を受付に提出し入館証を返却して、三人はビルを出た。

 

バンが走り出して四百メートル過ぎたところでセリカがようやく息を吐いた。

 

「……ねえ、先生」

 

「なんだ」

 

「私、あの人に嘘ついたんだよね」

 

「ついた」

 

「……なんかさ」

 

彼女は窓の外を見た。

 

「悪いことしてるって頭では分かってたんだけど。……あの人が『頑張れよ』って言ったとき初めて分かった」

 

ウェッブはハンドルを握ったまま前を見ていた。

 

「黒見セリカ」

 

「なによ」

 

「それを忘れるな」

 

「……え」

 

「忘れなくなった人間だけがこの技術を使っていい」

 

---

 

九.附属書B

 

三十四日目 二三一〇時。

 

対策委員会室。

 

アヤネの端末の画面にフォルダの一覧が広がっていた。

 

抽出そのものは七時間前に終わっていた。

 

一五三一時。向かいの雑居ビルの屋上。指向性アンテナを膝の上で支えたまま、彼女は八百メートル先の複合機の背面に挟まった黒い箱と二十九分間だけ会話をした。

 

そして一六〇二時、ウェッブたちがビルを出るのと同時に彼女は電源を落として屋上を降りた。

 

「――出ました」

 

彼女の声は掠れていた。

 

「複合機って、スキャンした書類を社内の共有フォルダに直接送る機能があるんです。……その機能を使うために機械の中に共有フォルダの鍵が保存されてます」

 

「鍵」

 

「アカウントとパスワードです。……総務部の共有領域と、それから」

 

彼女は画面をスクロールした。

 

「……役員共有領域も」

 

部屋が静かになった。

 

「あの機械は」ウェッブが言った。「部長の鍵を持って廊下に立っていたわけだ」

 

「はい」

 

「何分かかった」

 

「……鍵を見つけるまで四分です。中身を全部引き上げるのに二十五分」

 

「上出来だ」

 

一覧の中に一つのフォルダがあった。

 

『アビドス自治区総合再開発事業 第三次案』

 

アヤネがそれを開いた。

 

本文。附属書A。附属書B。附属書C。別冊。

 

ウェッブは本文を三分で読み飛ばし、附属書Aを七分読んだ。

 

『附属書A:資産評価及び取得計画』

 

そこにはアビドス自治区の残存資産の一覧と、その評価額と取得予定価格が並んでいた。

 

そして評価額の欄の脚注にこう書いてあった。

 

『※ 評価額は周辺治安状況(襲撃発生頻度)を反映して算定。前年比マイナス六十二パーセント。』

 

「……先生」

 

アヤネの声が震えた。

 

「これ、自分たちで襲わせて自分たちで値段を下げてるってことですか」

 

「そうだ」

 

「……」

 

「そして下げた値段で買う。合法だ」

 

「合法!?」

 

「書類の上ではな」

 

ウェッブは画面をスクロールした。

 

そして附属書Bを開いた瞬間、彼の手が止まった。

 

三十秒動かなかった。

 

「……先生?」

 

「――これは事業計画書じゃない」

 

「え」

 

「作戦命令だ」

 

彼は画面を指した。

 

「様式が同じだ。状況。任務。実施。後方支援。指揮通信。……順番まで同じだ」

 

「そ、それって」

 

「これを書いたのは民間人じゃない」

 

『附属書B:区域確保計画』

 

一.状況

当該区域には自衛戦力として五名が存在する。過去三十日間で防御能力が急速に向上(別紙観測記録参照)。

 

「……観測記録」

 

セリカが呟いた。

 

「あの立ってた百二十人の」

 

「そうだ」

 

二.任務

H時をもって当該区域を確保し、掘削作業の安全を担保する。

 

三.実施

H時:来月二十五日 一二〇〇時

 

「――二十五日」

 

アヤネが息を呑んだ。

 

「返済日です。私が校門で受領書もらってる時間です」

 

「そうだ」

 

ウェッブの声は平坦だった。

 

「その時間、君は校門の外に一人で立っている。指揮所の位置と鞄の中身と、五人のうち誰が現金を運ぶかが向こうには分かっている」

 

「……」

 

「二年間毎月教えてやっていたわけだ」

 

第一梯団:外部委託先『便利屋68』 四名

任務:正面防御火力を吸収し、火点の位置を暴露させる。

 

