皆でプールに入るため集まったけれど、来て早々に入る訳ではなかった。
みくちゃんはしおりちゃんとみおんちゃんとは初めて会うし、私なりに交流の場を設けようと考えたからだ。
みおんちゃんは今も気まずそうに視線を色々な所に向けているし、一番皆と仲良くなるのに慣れが必要なのは彼女なのは間違いない。
みくちゃんは思っていた通りというか、初めて会う人にも物怖じせず話かけていくし、打ち解けていくのが上手い。
しおりちゃんも緊張していた様子だったけど、今では仲良さそうにみくちゃんと一緒に持ってきていた本を読んでいた。
お母さん達は皆で別の場所に集まり、ゆうのの面倒を見ながらお話をしていて、話の話題が尽きることなくずーっと話をし続けていた。
そして私の腕には当然のように、彼女の右腕が絡まっていた。
……なんで?
みくちゃんの左隣にはしおりちゃんが座っていて、楽しそうな笑顔で本を読んでいるのが見えた。
少しずつ力を抜いて抜けようとしているんだけど、抜けようとするとどこからそんな力が出てきているのかと思うくらい強く締められる。
皆の前だから抱き着いたりするのは遠慮しているみたいだけど……まるで離さないよと言われているみたいにガッチリと固められて動けない。
「み、みくちゃん……あの、腕……」
「ん~?」
う~ん。いい笑顔。
……じゃなくて。
どうしても放したくないみたいだ。
どうしたものかと視線を前に向けると、みおんちゃんがジトッとした目でこっちを見ていた。
私の目と腕を交互に見ながら、何か言いたげな顔をしていた。
その気持ちは私にも分かる……分かるよ……。
なんで私もずっとこうされているのか分からないから……。
「あ、みおんちゃんもいっしょにみる~? いいよね~、しおりちゃん?」
「うん! いっしょにみよ!」
「……いい」
ぷいっと顔を背け、拗ねたような顔で髪をいじり始めた。
……せっかく皆で集まったのに、みおんちゃんだけ混ざれないのは悲しい。
せめて会話の中に入れてあげる事が出来たら……
「みおんちゃん、そのワンピース似合ってるね。最初見た時、綺麗すぎて驚いたよ」
「……! な、なに……そんな、とって……とって……ことば」
取ってつけたような言葉、かな。
難しい事言葉をよく知ってるなぁ。
……確かに、今の空気間に気まずくなって、さっき思った事を伝えてなかったなと思ってつい口にしちゃったけど……明らかに不自然だった。反省しなきゃ。
でも綺麗だったのは本当だし、今日誘ったのも私だから……退屈なままで帰ってほしくないと思って言ってしまった。
みくちゃんは私が可愛いっていうと喜んでくれるから、みおんちゃんも喜んでくれるかなって。
「本当だよ! あの時は本当に可愛くて、モデルさんかと思った」
「もでる……?」
モデルという言葉を知らなかったようで、彼女の使用人……らしい泉希さんを呼んだ。
お母さん達に小さな礼をすると、ゆっくりと近づいてくる。
気品のある動き、流石は使用人。
みおんちゃんが少し泉希さんに体を寄せると、泉希さんはその場に腰を下ろし、耳をみおんちゃんに寄せた。
みおんちゃんが手で耳を隠しながら何かを伝える。
それを聞いた泉希さんが口を寄せて何かを話す。
泉希さんがどう説明したかは分からないけど、言葉の意味を聞いていた様子。
あっという間に顔が真っ赤に変わり、みおんちゃんはそばに置いていた麦わら帽子を顔に当てて隠した。
その様子を見た泉希さんは再び立ち上がり一礼すると、お母さんの元に戻っていった。
良かった、喜んでくれた。
みくちゃんも、みおんちゃんも、しおりちゃんも。
私という存在が生まれてから初めて出来た、大切な大切な友達。
だからこそ、皆と楽しく仲良くなってほしい。
私の我儘な思いだけど、もし将来なにかあった時に、相談できる仲間がいてくれるのはいい事だから。
みくちゃんとしおりちゃんは大丈夫だと思うけど、みおんちゃんは少し心配だった。
本当は優しくていい子だっていう事を知っているから、前世の私みたいに一人になってほしくなかった。
