『ボーン・アブソリューション』 (The Bourne Absolution) 作:T/A2000
アビドス高等学校、対策委員会室。
数時間前まで柴関ラーメンで睨み合っていたはずの面々が、一つの長机を挟んで対峙していた。
室内の空気は物理的に凍りついている。遮光カーテンの隙間から差し込む夕日が、机の上の埃を白く照らし出していた。
「……ちょっと、まだ納得いかないんだけど」
最初に沈黙を破ったのは黒見セリカだった。ツインテールを苛立たしげに揺らし、対面に座る便利屋68の面々を鋭く睨みつける。
「なんで私たちが、さっきまでアビドスを襲おうとしてた連中と手を組きゃいけないわけ? カイザーに騙されてたから可哀想? そんなの自業自得じゃない!」
「な、なんですって……!」
その言葉に、伊草ハルカがビクリと肩を揺らし、次の瞬間には狂気的な光を瞳に宿してショットガンを掴みかけた。「アル社長を……アル社長の経営判断を愚弄する者は、私が今すぐバラバラにして、この砂漠の肥料に……!」
「ハルカ、落ち着きなさい」
浅黄ムツキがクスクスと笑いながらも、その手にはしっかりと爆薬の起起爆スイッチが握られている。「でもさー、アビドスちゃんたちも随分と偉そうだよね? 助けてほしくてシャーレの先生を呼んだ分際でさ」
「ん。そっちこそ、カイザーの捨て駒にされかかっていた自覚が足りない」
砂狼シロコが淡々とアサルトライフルのボルトを引く。
一触即発。お互いのヘイローが緊張で鋭く明滅し、指先がトリガーへと伸びる。その中心にいる陸八魔アルは、毅然とした態度を保とうと背筋を伸ばしているが、額からは冷や汗が流れていた。
その時、長机の端でキーボードを叩いていた奥空アヤネが、ノートPCの画面を強く叩くように閉じた。
バチン、と硬質なプラスチックの音が室内の殺気を遮る。
「そこまでにしてください、皆さん。感情論はゴミ箱に捨てましょう」
アヤネの声は、いつになく低く、冷徹な質量を持っていた。ウェッブの座学と過酷な筆記テストを百点満点でクリアした彼女の脳内は、すでにパラノイア的な怒りを排除し、「純然たる算数」へと移行していた。
アヤネは眼鏡のブリッジを厳しく押し上げ、ウェッブから提示された最新のインテリジェンス(諜報データ)を黒板のモニターへと展開した。
「現在の状況(SITREP)を説明します。セリカ、あなたの言い分は感情としては理解できますが、現在の防衛計画(防衛ドクトリン)上、非常に非合理的です。現在、カイザーPMCは砂漠の境界線に大規模な前線作戦基地(FOB)を構築し、重武装の精鋭部隊を集結させつつあります。数にして約二百名。さらに無人重戦車、上空からのヘリによる近接航空支援(CAS)も予測されます」
アヤネはチョークを取り、黒板の『アビドス』と『便利屋68』の文字の間に、太い接続線を引いた。
「これに対するアビドスの現在の弾薬・資材備蓄(ロジスティクス)の残量は、次の全力防衛戦で完全に底を突きます。どれほど個人の戦闘能力が高くても、弾のない銃はただの鉄屑です。違いますか?」
セリカは言葉を失い、唇を噛んで顔を背けた。アヤネの冷徹なデータ分析は、ウェッブの教えそのものだった。
「そして、便利屋68の皆さん」
アヤネの鋭い視線が、今度はアルへと向けられる。
「あなた方の市街地での爆破工作、および単体への最大火力(バースト・ダメージ)は、カイザーの予測を大きく上回る強力な資産(アセット)です。ですが、あなた方には『拠点』がない。兵兵(サプライ・チェーン)をカイザーに依存していた以上、契約が破棄された現在の燃料、食料、そしてハルカさんの爆薬の信管は、あと四十八時間で枯渇します」
「う……っ」
アルは図星を突かれ、悪党のポーズを崩して、お馴染みの「驚愕の表情(アル顔)」を一瞬浮かべてしまった。