第二梯団:カイザーPMC 一個中隊(装輪装甲車四両を含む)

任務:暴露した火点を制圧、校舎を確保。

 

第三梯団:工兵小隊、掘削器材

 

そしてその下に一行。

 

『損害許容:第一梯団 一〇〇パーセント』

 

部屋の空気が止まった。

 

「……ひゃく」

 

セリカの唇が動いた。

 

「百パーセントってなに」

 

誰も答えなかった。

 

答えたのはウェッブだった。

 

「全員だ」

 

「……」

 

「第一梯団は全員がやられる前提で組まれている。……いや」

 

彼は言い直した。

 

「全員がやられることが仕事だ」

 

「なんで」

 

「囮だからだ」

 

彼は画面の一行を指でなぞった。

 

「――違うな。囮じゃない。もっと悪い」

 

「……」

 

「計測器だ」

 

ウェッブは言った。

 

「あの四人を正面から突っ込ませて君たちに撃たせる。撃った位置が全部見える。何秒で反応するかも見える。……あの四人が倒れきったとき、向こうは君たちの陣地の完全な図面を手に入れる」

 

シロコが低い声で言った。

 

「ん、……二十二日目と同じ」

 

「そうだ。同じ手だ。ただし今度は生きた人間を使う」

 

---

 

〇〇一〇時。

 

「――先生。まだあります」

 

アヤネが画面を送った。

 

四.後方支援

集結地及び前進補給拠点:第四掘削現場(呼称『オアシス』)

当該地点より目標までの距離 三十八キロ

装輪装甲車の行動所要 二時間四十分

燃料・弾薬・給水は現地備蓄により賄う

 

「……第四掘削現場」

 

セリカが読み上げた。

 

「なにこれ。掘削現場? そんなのあった?」

 

シロコが立ち上がった。

 

そして壁の五万分の一の地図の前に行き、しばらく無言で見ていた。

 

指が止まった。

 

「……ここ」

 

彼女は地図の一点を叩いた。

 

砂漠の真ん中。等高線が緩く窪んだ場所。

 

そこには砂漠化する前の古い地図から書き写した文字が薄く残っていた。

 

『大オアシス』

 

部屋が凍りついた。

 

ホシノが壁から背を離した。

 

「……先生」

 

「なんだ」

 

「そこ、うちの学校のお祭りやってたとこだよ」

 

「……」

 

「ボート浮かべてさ。よその学校の子まで来てさ。……先輩と宝探しに行ったとこだよ」

 

ウェッブは何も言わなかった。

 

代わりに彼はアヤネに言った。

 

「別冊を開け」

 

「は、はい」

 

『別冊:地質調査報告(第九次)』

 

そこにあったのはボーリング調査の柱状図と深度別の分析表、そして一枚の写真だった。

 

深度三百八十メートル。

 

黒い岩盤の中に、明らかに人の手が作った直線が写っていた。

 

その下に報告書の結論が三行だけ書いてあった。

 

『一.当該構造物は自然地形ではない。

二.年代測定は不能(測定機器が値を返さない)。

三.資産価値の算定は、通常の鉱物資源評価の枠組みでは行えない。』

 

そして四行目に赤い注記。

 

『※ 本件を社内では「宝探し」と呼称すること。「遺物」の語は文書に残さないこと。』

 

長い沈黙があった。

 

ノノミがゆっくりと言った。

 

「……お父様が言ってた通りです」

 

「……」

 

「あの会社は砂漠が欲しいんじゃない。砂漠の下が欲しい」

 

ウェッブは画面の柱状図を見ていた。

 

「アヤネ」

 

「はい」

 

「この調査はいつからやっている」

 

「……第九次です。第一次は」

 

彼女が日付を確認した。

 

そして顔を上げた。

 

「……四年前です」

 

「四年前」

 

「先生。アビドスが最初にカイザーローンから融資を受けたのが三年半前です」

 

部屋が静かになった。

 

「――順番が逆だ」

 

ウェッブは言った。

 

「借金があったから土地を取られたんじゃない」

 

「……」

 

「土地が欲しかったから借金をさせたんだ」

 

セリカが立ち上がった。

 

椅子が倒れた。

 

彼女はそのまま何も言わずに拳を握って、両肩を上下させていた。

 

「セリカ」

 

「……」

 

「座れ」

 

