醜い私が逆転世界で暮らす   作:バルバリッチ

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「人は、外見ではなく中身だ」

「人は、外見ではなく中身だ」

 

 そういう言葉を聞いた事がある。

 いつだったか、テレビで流れていたイケメン俳優がインタビューの中でそう答えていたような気がする。

 耳当たりの良い言葉。悪い事をした人を窘める言葉。

 もちろんその俳優だけが言っていた言葉ではない。

 

 絶世の美少女、テレビで見たイケメン俳優。

 学校の先生、悪いことを見過ごせない好青年……。

 

 この発言をした人物達には、決まって同じ条件が揃っている。

 私のような人間には一生の縁のない物で、変えられない物。

 人によって苦労する事や、悩み事が変わるのは当たり前の話だ。

 その中でも、私のような人種の人間しか持たない、どうする事もできない物。

 

 いつしかその言葉は、私に「呪い」のような物として刻み込まれていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 記憶の中の私は、いつもある事で悩んでいた。

 その記憶の殆どが薄れゆく中、かつての僕の名前は暖かい物だったように感じる。

 誰かに優しく、そして元気に――そんな思いが込められた、私にはもったいない名前。

 そんな名前に反して、私の顔はとても不細工だった。

 目は歪み、鼻はデカく、口はでっぷり。

 

 小さい頃、幼稚園で私の顔を見た女の子達は決まって皆叫び声をあげ、大きな声で泣いていた。

 そんな彼女達を見た時、私はどうしたらいいか分からなかった。

 まだ幼い私は、自身の顔がそれほどまでに不細工だと理解していなかったからだ。

 

 両親からは「誰にでも優しくできる人になりなさい」と教えられた。

 それを体現しているような親の姿に、私は両親みたいな存在になりたいと強く思った。

 だから、誰かが困る事はしたくないし、見過ごしたくない。

 困っている人がいたら、迷わず助けよう。

 

 その言葉は私の人生を支える大事な言葉になった。

 

 だから私は、泣いている子達をどうにか泣き止ませようとした。

 そんな中、一人の女の子が私を指差し、こう言った。

 

「あの子の顔、怖い!」

 

 その時、私は何となく理解したんだ。

 私が、この子達を怖がらせたんだって。

 

 その恐怖は成長していく内に蔑みへと変わり、嘲笑へと変わり、侮蔑へと変わり。

 小学校でのあだ名は「ブサイク」。

 クラスではからかわれ、虐められ、毎日が苦しかった。

 

 両親を心配させたくなくて。

 弟を心配させたくなくて。

 

 私はひたすらに耐えていた。

 

 悪いのは自分のせいとさえ思っていた。

 私はただ、彼らと仲良くしたかっただけだった。

 

 彼らの間で流行っていたアニメは全部見た。

 流行っていた漫画は全部読んだ。

 皆が苦戦していたゲームの敵は自分が一番最初に倒した。

 話しかけられたくて、遊びたくて、学校に持ってきた事だってあった。

 運動を頑張って、皆に認めてもらいたくて、何だってした。

 

 でも、全部無駄だった。

 

 「人は、外見ではなく中身だ」

 

 この言葉は嘘だ。

 自分の容姿に困っていないから、こんな事を言えるんだ。

 見た目に自信があるからこんな事を言えるのだ。

 

 どれだけ優しくしても、こちらの気持ちが伝わる事はなかった。

 不細工は罪だ。

 どれだけ僕が努力しようと、親切にしようと、その事実は変わらない。

 

 「誰にでも優しくできる人になりなさい」

 

 両親の言葉が心に響く。

 こんなに辛い思いをしているのに?

 誰かに優しくしても、何もないのに?