「つまり、私たちは双方ともに『孤立した敗残兵』です」アヤネは淡々と事実を締めくくった。「互いの欠陥を、互いの余剰(アセット)で埋める。これは信頼の問題ではありません。生き残るための、純然たる計算です」
長机の脇で腕を組んでいたデイヴィッド・ウェッブは、眼鏡の奥からその光景を静かに見つめていた。アヤネは完璧に、スタッフ(将校)としての戦術的役割を執行している。
「算数って言われてもさぁ……」ムツキが頬杖をつきながら、つまらなそうに言った。「息の合わないチームなんて、戦場じゃただの足手まといだよ? 無線チャンネルすら共有してないし、射線の管理(フォックスホール)のルールも違う。戦場で誤射(フレンドリー・ファイア)が起きる確率が一番高いのは、こういう状況でしょ?」
「だからこそ、今からプロトコルの統合作業(インターオペラビリティ)を行うんだよ」
椅子の背もたれに寄りかかっていた小鳥遊ホシノが、のんびりと、しかし確実に部屋の空気を支配する重いトーンで声を上げた。彼女はいつもの「おじさん」の締まりのない表情を完全に消し去り、アビドス最高のベテラン下士官(NCO)としての眼光で、便利屋の面々を見据えた。
「全員、立ちなよ。体で理解(わか)らせてあげるからさ」
ホシノは長机を壁際へと力任せに押しやらせ、広くなった床の中心にステップを踏んだ。
「カヨコちゃん、君のハンドガンを見せて。マガジンは抜いてね」
カヨコは一瞬躊躇したが、ホシノのオッズアイの奥にある、あらゆる死線を潜り抜けてきた者だけが持つ威圧感に押され、銃身を差し出した。ホシノはその銃を受け取ると、ウェッブが早朝の組手で見せたような、無駄のないプロの手つきでホールドオープンし、内部の機構を瞬時に点検した。
「……うん、手入れは完璧。君、自分の武器の限界をちゃんと理解してるね。合格」
銃をカヨコに突っ返すと、ホシノはシロコの肩を叩いて前に出させた。
「シロコ、カヨコちゃん。二人で背中を合わせなよ。密着して」
二人は不承不承、背中を合わせた。シロコの引き締まった身体と、カヨコの少し冷たい背中が接触する。お互いのヘイローが至近距離で干渉し合い、微かなハミング音を立てる。
「カヨコちゃんの役割は『中距離からの攪乱』。シロコは『前線でのアサルト』。二人が同じ方向を見てたら無駄でしょ?」
ホシノは二人の肩の位置を、自らの手のひらでミリ単位で修正していった。ウェッブのFIDドクトリンに基づいた、肉体的プロトコルの強制。
「言葉で『右に敵!』なんて言ったら〇.三秒遅れる。相手の呼吸を背中で聴きなよ。重心の移動(プレッシャー)だけで、反転のタイミングを伝え合うの」
ホシノが二人の背後へ回り、鋭く手を叩いた。
「コンタクト(接触)!」
その音と同時に、シロコが右へステップを踏む。その動きによる背筋の伸縮が、カヨコの背中にダイレクトに伝わった。カヨコは思考する前に、その肉体的な「圧力」に導かれるように左へと身体を翻し、即座に銃口を仮想の敵へと向けた。
「ん。……今のは、やりやすい」シロコが小さく呟く。
「……そうね。あなたの重心の移動が、綺麗に伝わってきたわ」カヨコも驚いたように、自身の掌を見つめた。
「よし、じゃあ次。セリカ、ムツキちゃん、お前たちだよ」ホシノが獰猛に微笑む。
「ええっ!? なんで私がこの小悪魔と!」
「ああはは、セリカちゃん、足引っ張らないでね?」
文句を言いつつも、ホシノが執行する徹底的な効率主義の指導に、少女たちは抗えなかった。
アヤネがノートPCで二人の移動軌跡のデータを秒単位で記録し、ホシノが現場の軍曹(サージェント)として至近距離での「二人一組(ツー・マン・セル)」の肉体的調和を徹底的に叩き込んでいく。
それは、ウェッブが見守る中、アビドスの生徒たちが自らの手で「組織的な戦闘規律」を移植していく、外国内部防衛(FID)の真のカタルシスだった。