「……座らない」

 

「そうか」

 

ウェッブは立ち上がらなかった。

 

「なら立っていろ。……ただし走り出すな」

 

黒見セリカはその場で三十秒立ち尽くし、それから自分で椅子を起こして座った。

 

---

 

十.附属書C

 

〇〇四〇時。

 

『附属書C:外部委託先管理』

 

アヤネはそれを声に出して読んだ。読みながら彼女の声はどんどん小さくなっていった。

 

「『一.前払金は支払わない。着手金の支払条件は「作戦成功時」に変更済み。本件は既に先方に通知済みであるが、先方は契約書の別紙を確認していない』」

 

「……」

 

「『二.作戦終了後、当該委託先をアビドス自治区への不法侵入および器物損壊の実行犯として当局に告発。同時に当該委託先が現在負っている債務の一括請求を行う』」

 

「……」

 

「『三.返済不能を確認の上身柄を拘束。カイザーPMC労務部門へ編入』」

 

セリカの手が机の縁を強く握った。

 

「……なにそれ」

 

「まだあります」

 

アヤネの指が震えていた。

 

「『四.編入不適格者は研究協力先へ移送』」

 

部屋が静かになった。

 

ウェッブは動かなかった。

 

「動かない」という行為にこれほど強い力を費やすのは、この一ヶ月で二度目だった。

 

――研究協力先。

 

「……先生」

 

ホシノの声だった。

 

彼女はさっきから壁に背を預けて一言も喋っていなかった。

 

「その言葉、なに」

 

「……」

 

「先生、今息止めたよね」

 

ウェッブは画面から目を離した。

 

そしてホシノを見た。

 

「――屋上に来い」

 

---

 

十一.二つのカップ

 

〇一二〇時。屋上。

 

風のない夜だった。

 

給水塔の陰に折り畳み椅子が一つと、コンクリートの上に魔法瓶が一本、カップが二つ。

 

ウェッブは椅子には座らなかった。

 

彼女の隣ではなく、二メートル離れたコンクリートの上に座った。

 

「――整理できた」

 

彼は言った。

 

ホシノは膝を抱えたまま東を見ていた。

 

「……うん」

 

「十四日前、あの部屋で聞いたことの中に君に関わることがあると言った」

 

「言った」

 

「今から言う」

 

「うん」

 

ウェッブは魔法瓶の栓を開け、二つ目のカップに注いだ。

 

そして余計な前置きを一つも置かずに言った。

 

「あれは君を研究するつもりだったと言った」

 

ホシノの肩は動かなかった。

 

「準備は三年前から進めていたと。……債務の額を調整し、退学届の様式を用意し、君が一人で全部を背負う癖が固まるのを待っていた、と」

 

「……」

 

「『あと二年でした』と言った」

 

風がなかった。

 

星が異常なほど多かった。

 

小鳥遊ホシノはしばらく何も言わなかった。

 

やがて彼女はごく普通の声で言った。

 

「……そっか」

 

「ああ」

 

「じゃあ私、二年間ずっと育てられてたんだ」

 

「そうだ」

 

「うへ〜」

 

彼女は膝に額を押しつけた。

 

そのまま一分ほど動かなかった。

 

ウェッブは何も言わなかった。慰めの言葉を一つも探さなかった。探すべきでないことを知っていたからだ。

 

やがてホシノは顔を上げた。

 

「先生」

 

「なんだ」

 

「今日の附属書Cの『研究協力先』って、それだよね」

 

「――断定はできない。だが同じ語彙だ」

 

「うん」

 

彼女はカップを両手で受け取った。

 

一口飲んで盛大に顔をしかめた。

 

「……まっっっず」

 

「そうだな」

 

「先生、これ豆変えないの?」

 

「変えると味が分からなくなる」

 

「意味わかんないよ」

 

ホシノは笑った。

 

そして笑うのをやめた。

 

「ねえ、先生」

 

「なんだ」

 

「便利屋の子たちさ」

 

ウェッブは彼女を見た。

 

「あの四人も同じだよね」

 

「……」

 

「使われて、使い終わったら『移送』されるんでしょ」

 

「そうだ」

 

「……そっか」

 

小鳥遊ホシノは東の空を見ていた。

 

まだ何も見えなかった。地平線はただ黒かった。

 

「私さ」

 

彼女は言った。

 