「……みおんちゃ~ん!」
その後、みくちゃんはこの文字の意味が分からない、とみおんちゃんに聞いていた。
みおんちゃんは仕方なさそうな雰囲気を出しつつも、少し楽しそうに、そしてゆっくりと三人で本を読み始めた。
みくちゃんがみおんちゃんと仲良くなるために、少し演技をしてくれたみたい。
やっぱり気配りができるとてもいい子だ。
その説明を聞いたしおりちゃんも、次々と色々な質問をみおんちゃんにしては、凄い凄いと彼女を褒める。
三人で仲良くしている様子に、少し胸が痛んだ。
……あぁ、ダメだな。私は。
仲良くしてくれて嬉しいのに、寂しいだなんて感じている。
そんな事、私が思うなんて……彼女達が私と仲よくしてくれて貰っているだけで、私はどうしようもなく嬉しいのに。
「……? ゆうとくん、みないの?」
しおりちゃんがいつも一緒に本を見ているからか、不思議そうな顔でそう言った。
みくちゃんも組んでいる腕をさらに密着させて、自分の方へと引っ張った。
その勢いでみくちゃん側に倒れてしまう。
目の前にみくちゃんの顔があって、「いっしょにみよ~!」って笑いかけてくる。
そんな私達の様子を見て、みおんちゃんが「ち、ちかすぎ!」と騒ぎながら私達の側の席へと近づき、私の空いている右腕を取って引っ張った。
「えぇ~! ちかくないよ~! みおんちゃんこそ、うではなして~!」
「そっちが! はなすの!」
「……あの、ほん、よまないの?」
そんな彼女達を見て、胸の痛みはどこかに消えた。
今はまだ、この関係を楽しみたい。
この記憶は、もし来世があったとしても、絶対に忘れたくないな。
「プールだ~!」
水の入ったビニールプールに飛び込むと、水がばしゃっと跳ねて外に零れた。
水着に着替えた私達は、思い思いにプールを楽しんでいた。
みくちゃんは大きなビニールプールの中できゃっきゃと笑顔で騒ぎ、しおりちゃんはビニールプールの外に置いてある本をめくりながら水に浸かる。
私はくたびれたおじさんのように、「はぁ~」と声を出して水に浸かり、ゆっくりと息を吐いた。
ふぅ~。この暑さで蒸れた肌に新鮮な水が沁みる。
「みおんちゃんもはいろうよ~」
「わ、わかってる!」
可愛らしい白色の水着に着替えたみおんちゃんは、ゆっくりと足を水につけ波音を立てずにプールに入った。
水を自分にばしゃばしゃとかけると、楽しそうに笑った。
「ぶうっ」
「あはは~! みおんちゃん、へんなかお~!」
水をかけられたみおんちゃんは、一瞬その場で呆けると、怒った顔をして水をかけ返した。
二人で水を掛け合い、仲良さそうに遊んでいた。
「……楽しそうだなぁ」
それでこそ、今日このプールに誘った甲斐があるというもの。
しおりちゃんはいつもと変わらない本の虫状態だけど、それはそれで楽しそうだ。
「はーい、皆写真撮るよ~」
「美音様、とても可愛い……。これは家宝にしなければ……」
カメラを持ってお母さん達が来た。
一人既にカメラ片手に写真を撮りまくっている使用人がいたけど、気にしない事にする。
確かにみおんちゃんは可愛いからね。
「ほら、しおりちゃんも。写真撮るって」
「しゃしん? とる!」
皆でプールの中に集まって、後ろに立つ。
「あら? 優斗くんどうしたの? そんな保護者みたいな立ち位置で……優斗くんは前! でしょ?」
「え、僕が前?」
しおりちゃんのお母さんにそう言われて自分を指さす。
皆は何を当たり前の事を、と言った顔で私を見ていた。
「もちろんでございます。今日は優斗様のお陰で楽しい一日になったんですから」
「優斗くん、こっち見てー! ほら、優乃ちゃん。お兄ちゃんに手振って?」
「美玖、もっと優斗くんに近づいて!」
ゆうのが私を見て、あうあうと声を出しながら手を上げる。
みくちゃんが後ろに立っていた私の手を握ると、自分の隣に優しく引っ張っぱり、頬を合わせてピースした。
私を囲うように、皆が集まってカメラに視線を向ける。
忘れられない夏の日の思い出。
カシャ、という音が鳴る。
夏の太陽が、そんな私達を見守っていた。