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「ハァ……ハァ……。な、なによこれ、めちゃくちゃ疲れるんだけど……!」
セリカが床に座り込み、額の汗を拭う。
気がつけば、窓の外は完全に夜の帳が下りていた。
だが、最初の険悪な空気は消え失せていた。全員が同じ過酷な負荷を共有したことで、脳内の余計なアドレナリンが消費され、冷徹なプロフェッショナリズムが部屋を満たしていた。
「休憩だ。三十分後、本番の作戦会議(ブリーフィング)を始める。各自、水分とカロリーを補給しろ」
ウェッブはそう言い残し、通信機器のチェックのために部屋の隅へと下がっていった。彼の眼鏡の奥の目には、完璧にドクトリンを執行してみせたアヤネとホシノへの、静かな合格のサインが宿っていた。
静まり返った室内。
十六夜ノノミが、おっとりとした笑顔で大きな保温ボトルと紙コップを取り出した。
「皆さん、お疲れ様でした。おじさんがお昼に作ってくれた、特製のポトフスープがあるんです。温かいお茶もありますよ? よかったらどうぞ」
「わぁ、美味しそう~!」ムツキが真っ先に飛びつく。
「あ、ありがとうございます……」ハルカもおずおずとコップを受け取り、スープを一口啜ると、その温かさにヘイローをふんわりと和ませた。
アルはコップを両手で持ち、じっとスープの湯気を見つめていた。
その隣に、ホシノがいつものだらしのない足取りで歩み寄り、どさりと腰掛けた。
「うへ~、先生の訓練は相変わらず容赦ないねぇ。おじさん、もう骨がバラバラになっちゃいそうだよ~」
ホシノはあくびをしながら、オッズアイの目をアルに向けた。その瞳の奥には、先ほどの厳しい下士官の顔はなく、一人の不器用な後輩を見つめるような、穏やかな光があった。
「……何よ」アルは少し身構え、コートの襟を正した。「私に同情するつもり? 私は便利屋68の社長、陸八魔アルよ。今回の件は、あくまでカイザーへの復讐という利害が一致したからであって――」
「ん、分かってるよ、社長さん」
ホシノはスープをズズッと音を立てて啜り、悪戯っぽく笑った。
「悪党のプライドってやつでしょ? カイザーの旦那たち、うちの学校を借金漬けにしただけじゃなくて、あんたたちみたいな女の子まで騙して使い捨てにしようとした。……おじさんさ、そういう『大人のやり方』、本当に大嫌いなんだよね」
ホシノの言葉に、アルの動きが止まる。
「だからさ、悪党のボス。今回の作戦、あんたのそのプライド……アビドスがちょっとばかり、乗っかってあげてもいいよ?」
ホシノはそう言って、自分の紙コップを、アルのコップにコツンと軽くぶつけた。
「利用されて終わる道化なんて、あんたには似合わないでしょ。派手に暴れて、カイザーの鼻をあかしてやりなよ。……背中は、うちのシロコたちがちゃんと守ってあげるからさ」
「…………」
アルは唇を噛み締め、それから、ふっと悪党らしい不敵な笑みを無理に作った。
「フン……当然よ。私を誰だと思っているの? カイザーの幹部どもには、完全なる契約違反の『違約金』を、弾丸の雨に変えて請求してあげるわ!」
「あはは、そいつは頼もしいねぇ」
部屋の隅で、ウェッブはタブレットの画面を消し、黒板の前に再び立った。
少女たちの間に機能し始めた、完璧な「インテリジェンスと規律のチェーン(繋がり)」。
「時間だ。全員、地図を囲め」
ウェッブの低い声に、アビドスの五人と便利屋の四人が、今度は一ミリの躊躇もなく、一つの戦術テーブルへと一斉に視線を集中させた。作戦会議の準備は、完全に整っていた。
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午前0時30分。
アビドス高等学校の校庭に、冷たい砂漠の夜気を切り裂くローターの重低音が響き渡っていた。