「捨て駒にされる側の気持ちなら分かるんだ」

 

---

 

十二.ヘルメットちゃん

 

三十六日目 一三〇〇時。

 

アビドス自治区外縁、廃業したガソリンスタンドの日陰。

 

小鳥遊ホシノはそこで一人の少女と缶ジュースを二本抱えて座っていた。

 

黒い制服。膝の上にはフルフェイスのヘルメット。足首にはまだ汚れて伸びきった包帯の跡が残っている。

 

「……なんでうちに来んだよ」

 

「んー、なんとなく」

 

「なんとなくで敵んとこ来んなよ」

 

「敵かなあ」

 

ホシノは缶を差し出した。

 

「怪我、治った?」

 

「……治ったよ」

 

「よかったねえ」

 

少女はジュースを受け取って、ヘルメットを膝の上で抱え直した。

 

「あんたら、なんかしたろ」

 

「なにが?」

 

「うちら、切られた」

 

ホシノの視線が動いた。

 

「切られた」

 

「先月末で契約終わり。次はねーってさ」

 

少女は缶のプルタブを弄った。

 

「単価も上がんねーし、そもそも仕事がなくなった。……あそこの理事が言ってたよ。『ヘルメット団ではあの学校は沈まない』って」

 

「……」

 

「うちら、二年やって最後にそれだけ言われて終わり」

 

彼女はジュースを一口飲んだ。

 

「代わりのやつが入った」

 

「代わり」

 

「ゲヘナの、便利屋とかいう会社」

 

ホシノは何も言わなかった。

 

「四人だってさ。四人。うちら五十八人でダメだったのに四人だぜ。……理事が直接出向いて契約したらしい。金額聞いてびっくりしたよ」

 

「いくら?」

 

「三千万」

 

「……」

 

「うちら五十八人の半年分より多い」

 

少女は鼻で笑った。

 

「羨ましくねーけどな」

 

「なんで」

 

「まだ一円も入ってねーからだよ」

 

ホシノの動きが止まった。

 

「……なんで知ってるの」

 

「うちの隊長があそこの社長に会ったんだよ。引き継ぎで」

 

少女は缶を握り潰した。

 

「めちゃくちゃ偉そうにしてたって。コート羽織ってソファに足組んで『いい仕事だわ』とか言って。……でも途中で電話が鳴って、隣の部屋で二十分喋ってたってさ。壁薄いから丸聞こえで」

 

「なんて」

 

「『着手金はいつ入るんですか』って。それ、七回言ってたって」

 

「……」

 

「で、部屋に戻ってきたら、また足組んで『順調よ』って言ったんだと」

 

少女はヘルメットの縁を指で弾いた。

 

「隊長、帰り際にトイレ寄ったんだよ。そしたらあの社長、事務所の裏で電卓叩いてた」

 

「電卓」

 

「二十分くらい。ずーっと。同じとこ何回も」

 

彼女は立ち上がった。

 

「あとさ、あそこの下っ端、うちの近所のスーパーの見切り品コーナー来るよ。四人分の弁当買ってる。半額のやつ」

 

「……」

 

「そんだけ。じゃあな」

 

「ちょっと待って」

 

ホシノが呼び止めた。

 

「名前、教えてよ」

 

「言わねーよ」

 

「じゃあヘルメットちゃんね」

 

「やめろ」

 

少女はヘルメットを被った。

 

商売道具を被りながら、くぐもった声で言った。

 

「……なあ」

 

「なに」

 

「あのおっさん、まだいんの」

 

「いるよ」

 

「……そっか」

 

彼女は少し黙った。

 

「あのさ。もしあの便利屋のやつらがうちらみたいに切られたらさ」

 

「うん」

 

「……いや。なんでもねえ」

 

彼女は歩き出した。

 

十歩ほど行ってから一度だけ振り返った。

 

「あのおっさんに言っといて」

 

「なに?」

 

「――水、まだ一本残してある」

 

---

 

十三.五つ目

 

三十六日目 一九〇〇時。対策委員会室。

 

ホワイトボードの前に立ったのはウェッブではなかった。

 

小鳥遊ホシノだった。

 

「……えー、じゃあおじさんが喋りまーす」

 

「委員長が喋るんですか!?」アヤネが目を丸くした。

 

「うん。だって私が言い出したんだもん」

 

彼女はマーカーを取った。

 