 私は、優しくされた事なんてないのに――。

 

 家族の名前、顔……今ではそれすら思い出せないけど、この言葉だけは強く覚えている。

 いや、私にはもうこの言葉しかなかった。

 まだブサイクでも許された、幼い頃の大事な存在から貰った暖かくて優しい言葉。

 だからだろうか、どれだけ苦しい思いをしても、この言葉を忘れられないのは。

 今の私を形作っているのは、この言葉だけだ。

 

 雨の降った日。

 眩しい光、そして衝撃。

 それが前世の最後の記憶。

 あの瞬間に私は死んだのだろう。

 

 前世の私は死ぬ時に何を思ったのだろうか。

 この辛い人生から解放される喜び? まだ死にたくないっていう人生への未練?

 今の私にはもう思い出せない、かつての記憶。

 

 そんな思いは、もう忘れてしまった方が良いのだろう。

 昔の私は、もう来世なんてない方がいいと思っていたのかもしれない。

 

 それでも来世があってしまった。

 

 だから……

 

 

 

 お願いです、神様。新しい人生、私は多くを望みません。

 ただ、ゆっくりと。誰かに愛される人生であってほしい。

 そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 転生という物をしたみたいだ。

 小説のジャンルとして流行っていた物の当事者になるとは思ってもいなかったけど、実際にこうして起きてしまったからには仕方がない。

 前世の記憶は、幼い私の中に強く残っている。

 どれだけ大変な思いをしたのかも、そしてどれだけ辛く苦しい生活だったということも。

 

 あの頃の生活を忘れる事はできない。

 けれど、新しい世界に生まれ直したんだ。

 もしかしたら今世ではイケメンに生まれているかもしれない。

 昔のことを引きずって暗くなるのはやめよう。

 

 でも、もしイケメンじゃなかったとしても。

 せめてこの世界では、穏やかに生きていきたいと思うのは間違っているだろうか。

 

 この世界に生まれ、意識が安定してきた頃から数か月が経過している。

 しかし私は父の姿を見たことがない。

 母は毎回私をもの凄く可愛がってくれるし、私を愛しているんだなっていうのを強く実感するんだけど、どこか変な感じだ。

 

 複雑な家庭環境? それともどこか遠くに出張中で、家にいられないとか……?

 そんな事を、鏡に映った不細工な自分の顔を見ながら考えていたある日。

 

 私は赤ちゃん用ベットでうとうとしていると、テレビに流れているニュースが耳に入ってきた。

 眠気は吹き飛び、聞き間違いかと思い聞き直す。そして私は驚いた。

 

 女性が男性にわいせつな行為を行い、逮捕。

 

 そんなニュース、前の世界では聞いた事がなかった。

 母が他の番組に変えて聞こえてきた音声を聞いても、同じようなニュースや女性メインの物が放送されており、アニメでは男性は前世でいう所のヒロイン枠になっていた。

 これは何事だ……?

 

 深く、自分なりに考えた結果。

 この世界は前世でいう所の「逆転世界」ではないかという結論に至った。

 まだ確証はない。

 しかし、父の存在が確認できないのも、母が一人で僕を育てているのも、そういった理由があるとすれば……いや、理解はできないけど、そうなのか、という思いではいられる。

 

 私が混乱しているのに気付いたのか、母は急いで私の方へと駆け寄ってくる。

 

「どうしたの~優斗? 何か困った事でもあるのかな?」

 

 母の顔を見ると、どこか安心した。

 混乱していた脳も落ち着き、頭を撫でられると今までの考えなどどうでも良くなった。

 

「ふふ、可愛い優斗。安心して眠っていいからね」

 

 他人からの愛情。

 それを受けたのはいつぶりだろう。

 前世で数えても、しばらくはそんな事はなかったような気がする。

 両親とはあまり連絡しなかったし、弟は立派に仕事をこなしていた。

 いや……違うか。私が家族を拒否していたんだ。

 周りに否定され続け、生きる希望を失い、誰にも理解されないと思っていたんだ。

 

 それでも、今は優しいぬくもりがあった。

 だからだろうか。この幼い体は新しい母に撫でられた。

 ただそれだけの事ですっかりと安心し、ゆっくりと眠ってしまった。

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