そこに佇んでいたのは、連邦生徒会防衛室の倉庫から半ば強引に徴発され、シャーレの秘匿機材として改造が施された、特殊作戦機仕様のMH-60M「ブラックホーク」だった。
レーダー波を減衰させるマットブラックの特殊塗装。機首に突き出た空中給油用のプローブと、暗視ゴーグル(NVG)の緑色の光にしか反応しない低視認性のナイト・ライティング、そして片側パイロンにはAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルが搭載されている。
コクピットのパイロットシートに深く腰掛け、数夜でマニュアルを完全に叩き込んだアビオニクス(航空電子機器)のスイッチをテキパキと操作しているのは奥空アヤネだった。
「先生、ホシノ先輩。メインローターの回転数、定格に達しました。いつでもテイクオフ可能です」
フライトヘルメットのインカム越しに響くアヤネの声は、極めてクリアで、かつての気弱さは微塵もなかった。
「よし。全員、速やかにロードインするよ」
ホシノの指示に従い、九つの影が次々とスライドドアを開け放ったキャビンへと吸い込まれていく。
機内に入った便利屋68の面々は、そのあまりに「本物」過ぎる軍事空間の異様さに、それぞれの反応を示していた。
「な、なによこれ……。ただの『先生』が、なんでこんな軍隊のヘリコプターなんて用意できるのよ……」
陸八魔アルは、胸元のワインレッド・アドマイア(PSG-1)を強く抱きしめ、どこか緊張した面持ちでアブソーバー(衝撃吸収)仕様のベンチシートに腰掛けた。「冷酷非道な悪の組織のボス」の仮面を維持しようと必死だが、ガタガタと細かく振動する機体の質量に、その瞳の焦点がわずかに泳いでいる。
「あはは☆ アルちゃん顔が硬いよー? すごいねこれ、アトラクションみたい! どっかーんと飛んじゃうのかな?」
その対面で、浅黄ムツキだけは完全に遠足気分で盛り上がっていた。シートベルトをカチカチと鳴らしながら、窓の外を流れる砂漠の闇を楽しそうに見つめている。
「ア、アル社長、大丈夫ですか……っ!? もし機体が墜落するようなことがあれば……私が今すぐ、この機体のエンジンを爆破してアル社長をお守りします……!」
「ハルカ、それは私が死ぬからやめなさい……っ!」アルが引き攣った声でハルカの肩を押さえる。
「……二人とも静かにして。作戦資料(インテリジェンス)が読めない」
キャビンの赤色灯(ナイト・ライティング)の下、鬼方カヨコがダウナーな声を響かせた。彼女はアヤネから共有された、カイザーPMCの前線作戦基地(FOB)ブラボーの防衛網と、無人重戦車の巡回パターンの暗号データを、PC画面で執念深くチェックしていた。
その便利屋68の喧騒とは対照的に、キャビンの前方に陣取ったアビドスの三人は、言葉を一切交わさなかった。
砂狼シロコ、黒見セリカ、十六夜ノノミ。
彼女たちは、プレートキャリアのクイックリリース・コードの位置を確認し、マガジンポーチのゴムバンドを緩め、銃のセーフティにそっと指を添えている。ウェッブによって叩き込まれた「銃口管理(マズル・ディシプリ)」と「機動規律」は、すでに彼女たちのマッスルメモリー(肉体の記憶)に完全に自動化されていた。
ただ座っているだけだというのに、無駄な排熱を一切感知させない。それは、世界中を恐怖に陥れた世界のトップクラス――Tier1の特殊部隊員(オペレーター)だけが放つ、冷徹な静寂の風格そのものだった。
そのキャビンの喧騒と静寂から離れた特等席――開放されたスライドドアの縁に腰掛け、機外の闇を見つめていたのはデイヴィッド・ウェッブだった。
機内を不気味に染め上げる赤色の防眩ライト。
ハイドロリック(油圧)の焦げた匂いと、アビオニクスが発する特有の電子的な熱気。
(……一九九八年。イラク、アル・タジ)