そしてホワイトボードに下手くそな字で三つの丸を描いた。

 

一つ目に『アビドス』。二つ目に『便利屋68』。三つ目に『カイザー』。

 

そして一つ目と二つ目の間に矢印を引いて、そこに大きくバツを書いた。

 

「二十日後、この矢印で殴り合う予定です」

 

「……そうね」セリカが頷いた。

 

「でも殴り合ったら誰が得する?」

 

「カイザー」シロコが即答した。

 

「そう」

 

ホシノは三つ目の丸を丸で囲った。

 

「向こうはさ、私たちが強いのも知ってるの。便利屋が全滅するのも計算に入ってるの。……つまり私たちがどんなに上手に戦っても、向こうの計画通りなんだよ」

 

部屋が静かになった。

 

「じゃあ、どうするか」

 

彼女は矢印のバツの上にぐるっと丸を描き直した。

 

そして矢印の向きを、二つ目の丸から三つ目の丸へと引き直した。

 

「――向き、変えちゃえばいいと思う」

 

沈黙。

 

「……え」

 

セリカがぽかんと口を開けた。

 

「向きを変えるって……あいつらをこっち側にするってこと?」

 

「うん」

 

「無理でしょ!? 敵よ!?」

 

「敵じゃないよ」

 

ホシノは言った。

 

「まだ何もされてないもん」

 

「……あ」

 

「向こうはまだうちに一発も撃ってない。契約しただけ」

 

彼女はマーカーを置いた。

 

「それにさ。あの子たち、自分がどう扱われるか知らないんだよ」

 

ウェッブが初めて口を開いた。

 

「――情報の非対称性だ」

 

「え?」

 

「同じ盤面を見ているのに、片方だけが持っていない情報がある状態のことだ」

 

彼は立ち上がってホワイトボードの前に立った。

 

「あの四人は自分たちが三千万で雇われた実行部隊だと思っている。……実際には損害許容一〇〇パーセントの計測器だ」

 

「……」

 

「その差がこちらの唯一の武器だ」

 

彼はマーカーを取り、ホワイトボードの隅に四つの文字を書いた。

 

『M I C E』

 

「人を寝返らせる動機は四つある。金。思想。弱み。自尊心。頭文字を取ってMICEと呼ぶ」

 

「ねずみ?」

 

「そうだ。……四十年前から変わっていない」

 

彼は四つの文字を順に指した。

 

「金――こちらに払う金はない。思想――向こうに思想はない。弱み――握っていない。握るべきでもない。自尊心――」

 

彼は手を止めた。

 

「これは使える。あの社長は自分を悪党だと思いたがっている。悪党にとって雇い主に馬鹿にされていたという事実は最大の侮辱だ」

 

「……先生」

 

ホシノが言った。

 

「五つ目があるよ」

 

ウェッブは彼女を見た。

 

「……」

 

「本当のこと」

 

部屋が静かになった。

 

「それは工作じゃない」

 

ウェッブは言った。

 

「うん」

 

ホシノは頷いた。

 

「だからやるんだよ」

 

デイヴィッド・ウェッブはしばらく何も言わなかった。

 

――二十年間、誰も彼にそれを教えなかった。

 

――教える必要がなかったからだ。彼が扱ってきた人間の中に本当のことで動く人間は一人もいなかった。金で動き、恐怖で動き、恨みで動く人間ばかりだった。そして彼らは全員、最後には使い捨てられた。彼自身を含めて。

 

彼はマーカーのキャップを閉めた。

 

「――採用する」

 

「やった」

 

「ただし条件がある」

 

「はぁい」

 

ウェッブはホワイトボードに向き直った。

 

「相手はこの紙を信じない」

 

「え」

 

アヤネが顔を上げた。

 

「で、でも本物ですよ? 本社のサーバーから直接――」

 

「本物であることと本物だと信じてもらえることは別だ」

 

彼は言った。

 

「君が明日、見知らぬ人間から『君の雇い主は君を殺す予定だ』と書いた紙を渡されたとする。信じるか」

 

「……信じません」

 

「敵の学校の生徒が渡してきた紙ならどうだ」

 

「絶対に信じません」

 

「そうだ」

 

ウェッブは頷いた。

 

「だから俺たちは証明しない」

 

「……え?」

 

「カイザーが証明する」

 

彼は附属書Cの一項を指した。

 