ウェッブの脳細胞の奥底で、強烈な偏頭痛と共に失われたはずの『工作員(ジェイソン・ボーン)』としての記憶の断片が激しく明滅した。
かつて第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊(デルタフォース)の隊員として、数々の違法なブラックオペレーションに従事していた頃の、あの血生臭いヘリのキャビンの感触。
あの時、自らと共に地獄へ飛び込んだ戦友たちは、誰一人として生きては戻らなかった。
そして今。自分は、かつてのラングレーの狂った大人たちと同じように、まだ「普通の学校生活」を送るべきはずの少女たちに戦術という名の冷徹な呪いをかけ、本物の地獄へと連れていこうとしている。
数ヶ月に及ぶ苛烈な訓練。彼女たちを精鋭へと鍛え上げたという自負の裏側で、ウェッブの胸中には、消えることのない道義的葛藤が鉛のように沈殿していた。
(果たして、俺のしていることは正しいことなのか)
ヘイローがあるとはいえ、彼女たちは子供だ。大人の汚いビジネスの戦争に、自分がその手足(兵器)として作り替えてしまったのではないか。言葉数の少ない彼の眼鏡の奥に、ほんの僅かな、しかし深い「揺らぎ」が走った。
ウェッブは無言のまま、首を僅かに巡らせ、キャビンに並ぶ彼女たちの表情を一つずつ、静かに見つめた。
恐怖に怯えながらも、悪党としての誇りを守るためにワインレッドの銃身を握りしめる陸八魔アル。
いつでもバディの死角を消し去るために、視線を鋭く同期させているシロコとセリカ。
そして――。
スライドドアのすぐ隣、ホシノがそっと、ウェッブの隣へと歩み寄ってきた。
彼女は自分の大きな盾(シールド)に背中を預け、いつもと変わらない、少し眠たげなオッズアイの目でウェッブを見上げた。だが、その瞳の奥には、すべてを見透かしたような、圧倒的な覚悟の光が宿っていた。
「うへ~、先生。そんなに難しい顔してチェス盤を見つめなくても大丈夫だよ?」
ホシノはインカムのマイク位置を手で直しながら、ふっと優しく微笑んだ。
「おじさんたちさ、先生に鍛えてもらう前は、ただ理不尽に殴られるのを正面から待つことしかできなかったんだ。でも、今は違う。敵の輪郭も、戦い方も、背中を任せられる仲間の作り方も、全部その頭と体で分かってる」
ホシノはショットガンのレシーバーをポン、と軽く叩いた。
「私たちはね、先生のおかげで『アビドスを守る』ための本物の牙を手に入れたんだ。だからさ……大人の作ったチェス盤ごと、あいつらの鼻をあかしに行ってあげようよ」
「……ん。私も、早くテストの成果を証明したい」
シロコが静かに目を合わせ、短く断定した。その横で、セリカもノノミも、力強く、迷いのない笑みをウェッブへと返した。
少女たちの瞳の奥に宿る、固い、強固な決意。
それは、誰かに強制されたものではない。自分たちの愛する居場所を、自分たちの足で守り抜くという、彼女たち自身の本質的な善良さと意志の結晶だった。
「…………」
ウェッブはすぐには答えず、ただ深く、肺腑の底の硝煙の記憶を吐き出すように息を吸い込んだ。
自身の凍りついた過去の記憶の暗闇が、彼女たちのヘイローの残光によって、ほんの僅かに払拭されていくような感覚。答えなど、最初からどこにもない。だが、目の前の少女たちは、すでに自分の背中を力強く押してくれていた。
ウェッブは眼鏡の位置を指先で直し、低く、しかし確固たる質量を孕んだ声音でコクピットへと告げた。
「アヤネ。全速で侵入しろ。これより作戦を開始する」
『了解! これより作戦空域へ進入します。……衝撃に備えてください!』
アヤネの鋭い応答と共に、MH-60Mの4枚のローターブレードが砂漠の空気を爆発的に引き裂いた。機体は夜の帳を滑るように急上昇し、地平線の向こう、カイザーPMCが待ち受ける地獄の前線作戦基地(FOB)『ブラボー』に向かって、漆黒の夜空へと一気に牙を剥いた。