『一.前払金は支払わない。着手金の支払条件は「作戦成功時」に変更済み』

 

「――前払金の支払予定日は」

 

アヤネが慌てて画面を確認した。

 

「……二十五日です」

 

「二十五日だ」

 

ウェッブは言った。

 

「その日、あの四人の口座には何も入らない」

 

部屋が静かになった。

 

「先に紙を渡しておく。信じなくていい。読まなくてもいい。……そして二十五日に入るはずの金が入らない」

 

彼は言った。

 

「そのとき初めて、俺たちが渡した紙が本物になる」

 

セリカがゆっくりと椅子に座り込んだ。

 

「……こわ」

 

「そうだ」

 

「あんた、ほんとにこわい」

 

「知っている」

 

「でもさ」

 

セリカは顔を上げた。

 

「……それ、私たちが何にも嘘ついてないってことよね」

 

ウェッブは彼女を見た。

 

「そうだ」

 

「じゃあ、いいや」

 

彼女は袖で顔をこすった。

 

「私、嘘つくのもう嫌だったし」

 

---

 

十四.鎖

 

三十六日目 二三五〇時。旧一年三組。

 

ウェッブはタフブックを開き、一枚の文書を作っていた。

 

『アビドス自治区――情報収集要求(第二次)』

 

『要求一:便利屋68の所在地、構成員四名の日常行動、資金状況。手段:ヒューミント(進行中/担当・小鳥遊)。

 

要求二:着手金支払予定日の裏付け。手段:附属書C第一項および経理伝票の突合(完了/担当・奥空)。

 

要求三:接触の機会。条件――(一)武装を伴わないこと。(二)第三者の目のある場所であること。(三)こちらから先に話をしないこと。』

 

彼は三番目の項目でしばらく手を止めた。

 

そしてその下に一行だけ書き足した。

 

『備考:本作戦において、当方は一切の虚偽を用いない。用いる必要がないためである。』

 

彼はその一行を二度読み返した。

 

そしてもう一度読み返した。

 

――二十年でこんな作戦計画を書いたのは初めてだった。

 

窓の外では星が出ていた。

 

その下の校庭には二千百個の土嚢と六つの掩体、そして砂に半分埋まった校舎があった。

 

彼は文書を保存し印刷した。

 

インクジェットプリンタが六枚を吐き出すのに五分かかった。

 

その五分のあいだ、彼は掲示板に貼られた三枚の紙のことを考えていた。

 

一枚目。撃つ技術。

 

二枚目。撃たずに済ませる技術。

 

三枚目。撃たれる前に知る技術。

 

そして四枚目にはまだ何も書かれていない。

 

四枚目に何を書くべきかはもう決まっていた。

 

『渡す技術』

 

情報の環の五番目。

 

ほとんどの組織が失敗する場所。

 

彼が二十年間一度も見たことのない場所。

 

刷り上がった六枚を教卓の上に伏せて置いた。

 

そのとき、廊下の砂を踏まない足音が近づいてきた。

 

「――先生。まだ起きてるー?」

 

「起きている」

 

ドアが開いた。

 

小鳥遊ホシノが両手に何かを持って立っていた。

 

魔法瓶とカップが二つ。

 

「今日はおじさんが持ってきたよ」

 

「……そうか」

 

「豆、替えといたから」

 

「――替えたのか」

 

「セリカちゃんがバイト先から貰ってきたの。柴大将が『そんな不味いもん飲ませるな』って怒ってたよ」

 

ウェッブはカップを受け取った。

 

そして一口飲んだ。

 

「……」

 

「どう?」

 

「美味い」

 

「でしょ」

 

ホシノは机の一つに腰かけた。

 

そして脚をぶらぶらさせながら言った。

 

「ねえ先生」

 

「なんだ」

 

「これ、生きてる証明にならなくない?」

 

ウェッブは自分の手の中の湯気を見ていた。

 

「……そうだな」

 

「じゃあ、どうすんの」

 

彼はしばらく考えた。

 

そして答えた。

 

「――誰かが持ってきた、という事実で代用する」

 

小鳥遊ホシノはその答えをしばらく口の中で転がしていた。

 

それから非常に満足そうにこう言った。

 

「うん。それでいいと思う」

 

三十七日目まであと十分だった。

 

そしてH時まではあと十九日と十二時間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。